説明

液体噴射ヘッドユニットおよび液体噴射装置

【課題】液体の溶媒によるフレキシブル配線基板の接続部における接触不良が低減した液体噴射ヘッドおよび噴射装置を提供すること。
【解決手段】マニホールド100から可撓部46を通過し、バッファー室430に至ったインクの溶媒は、ホルダー開口部420の開口方向とは異なる方向に放出される。したがって、インクの溶媒は、COF基板210の通されるホルダー開口部420、貫通孔32および保持孔113を通じて、リード電極90とCOF基板210との接続部に達しにくくなり、溶媒が接続部に達するまでの時間を稼ぐことができ、溶媒がホルダー開口部420の開口方向と同方向に放出される場合と比較して、リード電極90とCOF基板210との接触不良が生じるまでの時間が長いインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体を噴射する液体噴射ヘッドを備えた液体噴射ヘッドユニットおよび液体噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドとして、例えば、ノズル開口が複数穿設されたノズルプレートが一方面に接合され、各ノズル開口にそれぞれ連通する圧力発生室と各圧力発生室の共通のインク室であるマニホールドとしてのインク貯留室とを形成する流路形成基板を備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。液体噴射ヘッドユニットは、このような液体噴射ヘッドを備えている。
流路形成基板の他方面には、振動板が接合され、振動板を介して圧力発生室に対向する位置には、圧力発生室内の圧力を変化させてノズル開口からインクを吐出させる圧電素子としての圧電振動子が配置される。ここで、振動板には、金属製薄膜と樹脂製薄膜とを貼り合せたものが用いられている。また、流路形成基板の他方面には、圧電振動子を保護するための保護基板、ケースヘッド等が設けられる。
【0003】
圧電振動子から引き出されたリード電極には、フレキシブル配線基板が、樹脂に導電粒子を分散させたACF(Anisotropic Condactive Film)、ACP(Anisotropic Condactive Paste)等の異方性導電性接着剤により接続される。フレキシブル配線基板は、ケースヘッド内を通り、圧電振動子の駆動IC、さらには接続基板の端子を経由して、制御部に接続される。
【0004】
ケースヘッド等には、マニホールドの圧力変動を吸収するダンパー用凹部が振動板を介して設けられ、ダンパー用凹部はケースヘッド等に形成された外部連通路を介して外部に連通している。ここで、外部連通路の開口は、フレキシブル配線基板の引き出される方向と同方向に向かって形成されている。
また、マニホールドには、液体導入路を経て液体が導入され、液体は溶媒を含んだものが用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−289074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、外部連通路の開口が、フレキシブル配線基板の引き出される方向と同方向に向かって形成されているので、液体の溶媒がフレキシブル配線基板の引き出される開口および収められた空間を通じて、リード電極とフレキシブル配線基板との接続部に達し、ACF等に用いられる樹脂が分解または膨潤し、接続部において接触不良が生じる。
また、外部連通路の開口を、フレキシブル配線基板の引き出される方向と異なる方向であるケースヘッド等の側面やノズルプレートに向かって形成すると、ノズルプレートから噴射した液体が浸入し易くなり、液体が外部連通路を塞いで、マニホールドの圧力変動の吸収が困難になる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]
液体を噴射するノズル開口に連通した圧力発生室および前記圧力発生室に連通するマニホールドが形成された流路形成基板と、前記圧力発生室毎に設けられた圧力発生素子と、前記流路形成基板上に設けられ、前記圧力発生素子を収める保護基板と、コンプライアンス基板を挟んで前記マニホールドと対向するダンパー部と、前記ダンパー部と連通するバッファー室と、前記バッファー室内に、重力方向とは反対方向で前記バッファー室の底面より離れた位置に開口を有し、前記ダンパー部と連通する大気開放孔と、前記流路形成基板から前記保護基板に向かって形成された挿入孔と、前記バッファー室に形成され、前記挿入孔の開口方向とは異なる開口方向を有する開口部と、前記圧力発生素子に形成された電極から引き出され、前記挿入孔に露出したリード電極と、前記挿入孔を通され、端部が前記リード電極に、異方導電性接着剤で接続されたフレキシブル配線基板とを備えていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【0009】
