説明

液体噴射ヘッドの製造方法及びデバイスの製造方法

【課題】製造コストの低減及び製品の信頼性向上を図ることができる液体噴射ヘッドの製造方法及びデバイスの製造方法を提供する。
【解決手段】第2の基板用ウェハー130の、第1の基板用ウェハー110側とは反対側の面に、耐エッチング性を有するフィルム57を接着剤36で接着して第1の基板用ウェハー110をエッチングし、エッチング後にフィルム57の第2の基板用ウェハー130との接着部にレーザー400を照射してフィルム57と接着剤36との間に空間を設け、空間内の気体を加熱及び膨張させて空間を拡大させ、フィルム57を第2の基板用ウェハー130から剥離した後、第2の基板用ウェハー130の表面に残存する接着剤36を除去し、第1の基板用ウェハー110及び第2の基板用ウェハー130にレーザーを照射して第1の基板用ウェハー110及び第2の基板用ウェハー130を各チップに分割する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法及びウェットエッチングでエッチング加工を施して製造するデバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圧電素子等の圧力発生素子で液体に圧力を付与することによりノズルから液滴を吐出する液体噴射ヘッドが知られており、その代表例として、ノズルからインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド(以下、単にヘッドとも言う)が知られている。具体的には、インクを吐出するノズルに連通する圧力発生室が形成される流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に形成される圧電素子と、流路形成基板の圧電素子側の面に接着される保護基板とを有するものが知られている。
【0003】
また、このようなインクジェット式記録ヘッドの製造方法としては、流路形成基板が形成される流路形成基板用ウェハー上に保護基板が形成される保護基板用ウェハーを接合すると共に、保護基板用ウェハーの流路形成基板用ウェハー側とは反対側の面に耐エッチング性を有する保護フィルムを接着剤で接着し、流路形成基板用ウェハーをウェットエッチングして圧力発生室等を形成した後、各ウェハーを各チップに分割する方法が知られている。また、各チップに分割するための分割予定線となる脆弱部をレーザーで流路形成基板用ウェハー及び保護基板用ウェハーに形成するために、ウェットエッチングを行った後、COレーザー等のレーザーを保護フィルム及び接着剤の分割予定線に沿った部分に照射することで分割予定線に沿って保護フィルム及び接着剤を切断除去し、その後各チップに分割する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−82166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の方法では、レーザーで脆弱部を形成する部分の保護フィルムと接着剤とを焼き切って除去しているため、レーザーの出力を比較的高くしなければならず、製造コストが高騰しやすいという問題があった。特に、保護フィルムが耐熱性に優れた材料で構成されている場合、焼き切るのに大きなエネルギーが必要となるため、レーザーを高出力で照射しなければならず、製造コストの高騰は避けられなかった。
【0006】
また、上記従来方法では、保護フィルム及び接着剤をレーザーで焼き切る際に、焼き切った保護フィルムの断片等の比較的大きな異物が生じやすい。こうした異物は、周囲に飛散して予期せぬ部分に付着し、製品不良の原因となる可能性がある。つまり上記従来方法では、保護フィルム及び接着剤を焼き切る際に生じる異物により、製品の信頼性が低下してしまう虞があった。
【0007】
また、上記のような問題を解決するためには、保護フィルムを保護基板用ウェハーから剥離させることを想到することができるが、保護フィルムは接着剤で強固に保護基板用ウェハーに固着されているので、容易に剥離することが困難であった。
【0008】
なおこのような問題は、インクジェット式記録ヘッド等の液体噴射ヘッドの製造時だけではなく、一方面に耐エッチング保護膜を形成してエッチングを行った後、レーザーを照射してウェハーをチップ毎に分割することで製造する各種センサーなどのデバイスの製造時においても同様に存在する。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑み、製造コストの低減及び製品の信頼性向上を図ることができる液体噴射ヘッドの製造方法及びデバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明の態様は、液体を吐出するノズルに連通する圧力発生室を有する第1の基板と、前記第1の基板上に設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子と、当該圧電素子を保持する空間からなる圧電素子保持部を有し前記第1の基板に接合される第2の基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記第1の基板が形成される第1の基板用ウェハー上に前記第2の基板が形成される第2の基板用ウェハーを接合すると共に、当該第2の基板用ウェハーの前記第1の基板用ウェハー側とは反対側の面に、耐エッチング性を有するフィルムを接着剤で接着するフィルム接着工程と、前記第1の基板用ウェハーをウェットエッチングすることにより当該第1の基板用ウェハーに前記圧力発生室を形成する圧力発生室形成工程と、前記フィルムの前記第2の基板用ウェハーとの接