説明

液体噴射ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置

【課題】複雑な形状や別部品が不要で構造を単純化する。
【解決手段】一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の吐出溝13を有するアクチュエータ基板3と、アクチュエータ基板3の前記一表面に接合され、上端面に開口する開口面17Aを有する共通インク室17と共通インク室17から吐出溝13に貫通する複数のスリット19とを有するカバープレート開口部16、および、上端面と板厚方向に延びる一端面とを連通する空気抜き流路71Aがそれぞれ独立して設けられたカバープレート基板5とを備え、共通インク室17の開口面17Aを略閉塞する位置に異物を除去する異物除去フィルタ29が配置され、空気抜き流路71Aの開口を略閉塞する位置に異物除去フィルタ29より通過抵抗が小さい気泡通過フィルタ73が配置されている液体噴射ヘッドチップ1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、インク等の液体を吐出する複数の吐出ノズルを有する液体噴射ヘッドを用いて被記録媒体に文字や画像を記録する液体噴射記録装置が知られている。一般的に、インクジェットヘッドは、複数の吐出溝を有するアクチュエータ基板と、インク経路を形成するカバープレート基板と、カバープレート基板を介して各吐出溝にインクを供給する共通液体室を有するインク流路部材とが板厚方向に積層状態に接合されて形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなインクジェットヘッドにおいては、インク流路部材の液体供給室内に異物除去フィルタを配置した場合に、異物除去フィルタを通過できない大きな気泡によって共通液体室へのインクの供給不足が生じる傾向がある。これに対して、特許文献1に記載のインクジェットヘッドは、インク流路部材に気泡排出経路を形成し、異物除去フィルタの上流側に溜まった気泡を気泡排出経路を介して外部に排出するとともに、この気泡排出経路内に負圧保持フィルタを配置してインク流路部材内の負圧を保持するようになっている。
【0004】
【特許文献1】特開2007−30495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のインクジェットヘッドのように、負圧保持フィルタをインク流路部材に配置した場合やインクジェットヘッド外部の別部品に配置した場合には、インク流路部材の形状が複雑になったり、部品点数が多くなったりするという問題がある。また、インクジェットヘッドを小型化することができず、製造コストも上がってしまうという問題がある。
【0006】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、別部品が不要で簡易な構造の液体噴射ヘッドチップ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の液体吐出流路を有するアクチュエータ基板と、該アクチュエータ基板の前記一表面に接合され、該アクチュエータ基板とは反対側の表面に開口するとともに前記液体吐出流路に連通する開口部、および、該開口部が開口する前記表面と板厚方向に延びる端面とを連通する空気抜き流路がそれぞれ独立して設けられたカバープレート基板とを備え、該カバープレート基板の前記開口部を略閉塞する位置に異物を除去する異物除去フィルタが配置され、前記空気抜き流路の開口を略閉塞する位置に前記異物除去フィルタより通過抵抗が小さい気泡通過フィルタが配置されている液体噴射ヘッドチップを提供する。
【0008】
本発明によれば、カバープレート基板に設けられた開口部に液体を貯留すると、開口部が各液体吐出流路に液体を供給する共通液体室として機能する。また、各液体吐出流路の側壁をせん断変形させて液体吐出流路内の容積を変化させることにより、開口部から各液体吐出流路に振り分けられた液体を液体吐出流路ごとに吐出させることができる。また、開口部に異物除去フィルタを配置したことで、液体吐出流路に供給される液体に含まれる塵埃等を除去したり、液体吐出流路に大きな気泡が侵入したりしてしまうのを防ぐことができる。
【0009】
