説明

液体噴射ヘッド及び液体噴射装置

【課題】液滴の着弾精度を向上して印刷品質を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供する。
【解決手段】圧力発生室と、前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記圧力発生室に連通するノズル開口34a、34bが形成されたノズルプレート35と、前記ノズルプレート35の液体噴射面S側に設けられた撥水膜50と、を具備した液体噴射ヘッドであって、1つの前記圧力発生室に対して複数のノズル開口34a、34bが設けられており、1つの前記圧力発生室に対する前記複数のノズル開口34a、34bの内面において、前記撥水膜50が前記液体噴射面Sからそれぞれ異なる深さまで設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液体を噴射する液体噴射ヘッド及び液体噴射装置に関し、特に、液体としてインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド及びインクジェット式記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドには、1つの圧力発生室に対して2以上の複数のノズル開口を設けたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ここで、被記録媒体に着弾するインク滴のインク重量とドット径(直径)との関係は、所定のインク重量のドット径に対して、半分のインク重量であってもドット径が半分になることはなく、半分よりも大きなドット径になる。また、インク重量が小さければ、被記録媒体に浸透するインクの量も少なく乾燥も早くなる。
【0004】
このことから、1つの圧力発生室に対して複数のノズル開口を設け、ノズル開口からインク重量を小さくしたインク滴を吐出させることで、印刷物の光学濃度(OD値;Optical Density)を高めることができる。また、圧力発生室に対してノズル開口を1つだけ設けた場合に比べて、同じ光学濃度であっても、インク消費量を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−331658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、複数(例えば、2つ)のノズル開口から同時にインク滴を吐出させると、複数のインク滴は飛翔時に気流の影響や静電気力(クーロン力)によって互いに離反する方向に飛翔し、着弾位置がずれてしまい印刷品質が低下してしまうという問題がある。
【0007】
なお、このような問題はインクジェット式記録ヘッドだけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射ヘッドにおいても同様に存在する。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑み、ノズル開口から吐出される液滴の着弾精度を向上して印刷品質を向上することができる液体噴射ヘッド及び液体噴射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の態様は、圧力発生室と、前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、前記圧力発生室に連通するノズル開口が形成されたノズルプレートと、前記ノズルプレートの液体噴射面側に設けられた撥水膜と、を具備した液体噴射ヘッドであって、1つの前記圧力発生室に対して複数のノズル開口が設けられており、1つの前記圧力発生室に対する前記複数のノズル開口の内面において、前記撥水膜が前記液体噴射面からそれぞれ異なる深さまで設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッドにある。
かかる態様では、1つの個別流路に連通する複数のノズル開口において、各ノズル開口に形成される液体のメニスカスの液体噴射面からの深さを異ならせることができる。これにより、1つの個別流路に連通する複数のノズル開口における液体の噴射開始位置(液体噴射面に対する位置)を異なる位置とすることができるため、吐出された液体が飛翔する際に、横に並ぶことなく飛翔する。このため、気流の影響やクーロン力による影響によって液体が曲がって飛翔するのを抑制して、被記録媒体への着弾位置の精度を向上して、印刷品質を向上することができる。