着部分にレーザーを照射して前記フィルムを局所的に熱膨張させることで、前記フィルムと前記接着剤との間に空間を設ける空間形成工程と、前記空間内の気体を加熱及び膨張させることで前記空間を拡大させる膨張工程と、前記フィルムを前記第2の基板用ウェハーから剥離する剥離工程と、前記第2の基板用ウェハーの表面に残存する接着剤を除去する除去工程と、前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに対してレーザーを照射して、当該第1の基板用ウェハー及び当該第2の基板用ウェハーを各チップに分割する分割工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる本態様では、従来方法のように高出力のレーザーを照射してフィルムを焼き切る必要がないため、製造コストの高騰の原因となるレーザーの出力を低く抑えることができ、製造コストの低減を図ることができる。またフィルムを焼き切っていないため、比較的大きな異物が生じにくい。したがって、異物を原因とする製品不良の発生を抑えることができ、製品の信頼性向上を図ることができる。なお、「耐エッチング性」とは、ウェットエッチングで用いるエッチング液に対してエッチングされない、又は、非常にエッチングされ難い性質を有するものを指す。
【0011】
ここで、前記空間形成工程では、前記フィルムと前記接着剤との間に前記空間を複数ヶ所設けることが好ましい。これによれば、膨張工程時に複数の空間それぞれが膨張するため、フィルムがさらに剥がしやすくなり、製造にかかる時間の短縮を図ることができる。
【0012】
また、前記空間形成工程に用いるレーザーが、COレーザーであることが好ましい。これによれば、フィルムと接着剤とに、アルカリ性のエッチング液に対する耐性に優れるポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)で構成されたものと、エポキシ系のものとをそれぞれ使用することができる。COレーザーは、PPTAで構成されたものとエポキシ系の接着剤とに良好に吸収されるからである。
【0013】
また、前記除去工程では、COレーザーを前記接着剤に照射することで前記第2の基板用ウェハーから前記接着剤を除去することが好ましい。これによれば、第2の基板用ウェハーから比較的容易且つ確実に接着剤を除去することができる。
【0014】
また、前記分割工程では、前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに対して前記レーザーを照射することでこれらのウェハーに当該レーザーが照射されていない部分よりも脆弱な脆弱部を設け、前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに外力を加えて当該第1の基板用ウェハー及び当該第2の基板用ウェハーを前記脆弱部に沿って分割することが好ましい。これによれば、第1の基板用ウェハー及び第2の基板用ウェハーを比較的容易にチップ毎に分割することができる。
【0015】
また、前記フィルム接着工程では、前記フィルムを前記第2の基板用ウェハーの周縁部に選択的に接着することが好ましい。これによれば、フィルムを比較的容易に除去することができる。また、第2の基板(第2の基板用ウェハー)上に設けられる配線パターン等に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0016】
また、本発明の他の態様は、ウェハーの一方面に耐エッチング性を有するフィルムを接着剤で接着するフィルム接着工程と、前記ウェハーをウェットエッチングするエッチング工程と、前記フィルムの前記ウェハーとの接着部分にレーザーを照射して前記フィルムを局所的に熱膨張させることで、前記フィルムと前記接着剤との間に空間を設ける空間形成工程と、前記空間内の気体を加熱及び膨張させることで前記空間を拡大させる膨張工程と、前記フィルムを前記ウェハーから剥離する剥離工程と、前記ウェハーの表面に残存する接着剤を除去する除去工程と、前記ウェハーに対してレーザーを照射して、当該ウェハーを各チップに分割する分割工程とを有することを特徴とするデバイスの製造方法にある。
かかる本態様では、従来方法のように高出力のレーザーを照射してフィルムを焼き切る必要がないため、製造コストの高騰の原因となるレーザーの出力を低く抑えることができ、製造コストの低減を図ることができる。またフィルムを焼き切っていないため、比較的大きな異物が生じにくい。したがって、異物を原因とする製品不良の発生を抑えることができ、製品の信頼性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの平面図及び断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す拡大断面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る製造工程を示す断面図である。
【図9】保護基板用ウェハーを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの概略構成を示す分解斜視図であり、図2は、図1の平面図及びそのA−A′断面図である。
【0019】