この場合に、カバープレート基板の開口部が開口する表面(以下「上端面」とする。)から端面に連通する空気抜き流路を開口部とは独立して形成したことで、カバープレート基板の上端面に流路部材を接合して開口部に液体を供給する場合に、異物除去フィルタを通過できないような大きな気泡を空気抜き流路によって外部へ逃がすことができる。これにより、異物除去フィルタが気泡で塞がれて開口部への液体の供給が妨げられてしまうのを防ぐことできる。
【0010】
また、空気抜き流路には異物除去フィルタより通過抵抗が小さい気泡通過フィルタを配置したことで、気泡は通過させつつ液体の表面張力によって開口部内の負圧を維持することが可能となる。これにより、空気抜き流路から液体が漏れるのを防ぐことができる。また、異物除去フィルタおよび空気抜き流路をカバープレート基板に設けることで、別部品が不要となり構造を単純化することができる。
【0011】
上記発明においては、前記開口部が、前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に開口面を有する凹部と該凹部から前記液体吐出流路に貫通する複数の貫通孔とを備えることとしてもよい。
【0012】
このように構成することで、凹部の開口面から供給された液体が貫通孔を介して液体吐出流路に振り分けられる。したがって、例えば、液体吐出流路に対して1つ置きに貫通孔を配置することで、水性インク用の液体噴射ヘッドチップを構成することができる。
【0013】
上記発明においては、前記空気抜き流路が、前記液体吐出流路に沿う方向に向かって開口することとしてもよい。
液体吐出流路から液体を吐出させる方向と空気抜き流路を連通させる方向を同一方向にすることで、ノズル孔を形成するためのノズルプレート上に気泡排出孔を形成することができる。これにより、構造をより単純化することができる。
【0014】
本発明は、上記本発明の液体噴射ヘッドチップと、前記カバープレート基板の前記開口部が開口する前記表面に接合され、前記開口部および前記空気抜き流路に連絡する流路を有する流路部材とを備える液体噴射ヘッドを提供する。
【0015】
本発明によれば、カバープレート基板の異物除去フィルタ上に大きな気泡が溜まることなく開口部に液体を供給することができる。また、流路部材に異物除去フィルタや空気抜き流路を設ける必要がなく、簡易な形状にすることができる。これにより、液体噴射ヘッド全体の小型化を図ることができる。
【0016】
本発明は、上記本発明の液体噴射ヘッドを備える液体噴射記録装置を提供する。
本発明によれば、液体を安定して吐出することができる。例えば、液体としてインクを用いた場合には、被記録媒体に安定した印字を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複雑な形状や別部品が不要で構造を単純化することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドチップ1、液体噴射ヘッド10および液体噴射記録装置100について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る液体噴射ヘッド10は、例えば、水性インク(液体)を吐出するものであり、図1および図2に示すように、液体噴射ヘッドチップ1と、液体噴射ヘッドチップ1内にインクを供給する流路(流路部材)9と、液体噴射ヘッドチップ1を駆動する駆動回路等を搭載した配線基板(図示略)とを備えている。これらの各部材は、例えば、アルミニウム等でできた支持プレート(図示略)に固定されており、各部材どうしは熱伝導性のよい接着剤や両面テープ等で結合されている。
【0019】
液体噴射ヘッドチップ1は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電素子からなる厚さ約0.8mmのアクチュエータ基板3と、アクチュエータ基板3の一表面に接着された厚さ約0.8mmのカバープレート基板5と、アクチュエータ基板3およびカバープレート基板5の端面に接着されたノズルプレート7とを備えている。
【0020】
アクチュエータ基板3は、板厚方向に分極されている。また、アクチュエータ基板3には、図3および図4に示すように、カバープレート基板5が設けられた一表面に開口部13Aを有する複数の吐出溝(液体吐出流路)13が平行間隔をあけて設けられている。各吐出溝13は、例えば、約0.36mmの深さを有しており、それぞれ側壁15によって分離されている。
