説明

液体噴射装置、および、その制御方法

【課題】ノズルから噴射された液滴が装置内に付着することをより確実に防止できる液体噴射装置、および、その制御方法を提供する。
【解決手段】液体を噴射するノズル30が形成されたノズル形成面、および、圧力室28内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段20を有し、当該圧力発生手段20の駆動により前記ノズル30から着弾対象6に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッド2と、噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象6を支持する支持手段5と、前記支持手段5から前記ノズル形成面に向かう電界を形成する電界形成手段58と、を備え、前記液体の導電率をX(mS/cm)としたとき、前記電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすことを特徴とする液体噴射装置。
−16×ln(X)+62≦E …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録装置などの液体噴射装置に関し、特に、圧力発生手段の駆動により圧力室内の液体をノズルから噴射する液体噴射装置、および、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は液体噴射ヘッドを備え、この噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置としては、例えば、インクジェット式プリンターやインクジェット式プロッター等の画像記録装置があるが、最近ではごく少量の液体を所定位置に正確に着弾させることができるという特長を生かして各種の製造装置にも応用されている。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルタを製造するディスプレイ製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイやFED(面発光ディスプレイ)等の電極を形成する電極形成装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置に応用されている。そして、画像記録装置用の記録ヘッドでは液状のインクを噴射し、ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドではR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは生体有機物の溶液を噴射する。
【0003】
上記のプリンター等で使用される記録ヘッドでは、近年、画像向上等の要求に応えるため、ノズルから噴射されるインクの液量を小さくする傾向がある。このような微量の液滴を記録媒体に対して確実に着弾させるために、液滴の初速が比較的高く設定される。これにより、ノズルから噴射された液滴は、飛翔中に引き伸ばされて、先頭のメイン液滴(主液滴)とそれよりも後のサテライト液滴(副液滴)に分離する。このメイン液滴およびサテライト液滴の一部又は全部は、空気の粘性抵抗により速度が急激に低下し、記録媒体に到達することなくミスト化してしまうことがある。特に、記録媒体の縁部に余白を残すことなく記録媒体の表面の全体に対して印刷(所謂縁無し印刷)を行う場合は、記録媒体から外れた領域にインクが噴射され易く、記録媒体に着弾しなかったメイン液滴がミスト化し易い。このことより、ミスト化したメイン液滴およびサテライト液滴(ミスト)が、装置内を汚染し、記録ヘッドや電気回路等の帯電しやすい部材への付着によって動作不良を発生させたりする問題があった。
【0004】
このような不具合を防止すべく、ノズルから噴射される液滴を帯電させると共に、記録ヘッドのノズル形成面と、記録時の記録媒体を支持するプラテンに設けられた吸収部材との間に電界を形成することで、液滴を吸収部材に積極的に引き付けてミストの発生を抑制しようとする試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。特に、プリンター内の構成部品(例えば、駆動ベルト、リニアスケールなど)は、一般的には、帯電列において負極性(マイナス)に帯電し易い素材(例えば、PU(ポリウレタン)、PVC(ポリ塩化ビニール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)等)が用いられるため、空気や他の構成部品との摩擦によりマイナスに帯電し易い。