本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの第1の基板となる流路形成基板10は、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなる。そして図1に示すように、流路形成基板10には、他方面側から異方性エッチングすることにより、複数の隔壁11によって区画された圧力発生室12がその幅方向(短手方向)に2列並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向一端部側には、インク供給路13と連通路14とが隔壁11によって区画されている。また、連通路14の一端には、各圧力発生室12の共通のインク室(液体室)となるリザーバー100の一部を構成する連通部15が形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14、及び連通部15からなる液体流路が設けられている。
【0020】
上述のように形成された流路形成基板10の開口面側には、各圧力発生室12のインク供給路13とは反対側の端部近傍に連通するノズル21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。
【0021】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、酸化膜からなる弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55が、積層形成されている。なお、絶縁体膜55は、上述した弾性膜50と共に、振動板を構成している。
【0022】
そして絶縁体膜55上には、下電極膜60と圧電体層70と上電極膜80とが積層形成されて、弾性膜50を変形させて圧力発生室12内に圧力を付与する圧力発生手段である圧電素子300を構成している。
【0023】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上まで延設されるリード電極90が接続されている。
【0024】
このような圧電素子300が形成された流路形成基板10上、すなわち下電極膜60、弾性膜50及びリード電極90上には、圧電素子300を保持する空間からなる圧電素子保持部32を有して、第2の基板となる保護基板30が接着剤35によって接合されている。圧電素子保持部32は、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間からなる。また圧電素子保持部32は密封されていても、密封されていなくてもよい。また保護基板30には、リザーバー100の少なくとも一部を構成するリザーバー部31が形成されている。リザーバー部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部15と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバー100を構成している。また、流路形成基板10の連通部15を圧力発生室12毎に複数に分割して、リザーバー部31のみをリザーバーとしてもよい。さらに、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にリザーバーと各圧力発生室12とを連通するインク供給路13を設けるようにしてもよい。
【0025】
このような保護基板30としては、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等を用いることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0026】
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。そして、各圧電素子300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出している。
【0027】
また、保護基板30上には、並設された圧電素子300を駆動するための駆動回路120が固定されている。この駆動回路120としては、例えば、回路基板や半導体集積回路(IC)等を用いることができる。そして、駆動回路120とリード電極90とは、ボンディングワイヤ等の導電性ワイヤからなる接続配線121を介して電気的に接続されている。
【0028】
また、このような保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料からなり、この封止膜41によってリザーバー部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料で形成される。この固定板42のリザーバー100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバー100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0029】
このような本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、図示しない外部インク供給手段と接続したインク導入口からインクを取り込み、リザーバー100からノズル21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路120からの記録信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、圧電素子300で、振動板を撓み変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル21からインク滴が吐出する。
【0030】
以下、このようなインクジェット式記録ヘッドIの製造方法について、図3〜図9を参照して説明する。ここで、図3〜図8は、本発明の一実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドの製造工程を示す圧力発生室の長手方向の断面図である。また、図7(a)は、図6(a)の保護フィルムと保護基板用ウェハーとの接着部の拡大断面図であり、図7(b)は、図6(b)の保護フィルムと保護基板用ウェハーとの接着部の拡大断面図である。また、図9は保護基板用ウェハーの平面図である。
