説明

液体洗浄剤組成物

【課題】 洗浄力及び低温の貯蔵安定性の良い液体洗浄剤組成物の提供。
【解決手段】 (a)一般式(1)の化合物で示される化合物、(b) (a)成分とイオン的に複合
体を形成することができる炭素数8〜18の直鎖炭化水素基を有する界面活性剤、(c)(a)、(b)成分以外の炭素数8〜18の直鎖炭化水素基を有する界面活性剤、(d)相安定化剤、水を含有する液体洗浄剤組成物。
Ra1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)〔Ra1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基、Ra1O−の酸素原子はRa1の第一炭素原子に結合し、POとEOはオキシプロピレン基とオキシエチレン基、m1はPOの平均付加モル数、0.1〜1の数、nはEOの平均付加モル数で0.5〜3の数、Mは陽イオン〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷軽減の観点から、界面活性剤の濃度を高め、容器の樹脂量を低減させた濃縮タイプの液体洗浄剤が好まれて使用されている。また、身体洗浄剤や食器洗浄用液体洗浄剤等は洗浄力や手荒れ防止性の観点から、陰イオン界面活性剤であるポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩型界面活性剤を主成分として用いているものが多く、特に食器洗浄用液体洗浄剤は、洗浄時の泡立ち性および泡持ち性、乳化力の向上の観点から、アミンオキシド型界面活性剤や両性界面活性剤等の、陰イオン界面活性剤とイオン的に複合体を形成する共界面活性剤を併用することが一般に行われている。しかしながら、このような液体洗浄剤は、特許文献1、2に記載されているように貯蔵中の増粘や、複合体が低温貯蔵において沈殿を形成する等の安定性上の課題があるため、これら公報には分岐構造を有するポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩型界面活性剤等を用いる技術が開示されている。
【0003】
一方、特許文献3にはポリオキシプロピレンアルキルエーテルサルフェートが、起泡性に優れ、低温安定性が良好な組成物を提供しえることが記載されている。また、特許文献4にはエチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドが0.01〜30モル付加したアルキルアルコキシ化サルフェートが開示されている。さらには特許文献5、6、7には、プロピレンオキシド、及びエチレンオキシドが付加したアルコールのサルフェートを含有する洗浄剤組成物が記載されている。特に、特許文献6には、牛脂誘導高級アルコールやヤシ油誘導高級アルコール由来のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩を用いる洗剤が記載されている。特許文献8、特許文献9、特許文献10には、多価アルコールのアルキレンオキシド付加物を含有する食器洗浄用に好適な液体洗浄剤が記載されている。
【特許文献1】特開2002−194388号公報
【特許文献2】特開2007−23211号公報
【特許文献3】特開平5−97633号公報
【特許文献4】特表平11−507955号公報
【特許文献5】特開昭55−84399号公報
【特許文献6】特開昭56−72092号公報
【特許文献7】特開昭56−5895号公報
【特許文献8】特開昭63−277300号公報
【特許文献9】特開平01−292098号公報
【特許文献10】特開平06−017095号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年地球温暖化の問題から、CO2排出量削減の数値化目標が課せられる等、CO2排出量削減の機運が高まってきており、CO2排出に最も寄与度が高い化石燃料使用量の削減や、カーボンニュートラルという考え方から、天然原料使用への切替えが推奨されている。
【0005】
このような状況の中で、工業的に用いられる合成系の界面活性剤について考えてみると、製造方法の関係上、分岐鎖アルキル基のアルコールを約20質量%以上含有するアルコール混合物からの誘導体、或いは二級アルコールからの誘導体が主である。これは、アルコールを界面活性剤の原材料として使用する場合、分岐鎖アルコール又は二級アルコール由来の界面活性剤と直鎖アルコール由来の界面活性剤との混合物として使用する方が、水と混合したときのゲル化特性を考慮する上で扱い易く、直鎖アルコール由来の界面活性剤のみからなる場合と比べて安定な洗浄剤を設計することが容易になるという理由による。
【0006】
一方で、天然油脂原料(本発明では「天然原料」という場合もある)に由来する界面活性剤、いわゆる天然系界面活性剤は、飽和又は不飽和の直鎖の炭化水素基により構成されており、天然系界面活性剤を主基剤とする場合に、低温における貯蔵安定性を保つことが難しい。特に食器洗浄剤等の界面活性剤の濃度が高く、しかも界面活性剤同士が相互作用をし、複合体を形成するように界面活性剤を選択した場合には、貯蔵安定性が著しく損なわれる。
【0007】
従って本発明は、食器洗浄剤のような界面活性剤の濃度が高い洗浄剤において、全部又は大部分の界面活性剤の原料として天然油脂を使用しても、即ち、アルキル基の分岐率が大体20質量%以上の合成系の界面活性剤や、二級アルコール由来の非イオン界面活性剤を実質的に使用しない場合でも、洗浄力に優れ且つ低温における貯蔵安定性やゲル化特性に問題がない液体洗浄剤組成物を提供することを1つの課題とする。
【0008】
また本発明は、粘度調節作用及び/又は保存時の蒸発による表面の膜形成の抑制性にも優れた液体洗浄剤組成物を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、天然原料起源の直鎖の炭化水素基を有するポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩又はポリオキシエチレンアルケニルエーテル硫酸エステル塩型界面活性剤(以下において「AES」という場合がある。また「アルケニル」を省略して「アルキル」とだけいう場合もある。)を液体洗浄剤に応用する目的から、AESの洗浄挙動を詳細に検討した。
【0010】
その結果、アミンオキシド型界面活性剤(以下において「AO」という場合がある。)などの(a)成分とイオン的に複合体を形成するような界面活性剤と併用した場合、アルコールに対してエチレンオキシドを1〜5モル、特には1〜3モル付加させた構造のAESが優れた洗浄性を示すこと、一方で安定性に関しては、エチレンオキシドの付加モル数が大きい方が優れることを見出した。
【0011】
更に本発明者らは、安定性に関しては、天然原料起源の直鎖の炭化水素基、特に飽和の直鎖の炭化水素基、すなわち直鎖のアルキル基を有するAESよりも、合成系のアルコール由来のAESの方が安定性に優れることを見出し、その理由として炭化水素基、特にアルキル基の違いに着目した。