このため、これらの構成部品にミストが付着するのを防ぐため、ノズルから噴射される液滴がマイナスに帯電されるように電界が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−254826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、ノズルから噴射された液滴は、記録媒体に向けて飛翔している間、レナード効果によりプラスの帯電が強まる傾向にある。即ち、液滴の中心部分にプラス電荷が集まる一方で、表層部分にマイナス電荷が集まるため、飛翔中における表層部分の蒸発や分裂により液滴が次第にプラスに偏っていく。これにより、ノズルから噴射された直後はマイナスに帯電していた液滴が、記録媒体に向けて飛翔している間にマイナスの帯電が弱まり、場合によってはプラスに帯電することがあった。プラスに帯電した液滴は、プラテンの吸収部材や記録媒体に着弾せずにミスト化し、マイナスに帯電したプリンター内の構成部品に付着するおそれがあった。
【0007】
以上のような現象は、圧電振動子には限られず、発熱素子等の、駆動電圧の印加により作動する他の圧力発生手段でも同様に生じる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノズルから噴射された液滴が装置内に付着することをより確実に防止できる液体噴射装置、および、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の液体噴射装置は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、前記支持手段から前記ノズル形成面に向かう電界を形成する電界形成手段と、を備え、前記液体の導電率をX(mS/cm)としたとき、前記電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
−16×ln(X)+62≦E …(1)
【0010】
本発明によれば、ノズルから噴射された液滴がプラスに帯電することを確実に防止できる。これにより、一般的にマイナスに帯電し易い液体噴射装置内の構成部品(例えば、駆動モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)への液滴の付着をより確実に防止できる。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、液体噴射装置の耐久性および信頼性が向上する。
【0011】
また、上記構成において、前記電界形成手段は、前記支持手段に正極性の電圧を印加することにより電界を形成することが望ましい。
【0012】
この構成によれば、マイナスに帯電した液滴を着弾対象或いは支持手段に確実に着弾させることができ、液滴のミスト化をより確実に防ぐことができる。これにより、液体噴射装置内の構成部品への液滴の付着を一層確実に防止できる。
【0013】
そして、本発明の液体噴射装置の制御方法は、液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、前記支持手段から前記ノズル形成面に向かう電界を形成する電界形成手段と、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、前記液体の導電率をX(mS/cm)としたとき、前記電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
−16×ln(X)+62≦E …(1)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】プリンターの構成を説明する斜視図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】圧電振動子の構成を説明する断面図である。
【図4】記録ヘッドの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】ノズル形成面とプラテンとの間に電界を形成した構成においてノズルから噴射されたインクが帯電する様子を説明する模式図である。
【図6】ノズル形成面とプラテンとの間に形成した電界とインク滴の帯電量との関係を表すグラフである。
【図7】インク滴の帯電量が0(C)になる場合の液滴の導電率とノズル形成面とプラテンとの間に形成した電界との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0016】
図1はプリンター1の構成を示す斜視図である。このプリンター1は、液体噴射ヘッドの一種である記録ヘッド2が取り付けられると共に、液体供給源の一種であるインクカートリッジ3が着脱可能に取り付けられるキャリッジ4と、記録動作(噴射動作)時の記録ヘッド2の下方に配設されたプラテン5(本発明における支持手段に相当)と、キャリッジ4を記録紙6(記録媒体および着弾対象の一種)の紙幅方向、即ち、主走査方向に往復移動させるキャリッジ移動機構7と、主走査方向に直交する副走査方向に記録紙6を搬送する搬送機構8と、を備えている。
