説明

液体噴射装置

【課題】液体噴射ヘッドの個体差によらず噴射特性を一定に揃えることが可能な液体噴射装置を提供する。
【解決手段】駆動信号発生回路は、仕様上で標準の特性を有する標準ヘッドおよび当該標準ヘッドとは異なる他の記録ヘッドに共通で用いられる共通駆動信号COMを発生し、共通駆動信号は、単位周期T内で先に発生される第1の噴射パルスPS1と、当該第1の噴射パルスの後に続いて発生される第2の噴射パルスPS2と、を含み、第2の噴射パルスがアクチュエーターに印加されるタイミングが、標準ヘッドにおいて第1の噴射パルスを用いてインクを噴射した後に生じる残留振動の振幅の極大点又は極小点に対応するタイミングに設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式プリンター等の液体噴射装置に関し、特に、単位周期内に複数の液体を連続的に噴射する構成の液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体噴射装置は、液体を噴射するノズルを有する液体噴射ヘッドを備え、この液体噴射ヘッドから各種の液体を噴射する装置である。この液体噴射装置の代表的なものとして、例えば、液体噴射ヘッドとしてのインクジェット式記録ヘッド(以下、単に記録ヘッドという)を備え、この記録ヘッドのノズルから液体状のインクを記録紙等の記録媒体(着弾対象)に対して噴射・着弾させてドットを形成することで画像等の記録を行うインクジェット式プリンター(以下、単にプリンターという。)等の画像記録装置を挙げることができる。また、近年においては、この画像記録装置に限らず、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造装置等、各種の製造装置にも液体噴射装置が応用されている。
【0003】
例えば、上記プリンターには、複数のノズルを列設して成るノズル列(ノズル群)を有し、噴射パルスを圧力発生手段(例えば、圧電振動子、発熱素子、又は静電式アクチュエーター等)に印加してこれを駆動することにより圧力室内の液体に圧力変化を与え、この圧力変化を利用して圧力室に連通したノズルから液体を噴射させるように構成されたものがある。
【0004】
上記のプリンターでは、インク噴射後のインクの残留振動が問題となることがある。即ち、この残留振動によってメニスカスの挙動が乱れ、これにより次に行うインク滴の噴射動作に悪影響を及ぼす虞がある。特に、記録速度の高速化や記録画像の高解像度化に伴って、ごく微小(例えば、数pl)なインク滴を非常に短い時間(例えば、数μs)で連続的に噴射する場合、上記の残留振動を可及的に抑制することが望まれる。例えば、1回の印刷単位周期(駆動信号の始端を規定するタイミング信号で区画される駆動信号の繰り返し周期)内で噴射するインク滴の数に応じて記録媒体に形成する画素の階調表現を行う構成の場合、即ち、多ショット/画素印字の場合、上記の残留振動の影響を受けて、インク滴を連続して噴射した際に各噴射時のインク噴射特性が変動する。すなわち、単位周期において先にインク滴を噴射した後に続いて次にインク滴を噴射する場合、圧力室内に生じる圧力振動は、振動板電極の駆動によって生じる圧力振動と、先のインク滴の噴射時に生じた残留振動との重ね合わせになる。したがって、残留振動に起因して、振動板電極の駆動を開始する時点におけるメニスカスの変位状態が、1回の駆動のみでインク滴を1滴だけ噴射する場合と多ショットでインク滴を複数滴噴射する場合とで相違することがある。
【0005】
そこで、連続したインク滴の噴射により1画素分の印字を行う場合に、第1の噴射パルスを印加し終わった時点からその次の噴射パルスを印加するまでの間隔を、圧力室内のインクに生じるヘルムホルツ周期Tc(以下、適宜、固有振動周期Tcとも言う。)以上に設定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これにより、先の噴射による残留振動の影響を可及的に抑えて、後の噴射時の液滴の飛翔速度や液量の変動等を抑制するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−062548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、インク噴射後に生じるインクの残留振動の周期は、上記の固有振動周期Tcと必ずしも一致しない。特に、噴射時の粘度がいわゆる高粘度領域の液体、たとえば、8mPa・s以上の液体(以下、高粘度液体)を用いる場合には、粘度の低い液体(8mPa・s未満)を用いる場合と比較して、Tcと残留振動の周期が乖離する傾向にある。したがって、上記のパルスの間隔をTcに基づいて設定したとしても、上記の問題が解消されない可能性があった。なお、このような問題はインクジェット式記録装置だけではなく、インク以外の液体を噴射する液体噴射装置においても同様に存在する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体噴射ヘッドの個体差によらず噴射特性を一定に揃えることが可能な液体噴射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体供給源からの液体が供給部を通じて供給される圧力室と、当該圧力室に連通し、液体が噴射されるノズルと、当該ノズルから液体を噴射させるために前記圧力室内の液体に圧力変化を与える動作を行う圧力発生手段と、を有する液体噴射ヘッド、及び、前記ノズルから液体を噴射させるべく前記圧力発生手段を駆動する噴射パルスを単位周期内に複数含む駆動振動を発生する駆動信号発生部を備えた液体噴射装置であって、
