説明

液体濃縮システム

【課題】
液体濃縮システムにおいて、液体を効率よく均一に短時間で加熱して濃縮効率を高める。
【解決手段】
液体濃縮システム1は、減圧環境下で原料液体を加熱し、液面から揮発成分を蒸発させて原料液体を濃縮する。そのため、液体濃縮システムは、原料液体を濃縮する液体濃縮器10と、この液体濃縮器に連通する真空ポンプ100と、液体濃縮器で原料液体を加熱する加熱源となる温水循環装置94とを有する。液体濃縮器で蒸発した揮発成分を液体濃縮器外に蒸気ライン82が導く。液体濃縮器で蒸発せずに濃縮された濃縮液を液体濃縮器外に濃縮液ライン81が導く。濃縮液ラインに濃縮ライン調整バルブを介在させ、濃縮ラインに加熱手段を取り付ける。加熱手段および濃縮ライン調整バルブを制御部200が制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液面からの蒸発により液体を濃縮する液体濃縮システムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体を濃縮する従来技術が、特許文献1に開示されている。この公報に記載の減圧蒸発濃縮装置においては、蒸発凝縮水側に被処理液中の非揮発性成分が混入しないように、被処理液の蒸気を発生させる蒸発沸騰缶部の上方に蒸発沸騰缶部から供給される蒸気を冷却及び凝縮する冷却凝縮室部を設けている。そして、蒸発沸騰缶部の液体あるいは固体が冷却凝縮室部に到達しないように、ミスト除去手段を蒸気通路に設けている。
【0003】
液体濃縮の他の例が、特許文献2に記載されている。この公報に記載の加熱気化装置では、内筒及び外筒からなる2重円筒において、内筒の外周部に液体浸透板を設けている。この液体浸透板は、多孔質材により形成され、上部に設けた液体供給位置の下方に水平方向に延びた空隙が形成されている。そして内筒内を加熱することにより、液体浸透板の上部に供給された液体を気化している。
【0004】
【特許文献1】特開2004−344700号公報
【特許文献2】特開2004−167433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体を濃縮する際には、加熱効率の向上と濃縮時間の短縮化が要求される。上記特許文献1に記載の減圧蒸発濃縮装置では、ヒータを導入する容器壁面近傍などに周囲に比べて温度が高いホットスポットが形成されるおそれがある。ヒートスポットが形成されると、容器内を均一に加熱することができず、加熱効率が低下する。
【0006】
また、均一に加熱するためには容器を小さくしなければならないが、容器を小さくすると液体が蒸発するのに必要な気液界面の面積が縮小し、蒸発量が低減し濃縮に要する時間が増大する。つまり、加熱効率の向上と濃縮時間の短縮を同時に達成することが困難であった。
【0007】
上記特許文献2に記載の加熱気化装置では、多孔質の液体浸透板を外表面に設けた内筒の内部から加熱して、気化効率を向上させている。しかしながら、多孔質の液体浸透板では、一度気化した被分離物質が供給管から供給された液状の被分離物質と混じりあい、凝縮して再度液体に変化し、分離効率を低下させるという不具合が発生するおそれがある。
【0008】
本発明は上記従来技術の不具合に鑑みなされたものであり、その目的は、液体濃縮システムが、液体を効率よく短時間で加熱することにある。本発明の他の目的は、液体濃縮システムが自動的に効率よく液体を濃縮処理することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の特徴は、減圧環境下で原料液体を加熱し、液面から揮発成分を蒸発させて原料液体を濃縮する液体濃縮システムにおいて、原料液体を濃縮する液体濃縮器と、この液体濃縮器に連通する真空ポンプと、液体濃縮器で原料液体を加熱する加熱源となる温水循環装置と、この液体濃縮器で蒸発した揮発成分を液体濃縮器外に導く蒸気ラインと、液体濃縮器で蒸発せずに濃縮された濃縮液を液体濃縮器外に導く濃縮液ラインと、この濃縮液ラインに介在させた濃縮ライン調整バルブと、濃縮ラインに取り付けた加熱手段と、この加熱手段および濃縮ライン調整バルブを制御する制御部とを有することにある。
【0010】