【0017】
キャリッジ4は、主走査方向に架設されたガイドロッド9に軸支された状態で取り付けられており、キャリッジ移動機構7の作動により、ガイドロッド9に沿って主走査方向に移動するように構成されている。キャリッジ4の主走査方向の位置は、リニアエンコーダー10によって検出され、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)がプリンターコントローラー51(図4参照)に送信される。リニアエンコーダー10は位置情報出力手段の一種であり、記録ヘッド2の走査位置に応じたエンコーダーパルスEPを、主走査方向における位置情報として出力する。
【0018】
キャリッジ4の移動範囲内における記録領域よりも外側の端部領域には、キャリッジの走査の基点となるホームポジションが設定されている。本実施形態におけるホームポジションには、記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート24:図2参照)を封止するキャッピング部材11と、ノズル形成面を払拭するためのワイパー部材12とが配置されている。そして、プリンター1は、このホームポジションから反対側の端部へ向けてキャリッジ4が移動する往動時と、反対側の端部からホームポジション側にキャリッジ4が戻る復動時との双方向で記録紙6上に文字や画像等を記録する所謂双方向記録が可能に構成されている。
【0019】
プラテン5は、記録動作を行う際の記録ヘッド2のノズル形成面に対して間隔を空けて配置された主走査方向に長尺な板状の部材であり、その表面には長手方向に沿って所定の間隔で複数の支持突起5aが突設されている。各支持突起5aはプラテン面よりも上方(記録動作時における記録ヘッド2側)へ突出している。各支持突起5aの上面は、記録紙6を支える当接面となり、記録紙6の背面(インクが着弾する記録面とは反対側の面)を部分的に支える。また、プラテン5の表面であって、各支持突起5aから外れた部分には、インク吸収材5bが配設されている。このインク吸収材5bは、例えばフェルトやウレタンスポンジ等で作製された吸液性を有する多孔質部材から成る。そして、プラテン5の少なくとも一部は、導電性を有する材料から構成される。例えば、プラテン5本体の材料にカーボン等の導電性材料を含ませることでプラテン5に導電性を持たせる。或いは、インク吸収材5bの材料に導電性材料を含ませることでインク吸収材5bを導電性としても良い。本実施形態では、プラテン5本体の全体に導電性材料を含ませて形成している。そして、プラテン5には、後述する電圧生成部58からの電圧が印加されるように構成されている。この点の詳細については後述する。
【0020】
図2は、記録ヘッド2の構成を説明する要部断面図である。この記録ヘッド2は、ケース16と、このケース16内に収納される振動子ユニット17と、ケース16の底面(先端面)に接合される流路ユニット18と、カバー部材45等を備えている。上記のケース16は、例えば、エポキシ系樹脂により作製され、その内部には振動子ユニット17を収納するための収納空部19が形成されている。振動子ユニット17は、圧力発生手段の一種として機能する圧電振動子20と、この圧電振動子20が接合される固定板21と、圧電振動子20に駆動信号を供給するフレキシブルケーブル22とを備えている。
【0021】
図3は、振動子ユニット17の構成を説明する素子長手方向の断面図である。同図に示すように、この圧電振動子20は、共通内部電極39と個別内部電極40とで、圧電体41を挟んで交互に積層して形成された積層型の圧電振動子20である。ここで、共通内部電極39は、全ての圧電振動子20に共通な電極であり、接地電位に設定される。また、個別内部電極40は、印加される駆動信号の噴射駆動パルスDPに応じて電位が変動する電極である。そして、本実施形態では、圧電振動子20における振動子先端から振動子長手方向(積層方向とは直交する方向)の半分程度まで若しくは3分の2程度までの部分が自由端部20aとなっている。また、圧電振動子20における残りの部分、即ち、自由端部20aの基端から振動子基端までの部分が基端部20bとなっている。
【0022】
自由端部20aには、共通内部電極39と個別内部電極40とが重なり合った活性領域(オーバーラップ部分)Aが形成されている。これらの内部電極に電位差を与えると、活性領域Aの圧電体41が作動して変形し、自由端部20aが振動子長手方向に変位して伸縮する。そして、共通内部電極39の基端は、圧電振動子20の基端面部で共通外部電極42に導通している。一方、個別内部電極40の先端は、圧電振動子20の先端面部で個別外部電極43に導通している。なお、共通内部電極39の先端は圧電振動子20の先端面部よりも少し手前(基端面側)に位置しており、個別内部電極40の基端は自由端部20aと基端部20bの境界に位置している。
