説明

液体噴射ヘッドの製造方法

【課題】歩留まりを向上して製造コストを削減する。
【解決手段】圧力発生室を含む溝部11が流路形成基板10に設けられ且つ各圧力発生室に対応して圧電素子70が設けられた複数枚のチップを形成する工程と、各チップ上の圧電素子の電気的特性をそれぞれ検出する検査工程と、検査工程で検出された各圧電素子の電気的特性に基づいてチップを選択し、チップとノズルプレート20Aを含む他の構成部品との組み立てを行う組立工程とを具備し、組立工程では、検査工程で各圧電素子の電気的特性にばらつきが検出されたチップを選択した場合に、選択した2枚のチップを流路形成基板の一方面側で接合して各流路形成基板の溝部同士を連通させて液体流路を形成し、圧力発生室を流路形成基板の端面側に開口させた後、ノズルプレートを流路形成基板の端面に接合して流路形成基板の端面でノズル開口と圧力発生室とを連通させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドであるインクジェット式記録ヘッドとしては、例えば、ノズル開口に連通する圧力発生室等のインク流路が形成された流路形成基板と、この流路形成基板の一方面側に各圧力発生室に対応して設けられる圧電素子とを具備するものがある。そして、このようなインクジェット式記録ヘッドは、例えば、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ上に圧電素子を形成し、この流路形成基板用ウェハにエッチングにより圧力発生室等のインク流路を形成し、その後、この流路形成基板用ウェハを各チップサイズに分割することによって形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、流路形成基板用ウェハを複数のチップ(流路形成基板)に分割した後には、各圧電素子の電気的特性を検出して各圧電素子の良否を判定する検査工程が実施される。そして、この検査工程で「良」と判定された圧電素子を有するチップのみを用いてインクジェット式記録ヘッドを製造し、「不良」と判定された圧電素子を有するチップはこの段階で廃棄していた。
【0004】
圧電素子の不良の原因としては、圧電素子の製造工程において異物が付着したり、あるいは異物が付着してパターン不良となったりすることが挙げられる。また、このような圧電素子の不良は、ランダムに発生するものであり、各チップに設けられている圧電素子のうち多くても数個程度しか発生しない。すなわち、「不良」である圧電素子が検出された場合でも、同一チップ上の他のほとんどの圧電素子は良好な電気的特性を有する。
【0005】
しかしながら、複数の圧電素子のうちの一つにでも不良が検出されれば、他の圧電素子が良好な特性を有するものであっても、そのチップは廃棄処分しなければならない。そして、このことが歩留まりを大幅に低下させるという問題がある。なお、このような問題はインク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッドの製造方法だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドの製造方法においても同様に存在する。
【0006】
【特許文献1】特開2004−050487号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような事情に鑑み、歩留まりを向上して製造コストを削減することができる液体噴射ヘッドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の第1の態様は、液滴を噴射するノズル開口を有するノズルプレートと、少なくとも一方面側に開口して前記ノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路となる溝部を有すると共に他方面側に振動板を介して設けられる圧電素子が複数並設された流路形成基板を少なくとも含むチップとを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、前記圧力発生室を含む溝部が前記一方面側に開口して前記流路形成基板に設けられ且つ各圧力発生室に対応して前記圧電素子が設けられた複数枚の前記チップを形成する工程と、各チップ上の前記圧電素子の電気的特性をそれぞれ検出する検査工程と、該検査工程で検出された各圧電素子の電気的特性に基づいて前記チップを選択し、当該チップと前記ノズルプレートを含む他の構成部品との組み立てを行う組立工程とを具備し、
該組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の電気的特性にばらつきが検出されたチップを選択した場合に、選択した2枚のチップを前記流路形成基板の一方面側で接合して各流路形成基板の前記溝部同士を連通させて前記液体流路を形成し、前記圧力発生室を当該流路形成基板の端面側に開口させた後、前記ノズルプレートを前記流路形成基板の端面に接合して当該流路形成基板の端面で前記ノズル開口と前記圧力発生室とを連通させることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第1の態様では、検査工程において、圧電素子の電気的特性のばらつきが検出されたチップを有効利用することができるため、歩留まりが向上して製造コストを大幅に削減することができる。