【0021】
各吐出溝13の長手方向の一端は、アクチュエータ基板3の一端面3Aまで延び、他端は他端面3Bまで延びることなく途中位置において深さが徐々に浅くなっている。このような吐出溝13は、例えば、円板状のダイスカッタ(図示略)のブレード外径にならった形状になっている。
【0022】
また、各吐出溝13の両側壁15には、吐出溝13の開口部13Aから深さ方向の途中位置まで、アクチュエータ基板3の長手方向に延びる駆動電圧印加用の電極16が蒸着によって形成されている。
【0023】
カバープレート基板5は、アクチュエータ基板3の一表面、すなわち、吐出溝13の開口部13Aが形成されている表面に接着されている。このカバープレート基板5は、アクチュエータ基板3とは反対側の表面(以下、「上端面」という。)5Cに開口面17Aを有する凹状の共通インク室(凹部)17と、共通インク室17からアクチュエータ基板3の吐出溝13が浅くなっている端部に貫通する複数のスリット(貫通孔)19とによって構成されるカバープレート開口部(開口部)16を備えている。
【0024】
共通インク室17は、アクチュエータ基板3の吐出溝13の配列方向に沿って延び、全ての吐出溝13の前記端部に対向する連通構造を有している。アクチュエータ基板3にカバープレート基板5が接着された状態では、吐出溝13の開口部13Aのうち共通インク室17のスリット19が貫通している部分以外の領域がカバープレート基板5によって塞がれることにより、複数の独立した吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されている。
【0025】
吐出チャンネル23Aは、カバープレート基板5のスリット19が貫通した吐出溝13によって形成されるインク流路であり、共通インク室17から供給されたインクが充填されるようになっている。一方、ダミーチャンネル23Bは、カバープレート基板5によって吐出溝13の開口部13Aが閉塞された空洞部であり、インクが流入しないように密閉されている。これら吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bは、吐出溝13の配列方向に交互に形成されている。
【0026】
共通インク室17には、開口面17Aから離れる方向に向かって内壁面が内側に突出した段差部25が設けられている。この段差部25は、カバープレート基板5のアクチュエータ基板3側表面からの距離が約0.5mmの位置に形成されている。また、平坦面を有する異物除去フィルタ29が共通インク室17の開口面17Aを略閉塞するように配置された状態で、段差部25に接着で固定されている。
【0027】
異物除去フィルタ29は、例えば、孔径が約8ミクロンのメッシュ構造で、約0.1mmの厚さを有している。また、異物除去フィルタ29は、全てのスリット19のアクチュエータ基板3側の端部から略一定距離(約0.5mm)の位置に配置されている。この異物除去フィルタ29により、共通インク室17から吐出溝13に供給されるインクに含まれる塵埃等を除去したり、大きな気泡が吐出溝13に侵入したりしてしまうのを防ぐことができる。また、液体噴射ヘッド10の組み立て時等に液体噴射ヘッドチップ1単体で扱ったとしても、埃等が共通インク室17に入り込むのを防ぐことができる。
【0028】
また、カバープレート基板5には、上端面5Cと板厚方向に延びる一端面5Aとを連通する2つの空気抜き流路71A,71Bが設けられている。これら空気抜き流路71A,71Bは、共通インク室17の異物除去フィルタ29上に溜まった気泡等を外部に逃がすためのものであり、共通インク室17とは独立して形成されている。
【0029】
具体的には、空気抜き流路71A,71Bは、共通インク室17の開口面17Aの長手方向の両端に隣接する位置にそれぞれ入口部70A,70Bを有し、板厚方向に延びて途中で吐出溝13に沿う方向に向かって折れ曲がり、アクチュエータ基板3の一端面3Aと略面一状に配置されているカバープレート基板5の一端面5Aに開口するように形成されている。
【0030】
また、空気抜き流路71A,71Bには、入口部70A,70Bから離れる方向に向かって内壁面が内側に突出した段差部26がそれぞれ設けられている。この段差部26には、異物除去フィルタ29より通過抵抗が小さい、すなわち、孔径が大きい気泡通過フィルタ73がそれぞれ配置されている。
【0031】
