説明

液体噴射装置、及び、その制御方法

【課題】液体流路内に存在する気泡の排出性を向上させることが可能な液体噴射装置、及び、その制御方法を提供する。
【解決手段】プリンターコントローラーは、圧電素子を駆動してインク流路中の気泡を除去するための気泡除去フラッシング処理用駆動パルスを含む気泡除去フラッシング用駆動信号を発生し、加熱機構によるインク流路内のインクの加熱が行われる前に、気泡除去フラッシング用駆動信号を用いて記録ヘッドの噴射能力を回復させるための気泡除去フラッシング処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置、及び、その制御方法に関するものであり、特に、液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるメンテナンス処理を行う液体噴射装置、及び、その制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、液体噴射装置は、ノズルから液体を噴射可能な液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録用紙等の記録媒体(着弾対象)に対して噴射・着弾させることで画像やテキスト等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。
【0003】
ここで、上記インクジェット式プリンター(以下、単にプリンターと略記する)を例に挙げると、このプリンターは、リザーバーから圧力室を通りノズルに至る一連のインク流路や、圧力室の容積を変動させるための圧力発生手段(例えば、圧電素子)等を有する記録ヘッドを搭載し、また、圧力発生手段を駆動するための駆動信号を発生する駆動信号発生手段等を備えている。そして、駆動信号に含まれる駆動パルスを圧電素子に印加して圧力室内のインクに圧力変動を生じさせ、この圧力変動を利用してノズルからインクを噴射するように構成されている。このようなインクジェット方式を採用するプリンターでは、圧力室等のインク流路内に気泡が混入し、この気泡により圧力変化が吸収される等して、インクが噴射されなかったり(所謂ドット抜け)、噴射されたインクの飛翔方向が曲がったりする等の噴射不良が生じる場合がある。
【0004】
このため、上記噴射不良を防止してインクの噴射を良好に維持するために、種々のメンテナンス処理に関する技術が提案されてきた。例えば、ノズルをキャップで一時的に封止して、この封止状態でキャップ内部を負圧にすると共に、噴射駆動パルスを圧電素子に印加して圧力室内のインクに圧力変動を生じさせてインクの空噴射を行い、増粘インクや気泡を強制的に排出させるクリーニング処理が行われている。しかしながら、上記のクリーニング処理を実行しても気泡を完全に除去することは困難であった。なお、空噴射とは、プリンターの本来の目的である記録媒体に対する画像等の印刷のためにインクを噴射することとは別に、記録ヘッドの噴射特性を正常な状態(設計・仕様上、目標とする噴射特性に近い状態)に回復することを目的としてインクを噴射することである。
【0005】
そこで、この種のプリンターでは、上記のクリーニング処理とは別に、ノズルからインクを強制的に噴射させるメンテナンス処理としてフラッシング処理を行っている。具体的には、上記のクリーニング処理を行った後や、インクカートリッジを交換した時の初期充填を行った後、或いは、印刷処理中(記録動作中)において所定の印刷単位毎、例えば一定時間印刷する毎、所定回数のパス(記録ヘッドの走査)を行う毎、又は、所定のページ数を印刷する毎に、記録媒体から外れた位置にあるインク受け部材まで記録ヘッドを移動させ、その位置でインクを繰り返し空噴射させるようにしている。このフラッシング処理には、ノズル近傍で増粘したインクを排出することを主な目的としてインクを空噴射させる増粘インク排出用フラッシング処理の他に、インク中の気泡を除去することを主眼とした気泡除去フラッシング処理等がある(例えば、特許文献1)。
【0006】
一方、近年において上記液体噴射装置は、常温(例えば、15〜25℃)における粘度が30〜40mPas程度の液体(以下、高粘度液体)を噴射する用途にも用いられる場合がある。この高粘度のインクは、記録紙上で滲みにくいため記録画像の濃度にムラが生じ難く乾燥も早いという利点がある。また、紫外線を照射することで硬化する紫外線硬化型インクや液晶等も高粘度液体の一種である。このような高粘度液体を記録ヘッドのノズルから噴射する場合、噴射されるインクの量(重量・体積)や飛翔速度などの噴射特性がインクの粘度に左右されるため、安定した噴射特性を確保するべく、加熱手段によってインクを加熱することにより粘度を低下させてから噴射を行う構成が提案されている(例えば、特許文献2又は特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−073074号公報
【特許文献2】特開2003−182103号公報
【特許文献3】特開2006−334967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のようにインク等の高粘度液体を加熱する構成において、液体の温度が高温(例えば、40℃以上)である状態で、上記の気泡除去フラッシング処理を行うと、常温時と比較して液体に対する気泡の溶解度が低下するので、却ってインク中に気泡を生じさせてしまう虞があった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、メンテナンス処理における気泡の排出性を向上させることが可能な液体噴射装置、及び、その制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生可能に構成され、