【0010】
ここで、前記撥水膜が、共析メッキで形成されていることが好ましい。これによれば、容易に且つ低コストで撥水膜を形成することができる。
【0011】
また、前記撥水膜が、金属アルコキシドの分子膜を有していてもよい。これによれば、比較的厚さの薄い撥水膜を形成することができると共に、耐擦性及び撥液性を向上することができる。
【0012】
さらに、本発明の他の態様は、上記態様の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置にある。
かかる態様では、印刷品質を向上した液体噴射装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1に係る記録ヘッドの分解斜視図である。
【図2】実施形態1に係る記録ヘッドの平面図である。
【図3】実施形態1に係る記録ヘッドの断面図である。
【図4】実施形態1に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。
【図5】比較例を示す要部を拡大した断面図である。
【図6】実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【図7】実施形態2に係る記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。
【図8】一実施形態に係る記録装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図であり、図3は、図2のA−A′線断面図である。
【0015】
図示するように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッド10は、アクチュエーターユニット20と、アクチュエーターユニット20が固定される流路ユニット30と、を具備する。
【0016】
アクチュエーターユニット20は、圧電アクチュエーター40と、圧力発生室21が形成された流路形成基板22と、流路形成基板22の一方面側に設けられた振動板23と、流路形成基板22の他方面側に設けられた圧力発生室底板24と、を具備する。
【0017】
流路形成基板22は、例えば、150μm程度の厚みを有するアルミナ(Al)や、ジルコニア(ZrO)などのセラミックス板やステンレス鋼等の金属板からなる。
【0018】
流路形成基板22には、本実施形態では、複数の圧力発生室21がその幅方向に沿って並設された列が2列形成されている。そして、この流路形成基板22の一方面に、例えば、厚さ10μmのジルコニア等の薄板からなる振動板23が固定され、圧力発生室21の一方面はこの振動板23により封止されている。
【0019】
圧力発生室底板24は、流路形成基板22の他方面側に固定されて圧力発生室21の他方面を封止する板状部材からなる。また、圧力発生室底板24は、圧力発生室21の長手方向一方の端部近傍に設けられて圧力発生室21と後述するマニホールドとを連通する供給連通孔25と、圧力発生室21の長手方向他方の端部近傍に設けられて後述するノズル開口34に連通するノズル連通孔26と、を有する。
【0020】
圧電アクチュエーター40は、振動板23上の各圧力発生室21に対向する領域のそれぞれに設けられ、例えば、本実施形態では、圧力発生室21の列が2列設けられているため、圧電アクチュエーター40の列も2列設けられている。
【0021】
ここで、各圧電アクチュエーター40は、図3に示すように、振動板23上に設けられた下電極膜43と、各圧力発生室21毎に独立して設けられた圧電体層44と、各圧電体層44上に設けられた上電極膜45とで構成されている。圧電体層44は、圧電材料からなるグリーンシートを貼付することや、印刷することで形成されている。また、下電極膜43は、並設された圧電体層44に亘って設けられて各圧電アクチュエーター40の共通電極となっており、振動板の一部として機能する。勿論、下電極膜43を各圧電体層44毎に設けるようにしてもよい。
【0022】