【0023】
個別外部電極43は、圧電振動子20の先端面部と、圧電振動子20における積層方向の一側面である配線接続面(図3における上側の面)とに一連に形成された電極であり、配線部材としてのフレキシブルケーブル22の配線パターンと各個別内部電極40とを導通する。そして、この個別外部電極43の配線接続面側の部分は、基端部20b上から先端側に向けて連続的に形成されている。共通外部電極42は、圧電振動子20の基端面部と、上記の配線接続面と、圧電振動子20における積層方向の他側面である固定板取付面(図3における下側の面)とに一連に形成された電極であり、フレキシブルケーブル22の配線パターンと各共通内部電極39との間を導通する。そして、この共通外部電極42における配線接続面側の部分は個別外部電極43の端部よりも少し手前から基端面部側に向けて連続的に形成されており、固定部取付面側の部分は振動子の先端面部よりも少し手前の位置から基端側に向けて連続的に形成されている。
【0024】
上記の基端部20bは、活性領域Aの圧電体41の作動時においても伸縮しない非作動部である。この基端部20bの配線接続面側にはフレキシブルケーブル22が配置されており、基端部20b上で個別外部電極43及び共通外部電極42とフレキシブルケーブル22とが電気的に接続される。そして、このフレキシブルケーブル22を通して駆動信号が各個別外部電極43に印加される。
【0025】
流路ユニット18は、流路形成基板23の一方の面にノズルプレート24を、流路形成基板23の他方の面に振動板25をそれぞれ接合して構成されている。この流路ユニット18には、リザーバー26(共通液室)と、インク供給口27と、圧力室28と、ノズル連通口29と、ノズル30とが設けられている。そして、インク供給口27から圧力室28及びノズル連通口29を経てノズル30に至る一連のインク流路が、各ノズル30に対応して形成されている。
【0026】
上記ノズルプレート24は、ドット形成密度に対応したピッチ(例えば180dpi)で複数のノズル30が列状に穿設されたステンレス等の金属製の薄いプレートである。このノズルプレート24には、ノズル30を列設してノズル列(ノズル群)が複数設けられており、1つのノズル列は、例えば180個のノズル30によって構成される。このノズルプレート24のノズル30からインクが噴射される側の面が、本発明におけるノズル形成面に相当する。
【0027】
上記振動板25は、支持板31の表面に弾性体膜32を積層した二重構造である。本実施形態では、金属板の一種であるステンレス板を支持板31とし、この支持板31の表面に樹脂フィルムを弾性体膜32としてラミネートした複合板材を用いて振動板25を作製している。この振動板25には、圧力室28の容積を変化させるダイヤフラム部33が設けられている。また、この振動板25には、リザーバー26の一部を封止するコンプライアンス部34が設けられている。
【0028】
上記のダイヤフラム部33は、エッチング加工等によって支持板31を部分的に除去することで作製される。即ち、このダイヤフラム部33は、圧電振動子20の自由端部20aの先端面が接合される島部35と、この島部35を囲む薄肉弾性部とからなる。上記のコンプライアンス部34は、リザーバー26の開口面に対向する領域の支持板31を、ダイヤフラム部33と同様にエッチング加工等によって除去することにより作製され、リザーバー26に貯留された液体の圧力変動を吸収するダンパーとして機能する。
【0029】
そして、上記の島部35には圧電振動子20の先端面が接合されているので、この圧電振動子20の自由端部20aを伸縮させることで圧力室28の容積を変動させることができる。この容積変動に伴って圧力室28内のインクに圧力変動が生じる。そして、記録ヘッド2は、この圧力変動を利用してノズル30からインクを噴射させるようになっている。
【0030】
カバー部材45は、流路ユニット18の側面やヘッドケース16の側面を保護する部材であり、ステンレス鋼等の導電性を有する板材から作製されている。本実施形態におけるカバー部材45の一部は、ノズルプレート24のノズル30を露出させた状態でノズル形成面の周縁部に当接しており、当該ノズルプレート24に対して電気的に導通している。カバー部材45は接地されており、ノズルプレート24に接触して導通することで、例えば、記録紙6等から発生した静電気がノズルプレート24を通じて伝達することによる駆動IC等の損傷やノズルプレート24の帯電を防止するようになっている。
【0031】
次に、プリンター1の電気的構成を説明する。
図4は、プリンター1の電気的な構成を説明するブロック図である。外部装置50は、例えばコンピューターやデジタルカメラなどの画像を取り扱う電子機器である。この外部装置50は、プリンター1と通信可能に接続されており、プリンター1において記録紙6等の記録媒体に画像やテキストを印刷させるため、その画像等に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0032】