気泡通過フィルタ73は、孔径が約25ミクロンのメッシュ構造で、約0.05mmの厚さを有している。この気泡通過フィルタ73は、気泡を通過させつつ、後述する気泡排出孔75側から気泡抜き流路71A,71Bを介して侵入した空気と、インクで満たされたメッシュで形成されるインクの表面張力によって共通インク室17内の負圧を維持することができるようになっている。
なお、共通インク室17の開口面17Aおよび空気抜き流路71A,71Bの入口部70A,70Bをカバープレート基板5の同一表面上に形成したことで、異物除去フィルタ19および気泡通過フィルタ73をそれぞれ同一方向から取り付けることができ、作業工程を簡易にすることができる。
【0032】
ノズルプレート7は、アクチュエータ基板3の吐出チャンネル23Aとダミーチャンネル23Bが開口している一端面3A、および、カバープレート基板5の2つの空気抜き流路71A,71Bが開口している一端面5Aに接着されている。また、ノズルプレート7は、吐出チャンネル23Aの開口に対向する位置にノズル孔27を有するとともに、空気抜き流路71A,71Bの開口に対向する位置にそれぞれ気泡排出孔75を有している。なお、ダミーチャンネル23Bの開口は、ノズルプレート7によって封止されている。
【0033】
このノズルプレート7は、例えば、ポリイミドフィルムにエキシマレーザ装置等を用いてノズル孔27や気泡排出孔75が形成されたものである。なお、ノズルプレート7の被記録媒体に対向することとなる面には、撥水性を有する撥水膜(図示略)が形成されており、インクの付着等を防止するようになっている。
【0034】
流路9は、共通インク室17の開口面17Aおよび空気抜き流路71A,71Bの入口部70A,70Bを覆うようにカバープレート基板5の上端面5Cに接着されている。また、流路9は、インクタンク(図示略)から供給されるインクを一時的に貯留する圧力調整室(図示略)に連結部9Aを介して接続されている。この流路9は、カバープレート基板5側表面に開口する流路凹部31と、該流路凹部31の内壁面に連結部9Aが開口するインク導入孔33とを備えている。
【0035】
流路凹部31は、アクチュエータ基板3の共通インク室17の長手方向に沿って延び、共通インク室17および空気抜き流路71A,71Bの両方に連絡する略直方体状の共通流路35を形成するようになっている。
インク導入孔33は、前記圧力調整室から供給されるインクを共通流路35内に導く孔であり、流路凹部31の長手方向の略中央付近に配置されている。
【0036】
支持プレートは、重ね合わされたアクチュエータ基板3およびカバープレート基板5を支持していると共に、ノズルプレート7を支持している。支持プレートには、吐出溝13の配列方向に延在する嵌合孔が形成されており、重ね合わされたアクチュエータ基板3およびカバープレート基板5をこの嵌合孔内に嵌め込んだ状態で両プレート3,5を支持している。支持プレートの先端側の表面は、アクチュエータ基板3およびカバープレート基板5の先端側の端面と面一となっている。
【0037】
このように構成された液体噴射ヘッド10は、例えば、図5に示すように、プリンタやファックス等に適用されるインクジェット式の記録装置である液体噴射記録装置100に搭載されて使用される。
【0038】
液体噴射記録装置100は、色ごとに設けられた複数の液体噴射ヘッド10と、液体噴射ヘッド10が主走査方向に複数併設して搭載されたキャリッジ103と、フレキシブルチューブからなるインク供給管105を介して液体噴射ヘッド10にインクを供給するインクカートリッジ107とを備えている。
【0039】
キャリッジ103は、一対のガイドレール109A,109Bの長軸方向に移動可能に搭載されている。また、ガイドレール109A,109Bの一端側には駆動モータ111が設けられている。駆動モータ111による駆動力が、この駆動モータ111に連結されたプーリ113Aとガイドレール109A,109Bの他端側に設けられたプーリ113Bとの間に掛け渡されたタイミングベルト115に伝わり、これによりタイミングベルト115の所定の位置に固定されたキャリッジ103が搬送されるようになっている。
【0040】
また、キャリッジ103の搬送方向に直交する方向で、鎖線で示すケース117の両端側には、ガイドレール109A,109Bに沿ってそれぞれ一対の搬送ローラ119が設けられている。これら搬送ローラ119は、キャリッジ103の下方であってキャリッジ103の搬送方向に直交する方向に被記録媒体Sを搬送するものである。