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、オキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(AES)の製造において、プロピレンオキシドを最初にアルコールに少量付加させることで、天然原料起源の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤の安定性を保つことができることを見出した。理由として、プロピレンオキシドをアルコールに付加させることにより、オキシプロピレン基のメチル基分岐が生じ、合成系のアルコールの持つ分岐鎖に似た嵩高い構造の炭化水素基が得られ、界面活性剤間のパッキング性を適度に緩めることができ、結果として低温での安定性が保てることが考えられた。また本発明者らは、前記AESを用いることによって、他の界面活性剤も直鎖の炭化水素基の界面活性剤、特には天然原料起源の界面活性剤を用いることができることを見出した。以上のことより、主たる界面活性剤が直鎖の炭化水素基の界面活性剤、特には天然系界面活性剤を含有する液体洗浄剤に関し、洗浄力に優れ、且つ貯蔵安定性に優れる本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、課題の解決手段として、
(a)下記一般式(1)の化合物で示される化合物5〜30質量%、
(b)(a)成分とイオン的に複合体を形成することができ、且つ少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤1〜20質量%、
(c)所望により、少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する(a)成分及び(b)成分以外の界面活性剤、
(d)ハイドロトロープ剤及び有機溶剤から選ばれる一種以上、
並びに水を含有する、液体洗浄剤組成物を提供する。
a1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)
〔式中、
a1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m1はPOの平均付加モル数で、0.1〜1の数であり、
n1はEOの平均付加モル数で、0.5〜3の数を示す。
Mは陽イオンである〕。
【0014】
特には、
(a)下記一般式(1)の化合物で示される化合物5〜30質量%、
(b)(a)成分とイオン的に複合体を形成することができ、且つ少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤1〜20質量%、
(c)所望により、少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する(a)成分及び(b)成分以外の界面活性剤、
(d)ハイドロトロープ剤及び有機溶剤から選ばれる一種以上、
並びに水を含有し、(a)成分〜(c)成分が分子中に有する炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基が、カルボニル基を有するときも含めて炭素数が偶数のものである液体洗浄剤組成物を提供する。
a1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)
〔式中、
a1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m1はPOの平均付加モル数で、0.1〜1の数であり、
n1はEOの平均付加モル数で、0.5〜3の数を示す。
Mは陽イオンである〕。
【0015】
また本発明は、他の課題の解決手段として、上記発明の(d)成分の有機溶剤として、ポリプロピレングリコール及びグリセリンのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上を含有する液体洗浄剤組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<(a)成分>
本発明の(a)成分は、下記一般式(1)の化合物で示される化合物である。
【0017】
a1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)
〔式中、
a1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、好ましくは炭素数8〜16の直鎖の炭化水素基、より好ましくは炭素数10〜16の直鎖アルキル基、特に好ましくは炭素数12〜16の直鎖アルキル基であり、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m1はPOの平均付加モル数で、0.1〜1の数であり、低温の保存安定性の点から0.1以上、好ましくは0.2以上であり、1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下である。
【0018】
またn1はEOの平均付加モル数で0.5〜3の数であり、洗浄力と保存安定性の点から0.5以上、好ましくは1以上であり、洗浄力の点から3以下、好ましくは2.5、より好ましくは2以下である。
【0019】
Mは陽イオンであり、好ましくはナトリウム、カリウム、マグネシウムである〕。
【0020】
本発明において(a)成分である一般式(1)の化合物は、Ra1の炭素数が偶数の直鎖のものと、奇数の直鎖のものを含んでいてもよいが、(a)成分は天然油脂由来(以下、天然系という場合もある)の炭化水素基を有するものが好ましく、その場合には、Ra1の炭素数は偶数であり、また一級アルコール由来であることから、酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合していることになる。
【0021】
本発明の(a)成分は、下記工程(I)〜工程(III)の製造方法で得ることができる。
【0022】
工程(I):Ra1OHで示される脂肪族アルコールにプロピレンオキシドを公知の方法により付加させる工程。
【0023】
工程(II):上記工程(I)で得られたプロピレンオキシド付加物にエチレンオキシドを付加させる工程。
【0024】
工程(III):上記工程(II)で得られたエチレンオキシド付加物に、三酸化硫黄、クロロスルホン酸等を用いて硫酸化し、次いで中和する工程。
【0025】
付加反応は触媒が必要であり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリを用いることができる。また、特開平8−323200号公報に記載の酸化マグネシウムを主成分とする触媒を用いることができる。水酸化アルカリを用いると、比較的エチレンオキシドの付加モル分布が広い化合物を得ることができ、酸化マグネシウムを用いると、比較的狭い付加モル分布を有する化合物を得ることができる。また、特開平10−158384号公報に開示されているように、アルカリ触媒と金属酸化物触媒を併用することにより付加モル分布を制御することも可能である。
【0026】
工程(I)において、Ra1OHにプロピレンオキシドを付加させるが、一般式(1)中のm1で示される割合のプロピレンオキシドを付加させる。Ra1OHに対するプロピレンオキシドの反応モル比は保存安定性の点から0.1以上、好ましくは0.2以上であり、1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下である。