前記加熱手段による前記液体流路内の液体の加熱が行われる前に、前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うことを特徴とする。
なお、「気泡を除去する」とは、液体流路中の気泡を液体内に溶解させる現象を含め、ノズルからの液体の噴射によって液体と共に気泡をノズルから排出させる現象を意味する。
【0011】
本発明によれば、加熱手段による液体流路内の液体の加熱が行われる前に、液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うので、液体に対する気泡の溶解をより確実に促進させ、より確実に気泡を除去することができる。これにより、その後の印刷処理等の噴射動作においては液体中の気泡残存量を低減させた状態で液体の噴射を安定して行うことができ、気泡による噴射不良を防止することができる。また、液体が高温である状態でメンテナンス処理を行う場合と比較して、液中の気泡を除去するために必要な、圧力発生手段に印加するメンテナンスパルスの総数を低減することができるので、メンテナンス処理に要する時間を短縮することが可能となる。
【0012】
また、本発明は、液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生可能に構成され、
前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うときの前記液体流路内の液体の温度が、前記着弾対象に対して液体を噴射する際の前記液体流路内の液体の温度よりも低くなるように前記加熱手段を制御することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、メンテナンス処理を行うときの液体流路内の液体の温度が、着弾対象に対して液体を噴射する際の液体流路内の液体の温度よりも低くなるように加熱手段を制御するので、メンテナンス処理によって液体に対する気泡の溶解をより確実に促進させ、より確実に気泡を除去することができる。これにより、その後の印刷処理等の噴射動作においては液体中の気泡残存量を低減させた状態で液体の噴射を安定して行うことができ、気泡による噴射不良を防止することができる。また、液体が高温である状態でメンテナンス処理を行う場合と比較して、液中の気泡を除去するために必要な、圧力発生手段に印加するメンテナンスパルスの総数を低減することができるので、メンテナンス処理に要する時間を短縮することが可能となる。
【0014】
上記構成において、液体を貯留した液体貯留部材、および、当該液体貯留部材内の液体を前記液体噴射ヘッドに供給する供給手段を備え、
前記加熱手段は、前記液体貯留部材側から前記液体噴射ヘッド側に供給される液体を直接的又は間接的に加熱する供給側加熱部と、前記液体噴射ヘッドの液体流路内の液体を直接的又は間接的に加熱するヘッド側加熱部と、から成り、
前記制御手段は、メンテナンス処理を行う際に、前記供給側加熱部を加熱状態にする一方、前記ヘッド側加熱部を非加熱状態にする構成を採用することが望ましい。
【0015】
この構成によれば、液体貯留部材から液体噴射ヘッドへの液体の供給容易性を確保しつつも、液体噴射ヘッドの圧力室やノズルに液体が到達するまでの間に液体の温度が低下するので、メンテナンス処理時には少なくともヘッド側加熱部によって液体を加熱する場合よりも液体に対する気泡が溶解し易い状態となり、液中の気泡を十分に排出させることができる。
【0016】
さらに、上記構成において、前記メンテナンスパルスは、前記圧力発生手段を駆動させることによって、電位が第1の方向に変化して前記圧力室の容積を変化させる第1の変化部と、当該第1の変化部の後端電位を一定時間維持して第1の変化部により変化させられた圧力室の容積を維持するホールド部と、前記第1の変化部の後端電位から前記第1の方向とは反対側の第2の方向に電位が変化して前記圧力室の容積を変化させる第2の変化部とを含み、着弾対象に対して前記液体を噴射するための噴射駆動パルスよりも前記圧力室内の圧力変化が高まるように設定される構成を採用することが望ましい。
【0017】
また、本発明は、液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生し、
前記加熱手段による前記液体流路内の液体の加熱処理を実行する前に、前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うことを特徴とする。
【0018】
そして、本発明は、液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生し、
前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うときの前記液体流路内の液体の温度が、前記着弾対象に対して液体を噴射する際の前記液体流路内の液体の温度よりも低くなるように前記加熱手段を制御することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】プリンターの構成を説明する平面図である。
