説明

液体噴射装置およびその制御方法

【課題】簡易な構成により液体の噴射量の変動を抑制する。
【解決手段】液体噴射装置100が、液体貯蔵部22から供給される液体を液滴として着弾対象200に噴射する液体噴射ヘッド24と、液体噴射ヘッド24への液体の供給経路26または液体貯蔵部22における液体の圧力を検出する検出部62と、検出した圧力に応じて、着弾対象200の単位面積に対する液滴の噴射回数を補正する制御部62とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の液体を噴射する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクカートリッジから供給されるインクを記録ヘッドが噴射する液体噴射装置では、インクの供給圧力の変動に起因してインクの噴射量に変動が生じるという問題がある。特許文献1の技術では、インクの噴射量の変動を抑制するために、インクの供給圧力に応じてインクの噴射量を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−202381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の技術では、インクの噴射量を制御するために、駆動信号自体の補正(例えば、電位変動幅やパルス幅の変更)を行っている。駆動信号を補正するには複雑な構成が必要となるので、故障率の増大や製造コストの上昇といった問題が発生する可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明は、簡易な構成により液体の噴射量の変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明の液体噴射装置は、液体貯蔵部から供給される液体を液滴として着弾対象に噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置であって、前記液体噴射ヘッドへの前記液体の供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出する検出部と、検出した前記圧力に応じて、前記着弾対象の単位面積に対する前記液滴の噴射回数を補正する制御部とを備える。「圧力を検出」とは、所定の情報(動作履歴等)に応じて圧力を検出(特定)することと、センサー等により直接に圧力を検出することとの双方を含意する。以上の構成では、液体噴射ヘッドに供給される液体の供給圧力(供給経路または液体貯蔵部における液体の圧力)に応じて液滴の噴射回数が補正されるから、簡易な構成により、供給圧力が変化した場合でも液体の噴射量の変動を抑制する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。
【0006】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置は、前記噴射回数を規定する噴射情報が記憶される記憶部を備え、前記制御部は、前記噴射情報が規定する前記噴射回数を前記圧力に応じて補正する。以上の態様では、噴射情報により規定される噴射回数が圧力に応じて補正される。
【0007】
本発明の好適な態様において、前記液体噴射ヘッドは、相異なる複数の重量の前記液滴を噴射可能であり、前記噴射情報は、前記重量ごとに前記噴射回数を規定し、前記制御部は、前記圧力に応じて、前記噴射情報が規定する前記噴射回数を前記重量毎に補正する。以上の態様では、液滴の重量毎に補正を行うから、圧力のみに基づいて補正を行う構成と比較して、噴射量の変動がより抑制される。また、液体の色ごとに供給圧力や噴射特性が相違するから、前記噴射情報が前記液体の色ごとに前記噴射回数を規定すると、色差の発生が低減されるのでより好適である。
【0008】
本発明の好適な態様において、前記記憶部は、前記液体噴射ヘッドの動作履歴を記憶し、前記検出部は、前記動作履歴に応じて前記圧力を検出(特定)する。以上の態様では、動作履歴に応じて圧力が検出(特定)されるから、圧力を検出するための他の構成が不要であり、液体噴射装置の構成を簡易化することが可能である。なお、動作履歴は、液体噴射ヘッドに供給される液体の供給圧力に影響する動作の履歴を意味する。例えば、過去に液体噴射ヘッドから噴射された液体の噴射量の累計に応じて動作履歴が設定される。
【0009】
本発明の好適な態様において、前記記憶部は、基準時刻からの経過時間を記憶し、前記検出部は、前記経過時間に応じて前記圧力を検出(特定)する。以上の態様では、経過時間に応じて圧力が検出(特定)されるから、圧力を検出するための他の構成が不要であり、液体噴射装置の構成を簡易化することが可能である。