また、各圧電アクチュエーター40の長手方向一端部の圧力発生室21の周壁に相対向する領域には、圧電アクチュエーター40に導通する端子部46が設けられている。端子部46は、圧電アクチュエーター40毎に設けられて圧電アクチュエーター40の上電極膜45に導通する端子部46と、圧電アクチュエーター40の並設方向両端部側に引き出された下電極膜43に導通する端子部(図示なし)とが、圧電アクチュエーター40の並設方向に並設されている。本実施形態では、並設された圧電アクチュエーター40の列と列の間に並設された端子部46の列を2列設けるようにした。このような端子部46には、フレキシブルプリンティングサーキット(FPC)や、テープキャリアパッケージ(TCP)などの外部配線60が接続され、外部からの印刷信号は外部配線60を介して圧電アクチュエーター40に供給される。
【0023】
なお、アクチュエーターユニット20の各層である流路形成基板22、振動板23及び圧力発生室底板24は、粘土状のセラミックス材料、いわゆるグリーンシートを所定の厚さに成形して、例えば、圧力発生室21等を穿設後、積層して焼成することにより接着剤を必要とすることなく一体化される。そして、その後、振動板23上に圧電アクチュエーター40が形成される。
【0024】
一方、流路ユニット30は、アクチュエーターユニット20の圧力発生室底板24に接合されるインク供給口形成基板31と、複数の圧力発生室21の共通インク室となるマニホールド32が形成されるマニホールド形成基板33と、ノズル開口34が形成されたノズルプレート35と、を具備する。
【0025】
インク供給口形成基板31は、厚さ150μmのジルコニアの薄板からなり、ノズル開口34と圧力発生室21とを接続するノズル連通孔36が設けられている。また、インク供給口形成基板31には、前述の供給連通孔25と共にマニホールド32と圧力発生室21とを接続するインク供給口37が設けられている。さらに、インク供給口形成基板31には、各マニホールド32と連通し、外部のインクタンクからのインクを供給するインク導入口38が設けられている。
【0026】
マニホールド形成基板33は、インク流路を構成するに適した、例えば、150μmのステンレス鋼などの耐食性を備えた板材で形成されている。また、マニホールド形成基板33は、外部のインクタンク(図示なし)からインクの供給を受けて圧力発生室21にインクを供給するマニホールド32と、圧力発生室21とノズル開口34とを連通するノズル連通孔39と、を有する。すなわち、マニホールド32からのインクは、供給連通孔25を介して圧力発生室21に供給され、圧力発生室21内の圧力変動によって、圧力発生室21のインクはノズル連通孔26、ノズル連通孔36及びノズル連通孔39を介してノズル開口34からインク滴として吐出される。
【0027】
ノズルプレート35は、例えば、ステンレス鋼等の金属やシリコンなどのセラミックスなどからなる板状部材にノズル開口34が貫通して設けられている。ノズル開口34は、1つの圧力発生室21に対して2つ以上の複数個、本実施形態では1つの圧力発生室21に対してノズル開口34a、34bの2つが設けられている(図4参照)。
【0028】
また、ノズルプレート35のノズル開口34が開口する液体噴射面S(インク滴が吐出される方向に面する側)には、撥水膜50が設けられている。なお、本実施形態では、液体噴射面Sをノズルプレート35の表面としたが、ノズルプレート35の表面には撥水膜50が設けられているため、実際の液体噴射面は撥水膜50の表面である。
【0029】
撥水膜50は、吐出する液体(インク)に対して撥水性を有するものであれば特に限定されず、例えば、フッ素系高分子を含む金属膜や、撥液性を有する金属アルコキシドの分子膜などを用いることができる。
【0030】
ここで、フッ素系高分子を含む金属膜からなる撥水膜50は、例えば、ノズルプレート35の液体噴射面Sに直接、共析メッキを施すことにより形成することができる。
【0031】
また、撥水膜50として金属アルコキシドの分子膜を用いる場合には、例えば、ノズルプレート35側にプラズマ重合膜からなる下地膜を設けることで、分子膜からなる撥水膜50とノズルプレート35との密着性を向上することができる。なお、プラズマ重合膜からなる下地膜は、例えば、シリコーンをアルゴンプラズマガスにより重合させて形成することができる。また、金属アルコキシドの分子膜からなる撥水膜50は、例えば、アルコキシラン等のシランカップリング剤をシンナー等の溶媒と混合して金属アルコキシド溶液を形成し、この金属アルコキシド溶液にノズルプレート35を浸漬することで、金属アルコキシドの重合した分子膜を形成することができる。ちなみに、撥水膜50として、金属アルコキシドの分子膜を用いた場合には、下地層を設けたとしても、共析メッキにより形成したフッ素系高分子を含む金属膜からなる撥液膜よりも薄く形成できると共に、ヘッド面をクリーニングする際にワイピングによって液体噴射面Sが拭かれることによっても撥液性が劣化しない「耐擦性」、及び撥液性を向上できるという利点を有する。勿論、「耐擦性」、「撥液性」は劣るが、フッ素系高分子を含む金属膜からなる撥液膜を用いることもできる。