【図2】記録ヘッドの分解斜視図である。
【図3】ヘッドユニットの要部断面図である。
【図4】プリンターの電気的構成を説明するブロック図である。
【図5】気泡除去フラッシング用駆動信号の構成を説明する波形図である。
【図6】プリンターの動作について説明するフローチャートである。
【図7】変形例における記録ヘッドとプラテン周辺の構成を説明する断面図である。
【図8】変形例における記録ヘッド、インクカートリッジ、及びインクの供給系の構成を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0021】
図1は、本発明に係るプリンター1の構成を示す平面図である。このプリンター1は、外郭の一部を構成するフレーム1′と、このフレーム1′内に配設されたプラテン3とを備えており、紙送り機構8(図4参照)における紙送りモーターの駆動により回転する紙送りローラ(何れも図示せず)によってプラテン3上に記録用紙(記録媒体又は着弾対象の一種:図示せず)が搬送されるようになっている。また、フレーム1′内には、プラテン3と平行にガイドロッド4が架設されており、このガイドロッド4には、インクジェット式記録ヘッド2(液体噴射ヘッドの一種。以下、記録ヘッド)を収容したキャリッジ5が摺動可能に支持されている。このキャリッジ5は、キャリッジ移動モーター9の駆動によって回転する駆動プーリー10aと、この駆動プーリー10aとはフレーム1′における反対側に設けられた遊転プーリー10bとの間に架設されたタイミングベルト11に接続されている。そして、キャリッジ5は、キャリッジ移動モーター9を駆動することで、ガイドロッド4に沿って紙送り方向と直交する主走査方向に往復移動するように構成されている。即ち、これらのキャリッジ移動モーター9、駆動プーリー10a、遊転プーリー10b、及び、タイミングベルト11によりキャリッジ移動機構7(図4参照)が構成されている。
【0022】
キャリッジ移動モーター9は、キャリッジ移動機構7における駆動源として機能し、例えば、パルスモーターやDCモーターが用いられる。このキャリッジ移動モーター9は、制御手段として機能する制御部57(図4参照)により、その回転速度や回転方向等が制御される。そして、キャリッジ移動モーター9が回転すると、駆動プーリー10a及びタイミングベルト11が回転し、キャリッジ5がガイドロッド4に沿って移動する。つまり、キャリッジ4に搭載された記録ヘッド2は、制御部57による制御の下で主走査方向に往復移動される。なお、キャリッジ5の走査位置については、走査位置に応じたエンコーダーパルスを主走査方向における位置情報として出力するリニアエンコーダー56(図4参照)によって把握することができる。
【0023】
フレーム1′の一方側には、インクカートリッジ6(液体貯留部材の一種)が着脱可能に搭載されており、本実施形態では合計4個のインクカートリッジ6が設けられる。このインクカートリッジ6は、エアチューブ12を介してエアポンプ13(供給手段の一種)と接続されており、このエアポンプ13からの空気が各インクカートリッジ6内に供給される。そして、この空気によるインクカートリッジ6内の加圧により、インク供給チューブ14を通じて記録ヘッド2側にインクが供給(圧送)されるように構成されている。インク供給チューブ14は、例えば、シリコーン等の合成樹脂で作製された可撓性を有する中空部材であり、このインク供給チューブ14の内部には、各インクカートリッジ6に対応するインク流路が形成されている。
【0024】
キャリッジ5の移動範囲内であってプラテン3とインクカートリッジ6の間の領域には、ホームポジションが設定されている。記録ヘッド2は、待機状態においてホームポジションに位置付けられる。このホームポジションには、非記録状態において記録ヘッド2のノズル形成面(ノズルプレート38)を封止可能なキャッピング機構15が配設されている。このキャッピング機構15は、後述するメンテナンス処理である気泡除去フラッシング処理においてノズル37から排出されたインク等を受けるフラッシングポイントとしても機能する。
【0025】
図2は、記録ヘッド2の構成の一例を説明する分解斜視図である。この記録ヘッド2は、上記のインクカートリッジ6に貯留されたインク(本発明における液体の一種であり、高粘度液体の一種。)をヘッド内部に導入するインク導入針17が複数配設された導入針ユニット16と、圧電素子18(図3参照)を有する圧力発生ユニット19及び流路ユニット20から成るヘッドユニット21とを、ヘッドケース22に備えて概略構成される。また、この記録ヘッド2において、ヘッドケース22の先端側(導入針ユニット16の接合面とは反対側)には、ヘッドユニット21を保護すると共に、ノズルプレート38を接地するための金属製のヘッドカバー23が取り付けられるようになっている。
【0026】
導入針ユニット16は、インク導入針17がヘッド主走査方向(ノズル列直交方向)に横並びに配設された合成樹脂製の部材である。この導入針ユニット16に配設されるインク導入針17は、先端部が円錐状に尖った中空円筒状の部材である。このインク導入針17の先端部には、インク導入針17の内部流路に連通する導入孔(図示せず)が開設されており、この導入孔を通じてインクカートリッジ6からインク供給チューブ14を通じて供給されるインクが記録ヘッド2のインク流路(液体流路)に導入される。
【0027】