そしてこの特徴において、液体濃縮器は、外管と内管とを有する二重円筒構造であって、円筒軸が鉛直軸方向に配置されており、外管と内管間に温水循環装置から導かれた流体の流通する円筒空間を形成し、内管の内周面に軸方向に延びる多数の溝が形成されており、内管の内部に形成された処理空間に一端部が突出し他端部がこの内管から外部に延びる中空の蒸気吐出管を内管下部に配置し、内管の上部にこの内管の溝部に原料液体を供給する供給管を形成し、内管下方であって蒸気吐出管が配置された位置とは異なる位置に、分離された濃縮液を排出する濃縮液吐出管を設け、蒸気ラインは蒸気吐出管に接続され、濃縮液ラインは濃縮液吐出管に接続されていることが望ましい。
【0011】
また、内管の上端部と嵌合する溝付き管上フタを設け、この溝付き管上フタの上面に複数のランド部を放射状に配置し、この複数のランド部の中央部バッファー部を形成するのがよく、濃縮液ラインは、さらに濃縮液タンクと、この濃縮液タンクに貯えられた濃縮液を外部に供給する排出ポンプとを有し、さらに液体濃縮器と濃縮ライン調整バルブ間および濃縮ライン調整バルブと濃縮液タンク間、濃縮液タンクにそれぞれ温調用温度センサを有し、制御部はこれら温調用温度センサの出力に基づいて加熱手段および濃縮ライン調整バルブを制御するのがよい。
【0012】
さらに、蒸気吐出管の液体濃縮器側端部に、傘状の逆流防止カバーを取り付けるようにしてもよい。また、液体濃縮器を複数個有し、この液体濃縮器を並列に運転可能にしてもよい。
【0013】
上記目的を達成する本発明の他の特徴は、減圧環境下で原料液体を加熱し、液面から揮発成分を蒸発させて原料液体を濃縮する液体濃縮システムにおいて、原料液体を濃縮する複数の液体濃縮器と、この液体濃縮器に連通する真空ポンプと、液体濃縮器で原料液体を加熱する加熱源となる温水循環装置と、各液体濃縮器に液体を送液するための原料バッファーと、この原料バッファーに原料を供給する原料供給ポンプとを有し、原料バッファーに複数の液体濃縮器を並列に接続し、液体濃縮器ごとに蒸発した揮発成分を液体濃縮器外に導く蒸気ラインと、液体濃縮器で蒸発せずに濃縮された濃縮液を液体濃縮器外に導く濃縮液ラインとを設け、この濃縮液ラインに介在させた濃縮ライン調整バルブと、濃縮ラインに取り付けた温調用ヒータと、この温調用ヒータおよび濃縮ライン調整バルブを制御する制御部とを有することにある。
【0014】
そしてこの特徴において、液体濃縮器は、内管と外管とを重ねた構造であり、外管と内管の間に温水循環装置から温水を導き、内管内部を前記真空ポンプで減圧環境とし、内管内面に多数形成され軸方向に延びる微細な溝を伝わり落ちる薄膜状の原料液体を温水で低温蒸発させ、発生した蒸気を内管内部に挿入した蒸気吐出管に、蒸発しない液を内管下部に配置した濃縮液吐出管にそれぞれ導き、液体を濃縮するのが好ましい。
【0015】
また、液体濃縮器では、内管の上端に供給液体を受ける溝付き管上フタを配置し、この溝付き管上フタに放射状の微細な溝を多数形成し、毛細管現象を利用して液体を内管の円周全体に送液し、この内管の円周内面に形成した微細な溝に実質的に均一な薄膜が形成されるようにするのが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液体を微細な溝に送液する動力を準備したので、安定して濃縮できるスタティックな濃縮器が得られる。また、微細な溝底に液体の薄膜を形成したので、熱の伝達が容易になり、加熱効率が向上し、濃縮時間を短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る液体濃縮システムの例を、図面を用いて説明する。以下の説明においては、食用酢の生産に適用する場合を例にとるが、濃縮対象は食用酢に限るものではない。ただし、被凝縮物が揮発性成分よりも沸点の高いものが望ましい。
【0018】
図1に、液体濃縮システム1の一実施例を、ブロック図で示す。液体濃縮システム1は、供給された液体における揮発性成分を蒸発させて液体を濃縮する液体濃縮器10を複数個有している。各液体濃縮器10は、濃縮前の原料液体を収容する原料タンク90と、この原料タンク90に貯えられた原料液体を液体濃縮器10に供給する原料供給ポンプ91が接続されている。なお、液体濃縮器10は複数個あるが、原料タンク90および原料供給ポンプ91は、液体濃縮システム1全体で、液体濃縮器10の能力に応じて1ないし数個あればよい。
【0019】
各濃縮器10に均一流量で供給するために、原料供給ポンプ91から吐出される原料液体は、濃縮器10の上流側に設けた原料バッファー92に一時的に貯められる。原料バッファー92と液体濃縮器10の間には、各液体濃縮器10ごとに配置され、各液体濃縮器10に所望の流量を送液する流量調整ポンプ93が設けられている。詳細を後述するが、液体濃縮器10では、外部の加熱水を利用して濃縮するので、温水循環装置94が付設されており、温水循環装置94から供給された高温水は、液体濃縮器10内部に形成された流路41を経た後に、温水循環装置94に戻る。