【0031】
まず、図3(a)に示すように、円板状のシリコンウェハーである流路形成基板用ウェハー110(第1の基板用ウェハー)の表面に、弾性膜50となる酸化膜51を形成し、この弾性膜50(酸化膜51)上に弾性膜50とは異なる材料の酸化膜からなる絶縁体膜55を形成する。酸化膜51の形成方法は、特に限定されないが、例えば、流路形成基板用ウェハー110を拡散炉等で熱酸化することにより比較的容易に形成することができる。
【0032】
次に、図3(b)に示すように、絶縁体膜55上で且つ流路形成基板用ウェハー110の各圧力発生室12が形成される領域に相対向する領域に、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80からなる圧電素子300を形成し、上電極膜80上にリード電極90を形成する。
【0033】
次に、図4(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110に、絶縁体膜55や接着剤35等を介して保護基板用ウェハー130(第2の基板用ウェハー)を接合する。この保護基板用ウェハー130には、圧電素子保持部32、リザーバー部31及び貫通孔33が予め形成されている。そして保護基板用ウェハー130を圧電素子保持部32を圧電素子300に対向させた状態で、流路形成基板用ウェハー110に接合することで、圧電素子300は圧電素子保持部32内に収容される。
【0034】
次に、図4(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対面側を加工して、流路形成基板用ウェハー110を所定の厚みとする。
【0035】
次に、図4(c)に示すように、保護基板用ウェハー130の流路形成基板用ウェハー110とは反対側の面に、保護フィルム57を接着する(フィルム接着工程)。具体的には、保護フィルム57を保護基板用ウェハー130の周縁部に選択的に接着する。つまり接着剤36を、保護基板用ウェハー130の流路形成基板用ウェハー110とは反対側の面の周縁部で且つ、積層されたウェハーから切り分けられるチップの外側の部分に塗布し、かかる接着剤36で保護フィルム57を保護基板用ウェハー130に接合する。接着剤36は特に限定されるものではないが、本実施形態では、広く一般に使用されている耐アルカリ性に優れるエポキシ系のものを用いた。なお、耐アルカリ性に優れるエポキシ系のものを用いたのは、詳しくは後述するが、圧力発生室形成工程におけるウェットエッチングのエッチング液にアルカリ性の水溶液を用いるからである。また、保護フィルム57は、保護基板用ウェハー130と略同一の大きさ及び形状を有するものである。かかる保護フィルム57を保護基板用ウェハー130に接合することで、保護基板用ウェハー130に設けられたリザーバー部31及び貫通孔33等の開口部を封止している。保護フィルム57の材料は特に限定されるものではないが、本実施形態では、耐アルカリ性に優れるポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)を用いた。すなわち本実施形態の保護フィルム57及び接着剤36は、アルカリ性の水溶液からなるエッチング液に良好に耐え得る耐エッチング性を有する材料からなる。
【0036】
次に、図5(a)に示すように、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の表面に、圧力発生室12等のインク流路を形成する際のマスクとなる所定パターンのエッチング保護膜56を形成する(マスク形成工程)。
【0037】
次に、図5(b)に示すように、エッチング保護膜56をマスクとして流路形成基板用ウェハー110を水酸化カリウム水溶液で異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、圧力発生室12、インク供給路13、連通路14及び連通部15を形成する(圧力発生室形成工程)。ここで、保護基板用ウェハー130は保護フィルム57で覆われているので、保護基板用ウェハー130に設けられたリザーバー部31及び貫通孔33等の開口部や、圧電素子保持部32内にエッチング液が侵入してしまうことは防止されており、圧電素子300が破壊してしまうことは抑制されている。なお、圧電素子保持部32が密封されていない場合であっても、保護フィルム57によって圧電素子保持部32内にエッチング液が侵入してしまうことは防止することができ、圧電素子300の破壊を抑制することができる。
【0038】
次に、図6(a)に示すように、保護フィルム57の保護基板用ウェハー130との接着部にCOレーザーからなるレーザー400を照射して保護フィルム57を局所的に熱膨張させることで、図7(a)に示すように、保護フィルム57と接着剤36との間に空間Aを設ける(空間形成工程)。詳述すると、本実施形態では保護フィルム57がPPTAで構成されている。この場合、COレーザーからなるレーザー400を保護フィルム57の保護基板用ウェハー130との接着部に照射すると、保護基板用ウェハー130や流路形成基板用ウェハー110等にはレーザー400が吸収されないが、保護フィルム57にはレーザー400が吸収され、保護フィルム57はレーザー400が照射された部分だけ局所的に加熱されて膨張する。このようなレーザー400による保護フィルム57の局所的な熱膨張により、保護フィルム57と接着剤36との間に空間Aが設けられる。また本空間形成工程ではレーザー400を連続的ではなく断続的に照射して、図7(a)に示すように、空間Aを保護フィルム57と接着剤36との間に複数ヶ所設けることが好ましい。後述する膨張工程時に複数の空間Aのそれぞれが膨張するため保護フィルム57が保護基板用ウェハー130からさらに剥がしやすくなり、製造にかかる時間の短縮を図ることができるからである。なお空間Aを数多く設けると、それに伴って、レーザー400の照射時間が増加して製造コストも製造時間も増加する。したがって実際には、保護フィルム57と保護基板用ウェハー130との接着部の大きさ、製造コスト、製造時間、及び保護フィルム57の保護基板用ウェハー130からの剥離しやすさなどを考慮して、ある程度実験的に製造することで最適な条件を検討するのがよい。