ヘッドケース22は、上記導入針ユニット16や駆動基板24が取り付けられるベース部22aと、このベース部22aの底部から下方に向けて延出し、開口面にヘッドユニット21が取り付けられる中空箱体状のケース部22bとにより構成される部材である。そして、ヘッドケース22のベース部22aには、導入針ユニット16から導入されたインクを後述するリザーバーに供給するインク供給路25の上部開口が、導入針ユニット16の各インク導入針17に対応した位置にそれぞれ開設されている。また、ベース部22aには、駆動基板24を配設するための基板配置部26が区画されている。
【0028】
上記駆動基板24は、コネクタ24aを備えており、このコネクタ24aには、プリンター本体側からのFFC(フレキシブルフラットケーブル)等の配線ケーブル27(図1参照。)が接続されるようになっている。また、駆動基板24には、接続用端子24bが形成されており、この接続用端子24bには、TCP(テープキャリアパッケージ)等のフィルム状のフレキシブルケーブル28が電気的に接続される。そして、この駆動基板24は、プリンター本体側からの駆動信号を、配線ケーブル27を通じて受けると共に、この駆動信号を、フレキシブルケーブル28を介して圧力発生ユニット19の圧電素子18に供給するようになっている。
【0029】
図3は、上記ヘッドユニット21の構成を説明する要部断面図である。本実施形態におけるヘッドユニット21は、流路ユニット20の上面(アクチュエータ載置面)に圧力発生ユニット19を積層した状態で一体化して構成されている。流路ユニット20は、オリフィスとして機能するインク供給口31及びノズル連通口32の一部となる通孔32bが形成された供給口プレート33と、インク導入針17側からのインクが供給されるリザーバー34(共通液体室)及びノズル連通口32の一部となる通孔32cが形成されたリザーバープレート35と、ノズル37が開設されたノズルプレート38とから構成されている。このノズルプレート38には、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル37が列状に開設されており、本実施形態においては、このノズル列(ノズル群の一種)が、主走査方向に4列並設されている。そして、流路ユニット20は、リザーバープレート35の一方の面にノズルプレート38を、他方の面に供給口プレート33をそれぞれ配置し、これらの部材の間を接合して構成されている。そして、この流路ユニット20は、リザーバー34からノズル37に至るまでのインク流路(液体流路)を形成している。
【0030】
圧力発生ユニット19は、圧力室39となる通孔を開設した圧力室プレート40と、圧電素子18が複数横並びに実装されると共に圧力室39の一部を区画する振動子プレート41と、供給側連通口42となる通孔及びノズル連通口32の一部となる通孔32aを形成した連通口プレート43とを積層した状態で備えている。これらの圧力室プレート40、振動子プレート41、及び、連通口プレート43は、アルミナや酸化ジルコニウム等のセラミックスで作製されており、焼成によって一体化される。
【0031】
上記の圧力室39は、ノズル列に直交する方向に細長い空部となっており、ノズル37に対応して複数形成されている。そして、各圧力室39の一端側は、供給側連通口42及びインク供給口31を通じてリザーバー34に連通している。また、供給側連通口42とは反対側の圧力室39の他端側は、ノズル連通口32を通じてノズル37に連通している。この圧力室39の一部、即ち、連通口プレート43とは反対側となる面は、振動子プレート41によって区画されている。
【0032】
圧力室39とは反対側となる振動子プレート41の外側表面には、各圧力室39にそれぞれ対応した状態で複数の圧電素子18が配設される。例示した圧電素子18(圧力発生手段の一種)は所謂撓み振動モードの振動子であり、駆動電極18aと共通電極18bとによって圧電体18cを挟んで構成されている。そして、圧電素子18の駆動電極に駆動信号(駆動パルス)が印加されると、駆動電極18aと共通電極18bとの間には電位差に応じた電場が発生する。この発生した電場の強さに応じて圧電体18cが変形する。即ち、駆動電極18aの電位を高くする程、圧電体層20cは電場と直交する方向に収縮し、圧力室39の容積を少なくするように振動子プレート41を変形させる。
【0033】
本実施形態におけるヘッドユニット21のリザーバー34には、シーズヒーター等からなる発熱体45が配設されている。また、リザーバー34内には、図示しないサーミスター等の温度検出部が設けられており、これらの発熱体45および温度検出部により加熱機構47(図4参照)が構成される。加熱機構47(本発明における加熱手段の一種)は、プリンターコントローラー51に接続されており、リード線46を通じて発熱体45に通電されることで当該発熱体46が発熱し、これによりリザーバー34内のインクが加熱されるように構成されている。また、リザーバー34内のインクの温度は温度検出部により検出され、プリンターコントローラー51によって把握される。そして、加熱機構47は、例えば、常温(20℃前後)における粘度が30〜40mPa・sの光硬化型インク等の高粘度インクを所定の温度(例えば、40℃)まで加熱することにより、粘度を5〜15mPa・sまで低下させる。このように記録ヘッド2では、加熱機構47によりインクの粘度を噴射に適した値まで低下させてからノズル37から噴射するので、安定した噴射特性(インク重量、飛翔速度等)を得られることができる。なお、本発明に係るプリンター1は、光硬化型インク以外の水系及び溶剤系インクにおける高粘度のインクにも対応することができる。