【0032】
ここで、各ノズル開口34a、34bと撥水膜50とについてさらに詳細に図4を参照して説明する。なお、図4は、図3のB−B′線の要部を拡大した断面図である。
【0033】
図2及び図4に示すように、ノズルプレート35には、1つの圧力発生室21に連通する2つのノズル開口34a、34bが圧力発生室21の並設方向に並設されている。また、2つのノズル開口34a、34bは、1つの圧力発生室21にノズル連通孔26及びノズル連通孔39を介して連通している。このようなノズル開口34aとノズル開口34bとの間の距離は、所望のノズル開口34の密度で配置されたものである。本実施形態では、2つのノズル開口34a、34bの距離を600dpiとなる間隔、すなわち、42.4μmで配置した。
【0034】
このような各ノズル開口34a、34bは、インク滴が吐出される側に面する液体噴射面S側に設けられた第1ノズル部341と、圧力発生室21(ノズル連通孔39)側に設けられた第2ノズル部342と、を具備する。
【0035】
第1ノズル部341は、本実施形態では、インク滴の噴射方向であるノズルプレートの厚さ方向に略同一径で設けられている。
【0036】
また、第2ノズル部342は、圧力発生室21(ノズル連通孔39)側から液体噴射面S側に向かって開口面積が徐々に漸小する形状を有する。本実施形態では、第2ノズル部342の内壁面を第1ノズル部341の内壁面に対して傾斜させることで、第2ノズル部342が液体噴射面S側に向かって開口面積が漸小するようにした。
【0037】
もちろん、第1ノズル部341も第2ノズル部342と同様に、液体噴射面S側に向かって開口面積が漸小するようにしてもよい。
【0038】
このようなノズル開口34a、34bが設けられたノズルプレート35には、上述したように第1ノズル部341が開口する液体噴射面S側に撥水膜50が設けられている。
【0039】
撥水膜50は、ノズルプレート35の液体が吐出される一方面(液体噴射面S)に亘って連続して設けられている。なお、特に図示していないが、ノズルプレート35の液体噴射面Sにカバープレート等を接着する際には、接着剤によって接着する領域に撥水膜50を設けないようにすれば、接着強度を上げることができる。
【0040】
また、撥水膜50は、ノズルプレート35の液体噴射面Sから連続してノズル開口34aの内面まで延設された撥水部51aと、ノズル開口34bの内面まで延設された撥水部51bと、を具備する。本実施形態では、撥水部51a、51bは、各ノズル開口34a、34bの第1ノズル部341の深さの途中まで設けられている。そして、1つの圧力発生室21(個別流路)に連通するノズル開口34a、34bに設けられた撥水部51a、51bは、異なる深さで形成されている。なお、本実施形態で言う「深さ」とは、ノズル開口34(34a、34b)の液体噴射面Sから圧力発生室21に向かう方向のことである。具体的には、ノズル開口34aには、撥水部51aが液体噴射面Sから深さdで形成されている。これに対して、ノズル開口34bは、撥水部51bが液体噴射面Sからdよりも浅いdで形成されている(d>d)。
【0041】
このように、ノズル開口34a、34bの撥水部51a、51bを設ける液体噴射面Sからの深さd、dを変更することで、図4(b)に示すように、撥水部51a、51bが設けられた領域と撥水膜50が設けられていない領域との境界にインクのメニスカスが形成される。
【0042】
インクジェット式記録ヘッド10では、圧電アクチュエーター40の駆動により圧力発生室21内のインクに圧力変動を与えてメニスカスを振動させることで、メニスカスからインクを引き離してインク滴として吐出される。すなわち、2つのノズル開口34a、34bからは、共通して連通する1つの圧力発生室21内の圧力変動によってインク滴が吐出される。このとき、ノズル開口34a、34bにおいて、メニスカスの位置(液体噴射方向における位置)が異なるようにすることで、2つのノズル開口34a、34bから吐出されるインク滴X、Xの吐出開始位置に差が生じ、2つのノズル開口34a、34bから吐出された2つのインク滴X、Xは、互いに横に並ぶことなく飛翔する。なお、ここで言う横とは、飛翔方向に対して直交する方向のことである。