【0027】
付加反応は、オートクレーブ等の密閉式の反応器を用いて行う。まずRa1OHで示される脂肪族アルコールをオートクレーブに充填する。触媒の使用量は、脂肪族アルコールに対して0.01〜5モル%であり、オートクレーブに触媒を添加し、密封後50〜150℃に加熱し、減圧下脱水を行う。脱水時間は0.5〜2時間が好適である。続いてオートクレーブ内の温度を80〜180℃、好ましくは100〜150℃に保ったまま、圧入ポンプを用いてプロピレンオキシドをオートクレーブ内に所定量圧入する。
【0028】
反応モル比とプロピレンオキシドの付加モル数は表1に示す分布になる。
【0029】
【表1】

【0030】
本発明者らは、最終的に得られる(a)成分の硫酸エステル塩を考慮した場合、POの付加モル数が2以上の化合物を低減させることが安定性及び洗浄性の点から好ましく、未反応の脂肪族アルコールの硫酸化物の塩、すなわちアルキル硫酸エステル塩は保存安定性の上で低減することが好ましいことを見出しており、従って工程(II)でEOを更に付加することを考慮して、工程(I)の後の未反応アルコールとPO付加化合物の好ましい濃度関係は、
・未反応脂肪族アルコール:30〜90質量%、好ましくは45〜80質量%
・PO1モル付加物:10〜70質量%、好ましくは19〜50質量%、
・PO2モル以上の付加物:0〜18質量%、好ましくは0〜10質量%
であることが好ましい。
【0031】
なお、表1の化合物の割合はガスクロマトグラフィーを用いて測定した。用いたカラムはキャピラリーカラム(アジデント社製DB5)、検出器はFIDである。
【0032】
工程(II)では、上記工程(I)で得られたプロピレンオキシド及びRa1OHで示される脂肪族アルコールにエチレンオキシドを付加させるが、付加の割合は、アルコール1モル当たり、一般式(1)中のn1で示される割合のエチレンオキシドを付加させる。
【0033】
工程(II)が、上記工程(I)で得られたプロピレンオキシド付加物に、さらにエチレンオキシドを付加する工程である場合、表1に示したプロピレンオキシド付加モル数分布を有する化合物に、さらにエチレンオキシドを付加するため複雑な混合物が得られる。
【0034】
具体的には下記化合物を含む混合物、特にはポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどの副生成物を除いた下記化合物の混合物になる。
a1OH (1−1)
a1O−(PO)m12H (1−2)
a1O−(EO)n13H (1−3)
a1O−(PO)m12−(EO)n14H (1−4)
〔式中、
a1は前記一般式(1)の記載と同じ、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m12はPOの付加モル数で、1以上の数、特には1〜3の数であり、
n13及びn14はEOの付加モル数で、1以上の数、特には1〜5の数を示す〕。
【0035】
上記式(1−1)及び式(1−3)は、表1の未付加物から得られるものであり、式(1−2)及び式(1−4)は、表1のそれ以外の化合物から得られるものとなる。工程(I)でPOを0.2〜0.6モル、工程(II)でEOを1〜2.5モル付加させた場合、式(1−1)〜式(1−4)の合計中、式(1−1)の化合物は15〜40質量%、式(1−2)の化合物は5〜25質量%、式(1−3)の化合物は23〜60質量%、式(1−4)の化合物は10〜38質量%となり、また式(1−3)の化合物が最も含有量が多くなる。
【0036】
工程(II)を行う場合には、工程(I)においてプロピレンオキシドを圧入した後、連続してエチレンオキシドを圧入する方法が生産性の点から好適であり、反応温度は80〜180℃、好ましくは100〜150℃であり、圧入終了後は温度を80〜180℃に保ったまま0.5〜3時間熟成し、冷却後、グリコール酸や酢酸等の有機酸、塩酸、硫酸等の無機酸でアルカリ触媒を中和して得ることができる。
【0037】
工程(III)の硫酸化の方法としては、三酸化硫黄(液体又は気体)、三酸化硫黄含有ガス、発煙硫酸、クロロスルホン酸等を用いる方法が挙げられるが、特に、廃硫酸及び廃塩酸等の発生を防止する観点から、工程(II)の終了と同時に三酸化硫黄をガス状又は液状で連続的に供給する方法が好ましい。反応温度は−5℃〜60℃が好適であり、三酸化硫黄を工程(II)の終了品に接触させた後は、−5℃〜60℃で0.1〜1時間熟成し、得られた硫酸化物を中和する。
【0038】
硫酸化は、アルコール1モルに対して0.95〜1.05モルの割合で行われるが、過剰の反応や着色を抑制するために、通常0.95〜1.0モルで行われる。その場合、硫酸化されない化合物として、式(1−1)〜式(1−4)が、(a)成分中に合計で3質量%以下程度含まれるが、前記含有量が高い場合には、含有量を低下させる(好ましくは2質量%以下に低下させる)ことが、洗浄力や保存安定性に影響を与えないようにする上で好ましい。含有量が高い場合には、蒸留等の操作により、低減させることもできる。
【0039】
硫酸化物の中和方法としては、所定量の中和剤へ硫酸化物を添加・攪拌しながら中和を行うバッチ式と、硫酸化物と中和剤を配管内へ連続的に供給し、攪拌混合機にて中和を行うループ式等が挙げられるが、本発明品は中和方法に限定されるものではない。ここで使用される中和剤としては、アルカリ金属水溶液、アンモニア水、トリエタノールアミン等が挙げられるが、アルカリ金属水溶液が好ましく、より好ましくは水酸化ナトリウムである。
【0040】
このようにして得られた(a)成分は、Ra1OHのプロピレンオキシド付加物、そのエチレンオキシド付加物、Ra1OHのエチレンオキシド付加物及び未反応のRa1OHのそれぞれアルキレンオキシドの付加モル数分布を有する混合物の硫酸化物である
【0041】
工程(II)後に得られた化合物の硫酸化の反応性は、本発明で規定する範囲のEOやPOの付加モル数の違いによって実質的に変わらないため、工程(I)でPOを0.2〜0.6モル、工程(II)でEOを1〜2.5モル付加させた場合、得られる混合硫酸化物の比率は、前記硫酸化前の式(1−1)〜式(1−4)で示した比率となる。当然ながら未硫酸化物として残存する式(1−1)〜式(1−4)の割合もまた該配合比率になる。なお、式(1−1)で示される未反応アルコールの硫酸化物であるアルキル硫酸エステル塩は、低温安定性に影響するため、特には硫酸化前のアルコール混合物中の式(1−1)の化合物が、28質量%以下、好ましくは26質量%以下であることが好ましい。
【0042】
以上、工程(III)の硫酸化の際の反応条件は、反応効率や過剰に反応することによって生じる塩などの他の不純物の生成を考慮して、洗浄性及び安定性に影響しない程度に調整する。
【0043】
<(b)成分>
本発明の(b)成分は、(a)成分とイオン的に複合体を形成することができ、且つ少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤であり、好ましくは炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基と、他の有機基と結合する該炭化水素基の炭素原子が第一炭素原子であり、より好ましくは、該第一炭素原子を有するアミンオキシド型界面活性剤及び/又は両性界面活性剤である。具体的には下記一般式(2)の化合物が好適である。