【0034】
図4はプリンター1の電気的な構成を示すブロック図である。このプリンター1は、プリンターコントローラー51とプリントエンジン52とで概略構成されている。プリンターコントローラー51は、本発明における制御手段に相当し、記録ヘッド2の圧電素子18を駆動するための駆動パルスを含む駆動信号を発生し、当該駆動パルスの電位変化によって圧電素子18を変形駆動させる。このプリンターコントローラー51は、ホストコンピュータ等の外部装置からの印刷データ等が入力される外部インターフェース(外部I/F)53と、各種データ等を記憶するRAM54と、各種データ処理のための制御ルーチン等を記憶したROM55と、各部の制御を行う制御部57と、クロック信号を発生する発振回路58と、記録ヘッド2へ供給する駆動信号を発生する駆動信号発生回路59と、印刷データをドット毎に展開することで得られる画素データや駆動信号等を記録ヘッド2に出力するための内部インターフェース(内部I/F)61と、を備えている。
【0035】
制御部57は、記録ヘッド2の動作を制御するためのヘッド制御信号を記録ヘッド2に出力したり、駆動信号を生成させるための制御信号を駆動信号発生回路59に出力したりする。制御部57は、記録ヘッド2の走査位置に応じてリニアエンコーダー56から出力されるエンコーダーパルスEPからタイミングパルスPTSを生成するタイミングパルス生成手段としても機能する。このタイミングパルスPTSは、駆動信号発生回路59が発生する駆動信号の発生開始タイミングを規定する信号である。駆動信号発生回路59は、このタイミングパルスPTSを受信する毎に駆動信号を出力する。換言すると、駆動信号は、タイミングパルスPTSで区切られる単位周期で繰り返し発生される。また、制御部57は、タイミングパルスPTSに同期して、ラッチ信号LATやチェンジ(チャンネル)信号CHを記録ヘッド2に出力する。ラッチ信号LATは、駆動信号の単位周期Tの開始タイミングを規定する信号であり、チェンジ信号CHは、駆動信号に含まれる駆動パルスの供給開始タイミングを規定する。
【0036】
駆動信号発生回路59(駆動信号発生手段)は、記録用紙等の記録媒体(着弾対象)に対してインクを噴射して画像等を記録するプリンター本来の目的のために用いられる記録用噴射駆動パルスを含む記録用駆動信号を発生する。また、本実施形態における駆動信号発生回路59は、記録用駆動信号の他に、メンテナンスパルス(フラッシング駆動パルス)を含む複数のメンテナンス用駆動信号(気泡排出フラッシング用駆動信号)を発生可能に構成されている。このメンテナンス用駆動信号を用いたメンテナンス処理の詳細については後述する。
【0037】
次に、プリントエンジン52側の構成について説明する。プリントエンジン52は、記録ヘッド2と、キャリッジ移動機7と、紙送り機構8と、リニアエンコーダー56と、から構成されている。記録ヘッド2は、シフトレジスター(SR)62、ラッチ63、デコーダー64、レベルシフター(LS)65、スイッチ66、及び圧電素子18を、各ノズル37に対応させて複数備えている。プリンターコントローラー51からの画素データ(SI)は、発振回路58からのクロック信号(CK)に同期して、シフトレジスター62にシリアル伝送される。
【0038】
シフトレジスター62には、ラッチ63が電気的に接続されており、プリンターコントローラー51からのラッチ信号(LAT)がラッチ63に入力されると、シフトレジスター62の画素データをラッチする。このラッチ63にラッチされた画素データは、デコーダー64に入力される。このデコーダー64は、2ビットの画素データを翻訳してパルス選択データを生成する。本実施形態におけるパルス選択データは、合計2ビットのデータによって構成されている。
【0039】
そして、デコーダー64は、ラッチ信号(LAT)又はチェンジ信号(CH)の受信を契機にパルス選択データをレベルシフター65に出力する。この場合、パルス選択データは、上位ビットから順にレベルシフター65に入力される。このレベルシフター65は、電圧増幅器として機能し、パルス選択データが「1」の場合、スイッチ66を駆動できる電圧、例えば数十ボルト程度の電圧に昇圧された電気信号を出力する。レベルシフター65で昇圧された「1」のパルス選択データは、スイッチ66に供給される。このスイッチ66の入力側には、駆動信号発生回路59からの駆動信号COMが供給されており、スイッチ66の出力側には、圧電素子18が接続されている。
【0040】
そして、パルス選択データは、スイッチ66の作動、つまり、駆動信号中の駆動パルスの圧電素子18への供給を制御する。例えば、スイッチ66に入力されるパルス選択データが「1」である期間中は、スイッチ66が接続状態になって、対応する駆動パルスが圧電素子18に供給され、この駆動パルスの波形に倣って圧電素子18の電位レベルが変化する。一方、パルス選択データが「0」である期間中は、レベルシフター65からはスイッチ66を作動させるための電気信号が出力されない。このため、スイッチ66は切断状態となり、圧電素子18へは駆動パルスが供給されない。
【0041】
次に、上記の構成において、記録ヘッド2の噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理について説明する。