【0009】
本発明の第2の態様は、前記組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の特性にばらつきが検出されなかったチップを選択した場合に、このチップの前記流路形成基板の一方面側に前記ノズルプレートを接合して当該流路形成基板の一方面側で前記ノズル開口と前記圧力発生室とを連通させることを特徴とする第1の態様の液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第2の態様では、圧電素子の電気的特性のばらつきが検出されたチップは2枚組み合わせて使用され、圧電素子の電気的特性のばらつきが検出されなかったチップは単独で使用され、全てのチップが有効利用される。
【0010】
本発明の第3の態様は、前記圧電素子の並設方向の中央線に対して実質的に線対称となるように前記チップを形成することを特徴とする第1又は2の態様の液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第3の態様では、2枚のチップを組み合わせて使用する際、その組み合わせを考慮しなくても、常に同一構造の液体噴射ヘッドが製造される。したがって、製造工程の煩雑化を抑えることができる。
【0011】
本発明の第4の態様は、前記チップを形成する工程では、前記溝部の一部を構成し前記圧力発生室の側端面に連通する延設部を前記流路形成基板に形成し、前記組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の特性にばらつきが検出されたチップを選択した場合に、前記流路形成基板の端面側の一部を除去して前記延設部を前記流路形成基板の端面に開口させることを特徴とする第1〜3の何れかの態様の液体噴射ヘッドの製造方法にある。
かかる第4の態様では、延設部を予め設けておくことで、2枚のチップを組み合わせて液体噴射ヘッドを製造する場合に、この延設部を介して圧力発生室を流路形成基板の端面に比較的容易に開口させることができる。また、1枚のチップで液体噴射ヘッドを製造する場合でも、この延設部が吐出特性に大きな影響を与えることはない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
本実施形態では、液体噴射ヘッドの一例として、インク滴を吐出するインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)について説明する。本実施形態に係る記録ヘッドの製造方法では、圧電素子の特性に応じて2種類の構造の記録ヘッド(第1の記録ヘッド及び第2の記録ヘッド)が製造される。まずは、これら第1及び第2の記録ヘッドの構造について説明する。なお、図1は、第1の記録ヘッドの概略構成を示す斜視図であり、図2は、その要部平面図及びそのA−A′断面図である。また、図3は、第2の記録ヘッドの概略構成を示す斜視図であり、図4は、その要部平面図及びそのB−B′断面図である。
【0013】
第1の記録ヘッド1を構成する流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板からなり、図1及び図2に示すように、その一方の面には予め熱酸化により形成した二酸化シリコンからなる、厚さ0.5〜2μmの弾性膜50が形成されている。
【0014】
また、この流路形成基板10には、インクが供給されるインク流路となる溝部11が形成されている。具体的には、流路形成基板10には、隔壁によって区画された複数の圧力発生室12がその幅方向に並設されている。また、流路形成基板10の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。なお、連通部13は、後述する保護基板のリザーバ部と連通して各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバの一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。また、圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部には、圧力発生室12と連通する延設部15が設けられている。この延設部15の幅は、特に限定されないが、例えば、本実施形態では、インク供給路14と同様に圧力発生室12よりも狭い幅で形成されている。なお、この延設部15は、後述する第2の記録ヘッドにおいて機能する部分である。すなわち、第1の記録ヘッド1において特に機能するものではないが、インク吐出特性に大きな影響を与えることもない。
【0015】
そして、第1の記録ヘッド1では、流路形成基板10の圧力発生室12が開口する面に、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。なお、ノズルプレート20は、例えば、ガラスセラミックス、シリコン単結晶基板、ステンレス鋼などで形成されている。なお、本実施形態では、圧力発生室12に連通する延設部15が設けられているため、ノズル開口21がこの延設部15に連通するようにしてよい。