この適用例によれば、バッファー室は、フレキシブル配線基板が通される挿入孔の開口方向とは異なる方向に開口部を有しているので、マニホールドからコンプライアンス基板を通過し、バッファー室に至った液体の溶媒は、挿入孔の開口方向とは異なる方向に放出される。したがって、液体の溶媒は、フレキシブル配線基板の通される挿入孔を通じて、リード電極とフレキシブル配線基板との接続部に達しにくくなり、溶媒が接続部に達するまでの時間が稼げ、溶媒が挿入孔の開口方向と同方向に放出される場合と比較して、リード電極とフレキシブル配線基板との接触不良が生じるまでの時間が長い液体噴射ヘッドが得られる。
また、バッファー室の開口部から浸入した液体は、重力によってバッファー室の底面に溜まる。ここで、ダンパー部とバッファー室とを連通する大気開放孔の開口が、重力方向とは反対方向で底面より離れた位置にあるため、液体が大気開放孔に浸入しにくい。したがって、ダンパー部の気体の出入りが妨げられにくく、コンプライアンス基板によるマニホールドの圧力変動の吸収が円滑に行なわれる液体噴射ヘッドユニットが得られる。
【0010】
[適用例2]
上記液体噴射ヘッドユニットであって、前記大気開放孔の一部は、前記バッファー室に突出して形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
この適用例では、大気開放孔の一部が、バッファー室に突出して形成されているので、バッファー室の底面から大気開放孔の開口に向かって液体が這い上がりにくく、液体が大気開放孔に、より浸入しにくい。したがって、ダンパー部の気体の出入りが、より妨げられにくく、コンプライアンス基板によるマニホールドの圧力変動の吸収がより円滑に行なわれる液体噴射ヘッドユニットが得られる。
【0011】
[適用例3]
上記液体噴射ヘッドユニットであって、前記大気開放孔は、前記バッファー室の底面より重力方向とは反対方向に離れた、前記バッファー室の側面に形成された切り欠き部の内面に形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
この適用例では、バッファー室の側面に形成された切り欠き部は、バッファー室の一部として、バッファー室と同時に形成できる。したがって、バッファー室の形成が容易な液体噴射ヘッドユニットが得られる。
【0012】
[適用例4]
上記液体噴射ヘッドユニットであって、前記コンプライアンス基板上に設けられ、前記ダンパー部の一部が形成された保持部材と、前記保持部材上に接合され、前記バッファー室が形成されたホルダー部材とを備え、前記挿入孔は、前記流路形成基板から前記保持部材へ向かって、前記保護基板の厚さ方向に貫通して形成された貫通孔と、前記貫通孔とつながり、前記保持部材から前記ホルダー部材へ向かって、前記保持部材の厚さ方向に貫通して形成された保持孔と、前記保持孔とつながり、前記ホルダー部材の厚さ方向に貫通して形成された開口部とを含むことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
この適用例では、ダンパー部の一部が形成された保持部材と、バッファー室が形成されたホルダー部材とが別部材なので、ダンパー部の一部およびバッファー室が形成し易い。また、フレキシブル配線基板が挿入される挿入孔も、保護基板に形成された貫通孔と保持部材に形成された保持孔とホルダー部材に形成されたホルダー開口部とを含んで、保護基板、保持部材およびホルダー部材を重ねることで形成される。したがって、製造の容易な液体噴射ヘッドユニットが得られる。
【0013】
[適用例5]
上記液体噴射ヘッドユニットを備えたことを特徴とする液体噴射装置。
【0014】
この適用例によれば、前述の効果を達成できる液体噴射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施形態におけるプリンターの概略構成を示す図。
【図2】インクジェット式記録ヘッドユニットの斜視図。
【図3】インクジェット式記録ヘッドユニットを示す分解斜視図。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの部分分解斜視図。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの部分分解断面斜視図。
【図6】図2におけるインクジェット式記録ヘッドユニットのA−A断面図。
【図7】図2におけるインクジェット式記録ヘッドユニットのB−B断面図。
【図8】変形例1におけるインクジェット式記録ヘッドユニットの断面図。
【図9】変形例2におけるホルダー部材の部分斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の説明は、実施形態にかかる液体噴射ヘッドユニットが液体噴射装置としてのプリンター1000に搭載される場合を例に挙げて行う。
図1はプリンター1000の概略構成を示す図である。図1中、X方向は、キャリッジ2が移動する主走査方向を示し、Y方向は、記録媒体Pが移送される副走査方向を示している。Z方向は、X方向およびY方向と直交する方向で、X方向およびY方向が水平面にある場合、重力方向であるが、プリンター1000の設置状況によって重力方向からずれる場合もある。
