説明

液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッドが液体噴射装置から取り外された場合や、液体噴射装置の電源が遮断されている場合でも、液体噴射ヘッドに液体が充填されてからの時間を継続的に計測して記憶し液体噴射ヘッドの交換時期を適確に告知することができる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】カートリッジ2から供給されるインクをノズル開口を介して吐出する記録ヘッド本体Iと、記録ヘッド本体Iに搭載された、液体流通路9に対するインクの供給が検出された時点からの経過時間を計測する計時部130と、計時部130が計測した経過時間を記憶しておく記憶部131と、記憶部131が記憶している前記経過時間と、インクに対する液体流通路9の寿命に基づき予め定めた設定時間とを比較し前記経過時間が設定時間を越えた時点でこのことを表わす信号を送出する比較部132と、計時部130と、記憶部131および比較部132を動作させる電源134と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置に関し、特に液体が流通する流路部材を劣
化させる溶剤インク等、腐食性の液体を使用する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置としては、例えば圧電素子からなる圧力発生手段によりインク滴吐出のた
めの圧力を発生させる複数の圧力発生室と、共通のマニホールドから各圧力発生室に個別
にインクを供給するインク供給路と、各圧力発生室に形成されてインク滴を吐出するノズ
ル開口とを備えたインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッドともいう)を具備する
インクジェット式記録装置(以下、記録装置ともいう)がある(例えば特許文献1参照)

【0003】
かかる記録装置では、印字信号に対応するノズルと連通した圧力発生室内のインクに吐
出エネルギーを付与してインク滴をノズル開口から外部に吐出させ、紙等のメディアの所
定位置に着弾させている。また、かかる記録装置においては、用途に応じて種々のインク
が使用されている。その中で、耐候性が要求されるポスター等を印刷するインクには溶剤
インクが使用されているが、この種の溶剤インクは記録ヘッドの、特に金属部分を経時的
に劣化させるという問題を有している。すなわち、溶剤インクを記録ヘッドに充填した後
には、溶剤インクの作用により記録ヘッドが経年劣化し、遂にはインク漏れ等の不都合を
生起する。
【0004】
このため、従来は定期的に記録ヘッドを交換するか、またはインク漏れの発生等により
印刷ができなくなった時点で記録ヘッドを交換していた。
【0005】
これに対しヘッド交換の時期を告知するようにしたインクジェットプリンターとして特
許文献2に示すものが提案されている。これは、ヘッド装着時からの経過時間、インクの
総射出量およびクリーニングの回数といったヘッド寿命に直接かかわるパラメーターを計
測し、このパラメーターを所定の閾値と比較して管理することによりヘッドの交換時期を
予測するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−355961号公報
【特許文献2】特開2005−254708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献2に記載する場合には、ヘッド装着時からの経過時間を計測してい
るので、この計測時間は必ずしもインクの充填時からの経過時間を計測しているとは限ら
ない。溶剤インクによる経時的な劣化を考える場合には、溶剤インクが記録ヘッドに充填
されてから経過した時間を把握することが肝要である。
【0008】
また、特許文献2では、パラメーター情報を保存することは行っていないので、一旦使
用した記録ヘッドを記録装置に再装着した際、新品の記録ヘッドと認識して、記録ヘッド
の使用時間が「0」から開始される虞がある。
【0009】
なお、このような問題はインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドだけではなく、
インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0010】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、液体噴射ヘッドが液体噴射装置から取り外さ
れた場合や、液体噴射装置の電源が遮断されている場合でも、液体噴射ヘッドに液体が充
填されてからの時間を継続的に計測して記憶しておくことができ液体噴射ヘッドの交換時
期を適確に告知することができる液体噴射ヘッドおよび液体噴射装置を提供することを目
的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体供給源から液体流通路を介して供給される液
体が充填される圧力発生室、駆動信号の供給により前記圧力発生室の前記液体に圧力変化
を生じさせる圧力発生手段および前記圧力変化に伴い前記圧力発生室の前記液体を液滴と
して吐出させるノズル開口を備えた液体噴射ヘッド本体と、前記液体噴射ヘッド本体に搭
載され、前記液体流通路に対する前記液体の供給が検出された時点からの経過時間を計測
する計時手段と、前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記計時手段が計測した経過時間
を記憶しておく記憶手段と、前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記記憶手段が記憶し
ている前記経過時間と前記液体に対する前記液体流通路の寿命に基づき予め定めた設定時
間とを比較し、前記経過時間が前記設定時間を越えた時点で、このことを表わす信号を送
出する比較手段と、前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記計時手段、前記記憶手段お
よび前記比較手段を動作させる電源とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
【0012】
本態様によれば、通液開始のタイミングで計測が開始されて計時情報が記憶手段に逐一
記憶されるとともに、各部を動作させるための駆動源となる電源も独立に噴射ヘッド本体
に搭載されているので、液体噴射ヘッドが液体噴射装置から取り外された場合や、液体噴
射装置の電源が遮断されている場合でも、液体噴射ヘッドに液体が充填されてからの時間
を継続的に計測して記憶しておくことができ液体噴射ヘッドの交換時期を適確に告知する
ことができる。
【0013】
ここで、前記液体噴射ヘッド本体に搭載された温度検出センサーと、該温度検出センサ