この種のプリンターでは、新たに装着されたインクカートリッジ内のインクを記録ヘッドのインク流路に初期充填する際などにおいて、インクに空気(気泡)が混入する場合がある。そして、インクが充填されてから時間の経過と共に徐々にインク中に空気が溶解していき、最終的には飽和状態となる。このように空気が飽和状態まで溶解したインクを、適宜、飽和インクと呼ぶ。このような飽和インクでは、温度が高くなるほど溶解度が低下するので、印刷処理中にノズルから連続的にインクを噴射して圧力変動を繰り返したり、加熱機構による加熱などによりインクの温度が上昇したりすると、インク中に溶解していた空気が気泡となって現れ、インク流路内に蓄積していく。インク流路内に滞留する気泡はインクを噴射する際の圧力変化を吸収してしまい、これにより、上記の噴射不良が生じる虞がある。
【0042】
このため、本発明に係るプリンター1では、記録ヘッド2を正常な状態、即ち、噴射不良を防止してノズル37からのインクの噴射が適切に行われる状態(設計・仕様上、目標とする噴射特性に近い状態)に回復させるためのメンテナンス処理として、気泡除去フラッシング処理を行う。この気泡除去フラッシング処理では、記録媒体に対して画像等の印刷を行うことを目的としてインクを噴射する印刷処理(噴射動作)とは別に、後述するフラッシング駆動パルスを圧電素子18に印加してノズル37からインクを空噴射させることで、インクと共に気泡を排出させる。この気泡除去フラッシング処理は、例えば、プリンター1の電源が投入されたときや、新たに装着されたインクカートリッジのインクを記録ヘッド2内部に充填した後など、上記加熱機構47により加熱処理が行われる前に実行される。
【0043】
図5は、気泡除去フラッシング処理で用いられる気泡除去フラッシング用駆動信号COM−S(本発明におけるメンテナンス駆動信号の一種)を説明する図である。この駆動信号COM−Sは、2つの気泡除去フラッシング用駆動パルスDP(DPa,DPb)を、タイミング信号(LAT)で区切られる単位周期内に含んで構成されている。なお、単位周期に含まれる気泡除去用フラッシング用駆動パルスDPの数については、本実施形態において例示した2つには限定されない。
この駆動信号の基準電位(駆動パルスの電位変化の基準となる電位)VBは、圧電素子18が圧力室39側に変位可能な範囲の最大限に変位して圧力室39を収縮させた状態に対応する電位(収縮電位)に調整される。なお、膨張電位VLは、圧電素子18が圧力室39とは反対側に変位可能な範囲の最大限に変位して圧力室39を膨張させた状態に対応する電位(膨張電位)である。
【0044】
気泡除去フラッシング用駆動パルスDP(本発明におけるメンテナンスパルスの一種)は、上記の記録用噴射駆動パルスと比較して、圧電素子18を駆動したときに圧力室39内に生じる圧力変動が十分に大きくなるように設定された駆動パルスであり、これによりインク流路内の気泡に対してより確実に圧力変化を付与することができ、以て当該気泡の排出性がより高められている。この気泡除去フラッシング用駆動パルスDPは、基準電位VB(収縮電位)から膨張電位VLまでマイナス側(第1の方向)に電位が変化して圧力室39を膨張させる膨張要素P11(第1の変化部)と、膨張電位VLを一定時間維持する膨張維持要素P12(ホールド部)と、膨張電位VLから基準電位VBまでプラス側(第2の方向)に電位が変化して圧力室39を急激に収縮させる収縮要素P13(第2の変化部)と、から構成される。すなわち、気泡除去フラッシング用駆動パルスDPは、インク流路内の気泡をインクに溶け込ませるべく圧力室39内に圧力変化を生じさせるための一連の波形要素からなる。
【0045】
この気泡除去フラッシング用駆動パルスDPが圧電素子18に印加されると、まず、膨張要素P11によって圧電素子18は圧力室39から離隔する方向に撓み、これにより圧力室39が基準電位VBに対応する収縮容積から膨張電位VLに対応する膨張容積まで膨張する。この膨張により、ノズル37におけるメニスカスが圧力室39側に大きく引き込まれる。そして、この圧力室39の膨張状態は、膨張維持要素P12の供給期間中に亘って維持される。その後、収縮要素P13が印加されることで圧電素子18が圧力室39側に撓む。この圧電素子18の変位により、圧力室39は膨張容積から収縮容積まで急激に収縮される。この圧力室39の急激な収縮により圧力室39内のインクが加圧され、ノズル37からインクが噴射される。この気泡除去フラッシング処理においてノズル37から噴射されるインクの量及び飛翔速度は、何れも、印刷処理の場合や他のフラッシング処理の場合と比較して大きい。
【0046】
図6は、本実施形態におけるプリンター1の動作を説明するフローチャートである。まず、ステップS1において、プリンター1の電源が投入される(電源ON)。或いは、プリンター1にインクカートリッジ6が新たに装着された場合、インクカートリッジ6のインクが記録ヘッド2内部に充填される(初期充填)。このように、プリンター1の電源が投入された後や初期充填の後であって加熱機構47による加熱が行われる前においては、記録ヘッド2のインク流路内に満たされているインクの温度は比較的低い温度(例えば、15〜25℃)となっている。この状態で、制御手段として機能するプリンターコントローラー51は、メンテナンス処理、即ち、気泡除去フラッシング処理を実行する(ステップS2)。