前記駆動信号発生部は、仕様上で標準の特性を有する標準液体噴射ヘッドおよび当該標準液体噴射ヘッドとは固有振動周期Tcが同一の或いは異なる他の液体噴射ヘッドに共通で用いられる共通駆動信号を発生し、
前記共通駆動信号は、単位周期内で先に発生される第1の噴射パルスと、当該第1の噴射パルスの後に続いて発生される第2の噴射パルスと、を含み、
前記第2の噴射パルスが前記圧力発生手段に印加されるタイミングが、前記標準液体噴射ヘッドにおいて前記第1の噴射パルスを用いて液体を噴射した後に生じる残留振動の振幅の極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されたことを特徴とする。
なお、「仕様上で標準の特性を有する標準液体噴射ヘッド」とは、所定の仕様の液体噴射ヘッドを製造する上で目標とする(理想の)特性を有する液体噴射ヘッド、又は、製造上で最も多く現れる特性を有する液体噴射ヘッドを意味する。また「特性」とは、液体噴射ヘッド自体の構造の寸法、これに応じて定まる固有振動周期Tc、或いは、ノズルから液体を実際に噴射したときの液体の重量や飛翔速度等を意味する。
また、「単位周期」とは、駆動信号の繰り返し周期であり、例えば、駆動信号の発生タイミングを規定するタイミング信号よって区切られる区間を意味する。
【0010】
本発明に係る液体噴射装置では、駆動信号発生部が、標準液体噴射ヘッドおよび当該標準液体噴射ヘッドとは固有振動周期Tcが同一の或いは異なる他の液体噴射ヘッドに共通で用いられる共通駆動信号を発生し、共通駆動信号は、単位周期内で先に発生される第1の噴射パルスと、これに後続する第2の噴射パルスと、を含み、第2の噴射パルスが圧力発生手段に印加されるタイミングが、標準液体噴射ヘッドにおいて第1の噴射パルスを用いて液体を噴射した後に生じる残留振動の振幅の極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されている。そのため、単位周期内で第1の噴射パルスと第2の噴射パルスを圧力発生手段にそれぞれ印加することで液体を連続的に噴射したときの液体の量や飛翔速度などの噴射特性を、液体噴射ヘッドの個体差によらず一定に揃えることができる。即ち、標準ヘッドの液体噴射時の残留振動に基づいて設定された共通駆動信号を他の液体噴射ヘッドに用いた場合に、液体噴射ヘッドの個体差によって第2の噴射パルスが圧力発生手段に印加されるタイミングでの残留振動の位相が大きくずれることが防止され、しかも、多少位相がずれたとしても極点(極大点又は極小点)の近傍では、残留振動の中腹と比較して振幅の差が小さい。その結果、液体噴射ヘッドの個体差によらず噴射特性を一定に揃えることができる。そして、共通駆動信号が標準ヘッドの実際の液体噴射時の残留振動に基づいて設定されることで、実際の残留振動の周期とヘルムホルツ振動周期Tcとの大幅な不一致に起因する噴射特性の変動を抑制することができる。
【0011】
上記構成において、前記第2の噴射パルスの前記圧力発生手段への印加タイミングが、前記残留振動の振幅の2つめの極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されることが望ましい。
【0012】
当該構成によれば、第2の噴射パルスの圧力発生手段への印加タイミングが、残留振動の振幅の2つめの極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されるので、噴射パルス間の間隔を必要以上に広げることなく、液体の噴射が不安定になることを防止することができる。即ち、残留振動の1つめの極大点又は極小点は、それ以降の極大点又は極小点と比較して振幅が大きいので、1つめの極大点又は極小点に第2の噴射パルスの圧力発生手段への印加タイミングを合わせた場合には、液体の飛翔速度が不用意に上昇して飛翔曲がりが生じる等、噴射が不安定になる虞がある。また、残留振動の3つめ以降の極大点又は極小点に第2の噴射パルスの圧力発生手段への印加タイミングを合わせた場合には、噴射パルス間の間隔が広がりすぎてしまうため、噴射動作が全体的に遅くなってしまう。これに対し、残留振動の振幅の2つめの極大点又は極小点に第2の噴射パルスの圧力発生手段への印加タイミングを合わせた場合、1つめよりも振幅が減少しているので、噴射パルス間の間隔を広げすぎることなく、液体の噴射が不安定になることを抑制することができる。
【0013】
また、本発明は、前記ノズルから噴射される時点での前記液体の粘度が8mPa・s以上である場合に好適である。
【0014】
即ち、8mPa・s以上の高粘度の液体を噴射する場合、粘度の低い液体を用いる場合と比較して、Tcと残留振動の周期が乖離する傾向にあるため、共通駆動信号が標準ヘッドの実際の液体噴射時の残留振動に基づいて設定されることで、実際の残留振動の周期とヘルムホルツ振動周期Tcとの不一致に起因する噴射特性の変動をより確実に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】印刷システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】記録ヘッドの要部断面図である。
【図3】駆動信号発生回路等の構成を説明するブロック図である。
【図4】(a)駆動信号の一例を説明するための波形図、(b)は第1の噴射パルスによるインク噴射後の残留振動を説明する模式図である。
【図5】噴射パルスについて説明する波形図である。
【図6】他のヘッドを説明する断面図である。
【図7】他のヘッド用の噴射パルスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、本発明の液体噴射装置として、インクジェット式記録装置(以下、プリンター)を例に挙げて説明する。