本実施形態におけるプリンター1は、搬送機構8、キャリッジ移動機構7、リニアエンコーダー10、記録ヘッド2、プラテン5、及び、プリンターコントローラー51を有する。
【0033】
プリンターコントローラー51は、プリンター1の各部の制御を行うための制御ユニットであり、インターフェース(I/F)部54と、CPU55と、記憶部56と、駆動信号生成部57と、電圧生成部58と、を有する。インターフェース部54は、外部装置50からプリンター1へ送信される印刷データや印刷命令を受信したり、外部装置50にプリンター1の状態情報を送信したりする等、プリンター1とのデータの送受信を行う。CPU55は、プリンター1全体の制御を行うための演算処理装置である。記憶部56は、CPU55のプログラムや各種制御に用いられるデータを記憶する素子であり、ROM、RAM、NVRAM(不揮発性記憶素子)を含む。CPU55は、記憶部56に記憶されているプログラムに従って、各ユニットを制御する。
【0034】
CPU55は、リニアエンコーダー10から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段として機能する。そして、CPU55は、このタイミングパルスPTSに同期させて印刷データの転送や、駆動信号生成部57による駆動信号COMの生成等を制御する。また、CPU55は、タイミングパルスPTSに基づいて、ラッチ信号LAT等のタイミング信号を生成して記録ヘッド2のヘッド制御部53に出力する。ヘッド制御部53は、プリンターコントローラー51からのヘッド制御信号(印刷データおよびタイミング信号)に基づき、記録ヘッド2の圧電振動子20に対する駆動信号COMの噴射駆動パルスDPの印加制御等を行う。
【0035】
電圧生成部58(本発明における電界形成手段に相当)は、プラテン5に印加する電圧を生成する電源として機能する。上記のようにノズルプレート24は接地されているので、プラテン5に電圧を印加すると、プラテン5とノズルプレート24との間に当該プラテン5およびノズルプレート24間の距離に応じた電界が形成される。本実施形態においては、プラテン5に正極性(プラス)の電圧を印加することにより、プラテン5(記録紙6)から記録動作時における記録ヘッド2のノズル形成面に向かう電界を形成している。そして、ノズル30から噴射するインクの導電率をX(mS/cm)としたとき、プラテン5からノズル形成面へ向かう電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすように設定されている。なお、これについては、後で詳述する。
−16×ln(X)+62≦E …(1)
【0036】
駆動信号生成部57は、駆動信号の波形に関する波形データに基づいて、アナログの電圧信号を生成する。また、駆動信号生成部57は、上記の電圧信号を増幅して駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録媒体に対する印刷処理(記録処理或いは噴射処理)時に記録ヘッド2の圧力発生手段である圧電振動子20に印加されるものであり、繰り返し周期である単位期間内に、噴射駆動パルスDPを少なくとも1つ以上含む一連の信号である。ここで、噴射駆動パルスDPとは、記録ヘッド2のノズル30から液滴状のインクを噴射させるために、圧電振動子20に所定の動作を行わせるものである。
【0037】
圧電振動子20は、噴射駆動パルスDPが印加されると、自由端部20aを振動子長手方向に伸縮させる。これにより、圧力室28の容積を変動させ、圧力室28内の圧力を変化させる。この圧力変動を利用することで、ノズル30から数pl〜数十plのインク滴を噴射する。
【0038】
本発明に係るプリンター1では、プラテン5からノズル形成面へ向かう電界を形成しているため、ノズル30から噴射された直後のインク滴はマイナスに帯電する。詳しく説明すると、図5(a)に示すように、ノズル30から噴射されたインクは、プラテン5からノズル形成面へ向かう電界の中を記録紙6(プラテン5)に向けて伸びる。このため、ノズル30から伸びたインクは、静電誘導によりマイナスの電荷が誘導される。一方で、噴射されずにノズル30内に留まっているインクは、プラスの電荷が誘導される。或いは、接地されたノズルプレートへプラスの電荷を逃がす。そして、図5(b)に示すように、ノズル30から噴射されたインクが、例えばメイン液滴Mdと、サテライト液滴Sdとに分離した場合、これらのインク滴はマイナスに帯電する。インク滴は、噴射時の慣性力とプラテン5からの静電気力が作用するため、これらの合力により記録紙6に引き寄せられて着弾する。
【0039】