【0016】
一方、流路形成基板10の開口面とは反対側には、上述したように、二酸化シリコンからなり厚さが例えば、約1.0μmの弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)等からなり厚さが例えば、約0.3〜0.4μmの絶縁体膜55が積層形成されている。また、絶縁体膜55上には、厚さが例えば、約0.1〜0.2μmの下電極膜60と、厚さが例えば、約0.5〜5μmの圧電体層70と、厚さが例えば、約0.05μmの上電極膜80とからなる圧電素子300が形成されている。ここで、圧電素子300とは、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80を含む部分をいう。一般的には、何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を圧力発生室12毎にパターニングすることで圧電素子300が形成されている。例えば、本実施形態では、下電極膜60を圧電素子300の共通電極とし、上電極膜80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、本実施形態では、弾性膜50及び絶縁体膜55と共に下電極膜60が振動板として機能する。また、圧電素子300の個別電極である各上電極膜80には、インク供給路14側の端部近傍から引き出され、絶縁体膜55上にまで延設される、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。
【0017】
圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に圧電素子300を保護するための圧電素子保持部31を有する保護基板30が、例えば、接着剤35によって接合されている。なお、圧電素子保持部31は密封されていてもよいし、もちろん密封されていなくてもよい。また保護基板30には、連通部13に対向する領域にリザーバ部32が設けられている。このリザーバ部32は、上述したように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるリザーバ100を構成している。また保護基板30には、圧電素子保持部31とリザーバ部32との間の領域に、保護基板30を厚さ方向に貫通する接続孔33が設けられており、この接続孔33内に下電極膜60の一部及びリード電極90の先端部が露出されている。そして、図示しないが、この接続孔33内に延設されるボンディングワイヤ等からなる接続配線によって、圧電素子300を駆動するための駆動ICと各リード電極90及び下電極膜60とが接続されている。
【0018】
このような保護基板30は、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料、例えば、ガラス、セラミック材料等で形成されていることが好ましく、本実施形態では、流路形成基板10と同一材料であるシリコン単結晶基板を用いて形成した。
【0019】
なお、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、厚さが6μmのポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってリザーバ部32の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、厚さが30μmのステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のリザーバ100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、リザーバ100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。
【0020】
一方、第2の記録ヘッド1Aは、図3及び図4に示すように、実質的に第1の記録ヘッド1を2つ組み合わせることによって形成されたものである。すなわち、第2の記録ヘッド1Aは、ノズルプレート20を除く2つの第1の記録ヘッド1を、流路形成基板10同士で接合し、且つその端面側にノズルプレート20Aを接合したものである。第2の記録ヘッド1Aでは、延設部15Aが流路形成基板10の端面に開口して設けられており、この延設部15Aに連通するノズル開口21Aを有するノズルプレート20Aが流路形成基板10の端面に接着剤等によって接合されている。すなわち、第2の記録ヘッド1Aでは、各ノズル開口21Aと各圧力発生室12Aとが、延設部15Aを介してそれぞれ連通している。
【0021】
このような構成の第2の記録ヘッド1Aでは、各流路形成基板10の溝部11同士がそれぞれ連通して各圧力発生室12A、連通部13A、インク供給路14A及び延設部15Aが形成されることになる。このため、第2の記録ヘッド1Aにおいては、これら圧力発生室12A等のインク流路は、第1の記録ヘッド1Aの約2倍の容積を有することになる。
【0022】