【0041】
このように構成された液体噴射記録装置100においては、搬送ローラ119によって被記録媒体Sを送りつつ、キャリッジ103を被記録媒体Sの送り方向に直交する方向に走査することにより、液体噴射ヘッド10によって被記録媒体S上に文字および画像等が記録されるようになっている。
【0042】
以下、液体噴射記録装置100に搭載された液体噴射ヘッド10の作用について具体的に説明する。
インクタンクから供給されるインクは、圧力調整室において一時的に貯留された後、連結部9Aを通って流路9のインク導入孔33から共通流路35内に導入され、カバープレート基板5の共通インク室17へと導かれる。
【0043】
この場合に、インク導入孔33から導入されるインクは、共通流路35および共通インク室17の長手方向の略中央付近から両端部に向かって広まるように流れ込む。そのため、インク導入孔33から共通流路35内に入り込んだ気泡のうち共通インク室17の異物除去フィルタ29を通過できないような大きなものは、インク導入孔33から離れる方向、すなわち、共通流路35の長手方向の両端部に溜まり易い。
【0044】
空気抜き流路71A,71Bを共通インク室17の開口面17Aの長手方向の両端に隣接する位置に配置したことで、気泡を効率的に外部に逃がすことができる。これにより、異物除去フィルタ29が気泡で塞がれて共通インク室17へのインクの供給が妨げられてしまうのを防ぐことできる。また、気泡通過フィルタ73により、インクの表面張力で共通インク室17内の負圧が維持されることで、空気抜き流路71A,71Bからインクが漏れるのを防ぐことができる。
【0045】
共通インク室17の異物除去フィルタ29を通過したインクは、スリット19を介して全ての吐出チャンネル23A内に分配供給される。異物除去フィルタ29により、大きな気泡が吐出溝13に侵入するのを防ぐだけでなく、インクに含まれる塵埃等を除去することができる。
【0046】
各吐出チャンネル23内にインクが供給されたら、所定の吐出チャンネル23Aの両側壁15の電極16に電圧を印加する。これにより、圧電厚みすべり効果によって側壁15がせん断変形して吐出チャンネル23A内の容積が変化する。
【0047】
例えば、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの外側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの内側に向かって変形するように、分極方向に直交する一方向に電圧を印加する。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が増加する分、吐出チャンネル23A内にインクが引き込まれる。
【0048】
続いて、側壁15にかかる電圧をゼロにする。すなわち、吐出チャンネル23Aの両側壁15が電圧印加前の変形がない状態になるようにする。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が減少して圧力が増加し、ノズル孔27からインクが吐出される。
【0049】
この場合に、平坦面を有する異物除去フィルタ29が、共通インク室17内において全てのスリット19から略一定距離(約0.5mm)に配置されているので、一部の隣接する吐出チャンネル23Aとダミーチャンネル23Bとの間で圧力変動が伝播してしまう(いわゆる、クロストーク)のが抑制される。これにより、吐出チャンネル23A全体の吐出特性がほぼ安定し、全ての吐出チャンネル23Aからのインクの吐出が隣接するダミーチャンネル23Bの動作状態に影響されることなく行われる。例えば、各吐出ノズル孔27の吐出速度差は約0.2m/s以下、インク吐出量は±3%以内に抑えられる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態に係る液体噴射ヘッドチップ1、液体噴射ヘッド10および液体噴射記録装置100によれば、気泡通過フィルタ73を備える空気抜き流路71A,71Bにより、異物除去フィルタ29上に溜まった気泡を外部に逃がして共通インク室17へのインクの供給が妨げられてしまうのを防ぐとともに、共通インク室17内の負圧を維持することができる。これにより、インクを安定して吐出することができ、被記録媒体Sに安定した印字を行うことができる。また、異物除去フィルタ29および空気抜き流路71A,71Bを流路9に配置したり別部品に配置したりする必要がなく、液体噴射ヘッドチップ1および液体噴射ヘッド10の構造を単純化することができる。したがって、液体噴射ヘッド10の小型化・薄型化および製造コストの低減を図ることもできる。