【0017】
図1に例示したプリンター1は、記録用紙、布、フィルム等の記録媒体に向けて、液体の一種であるインクを噴射する。記録媒体は、液体が噴射されて着弾する対象となる着弾対象である。外部装置としてのコンピューターCPは、プリンター1と通信可能に接続されている。プリンター1に画像を印刷させるため、コンピューターCPは、その画像に応じた印刷データをプリンター1に送信する。
【0018】
プリンター1は、用紙搬送機構2、キャリッジ移動機構3、駆動信号発生回路4、ヘッドユニット5、検出器群6、及び、プリンターコントローラー7を有する。用紙搬送機構2は、用紙を搬送方向に搬送させる。キャリッジ移動機構3は、ヘッドユニット5が取り付けられたキャリッジを所定の移動方向(例えば紙幅方向)に移動させる。駆動信号発生回路4は、駆動信号COMを生成する。この駆動信号COMは、記録用紙(記録媒体)への印刷時に記録ヘッド8のアクチュエーター10(図2(a)参照)へ印加されるものであり、図4に一例を示すように、発生単位周期T内に噴射パルスPSを複数含む一連の信号である。ここで、噴射パルスPSとは、記録ヘッド8から液滴状のインクを噴射させるために、アクチュエーター10に所定の動作を行わせるものである。駆動信号COMが複数の噴射パルスPSを含むことから、駆動信号発生回路4は、駆動信号発生部に相当する。なお、駆動信号発生回路4の構成や噴射パルスPSの詳細については後述する。
【0019】
ヘッドユニット5は、記録ヘッド8とヘッド制御部11とを有する。記録ヘッド8は液体噴射ヘッドの一種であり、インクを記録媒体に向けて噴射させて、当該記録媒体に着弾させる。ヘッド制御部11は、プリンターコントローラー7からのヘッド制御信号に基づき、記録ヘッド8を制御する。なお、記録ヘッド8の構成については後で説明する。検出器群6は、プリンター1の状況を監視する複数の検出器によって構成される。これらの検出器による検出結果は、プリンターコントローラー7に出力される。プリンターコントローラー7は、プリンター1における全体的な制御を行う。このプリンターコントローラー7についても後で説明する。
【0020】
図2は、本実施形態の記録ヘッド8の構成を示す圧力室長手方向の要部断面図である。この記録ヘッド8は、シリコン製の流路基板15の一方の面に、同じくシリコン製のノズル基板16を、流路基板15の他方の面に、ガラス製の電極基板17を各々配置して積層し、各部材間を接着剤によって接合することで3層構造となっている。
【0021】
上記ノズル基板16は、ドット形成密度に対応したピッチで複数のノズル14を列状に開設した板材である。上記流路基板15には、その表面から異方性エッチングを施すことにより、インク流路となる溝部が形成されており、この溝部の開口部分がノズル基板16によって塞がれることにより、各ノズル14に対応して設けられた複数の圧力室19、各圧力室共通のインクが導入されるリザーバー20、及び、リザーバー20と各圧力室19との間を連通するインク供給路21から成る一連のインク流路が区画される。リザーバー20は、インクカートリッジ(液体供給源の一種。図示せず。)から供給されたインクを一旦貯留する部分であり、ノズル列を構成する各ノズル14に共通の液体貯留室(共通液室)に相当する。また、インク供給路21は、本発明における供給部に相当する。
【0022】
流路基板15において、リザーバー20となる溝部の底面には、基板厚さ方向に貫通したインク導入口22が開設されている。また、各圧力室19となる溝部の底面(一方の面)には、ヘッド積層方向(図2において上下方向)に弾性変位可能な弾性面として機能する薄肉部23が形成されている。そして、流路基板15には共通電極端子18が形成されており、この流路基板15は導電性を有するので、上記薄肉部23は、共通電極(可撓性電極)としても機能するようになっている。
【0023】
上記電極基板17は、例えば、ホウ珪酸ガラスによって作製されている。このホウ珪酸ガラスは、熱膨張率がシリコンと同程度である。このため、温度変化によるヘッド構成部材間の剥離が生じ難くなっている。この電極基板17の流路基板15に接合される面において、圧力室19の薄肉部23に対向する位置には、トレイ状に浅くエッチングされた凹部24が、各圧力室19に対応して形成されている。この凹部24の底面には、インジウムスズ酸化物(ITO)などの薄膜を積層して形成された個別電極(固定電極)25がそれぞれ敷設されている。各個別電極25は、各圧力室19に対応して延在するセグメント電極25aと、外部に露出している電極端子部25bと、から構成されている。そして、電極基板17を流路基板15に接合すると、各圧力室19の薄肉部23と各個別電極25のセグメント電極25aとが狭小な隙間を形成した状態でそれぞれ対向する。
【0024】
また、この電極基板17には、基板厚さ方向を貫通したインク導入路17′が形成されており、このインク導入路17′は、流路基板15との接合状態でインク導入口22と連通するようになっている。このインク導入路17′とインク導入口22を通じて、例えばプリンター本体側に設けられたインクカートリッジからのインクがリザーバー20内に導入されるようになっている。そして、リザーバー20のインクは、このリザーバー20から分岐したインク供給路21を通って各圧力室19に分配供給される。
【0025】
