説明

液体容器並びに液滴吐出装置及び方法

【課題】 吐出する液体の沈降状態を電力を用いずに常に解消状態とすることで、常に安定した吐出品質を得ることができる液体容器、液滴吐出装置、および液滴吐出方法を提供すること。
【解決手段】 液体が貯留されるインク室(液体室)11aを備え、該インク室11aから取り出された前記液体が、インクジェット式プリンタ(液滴吐出装置)による液滴吐出に用いられるメインタンク(液体容器)10において、前記インク室11aの上部に一端が開口する上部液体供給路11cと、該インク室11aの下部に一端が開口する下部液体供給路11dと、これら上部液体供給路11cと下部液体供給路11dとが合流する接続口(合流部)10aとを備え、前記上部液体供給路11cおよび下部液体供給路11dを通って前記インク室11aから吐出した液体が混合して記録ヘッドに供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズル開口から液滴を吐出させるヘッド部材を備えた液滴吐出装置及び方法、並びに当該液滴吐出装置に用いられる液体容器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液滴吐出装置の一例であるインクジェット式記録装置は、ノズル開口を有する記録ヘッドと、ノズル開口部分のインクを吐出させる吐出駆動手段(例えば、圧電振動子や発熱素子)と、記録データに応じて吐出駆動手段を制御する吐出制御手段とを備えている。ノズル開口へのインクの供給は、インクカートリッジ(液体容器)と、インクカートリッジからノズル開口に至るインク連通路とによって行われる。インクカートリッジは、通常交換可能である。
【0003】
近年、耐光性に優れるインクとして、顔料インクが用いられている。顔料インクは、例えば、顔料と、分散剤と、溶剤と、添加剤とから構成され、特に対紫外線性に優れたインクである。しかしながら、顔料インクは、顔料粒子が分散剤によって溶媒中に分散している液体であるため、沈降現象が生じ易い。
【0004】
インクカートリッジ内での顔料粒子の沈降は、インクカートリッジ内でのインク濃度差の発生を意味するため、これが放置されると、所定のインク濃度での記録を行うことができない。
【0005】
このような問題を解決するために、特開昭60−110458号公報は、インクジェット記録装置用インクタンクを開示している。このインクタンクには、インク攪拌用の回転子が内蔵されており、当該回転子を作動させることによってインクの攪拌が実現されて、インクの沈降が解消される。
【0006】
また、特開2002−225304号公報においては、液体室の底部に発熱手段を設け、液体を撹拌させてインク沈降を防止している。
【特許文献1】特開昭60−110458号公報
【特許文献2】特開2002−225304号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、回転子を内蔵させるインクタンクの場合、回転子自体及び回転子を回転させる機構が比較的大型であるため、小型化に不適であり、さらにコスト的にも問題がある。当該インクタンクの技術を使い捨てタイプの小型カートリッジに適用することは、実質的に不可能である。
また、発熱手段を設ける場合、長期間放置された後ですぐに印刷する、という場合にはその効果を期待できない。
また、いずれの場合でもインクの沈降を防止するための電力が必要である。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、吐出する液体の沈降状態を電力を用いずに常に解消状態とすることで、常に安定した吐出品質を得ることができる液体容器並びに液滴吐出装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の液体容器は、液体が貯留される液体室を備え、該液体室から取り出された前記液体が、液滴吐出装置による液滴吐出に用いられる液体容器において、前記液体室の上部に一端が開口する上部液体供給路と、該液体室の下部に一端が開口する下部液体供給路と、これら上部液体供給路と下部液体供給路の各他端が合流する合流部とを備え、前記上部液体供給路および下部液体供給路を通って前記液体室から吐出した液体が混合して液滴吐出に用いられることを特徴としている。
本発明においては、液体室の上部と下部の両方から液体が取り出され、これらが混合されて液滴吐出に用いられる。したがって、液体室内において液体成分、例えば顔料インクの顔料粒子が沈降している場合、下部からは顔料粒子濃度が濃い液体、上部からは顔料粒子濃度の薄い液体が取り出され、これらが混合されて適切な濃度の液体となる。液体室内で液体成分が沈降していない場合は、取り出されて混合される液体の濃度は無論適切である。