【0020】
液体濃縮器10で、高温水により原料液体から分離された揮発性成分蒸気は、液体濃縮器10の底部に接続された蒸気ライン82に流入する。蒸気ライン82の途中には、液体濃縮器10から吐出された揮発性成分蒸気を露点以下にまで冷却して液化する熱交換器
95が配置されている。この熱交換器95には、冷却水循環装置96から冷却水が供給され、揮発性成分蒸気と冷却水とが熱交換する。冷却水と熱交換して液化した揮発性成分は、蒸発液タンク97に送られ貯蔵される。
【0021】
一方、液体濃縮器10で濃縮された濃縮液は、液体濃縮器10の底部に接続された濃縮液ライン81に導かれる。濃縮液ライン81の途中には、濃縮液の濃度を調整するとともに、液体濃縮器10で分離された揮発性成分蒸気が濃縮液ライン81に逆流するのを防止するために、濃縮ライン調整バルブ98が設けられている。濃縮液ライン81を流通した濃縮液は、濃縮液タンク99に貯蔵される。
【0022】
各濃縮器10の上流側に配置した原料バッファー92から、濃縮器10の下流側に配置した蒸発液タンク97および濃縮液タンク99までの流路を減圧環境にするために、真空ポンプ100が蒸発液タンク97および濃縮液タンク99に接続されている。真空ポンプ100は、流路の下流側から減圧して流路を真空雰囲気にし、濃縮液や揮発性成分流体の流動を容易にする。
【0023】
蒸発液タンク97および濃縮液タンク99には、それぞれ排出ポンプ101,101が接続されており、真空雰囲気である濃縮液タンク99と蒸発液タンク97から各液体を大気圧下へ排出する。濃縮液タンク99に貯えられ、排出ポンプ101で排出された濃縮液は、貯蔵容器102に貯蔵される。同様に、蒸発液タンク97に貯えられ排出ポンプ101で排出された揮発性成分液体は貯蔵容器103に貯蔵される。
【0024】
このように構成した液体濃縮システム1では、小型パソコンなどから構成され図1において鎖線で囲んだ部分を、制御部200が制御する。その際、制御部200は、各種センサの検出信号に基づいて、各バルブ98やポンプ91,93,101,熱交換器95の熱交換量等を制御する。センサとしては、原料バッファー92に付設され、原料バッファー92内の水位を計測する水位センサ201,液体濃縮器10の温度を計測する濃縮器温度センサ202,濃縮された液体の濃度を計測する濃度センサ203、および、濃縮液ライン81内を流通する濃縮液の温度を検出する温調用温度センサ205がある。
【0025】
温調用温度センサ205は、液体濃縮器10と濃縮ライン調整バルブ98間、濃縮ライン調整バルブ98,濃縮液タンク99間、および濃縮液タンク99に取り付けられている。なお、図1において二重線で示すように、濃縮液ライン81および濃縮液タンク99を温度調節するために、温調用ヒータ204が、濃縮液ライン81および濃縮液タンク99に取り付けられている。
【0026】
このように構成した本実施例に係る液体濃縮システム1では、濃縮対象である食用酢は、原料供給ポンプ91により原料タンク90から原料バッファー92に供給される。原料供給ポンプ91には、円周状に配置されたローラーがチューブをしごいて送液するチューブポンプを使用した。チューブポンプを用いたので、送液しないときにはローラーがチューブを閉塞する。その結果、真空ポンプ100が発生する圧力差により、過剰な液量が供給されるのを防止することができる。
【0027】
原料バッファー92は、パイプ状に形成されており、その両端部が閉じた円筒形をしている。この原料バッファー92には、複数の液体濃縮器10を並列に取り付け可能なように、液体濃縮器10との図示しない接続用継手が複数個設けられている。接続用継手を複数個設けたので、液体の処理量に応じて液体濃縮器10の数を容易に増減できる。以下の説明においては、原料バッファー92に液体濃縮器10を2個取り付け場合を例にとる。
【0028】
原料タンク90から原料バッファー92に食用酢が予め定めた量だけ供給されると、原料バッファー92に取り付けた水位センサ201が原料である酢の液位を検出する。この水位センサ201の検出信号は、制御部200に送られる。制御部200は、液位が所定値以上であるのを確認して、流量調整ポンプ93を動作させる。そして制御部200は、所望の流量を送液しながら原料バッファー92内の液位が所定高さとなるように、原料供給ポンプ91と流量調整ポンプ93を制御する。これにより、原料である酢の原料タンク90からの供給量と液体濃縮器10への排出量をバランスさせることが可能となる。つまり、各液体濃縮器10への供給液量を等しくすることができる。