【0039】
次に、空間A内の気体を加熱及び膨張させることで空間Aを拡大させる(膨張工程)。具体的には、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハー110、保護基板用ウェハー130及び保護フィルム57の接合体をホットプレート500に載置し、流路形成基板用ウェハー110や保護基板用ウェハー130等を介して保護フィルム57及び接着剤36を加熱する。これにより、図7(b)に示すように、空間A内の気体が加熱されて膨張し空間Aが拡大する。すなわち本膨張工程により、保護フィルム57は、図7(b)に示すように、図7(a)に示す空間形成工程の時点よりも、剥離部分が増加する。したがって、本膨張工程によって保護フィルム57は、さらに保護基板用ウェハー130から剥がしやすくなる。ここで、ホットプレート500の温度は、空間A内の気体が膨張する程度にすればよいが、120〜140℃程度にするのが好ましい。ホットプレート500の温度を120〜140℃程度に保持すると、空間A内の気体を膨張させることができると共に、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の熱による損傷を抑制することができるからである。
【0040】
次に、図8(a)に示すように、保護フィルム57を保護基板用ウェハー130から剥離する(剥離工程)。
【0041】
次に、図8(b)に示すように、保護フィルム57を剥離した後の保護基板用ウェハー130の表面に残存する接着剤36を除去する(除去工程)。具体的には、COレーザー600を接着剤36に照射して、接着剤36を完全に保護基板用ウェハー130の表面から除去する。本実施形態では、エポキシ系の接着剤36を使用しており、かかる接着剤36はCOレーザー600を良好に吸収するため、保護基板用ウェハー130から容易且つ良好に接着剤36を除去することができる。
【0042】
次に、図示は省略するが、インク供給路13とリザーバー部31との境界にある弾性膜50及び絶縁体膜55を除去する。これにより、リザーバー部31が圧力発生室12と連通し、リザーバー100が形成される。次に、保護基板用ウェハー130の流路形成基板用ウェハー110とは反対側の面に圧電素子300を駆動する駆動回路120を設け、駆動回路120とリード電極90とを接続配線121で接続する。そして、エッチング保護膜56を除去した後、流路形成基板用ウェハー110の保護基板用ウェハー130とは反対側の面にノズル21が穿設されたノズルプレート20を接合し、保護基板用ウェハー130にコンプライアンス基板40を接合する。
【0043】
次に、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130に対してレーザーを照射して、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130を各チップに分割する(分割工程)。なおチップとは、各ウェハーから切り分けられる部材、すなわち保護基板30や流路形成基板10のことを言う。具体的には、接合した流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130に対してYAGレーザーなどのレーザーを照射して、図9に示すように、各ウェハーにレーザーが照射されていない部分よりも脆弱な脆弱部700を設ける。このとき、本実施形態では上記のような工程で、保護基板用ウェハー130上の保護フィルム57と接着剤36とが除去されているため、脆弱部700を良好に形成することができると共に、ウェハー分割性の向上も図られている。
【0044】
その後は図示は省略するが、接合された各ウェハー(流路形成基板用ウェハー110、保護基板用ウェハー130等)を伸縮性を有するエキスパンドテープ上に貼着した後、エキスパンドテープに放射方向の張力を与えるなどして、接合された流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130に外力を加えて脆弱部700に沿ってチップ毎に分割する。上述した工程により上記のインクジェット式記録ヘッドIは製造できる。
【0045】
上述したように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、従来方法のように高出力のレーザーを照射して保護フィルム57を焼き切る必要がないため、製造コストの高騰の原因となるレーザーの出力を低く抑えることができ、製造コストの低減を図ることができる。また保護フィルム57を焼き切っていないため、比較的大きな異物が生じにくい。したがって、異物を原因とする製品不良の発生を抑えることができ、製品の信頼性向上を図ることができる。