【0017】
図1に示すように、プリンター1000は、図1では直接図示していない複数のインクジェット式記録ヘッド1を備えた液体噴射ヘッドユニットとしてのインクジェット式記録ヘッドユニット11と、キャリッジ2と、キャリッジ移動機構3と、プラテンローラー4と、インクカートリッジ5とを備えている。
【0018】
インクジェット式記録ヘッド1は、インクジェット式記録ヘッドユニット11の記録用紙等の記録媒体P側(図1中Z方向下面)に取付けられ、記録媒体Pの表面にインクを液滴として吐出する。
キャリッジ移動機構3は、タイミングベルト6と、駆動プーリー7と、従動プーリー8と、モーター107とを備えている。タイミングベルト6には、キャリッジ2が係止されており、タイミングベルト6は、駆動プーリー7と従動プーリー8とに張設されている。駆動プーリー7は、モーター107の出力軸に接続されている。
モーター107が作動すると、キャリッジ2は、プリンター1000に架設されたガイドロッド9に案内されて、主走査方向であるX方向に往復移動する。プラテンローラー4は、モーター104から駆動力を受け、記録媒体Pを副走査方向であるY方向に移送する。
【0019】
インクカートリッジ5は、インクを貯留し、キャリッジ2に着脱可能に装着されている。インクカートリッジ5は、インクジェット式記録ヘッド1にインクを供給する。供給するインクが複数色の場合、インクカートリッジ5は複数個装着される。図1では、10個のインクカートリッジ5が装着されている。
【0020】
このように構成されたプリンター1000は、キャリッジ2をキャリッジ移動機構3によりX方向に往復移動させるとともに、記録媒体Pをプラテンローラー4によりY方向に移送させながら、キャリッジ2に取付けられたインクジェット式記録ヘッド1からインクを吐出することによって、記録媒体P上に画像等の記録を行うことができる。
【0021】
インクジェット式記録ヘッド1およびインクジェット式記録ヘッドユニット11について、図2および図3に基づいて説明する。
図2に、実施形態にかかるインクジェット式記録ヘッドユニット11の斜視図を示した。また、図3(a)〜(c)は、インクジェット式記録ヘッドユニット11を示す分解斜視図である。
ここで、図3(c)では、インクジェット式記録ヘッド1を、組み込まれる前の状態の1個のみについて拡大して示している。実際には、5個のインクジェット式記録ヘッド1がインクジェット式記録ヘッドユニット11に組み込まれている。
【0022】
図2および図3において、1個のインクジェット式記録ヘッド1は、2種類のインクの吐出に対応しており、実施形態では5個のインクジェット式記録ヘッド1を用いて10色のインクを吐出する。
なお、インクジェット式記録ヘッドユニット11に組み込まれるインクジェット式記録ヘッド1の数は、吐出するインクの種類に応じ、5個に限らない。
【0023】
インクジェット式記録ヘッドユニット11は、ホルダー部材400と中継基板500とを備えている。
ホルダー部材400には、5個のインクジェット式記録ヘッド1に対応して10箇所に液体導入路としてのインク導入路410が形成されている。また、中継基板500にはインク導入路410を通すための孔510が形成されている。
中継基板500は、インク導入路410を孔510に通した状態で、ホルダー部材400の片側から、ホルダー部材400にはめ込まれている。
【0024】
図3(c)において、インクジェット式記録ヘッド1は、保持部材としてのケースヘッド110とフレキシブル配線基板としての一対のCOF(Chip On Film)基板210とを備えている。また、COF基板210は、複数の配線220および駆動回路200を備えている。
図2および図3において、インクジェット式記録ヘッド1は、中継基板500のはめ込まれた側とは反対側である記録媒体P側(図1中Z方向下面)から、ホルダー部材400に差し込まれている。ホルダー部材400には、ホルダー開口部420が、差し込まれるインクジェット式記録ヘッド1に対応して5ヵ所に形成され、中継基板500には開口部としてのスリット520が5ヵ所に形成されている。一対のCOF基板210は、ホルダー開口部420およびスリット520に通され、配線220は、中継基板500の端子530にそれぞれ接合されている。
【0025】
また、図3(c)において、ケースヘッド110には、インク導入路410と接続され、インクジェット式記録ヘッド1内にインクを導入する液体導入路としてのインク導入路111が形成されている。さらに、ケースヘッド110には、後述するダンパー部47(図6参照)と連通する外部連通路120が形成されている。
【0026】
図4は、インクジェット式記録ヘッド1の部分分解斜視図であり、インクジェット式記録ヘッド1が、ホルダー部材400および中継基板500に組み込まれる前の状態を示している。図5は、インクジェット式記録ヘッド1の部分分解断面斜視図である。図5では、ケースヘッド110が省略されている。