【0029】
液体濃縮器10の内部は、真空ポンプ100により減圧されている。また、温水循環装置94から供給される温水により、液体濃縮器10は中心部からではなく内外周面間から加熱される。その結果、100℃以下の温度で液体中の揮発性成分を蒸発できる環境が形成される。水を沸騰させる例では、常圧であれば100℃もの高温が必要となる。食用酢中のアミノ酸は、70℃以上の温度では変質するため、100℃もの高温環境にせざるを得ないものでは、使用できない。
【0030】
そこで本実施例では、液体濃縮システム1の出口側に真空ポンプ100を設け、液体濃縮システム内の流路を減圧することにより、沸点を下げて低圧蒸発させている。なお上記実施例では液体濃縮器10の加熱源に温水を使用しているが、より高い熱エネルギーが必要であれば、温水の代わりに蒸気(高温蒸気あるいは減圧した低温蒸気)を用いてもよい。液体濃縮器10には、内部の温度を計測する濃縮器温度センサ202が取り付けられており、処理量等の変化で温度が70℃を超えそうな場合は、制御部200が温水循環装置94を制御して、温水温度を低下させる。
【0031】
液体濃縮器10内では、詳細を後述するように、蒸発した揮発性成分と液体のままの濃縮液が分離する。分離した揮発性成分蒸気と濃縮液は、真空ポンプ100により流路が減圧されていること、および液体濃縮器10と原料バッファー92間に設けた流量調整ポンプ93が加圧することで、下流側に導かれる。
【0032】
主として水からなる気化した揮発性成分は、熱交換器95に流入し、冷却水循環装置
96から供給される冷却水と熱交換して凝縮し再び液体となり蒸発液タンク97へ貯蔵される。他方の濃縮液は、そのまま濃縮液タンク99に導かれ貯蔵される。このとき、濃縮液ライン81に設けた濃度センサ203が濃縮液の濃度を検出し、制御部200に検出信号を送信する。
【0033】
制御部200は、濃縮液ライン81に設けた濃縮ライン調整バルブ98を適宜開閉する。蒸気ライン82に対して、濃縮液ライン81の抵抗を変化させ、濃縮液の流量を調整して、濃縮液の濃度を所望の値に調節する。濃縮ライン調整バルブ98を絞って、液体濃縮器10を通過する食用酢の流量を減少させると、濃縮液体の濃度が増す。これとは逆に、濃縮ライン調整バルブ98を開いて流量を増やすと、濃縮液体の濃度は低下する。
【0034】
また、濃縮液ライン81の抵抗を蒸気ライン82の抵抗よりも大にすれば、蒸気の逆流が防止され、確実に気液分離できる。なお、原料が食用酢の場合には、濃度が増すのに比例して色が濃く変化する。そこで本実施例では、濃度センサ203に吸光度センサを用いた。吸光度センサを用いる場合には、予め濃度ごとにサンプリングした濃縮液の濃度と吸光度の関係を求め、この関係式に従って、濃縮ライン調整バルブ98を制御する。
【0035】
上記説明では、原液から特定の揮発性成分を取り出し濃縮する場合を説明したが、濃縮する液体としては、沸点の異なる液体の混合液でもよい。この場合、沸点の低い液体が揮発性成分、沸点の高い液体が非揮発性成分となる。
【0036】
各液体濃縮器10から集められて蒸発液タンク97に貯められた蒸発液は、最終的に排出ポンプ101により、大気圧下の貯蔵容器103へ、濃縮液タンク99に貯められた濃縮液は、大気圧下の貯蔵容器102へと運ばれる。これにより、液体濃縮処理は終了する。ここで、食用酢の場合には、所定濃度以上に濃縮すると、粘度が高くなり送液が困難になる。
【0037】
この不具合を解消するために、液体濃縮器10から排出ポンプ101を経て貯蔵容器
102へ至る濃縮液ライン81と濃縮液タンク99に、温調用ヒータ204を取り付ける。温調用ヒータ204で濃縮液を温めて、濃縮液の粘度を低下させ、流動性を高めて送液を容易にする。温調用ヒータ204の温度は、温調用温度センサ205からの情報に基づいて制御部200が制御する。
【0038】
図1に示した液体濃縮システム1に用いる液体濃縮器10の詳細を、図2以下を用いて説明する。図2は、液体濃縮器10の外観斜視図である。液体濃縮器10は、パイプ状の外管11に、上フタ12と下フタ13をネジで取り付けて密閉した円筒形をしており、図2に示すように円筒軸が鉛直方向になるように設置する。