ところが、これらのインク滴は、記録紙6に向けて飛翔している間に、レナード効果によりプラスの帯電が強まる。例えば、インク滴のマイナスの帯電量が小さい場合、これらは飛翔している間にプラスに帯電するおそれがあり、プラテン5に反発して、記録紙6に着弾する前に失速して浮遊(ミスト化)するおそれがあった。そして、ミスト化したインク滴は、マイナスに帯電した部材に引き寄せられ、これに付着するおそれがあった。特に、プリンター内の構成部品(例えば、駆動ベルト、リニアスケールなど)は、一般的には、帯電列においてマイナスに帯電し易い素材(例えば、PU(ポリウレタン)、PVC(ポリ塩化ビニール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)等)が用いられるため、空気や他の構成部品との摩擦によりマイナスに帯電し易く、インク滴が付着し易い。
【0040】
このような不具合を無くすため、レナード効果によるインク滴の帯電量に比べて、静電誘導によるノズル30から噴射された直後のインク滴の帯電量を同等以上にし、インク滴がプラスに帯電しないようにする必要がある。ここで、静電誘導による帯電量は、ノズル形成面とプラテン5との間の電界の強さ、およびインクの導電率により決まる。一方、レナード効果によるインク滴の帯電量は、インクの導電率により決まる。
【0041】
図6に、ノズル形成面とプラテン5との間の電界と、着弾対象(記録紙6)に着弾したときのインク滴の帯電量との関係を示す。グラフの横軸は電界の強さ(V/mm)を表し、縦軸はインク滴の帯電量(C)を表している。なお、便宜上、ノズル形成面とプラテン5との間の電界の強さは、プラテン5からノズル形成面に向かう方向を正(プラス)とする。また、グラフの○はインク(インク滴)の導電率が1(μS/cm)の場合、△はインクの導電率が2(mS/cm)の場合、□はインクの導電率が20(mS/cm)の場合、×はインクの導電率が55(mS/cm)の場合をそれぞれ表し、同じ導電率を表す点をそれぞれ線で繋いでいる。このグラフに示すように、電界が0のとき、各導電率におけるインク滴の帯電量は、それぞれプラスになることが分かる。これは、レナード効果によるものである。また、電界がプラス側に強くなるほど、インク滴の帯電量がマイナスに近づく傾向があることが分かる。これは、静電誘導によるものである。そして、同じ導電率を表す点を繋いだ線と帯電量が0(C)の横軸との交点の値を、図7に表している。
【0042】
すなわち、図7に示す点は、ノズル30から噴射するそれぞれのインク滴の導電率において、着弾時のインク滴の帯電量が0(C)になる場合のノズル形成面とプラテン5との間の電界の強さを示している。グラフの横軸はインク滴の導電率(mS/cm)を表し、縦軸は電界の強さ(V/mm)を表している。なお、図6と同様に、便宜上、ノズル形成面とプラテン5との間の電界の強さは、プラテン5からノズル形成面に向かう方向を正(プラス)とする。そして、グラフに示す曲線は、それぞれの値がほぼあてはまる近似曲線を示している。すなわち、この近似曲線は、インク滴の帯電量が0(C)になる曲線を表している。そして、この近似曲線は、横軸をx、縦軸をyとすると、以下の式(2)によって表すことができる。
y=−16×ln(x)+62 …(2)
【0043】
ここで、着弾時におけるインク滴の帯電量がプラスにならないようにするためには、ノズル形成面とプラテン5との間の電界の強さを、上記式(2)で求まるyの値以上(図7に示す近似曲線以上の領域)にすれば良い。すなわち、前記した式(1)を満たせば良い。
−16×ln(X)+62≦E …(1)
例えば、ノズル30から噴射するインクの導電率が10(mS/cm)の場合、着弾時におけるインク滴の帯電量をマイナスにするためには、プラテン5(記録紙6)からノズル形成面に向かう電界の強さを約25.2(V/mm)以上にする必要がある。一般的なプリンター1は、記録紙6とノズル形成面との距離が約1.5〜1.7(mm)程度であるため、プラテン5に印加する電圧を約43(V)以上にすれば、インク滴がプラスに帯電することを確実に防止できる。
【0044】
そして、本発明に係るプリンター1では、ノズル30から噴射するインクの導電率をX(mS/cm)としたとき、プラテン5からノズル形成面へ向かう電界の強さE(V/mm)が上記した式(1)を満たすように設定されているため、ノズル30から噴射されたインク滴がプラスに帯電することを確実に防止できる。これにより、一般的にマイナスに帯電し易いプリンター1内の構成部品(例えば、駆動モーター、駆動ベルト、リニアスケールなど)へのインク滴の付着をより確実に防止できる。その結果、ミストの付着による故障が抑制され、プリンター1の耐久性および信頼性が向上する。また、プラテン5にプラスの電圧を印加することにより電界を形成したので、マイナスに帯電したインク滴を記録紙6或いはプラテン5に確実に着弾させることができ、液滴のミスト化をより確実に防ぐことができる。