【0044】
【化1】

【0045】
〔式中、
a2は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、好ましくは炭素数8〜16、より好ましくは炭素数10〜16の直鎖の炭化水素基であり、特には直鎖のアルキル基であって、m2=0のとき、Ra2は炭素数12及び/又は14の直鎖アルキル基が好ましく、炭素数m2=1のとき、炭素数11及び/又は13の直鎖アルキル基が好ましい。
【0046】
b2はエチレン基又はプロピレン基であり、
Xは−COO−及び−CONH−から選ばれる基である。
【0047】
m2は0又は1の数であり、Ra2−と結合するm2=0のときの窒素原子又はm2=1のときのXは、Ra2の第一炭素原子に結合しており、Rc2及びRd2はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、好ましくはメチル基である。
【0048】
Yは−O-、−CH2COO-、−C36−SO3-、−CH2CH(OH)CH2−SO3-、炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基から選ばれ、
-は陰イオンである。
【0049】
n2はYが分子内に陰イオンを有する場合には0の数であり、Yが炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基から選ばれる場合には1の数である〕。
【0050】
一般式(2)で示される化合物は、(a)成分とイオン的に複合体を形成することが知られており、その結果、乳化力が向上し、油汚れ等の親油性の汚れに対して洗浄力を著しく向上させることが可能であり、特にYが−O-であるアミンオキシド、Yが−CH2COO-であるカルボベタイン、Yが−CH2CH(OH)CH2−SO3-であるスルホベタインが乳化力の点から好適であり、Yが−O-であるアミンオキシドが最も好ましい化合物である。
【0051】
本発明において(b)成分である炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤は、炭素数が偶数の直鎖の炭化水素基のものと、炭素数が奇数の直鎖の炭化水素基のものを含んでいてもよいが、(b)成分は天然油脂由来の炭化水素基を有するものが好ましく、その場合には、Ra2の炭素数、但しm2=1のときはX中のカルボニル基の炭素を含めた炭素数が偶数であり、またm2=0のときの窒素原子、又はm2=1のときのXは、Ra2の第一炭素原子に結合していることになる。
【0052】
一般式(2)の化合物において、m2が0の化合物は、Ra2−N(Rc2)(Rd2)で示される三級アミンから製造することができ、該三級アミンは特開平11−116539号公報、WO2005/03512号国際パンフレット、特開2007−197396号公報等に記載されている通り、Ra2−OHで示される脂肪族アルコールから製造することができる。
【0053】
一般式(2)の化合物において、m2が1の化合物は、Ra2−COX〔式中XはOH、OR’、Cl、Brから選ばれる基である〕とHO−Rb2−N(Rc2)(Rd2)で示される化合物とのエステル化反応もしくはエステル交換反応、あるいはH2N−Rb2−N(Rc2)(Rd2)で示される化合物とのアミド化反応もしくはアミノリシス反応で得られる三級アミンから製造することができる。
【0054】
一般式(2)の化合物において、Yが−O-であるアミンオキシドは、該三級アミンと過酸化水素との反応で製造することができ、−CH2COO-であるカルボベタイン化合物は、該三級アミンとV−CH2COOM〔Vは塩素原子又は臭素原子であり、Mはアルカリ金属であり、好ましくはナトリウム又はカリウムである〕との反応で容易に得ることができる。
【0055】
一般式(2)の化合物において、Yが−C36−SO3-、及び/又は−CH2CH(OH)CH2−SO3-の化合物は、該三級アミンとV−C36−SO3M、及び/又はV−CH2CH(OH)CH2−SO3M〔V、Mは上述と同一の意味である〕との反応で製造することができ、Yが炭素数1〜3のアルキル基かもしくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基の場合には、炭素数1〜3のアルキルハライド(好ましくはアルキルクロリド)、炭素数1〜3のジアルキル硫酸、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキル化剤で該三級アミンを四級化反応させることで製造することができる。
【0056】
上記反応は、上述の三級アミンと該三級アミンと反応する化合物の両者が均一に溶解する溶剤を用いて反応させることが好ましく、例えば水とエタノール、水とイソプロパノール、水とアセトン等の混合溶剤等を好適に用いることができる。反応温度は、三級アミンと反応する化合物によって異なるが、40〜80℃程度が好適であり、三級アミンと、三級アミンと反応する化合物とのモル比は、0.9〜1.3、好ましくは1.0〜1.2、特に好ましくは1.01〜1.2であり、三級アミンと反応する化合物を等モルか、やや過剰に用いることで未反応の三級アミンを減少させることができるため好ましい。
【0057】
<(c)成分>
所望により、本発明では(c)成分として、(a)成分及び(b)成分以外の少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤を用いることができ、好適には、下記一般式(3)の化合物を具体的例として挙げることができる。
【0058】
a3−S−〔T〕m3 (3)
〔式中、
a3は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、好ましくは炭素数8〜16、より好ましくは炭素数10〜16の直鎖の炭化水素基、特には直鎖のアルキル基であり、Ra3−と結合するSは、Ra3の第一炭素原子に結合しており、Ra3が−COO−又は−CON<に結合している時は、Ra2は炭素数11及び/又は13の直鎖アルキル基が好ましく、他の原子に結合している場合は炭素数12及び/又は14の直鎖アルキル基が好ましい。
【0059】
Sは−O−、−COO−、−N<、及び−CON<から選ばれる基である。
【0060】
Tは−(Rb3O)n3−R3c及び/又は平均縮合度が1〜2のグルコースからRa3に結合する水酸基から水素原子を除いた残基(この場合、Sは−O−に限られる)であり(ここで、Rb3はエチレン基及び/又はプロピレン基であり、R3cは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、n3は平均付加モル数であり3〜30の数である。)、
m3は、Sが−O−、−COO−の場合には1の数であり、Sが−N<、−CON<の場合には2の数である〕。
【0061】