【0047】
気泡除去フラッシング処理において、プリンターコントローラー51は、キャリッジ移動機構7を制御して、記録ヘッド2をキャッピング機構15上或いはプラテン3の端部領域に設定されたフラッシングポイント(図示せず)上まで移動させる。そして、この状態で、プリンターコントローラー51は、駆動信号発生回路59から発生される気泡除去フラッシング用駆動パルスDPを繰り返し圧電素子18に印加することで、各ノズル37に対して予め設定された回数のインクの空噴射を連続的に実行させる。この連続した空噴射を連続フラッシングセグメントと呼ぶ。なお、気泡除去フラッシング用駆動パルスDPの圧電素子18に対する印加周波数(駆動周波数)は、例えば2kHz程度に設定される。そして、この気泡除去フラッシング処理では、印刷処理における噴射時の圧力変化と比較して十分に大きい圧力変化が、インク流路内に滞留している気泡に対して作用する。このような強い圧力変化を繰り返すことで、インク流路中の気泡がインク内に溶け込むことが促進される。これにより、インク流路中に滞留していた気泡をインクと共にノズル37から排出することができる。
【0048】
気泡除去フラッシング処理が所定のフラッシングセグメントだけ実行されたならば、続いて、プリンターコントローラー51は、加熱機構47を制御してインクの加熱処理を行う(S3)。プリンターコントローラー51は、温度検出部による検出温度を監視しつつリザーバー34内のインクを所定の温度(例えば、40℃)まで加熱することにより、当該インクの粘度を噴射に適した粘度まで低下させる。本実施形態においては、インクが噴射されるノズル37に近いリザーバー34内のインクを加熱するので、インクの粘度をより精度良く調整することができる。インクを加熱してその粘度を低下させたならば、記録用駆動パルスを用いて、記録用紙等の記録媒体に対して画像等を記録する印刷処理を実行する(S4)。
【0049】
このように、本発明に係るプリンター1では、加熱機構47によるインクの加熱が行われる前に、気泡除去フラッシング処理を行うので、インクに対する気泡の溶解をより確実に促進させることができる。これにより、その後の印刷処理においてはインク中の気泡残存量を低減させた状態でインクの噴射を安定して行うことができ、気泡による噴射不良を防止することができる。また、インクが高温である状態でフラッシング処理を行う場合と比較して、インク中の気泡を除去するために必要なフラッシングセグメント数(圧電素子18に印加する気泡除去フラッシング用駆動パルスDPの総数)を低減することができるので、気泡除去フラッシング処理に要する時間を短縮することが可能となる。これにより、速やかに印刷処理に移行することができる。
【0050】
なお、加熱機構47に関し、上記実施形態では、リザーバー34内のインクを加熱する構成を例示したが、これには限られない。例えば、図2に示すように、記録ヘッド2におけるインク流路の外部、具体的には、ヘッドカバー10の側面等に加熱機構47を配設して当該加熱機構47によって記録ヘッド2内部のインクを加熱する構成を採用することもできる。或いは、図7に示すように、記録ヘッド2とは異なる位置、例えば、記録用紙Pを支持するプラテン3に加熱機構47を配設し、これにより記録ヘッド2内部のインクを間接的に加熱する構成を採用することもできる。
【0051】
また、例えば、図8に示すように、加熱機構47が、記録ヘッド2のインク流路内のインクを加熱するためのヘッド側加熱部47aと、インクカートリッジ6に貯留されているインクを加熱するための供給側加熱部47bとにより構成され、これらの加熱部47a,47bが、それぞれ個別に制御される構成を採用することも可能である。供給側加熱部47bは、なるべく小さい力で効率良く円滑にインクを記録ヘッド2側に圧送できるようにインクカートリッジ6内のインクを加熱して粘度を低下させるように構成されている。そして、プリンターコントローラー35は、気泡除去フラッシング処理を行う際に、供給側加熱部47bを加熱状態にする一方、ヘッド側加熱部47aを非加熱状態にする。これにより、インクカートリッジ6から記録ヘッド2へのインクの供給容易性を確保しつつも、記録ヘッド2の圧力室39やノズル37にインクが到達するまでの間にインクの温度が低下するので、気泡除去フラッシング処理時には少なくともヘッド側加熱部47aによってインクを加熱する場合よりもインクに対する気泡が溶解し易い状態となり、インク中の気泡を十分に排出させることができる。なお、ヘッド側加熱部47aおよび供給側加熱部47bに関し、インクを直接的に加熱する構成であっても良いし、インクを間接的に加熱する構成であっても良い。
【0052】
さらに、上記各実施形態では、気泡除去フラッシング処理を行う際に、加熱機構47をオフ(非加熱状態)にする構成を例示したがこれには限られない。要は、気泡除去フラッシング処理を行うときのインクの温度が、印刷処理を行うときのインクの温度よりも低くなるように加熱機構47が制御されればよいので、気泡除去フラッシング処理を行う際に、加熱機構47をオン(加熱状態)にする構成を採用することも可能である。この構成においても上記実施形態と同様な作用効果を奏する。
【0053】
また、上記各実施形態では、圧力発生手段として、所謂撓み振動型の圧電素子18を例示したが、これには限られず、例えば、所謂縦振動型の圧電素子を採用することも可能である。この場合、例示した駆動信号に関し、電位の変化方向、つまり上下が反転した波形となる。