【0039】
外管11の側部であって下部には、温水の入口である温水供給管14が取り付けられている。外管11の側部であって上部には、温水の出口である温水吐出管15が取り付けられている。温水循環装置94(図1参照)から供給された温水は、側下部に取り付けた温水供給管14から外管11の内部に導かれ、液体濃縮器10内を循環して流量調整ポンプ93から送られた原料の食用酢を加熱する。
【0040】
上フタ12には、原料供給管16が取り付けられている。原料タンク90に貯えられ濃縮対象の食用酢は、原料供給管16を経て液体濃縮器10内に供給される。下フタ13には、蒸気吐出管17と濃縮液吐出管18が取り付けられている。液体濃縮器10内において分離された蒸気は蒸気吐出管17から、濃縮液は濃縮液吐出管18から後段へと導かれる。各管の先端には管用ネジを形成し、他の機器との接続を容易にしている。
【0041】
ここで、理由を後述するが、液体濃縮装置10は傾きの無いように鉛直に設置されることが望ましい。そこで本実施例では、流量調整ポンプ93と原料供給管16を接続する配管に、サニタリー用のフレキシブルチューブ19を用いている。フレキシブルチューブを用いて液体濃縮器10を宙吊りにしたので、液体濃縮器10は自重により、傾き無く鉛直に位置する。
【0042】
液体濃縮器10の下部に、L字型のブラケット20を配置する。このブラケット20には、3本の位置決めネジ21が取り付けられている。また、上フタ12の上面に、水準器22を取り付ける。液体濃縮器10が鉛直になった状態を水準器22で確認し、3本の位置決めネジ21を下フタ13の下面に当接させ、液体濃縮器10が鉛直となるように3点で支持および固定する。なお、ブラケット20は図示しないフレームに固定されている。これも図示していないが、温水配管14,15および濃縮液吐出管18,蒸気吐出管17の先端には、サニタリー用のフランジ23を設けて、他の機器との接続を容易にしている。
【0043】
図3に、液体濃縮器10の縦断面図を示す。この図3は、図2のA−A矢視断面図である。液体濃縮器10は、外管11および液体が蒸発する溝付き管30,蒸気吐出管17を備えている。これら3つの管11,30,17は、同心状に配置された三重管構造となっている。蒸気吐出管17は、下フタ13のほぼ中央部に固定されており、溝付き管30の内部であって上下方向真ん中よりやや下方まで上端部が突出している。
【0044】
外管11は、上端部及び下端部の内径が中間部の内径よりも小径に形成されており、この小径部に当接して溝付き管30が保持されている。下フタ13は上下にフランジを有する断面I字型に形成されており、上部フランジで溝付き管30の下端を保持している。溝付き管30の上端は、上フタ12の下方に配置され外管11の内周面に当接する溝付き管上フタ32で保持されている。
【0045】
液体濃縮器10の内部には、外管11の内周面と溝付き管30の外周面間に上下方向に延びる円筒空間41が形成される。また、溝付き管30内部には、原料液体である食用酢が濃縮および分離される処理空間42が形成される。円筒空間41には、温水供給管14および温水吐出管15が連通している。蒸気吐出管17の内部空間43は、処理空間42と連通しており、内部は真空ポンプ100により減圧環境に保たれている。
【0046】
なお、外管11と溝付き管30とは、当接部に配置したOリング31でシールされており、処理空間42内の流体が円筒空間41内に流入するのを防止している。円筒空間41では、図中鎖線矢印で示すように、下部から上部に向けて温水が循環している。これにより溝付き管30は均一に加熱され、食用酢の蒸発に必要な熱エネルギーが与えられる。ここで、温水の出入り口を上下逆にすることも可能であるが、温水を空間内に均等に行き渡らせるためには、対向流効果が期待できる本実施例の配置のほうが望ましい。
【0047】
原料供給部である上フタ12部の詳細を、図4に示す。また、上フタ12が係合する部分を、図5に部分断面図で示す。この図5は、図3の破線で囲んだB部の拡大図である。後述するように、溝付き管30で効率的に液体を蒸発させるためには、溝付き管30の円周上に均一に液体を送液する必要がある。そこで本実施例では、溝付き管30上端部に、この溝付き管に嵌合する溝付き管上フタ32を配置し、この溝付き管上フタ32の上面中央部にバッファー部33を形成した。
【0048】