流路基板15の共通電極端子18と、電極基板17の個別電極25との間には、プリンターコントローラー7側からの駆動信号(噴射パルスPS)が印加される。駆動電圧が基準電位(又は接地電位)よりも+側に変化することにより、可撓性電極或いは変形部として機能する薄肉部23と個別電極25との間に静電気力が発生し、この静電気力によって、薄肉部23が弾性変形して個別電極25側に撓み、セグメント電極25aの表面に吸着する。この結果、圧力室19の容積が増加して、インク供給路21を通じてリザーバー20側からインクが圧力室19内に流入する。そして、駆動電圧が−側(接地電位側)に急激に変化して静電気力が急激に減少すると、薄肉部23はその弾性力によってセグメント電極25aの表面から離れて圧力室19側に変位する。その結果、圧力室19の容積が急激に減少する。これにより、圧力室19内のインクに圧力変動が生じ、この圧力変動によってノズル14からインクが噴射(噴射)される。即ち、薄肉部23、共通電極端子18、個別電極25、及び薄肉部23は、アクチュエーター10(本発明における圧力発生手段の一種)として機能する。アクチュエーター10は、印加された噴射パルスPSにおける電位の変化パターンに応じた度合いで、薄肉部23(変形部)を変形させる手段といえる。そして、圧力室19内のインクに対する加圧度合いや減圧度合いは、個別電極25における単位時間あたりの電位変化量等によって概ね定めることができる。
【0026】
上記のように記録ヘッド8には、リザーバー20からノズル14に至る一連のインク流路(液体で満たされる液体流路に相当する)が、ノズル14の数に応じて複数設けられている。このインク流路では、太い流路の圧力室19に対して、細い流路のノズル14及びインク供給路21がそれぞれ連通している。このため、インクの流れなどの特性を解析する場合、ヘルムホルツの共鳴器の考え方が適用される。このようなインク流路では、圧力室19内のインクに圧力変化を与えることで、ノズル14からインクを噴射させる。このとき、圧力室19、インク供給路21、及び、ノズル14は、ヘルムホルツの共鳴器のように機能する。このため、圧力室19内のインクに圧力が加わると、この圧力の大きさはヘルムホルツ周期と呼ばれる固有の周期Tcに基づいて変化する。すなわち、インクには圧力振動が生じる。
【0027】
ここで、ヘルムホルツ周期(圧力室内のインクの固有振動周期)Tcは、一般的には次式(1)で表すことができる。
Tc=2π√〔(Mn+Ms)/(Mn×Ms×(Cc+Ci))〕・・・(1)
式(1)において、Mnはノズル14のイナータンス(単位断面積あたりのインクの質量、後述する。)、Msはインク供給路21のイナータンス、Ccは圧力室19のコンプライアンス(単位圧力あたりの容積変化、柔らかさの度合いを示す。)、Ciはインクのコンプライアンス(Ci=体積V/〔密度ρ×音速c〕)である。
この圧力振動の振幅は、インク流路をインクが流れることで次第に小さくなる。例えば、ノズル14やインク供給路21における損失、及び、圧力室19を区画する壁部等における損失により、圧力振動は減衰する。圧力振動が減衰するときの圧力振動の周期は一定の状態となる。
【0028】
本実施形態の記録ヘッド8において、圧力室19における固有振動周期Tcは10μs以下という比較的短い範囲内に定められる。なお、このTcは、隣り合う圧力室19同士を区画する壁部の厚さ、薄肉部23の厚さやコンプライアンス、流路基板15やノズル基板16の素材によっても変化する。したがって、同種、即ち、同じ仕様の記録ヘッドであっても、壁部の厚さ、薄肉部23の厚さやコンプライアンス、流路基板15やノズル基板16などの製造時の寸法誤差等によってTcがヘッド毎に異なる場合がある。また、アクチュエーター10の作動によりノズル14からインクを噴射したときに圧力室19内のインクに生じる圧力振動(残留振動)の周期は、上記Tcと僅かにずれる。特に、噴射時の粘度が8mPas以上の高粘度液体(例えば、紫外線硬化型インク等)を用いる場合には、粘度が8mPas未満の液体を用いる場合と比較して、Tcと残留振動の周期が乖離する傾向にある。
【0029】
プリンターコントローラー7は、プリンター1における全体的な制御を行う。例えば、コンピューターCPから受け取った印刷データや各検出器からの検出結果に基づいて制御対象部を制御し、用紙に画像を印刷させる。図1に示すように、プリンターコントローラー7は、インターフェース部28と、CPU29と、メモリー30とを有する。インターフェース部28は、コンピューターCPとの間でデータの受け渡しを行う。CPU29は、プリンター1の全体的な制御を行う。メモリー30は、コンピュータープログラムを格納する領域や作業領域等を確保する。CPU29は、メモリー30に記憶されているコンピュータープログラムに従い、各制御対象部を制御する。例えば、CPU29は、用紙搬送機構2やキャリッジ移動機構3を制御する。また、CPU29は、記録ヘッド8の動作を制御するためのヘッド制御信号をヘッド制御部11に送信したり、駆動信号COMを生成させるための制御信号を駆動信号発生回路4に送信したりする。
【0030】
ここで、駆動信号COMを生成させるための制御信号はDACデータとも呼ばれ、例えば複数ビットのデジタルデータである。このDACデータは、生成される駆動信号COMの電位の変化パターンを定める。従って、このDACデータは、駆動信号COMや噴射パルスPSの電位を示すデータともいえる。このDACデータは、メモリー30の所定領域に記憶されており、駆動信号COMの生成時に読み出されて駆動信号発生回路4へ出力される。
【0031】
駆動信号発生回路4は、駆動信号発生部として機能し、DACデータに基づき、噴射パルスPSを有する駆動信号COMを生成する。図3に示すように、駆動信号発生回路4は、DAC回路31と、電圧増幅回路32と、電流増幅回路33と、を有する。DAC回路31は、デジタルのDACデータをアナログ信号に変換する。電圧増幅回路32は、DAC回路31で変換されたアナログ信号の電圧を、アクチュエーター10を駆動できるレベルまで増幅する。このプリンター1では、DAC回路31から出力されるアナログ信号は最大3.3Vであるのに対し、電圧増幅回路32から出力される増幅後のアナログ信号(便宜上、波形信号ともいう。)は最大42Vである。電流増幅回路33は、電圧増幅回路32からの波形信号について電流の増幅をし、駆動信号COMとして出力する。この電流増幅回路33は、例えば、プッシュプル接続されたトランジスタ対によって構成される。