【0010】
本発明の好適な態様に係る液体噴射装置の前記検出部は、前記供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出する圧力センサーである。以上の態様では、圧力センサーにより正確な圧力が検出されて補正に利用されるので、補正の精度がより向上する。
【0011】
本発明は、以上の各形態に係る液体噴射装置を制御する方法としても特定される。本発明に係る液体噴射装置の制御方法は、液体貯蔵部から供給される液体を液滴として着弾対象に噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置において、前記液体噴射ヘッドへの前記液体の供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出して、検出した前記圧力に応じて、前記着弾対象の単位面積に対する前記液滴の噴射回数を補正する。「圧力を検出」とは、所定の情報(動作履歴等)に応じて圧力を検出(特定)することと、センサー等により直接に圧力を検出することとの双方を含意する。以上の制御方法でも、本発明の液体噴射装置と同様の作用および効果が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る印刷装置の模式図である。
【図2】記録ヘッドの吐出面の平面図である。
【図3】第1実施形態の印刷装置の電気的な構成を含むブロック図である。
【図4】駆動信号の波形図である。
【図5】インク供給圧力とインク噴射重量との関係を示すグラフである。
【図6】動作履歴と供給圧力とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図7】供給圧力と補正値とを対応付けるテーブルを示す図である。
【図8】噴射回数の補正の具体例を示す説明図である。
【図9】第2実施形態における印刷装置のブロック図である。
【図10】カラーIDの構成を示す図である。
【図11】噴射回数の補正の具体例を示す説明図である。
【図12】インクの噴射量と色差との関係を示すグラフである。
【図13】第3実施形態における印刷装置のブロック図である。
【図14】経過時間とインク供給圧力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<A:第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係るインクジェット方式の印刷装置100の部分的な模式図である。印刷装置100は、微細なインクの液滴を記録紙200に噴射する液体噴射装置であり、容器保持部(カートリッジホルダー)10とキャリッジ12と移動機構14と搬送機構16とを具備する。
【0014】
容器保持部10は、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))のインクが充填された複数のインクカートリッジ22(22K,22Y,22M,22C)を着脱可能に保持する。容器保持部10は、印刷装置100の筐体(図示略)に固定される。すなわち、第1実施形態の印刷装置100は、インクカートリッジ22をキャリッジ12に搭載しないオフキャリッジ方式を採用する。
【0015】
キャリッジ12には記録ヘッド24が搭載される。複数のインクカートリッジ22の各々から記録ヘッド24に至る供給経路26(チューブ)を介して、各インクカートリッジ22内のインクが記録ヘッド24に並列に供給される。記録ヘッド24は、各インクカートリッジ22から供給されるインクを記録紙200に噴射する液体噴射ヘッドとして機能する。
【0016】
図2は、記録ヘッド24のうち記録紙200に対向する吐出面32の平面図である。図2に示すように、記録ヘッド24の吐出面32には、相異なる色(ブラック(K),イエロー(Y),マゼンタ(M),シアン(C))に対応する複数のノズル列34(34K,34Y,34M,34C)がX方向に間隔をあけて形成される。各ノズル列34は、X方向に垂直なY方向に相互に間隔をあけて直線上に配列された複数のノズル(吐出口)Nの集合である。インクカートリッジ22Kから供給されるブラック(K)のインクはノズル列34Kの各ノズル56から噴射される。同様に、インクカートリッジ22Yのイエロー(Y)のインクはノズル列34Yの各ノズル56から噴射され、インクカートリッジ22Mのマゼンタ(M)のインクはノズル列34Mの各ノズル56から噴射され、インクカートリッジ22Cのシアン(C)のインクはノズル列34Cの各ノズル56から噴射される。なお、各ノズル列34の複数のノズル56を千鳥状に配列することも可能である。