すなわち、溝付き管上フタ32は上面側に、放射状に延びる複数のランド部32aを有している。ランド部32aは菱形の1頂点側を外方に伸ばした剣先の形状をしており、ランド部32a間には半径方向に延びるほぼ一定幅の液体誘導溝34が形成されている。溝付き管上フタ32の上面と上フタ12の下面は、当接する。上フタ12を蓋材として、バッファー部33と液体誘導溝34は食用酢の流路を形成する。
【0049】
原料供給管16から吐出された食用酢は、図4中に矢印線で示すように溝付き管上フタ32の中央部分に形成されるバッファー部33に送液される。バッファー部33に比べて液体誘導溝34は十分に小さいので、圧力損失の差により食用酢はバッファー部33を満たすまでは液体誘導溝34に侵入しない。
【0050】
バッファー部33を満たした食用酢は、流量調整ポンプ93で間断なく押し込まれる食用酢により加圧され、各液体誘導溝34をほぼ均等に満たしながら半径方向外側に水平移動する。そして、溝付き管上フタ32の外周部に達すると、流れ方向を水平方向から鉛直方向に変え、後段の溝付き管30の上端部に円周均一に送液される。溝付き管30に達した食用酢は、溝付き管30の溝部を構成する壁面等を伝って落下する。
【0051】
ここで、溝付き管上フタ32の上端部で、円周状に均一に送液するために、溝付き管上フタ32を水平に保つ。つまり、先に液体濃縮器10を垂直に取り付けるのが望ましいと述べた理由は、溝付き管上フタ32を水平に保持するためである。液体濃縮器10を鉛直方向に配置すると液溜りが生じ難い。そのため、液体濃縮器10を洗浄する際に洗浄液を送液すれば残留液体を容易に取り除くことができ、メンテナンス性が向上する。
【0052】
溝付き管30の詳細を、図6に示す。図6(a)は、溝付き管30の上端部の斜視図であり、同図(b)は上面図である。溝付き管30は、内周面に多数の微細溝35がほぼ等間隔で形成されている。本実施例で用いる溝付き管30では、溝35を区画するフィン
27は、一辺1.65mm のほぼ正三角形状をしている。溝付き管30の、直径(外径)は48mmで、軸方向長さ184mm、溝35の数は72個である。
【0053】
溝付き管上フタ32から溝付き管30の上端に達した食用酢は、表面張力により各溝
35およびフィン27の壁面にトラップされて薄膜36を形成する。そして、溝付き管
30の内壁面を伝わって下部に落下する。微細溝35の断面形状は薄膜36の形成されやすさ(液体を溝内に保持するに足る表面張力を持つ形)と、蒸発に必要な熱エネルギーを十分に伝えることが可能な熱伝達性を備えていればよく、方形,三角形,半円形,台形などが用いられる。本実施例では、薄膜36が形成されやすく加工も容易なように、上述したように正三角形状とした。
【0054】
溝付き管30は、外周面側から温水によって加熱されている。液体が薄膜化しているので、微細溝35内の液体は温度に対する反応性が高い。さらに、処理空間42を減圧しているので、常圧時より低い温度で蒸発が開始される。その結果、食用酢に含まれる主として水からなる揮発成分は、溝付き管30の下端に至る間に蒸発する。蒸発量は、液体の供給量と温水温度を制御して、決定される。
【0055】
本実施例では、各微細溝35で個別に食用酢が蒸発するので、食用酢の処理量は溝35の数に比例する。つまり、一度ある条件下での1個の微細溝35の蒸発量を把握すれば、溝35の数を増減するだけで、容易に異なる処理量の液体濃縮器10が得られる。例えば、溝35の数を20個とし、毎分50mlの液体を10倍濃縮できた結果が得られておれば、温度等の条件を等しくすると、溝の数を40個に増やせば毎分100mlの液体を10倍濃縮することができる。なお、蒸発条件を等しくするためには、各溝35への供給液量を均一にしなければならない。そのため、本実施例では溝付き管上フタ32にバッファー部33や液体誘導溝34を設け、溝付き管30の内面を流れる液量の周方向均一化を図っている。
【0056】
揮発成分を蒸発させ液体のままである食用酢の濃縮液は、図3で実線の矢印で示すように、溝35を形成する溝付き管30の内周面を下降し、溝35部から溝付き管30と下フタ13の間に形成された濃縮液バッファー部37に移動する。濃縮液バッファー部37に導かれた濃縮液は、濃縮液吐出管18を経て濃縮液タンク99に貯蔵される。
【0057】