そして、これら第1及び第2の記録ヘッド1,1Aは何れも、図示しない外部インク供給手段からインクを取り込み、リザーバ100からノズル開口21,21Aに至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路からの記録信号に従い、圧力発生室12,12Aに対応するそれぞれの下電極膜60と上電極膜80との間に電圧を印加し、弾性膜50、下電極膜60、圧電体層70及び上電極膜80、すなわち圧電素子300をたわみ変形させて各圧力発生室12内の圧力を高めることで各ノズル開口21,21Aからインク滴を吐出する。
【0023】
なお、第2の記録ヘッド1Aでは、各圧力発生室12Aに対応してそれぞれ2つの圧電素子300が設けられているが、これら2つの圧電素子300の何れか一方を駆動することによってノズル開口21Aからインク滴を吐出させる。この点については、詳しく後述する。
【0024】
以下、本発明に係る記録ヘッドの製造方法について、図5〜図8を参照して説明する。まずは、第1の記録ヘッドの製造方法について説明する。なお、図5〜図7は、第1の記録ヘッドの製造工程を示す図であり圧力発生室の長手方向の断面図である。また、図8は、第2の記録ヘッドの製造工程を示す図であり圧力発生室の長手方向の断面図である。
【0025】
まずは、複数の流路形成基板10が一体的に形成される流路形成基板用ウェハ110上に振動板を介して圧電素子300を形成する。具体的には、図5(a)に示すように、シリコンウェハである流路形成基板用ウェハ110を約1100℃の拡散炉で熱酸化し、その表面に弾性膜50を構成する二酸化シリコン膜51を形成する。なお、本実施形態では、流路形成基板用ウェハ110として、膜厚が約625μmと比較的厚く剛性の高いシリコンウェハを用いている。次に、図5(b)に示すように、弾性膜50(二酸化シリコン膜51)上に、例えば、スパッタ法等によりジルコニウム(Zr)層を形成後、このジルコニウム層を、例えば、500〜1200℃の拡散炉で熱酸化することにより酸化ジルコニウム(ZrO)からなる絶縁体膜55を形成する。次に、図5(c)に示すように、例えば、白金とイリジウムとを絶縁体膜55上に積層することにより下電極膜60を形成した後、この下電極膜60を所定形状にパターニングする。次いで、図5(d)に示すように、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等からなる圧電体層70と、例えば、白金(Pt)又はイリジウム(Ir)等からなる上電極膜80とを流路形成基板用ウェハ110の全面に形成後、各圧力発生室12に対向する領域にパターニングして圧電素子300を形成する。さらに、図6(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110の全面に亘って、例えば、金(Au)等からなるリード電極90を形成後、例えば、レジスト等からなるマスクパターン(図示なし)を介して圧電素子300毎にパターニングする。
【0026】
このように圧電素子300を形成した後は、図6(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に複数の保護基板30が一体的に形成された保護基板用ウェハ130を流路形成基板用ウェハ110の圧電素子300側の面に接着剤35によって接合して接合体200を形成する。次いで、図6(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110をある程度の厚さとなるまで研磨した後、さらにフッ硝酸によってウェットエッチングすることにより流路形成基板用ウェハ110を所定の厚みにする。例えば、本実施形態では、約70μm厚になるように流路形成基板用ウェハ110をエッチング加工した。次いで、図7(a)に示すように、流路形成基板用ウェハ110上に、例えば、窒化シリコン(SiN)からなる絶縁膜52を新たに形成し、所定形状にパターニングする。そして、この絶縁膜52をマスクとして異方性エッチング(ウェットエッチング)することにより、図7(b)に示すように、流路形成基板用ウェハ110に、圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び延設部15を構成する溝部11を形成する。
【0027】
次に、図7(c)に示すように、流路形成基板用ウェハ110と保護基板用ウェハ130との接合体200の外周縁部の不要部分を、例えば、ダイシング等により切断することによって除去した後、この接合体200を複数のチップ201に分割する。
【0028】
次に、このように形成されたチップ201毎に各圧電素子300の電気的特性を検出する検査工程を実施する。この検査工程では、例えば、各圧電素子300の導通検査を行うと共に、圧電体層70の静電容量等を検出している。また検査工程では、各圧電素子300の個別の電気的特性を検出すると共に、その結果から並設された各圧電素子300の電気的特性のばらつきを検出する。
【0029】
そして、各チップ201を、圧電素子300の電気的特性のばらつきが検出されなかったものと、圧電素子300の電気的特性にばらつきが検出されたものとに分類し、分類した各チップ201をそれぞれ別の組立工程で他の構成部品と組み立てて第1及び第2の記録ヘッド1,1Aを製造する。なお、圧電素子300の電気的特性にばらつきがあるとは、例えば、各圧電素子300の静電容量等の測定値の差が所定の範囲を超えていることをいい、例えば、圧電素子300の導通が確認されなかった場合も含まれる。