【0017】
図1の移動機構14は、キャリッジ12をX方向(主走査方向)に往復させる。キャリッジ12の位置は、リニアエンコーダー等の検出器(図示略)で検出されて移動機構14の制御に利用される。搬送機構16は、キャリッジ12の往復に並行して記録紙200をY方向(副走査方向)に搬送する。キャリッジ12の往復時に記録ヘッド24が記録紙200にインクを噴射することで所望の画像が記録紙200に記録(印刷)される。
【0018】
図3は、印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。なお、図3では便宜的に1個のインクカートリッジ22のみが代表的に図示されている。図3に示すように、印刷装置100は、制御装置102と印刷処理部(プリントエンジン)104とを具備する。印刷処理部104は、記録紙200に画像を記録する要素であり、前述の移動機構14と搬送機構16と記録ヘッド24とを含む。
【0019】
記録ヘッド24は、各ノズル列34の相異なるノズル56に対応する複数の噴射部Uと、駆動信号COMの供給で各噴射部Uを駆動する駆動回路42とを具備する。複数の噴射部Uの各々は、圧力室52とノズル56と圧電素子54とで構成される。圧力室52は、ノズル56に連通する空間であり、インクカートリッジ22から供給されるインクが充填される。インクカートリッジ22中のインクは供給圧力Pで記録ヘッド24に供給される。記録ヘッド24のインクの供給口(供給経路26のうち記録ヘッド24側の端部)での圧力が供給圧力Pに相当する。供給圧力Pはインクカートリッジ22中のインクの液面の高さに依存する。圧電素子54は、駆動回路42から供給される駆動信号COMに応じて振動する。圧電素子54が圧力室52内のインクの圧力を変動させることで、インク滴がノズル56から噴射される。噴射されたインク滴の重量に応じて大ドットまたは小ドットが記録紙200上に形成される。
【0020】
図3の制御装置102は、印刷装置100の全体を制御する要素であり、制御部62と第1記憶部64とを具備する。第1記憶部64は、例えばROMやRAM等の記憶回路で構成され、制御プログラムや各種の情報(例えば動作履歴HやテーブルTH,TL,TS)を記憶する。制御部62は、外部装置から供給される印刷データに応じて各噴射部Uの動作を印字周期ごとに駆動回路42に指示する。具体的には、大ドットを形成させるインク滴(大インク滴)の噴射と、小ドットを形成させるインク滴(小インク滴)の噴射とのいずれかが選択的に指示される。
【0021】
駆動回路42は、制御部62からの指示に応じて駆動信号COMから所定の区間を選択して印字周期ごとに各噴射部Uに供給する。図4は駆動信号COMの一例を示す図である。駆動信号COMは噴射パルスPD1と噴射パルスPD2とを含む。噴射パルスPD1および噴射パルスPD2は、圧電素子54を駆動してノズル56からインク滴を噴射させる波形である。噴射パルスPD1は大インク滴の噴射に対応し、噴射パルスPD2は小インク滴の噴射に対応する。噴射パルスPD1の供給で噴射される大インク滴の重量は、噴射パルスPD2の供給で噴射される小インク滴の重量を上回る。
【0022】
図5は、記録ヘッド24に対するインクの供給圧力P(横軸)とインクの噴射重量W(縦軸)との関係を、大インク滴および小インク滴の各々について示すグラフである。記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pは、インクカートリッジ22内のインク量の減少に応じて低下する。図5から理解されるように、記録ヘッド24へのインクの供給圧力Pが減少するほど、インクの噴射重量Wも減少する。また、供給圧力Pに応じてインクの噴射重量Wが減少する割合(噴射重量Wの変化率)は、大インク滴の方が小インク滴よりも大きい。
【0023】
以上の傾向を背景として、制御部62は、記録ヘッド24へのインクの供給圧力Pに応じてインクの噴射量を制御する。第1実施形態の制御部62は、インクの供給圧力Pに応じて記録紙200の単位面積当たりのインクの噴射回数N(NL,NS)を制御する。具体的には、制御部62は、第一に、動作履歴Hに応じて供給圧力Pを検出(特定)し、第二に、記録紙200の単位面積当たりの噴射回数N(NL,NS)を、供給圧力Pに応じた補正値A(AL,AS)により補正する。単位面積当たりの大インク滴の噴射回数NLは補正値ALに応じて補正され、単位面積当たりの小インク滴の噴射回数NSは補正値ASに応じて補正される。補正値ALおよび補正値ASは、供給圧力Pに応じて個別に設定される。