【0051】
なお、本実施形態においては、インク導入孔33を共通流路35の長手方向の略中央付近に配置することとしたが、例えば、図6に示すように、共通流路35の長手方向のいずれか一端に隣接する位置に配置することとしてもよい。この場合、インク導入孔33から共通流路35内に入り込んだ気泡は、インク導入孔33から離れる方向、すなわち、共通流路35の長手方向の他端に溜まり易いので、空気抜き流路71Bは設けずに、共通インク室17の長手方向のインク導入孔33から遠い方の一端に隣接する位置に空気抜き流路71Aのみを設けることとすればよい。このようにすることで、液体噴射ヘッドチップ1の構造をより単純化することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、異物除去フィルタ29を例示して説明したが、全てのスリット19の端部から略一定距離に配置することができる平坦面を有する構造物であればよく、例えば、貫通孔を有する板等を採用することとしてもよい。この場合、全てのスリット19の端部から0.8mmより小さい距離に構造物を配置するのが好ましい。
【0053】
また、本実施形態においては、吐出溝13の配列方向に交互に吐出チャンネル23Aおよびダミーチャンネル23Bが形成されていることとしたが、これに代えて、全ての吐出溝13にカバープレート基板5のスリット19を貫通させて吐出チャンネル23Aだけを形成することとしてもよい。この場合、ノズルプレート7は、すべての吐出チャンネル23Aに対向するピッチでノズル孔27を形成することとすればよい。このようにすることで、全ての吐出チャンネル23Aからのインクの吐出を他の吐出チャンネル23Aの動作に影響されることなく行うことができる。
【0054】
また、本実施形態においては、側壁15にかかる電圧をゼロにし、吐出チャンネル23Aの両側壁15が電圧印加前の変形がない状態になるようにする駆動方法を示したが、電圧を逆方向に印加し、吐出チャンネル23Aの両側壁15が吐出チャンネル23Aの内側に向かって変形するように、すなわち、ダミーチャンネル23Bの外側に向かって変形するように、分極方向に直交する他の一方向に電圧を印加してもよい。これにより、吐出チャンネル23A内の容積が減少して圧力が増加し、ノズル孔27からインクが吐出される。
以上のように異なる駆動方法を説明したが、これらの方法においては、インクを安定して吐出するために、さらなるインクの加圧が必要な場合には、側壁15を吐出するチャネル側へ突出するように変形させる。この動作によって、吐出するチャネルの内部の圧力がさらに増加するので、インクをより加圧することができる。ただし、この動作は上述したとおり、インクを安定して吐出させることを目的とするものであるので、必須な動作ではなく必要に応じて適宜使用すればよい。また、本実施形態では、上述した各動作を必要に応じて組み合わせて実行することにより、最適なインクの吐出を実現することができる。
【0055】
また、本実施形態では、液体噴射装置の一例として、インクジェット式の記録装置を例に挙げて説明したが、プリンタに限られるものではない。例えば、ファックスやオンデマンド印刷機等であっても構わない。また、本実施形態では、複数のノズル孔27が配列方向に直線状に一列に配列されていることとしたが、これに代えて、複数のノズル孔27が直線状に配列されてなく縦方向にずらして配列されていてもよい。例えば、複数のノズル孔27が斜めに配列されていてもよく、あるいは、千鳥状に配列されていてもよい。また、ノズル孔27の形状に関しても、円形に限定されるものではない。例えば、三角等の多角形状や、楕円形状や星型形状でも構わない。
【0056】