また、図6は、図2におけるインクジェット式記録ヘッドユニット11のA−A断面図、図7は、図2におけるインクジェット式記録ヘッドユニット11のB−B断面図である。
【0027】
図4、図5および図6において、インクジェット式記録ヘッド1は、流路形成基板10とノズルプレート20と保護基板30とコンプライアンス基板40と駆動回路200が実装された一対のCOF基板210とを備えている。
流路形成基板10とノズルプレート20と保護基板30とは、流路形成基板10をノズルプレート20と保護基板30とで挟むように積み重ねられ、保護基板30上には、コンプライアンス基板40が設けられている。
COF基板210は、第1の端部211と第1の端部211の反対に位置する第2の端部212とを備えている。図6において、COF基板210の第1の端部211は保護基板30に差し込まれ、第2の端部212は中継基板500と接続されている。
【0028】
流路形成基板10は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶板からなる。その一方の面には、例えば、二酸化シリコンからなる弾性膜50が形成されている。
なお、流路形成基板10は、シリコン単結晶基板以外の材料、例えば、金属板やセラミック板などであってもよい。
【0029】
流路形成基板10には、隔壁によって区画された複数の圧力発生室12が、その幅方向に並設された列として2列設けられている。ここで、圧力発生室12は列間で対をなして設けられている。
また、各列の圧力発生室12の長手方向外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14を介して連通されている。連通部13は、保護基板30の供給部101と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるマニホールド100の一部を構成する。
インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。
なお、実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路14を形成してもよい。
【0030】
また、流路形成基板10の弾性膜50が形成された面とは反対側の面には、各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのインクジェット式記録ヘッド1には、ノズル開口21の並設されたノズル列が2列設けられている。なお、ノズルプレート20は、例えばガラスセラミックス、シリコン単結晶基板またはステンレス鋼などからなる。
【0031】
一方、流路形成基板10に形成された弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、白金(Pt)などの金属やルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)などの金属酸化物からなる下電極60と、ペロブスカイト構造の圧電体層70と、Au、Irなどの金属からなる上電極80とが形成され、圧力発生素子としての圧電素子300を構成している。
ここで、圧電素子300は、下電極60、圧電体層70および上電極80を含む部分をいう。圧電素子300は、圧力発生室12に対応して対をなしている。
また、ここでは、圧電素子300と当該圧電素子300の駆動により変位が生じる振動板とを合わせてアクチュエーター装置と称する。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55および下電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50および絶縁体膜55を設けずに、下電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電素子300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
【0032】
一般的には、圧電素子300のいずれか一方の電極を共通電極とし、他方の電極および圧電体層70を各圧力発生室12にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされたいずれか一方の電極および圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。
なお、実施形態では、下電極60を圧電素子300の共通電極とし、上電極80を圧電素子300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。いずれの場合においても、圧力発生室12毎に圧電体能動部が形成されていることになる。
【0033】
また、圧電素子300の個別電極である各上電極80には、絶縁体膜55上まで延設された、例えば、金(Au)等からなるリード電極90が接続されている。リード電極90は、圧電素子300に対応して対をなしている。リード電極90は、一端部が上電極80に接続されていると共に、他端部側が、並設された圧電素子300の列と列との間に引き出され、延設されている。