【0032】
ヘッド制御部11は、駆動信号発生回路4で生成された駆動信号COMの必要部分をヘッド制御信号に基づいて選択し、アクチュエーター10へ印加する。このため、図3に示すように、ヘッド制御部11は、駆動信号COMの供給線の途中に、アクチュエーター10毎に設けられた複数のスイッチ34を有する。そして、ヘッド制御部11は、ヘッド制御信号からスイッチ制御信号を生成する。このスイッチ制御信号によって各スイッチ34を制御することで、駆動信号COMの必要部分(噴射パルスPS)がアクチュエーター10へ印加される。このとき、必要部分の選択の仕方次第で、ノズル14からのインクの噴射を制御できる。
【0033】
次に、駆動信号発生回路4によって生成される駆動信号COMについて説明する。図4(a)に示すように、駆動信号COMには、繰り返し生成される複数の噴射パルスPSが含まれている。本実施形態において、タイミング信号の一種であるLAT信号で区切られる駆動信号COMの繰り返し周期であって、記録媒体上に画像を構成する単位である画素を形成するための周期である単位周期T内に、合計2つの噴射パルスPS1及びPS2が含まれる。これらの噴射パルスPSは、いずれも同じ波形となっている。すなわち、電位の変化パターンが同じである。前述したように、この駆動信号COMは、アクチュエーター10の個別電極25と共通電極端子18との間に印加される。これにより、固定電位とされた薄肉部23との間に、噴射パルスPSの電位の変化パターンに応じた電位差が生じる。その結果、アクチュエーター10は、電位の変化パターンに応じて薄肉部23を静電気力によって変位させることで圧力室19の容積を変化させる。
【0034】
図5は、上記噴射パルスPS1(本発明における第1の噴射パルスに相当)の構成を説明する波形図である。なお、噴射パルスPS2(本発明における第2の噴射パルスに相当)については、噴射パルスPS1と同一の波形であるので、その説明を省略する。また、図5において、縦軸は駆動信号の電位であり、基準電位としての基準電位VBを0Vにしている。また、横軸は時間である。
噴射パルスPS1は、第1波形部P1と、第2波形部P2と、第3波形部P3とからなる略台形状の波形である。第1波形部P1は、タイミングt0aからタイミングt1aに亘って生成される部分である。この第1波形部P1は、タイミングt0aにおける電位(始端電位に相当する)が基準電位VBであり、タイミングt1aにおける電位(終端電位に相当する)が最高電位(動作電位の一種)VHである。このため、第1波形部P1がアクチュエーター10に印加されると、圧力室19は、基準容積から最大容積まで、第1波形部P1の生成期間に亘って膨張する。この第1波形部P1は、インク滴を噴射させるための準備動作としてメニスカスを圧力室19側に引き込むべく圧力室19を膨張させる部分である。
【0035】
上記噴射パルスPS1における最高電位VHから基準電位VBまでの差(以下、駆動電圧Vhともいう)は数十Vである。この駆動電圧Vhの設定については、例えば、駆動電圧が異なる2つの評価用パルスを用いて、アクチュエーター10を駆動してノズル14から噴射されるインクの量をそれぞれ取得し、これらの駆動電圧とインク量とに基づき、目標とする噴射量(噴射パルス単発で用いてインクを噴射したときのインク量)が得られる駆動電圧を設定する。具体的には、噴射量の変化量が電圧の変化量に比例するものとして、プリンターの仕様上目標とするインク量に対応する駆動電圧を取得し、この値を噴射パルスPS1,PS2の駆動電圧Vhとして設定する。なお、噴射パルスPS1の駆動電圧と噴射パルスPS2の駆動電圧とは、それぞれ異なる値に設定される場合もある。
【0036】
第2波形部P2は、タイミングt1aからタイミングt2aに亘って生成される部分である。この第2波形部P2は、最高電位VHで一定である。このため、第2波形部P2がアクチュエーター10に印加されると、圧力室19は、第2波形部P2の生成期間に亘って最大容積が維持される。第3波形部P3は、タイミングt2aからタイミングt3aに亘って生成される部分である。この第3波形部P3は、始端電位が最高電位VHであり、終端電位が基準電位VBである。このため、第3波形部P3がアクチュエーター10に印加されると、圧力室19は、最大容積から基準容積(或いはそれを越える程度)まで第3波形部P3の生成期間に亘って収縮する。この圧力室19の収縮に伴ってインクが噴射されるので、第3波形部P3はインク滴を噴射させるための部分に相当する。この噴射パルスPS1には、インク滴を噴射した後の残留振動を抑制するための制振部分が含まれないので、インク噴射後には、残留振動が生じる。
【0037】
インクの最大噴射周波数は、単位周期Tにおいて生成される各噴射パルスPSの間隔によって定められる。そして、この噴射パルスPS1を1つだけアクチュエーター10に印加することでノズル14から1回だけ噴射されるインクの重量は、例えば数ngである。即ち、単位周期Tにおいて、この噴射パルスPS1のみを選択してアクチュエーター10を駆動してインク滴を噴射させると、記録媒体上にはミドルドットに対応する大きさのドットが形成される。また、単位周期Tにおいて、噴射パルスPS1と噴射パルスPS2の両方を選択してアクチュエーター10に印加すると、ノズル14からはインク滴が2回連続して噴射されて、記録媒体上にはラージドットに対応する大きさのドットが形成される。