ーが検出する温度に基づき前記設定時間を補正する補正手段とをさらに有し、前記補正手
段で前記設定時間を補正するように構成するのが望ましい。この場合には、液体噴射ヘッ
ドが使用された環境の温度履歴を考慮して寿命を表す設定時間を補正することができるの
で、より正確に寿命を反映した経過時間に基づく信号を送出することができる。また、前
記補正手段は、前記温度検出センサーが検出する温度と前記設定時間の補正値とを対応付
けた補正テーブルを有し、該補正テーブルで前記設定時間を補正するように構成すること
ができる。
【0014】
さらに、前記液体供給源から前記液体流通路に前記液体が供給されたことを検出すると
ともに、通液が検出された時点で前記経時手段に、通液開始が検出されたことを表す信号
を送出する通液検出手段を前記ヘッド本体に搭載させることもできる。この場合には、計
測開始のタイミングが通液検出手段の通液開始が検出されたことを表す信号により当該液
体噴射ヘッド側で検出され、この結果所定の計測を液体噴射ヘッド側で自動的に開始させ
ることができる。
【0015】
本発明の他の態様は、前記通液検出手段を有しない液体噴射ヘッドを搭載するとともに
、当該液体噴射装置の制御部で前記液体噴射ヘッドに対する通液開始が検出された時点で
前記通液開始が検出されたことを表す前記信号を前記制御部から前記経時手段に送出し、
さらに前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号が前記制御部に供給された時
点で、前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号を前記制御部が処理して前記
液体噴射ヘッドの交換警告を告知する表示手段を動作させることを特徴とする液体噴射ヘ
ッドにある。
【0016】
本態様によれば、液体噴射ヘッドに対する通液開始を表す信号で所定の経過時間の計測
が開始され、また通液後、所定の時間が経過した場合には所定の信号が液体噴射ヘッド側
から送出されてこれに基づく交換警告が告知されるので、液体噴射ヘッドの交換時期を適
確に知ることができる。この際、液体噴射ヘッドは、これが液体噴射装置から取り外され
た場合や、液体噴射装置の電源が遮断されている場合でも、所定の経過時間を継続的に計
測して記憶しておくことができるので、前記交換警告は液体噴射ヘッドの交換時期に適確
に対応したものとなる。
【0017】
本発明の他の態様は、前記通液検出手段を有する液体噴射ヘッドを搭載するとともに、
前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号が前記制御部に供給された時点で、
前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号を前記制御部が処理して前記液体噴
射ヘッドの交換警告を告知する表示手段を動作させることを特徴とする液体噴射ヘッドに
ある。
【0018】
本態様によれば、通液開始、すなわち所定の計測開始のタイミングが液体噴射ヘッド側
で検出される。他の動作態様は、上記態様と同様である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施の形態に係る記録ヘッド本体の概略構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図2のA−A′線断面図である。
【図4】実施の形態に係る記録装置の一例を示す概略図である。
【図5】実施の形態に係る制御系を示すブロック線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本形態に係るインクジェット式記録装置(以下、記録装置ともいう)に搭載す
るインクジェット式記録ヘッドユニット(以下、ヘッドユニットともいう)を構成するイ
ンクジェット式記録ヘッド本体(以下、記録ヘッド本体ともいう)の概略構成を示す分解
斜視図であり、図2は、図1の平面図であり、図3は図2のA−A′線断面図である。こ
こで、図1〜図3には図示を省略しているが、当該記録ヘッド本体Iには、図5に示す計
時部130、記憶部131、比較部132および電源134等が搭載されており、これら
がヘッド本体Iと一体的に構成されている。ここでは、まずヘッド本体Iを詳細に説明し
ておく。
【0021】
図1〜図3に示すように、記録ヘッド本体Iの流路形成基板10は、シリコン単結晶基
板からなり、その一方の面には二酸化シリコンからなり、本形態における振動部となる弾
性膜50が形成されている。流路形成基板10には、複数の圧力発生室12がその幅方向
に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には
連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設け
られたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述す
る保護基板30のマニホールド部31と連通して各圧力発生室12の共通のインク室とな
るマニホールド100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭
い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一
定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路
14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また
、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。
かくして本形態では、流路形成基板10に、圧力発生室12、連通部13、インク供給路
14及び連通路15からなる液体流通路が設けられていることになり、圧力発生室12に
インクが充填される。このインクには、勿論溶剤インクも含まれる。
【0022】
また、流路形成基板10の一方の面である開口面側には、各圧力発生室12のインク供
給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート2
0が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。ここで、ノズルプレート20
は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼等で好適に構成す
ることができる。
【0023】
流路形成基板10の反対側の開口面には、上述したように弾性膜50が形成され、この
弾性膜50上には、例えば厚さ30〜50nm程度の酸化チタン等からなり弾性膜50等