また、本実施形態では、水性のインクを利用した場合を説明したが、例えば、非導電性の油性インク、ソルベントインクやUVインク等を用いても構わない。なお、油性インクを用いる場合には、液体噴射ヘッドチップ1は上述の、全ての吐出溝13にカバープレート基板5のスリット19を貫通させて吐出チャンネル23Aだけを形成する構成にすればよい。このように液体噴射ヘッドチップを構成することで、いかなる性質のインクであっても、使い分けることができる。したがって、水性のインクを利用して記録を行うことができる。特に、導電性を有するインクであっても問題なく利用できるので、インクジェットプリンタの付加価値を高めることができる。なお、その他は同様の作用効果を奏することができる。
また、本実施形態においては、カバープレート基板5のカバープレート開口部16が共通インク室17とスリット19とを備えることとしたが、例えば、カバープレート開口部16がスリット19を備えず全ての吐出溝13に連通する構造としてもよい。このようにすることで、例えば、油性インクを使用する場合に液体噴射ヘッドチップ1を簡易な構成にすることができる。
【0057】
また、本実施形態では、カバープレート基板5に共通インク室17が形成されていることとしたが、参考例として、アクチュエータ基板3に共通インク室が形成されていてもよい。例えば、アクチュエータ基板3の裏面(吐出溝13が形成された表面の反対側の面)に吐出溝13の配列方向に延びた断面凹状の共通インク室と、この共通インク室とは独立した空気抜き流路が形成され、この共通インク室の底面に、吐出溝に連通するスリットが形成された構成であってもよい。なお、この場合、支持プレートの位置を入れ換えて、支持プレートをカバープレート基板5に重ね合わせるように配置すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係る液体噴射ヘッドの分解斜視図である。
【図2】図1の液体噴射ヘッドチップをさらに分解した斜視図である。
【図3】図1の液体噴射ヘッドの断面図である。
【図4】図3の液体噴射ヘッドの拡大断面図である。
【図5】図1の液体噴射ヘッドを搭載する液体噴射装置の概略斜視図である。
【図6】本発明の一実施形態に変形例に係る液体噴射ヘッドの断面図である。
【符号の説明】
【0059】
1 液体噴射ヘッドチップ
9 流路(流路部材)
10 液体噴射ヘッド
13 吐出溝(液体吐出流路)
16 カバープレート開口部(開口部)
17 共通インク室(凹部)
19 スリット(貫通孔)
29 異物除去フィルタ
71A,71B 空気抜き流路
73 気泡通過フィルタ
100 液体噴射記録装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一表面に開口し平行間隔をあけて形成された複数の液体吐出流路を有するアクチュエータ基板と、
該アクチュエータ基板の前記一表面に接合され、該アクチュエータ基板とは反対側の表面に開口するとともに前記液体吐出流路に連通する開口部、および、該開口部が開口する前記表面と板厚方向に延びる端面とを連通する空気抜き流路がそれぞれ独立して設けられたカバープレート基板と
を備え、
該カバープレート基板の前記開口部を略閉塞する位置に異物を除去する異物除去フィルタが配置され、前記空気抜き流路の開口を略閉塞する位置に前記異物除去フィルタより通過抵抗が小さい気泡通過フィルタが配置されている液体噴射ヘッドチップ。
【請求項2】
前記開口部が、前記アクチュエータ基板とは反対側の表面に開口面を有する凹部と該凹部から前記液体吐出流路に貫通する複数の貫通孔とを備える請求項1に記載の液体噴射ヘッドチップ。
【請求項3】
前記空気抜き流路が、前記液体吐出流路に沿う方向に向かって開口する請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッドチップ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の液体噴射ヘッドチップと、
前記カバープレート基板の前記開口部が開口する前記表面に接合され、前記開口部および前記空気抜き流路に連絡する流路を有する流路部材と
を備える液体噴射ヘッド。
【請求項5】
請求項4に記載の液体噴射ヘッドを備える液体噴射記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131941(P2010−131941A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312368(P2008−312368)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】