【0024】
図3の第1記憶部64は、記録ヘッド24の動作履歴Hをノズル列34毎に記憶する。第1実施形態において、各ノズル列34の動作履歴Hは、そのノズル列34から噴射されたインクの累積噴射量Sを示す。動作履歴Hは、記録ヘッド24による印刷動作に並行して随時に更新される。また、インクカートリッジ22が交換された場合には、そのインクカートリッジ22(ノズル列34)に対応する動作履歴H(累積噴射量S)が初期化される。
【0025】
動作履歴Hに応じた供給圧力Pを検出(特定)するために制御部62が参照するテーブルTHが、第1記憶部64に記憶される。図6に示すように、テーブルTHは、動作履歴H(累積噴射量S)の各数値(S1,S2,…)と供給圧力Pの各数値(P1,P2,…)とを対応付けるテーブルである。テーブルTHにおける供給圧力Pと累積噴射量Sとの関係は、累積噴射量Sが増大する(すなわち、インクカートリッジ22内のインク量が減少する)ほど供給圧力Pが減少するように統計的または実験的に事前に決定される。
【0026】
テーブルTHから特定された供給圧力Pに応じた補正値A(AL,AS)を特定するために制御部62が参照するテーブルTLおよびテーブルTSが第1記憶部64に記憶される(図7)。テーブルTLは、供給圧力Pの各数値と単位面積当たりの大インク滴の噴射回数NLの補正値ALの各数値とを対応付ける。具体的には、テーブルTLは、供給圧力Pの数値が小さいほど補正値ALが大きくなるように(すなわち、大インク滴の噴射回数(NL+AL)が増加するように)、供給圧力Pと補正値ALとを対応付ける。例えば、テーブルTL内の各補正値ALは、単位面積当たりの大インク滴の総噴射重量が供給圧力Pに関わらず所定の目標値に略一致するように統計的または実験的に設定される。同様に、テーブルTSは、供給圧力Pの数値が小さいほど補正値ASが大きくなるように(すなわち、小インク滴の噴射回数(NS+AS)が増加するように)、供給圧力Pの各数値と補正値ASの各数値とを対応付ける。例えば、テーブルTS内の各補正値ASは、単位面積当たりの小インク滴の総噴射重量が供給圧力Pに関わらず所定の目標値に略一致するように統計的または実験的に設定される。
前述の通り、供給圧力Pの減少に応じて大インク滴の噴射重量Wが減少する割合は、小インク滴の噴射重量Wが減少する割合を上回る。したがって、供給圧力Pの減少に対して補正値ALが増加する割合が、供給圧力Pの減少に対して補正値ASが増加する割合を上回るように、テーブルTLおよびテーブルTSの各数値(AL,AS)が選定される。すなわち、補正値ALと補正値ASとの差異、ひいては大インク滴の噴射回数(NL+AL)と小インク滴の噴射回数(NS+AS)との差異は、供給圧力Pが減少するほど増大する。
【0027】
制御部62は、ノズル列34毎に、動作履歴Hから推定した供給圧力Pに対応する大インク滴の補正値ALをテーブルTLから特定するとともに、供給圧力Pに対応する小インク滴の補正値ASをテーブルTSから特定する。そして、単位面積当たりの大インク滴の噴射回数が回数(NL+AL)となり、または、単位面積当たりの小インク滴の噴射回数が回数(NS+AS)となるように、記録ヘッド24を制御する。したがって、記録ヘッド24に対する供給圧力Pが減少するほど補正値ALおよび補正値ASが増加し、かつ、供給圧力Pの減少に対して補正値ALが増加する割合が補正値ASの増加する割合を上回るように、補正値ALおよび補正値AS(ひいては大インク滴の噴射回数(NL+AL)および小インク滴の噴射回数(NS+AS))が調整される。
【0028】
例えば、図8中のシアン(C)のインク(ノズル列34C)について見ると、制御部62は、テーブルTHを参照して、第1記憶部64に記憶されたノズル列34Cの累積噴射量S1(動作履歴H)から供給圧力P1を検出(特定)した後、テーブルTLを参照して供給圧力P1に対応する大インク滴の補正値AL1を特定するとともに、テーブルTSを参照して供給圧力P1に対応する小インク滴の補正値AS1を特定する。したがって、単位面積当たりの噴射回数が、大インク滴については回数(NL+AL1)となり、小インク滴については回数(NS+AS1)となるように、記録ヘッド24が制御される。他のインク色(ノズル列34)についても、同様にして補正が行われる。すなわち、制御部62は、動作履歴Hに応じてインクの供給圧力Pをノズル列34毎に検出(特定)し、供給圧力Pに応じてインクの噴射回数をインク滴の重量毎に制御(補正)する。つまり、制御部62は、供給圧力Pを検出する検出部としても機能する。なお、図5から理解されるように、供給圧力Pが変動しても小インク滴の噴射重量Wは殆ど変化しないから、大インク滴の噴射回数NLのみを供給圧力Pに応じて補正して小インク滴の噴射回数NSを補正しない構成も採用され得る。