の第1電極60の下地との密着性を向上させるための密着層56が設けられている。なお
、弾性膜50上に、必要に応じて酸化ジルコニウム等からなる絶縁体膜が設けられていて
もよい。
【0024】
さらに、この密着層56上には、第1電極60と、厚さが2μm以下、好ましくは0.
3〜1.5μmの薄膜である圧電体層70と、第2電極80とが、積層形成されて、圧電
素子300を構成している。ここで、圧電素子300は、本形態における圧力発生手段で
あり、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧
電素子300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力
発生室12毎にパターニングして構成する。本形態では、第1電極60を圧電素子300
の共通電極とし、第2電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配
線の都合でこれを逆にしても支障はない。また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素
子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。
なお、上述した例では、弾性膜50、密着層56、第1電極60及び必要に応じて設ける
絶縁体膜が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性
膜50や密着層56を設けなくてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を
兼ねるようにしてもよい。
【0025】
かかる圧電素子300の個別電極である各第2電極80には、インク供給路14側の端
部近傍から引き出され、弾性膜50上や必要に応じて設ける絶縁体膜上にまで延設される
、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0026】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、弾性膜5
0や必要に応じて設ける絶縁体膜及びリード電極90上には、マニホールド100の少な
くとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接
合されている。このマニホールド部31は、本形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通
して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の
連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を
構成している。また、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割し
て、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基
板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する
部材(例えば、弾性膜50、必要に応じて設ける絶縁体膜等)にマニホールド100と各
圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
【0027】
また、保護基板30の圧電素子300に対向する領域には、圧電素子300の運動を阻
害しない程度の空間を有する圧電素子保持部32が設けられている。圧電素子保持部32
は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封
されていても、密封されていなくてもよい。
【0028】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例え
ば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本形態では、流路形成基板10
と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成してある。
【0029】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられて
おり、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍が、貫通孔33内に
露出するように構成してある。
【0030】
一方、保護基板30上には、後に詳述する制御部(図1〜図3には図示せず)で制御さ
れて圧電素子300を駆動する駆動回路120が固定されている。この駆動回路120と
しては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、
駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤー等の導電性ワイヤーからな
る接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0031】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプラ
イアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する
材料からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。
また、固定板42は、比較的硬質の材料で形成されている。この固定板42のマニホール
ド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、
マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0032】
かかる記録ヘッド本体Iでは、図示しない外部のインク供給手段と接続したインク導入
口からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をイン
クで満たした後、駆動回路120からの駆動信号にしたがい、圧力発生室12に対応する
それぞれの第1電極60と第2電極80との間に電圧が印加され、弾性膜50、密着層5
6、第1電極60及び圧電体層70を撓み変形させることにより、振動部として機能する
弾性膜50を介して各圧力発生室12内のインクに前記変形に伴う振動を伝達させる。こ
の結果、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出される。
【0033】
図4は本形態に係る液体噴射装置である記録装置を示す概略図である。同図に示すよう