【0034】
また、圧電素子300が形成された流路形成基板10上には、圧電素子300に対向する領域に、圧電素子300の運動を阻害しない程度の空間を有する圧電素子保持部31を有する保護基板30が、接着剤35等によって接合されている。圧電素子300は、この圧電素子保持部31内に配置されているため、外部環境の影響を殆ど受けない状態で保護されている。なお、圧電素子保持部31は、密封されていても、密封されていなくてもよい。また、圧電素子保持部31は、各圧電素子300に独立して設けてもよく、複数の圧電素子300に亘って連続して設けるようにしてもよい。実施形態では、圧電素子保持部31を複数の圧電素子300に亘って連続して設けるようにした。
【0035】
さらに、保護基板30上の圧電素子保持部31に相対向する領域には、複数の個別流路の共通のインク室(液体室)となるマニホールド100の一部が設けられている。実施形態では、マニホールド100の一部は、保護基板30と流路形成基板10との接合面とは反対側の面に設けられた凹部で形成されている。
保護基板30の流路形成基板10との反対は凹部で開口しており、開口は、コンプライアンス基板40によって封止されている。なお、マニホールド100は、複数の個別流路の短手方向(幅方向)に亘って連続して設けられている。
【0036】
また、マニホールド100は、圧力発生室12の長手方向で保護基板30の両端部近傍まで設けられており、マニホールド100の一端部側は、個別流路の端部に相対向する領域まで設けられている。このようにマニホールド100を圧電素子保持部31の上方(平面視した際に圧電素子保持部31と重なる領域)に設けることで、マニホールド100を、圧力発生室12の長手方向における外側に拡幅する必要がなく、インクジェット式記録ヘッド1の圧力発生室12の長手方向の幅を小さくして小型化することができる。
【0037】
また、保護基板30の略中央部、すなわち、一対の圧力発生室12の対向する領域には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔32が形成されている。さらに、貫通孔32の中心には仕切り部33が設けられている。
延設されたリード電極90は、上電極80に接続されている端部とは反対の他端部側が、貫通孔32の底部に露出している。貫通孔32に露出したリード電極90は、貫通孔32に挿入されたCOF基板210に形成された配線220と第1の端部211で電気的に接続されている。接続は、例えば、異方性導電性接着剤としてのACP600を用いて行なわれている。
ACP600を用いることで、複数のリード電極90を1つのCOF基板210に接続することができるため、ワイヤーボンディングによって各リード電極90と順次接続するのに比べて作業時間を短縮することができ、コストを低減することができる。
COF基板210は可撓性のある基板であり、リード電極90と接続される第1の端部211は略L字型に曲げられている。第1の端部211は対向する圧電素子300に向けて配置されている。COF基板210に実装された駆動回路200によって、各圧電素子300は駆動する。
【0038】
保護基板30の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス材料、金属、樹脂等が挙げられるが、流路形成基板10の熱膨張率と略同一の材料で形成されていることがより好ましく、実施形態では、流路形成基板10と同一材料のシリコン単結晶基板を用いて形成する。
【0039】
コンプライアンス基板40は、封止膜41および固定板42を備えている。封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料、例えば、厚さが数μm程度のポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム等からなる。また、固定板42は、例えば、厚さが数十μm程度のステンレス鋼(SUS)などの金属などの硬質の材料からなる。
図6において、封止膜41と固定板42とは、貼り合わせ接着剤700によって接着されている。
【0040】
固定板42は、保護基板30のマニホールド100の周囲に亘って設けられており、マニホールド100に相対向する領域は厚さ方向に完全に除去された固定板開口部43となっている。
また、図4および図5において、固定板42には、固定板開口部43側に突出する突出部44が設けられており、この突出部44には、厚さ方向に貫通してインクが貯留された図1に示したインクカートリッジ5からのインクをマニホールド100に供給するための液体導入口としてのインク導入口45が設けられている。