【0043】
ここで、図5に示すように、2つのノズル開口134a、134bに撥水部51a、51bを同じ深さとなるように形成すると、2つのノズル開口134a、134bに形成されるインクのメニスカスの位置が同じになる。このため、2つのノズル開口134a、134bから吐出された2つのインク滴X、Xは、互いに離反する方向に曲がって飛翔してしまう。このように2つのインク滴X、Xが曲がって飛翔してしまう原因としては、気流の影響が考えられる。つまり、2つのノズル開口134a、134bの直前のノズル連通孔39の流路抵抗は同じであるため、2つのインク滴X、Xの飛翔速度が同じになり、2つのインク滴X、Xは、互いに隣り合ったまま飛翔する。このとき、2つのインク滴X、Xの間は狭くて気体が入り込みにくく、2つのインク滴X、Xの外側は気体が流れ易いことから、2つのインク滴X、Xの外側のみに渦流が発生し、この渦流によって2つのインク滴X、Xが離反する方向に引っ張られることで2つのインク滴X、Xが離反する方向に曲がって飛翔してしまうと考えられる。また、インク滴X、Xの飛翔曲がりの原因には、気流の影響以外にも、例えば、2つのインク滴X、Xの静電気力(クーロン力)等による影響も考えられる。すなわち、2つのインク滴X、Xが同じ極性に帯電することによって、互いに離反する方向に移動してしまう。このように、2つのノズル開口134a、134bから吐出された2つのインク滴X、Xが互いに離反する方向に飛翔してしまうと、紙等の被記録媒体への着弾位置がずれてしまい、印刷品質が低下してしまう。
【0044】
そこで、本実施形態では、図4に示すように、2つのノズル開口34a、34bの撥水部51a、51bの液体噴射面Sからの深さ(形成領域)を異ならせることで、2つのノズル開口34a、34bに形成されるインクのメニスカスの位置(液体噴射方向の位置)を異ならせて、2つのノズル開口34a、34bから吐出される2つのインク滴X、Xの飛翔開始位置を変更し、2つのインク滴X、Xが飛翔時に隣り合うことがなく、それぞれのインク滴X、Xの両側に気流による渦流を発生させて、インク滴X、Xを曲げずに真っ直ぐ飛翔させることができる。これにより、被記録媒体へのインク滴の着弾位置を高精度にすることができ、印刷品質を向上することができる。また、2つのインク滴X、Xが飛翔時に隣り合うことがないため、2つのインク滴X、Xの間で働くクーロン力による影響を低減することができる。
【0045】
また、本実施形態のように、1つの圧力発生室21に対して2つのノズル開口34a、34bを設けることで、解像度を上げることができると共に、印刷物の光学濃度(OD値;Optical Density)を高くすることができる。なお、光学濃度(OD値;Optical Density)とは、log(I/I)(Iは入射光の強さ、Iは反射光の強さ)で表される半透明媒質の不透明程度のことである。このように、複数のノズル開口34a、34bからインク滴を吐出させて形成したドットの方が光学濃度は高くなる。これは、インク重量とドット径との関係が考えられる。具体的には、所定のインク重量で吐出したインク滴が被記録媒体に付着した際のドット径に対して、半分のインク重量で吐出したインク滴のドット径は、半分よりも大きくなる。これは、被記録媒体上に着弾したインク滴は、ドーム状(球冠状)になるが、このとき、インク重量が小さくなれば、ドットの被記録媒体からの高さが低くなるため、その直径(ドット径)は、半分にはならずに、半分よりも大きくなる。このことから、圧力発生室に対して1つのノズル開口を設けた場合と同じインク重量で2つのノズル開口からインク滴を吐出させると、インク滴が被記録媒体を覆う面積(ドット径で規定される面積)が広くなることから、印刷物の光学濃度が高くなると考えられる。
【0046】
また、圧力発生室に対して1つのノズル開口を設けた場合のインク重量に比べて、小さいインク重量(ドット径の小さいインク滴)によって印刷を行うため、被記録媒体へのインクの浸透が減る。また、被記録媒体へのインクの浸透を減らすことにより、乾燥性も向上し、印刷物の光学濃度が高くなると考えられる。したがって、インクの無駄な消費を抑制することもできる。
【0047】
このような深さの異なる撥水部51a、51bの製造方法について、図6を参照して詳細に説明する。なお、図6は、本発明の実施形態1に係る記録ヘッドの製造方法を示す断面図である。