【0038】
ところで、記録媒体に印刷される画像の画質を向上させるには、記録ヘッド8の個体差に拘わらず、一定の噴射特性(噴射されるインクの量や飛翔速度)が得られることが望まれる。
図4(b)は、単位周期T中で先に発生される噴射パルスPS1を用いてインクを噴射したときのノズル14におけるメニスカスの振動状態を模式的に示すグラフであり、同一仕様の3つの記録ヘッド8(A〜C)の場合を示している。なお、当該グラフにおいて横軸は時間を表し、縦軸はメニスカスの噴射方向(ノズル14の軸方向)の位置を表している。同図において、波形が上へ向かうほど記録ヘッド8の外側(噴射側)にメニスカスが移動し、逆に下へ向かうほど圧力室側にメニスカスが引き込まれることを意味する。また、グラフにおいてDxで示す時点が、本実施形態における噴射パルスPS2の始端であり、当該噴射パルスPS2によってアクチュエーター10の駆動(噴射動作)が開始されるタイミングである。さらに、上記3つの記録ヘッド8のうち、Bの記録ヘッド8は、所定の仕様の記録ヘッド8を製造する上で目標とする(即ち、理想の)特性、又は、製造上で最も多く現れる特性を有する標準記録ヘッド(本発明における標準液体噴射ヘッドに相当)である。なお、この標準ヘッドに関し、当該標準ヘッドの特性が得られることを目標として各記録ヘッドが設計・製造されるので、結果的に、製造上で最も多く現れる特性を有する記録ヘッドとも言える。
【0039】
ここで、上述した固有振動周期Tcは、記録ヘッド毎に固有であるため、このTcに応じて残留振動の周期もヘッド毎に相違する場合がある。例えば、実線で示すBの標準ヘッドにおける残留振動の周期と比較して、破線で示す記録ヘッドAにおける残留振動の周期は短くなっており、また、一点鎖線で示す記録ヘッドCの残留振動の周期は長くなっている。したがって、全ての記録ヘッドについて噴射パルス同士の間隔Δt(図4(a))を一定の値とした場合、単位周期内において先に発生される噴射パルスPS1の次に発生される噴射パルスPS2がアクチュエーター10に印加される時点(即ち、噴射パルスPS2によってアクチュエーター10の駆動が開始されるタイミングであり、噴射パルスPS2の始点)における残留振動の位相が記録ヘッド毎に異なる場合がある。
【0040】
そして、例えば、標準ヘッドにおいて噴射パルスPS1を用いてインクを噴射したときの残留振動の中腹あたり(図4(b)におけるタイミングDy)に噴射パルスPS2の始端を合わせるように、噴射パルス同士の間隔Δtを定めた場合、図4(b)においてG1で示すように、各記録ヘッド間で当該タイミングDyにおける残留振動の振幅の差が大きくなってしまう。その結果、各記録ヘッド間において噴射特性のばらつきが大きくなってしまう問題がある。この問題は、本実施形態に示すようなTcが小さい噴射ヘッド、具体的には、10μs以下の液体噴射ヘッドにおいて顕著に存在する。その理由としては、Tcと残留振動の周期は異なることを上述したが、その計時的なずれ量は僅かである上、Tcの数値と残留振動の周期には相関関係が存在する。つまり、Tcが小さいと残留振動の周期も小さくなると言える。ここで、振幅が同じであるものと仮定して周期が大きい残留振動と周期が小さい残留振動とを想定する。前者については、残留振動の振幅の極値から振幅の中腹に至るまでの時間が比較的長いため、極値に対応したタイミングで噴射パルスPS2を印加しなくても所望の量の液滴を噴射しやすい。しかしながら、後者の場合には、残留振動の振幅の極値から残留振動の振幅の中腹に至るまでの時間が短いため、極値に対応したタイミングで噴射パルスPS2を印加しないということは、残留振動の中腹に非常に近いタイミングで噴射パルスPS2を印加することを意味する。そのため、極値に対応したタイミングで噴射パルスPS2を印加する場合と、極値に対応しないタイミングで噴射パルスPS2を印加する場合との間には、噴射される液滴の量が所望の量であるか否かの差が出てしまう。そのため、Tcが小さい液体噴射ヘッドでは、本発明を適用することによる作用効果がより顕著なものとなる。
【0041】
このため、本発明に係るプリンター1では、単位周期T内の駆動信号COMに含まれる噴射パルスPS1と、この次に発生される噴射パルスPS2との間隔Δtが、標準ヘッドにおいて噴射パルスPS1を用いてインクを噴射したときの残留振動の極値(極大点又は極小点)に噴射パルスPS2の始端(即ち、PS2がアクチュエーター10に印加開始される時点)を合わせるようにパルス同士の間隔Δtが設定される。本実施形態では、噴射パルスPS2の始端が、上記残留振動の振幅の2つめの極大点Mx2又は極小点Mm2に対応するタイミングDxに設定される。
【0042】
そして、このように設定された駆動信号COMが、標準ヘッド及びこの標準ヘッド以外の他の記録ヘッド8(標準ヘッドの固有振動周期Tcと同一のTcを有する記録ヘッド及び標準ヘッドの固有振動周期Tcと異なるTcを有する記録ヘッドの両方を含む)に共通な駆動信号(共通駆動信号)として用いられる。これにより、噴射パルスPS2がアクチュエーター10に印加される時点Dxの、先に噴射パルスPS1を用いてインクを噴射した後の残留振動の位相が、記録ヘッド8の個体差によらず一定に揃えられる。これにより、単位周期内で噴射パルスPS1と第2の噴射パルスPS2をアクチュエーター10にそれぞれ印加することでインクを連続的に噴射したときのインクの量や飛翔速度などの噴射特性を、記録ヘッド8の個体差によらず一定に揃えることが可能となる。
【0043】