【0029】
上述したインク滴の噴射回数の補正は任意のタイミングにて実行され得る。すなわち、印刷装置100の動作時間中にて定期的に(例えば、所定個の印字周期ごとに)実行されてもよいし、印刷動作が完了する度に(すなわち、1枚の記録紙200についての印刷が完了する度に)実行されてもよいし、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12が1往復する度に実行されてもよい。
【0030】
以上に説明した第1実施形態では、記録ヘッド24に供給されるインクの供給圧力Pに応じてインク滴の噴射回数が補正されるから、例えばインクカートリッジ22内のインクが減少して供給圧力Pが低下した場合でも、インクの噴射量の変動を抑制する(噴射量を目標値に維持する)ことが可能である。また、インク滴の重量毎に補正を行うから、供給圧力Pのみに基づいて補正をする構成と比較して、インク滴の重量に応じて相違する噴射重量Wの変化率に適合した補正が可能である。
【0031】
なお、インクの供給圧力Pの変動に起因したインクの噴射量の変動を抑制する構成としては、例えば、各圧電素子54に供給される駆動信号COMを補正して(例えば、駆動信号COMの電位変動幅やパルス幅を変更して)インクの噴射量を調整する構成も想定され得る。しかしながら、駆動信号COM自体を補正可能とすると印刷装置100の電気的な構成が複雑になる。第1実施形態によれば、インク滴の噴射回数を補正することで単位面積当たりのインクの噴射量を変動させるから、駆動信号COMの補正は不要である。したがって、印刷装置100の構成が簡易になるという利点がある。
【0032】
<B:第2実施形態>
本発明の第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各構成において作用や機能が第1実施形態と同等である要素については、以上の説明で参照した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0033】
第1実施形態では、補正前の大インク滴の噴射回数NLおよび補正前の小インク滴の噴射回数NSはインク色に関わらず一定であった。第2実施形態では、大インク滴の噴射回数および小インク滴の噴射回数がインク色毎(ノズル列34毎)に相違する。
【0034】
図9は、第2実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図9に示すように、第2実施形態の記録ヘッド24は、インク色(ノズル列34)毎およびインク重量毎にカラーID(噴射情報)を記憶する第2記憶部44を更に含む。第2記憶部44は、例えばEEPROMやフラッシュROM等の不揮発性メモリで構成される。
【0035】
図10は、第2記憶部44に記憶されたカラーID(噴射情報)の構成を示す図である。カラーIDは、インク滴の噴射回数Nを規定する情報であり、インク重量毎およびインク色(ノズル列34)毎に設定される。具体的には、カラーIDは、工場出荷前に、ノズル列34毎に測定された実際のインク噴射量に基づいて算出され、第2記憶部44に記憶される。例えば、ノズル列34Cからの所定回数の大インク滴の噴射による設計上の噴射量が20.0 ngである一方、実際の噴射量が19.0 ngである場合、95(=(19.0÷20.0)×100)がノズル列34CのカラーIDとして設定される。制御部62は、カラーIDに基づいて、単位面積当たりの各インク滴(大インク滴および小インク滴)の噴射回数Nをノズル列34毎に特定する。例えば、図10のシアン(C)の大インク滴については、カラーIDが95であるから噴射量が設計値より5%少ないので、制御部62は単位面積当たりの噴射回数Nを5%増大させる。
【0036】
図11を参照して、第2実施形態の制御部62が行うインクの噴射回数の補正を説明する。まず、制御部62は、第2記憶部44のカラーIDを参照して、インク重量毎およびインク色(ノズル列34)毎にインクの噴射回数N(NL_C、NS_C、NL_M、NS_M、NL_Y、NS_Y、NL_K、NS_K)を特定する。また、制御部62は、第1実施形態と同様に、ノズル列34毎に、動作履歴H(累積噴射量S)から供給圧力Pを検出(特定)した後、供給圧力Pに対応する大インク滴の補正値ALをテーブルTLから特定するとともに、供給圧力Pに対応する小インク滴の補正値ASをテーブルTSから特定する。そして、各噴射回数(NL_C、NS_C、NL_M、NS_M、NL_Y、NS_Y、NL_K、NS_K)を対応する各補正値A(AL、AS)により補正する。