【0030】
組立工程では、まず圧電素子300の電気的特性にばらつきが検出されなかったチップ201を用いて上述した第1の記録ヘッド1を製造する。すなわち、チップ201の流路形成基板10にノズル開口21が穿設されたノズルプレート20を接合すると共に、保護基板30上にコンプライアンス基板40を接合して、上述した第1の記録ヘッド1を製造する(図2参照)。一方、圧電素子300の特性にばらつきが検出されたチップ201を用いて上述した第2の記録ヘッド1Aを製造する。具体的には、まず圧電素子300の電気的特性にばらつきが検出された2つのチップ201を選択して、図8(a)に示すように、これら2つのチップ201の流路形成基板10同士を接合する。このとき、各チップ201の溝部11同士がそれぞれ連通して各圧力発生室12A、連通部13A、インク供給路14A及び延設部15Aが形成される。
【0031】
次いで、図8(b)に示すように、例えば、研削等により流路形成基板10の延設部15A側の端部の一部を除去し、流路形成基板10の端面に延設部15Aを開口させる。なお、本実施形態では、チップ201全体を研削して流路形成基板10と共に保護基板30の一部も除去しているが、勿論、流路形成基板10のみを除去するようにしてもよい。例えば、保護基板30は、予め流路形成基板10よりも小さく形成しておき、流路形成基板10のみを除去するようにしてもよい。その後、この流路形成基板10の延設部15Aが開口する端面に、各延設部15Aに連通するノズル開口21Aが穿設されたノズルプレート20Aを接合すると共に、各保護基板30上にコンプライアンス基板40を接合して、上述した第2の記録ヘッド1Aを製造する(図4参照)。
【0032】
ここで、このように製造した第2の記録ヘッド1Aでは、上述したように各圧電素子300の電気的特性にばらつきが生じている。すなわち、複数の圧電素子300のうちインク滴の吐出に使用できない圧電素子300が含まれている。しかしながら、第2の記録ヘッド1Aでは、各圧力発生室12に対応して設けられた2つの圧電素子300の一方を駆動させることによってインク滴を吐出させているため、一方の圧電素子300が使用できなくても、他方の圧電素子300を駆動させることでインク滴を良好に吐出することができる。
【0033】
インク滴の吐出に用いることができない圧電素子300は、ランダムに発生しその数は各チップで多くても数個程度であるため、同一の圧力発生室12に対応する2つの圧電素子300の両方を使用できないことは殆どない。したがって、圧電素子300の電気的特性にばらつきが生じているチップを用いて製造した第2の記録ヘッド1Aであっても、各ノズル開口21Aから良好にインク滴を吐出させることができる。
【0034】
なお、上述したように第2の記録ヘッド1Aの各圧力発生室12Aは、第1の記録ヘッド1の圧力発生室12の約2倍の大きさを有するが、一方の圧電素子300のみを駆動することによっても良好にインク滴を吐出することができる。勿論、第2の記録ヘッド1Aを製造する場合には、各圧電素子300の変位特性に応じて、例えば、流路形成基板10の厚さを第1の記録ヘッド1よりも薄くする等して、圧力発生室12の体積を適宜調整するようにしてもよい。
【0035】
また、本発明では、2つのチップ201を接合して第2の記録ヘッド1Aを製造するようにしているため、図9に示すように、各チップ201は、圧電素子300の並設方向の中央線(図中C−C′線)に対して略線対称となるように形成しておくことが好ましい。具体的には、溝部11の形状、圧電素子300を構成する各層のパターン形状等が、上記中央線に対して略線対称となっていることが好ましい。これにより、2つのチップ201を選択する際に、チップの組み合わせを考慮しなくても、常に同一構造の第2の記録ヘッド1Aを製造することができる。
【0036】
そして、以上の説明したように本発明に係る記録ヘッドの製造方法では、従来は廃棄処分としていた圧電素子の電気的特性にばらつきのあるチップを有効に利用することができるため、歩留まりが向上し製造コストを大幅に削減することができるという効果を奏する。
【0037】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、流路形成基板上に接合される保護基板を有する構造を例示したが、勿論、保護基板は設けられていなくてもよいことはいうまでもない。また、例えば、上述した実施形態では、成膜及びリソグラフィ法を応用して製造される薄膜型のインクジェット式記録ヘッドを例にしたが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型のインクジェット式記録ヘッド等にも本発明を採用することができる。
【0038】