本発明において(c)成分である少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する(a)成分及び(b)成分以外の界面活性剤は、炭素数が偶数の直鎖の炭化水素基のものと、炭素数が奇数の直鎖の炭化水素基のものを含んでいてもよいが、(c)成分は天然油脂由来のアルキル基を有するものが好ましく、その場合には、Ra3の炭素数、但しRa3が結合するS中の炭素原子がカルボニル基の炭素である場合は該カルボニル基の炭素を含めた炭素数が偶数であり、またSはRa2の第一炭素原子に結合していることになる。
【0062】
一般式(3)の化合物において、Tが−(ORb3n3−OR3cである場合には、Ra3−OH、Ra3−COOR3c、Ra3−NH2、Ra3−CON(Rb3OH)2から選ばれる脂肪族アルコール、脂肪族アミン、もしくは脂肪酸誘導体に、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドを付加反応させることで製造することができる。
【0063】
一般式(3)の化合物において、Tが、平均縮合度が1〜2のグルコースからRa3に結合する水酸基から水素原子を除いた残基である場合には、Ra3−OHで示される脂肪族アルコールとグルコースをp−トルエンスルホン酸等の酸触媒を用いてアセタール化反応を行うことで製造することができる。
【0064】
既に述べたように、本発明の界面活性剤の原材料として天然油脂由来のアルキル基を有する化合物を用いることができるため、本発明の(a)成分〜(c)成分が分子中に有する炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基は、好ましくはカルボニル基を有するときも含めて炭素数が偶数のものが好ましい(即ち、炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基の炭素数は偶数であり、炭化水素基に結合するカルボニル基を有するときは、カルボニル基の炭素原子を含めたときの炭素数も偶数である)。
【0065】
また天然油脂由来の炭化水素基は、不飽和と飽和があり、洗浄力の点から飽和の炭化水素基であるアルキル基が好ましい。(a)成分〜(c)成分の直鎖で且つカルボニル炭素を含めて偶数の炭素数の炭化水素基は、起源とする天然系油脂から得られるカルボニル炭素を含めた炭化水素基の炭素数分布を持っているものであってもよく、例えばヤシ油由来の直鎖の炭化水素基を有するものであってもよい。また目的の界面活性剤の合成前に、例えば油脂から誘導される脂肪族アルコール、脂肪酸メチルエステル等の炭化水素基の原料となる化合物に対して蒸留操作等を行うことで、特定の炭素数の炭化水素基だけを選り分けたものを原料として用いたものであってもよい。原料の油脂については後述する。
【0066】
<(d)成分>
本発明の液体洗浄剤組成物は、(d)成分としてハイドロトロープ剤〔以下(d−1)成分という場合がある〕及び有機溶剤〔以下(d−2)成分という場合がある〕から選ばれる一種以上を含有する。(d−1)成分と(d−2)成分は併用することが好ましい。
【0067】
ハイドロトロープ剤(d−1)としては、最大炭素数が3以下のアルキル基を1〜3有するアルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、具体的にはトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、及びクメンスルホン酸、並びにこれらのナトリウム、カリウムあるいはマグネシウム塩が良好であり、特にp−トルエンスルホン酸が良好である。
【0068】
有機溶剤(d−2)としては、まず(i)炭素数1〜3のアルコール、(ii)炭素数2〜4のグリコールやグリセリン、(iii)アルキレングリコール単位の炭素数が2ないし4のジ又はトリアルキレングリコール、(iv)アルキレングリコール単位の炭素数が2ないし4のジないしテトラアルキレングリコールのモノアルコキシ(メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)、フェノキシ又はベンゾオキシエーテルを挙げることができる。
【0069】
具体的には(i)として、エタノール、2−プロパノール、(ii)として、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、イソプレングリコール、(iii)として、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、(iv)として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジグリコールモノブチルエーテル、フェノキシエタノール、フェノキシトリエチレングリコール、フェノキシイソプロパノールがあり、これらから選ばれる水溶性有機溶媒が好ましい。特にはエタノール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチルジグリコール、フェノキシエタノール、フェニルグリコール、フェノキシイソプロパノールが好ましい。
【0070】
また、有機溶剤(d−2)として、ポリアルキレングリコールを用いることができる。ポリアルキレングリコールは、具体的には多価アルコールのアルキレンオキシド付加物である。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの2価のアルコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の3価以上のアルコールが好適なものとして挙げられる。またアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが好ましい。
【0071】
本発明に用いられる多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物の中ではエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセリンのエチレンオキサイド又はプロピレンオキサイド付加物が更に好ましく、更にはポリプロピレングリコールとグリセリンのエチレンオキシド付加物とから得られる1種以上、特にはポリプロピレングリコールとグリセリンのエチレンオキシド付加物とを併用することが好ましい。
【0072】
多価アルコールのアルキレンオキシド付加物であるポリアルキレングリコールは、ゲル化防止剤として有用であり、例えば特表平11−513067号公報に記載されているゲル化防止重合体、とりわけポリプロピレングリコールを配合することが、粘度調節及び貯蔵安定性の点から好ましい。ポリプロピレングリコールは、重量平均分子量が600〜5000、さらには1000〜4000のものが好ましい。
【0073】