以下、図11中のシアン(C)のインク(ノズル列34C)を例示して具体的に説明する。制御部62は、カラーIDを参照して、シアン(C)の大インク滴の単位面積当たりの噴射回数が回数NLCであり、シアン(C)の小インク滴の単位面積当たりの噴射回数が回数NSCであることを特定する。また、制御部62は、テーブルTHを参照して、シアン(C)のインク(ノズル列34C)の動作履歴H(累積噴射量S)に応じた供給圧力Pが圧力P1であることを特定(検出)する。供給圧力P1に対応する補正値Aは、大インク滴についてはテーブルTLから補正値AL1であると特定され、小インク滴についてはテーブルTSから補正値AS1であると特定される。以上のように特定された値(NLC、NSC、AL1、AS1)に基づき、制御部62は、単位面積当たりのシアン(C)の大インク滴の噴射回数が回数(NLC+AL1)となり、単位面積当たりのシアン(C)の小インク滴の噴射回数が回数(NSC+AS1)となるように、記録ヘッド24を制御する。すなわち、カラーIDによりインク色毎に規定された噴射回数Nが、各インクの供給圧力Pに応じてインク噴射重量W(大インク滴または小インク滴)毎に制御部62により補正される。
【0037】
図12は、インクの噴射量と色差との関係を示すグラフである。色差は、インクの噴射量の変化が生じていない状態(図12の「噴射量の変化」=0)のインク色(基準色)に対する差分(色空間上の距離)を示す値である。図12に示す通り、インクの噴射量の変化(増加または減少)に伴って色差が増大する。したがって、複数色のインクを用いて画像を形成する印刷装置100において各色のインクの単位面積当たりの噴射量に変動が生じると、目標とする画像と実際に形成される画像との間に色差が生じてしまう。
【0038】
第2実施形態の構成によれば、カラーIDに基づいてインク色毎(ノズル列34毎)にインク滴の噴射回数を制御することにより、インク色間(ノズル列34間)における単位面積当たりのインクの噴射量の変動が低減される。したがって、基準色に対する色差が少ない高品質な画像を形成することが可能である。また、供給圧力Pの経時変化(累積噴射量Sの増大による変化)に起因したインクの噴射量の変動に加えて、初期(印刷装置100の製造時)のインク噴射量の誤差も補償される。
【0039】
<C:第3実施形態>
図13は、第3実施形態の印刷装置100の電気的な構成を含むブロック図である。図13に示すように、第3実施形態の印刷装置100は、インクカートリッジ22毎に圧力調整弁46を追加した構成である。各圧力調整弁46は、各インクカートリッジ22から記録ヘッド24に対するインクの供給経路26に配置されて、記録ヘッド24に対するインクの供給圧力Pを調整する。圧力調整弁46は、例えば、バネにより供給圧力Pを減圧するダンパーを含む。また、第3実施形態の第1記憶部64は基準時刻からの経過時間tを記憶する。基準時刻は、例えば、印刷装置100の製造時(製造中の任意の時刻)である。
【0040】
図14は、経過時間tと供給圧力Pとの関係を示すグラフである。圧力調整弁46の経時劣化により圧力調整機能(減圧機能)が低下するので、経過時間tの増加に従って記録ヘッド24へのインクの供給圧力Pが増大する。また、第1記憶部64はテーブルTtを記憶する。テーブルTtは、経過時間tの各数値(t1,t2,…)と供給圧力Pの各数値(P1,P2,…)とを対応付けるテーブルである。テーブルTtにおける経過時間tと供給圧力Pとの相関は、経過時間tの増大に応じて供給圧力Pも増大するように統計的または実験的に事前に決定される。なお、経過時間tと供給圧力Pとの関係はインク色毎(ノズル列34毎)に相違し得るので、テーブルTtはインク色毎に設けられ得る。
【0041】
第3実施形態の制御部62は、第1記憶部64に記憶されたテーブルTtを参照することで、経過時間t(すなわち圧力調整弁46の経時劣化の度合)に応じた供給圧力Pを検出(特定)する。供給圧力Pに応じて噴射回数Nを制御する動作は第1実施形態や第2実施形態と同様である。第3実施形態では、基準時刻からの経過時間tに応じて検出(特定)された供給圧力Pに基づいてインクの噴射回数が補正されるから、第1実施形態や第2実施形態と同様にインクの噴射量の変動を低減することが可能である。
【0042】
<D:変形例>