図4および図5において、実施形態では、突出部44を、供給部101とは反対側に、かつ圧力発生室12の並設方向の一部をマニホールド100に相対向する領域まで突出させるように設けた。このため、インク導入口45は、保護基板30に設けられた供給部101とは圧力発生室12の長手方向における反対側の端部に設けるようにした。このように、インク導入口45を保護基板30の供給部101とは反対側の端部に設けることによって、図1に示したインクカートリッジ5から導入されたインクの動圧による影響が、供給部101を介して圧力発生室12に及ぶのを低減することができる。
【0041】
そして、このような固定板42の固定板開口部43によって、マニホールド100の一方面は、可撓性を有する封止膜41および貼り合わせ接着剤700で封止された撓み変形可能な可撓部46となっている。ここで、可撓部46は、封止膜41のみで構成されていてもよい。
実施形態では、可撓部46は、マニホールド100に相対向する領域の保護基板30の供給部101に相対向する領域と、マニホールド100に相対向する領域の固定板42のインク導入口45の周囲とに設けられており、可撓部46は、これらの供給部101に相対向する領域とインク導入口45の周囲とに亘って連続して設けられている。このように、可撓部46を供給部101に相対向する領域とインク導入口45の周囲とに亘って連続して設けることで、可撓部46を広い面積で形成することができ、マニホールド100内のコンプライアンスを増大させて、圧力変動の悪影響によるクロストークの発生を確実に低減させることができる。
【0042】
さらに、コンプライアンス基板40上には、ケースヘッド110が設けられている。ケースヘッド110には、図4に示した突出部44に形成されたインク導入口45に連通して図1に示したインクカートリッジ5等のインク貯留手段からのインクをマニホールド100に供給するインク導入路111が設けられている。
また、ケースヘッド110には、固定板開口部43に対向する領域に凹部112が形成され、固定板開口部43のたわみ変形が適宜行われるようになっている。
さらに、ケースヘッド110には、保護基板30に設けられた貫通孔32と連通する保持孔113が設けられている。
【0043】
COF基板210の第1の端部211は、保持孔113および貫通孔32内に挿通されて、第1の端部211の配線220がリード電極90と接続されている。
なお、COF基板210は、貫通孔32および保持孔113に充填されたモールド剤で支持してもよい。
【0044】
また、図6および図7において、ケースヘッド110には、固定板開口部43に対向する領域にダンパー用凹部であるダンパー部47が形成され、可撓部46のたわみ変形が適宜行われるようになっている。
さらに、ケースヘッド110には、保護基板30に設けられた貫通孔32と連通する保持孔113が設けられている。
【0045】
図6において、COF基板210の第1の端部211とは反対側に位置する第2の端部212は、ホルダー部材400のホルダー開口部420および中継基板500のスリット520に通され、第2の端部212の配線220が中継基板500の端子530に接合されている。
【0046】
図6および図7において、ダンパー部47と連通するように、図3および図4に示した外部連通路120がケースヘッド110に形成されている。外部連通路120は、ホルダー部材400に形成された大気開放孔450と連通している。
ケースヘッド110の材料としては、例えば、PPSが主成分の樹脂材料、金属材料等が挙げられる。
【0047】
ホルダー部材400には、バッファー室430が形成され、大気開放孔450が連通している。大気開放孔450は、バッファー室430内で管形状を有し、バッファー室430に向けて突出し、バッファー室430の中程で開口している。
また、図7において、バッファー室430は、ホルダー部材400の側面に開口部440を備えており、外部と連通している。
バッファー室430は、ホルダー部材400にバッファー室430の一部を構成する凹部を形成した後、蓋900によって凹部を塞ぐことによって形成することができる。蓋900は、図3にも示した。
【0048】
前述のように、COF基板210の第1の端部211は、挿入孔としてのホルダー開口部420、保持孔113および貫通孔32内に挿通されて、第1の端部211の配線220がリード電極90と接続されている。
COF基板210は、貫通孔32および保持孔113にモールド剤を充填して支持することができる。
【0049】
インクジェット式記録ヘッド1では、図1に示したインクカートリッジ5からインクを取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまで内部をインクで満たした後、駆動回路200からの駆動信号に従い、圧力発生室12に対応するそれぞれの下電極60と上電極80との間に電圧が印加される。電圧の印加によって、弾性膜50および圧電体層70がたわみ変形し、各圧力発生室12内の圧力が高まりノズル開口21からインク滴が吐出する。インクの溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル等を用いることができる。
【0050】
駆動信号は、例えば、駆動電源信号等の駆動ICを駆動させるための駆動系信号のほか、シリアル信号(SI)等の各種制御系信号を含み、配線は、それぞれの信号が供給される複数の配線で構成される。