【0048】
まず、図6(a)に示すように、ノズル開口34(34a、34b)が形成されたノズルプレート35の液体噴射面Sとなる一方面とは反対側の他方面(第2ノズル部342側の面)に、感光性樹脂フィルム200を圧接させる。このとき、温度により粘度を制御しながら感光性樹脂フィルム200の一部をノズル開口34a、34bの第2ノズル部342側に入り込ませる。また、感光性樹脂フィルム200をノズル開口34a、34bに入り込ませる量を、ノズル開口34aとノズル開口34bとで異ならせる。具体的には、ノズル開口34a側の感光性樹脂フィルム200を圧接させる圧力に対して、ノズル開口34b側の感光性樹脂フィルム200を圧接させる圧力を大きくする。これにより、感光性樹脂フィルム200は、ノズル開口34aに入り込む量が少なくなり、ノズル開口34bに入り込む量が多くなる。すなわち、感光性樹脂フィルム200は、ノズル開口34aでは第1ノズル部341の第2ノズル部342側までしか入り込まず、ノズル開口34bでは、第1ノズル部341の液体噴射面S側まで入り込む。
【0049】
次に、図6(b)に示すように、感光性樹脂フィルム200に紫外線を照射して硬化させる。
【0050】
次に、図6(c)に示すように、ノズルプレート35の表面に撥水膜50を形成する。このとき、ノズルプレート35の液体噴射面Sとは反対面は感光性樹脂フィルム200によって覆われているため、ノズルプレート35の液体噴射面Sとは反対面には撥水膜50が形成されない。また、撥水膜50は、ノズル開口34(34a、34b)の第1ノズル部341の内面にも形成されるが、その入り込み量は、感光性樹脂フィルム200によって規制されている。このため、ノズル開口34aとノズル開口34bとで異なる深さ(入り込み量)で撥水膜50の撥水部51a、51bを形成することができる。なお、ここで形成する撥水膜50は、共析メッキにより形成したものであっても、また、金属アルコキシドの分子膜であってもよい。
【0051】
次に、図6(d)に示すように、感光性樹脂フィルム200をノズルプレート35から除去することで、所望の領域のみに選択的に撥水膜50が設けられたノズルプレート35が形成される。
【0052】
なお、本実施形態では、流路ユニット30には、圧力発生室21の列が2列設けられているため、ノズルプレート35にも、ノズル開口34の列が2列(実際は4列)形成されている。また、このノズルプレート35は、マニホールド形成基板33の流路形成基板22の反対面に接合されてマニホールド32の一方面を封止している。
【0053】
このような流路ユニット30は、これらインク供給口形成基板31、マニホールド形成基板33及びノズルプレート35を、接着剤や熱溶着フィルム等によって固定することで形成される。なお、本実施形態では、マニホールド形成基板33及びノズルプレート35をステンレス鋼によって形成しているが、例えば、セラミックスを用いて形成し、アクチュエーターユニット20と同様に流路ユニット30を一体的に形成することもできる。
【0054】
そして、このような流路ユニット30とアクチュエーターユニット20とは、接着剤や熱溶着フィルムを介して接合されて固定されている。
【0055】
このような構成のインクジェット式記録ヘッド10では、インクカートリッジ(貯留手段)からインク導入口38を介してマニホールド32内にインクを取り込み、マニホールド32からノズル開口34に至るまでの液体流路内をインクで満たした後、図示しない駆動回路からの記録信号を圧電アクチュエーター40に供給することで、各圧力発生室21に対応する各圧電アクチュエーター40に電圧を印加して圧電アクチュエーター40と共に振動板23をたわみ変形させることにより、各圧力発生室21内の圧力が高まり各ノズル開口34(2つのノズル開口34a、34b)からインク滴が噴射される。
【0056】
(実施形態2)
図7は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例を示すインクジェット式記録ヘッドの要部を拡大した断面図である。なお、上述した実施形態1と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0057】
図7に示すように、ノズルプレート35Aには、1つの圧力発生室21に対応して2つのノズル開口34c、34dが設けられている。
【0058】
一方のノズル開口34cは、液体噴射面S側に設けられた第1ノズル部341と、圧力発生室21側に設けられた第2ノズル部342Aと、を具備する。