に、本形態に係る記録装置IIは、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する
記録ヘッド本体Iが記録ヘッドユニット1A,1Bを構成して搭載されている。ここで、
記録ヘッドユニット1A及び1Bは、インク供給手段を構成するとともにヘッド本体Iの
ノズル開口21(図3参照)から吐出させるインクを貯留しているカートリッジ2A及び
2Bが着脱可能に設けられ、この記録ヘッドユニット1A及び1Bを搭載したキャリッジ
3が、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカ
ラーインク組成物を吐出するものとしている。そして、駆動モーター6の駆動力が図示し
ない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記
録ヘッドユニット1A,1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動され
る。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示し
ない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8
に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0034】
図5は本形態に係る記録装置の制御系を示すブロック線図である。同図に示すように、
本形態に係る記録ヘッドIAは、計時部130、記憶部131、比較部132、設定手段
133、サーミスター135および補正テーブル136を有している。これらは、何れも
電子部品であり、記録ヘッド本体I(全体は図1〜図3参照;以下同じ)に搭載されて記
録ヘッド本体Iと一体となっている。また、これらは、同様に記録ヘッド本体Iに搭載さ
れた電池である電源134から電力が供給されて動作する。したがって、記録ヘッドIA
を記録装置IIから取り外した場合でも、また記録装置IIの電源が遮断された場合でも単独
で所定の各動作を継続し得る。また、ヘッド本体Iには、液体流通路9を介して液体供給
源であるカートリッジ2に貯留するインクが供給される。
【0035】
一方、記録装置IIの装置本体4にも制御部137および制御部137で駆動が制御され
る駆動モーター6、供給ローラー23、表示部138が搭載されている。
【0036】
記録ヘッド本体Iの圧電素子300は制御部137から駆動回路120に供給されるス
イッチング信号S1に基づき駆動回路120で形成される所定の駆動信号により駆動され
て撓み変形することにより圧力発生室12に所定の圧力変化を生起させ、ノズル開口21
を介してインク滴を吐出する。
【0037】
計時部130は制御部137から送出される計測開始信号S2により所定の経過時間を
計測する。計測開始信号S2はカートリッジ2からヘッド本体Iに液体流通路9を介して
インクを充填する際に送出される。したがって、例えばインクの初期充填を行うための初
期充填信号を好適に利用することができる。この結果、計測開始信号S2は記録ヘッド本
体Iにインクが初期充填された時点を表す信号となる。
【0038】
計時部130で計測された経過時間は、これを表す経過時間信号S3として記憶部13
1に記憶される。比較部132では記憶部131に記憶されて送出された経過時間信号S
4と設定手段133に予め設定された設定値を表す設定信号S5と比較しS4>S5とな
った時点で記録ヘッド本体Iの寿命を経過したことを表す超過信号S8を装置本体4の制
御部137に送出する。超過信号S8を受信した制御部137は表示部138に記録ヘッ
ド本体Iが交換時期であることを表す情報を表示する。
【0039】
このように本形態においては、インクの通液開始のタイミングで計測が開始されて計時
情報が記憶部131に逐一記憶される。また、各部を動作させるための電源134が装置
本体4側とは独立に記録ヘッド本体Iに搭載されているので、記録ヘッド本体Iにインク
が充填されてから経過した時間を継続的に計測して記憶しておくことができる。したがっ
て、超過信号S8はインクで経年劣化される記録ヘッド本体Iの寿命を正確に反映したも
のとなり、表示部138には記録ヘッド本体Iの交換時期を適切に表示することができる

【0040】
さらに本形態における記録ヘッドIAの記録ヘッド本体Iには、温度センサーの一種で
あるサーミスター135および補正テーブル136も搭載されて一体化されている。ここ
で、補正テーブル136は、サーミスター135が検出した温度を表す記録ヘッド本体I
の環境温度を表す温度信号S6に基づき設定値の補正量を表す補正信号S7により設定信
号S5を補正する補正手段である。すなわち、記録ヘッド本体Iのインクによる経年劣化
は環境温度が高い方がより顕著に進行する。したがって、同じ経過時間でも温度が高い環
境で使用された場合は、その分経年劣化が顕著になる。そこで、より適確に交換時期を決
定するには環境温度の温度履歴を考慮する必要がある。本形態では、基準の環境温度に対
し補正すべき補正量を各温度毎にテーブル化して持っており、このときの補正量は環境温
度とその環境温度に置かれていた時間とをパラメーターとして補正量を決定している。
【0041】
この結果、比較部132では、経過時間信号S4が適切に補正された設定信号S5との
比較により超過信号S8を形成するので、この超過信号S8はその分正確に記録ヘッド本
体Iの交換時期を表す信号となる。この超過信号S8に基づく適確な交換警告を表示部1
38に表示させることができる。
【0042】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定さ
れるものではない。例えば、上記実施の形態では計測開始信号S2を装置本体4側の制御
部137から送出するようにしたが、液体供給源であるカートリッジ2から液体流通路9
にインクが供給されたことを検出する通液検出センサーを設けておき、この通液検出セン
サーの出力信号を利用することによっても好適に計測開始信号を形成することができる。
かかる通液検出センサーは、例えばインクが電気伝導性を有するものである場合には液体
流通路9における電気的な導通の有無を検出することで容易に目的を達成し得る。また、
液体流通路9において通液があった場合に発生する圧力を検出することによっても良好に
目的を達成し得る。
【0043】
また、上記実施の形態における記録ヘッド本体Iは、圧力発生室12に圧力変化を生じ
させる圧力発生手段として、薄膜型の圧電素子300を用いたもので説明したが、特にこ
れに限定する必要はない。例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される