蒸発した揮発成分は、図3で破線の矢印で示すように、処理空間42に連通する蒸気吐出管17の内部の空間43に流入する。食用酢の濃縮においては、蒸発した揮発成分を再度液化したものをホワイトビネガーという名称で利用する。そのため、蒸発ライン82に濃縮液が混入することを、確実に防止する必要がある。そこで蒸気吐出管17を、溝付き管30の内部の適当な位置まで差し込んで、下フタ13に溶接している。これにより、万一、濃縮液バッファー部37を越えて濃縮液が溝付き管30内に侵入しても、容易には蒸気吐出管17内に流れ込まない。また、蒸気吐出管17の先端に円錐状の逆流防止カバー38を設け、さらに濃縮液の侵入を防止している。
【0058】
図7に、液体濃縮器10の上半部分を、斜視断面図で示す。この図7は、図3のC−C矢視断面図である。逆流防止カバー38は、円錐形の傘のような形状をしており、蒸気吐出管17を覆うように、蒸気吐出管17の上端部に取り付けられている。破線矢印で示すように、蒸気はこの逆流防止カバー38を迂回して、蒸気吐出管17に吸引される。
【0059】
逆流防止カバー38を取り付けたので、微細溝35にトラップされた液体が、万一溝
35を飛び出しても、蒸気吐出管17に混入するのを防止できる。蒸気吐出管17に吸引された揮発成分蒸気は、熱交換器95で冷却されて液化する。液化した揮発成分は、蒸発液タンク97に貯蔵される。このとき、濃縮液が流れるライン81には濃縮ライン調整バルブ98を設けており、このバルブ98を調整して蒸気が濃縮液吐出管18へ逆流するのを防止する。
【0060】
本実施例によれば、液体濃縮器が可動部分を有しないスタティックな構造であるから、可動部のあるものよりも信頼性が高い。また、原料液体をフロー処理で連続的に供給して濃縮するので、処理能力が向上する。また、原料液体を加熱した際に生じる揮発成分が溝付き管の内部に形成される処理空間側に流動し、揮発しない液状の濃縮液が溝部を薄膜化されて流下するので、揮発成分が濃縮液と再結合することがなく、処理効率が向上する。さらに、液体濃縮器の下部ほど溝付き管の温度が高いので、揮発成分は下部になればなるほど凝縮するおそれがなく、濃縮液との再結合を防止できる。
【0061】
上記実施例においては、濃縮液の流量や温水温度などの初期条件を設定するだけで、濃縮処理中には制御部200が全て自動で制御するので、省人化が図られる。省人化が可能なので、長時間の連続処理も容易になる。また、制御部200は記憶手段を備え、一度行った製造条件を記憶することが可能なので、2度目以降はより素早く、かつ再現性良く濃縮処理をスタートできる。
【0062】
また、上記実施例によれば、液体濃縮器を単一または多数並列に配置することが可能であり、各液体濃縮器に均一に送液できるようにし、また濃縮度を計測するとともに流量調整装置を設けたので、自動的に多量の液体を所望の濃度に濃縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る液体濃縮システムの一実施例のブロック図。
【図2】図1に示した液体濃縮システムに用いる液体濃縮器の斜視図。
【図3】図2のA−A矢視断面図。
【図4】図2に示した液体濃縮器が有する溝付き管上フタの斜視図。
【図5】図3のB部拡大図。
【図6】図2に示した液体濃縮器が有する溝付き管の上面図および斜視図。
【図7】図3のC部の斜視断面図。
【符号の説明】
【0064】
1 液体濃縮システム
10 液体濃縮器
11 外管
12 上フタ
13 下フタ
14 温水供給管
15 温水吐出管
16 原料供給管
17 蒸気吐出管
18 濃縮液吐出管
19 フレキシブルチューブ
20 ブラケット
21 位置決めネジ
22 水準器
23 フランジ
30 溝付き管(内管)
31 Oリング
32 溝付き管上フタ
33 バッファー部
34 液体誘導溝
35 微細溝
36 薄膜
37 濃縮液バッファー部
38 逆流防止カバー
90 原料タンク
91 原料供給ポンプ
92 原料バッファー
93 流量調整ポンプ
94 温水循環装置
95 熱交換器
96 冷却水循環装置
97 蒸発液タンク
98 濃縮ライン調整バルブ
99 濃縮液タンク
100 真空ポンプ
101 排出ポンプ
102 貯蔵容器
200 制御部
201 水位センサ
202 濃縮器温度センサ
203 濃度センサ
204 温調用ヒータ(加熱手段)
205 温調用温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧環境下で原料液体を加熱し、液面から揮発成分を蒸発させて原料液体を濃縮する液体濃縮システムにおいて、