さらに、上述した実施形態では、液体噴射ヘッドの一例としてインクジェット式記録ヘッドを挙げて説明したが、本発明は広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、プリンタ等の画像記録装置に用いられる各種の記録ヘッド、液晶ディスプレー等のカラーフィルタの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレー、FED(面発光ディスプレー)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1の記録ヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【図2】第1の記録ヘッドの要部平面図及び断面図である。
【図3】第2の記録ヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【図4】第2の記録ヘッドの要部平面図及び断面図である。
【図5】実施形態1に係る各記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図6】実施形態1に係る各記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図7】実施形態1に係る各記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図8】実施形態1に係る各記録ヘッドの製造工程を示す断面図である。
【図9】各記録ヘッドを構成するチップの概略平面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 第1の記録ヘッド、 1A 第2の記録ヘッド、 10 流路形成基板、 11 溝部、 12,12A 圧力発生室、 13,13A 連通部、 14,14A インク供給路、 20,20A ノズルプレート、 21,21A ノズル開口、 30 保護基板、 31 圧電素子保持部、 32 リザーバ部、 40 コンプライアンス基板、 60 下電極膜、 70 圧電体層、 80 上電極膜、 90 リード電極、 100 リザーバ、 110 流路形成基板用ウェハ、 130 保護基板用ウェハ、 200 接合体、 201 チップ、 300 圧電素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を噴射するノズル開口を有するノズルプレートと、少なくとも一方面側に開口して前記ノズル開口に連通する圧力発生室を含む液体流路となる溝部を有すると共に他方面側に振動板を介して設けられる圧電素子が複数並設された流路形成基板を少なくとも含むチップとを具備する液体噴射ヘッドの製造方法であって、
前記圧力発生室を含む溝部が前記一方面側に開口して前記流路形成基板に設けられ且つ各圧力発生室に対応して前記圧電素子が設けられた複数枚の前記チップを形成する工程と、各チップ上の前記圧電素子の電気的特性をそれぞれ検出する検査工程と、該検査工程で検出された各圧電素子の電気的特性に基づいて前記チップを選択し、当該チップと前記ノズルプレートを含む他の構成部品との組み立てを行う組立工程とを具備し、
該組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の電気的特性にばらつきが検出されたチップを選択した場合に、選択した2枚のチップを前記流路形成基板の一方面側で接合して各流路形成基板の前記溝部同士を連通させて前記液体流路を形成し、前記圧力発生室を当該流路形成基板の端面側に開口させた後、前記ノズルプレートを前記流路形成基板の端面に接合して当該流路形成基板の端面で前記ノズル開口と前記圧力発生室とを連通させることを特徴とする液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の特性にばらつきが検出されなかったチップを選択した場合に、このチップの前記流路形成基板の一方面側に前記ノズルプレートを接合して当該流路形成基板の一方面側で前記ノズル開口と前記圧力発生室とを連通させることを特徴とする請求項1に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記圧電素子の並設方向の中央線に対して実質的に線対称となるように前記チップを形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の液体噴射ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記チップを形成する工程では、前記溝部の一部を構成し前記圧力発生室の側端面に連通する延設部を前記流路形成基板に形成し、前記組立工程では、前記検査工程で各圧電素子の特性にばらつきが検出されたチップを選択した場合に、前記流路形成基板の端面側の一部を除去して前記延設部を前記流路形成基板の端面に開口させることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の液体噴射ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−320263(P2007−320263A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−155219(P2006−155219)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】