以上の各形態は多様に変形される。具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様は、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0043】
(1)変形例1
以上の各形態では、動作履歴Hまたは経過時間tに応じてインクの供給圧力Pを制御部62(検出部)が特定(間接的に検出)したが、印刷装置100が検出部として圧力センサーを備え、この圧力センサーによりインクの供給圧力Pを直接検出してもよい。圧力センサーが検出する圧力は記録ヘッド24のインクの供給口(供給経路26のうち記録ヘッド24側の端部)での圧力に限定されない。例えば、供給経路26内の圧力やインクカートリッジ22内の圧力を供給圧力Pとして検出して上述の補正に用いてもよい。
【0044】
(2)変形例2
第2実施形態では、カラーIDが記録ヘッド24の第2記憶部44に記憶されたが、カラーIDが制御装置102の第1記憶部64に記憶されてもよい。また、カラーIDにより特定された噴射回数に供給圧力Pに応じた補正値Aを加算してインク滴の噴射回数を補正したが、カラーID自体を供給圧力Pに応じて変更してインク滴の噴射回数を補正してもよい。
【0045】
(3)変形例3
以上の各形態では、インクカートリッジ22をキャリッジ12に搭載しないオフキャリッジ方式が採用されたが、インクカートリッジ22をキャリッジ12に搭載するオンキャリッジ方式が採用されてもよい。
【0046】
(4)変形例4
以上の各形態では、2種の重量のインク滴(大インク滴および小インク滴)が噴射される構成の印刷装置100について説明したが、印刷装置100が3種以上の重量のインク滴(例えば、大インク滴、中インク滴、および小インク滴)を噴射可能であってもよい。
【0047】
(5)変形例5
以上の各形態では、動作履歴Hまたは経過時間tとテーブルT(TH、TL、TS、Tt)との双方を第1記憶部64に格納したが、動作履歴Hまたは経過時間tを記憶する要素とテーブルT(TH、TL、TS、Tt)を記憶する要素とを別個の記憶回路とした構成も採用され得る。また、動作履歴Hと経過時間tとテーブルT(TH、TL、TS、Tt)とが第1記憶部44に記憶されてもよい。
【0048】
(6)変形例6
以上の各形態では、動作履歴H(経過時間t)に応じた供給圧力Pの検出(特定)にテーブルT(TH、TL、TS、Tt)を利用したが、動作履歴H(経過時間t)に応じて供給圧力Pを検出(特定)する方法は適宜に変更される。例えば、動作履歴H(経過時間t)と供給圧力Pとの関係を定義する演算式に第1記憶部64内の動作履歴H(経過時間t)を代入することで制御部62が供給圧力Pを算定することも可能である。ただし、供給圧力Pを演算する構成では制御部62の負荷が過大となり得るから、制御部62の負荷を軽減するという観点からは前述の各形態のようにテーブルT(TH、TL、TS、Tt)を利用する構成が好適である。
【0049】
(7)変形例7
以上の各形態では、動作履歴Hまたは経過時間tに基づいて供給圧力Pを検出(特定)した。しかし、動作履歴Hと経過時間tとの双方に基づいて供給圧力Pを検出(特定)してもよい。以上の構成によれば、インクの消費による供給圧力Pの低下と圧力調整弁46の経時劣化による供給圧力Pの増大との双方の影響を踏まえてインクの噴射回数が補正されるので、噴射量の変動がより低減される。
【0050】
(8)変形例8
以上の各形態では、記録ヘッド24を搭載したキャリッジ12を往復させるシリアル型の印刷装置100を例示したが、記録紙200の幅方向の全域に対向するように複数の噴射部U(ノズル56)が配列されたライン型の印刷装置100にも本発明を適用することが可能である。ライン型の印刷装置100では記録ヘッド24が固定され、記録紙200を搬送させながら各ノズル56からインクの液滴を噴射することで記録紙200に画像が記録される。以上の説明から理解されるように、記録ヘッド24(各噴射部U)自体の可動/固定は本発明において不問である。
【0051】
(9)変形例9
圧力室52内の圧力を変化させる要素(圧力発生素子)は圧電素子54に限定されない。例えば、静電アクチュエーター等の振動体を利用することも可能である。また、圧力発生素子は、圧力室52に機械的な振動を付与する要素に限定されない。例えば、圧力室52の加熱で気泡を発生させて圧力室52内の圧力を変化させる発熱素子(ヒーター)を圧力発生素子として利用することも可能である。すなわち、圧力発生素子は、圧力室52内の圧力を変化させる要素として包括され、圧力を変化させる方法(ピエゾ方式/サーマル方式)や構成の如何は不問である。
【0052】
(10)変形例10