合流部の高さは、液体の種類(液体成分の沈降量)に応じて上部液体供給路および下部液体供給路の高さの間で変更すればよい。これにより、各液体供給路の長さ、すなわち流路抵抗が変わるから、上部の液体と下部の液体の混合比を調節することができる。同様に流路断面積、流路長さを調整するようにしてもよい。これらの設定は予め実験によって定めることができる。
なお、ケーシングの側壁を可撓性を有する素材により構成し、液体が前記液体室から吐出されるにしたがい内側に潰れるようにして液体室内に空気を導入させない構造とすればよい。
また、本発明の液体容器は、前記液体室が、下方ほど水平断面積が小さくなる形状であることを特徴としている。
本発明においては、液体室の液体成分が沈降した場合、下部液体供給路に集中して流入する。また、液体室の上部の液体は、上面の表面積が広いから外部への放熱量が大きい。その結果、液体室内部の液体に自然対流が生じ、これによって液体が撹拌され、液体成分の沈降が発生しにくくなる。従って、常に安定した品質の吐出結果を得ることができる。
また、本発明の液体容器は、前記液体室を形成するケーシング内に芯部材を備え、該芯部材と前記ケーシングとの間の空間に前記液体室、前記上部液体供給路および下部液体供給路が形成され、さらに該芯部材の前記液体室に面する一側面が前記液体室側に向かって傾斜する傾斜面であることにより、前記液体室は、下方ほど水平断面積が小さくなる形状であることを特徴としている。
本発明においては、芯部材により液体室の下方ほど水平断面積が小さくなるように形成され、上記のように液体成分の沈降が下部液体供給路に集中し、また、液体室内部の液体に自然対流が生じて液体成分の沈降が発生しにくくなる。従って、常に安定した品質の吐出結果を得ることができる。
なお、芯部材の傾斜面に加えて、またはこれに代わり、ケーシングの側壁を内側に傾斜させることで、前記液体室を、下方ほど水平断面積が小さくなる形状とするようにしてもよい。
また、本発明の液滴吐出装置は、液体室内に貯留した液体を記録ヘッドを用いて媒体に液滴塗布する液滴吐出装置において、前記液体を収容する液体容器として、請求項1から3のいずれかに記載の液体容器を備えていることを特徴としている。
本発明の液滴吐出装置では、液体室の上部と下部の両方から液体が取り出され、これらが混合されて記録ヘッドにより吐出される。したがって、液体室内において液体成分、例えば顔料インクの顔料粒子が沈降している場合、下部からは顔料粒子濃度が濃い液体、上部からは顔料粒子濃度の薄い液体が取り出され、これらが混合されて適切な濃度の液体で吐出が行われる。
また、本発明の液滴吐出方法は、液体が貯留される液体室から液体を取出し、媒体に前記液体による液滴を塗布する液滴吐出方法において、前記液体室の上部と下部の両方から液体を取り出し、これら液体を混合して液滴吐出に用いることを特徴とする。
本発明の液滴吐出方法では、液体室内において液体成分、例えば顔料インクの顔料粒子が沈降している場合、下部からは顔料粒子濃度が濃い液体、上部からは顔料粒子濃度の薄い液体が取り出される、これらを混合することにより、適切な濃度の液体を得ることができる。液体室内で液体成分が沈降していない場合は、取り出されて混合される液体の濃度は無論適切である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェット式プリンタ(液滴吐出装置)の構成例を示す斜視図である。このインクジェット式プリンタ1は、フレーム2により用紙が通過可能な幅の窓3が形成されている。そして、窓3の上部には、主走査方向に往復移動可能なキャリッジ4に搭載されインク滴を吐出する記録ヘッド5が配設され、窓3の下部には、用紙を支持する用紙ガイド部材6が配設されている。さらに、フレーム2の図示右サイドには、内蔵されている制御部を操作するための操作パネル7が配設され、フレーム2の図示左サイドには、開閉可能なカバー8により覆われており、着脱可能なメインタンク(液体容器)10B、10Y、10C、10M(図2参照)を収納するメインタンク収納部9が配設されている。
【0011】
図2は、図1のインクジェット式プリンタ1の記録部の詳細を示す図である。キャリッジ4は、タイミングベルト31を介してキャリッジ駆動モータ32により往復駆動可能に構成されている。このキャリッジ4には、インク供給システム40から供給されるブラックのインク滴を吐出する記録ヘッド5aとイエロー、シアン、マゼンタの各インク滴を吐出する記録ヘッド5bが搭載されている。
【0012】
インク供給システム40は、各色のインクが貯留されているメインタンク10B、10Y、10C、10Mと、メインタンク10B、10Y、10C、10Mからの各色のインクを一時的に貯留するサブタンク20B、20Y、20C、20Mと、メインタンク収納部9に配設されてメインタンク10B、10Y、10C、10Mを収容する加圧室41B、41Y、41C、41Mが配設されている。そして、各加圧室41B、41Y、41C、41Mは、圧力検出器51B、51Y、51C、51M及び圧力開放用の電磁バルブ52B、52Y、52C、52Mを介して加圧ポンプ53の吐出口53aに接続されている。