原料液体を濃縮する液体濃縮器と、この液体濃縮器に連通する真空ポンプと、前記液体濃縮器で原料液体を加熱する加熱源となる温水循環装置と、この液体濃縮器で蒸発した揮発成分を液体濃縮器外に導く蒸気ラインと、液体濃縮器で蒸発せずに濃縮された濃縮液を液体濃縮器外に導く濃縮液ラインと、この濃縮液ラインに介在させた濃縮ライン調整バルブと、前記濃縮ラインに取り付けた加熱手段と、この加熱手段および濃縮ライン調整バルブを制御する制御部とを有することを特徴とする液体濃縮システム。
【請求項2】
前記液体濃縮器は、外管と内管とを有する二重円筒構造であって、円筒軸が鉛直軸方向に配置されており、前記外管と内管間に前記温水循環装置から導かれた流体の流通する円筒空間を形成し、前記内管の内周面に軸方向に延びる多数の溝が形成されており、前記内管の内部に形成された処理空間に一端部が突出し他端部がこの内管から外部に延びる中空の蒸気吐出管を内管下部に配置し、前記内管の上部にこの内管の溝部に原料液体を供給する供給管を形成し、内管下方であって前記蒸気吐出管が配置された位置とは異なる位置に、分離された濃縮液を排出する濃縮液吐出管を設け、前記蒸気ラインは前記蒸気吐出管に接続され、前記濃縮液ラインは前記濃縮液吐出管に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の液体濃縮システム。
【請求項3】
前記内管の上端部と嵌合する溝付き管上フタを設け、この溝付き管上フタの上面に複数のランド部を放射状に配置し、この複数のランド部の中央部バッファー部を形成したことを特徴とする請求項2に記載の液体濃縮システム。
【請求項4】
前記濃縮液ラインは、さらに濃縮液タンクと、この濃縮液タンクに貯えられた濃縮液を外部に供給する排出ポンプとを有し、さらに前記液体濃縮器と濃縮ライン調整バルブ間および濃縮ライン調整バルブと濃縮液タンク間、濃縮液タンクにそれぞれ温調用温度センサを有し、前記制御部はこれら温調用温度センサの出力に基づいて前記加熱手段および濃縮ライン調整バルブを制御することを特徴とする請求項1に記載の液体濃縮システム。
【請求項5】
前記蒸気吐出管の前記液体濃縮器側端部に、傘状の逆流防止カバーを取り付けたことを特徴とする請求項2に記載の液体濃縮システム。
【請求項6】
前記液体濃縮器を複数個有し、この液体濃縮器を並列に運転可能にしたことを特徴とする請求項1または2に記載の液体濃縮システム。
【請求項7】
減圧環境下で原料液体を加熱し、液面から揮発成分を蒸発させて原料液体を濃縮する液体濃縮システムにおいて、
原料液体を濃縮する複数の液体濃縮器と、この液体濃縮器に連通する真空ポンプと、前記液体濃縮器で原料液体を加熱する加熱源となる温水循環装置と、各液体濃縮器に液体を送液するための原料バッファーと、この原料バッファーに原料を供給する原料供給ポンプとを有し、前記原料バッファーに複数の前記液体濃縮器を並列に接続し、前記液体濃縮器ごとに蒸発した揮発成分を液体濃縮器外に導く蒸気ラインと、液体濃縮器で蒸発せずに濃縮された濃縮液を液体濃縮器外に導く濃縮液ラインとを設け、この濃縮液ラインに介在させた濃縮ライン調整バルブと、前記濃縮ラインに取り付けた温調用ヒータと、この温調用ヒータおよび濃縮ライン調整バルブを制御する制御部とを有することを特徴とする液体濃縮システム。
【請求項8】
前記液体濃縮器は、内管と外管とを重ねた構造であり、外管と内管の間に前記温水循環装置から温水を導き、内管内部を前記真空ポンプで減圧環境とし、内管内面に多数形成され軸方向に延びる微細な溝を伝わり落ちる薄膜状の原料液体を前記温水で低温蒸発させ、発生した蒸気を内管内部に挿入した蒸気吐出管に、蒸発しない液を内管下部に配置した濃縮液吐出管にそれぞれ導き、原料液体を濃縮することを特徴とする請求項7に記載の液体濃縮システム。
【請求項9】
前記液体濃縮器では、内管の上端に供給液体を受ける溝付き管上フタを配置し、この溝付き管上フタに放射状の微細な溝を多数形成し、毛細管現象を利用して液体を内管の円周全体に送液し、この内管の円周内面に形成した微細な溝に実質的に均一な薄膜が形成されるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の液体濃縮システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−194571(P2008−194571A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−29938(P2007−29938)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】