【0051】
このような実施形態によれば、以下の効果がある。
(1)バッファー室430は、COF基板210が通されるホルダー開口部420、貫通孔32および保持孔113の開口方向とは異なる方向に開口部440を有しているので、マニホールド100から可撓部46を通過し、バッファー室430に至ったインクの溶媒は、ホルダー開口部420の開口方向とは異なる方向に放出される。したがって、インクの溶媒は、COF基板210の通されるホルダー開口部420、貫通孔32および保持孔113を通じて、リード電極90とCOF基板210との接続部に達しにくくなり、溶媒が接続部に達するまでの時間を稼ぐことができ、溶媒がホルダー開口部420の開口方向と同方向に放出される場合と比較して、リード電極90とCOF基板210との接触不良が生じるまでの時間が長いインクジェット式記録ヘッド1を得ることができる。
また、バッファー室430の開口部440から浸入したインク800は、重力によってバッファー室430の底面4300に溜まる。ここで、ダンパー部47とバッファー室430とを連通する大気開放孔450の開口が、重力方向とは反対方向で底面4300より離れた位置にあるため、インク800を大気開放孔450に浸入しにくくできる。したがって、ダンパー部47の気体の出入りを妨げられにくくでき、可撓部46によるマニホールド100の圧力変動の吸収が円滑に行なわれるインクジェット式記録ヘッドユニット11を得ることができる。
【0052】
(2)大気開放孔450の一部が、バッファー室430に突出して形成されているので、バッファー室430の底面4300から大気開放孔450の開口に向かってインク800を這い上がりにくくでき、インク800を大気開放孔450により浸入しにくくできる。したがって、ダンパー部47の気体の出入りをより妨げられにくくでき、可撓部46によるマニホールド100の圧力変動の吸収がより円滑に行なわれるインクジェット式記録ヘッドユニット11を得ることができる。
【0053】
(3)ダンパー部47の一部が形成されたケースヘッド110と、バッファー室430が形成されたホルダー部材400とが別部材なので、ダンパー部47の一部およびバッファー室430を形成し易くできる。また、COF基板210が挿入される挿入孔も、保護基板30に形成された貫通孔32とケースヘッド110に形成された保持孔113とホルダー部材400に形成されたホルダー開口部420とを含んで、保護基板30、ケースヘッド110およびホルダー部材400を重ねることで形成できる。したがって、製造の容易なインクジェット式記録ヘッドユニット11を得ることができる。
【0054】
(4)前述の効果を達成できるプリンター1000を得ることができる。
【0055】
(変形例1)
図8は、変形例1におけるインクジェット式記録ヘッドユニット11の図2におけるB−B断面図に相当する断面図である。
図8において、バッファー室431はホルダー部材400の側面に凹部として形成され、側面に開口部441を備えている。バッファー室431は、Z方向に段差452を有している。段差452には、大気開放孔451が、Z方向(重力方向とは反対方向)に向かって開口するように形成されている。
【0056】
変形例1によれば、以下の効果がある。
(5)実施形態における蓋900が必要でなく、バッファー室431の構造が簡単で、製造が行い易いインクジェット式記録ヘッドユニット11を得ることができる。
【0057】
(変形例2)
図9は、変形例2におけるホルダー部材400の部分斜視図である。
図9において、凹部として形成されたバッファー室432の側面に、バッファー室432の底面4320からZ方向(重力方向とは反対方向)の離れた位置に半円柱状の切り欠き部460が形成されている。切り欠き部460の底面4600に、大気開放孔453が開口するように形成されている。また、側面には、開口部442が形成されている。
【0058】
変形例2によれば、以下の効果がある。
(6)バッファー室432の側面に形成された切り欠き部460は、バッファー室432の一部として、バッファー室432と同時に形成できる。したがって、バッファー室432の形成が容易なインクジェット式記録ヘッドユニット11を得ることができる。
また、大気開放孔453の開口が切り欠き部460の側面で覆われているので、よりインクが浸入しにくい。
【0059】
以上、実施形態および変形例を説明したが、上述したものに限定されるものではない。
例えば、実施形態では、複数のインクジェット式記録ヘッド1を備えたインクジェット式記録ヘッドユニット11について説明したが、一つのインクジェット式記録ヘッド1を備えたものであってもよい。
また、フレキシブル配線基板はCOF基板210に限らず、駆動回路が実装されていないフレキシブル基板であってもよい。
【0060】