【0054】
そして、以上では、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は、気泡の残留が問題となる他の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレー等のカラーフィルターを製造するディスプレー製造装置,有機EL(Electro Luminescence)ディスプレーやFED(面発光ディスプレー)等の電極を形成する電極製造装置,バイオチップ(生物化学素子)を製造するチップ製造装置,ごく少量の試料溶液を正確な量供給するマイクロピペットにも適用することができる。そして、ディスプレー製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液が噴射される。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料が噴射される。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液が噴射される。
【符号の説明】
【0055】
1…プリンター,2…記録ヘッド,6…インクカートリッジ,15…キャッピング機構,18…圧電素子,37…ノズル,39…圧力室,45…発熱体,47…加熱機構,51…プリンターコントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生可能に構成され、
前記加熱手段による前記液体流路内の液体の加熱が行われる前に、前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、
前記液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、
を備えた液体噴射装置であって、
前記制御手段は、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生可能に構成され、
前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うときの前記液体流路内の液体の温度が、前記着弾対象に対して液体を噴射する際の前記液体流路内の液体の温度よりも低くなるように前記加熱手段を制御することを特徴とする液体噴射装置。
【請求項3】
液体を貯留した液体貯留部材、および、当該液体貯留部材内の液体を前記液体噴射ヘッドに供給する供給手段を備え、
前記加熱手段は、前記液体貯留部材側から前記液体噴射ヘッド側に供給される液体を直接的又は間接的に加熱する供給側加熱部と、前記液体噴射ヘッドの液体流路内の液体を直接的又は間接的に加熱するヘッド側加熱部と、から成り、
前記制御手段は、メンテナンス処理を行う際に、前記供給側加熱部を加熱状態にする一方、前記ヘッド側加熱部を非加熱状態にすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記メンテナンスパルスは、前記圧力発生手段を駆動させることによって、電位が第1の方向に変化して前記圧力室の容積を変化させる第1の変化部と、当該第1の変化部の後端電位を一定時間維持して第1の変化部により変化させられた圧力室の容積を維持するホールド部と、前記第1の変化部の後端電位から前記第1の方向とは反対側の第2の方向に電位が変化して前記圧力室の容積を変化させる第2の変化部とを含み、着弾対象に対して前記液体を噴射するための噴射駆動パルスよりも前記圧力室内の圧力変化が高まるように設定されたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体を直接的または間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生し、
前記加熱手段による前記液体流路内の液体の加熱処理を実行する前に、前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うことを特徴とする液体噴射装置の制御方法。
【請求項6】
液体を噴射するノズル及び当該ノズルに連通する圧力室を含む液体流路を有し、圧力発生手段の駆動により前記圧力室内の液体に圧力変動を生じさせて前記ノズルから液体を噴射する液体噴射ヘッドと、液体を直接的又は間接的に加熱する加熱手段と、該液体噴射ヘッドによる噴射動作、及び、前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えた液体噴射装置の制御方法であって、
前記圧力発生手段を駆動して液体流路中の気泡を除去するためのメンテナンスパルスを含むメンテナンス駆動信号を発生し、
前記メンテナンス駆動信号を用いて前記液体噴射ヘッドの噴射能力を回復させるためのメンテナンス処理を行うときの前記液体流路内の液体の温度が、前記着弾対象に対して液体を噴射する際の前記液体流路内の液体の温度よりも低くなるように前記加熱手段を制御することを特徴とする液体噴射装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−110737(P2011−110737A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267184(P2009−267184)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】