グリセリンのアルキレンオキシド付加物は、洗浄剤組成物の気液界面にできる活性剤の膜の形成抑制に有効であり、特にグリセリンにエチレンオキシドを平均5〜120、好ましくは10〜50モル付加させたものであって、特には重量平均分子量の500〜4000のグリセリンのエチレンオキシド付加物を用いることが好ましい。本発明では、天然由来の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤を用いるが、前記(a)成分を用いることで、従来のAESと比較して、これら多価アルコールのアルキレンオキシドの付加物による効果を十分に発揮することができる。多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の重量平均分子量は光散乱法を用いて決定することができ、ダイナミック光散乱光度計(DLS−8000シリーズ、大塚電子株式会社製等)により測定することができる。
【0074】
(d)成分の有機溶剤として、ポリプロピレングリコールとグリセリンのエチレンオキシド付加物を併用することで、粘度調節作用と保存時の蒸発による表面の膜形成の抑制性の両方の効果を付与することができる。
【0075】
<(e)成分>
本発明の組成物には、必要に応じて、(e)成分として金属封鎖剤を配合することができる。(e)成分としては、クエン酸、リンゴ酸、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、酒石酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸化合物の窒素原子にカルボキシメチル基が1つ以上結合したアミノポリカルボン酸〔例えば、MGDA(メチルグリシン二酢酸)〕及びそれらの塩を配合してもよい。塩は、ナトリウム、カリウム、アルカノールアミンを挙げることができるが、別成分のアルカリ剤として配合してもよい。
【0076】
<その他の成分>
本発明の液体洗浄剤組成物には、その他成分として、例えばプロキセルやケーソン等の商品名で知られている防菌・防黴剤、亜鉛塩、銀塩、ポリリジン、フェノキシエタノール等の殺菌剤、硫酸マグネシウム等の水溶性無機塩、亜硫酸塩等の還元剤、BHT、アスコルビン酸等の酸化防止剤、キサンタンガム、グァーガム、カラギーナン等の増粘性高分子、ポリアクリル酸系ポリマー等の高分子分散剤、プロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ等の酵素、増泡剤、着色剤、香料等の液体洗浄剤に配合することが知られている化合物を配合することができる。
【0077】
<(a)成分〜(c)成分の分子中に含まれる炭素数8〜18の炭化水素基の説明>
本発明の液体洗浄剤組成物では、(a)成分〜(c)成分の分子中に含まれる炭素数8〜18の炭化水素基の80モル%以上が天然油脂を原料とするものである。
【0078】
ここで、天然油脂とは、とうもろこし油、綿実油、オリーブ油、落花生油、菜種油、サフラワー油、ごま油、大豆油、ひまわり油、やし油、パーム油、パーム核油等の植物油、牛脂、豚脂、魚油等の動物脂肪、好ましくはやし油、パーム油、パーム核油、菜種油、牛脂を挙げることができる。
【0079】
本発明の(a)成分〜(c)成分は、これら油脂を加水分解して得られる脂肪酸、メチルエステル化された脂肪酸メチルエステルを、例えば特開平8−169855号公報に記載の方法等に従って還元した脂肪族アルコール、さらには脂肪族アルコールから特開平11−116539号公報、WO2005/03512号国際パンフレット、特開2007−197396号公報等に記載されている方法により得られる三級アミンを原料として製造される界面活性剤である。
【0080】
具体的には、
(a)成分の一般式(1)の化合物の原料であるRa1OH、
(b)成分の一般式(2)の化合物においてm2が0の化合物の原料であるRa2−N(Rc2)(Rd2)、
(b)成分の一般式(2)の化合物においてm2が1の化合物の原料であるRa2−COX〔Xがハロゲンの場合は、脂肪酸と塩化チオニルや五塩化リン等を用いて製造される酸クロリドである〕、
(c)成分の一般式(3)の化合物の原料であるRa3−OH、Ra3−COOR3c、Ra3−NH2、Ra3−CON(Rb3OH)2
が、上述の天然油脂を原料として得られるものである。
【0081】
本発明の液体洗浄剤組成物では、Ra1、Ra2、Ra3の総モル数に対して、上記天然油脂から得られる脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミンを原料として得られるRa1、Ra2、Ra3のモル数が80モル%以上、好ましくは90モル%以上、より好ましくは95モル%以上、さらに好ましくは99モル%以上、特に100モル%であることが、カーボンニュートラルの考え方から好ましい。本発明では、このように天然の原料を用いても低温安定性等の問題がなく、非常に高い親油性汚れに対する洗浄力を有する液体洗浄剤組成物を得ることができる。
【0082】
<液体洗浄剤組成物>
本発明の液体洗浄剤組成物における(a)〜(c)成分の含有量は、
(a)成分の混合物は5〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、より好ましくは5〜20質量%であり、
(b)成分は1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%、より好ましくは2〜15質量%であり、
(c)成分は所望により配合する成分ではあるが、1〜10質量%、好ましくは1〜9質量%、より好ましくは1〜8質量%である。
【0083】
また、(a)成分と(b)成分は、(a)成分/(b)成分の質量比を0.6〜7.0、好ましくは0.8〜5.0、特に好ましくは1.0〜3.0にすることで、非常に高い乳化力と親油性汚れの洗浄力を向上させることができる。
【0084】
さらに、本発明では界面活性剤の濃度が高い場合に効果的であり、(a)成分+(b)成分+(c)成分の合計量は、好ましくは10〜50質量%、より好ましくは10〜45質量%、さらに好ましくは10〜40質量%の場合において、保存安定性に優れ、しかも非常に高い乳化力と親油性汚れの洗浄力を向上させた液体洗浄剤組成物を得ることができる。
【0085】
本発明の液体洗浄剤組成物は、(a)成分〜(c)成分以外の界面活性剤を排除するものではなく、本発明の課題を解決できる範囲で、少量の合成系の界面活性剤、より具体的には合成系のアルキル基を有する界面活性剤を併用してもよい。合成系の界面活性剤を用いることで低温での保存安定性はさらに担保されるだけでなく、天然系では合成しにくい界面活性剤もあり、それらを併用することで優れた洗浄力を得られる可能性がある。しかしながら、本発明の特徴は、界面活性剤のアルキル基又はアルケニル基を天然系に置き換えることが可能になった処にある。従って、発明の特徴を明確にするという観点から合成界面活性剤の濃度を制限するならば、合成系アルキル基を有する界面活性剤の配合量は、全界面活性剤中20質量%以下、さらには10質量%以下であり、特には実質的に含まない(0質量%)液体洗浄剤組成物であることが好ましい。
【0086】
本発明の液体洗浄剤組成物における(d)成分の含有量は、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。(d)成分として、(d−1)成分と(d−2)成分を併用するときは、(d−1)成分の含有量は、好ましくは0.5〜10質量%、より好ましくは1〜10質量%、さらに好ましくは1〜8質量%であり、(d−2)成分の含有量は、好ましくは1〜30質量%。より好ましくは3〜25質量%、さらに好ましくは3〜20質量%である。