【0046】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、空間形成工程において、保護フィルム57と接着剤36との間に空間Aを複数ヶ所設けている。これにより、さらに保護フィルム57が剥がしやすくなり、製造にかかる時間の短縮を図ることができる。
【0047】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、空間形成工程に用いるレーザーが、COレーザーである。これにより、保護フィルムと接着剤とに、アルカリ性のエッチング液に対する耐性に優れるポリパラフィレンテレスタルアミド(PPTA)で構成されたものと、エポキシ系のものとをそれぞれ使用することができる。COレーザーは、PPTAで構成されたものとエポキシ系の接着剤とに良好に吸収されるからである。
【0048】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、除去工程において、COレーザーを接着剤36に照射することで保護基板用ウェハー130から接着剤36を除去している。これにより、保護基板用ウェハー130上に残存するエポキシ系の接着剤36を、比較的容易且つ確実に除去することができる。
【0049】
また、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIの製造方法では、フィルム接着工程において、保護フィルム57を保護基板用ウェハー130の周縁部に選択的に接着している。これにより、保護フィルム57を比較的容易に除去することができる。また、保護基板30(保護基板用ウェハー130)上に設けられる配線パターン等に影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0050】
ところで、上記本実施形態の空間形成工程では、レーザー400で保護フィルム57を局所的に熱膨張させることで空間Aを形成しているが、空間Aは、レーザー400ではなくホットプレートなどで加熱することでも形成することができる。しかしながら、レーザー400を照射する以外の方法で空間Aを形成する場合は、流路形成基板用ウェハー110や保護基板用ウェハー130に熱による損傷が生じる可能性がある。例えば、ホットプレートによる加熱だけで空間Aを形成しようとすると、ホットプレートを170℃程度に保持しなければならず、流路形成基板用ウェハー110や保護基板用ウェハー130に過大な熱が加わりこれらのウェハーに熱による損傷が生じる可能性がある。また、ハロゲンランプなどで加熱して空間Aを形成する場合においても同様である。本実施形態では、流路形成基板用ウェハー110や保護基板用ウェハー130には吸収されないレーザー400で、保護フィルム57及び接着剤36を加熱して保護フィルム57と接着剤36との間に空間Aを形成している。したがって、空間Aを形成する際に過大な熱が流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130に加わることはなく、両ウェハーの熱による損傷を確実に抑制することができる。また、ホットプレート500で120〜140℃程度に保持することで、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130の熱による損傷を生じさせないようにしながら、空間A内の気体を膨張させて、空間Aを拡大している。したがって、製造時における歩留まりの向上を図ることができる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は構造や材質などを含めて、上述した実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば、上記実施形態では、膨張工程において、ホットプレート500に各ウェハーを載置して加熱するようにしたが、ハロゲンランプ等を用いて加熱しても良い。空間Aを加熱して膨張させるのであればどのような方法であってもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、除去工程時に保護基板用ウェハー130の表面に残存する接着剤36をCOレーザー600で除去していたが、例えば、研磨加工などの機械加工で除去しても良い。
【0054】
また、上記実施形態では、接着剤36にエポキシ系のものを用いたが、耐エッチング性を有すると共に、COレーザーを吸収する性質を有するものであれば好適に用いることができる。
【0055】
また、上記実施形態では、分割工程時において、流路形成基板用ウェハー110及び保護基板用ウェハー130にレーザーで脆弱部700を形成したあと、外力を加えてチップ毎に分割している。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、高出力のレーザーでチップ毎に割断してもよい。
【0056】
また、上述した実施形態では、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッドIを例示して説明した。しかしながら本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、厚膜型の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッド、或いはゾル−ゲル法、MOD法、スパッタリング法等により形成される圧電材料を有する薄膜型の圧電素子を有するインクジェット式記録ヘッドであっても適用することができる。
【0057】
また、上述の実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(電界放出ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【0058】