以上の各形態の印刷装置100は、プロッターやファクシミリ装置,コピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体噴射装置の用途は画像の印刷に限定されない。例えば、各色材の溶液を噴射する液体噴射装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、液体状の導電材料を噴射する液体噴射装置は、例えば有機EL(Electroluminescence)表示装置や電界放出表示装置(FED:Field Emission Display)等の表示装置の電極を形成する電極製造装置として利用される。また、生体有機物の溶液を噴射する液体噴射装置は、生物化学素子(バイオチップ)を製造するチップ製造装置として利用される。そして、液体の噴射の目標となる物体(着弾対象)は液体噴射装置の用途に応じて相違する。具体的には、前述の印刷装置100の着弾対象は記録紙200であるが、液体噴射装置を表示装置の製造に使用する場合には、例えば表示装置を構成する基板が着弾対象に相当する。
【符号の説明】
【0053】
100……印刷装置、102……制御装置、104……印刷処理部、12……キャリッジ、14……移動機構、16……搬送機構、22(22K,22Y,22M,22C)……インクカートリッジ、24……記録ヘッド、26……供給経路、32……吐出面、34(34K,34Y,34M,34C)……ノズル列、42……駆動回路、44……第2記憶部、46……圧力調整弁、52……圧力室、54……圧電素子、56……ノズル、62……制御部、64……第1記憶部。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体貯蔵部から供給される液体を液滴として着弾対象に噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置であって、
前記液体噴射ヘッドへの前記液体の供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出する検出部と、
検出した前記圧力に応じて、前記着弾対象の単位面積に対する前記液滴の噴射回数を補正する制御部とを備える
液体噴射装置。
【請求項2】
前記噴射回数を規定する噴射情報が記憶される記憶部を備え、
前記制御部は、前記噴射情報が規定する前記噴射回数を前記圧力に応じて補正する
請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記液体噴射ヘッドは、相異なる複数の重量の前記液滴を噴射可能であり、
前記噴射情報は、前記重量ごとに前記噴射回数を規定し、
前記制御部は、前記圧力に応じて、前記噴射情報が規定する前記噴射回数を前記重量毎に補正する
請求項2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記噴射情報は、前記液体の色ごとに前記噴射回数を規定する
請求項3に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記液体噴射ヘッドの動作履歴を記憶し、
前記検出部は、前記動作履歴に応じて前記圧力を検出する
請求項2から4のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記記憶部は、基準時刻からの経過時間を記憶し、
前記検出部は、前記経過時間に応じて前記圧力を検出する
請求項2から5のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出する圧力センサーである
請求項1から6のいずれか1項に記載の液体噴射装置。
【請求項8】
液体貯蔵部から供給される液体を液滴として着弾対象に噴射する液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置において、
前記液体噴射ヘッドへの前記液体の供給経路または前記液体貯蔵部における前記液体の圧力を検出して、検出した前記圧力に応じて、前記着弾対象の単位面積に対する前記液滴の噴射回数を補正する
液体噴射装置の制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−213965(P2012−213965A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81690(P2011−81690)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】