即ち、標準ヘッドは、製造上目標とする特性、又は、製造上で最も多く現れる特性を有するので、この標準ヘッドのインク噴射時の残留振動に基づいて設定された共通駆動信号を他の記録ヘッド8に用いた場合に、記録ヘッド8の個体差によって第2の噴射パルスPS2がアクチュエーター10に印加されるタイミングでの残留振動の位相が大きくずれることが防止され、しかも、多少位相がずれたとしても極点(極大点又は極小点)の近傍では、残留振動の中腹と比較して振幅の差G2が小さい。その結果、記録ヘッド8の個体差によらず噴射特性を一定に揃えることができる。そして、共通駆動信号が標準ヘッドの実際のインク噴射時の残留振動に基づいて設定されることで、実際の残留振動の周期とヘルムホルツ振動周期Tc(固有振動周期Tc)との不一致に起因する噴射特性の変動が抑制される。特に、例えば、紫外線硬化型インクのような高粘度のインクを噴射する場合、粘度の低いインクを用いる場合と比較して、Tcと残留振動の周期が乖離する傾向にあるため、標準ヘッドにおけるインク噴射時の実際の残留振動に基づいて共通駆動信号が設定されることで、実際の残留振動の周期とTcとの不一致に起因する噴射特性の変動をより確実に抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態においては、噴射パルスPS2の始端が、上記残留振動の振幅の2つめの極大点Mx2又は極小点Mm2に対応するタイミングに設定されるので、噴射パルス間の間隔を必要以上に広げることなく、インクの噴射が不安定になることが防止される。即ち、残留振動の1つめの極大点Mx1又は極小点Mm1は、それ以降の極大点又は極小点と比較して振幅が大きいので、1つめの極大点Mx1又は極小点Mm1に噴射パルスPS2の始端を合わせた場合には、インクの量や飛翔速度が不用意に上昇して飛翔曲がりが生じる等、噴射が不安定になる虞がある。また、残留振動の3つめ以降の極大点又は極小点に第2の噴射パルスの始端を合わせた場合には、噴射パルス間の間隔が広がりすぎてしまうため、噴射動作が全体的に遅くなってしまい、高周波駆動が困難となる。これに対し、残留振動の振幅の2つめの極大点Mx2又は極小点Mm2に第2の噴射パルスPS2の始端を合わせた場合、1つめの極点よりも振幅が減少しているので、噴射パルス間の間隔Δtを広げすぎることなく、インクの噴射が不安定になることを抑制することができる。特に、高粘度インクの場合、残留振動の減衰が低粘度のものよりも早いので、より高い効果が得られる。
【0045】
なお、本実施形態においてはパルス同士の間隔Δtを噴射パルスPS1の後端(第3波形部P3の後端)から噴射パルスPS2の始端(第1波形部P1の始端)までの間隔としているが、これには限られない。例えば、各パルスの始端同士の間隔でも良いし、各パルスの終端同士の間隔でも良い。
【0046】
上記パルス間隔Δtの設定方法に関し、例えば、記録ヘッドの検査工程で実際にインクを噴射することでインクの量(重量又は体積)や飛翔速度等の噴射特性が取得され、設計・仕様上最も理想的な噴射特性を有するものが標準ヘッドとして特定される。そして、この標準ヘッドでインクを噴射したときに圧力室19内のインクに生じる残留振動を測定することで当該残留振動の極値が把握される。残留振動の測定方法としては、例えば、噴射パルスの第2波形部P2の長さを段階的に変えつつ当該噴射パルスを用いてインクを噴射し、各段階のインクの飛翔速度を測定してプロットする方法等が挙げられる。
【0047】
前述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0048】
前述した実施形態の記録ヘッド8では、アクチュエーター10として、噴射パルスPS1で与えられる電位が高いほど、静電気力を利用して圧力室19の容積を大きくするための動作をする静電式アクチュエータータイプのものを用いていたが、アクチュエーター10としては、他のタイプのものを用いてもよい。図6に例示した他の記録ヘッド8′は、アクチュエーター10として、所謂撓み振動型の圧電素子(ピエゾ素子)37を採用している。そして、この圧電素子37として、噴射パルスPS′(図7を参照)で与えられる電位が高いほど、圧力室40の容積を小さくするための動作をするタイプのものを用いている。
【0049】
簡単に説明すると、他の記録ヘッド8′は、リザーバー38と、インク供給口39と、圧力室40と、ノズル41とを有する。そして、リザーバー38から圧力室40を通ってノズル41に至る一連のインク流路をノズル41に対応して複数有している。他の記録ヘッド8′でも圧力室40は、その容積が圧電素子37の動作によって変化される。すなわち、圧力室40の一部は振動板42によって区画され、圧力室40とは反対側となる振動板42の表面には圧電素子37が設けられている。
【0050】
圧電素子37はそれぞれの圧力室40に対応して複数設けられている。各圧電素子37は、例えば圧電体を上電極と下電極とで挟んだ構成であり(何れも図示せず。)、これらの電極間に電位差を与えることにより変形する。この例では、上電極の電位を上昇させると圧電体が充電され、これに伴って圧電素子37は圧力室40側に凸となるように撓む。これにより圧力室40が収縮される。なお、他の記録ヘッド8′では、振動板42における圧力室40を区画している部分が変形部に相当する。
【0051】
他の記録ヘッド8′用の噴射パルスPS′(第1の噴射パルスPS1′,第2の噴射パルスPS2′)は、例えば図7に示す波形のものである。簡単に説明すると、この噴射パルスPS′は、前述した噴射パルスPS(PS1,PS2)を電位方向(高低方向)に反転させた波形をしている。従って、この噴射パルスPS′(PS1′,PS2′)は、第1波形部P11と、第2波形部P12と、第3波形部P13とを有する。
【0052】