【0059】
また、他方のノズル開口34dは、液体噴射面S側に設けられた第1ノズル部341と、圧力発生室21側に設けられた第2ノズル部342Bと、を具備する。
【0060】
第1ノズル部341は、本実施形態では、インク滴の噴射方向であるノズルプレートの厚さ方向に略同一径で設けられている。
【0061】
また、第2ノズル部342A、342Bは、圧力発生室21(ノズル連通孔39)側から液体噴射面S側に向かって開口面積が徐々に漸小する形状を有する。本実施形態では、第2ノズル部342A、342Bの内壁面を第1ノズル部341の内壁面に対して傾斜させることで、第2ノズル部342が液体噴射面S側に向かって開口面積が漸小するようにした。
【0062】
そして、これら2つの第2ノズル部342A、342Bは、第1ノズル部341に対する角度θ及び角度θが異なる角度となるように形成されている。
【0063】
具体的には、撥水部51aが液体噴射面Sから深く設けられたノズル開口34cは、第2ノズル部342Aのテーパー角度θ(第1ノズル部341に対する角度)がノズル開口34dの角度θに比べて大きな角度で設けられている。すなわち、撥水部51aが液体噴射面Sから浅く設けられたノズル開口34dは、第2ノズル部342Bのテーパー角度θ(第1ノズル部341に対する角度)がノズル開口34cの角度θに比べて小さな角度で設けられている(θ>θ)。
【0064】
これは、例えば、上述した実施形態1と同様に、ノズルプレート35の液体噴射面Sとは反対面側に感光性樹脂フィルム200を圧接させた際に、図7(b)に示すように、ノズル開口34c、34dで同じ圧力で感光性樹脂フィルム200を圧接させたとしても、ノズル開口34c、34dの第2ノズル部342A、342Bの容積が異なることから、感光性樹脂フィルム200が入り込む量を異ならせることができる。すなわち、ノズル開口34cの第2ノズル部342Aは、第1ノズル部341に対する角度θが大きく、第2ノズル部342Aの体積が大きいことから、感光性樹脂フィルム200が第1ノズル部341に入り込む量が少なくなる。これに対して、ノズル開口34dの第2ノズル部342Bは、第1ノズル部341に対する角度θが小さく、第2ノズル部342Bの容積がノズル開口34aの第2ノズル部342Aに比べて小さいことから、感光性樹脂フィルム200が第1ノズル部341に入り込む量が多くなる。
【0065】
このため、感光性樹脂フィルム200をノズル開口34c、34dで圧接させる圧力を同じにしても、感光性樹脂フィルム200によって覆うノズル開口34c、34dの第1ノズル部341の領域を変化させることができる。その後、感光性樹脂フィルム200に紫外線を照射すると共に、ノズルプレート35Aの表面に撥水膜50を形成することで、深さの異なる撥水部51a、51bを容易に形成することができる。
【0066】
なお、本実施形態では、ノズル開口34c、34dの第1ノズル部341の内径Dを同じ内径としたため、2つのノズル開口34c、34dから吐出されるインク滴の大きさ(重量)は略同じとなる。このため、印刷品質を低下させるのを抑制して、深さの異なる撥水部51a、51bを形成することができる。また、深さの異なる撥水部51a、51bによる効果は上述した実施形態1と同様である。
【0067】
(他の実施形態)
以上、本発明の各実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。
【0068】
例えば、上述した実施形態1及び2では、1つの圧力発生室21に連通する2つのノズル開口34a、34b及び34c、34dを設けたが、特にこれに限定されず、1つの圧力発生室21に3個以上のノズル開口を設けてもよい。この場合であっても、各ノズル開口の撥水部の液体噴射面Sからの深さを異ならせれば、各ノズル開口からインク滴の吐出を開始させる高さ(着弾までの高さ)を異ならせることができ、飛翔軌跡を真っ直ぐにすることができる。
【0069】
さらに、上述した実施形態1及び2では、厚膜型の圧電アクチュエーター40を用いた圧力発生手段を例示したが、特にこれに限定されず、例えば、下電極、圧電体層及び上電極を成膜及びリソグラフィー法により順次積層する薄膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、圧力発生手段として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