【0087】
本発明の組成物は、上記各成分を水に溶解させた水溶液及び乳化させた乳化液のいずれでもよいが、透明な外観を有する水溶液が審美的に好ましい。用いる水は、水に微量に溶解している金属を除去したイオン交換水や蒸留水が好ましく、次亜塩素酸塩等を0.1〜3ppm程度含有する滅菌された水が好適である。本発明で用いる水は残部量(合計で100質量%とする量)であるが、組成物中85質量%以下が好ましく、他の成分を考慮した場合、80〜30質量%がより好ましい。
【0088】
本発明の液体洗浄剤組成物の20℃におけるpHは、好ましくは4.5〜9、より好ましくは5.5〜8、さらに好ましくは5.5〜7である。pH調整は、酸性に調整する場合は、塩酸、硫酸等の無機酸の他に、クエン酸等のキレート剤を用いてもよく、アルカリ性に調整する場合は、アルカノールアミンの他に、アルカリ金属水酸化物を用いてもよい。なお、pHは、実施例の方法で測定されたものである。
【0089】
本発明の液体洗浄剤組成物の20℃における粘度は、液の吐出性の観点から、10〜1000mPa・s、好ましくは10〜500mPa・s、特に好ましくは25〜500mPa・sである。粘度の測定方法は、20℃にてブルックフィールド型粘度計により測定する。ローターはNo.2のものを用い、回転数60r/minで回転し、回転開始から60秒後の粘度を液体洗浄剤組成物の粘度とする。
【0090】
本発明の液体洗浄剤組成物は、周知の各種硬質表面用、特に使用者が手洗いするときに用いる食器洗浄用として好適である。
【実施例】
【0091】
実施例1〜9及び比較例1〜2
下記(a)成分、(b)成分、(c)成分等、及び表3に示す成分を用いて液体洗浄剤組成物を調製した。その際、pHは48%水酸化ナトリウムを用いて調整した(表3中は「+」表示)。pHの測定方法は以下の通りである。調整後、これら組成物の洗浄力及び低温における貯蔵安定性を下記の方法で評価した。結果を表3に併記する。
【0092】
<(a)成分>
・ES1:アルキル鎖がC12:C14=73:27(質量比)の天然アルコールに、プロピレンオキシドを0.4モル付加、エチレンオキシドを1.5モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES2:アルキル鎖がC12:C14=73:27(質量比)の天然アルコールに、プロピレンオキシドを0.6モル付加、エチレンオキシドを1.5モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES3:アルキル鎖がC12:C14=73:27(質量比)の天然アルコールに、プロピレンオキシドを1.0モル付加、エチレンオキシドを1.5モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES4:アルキル鎖がC12:C14=73:27(質量比)の天然アルコールに、プロピレンオキシドを0.2モル付加、エチレンオキシドを1.5モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES5:アルキル鎖がC12の天然アルコールに、プロピレンオキシドを0.4モル付加、エチレンオキシドを2.0モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES6:アルキル鎖がC12:C14=73:27(質量比)の天然アルコールに、エチレンオキシドを2.0モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
・ES7:アルキル鎖がC12の天然アルコールに、エチレンオキシドを4.0モル付加したのち、三酸化硫黄により硫酸化し、水酸化ナトリウムで中和した(水で10%希釈したもののpHが11になるまで中和した)。
【0093】
ES1〜ES7の詳細を表2に示す。なお、上記の天然アルコールは、直鎖アルキル基を有する化合物のみで構成されている。各ES成分中の未硫酸化物の割合は1.5質量%であった。
【0094】
なお、ES1及び、ES2の未硫酸化物の組成は、
式(1−1)で示される化合物がES1は24質量%、ES2は20質量%、
式(1−2)で示される化合物がES1は14質量%、ES2は19質量%、
式(1−3)で示される化合物がES1は39質量%、ES2は32質量%、
式(1−4)で示される化合物がES1は29質量%、ES2は23質量%であった。
【0095】
【表2】

【0096】
<(b)成分>
・AO1:N−ラウリル−N,N−ジメチルアミンオキシド(アルキル基は天然由来の直鎖である)
・AO2:N−デシル−N,N−ジメチルアミンオキシド/N−ミリスチル−N,N−ジメチルアミンオキシド=2/3(質量比)(アルキル基は天然由来の直鎖である)
・APAO:ラウラミドプロピル−N,N−ジメチルアミンオキシド(アルキル基は天然由来の直鎖である)
・スルホベタイン:ラウリルジメチルスルホベタイン(アルキル基は天然由来の直鎖である)
<(c)成分>
・AG:アルキル基は天然由来の直鎖であり、アルキル基の組成がC12/C14=60/40(質量比)、の混合アルキルでグルコシド平均縮合度1.5のアルキルグルコシド
<(d)成分>
(d−1)成分
・PTS:p−トルエンスルホン酸
(d−2)成分
・EtOH:エタノール
・PG:プロピレングリコール
・PPG:重量平均分子量1000のポリプロピレングリコール
<その他>
・防腐剤:プロキセルBDN(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン;アビシア株式会社製)。
【0097】
<pHの測定方法>
pHメーター(HORIBA製 pH/イオンメーター F−23)にpH測定用複合電極(HORIBA製 ガラス摺り合わせスリーブ型)を接続し、電源を投入した。pH電極内部液としては、飽和塩化カリウム水溶液(3.33mol/L)を使用した。次に、pH4.01標準液(フタル酸塩標準液)、pH6.86(中性リン酸塩標準液)、pH9.18標準液(ホウ酸塩標準液)をそれぞれ100mlビーカーに充填し、25℃の恒温槽に30分間浸漬した。恒温に調整された標準液にpH測定用電極を3分間浸し、pH6.86→pH9.18→pH4.01の順に校正操作を行った。試料(液体洗浄剤組成物)を100mlビーカーに充填し、25℃の恒温槽内にて25℃に調整した。恒温に調整された試料にpH測定用電極を3分間浸し、pHを測定した。
【0098】
<低温における貯蔵安定性>
表3の液体洗浄剤組成物をPET製ボトル(竹本容器(株)、PEM−100)に100ml入れ、−5℃で20日の保存を行い、液の外観の変化を調製直後の透明、均一な状態と比較して下記の基準で評価した。
○:外観に変化がみられない
×:ゲル化、分離、沈殿形成等の外観の変化がみられる
<洗浄力試験>
菜種油に0.1質量%の色素(スタンレッド)を均一に混ぜ込んだモデル油汚れ1gとポリプロピレン製皿(関東プラスティック工業(株)製、C−39 PP製ミート皿)に塗り広げたものをモデル汚染食器とした。市販のスポンジ(住友3M社製:スコッチブライト)に表3の液体洗浄剤組成物1.0g及び水道水30gを染み込ませ2〜3回手でもみ泡立たせた。これを用いてモデル汚染食器を擦り洗いし、洗浄できた(食器に油汚れが残ることで発生する、ぬるつきの有無で洗えたかどうかを確認した)皿の枚数を求めた。