第1波形部P11は、始端電位が最高電位VH、終端電位が基準電位VBであり、タイミングt0bからタイミングt1bに亘って生成される。第2波形部P12は、基準電位VBで一定であり、タイミングt1bからタイミングt2bに亘って生成される。第3波形部P13は、始端電位が基準電位VB、終端電位が最高電位VHであり、タイミングt2bからタイミングt3bに亘って生成される。他の記録ヘッド8′用の噴射パルスPS′が有する各部分P11〜P13の機能は、前述した噴射パルスPSが有する各部分P1〜P3の機能と同じである。
【0053】
このような構成の他の記録ヘッド8′でも、単位周期T内の駆動信号COMに含まれる噴射パルスPS1′と、この次に発生される噴射パルスPS2′との間隔Δtが、標準ヘッドにおいて噴射パルスPS1′を用いてインクを噴射したときの残留振動の極値に噴射パルスPS2′の始端(即ち、PS2′が圧電素子37に印加開始される時点)を合わせるようにパルス同士の間隔Δtが設定されることにより、単位周期内で噴射パルスPS1′と噴射パルスPS2′を圧電素子37にそれぞれ印加することでインクを連続的に噴射したときのインクの量や飛翔速度などの噴射特性を、記録ヘッド8′の個体差によらず一定に揃えることができる。
【0054】
なお、前述した各噴射パルスPS(PS1,PS2),PS′(PS1′,PS2′)はあくまで一例である。噴射パルスの波形(電位の変化パターン)は、インクの噴射量やインクの粘度に応じて適宜定められる。
また、単位周期T内の駆動信号中に含まれる噴射パルスの数は例示したものには限られない。即ち、単位周期T内の駆動信号中に3つ以上の噴射パルスが含まれる構成を採用することもできる。この場合、時間軸上で隣り合う噴射パルス同士の間隔を上記の方法で設定すればよい。
さらに、上記実施形態では、ラージドットに対応する大きさのドットを挙げて説明したが、ラージドットに限定されず、複数の噴射パルスを印加して所望の液滴量を得ようとするものであれば、本発明を適用できる。
【0055】
このプリンター1では、インクを噴射させるための動作(噴射動作)をする素子として、アクチュエーター10,圧電素子37を用いている。ここで、噴射動作をする素子は、前述したアクチュエーター10や圧電素子37に限定されるものではない。例えば、所謂縦振動型の圧電素子であってもよいし、発熱素子であってもよいし、磁歪素子であってもよい。そして、この素子として、前述の実施形態のようにアクチュエーター10,圧電素子37を用いた場合には、圧力室19,40の容積を噴射パルスPSの電位に基づいて精度良く制御できる。
【0056】
そして、本発明は、複数の駆動信号を用いて噴射制御が可能な液体噴射装置であれば、プリンターに限らず、プロッター、ファクシミリ装置、コピー機等、各種のインクジェット式記録装置や、記録装置以外の液体噴射装置、例えば、ディスプレイ製造装置、電極製造装置、チップ製造装置等にも適用することができる。そして、ディスプレイ製造装置では、色材噴射ヘッドからR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極製造装置では、電極材噴射ヘッドから液状の電極材料を噴射する。チップ製造装置では、生体有機物噴射ヘッドから生体有機物の溶液を噴射する。
【符号の説明】
【0057】
1…プリンター,4…駆動信号発生回路,10…アクチュエーター,14…ノズル,19…圧力室,20…リザーバー,21…インク供給路,23…薄肉部,25…個別電極,PS1…第1の噴射パルス,PS2…第2の噴射パルス,P1…第1波形部,P2…第2波形部,P3…第3波形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体供給源からの液体が供給部を通じて供給される圧力室と、当該圧力室に連通し、液体が噴射されるノズルと、当該ノズルから液体を噴射させるために前記圧力室内の液体に圧力変化を与える動作を行う圧力発生手段と、を有する液体噴射ヘッド、及び、前記ノズルから液体を噴射させるべく前記圧力発生手段を駆動する噴射パルスを単位周期内に複数含む駆動振動を発生する駆動信号発生部を備えた液体噴射装置であって、
前記駆動信号発生部は、仕様上で標準の特性を有する標準液体噴射ヘッドおよび当該標準液体噴射ヘッドとは固有振動周期Tcが同一の或いは異なる他の液体噴射ヘッドに共通で用いられる共通駆動信号を発生し、
前記共通駆動信号は、単位周期内で先に発生される第1の噴射パルスと、当該第1の噴射パルスの後に続いて発生される第2の噴射パルスと、を含み、
前記第2の噴射パルスが前記圧力発生手段に印加されるタイミングが、前記標準液体噴射ヘッドにおいて前記第1の噴射パルスを用いて液体を噴射した後に生じる残留振動の振幅の極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されたことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記第2の噴射パルスの前記圧力発生手段への印加タイミングが、前記残留振動の振幅の2つめの極大点又は極小点に対応するタイミングに設定されたことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記ノズルから噴射される時点での前記液体の粘度が8mPa・s以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−183671(P2011−183671A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51351(P2010−51351)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】