厚膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向
に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、振動
板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口
から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターであっても構わない。
【0044】
なお、図4に示す実施の形態は、記録シートSの搬送方向と交差する方向(主走査方向
)に移動するキャリッジ3に記録ヘッドユニット1A,1Bを搭載し、記録ヘッドユニッ
ト1A,1Bを主走査方向に移動させながら印刷を行う、いわゆるシリアル型のインクジ
ェット式記録装置であるがこれに限るものではない。記録ヘッド本体が固定されて記録シ
ートSを搬送するだけで印刷を行う、いわゆるライン式のインクジェット記録装置であっ
ても、勿論構わない。
【0045】
さらに上記実施の形態では、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置を挙
げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置全般を対象とした
ものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドを具備する液体噴射装置にも勿
論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画
像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製
造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ
)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体
有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【符号の説明】
【0046】
I インクジェット式記録ヘッド本体(記録ヘッド本体)、 IA 記録ヘッド、 II
インクジェット式記録装置(記録装置)、 10 流路形成基板、 12 圧力発生室
、 20 ノズルプレート、 21 ノズル開口、 60 第1電極、 70 圧電体層
、 80 第2電極、 90 リード電極、 100 マニホールド、 120 駆動回
路、 130 計時部、 131 記憶部、 132 比較部、 133 設定手段、
134 電源、 135 サーミスター、 136 補正テーブル、 137 制御部、
138 表示部、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給源から液体流通路を介して供給される液体が充填される圧力発生室、駆動信号
の供給により前記圧力発生室の前記液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段および前記
圧力変化に伴い前記圧力発生室の前記液体を液滴として吐出させるノズル開口を備えた液
体噴射ヘッド本体と、
前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記液体流通路に対する前記液体の供給が検出さ
れた時点からの経過時間を計測する計時手段と、
前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記計時手段が計測した経過時間を記憶しておく
記憶手段と、
前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記記憶手段が記憶している前記経過時間と前記
液体に対する前記液体流通路の寿命に基づき予め定めた設定時間とを比較し、前記経過時
間が前記設定時間を越えた時点で、このことを表わす信号を送出する比較手段と、
前記液体噴射ヘッド本体に搭載され、前記計時手段、前記記憶手段および前記比較手段
を動作させる電源とを備えたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記液体噴射ヘッド本体に搭載された温度検出センサーと、該温度検出センサーが検出
する温度に基づき前記設定時間を補正する補正手段とをさらに有し、前記補正手段で前記
設定時間を補正するようにしたことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項2に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記補正手段は、前記温度検出センサーが検出する温度と前記設定時間の補正値とを対
応付けた補正テーブルを有し、該補正テーブルで前記設定時間を補正するようにしたこと
を特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドにおいて、
前記液体供給源から前記液体流通路に前記液体が供給されたことを検出するとともに、
通液が検出された時点で前記経時手段に、通液開始が検出されたことを表す信号を送出す
る通液検出手段を前記ヘッド本体に搭載したことを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載する液体噴射ヘッドを搭載するとともに、当該
液体噴射装置の制御部で前記液体噴射ヘッドに対する通液開始が検出された時点で前記通
液開始が検出されたことを表す前記信号を前記制御部から前記経時手段に送出し、さらに
前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号が前記制御部に供給された時点で、
前記経過時間が前記設定時間を超えたことを表す信号を前記制御部が処理して前記液体噴
射ヘッドの交換警告を告知する表示手段を動作させることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項6】
請求項4に記載する液体噴射ヘッドを搭載するとともに、前記経過時間が前記設定時間
を超えたことを表す信号が前記制御部に供給された時点で、前記経過時間が前記設定時間
を超えたことを表す信号を前記制御部が処理して前記液体噴射ヘッドの交換警告を告知す
る表示手段を動作させることを特徴とする液体噴射ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−183746(P2012−183746A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48722(P2011−48722)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】