【0099】
【表3】

【0100】
実施例1〜9の組成物の20℃における粘度は25〜150mPa・sの範囲であった。
【0101】
実施例10〜11
ポリアルキレングリコール化合物としてポリプロピレングリコール及びグリセリンのエチレンオキシド付加物を含有する表4の液体洗浄剤組成物を調製した。洗浄力は上記評価方法によって求めた。また貯蔵保存による膜形成抑制については下記評価方法を用いた。
【0102】
<膜形成抑制>
実施例10〜11の液体洗浄剤組成物250mlを300mlビーカーに入れ、フタをすることなく、20℃、65%RHで、5日保存した後の、表面の膜形成の有無を調べた。膜ができていない場合を○とし、出来ている場合を×とする。
【0103】
使用した各成分の詳細は次のとおりであり、表3と同じ表示は前記と同じものであることを示す。
<(c)成分>
・ポリプロピレングリコール:重量平均分子量1000のもの
・PET:グリセリンのEO付加物(重量平均分子量1000のもの)
<(d)成分>
・パラトルエンスルホン酸:パラトルエンスルホン酸ナトリウム
<その他>
・ノニオン−I:アルキル基の組成が炭素数12/炭素数14=60/40(モル比)混合アルキルで、グルコシド平均縮合度1.5のアルキルグルコシド
・ノニオン−II:炭素数12、13混合アルキル2級アルコールに、EOを平均7モル付加させたもの(ソフタノール70、日本触媒株式会社)。
【0104】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(1)の化合物で示される化合物5〜30質量%、
(b)(a)成分とイオン的に複合体を形成することができ、且つ少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤1〜20質量%、
(c)所望により、少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する(a)成分及び(b)成分以外の界面活性剤、
(d)ハイドロトロープ剤及び有機溶剤から選ばれる一種以上、
並びに水を含有する、液体洗浄剤組成物。
a1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)
〔式中、
a1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m1はPOの平均付加モル数で、0.1〜1の数であり、
n1はEOの平均付加モル数で、0.5〜3の数を示す。
Mは陽イオンである。〕
【請求項2】
(a)下記一般式(1)の化合物で示される化合物5〜30質量%、
(b)(a)成分とイオン的に複合体を形成することができ、且つ少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する界面活性剤1〜20質量%、
(c)所望により、少なくとも1つの炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基を有する(a)成分及び(b)成分以外の界面活性剤、
(d)ハイドロトロープ剤及び有機溶剤から選ばれる一種以上、
並びに水を含有し、
(a)成分〜(c)成分が分子中に有する炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基が、カルボニル基を有するときも含めて炭素数が偶数のものである液体洗浄剤組成物。
a1O−(PO)m1−(EO)n1SO3M (1)
〔式中、
a1は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、
a1O−の酸素原子は、Ra1の第一炭素原子に結合しており、
POとEOはそれぞれオキシプロピレン基とオキシエチレン基であり、
m1はPOの平均付加モル数で、0.1〜1の数であり、
n1はEOの平均付加モル数で、0.5〜3の数を示す。
Mは陽イオンである。〕
【請求項3】
(b)成分が下記一般式(2)の化合物である請求項1又は2記載の液体洗浄剤組成物。
【化2】

〔式中、
a2は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、
b2はエチレン基又はプロピレン基であり、
Xは−COO−及び−CONH−から選ばれる基である。
m2は0又は1の数であり、Ra2−と結合するm2=0のときの窒素原子又はm2=1のときのXは、Ra2の第一炭素原子に結合しており、Rc2及びRd2はそれぞれ独立に炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である。
Yは−O-、−CH2COO-、−C36−SO3-、−CH2CH(OH)CH2−SO3-、炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基から選ばれ、Z-は陰イオンである。
n2はYが分子内に陰イオンを有する場合には0の数であり、Yが炭素数1〜3のアルキル基か若しくは炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基から選ばれる場合には1の数である。〕
【請求項4】
(c)成分が、下記一般式(3)の化合物である請求項1〜3の何れか1項に記載の液体洗浄剤組成物。
a3−S−〔T〕m3 (3)
〔式中、
a3は炭素数8〜18の直鎖の炭化水素基であり、Ra3−と結合するSは、Ra3の第一炭素原子に結合しており、
Sは−O−、−COO−、−N<、及び−CON<から選ばれる基である。 Tは−(Rb3O)n3−R3c及び/又は平均縮合度が1〜2のグルコースからRa3に結合する水酸基から水素原子を除いた残基(この場合、Sは−O−に限られる)であり(ここで、Rb3はエチレン基及び/又はプロピレン基であり、R3cは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、n3は平均付加モル数であり3〜30の数である。)、
m3は、Sが−O−、−COO−の場合には1の数であり、Sが−N<、−CON<の場合には2の数である。〕
【請求項5】
組成物中の界面活性剤の含有割合が20〜50質量%であり、前記界面活性剤中の(a)〜(c)成分が占める割合が80質量%以上である、請求項1〜4の何れか1項にの何れか1項に記載の液体洗浄剤組成物。
【請求項6】
(d)成分の有機溶剤としてポリプロピレングリコール及びグリセリンのエチレンオキシド付加物から選ばれる1種以上を含有する請求項1〜5の何れか1項に記載の液体洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2010−185063(P2010−185063A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−62246(P2009−62246)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】