さらに、本発明は、液体噴射ヘッドの製造方法に限定されず、ウェハーの一方面に耐エッチング保護膜を形成してエッチングを行った後、レーザーを照射してウェハーをチップ毎に分割して製造する各種センサーなどのデバイスの製造に広く適用することができる。また、複数枚のウェハーで構成されているデバイスの製造時にも適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
I インクジェット式記録ヘッド、 10 流路形成基板、 20 ノズルプレート、 21 ノズル、 30 保護基板、 31 リザーバー部、 32 圧電素子保持部、 33 貫通孔、 35、36 接着剤、 40 コンプライアンス基板、 41 封止膜、 42 固定板、 43 開口部、 50 弾性膜、 51 酸化膜、 55 絶縁体膜、 56 エッチング保護膜、 57 保護フィルム、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバー、 110 流路形成基板用ウェハー、 120 駆動回路、 121 接続配線、 130 保護基板用ウェハー、 300 圧電素子、 400、600 レーザー、 500 ホットプレート、 700 脆弱部、 A 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するノズルに連通する圧力発生室を有する第1の基板と、前記第1の基板上に設けられて前記圧力発生室に圧力を付与する圧電素子と、当該圧電素子を保持する空間からなる圧電素子保持部を有し前記第1の基板に接合される第2の基板とを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記第1の基板が形成される第1の基板用ウェハー上に前記第2の基板が形成される第2の基板用ウェハーを接合すると共に、当該第2の基板用ウェハーの前記第1の基板用ウェハー側とは反対側の面に、耐エッチング性を有するフィルムを接着剤で接着するフィルム接着工程と、
前記第1の基板用ウェハーをウェットエッチングすることにより当該第1の基板用ウェハーに前記圧力発生室を形成する圧力発生室形成工程と、
前記フィルムの前記第2の基板用ウェハーとの接着部分にレーザーを照射して前記フィルムを局所的に熱膨張させることで、前記フィルムと前記接着剤との間に空間を設ける空間形成工程と、
前記空間内の気体を加熱及び膨張させることで前記空間を拡大させる膨張工程と、
前記フィルムを前記第2の基板用ウェハーから剥離する剥離工程と、
前記第2の基板用ウェハーの表面に残存する接着剤を除去する除去工程と、
前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに対してレーザーを照射して、当該第1の基板用ウェハー及び当該第2の基板用ウェハーを各チップに分割する分割工程とを有することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記空間形成工程では、前記フィルムと前記接着剤との間に前記空間を複数ヶ所設けることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記空間形成工程に用いるレーザーが、COレーザーであることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記除去工程では、COレーザーを前記接着剤に照射することで前記第2の基板用ウェハーから前記接着剤を除去することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記分割工程では、前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに対して前記レーザーを照射することでこれらのウェハーに当該レーザーが照射されていない部分よりも脆弱な脆弱部を設け、前記第1の基板用ウェハー及び前記第2の基板用ウェハーに外力を加えて当該第1の基板用ウェハー及び当該第2の基板用ウェハーを前記脆弱部に沿って分割することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドの製造方法において、
前記フィルム接着工程では、前記フィルムを前記第2の基板用ウェハーの周縁部に選択的に接着することを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項7】
ウェハーの一方面に耐エッチング性を有するフィルムを接着剤で接着するフィルム接着工程と、
前記ウェハーをウェットエッチングするエッチング工程と、
前記フィルムの前記ウェハーとの接着部分にレーザーを照射して前記フィルムを局所的に熱膨張させることで、前記フィルムと前記接着剤との間に空間を設ける空間形成工程と、
前記空間内の気体を加熱及び膨張させることで前記空間を拡大させる膨張工程と、
前記フィルムを前記ウェハーから剥離する剥離工程と、
前記ウェハーの表面に残存する接着剤を除去する除去工程と、
前記ウェハーに対してレーザーを照射して、当該ウェハーを各チップに分割する分割工程とを有することを特徴とするデバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−167634(P2010−167634A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11257(P2009−11257)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】