これにより、プリンター1内の構成部品へのインク滴の付着を一層確実に防止できる。例えば、数pl(数ng)の微小なインク滴を噴射する場合や、記録紙6の記録面に対して余白無く画像等の記録を実行する記録方法(所謂縁無し印刷)を行う場合においても、ノズル30から噴射されたインク滴(主にメイン液滴)が、プラテン5または記録紙6に対してより確実に着弾する。具体的には、プラテン5に電圧を印加して当該プラテン5と記録ヘッド2のノズル形成面との間に電界が形成された状態でノズル30からインクを噴射することで、噴射されたインク滴に対して静電誘導を生じさせ、当該インク滴を静電気力により記録紙6に誘引してより確実に着弾させる。また、記録紙6から大きく外れた位置で噴射されたこと等により、記録紙6に着弾しない場合には、プラテン5に誘引してより確実に着弾させる。これにより、インク滴のミスト化をより確実に防ぐことができる。
【0045】
ところで、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて種々の変形が可能である。
【0046】
上記実施形態では、プラテン5にプラスの電圧を印加し、ノズルプレートを接地することで、ノズル30から噴射されるインクがマイナスに帯電する場合の構成を例示したが、これには限られない。例えば、プラテン5を接地し、ノズルプレートにプラスの電圧を印加することで、ノズル30から噴射されるインクをマイナスに帯電することもできる。この場合も、ノズル30から噴射するインクの導電率をX(mS/cm)としたとき、プラテン5からノズル形成面へ向かう電界の強さE(V/mm)が上記した式(1)を満たすようにノズルプレートに電圧を印加する。
【0047】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂縦振動型の圧電振動子20を例示したが、これには限られず、例えば、所謂撓み振動型の圧電振動子を採用することも可能である。この場合、駆動信号(噴射駆動パルスDP)の波形に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。その他、圧力発生手段としては、発熱によりインクを突沸させることで圧力変動を生じさせる発熱素子や、静電気力により圧力室の区画壁を変位させることで圧力変動を生じさせる静電アクチュエーターなど、電圧の印加により駆動される圧力発生手段を採用する構成においても本発明を適用することが可能である。
【0048】
さらに、本発明は、圧力発生手段を用いて液体の噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0049】
1…プリンター,2…記録ヘッド,5…プラテン,6…記録紙,20…圧電振動子,24…ノズルプレート,28…圧力室,30…ノズル,58…電圧生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記支持手段から前記ノズル形成面に向かう電界を形成する電界形成手段と、
を備え、
前記液体の導電率をX(mS/cm)としたとき、前記電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすことを特徴とする液体噴射装置。
−16×ln(X)+62≦E …(1)
【請求項2】
前記電界形成手段は、前記支持手段に正極性の電圧を印加することにより電界を形成することを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
液体を噴射するノズルが形成されたノズル形成面、および、圧力室内の液体に圧力変動を生じさせる圧力発生手段を有し、当該圧力発生手段の駆動により前記ノズルから着弾対象に向けて液体を噴射させる液体噴射ヘッドと、
噴射動作を行う際の前記液体噴射ヘッドのノズル形成面に対して間隔を空けて配置され、前記着弾対象を支持する支持手段と、
前記支持手段から前記ノズル形成面に向かう電界を形成する電界形成手段と、
を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記液体の導電率をX(mS/cm)としたとき、前記電界の強さE(V/mm)が以下の式(1)を満たすことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
−16×ln(X)+62≦E …(1)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−240349(P2012−240349A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−114367(P2011−114367)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】