なお、上記実施の形態においては、液体噴射ヘッドユニットの一例としてインクジェット式記録ヘッドユニットを、また液体噴射装置の一例としてプリンターを挙げて説明したが、本発明は、広く液体噴射ヘッド及び液体噴射装置全般を対象としたものであり、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドや液体噴射装置にも勿論適用することができる。その他の液体噴射ヘッドとしては、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等が挙げられ、かかる液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1…インクジェット式記録ヘッド、2…キャリッジ、3…キャリッジ移動機構、4…プラテンローラー、5…インクカートリッジ、6…タイミングベルト、7…駆動プーリー、8…従動プーリー、9…ガイドロッド、10…流路形成基板、11…液体噴射ヘッドユニットとしてのインクジェット記録ヘッドユニット、12…圧力発生室、13…連通部、14…インク供給路、20…ノズルプレート、21…ノズル開口、30…保護基板、31…圧電素子保持部、32…挿入孔としての貫通孔、33…仕切り部、35…接着剤、40…コンプライアンス基板、41…封止膜、42…固定板、43…固定板開口部、45…インク導入口、46…可撓部、47…ダンパー部、50…弾性膜、55…絶縁体膜、60…下電極、70…圧電体層、80…上電極、90…リード電極、100…マニホールド、101…供給部、104,107…モーター、110…保持部材としてのケースヘッド、111,410…インク導入路、113…挿入孔としての保持孔、120…外部連通路、200…駆動回路、210…COF基板、211…第1の端部、212…第2の端部、220…配線、300…圧電素子、400…ホルダー部材、420…挿入孔としてのホルダー開口部、430,431,432…バッファー室、440,441…開口部、450,451,453…大気開放孔、460…切り欠き部、500…中継基板、510…孔、520…スリット、530…端子、600…ACP、700…貼り合わせ接着剤、800…液体としてのインク、900…蓋、1000…液体噴射装置としてのプリンター、4300,4320…底面、4600…内面としての底面。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル開口に連通した圧力発生室および前記圧力発生室に連通するマニホールドが形成された流路形成基板と、
前記圧力発生室毎に設けられた圧力発生素子と、
前記流路形成基板上に設けられ、前記圧力発生素子を収める保護基板と、
コンプライアンス基板を挟んで前記マニホールドと対向するダンパー部と、
前記ダンパー部と連通するバッファー室と、
前記バッファー室内に、重力方向とは反対方向で前記バッファー室の底面より離れた位置に開口を有し、前記ダンパー部と連通する大気開放孔と、
前記流路形成基板から前記保護基板に向かって形成された挿入孔と、
前記バッファー室に形成され、前記挿入孔の開口方向とは異なる開口方向を有する開口部と、
前記圧力発生素子に形成された電極から引き出され、前記挿入孔に露出したリード電極と、
前記挿入孔を通され、端部が前記リード電極に、異方性導電性接着剤で接続されたフレキシブル配線基板とを備えている
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドユニットにおいて、
前記大気開放孔の一部は、前記バッファー室に突出して形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項3】
請求項1に記載の液体噴射ヘッドユニットにおいて、
前記大気開放孔は、前記バッファー室の底面より重力方向とは反対方向に離れた、前記バッファー室の側面に形成された切り欠き部の内面に形成されている
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドユニットにおいて、
前記コンプライアンス基板上に設けられ、前記ダンパー部が形成された保持部材と、
前記保持部材上に接合され、前記バッファー室が形成されたホルダー部材とを備え、
前記挿入孔は、
前記流路形成基板から前記保持部材へ向かって、前記保護基板の厚さ方向に貫通して形成された貫通孔と、
前記貫通孔とつながり、前記保持部材から前記ホルダー部材へ向かって、前記保持部材の厚さ方向に貫通して形成された保持孔と、
前記保持孔とつながり、前記ホルダー部材の厚さ方向に貫通して形成された開口部とを含む
ことを特徴とする液体噴射ヘッドユニット。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドユニットを備えた
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−206283(P2012−206283A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71848(P2011−71848)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】