【0013】
さらに、メインタンク10B、10Y、10C、10Mとサブタンク20B、20Y、20C、20Mを接続するインク輸送管42B、42Y、42C、42Mと、インク輸送管42B、42Y、42C、42Mの途中に接続された電磁バルブ43B、43Y、43C、43Mと、サブタンク20B、20Y、20C、20Mと記録ヘッド5a、5bを接続するインク供給チューブ44B、44Y、44C、44Mが配設されている。
【0014】
用紙ガイド部材6の図示右サイドとなる非印刷傾城には、非印刷時に記録ヘッド5a、5bのインク乾燥に起因する目詰まり防止と、記録ヘッド5a、5bへのインクの初期充填や目詰まり解消のために、吸引ポンプ45により記録ヘッド5a、5bに負圧を作用させるキャッピング装置46が配設されている。また、用紙ガイド部材6は、吸引ポンプ47の吸引口47aからの負圧を用紙に作用させて用紙を固定するために、用紙に対向する面に細孔が穿設された支持板6aが配設されている。
【0015】
図4は、上記メインタンク10(10B、10Y、10C、10M)の内部構造を示した断面図である。図の上下方向が鉛直上下方向である。このメインタンク10は、ケーシング11内部に顔料インクが充填されたインク室(液体室)11aを備えており、インク輸送管42B、42Y、42C、42Mと接続可能な接続口(合流部)10aが側面に設けられている。接続口10aとは反対側のケーシング11側面は、図示のように下方ほどケーシング11の内側に向かって傾斜する傾斜面11bとなっている。この傾斜面11bは柔軟性を有する可撓性素材により形成されており、内部のインク量の減少に伴って変形し、図5のように内側に窪むようになっている。
メインタンク10の内部には、芯部材10bが設けられている。芯部材10bは、傾斜面11bと対向する側面が傾斜面11bに向かって傾斜する傾斜面10cとされている。これにより、傾斜面11bと傾斜面10cとの間の空間に形成されたインク室11aは、下方ほど水平断面積が小さくなる形状となっている。
芯部材10bとケーシング11との間には、上下にそれぞれ上部液体供給路11c、下部液体供給路11dが設けられている。液体供給路11c、11dは、インク室11aから芯部材10bの周囲を通って芯部材10bの背面側に位置する接続口10aにて合流する。
【0016】
以上のような構成において、図3に示すように、メインタンク10(10B、10Y、10C、10M)は、接続口10aがインク輸送管42(42B、42Y、42C、42M)に接続され、サブタンク20(20B、20Y、20C、20M)は、流入口21aがインク輸送管42に接続され、流出口21bがインク供給チューブ44(44B、44Y、44C、44M)に接続されている。
【0017】
そして、メインタンク10に掛かる圧力を検出する圧力検出器51(51B、51Y、51C、51M)、圧力開放用の電磁バルブ52(52B、52Y、52C、52M)、加圧ポンプ53、電磁バルブ43(43B、43Y、43C、43M)、サブタンク20のインク量検出手段23の変位により作動するスイッチ25a、25b及び各吸引ポンプ45、47は、制御装置50と電気的に接続されており、メインタンク10内及びサブタンク20内のインク量のチェック等、各吸引ポンプ45、47及び加圧ポンプ53の駆動等、及び各電磁バルブ43、52の開閉を制御するようになっている。なお、図3においては、便宜上、メインタンク10、サブタンク20、加圧室41、インク輸送管42、電磁バルブ43及びインク供給チューブ44等は上述した各色のインク別には示しておらず、一色分のみを示している。
【0018】
加圧ポンプ53を作動させると、各加圧室41内に空気が供給され、各メインタンク10が加圧されて各サブタンク20へ各メインタンク10内のインクが流入する。
インクがメインタンク10から流出する際には、インク室11aの上部のインクが上部液体供給路11cを通り、インク室11aの下部のインクが下部液体供給路11dを通り、接続口10aで合流してサブタンク20に流入する。
また、インクがメインタンク10から流出するにしたがって、流出した体積分、傾斜面11bが図5に示したように内側に窪む。
【0019】
さて、上記従来技術において説明したように顔料インクは顔料粒子が沈降しやすいが、上記のように構成されたメインタンク10では、インク室11a内で顔料粒子が沈降した場合、顔料粒子の濃度の濃いインクが下部液体供給路11dを通り、顔料粒子の濃度の薄いインクが上部の上部液体供給路11cを通り、接続口10aで合流し、適切な顔料濃度となって流出する。