【0070】
また、これら各実施形態のインクジェット式記録ヘッド10は、インクカートリッジ等と連通するインク流路を具備する記録ヘッドユニットの一部を構成して、インクジェット式記録装置に搭載される。図8は、そのインクジェット式記録装置の一例を示す概略図である。
【0071】
図8に示すインクジェット式記録装置Iにおいて、複数のインクジェット式記録ヘッド10を有するインクジェット式記録ヘッドユニット1A、1B(以下、ヘッドユニット1A、1Bとも言う)は、インク供給手段を構成するカートリッジ2A及び2Bが着脱可能に設けられ、このヘッドユニット1Aを搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。この記録ヘッドユニット1A及び1Bは、例えば、それぞれブラックインク組成物及びカラーインク組成物を吐出するものとしている。
【0072】
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、ヘッドユニット1A、1Bを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートPがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
【0073】
また、上述したインクジェット式記録装置Iでは、インクジェット式記録ヘッド10(ヘッドユニット1A、1B)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッド10が固定されて、紙等の記録シートPを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
【0074】
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。また、液体噴射装置の一例としてインクジェット式記録装置Iを挙げて説明したが、上述した他の液体噴射ヘッドを用いた液体噴射装置にも用いることが可能である。
【符号の説明】
【0075】
I インクジェット式記録装置(液体噴射装置)、 S 液体噴射面、 10 インクジェット式記録ヘッド(液体噴射ヘッド)、 20 アクチュエーターユニット、 21 圧力発生室、 22 流路形成基板、 23 振動板、 24 圧力発生室底板、 30 流路ユニット、 31 インク供給口形成基板、 32 マニホールド、 33 マニホールド形成基板、 34、34a〜34d ノズル開口、 35、35A ノズルプレート、 26、39 ノズル連通孔、 40 圧電アクチュエーター(圧力発生手段)、 43 下電極膜、 44 圧電体層、 45 上電極膜、 46 端子部、 50 撥水膜、 51a、51b 撥水部、 200 感光性樹脂フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力発生室と、
前記圧力発生室内の液体に圧力変化を生じさせる圧力発生手段と、
前記圧力発生室に連通するノズル開口が形成されたノズルプレートと、
前記ノズルプレートの液体噴射面側に設けられた撥水膜と、を具備した液体噴射ヘッドであって、
1つの前記圧力発生室に対して複数のノズル開口が設けられており、
1つの前記圧力発生室に対する前記複数のノズル開口の内面において、前記撥水膜が前記液体噴射面からそれぞれ異なる深さまで設けられていることを特徴とする液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記撥水膜が、共析メッキで形成されていることを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記撥水膜が、金属アルコキシドの分子膜を有することを特徴とする請求項1記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の液体噴射ヘッドを具備することを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−131177(P2012−131177A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286751(P2010−286751)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】