さらに、本実施形態においては、インク室11aの向き合った側壁である傾斜面11bと傾斜面10cが、互いに下方ほど接近するように傾斜している。すなわちインク室11aは、下方ほど水平断面積が小さくなる形状となっており、下端において下部液体供給路11dが開口している。すなわち沈降した顔料粒子は、下部液体供給路11dの開口部に集中して流入する。
また、インク室11aの上部に存在するインクは、ケーシング11を介して広い表面積にて外部の空気と接触している。したがって外部への放熱量が多く、その結果、インク室11a内部のインクに自然対流が生じ、これによってインク顔料粒子が撹拌されて沈降が発生しにくくなる。
【0020】
以上のように、本実施形態においては、インク室11aの上部と下部からインクを取り出して混合することで、電力不要で、長期間放置された後であっても常に安定した沈降対策が可能となる。
したがって、常に安定した品質の吐出結果を得ることができる。
【0021】
なお、上記の例において、接続口10aの高さは、インクの種類(顔料粒子成分の沈降量)に応じて上部液体供給路11cおよび下部液体供給路11dの高さの間で変更すればよい。これにより、各液体供給路11c、11dの長さ、すなわち流路抵抗が変わるから、上部の液体と下部の液体の混合比を調節することができる。同様に流路断面積、流路長さを調整するようにしてもよい。これらの設定は予め実験によって定めることができる。
また、インク室11aの形状は図6のような形状でもよい。図6では、芯部材10bの形状は図4と同じであるが、ケーシング11は傾斜面11bを備えておらず、インク充填時は垂直な側壁11eを備えている。要はインク室11aの形状が下方ほど水平断面積が小さくなる形状となっていればよい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態として示したインクジェット式プリンタの構成例を示す斜視図である。
【図2】同インクジェット式プリンタの記録部の全体構成を示す図である。
【図3】同インクジェット式プリンタの記録部の詳細を示す図である。
【図4】同インクジェット式プリンタのメインタンクの構成を示した縦断面図である。
【図5】同メインタンクからインクが取り出されケーシングが窪んだ状態を示した図である。
【図6】同メインタンクの変形例を示した図である。
【符号の説明】
【0023】
1……インクジェット式プリンタ(液滴吐出装置)
5……記録ヘッド
9……メインタンク収納部
10……メインタンク(液体容器)
10a……接続口(合流部)
10b……芯部材
10c……傾斜面
11……ケーシング
11a……インク室(液体室)
11b……傾斜面
11c……上部液体供給路
11d……下部液体供給路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体が貯留される液体室を備え、該液体室から取り出された前記液体が、液滴吐出装置による液滴吐出に用いられる液体容器において、
前記液体室の上部に一端が開口する上部液体供給路と、
該液体室の下部に一端が開口する下部液体供給路と、
これら上部液体供給路と下部液体供給路の各他端が合流する合流部とを備え、
前記上部液体供給路および下部液体供給路を通って前記液体室から吐出した液体が混合して液滴吐出に用いられることを特徴とする液体容器。
【請求項2】
前記液体室は、下方ほど水平断面積が小さくなる形状であることを特徴とする請求項1に記載の液体容器。
【請求項3】
前記液体室を形成するケーシング内に芯部材を備え、該芯部材と前記ケーシングとの間の空間に前記液体室、前記上部液体供給路および下部液体供給路が形成され、さらに該芯部材の前記液体室に面する一側面が前記液体室側に向かって傾斜する傾斜面であることにより、前記液体室は、下方ほど水平断面積が小さくなる形状であることを特徴とする請求項1または2に記載の液体容器。
【請求項4】
液体室内に貯留した液体を記録ヘッドを用いて媒体に液滴塗布する液滴吐出装置において、
前記液体を収容する液体容器として、請求項1から3のいずれかに記載の液体容器を備えていることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項5】
液体が貯留される液体室から液体を取出し、媒体に前記液体による液滴を塗布する液滴吐出方法において、
前記液体室の上部と下部の両方から液体を取り出し、これら液体を混合して液滴吐出に用いることを特徴とする液滴吐出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−82504(P2006−82504A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272037(P2004−272037)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】