説明

液体燃料の保護

【解決手段】液体炭化水素燃料中に水を分散可能な少なくとも一種類の界面活性剤を用いることで、液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲の温度に冷却されたときに液体炭化水素燃料中で重量平均粒子サイズが1μmより大きい氷粒の形成が低減ないし排除可能になり、分散水相の水滴サイズが0.25μm以下の安定して澄んだW/Oマイクロエマルジョンを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、限定はしないが、タービンエンジン航空機等の運搬装置に動力を提供するために利用されるエンジンに典型的に使用される液体燃料等の液体燃料の保護に関する。特に、本発明はそのような液体燃料を、燃料中の分離相としての水の存在によって生じるエンジンへの悪影響などの、水による汚染の有害作用からの保護に関する。さらに重要なことは、本発明は氷結からの液体燃料の保護を提供することで、エンジンに氷片が引き込まれる可能性を減少させる。
【0002】
本発明は組成物、それらの調製方法および利用方法、および濃縮物(凝縮物)にも関する。特に、他を除外はしないが、本発明はタービンエンジン航空機のための燃料としての使用に適したW/O(water-in-oil)マイクロエマルジョンとその調製方法に関する。
【0003】
要するに、本発明は少なくとも99重量%の液体燃料とそのような組成物の調製に使用できる凝縮物とを含む透明な水性組成物に関する。その組成物はW/Oエマルジョンなどのタービンエンジン航空機のための燃料として利用でき、油相中の水相の平均液滴サイズは0.25μmを超えず、好適には0.1μm以下である。本発明はそれらの調製にも関する。
【背景技術】
【0004】
ジェット燃料は、高度の変化による温度変化から生じる凝結から発生する少量の自由水でタービンエンジン航空機の燃料タンク内が汚染されることが多い。地上では燃料/タンクの温度は−18℃から+40℃の範囲であるが、飛行中、それは一般的には−22℃から−39℃の範囲である。
【0005】
多数回の飛行など、何回もの温度変化サイクルを経て、水蒸気の濃縮は燃料内で分離相または自由水として存在することができる燃料タンク内の水の蓄積を引き起こす。自由水が燃料タンク内に溜まって凍結すると、航空機エンジンの機能に悪影響を与える可能性がある氷片(燃料濾過システムで捕捉されるようなサイズの氷粒)を形成することがある。ボーイング777航空機は2008年1月にヒースロー空港で、燃料タンクからエンジンへの燃料流入を減少させる氷の形成によりパワーを損失し、緊急着陸したと考えられている(AAIB暫定報告書第2号G‐YMMM)。
【0006】
現在、燃料タンクヒータを利用する代わりに、燃料中の氷形成を防止するため、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DiEGME)などの物質を航空機燃料に混合している。DiEGMEは氷点以上で水と燃料に略均等に混合可能であるが、当初に均質な燃料を保証するため、混合プロセス中の注意深い監視が常時履行されなければならない。しかしながら、いくら注意深く混合しても、DiEGMEは氷点以下の温度で水相中で先に凝縮する傾向がある。よって、低温での水と燃料中のDiEGMEの不均等な配分によって、燃料相中の不十分なDiEGMEが燃料中の分離水相(水とDiEGME)を形成する可能性がある。水相中のDiEGMEの存在はこの相中の水の一部が凍結するのを防止するであろう。しかしながら、DiEGME/水混合物は、低温でゲル様の物質を形成するという特要な特性を有する。そのゲル様物質は航空機産業で一般的に“リンゴジェリー(アップルジェリー)”と呼称されている。米国連邦航空局は航空事故の一部は燃料タンク中のこの“アップルジェリー”物質の形成が原因であると考えている。
【0007】
US‐A‐2886423(バイタリス他)は、低温特性を改善させるため、一種のアシルアミドアルキルグリシンベタインの航空機燃料等の液体炭化水素燃料への混合を開示している。このアシルアミドアルキルグリシンベタインはジェット燃料の雲化または霞化の温度を低減させることが示されているが、その雲化または霞化は小氷またはワックス結晶の出現によって生じるとしている。これら小氷またはワックス結晶の外見は結晶自体、または凝縮結晶の粒子の大きな割合が少なくとも1μm以上の粒体サイズを有することを示している。1μm以上の大きさの分散した氷粒を含む航空機燃料は不安定化する傾向があり、それら粒体はその他の氷粒との懸濁状態および/または塊状態を脱し、氷塊を形成する可能性がある。
【0008】
本発明の一目的は、タービンエンジン航空機の燃料タンク中の燃料中の氷塊およびアップルジェリーの形成を低減または除去することである。
【0009】
燃料油中の添加物としての水の使用が汚染物の発生を低減させ、その他の有益な性能を有する添加物の混合を補助することが、長年知られている。潤滑油中の添加物としての水の使用は切削油などの冷却特性を向上させることも長年知られている。水は燃料や潤滑油にW/Oエマルジョンの形態で混合される。
【0010】
大水滴サイズ(1μmより大)で形成されたW/Oエマルジョンは乳液状外見を有する傾向がある。これらのエマルジョンは水相の追加に関連する問題を克服するため、腐食防止剤や殺菌剤などの多くの副次的添加物を必要とする。これらのマクロエマルジョンは、それらの大水滴サイズのため、水/油分離を引き起こす不安定性を示す。これは機械の故障だけでなくディーゼルエンジンなどの点火の問題につながる可能性があるため、好ましくない。
【0011】
W/Oエマルジョンに基づく切削油は機械工具を潤滑するために使用されている。水の優れた冷却特性は工具の寿命を延ばすことが実証されている。しかしながら、水の混入はマクロエマルジョンの不安定性と共に、水の追加によって減少し、金属の表面仕上げに悪影響を及ぼす油の潤滑性などのその他の問題を引き起こす。
【0012】
平均水滴サイズが0.25μm以下、好適には0.1μm以下、さらに好適には0.03μmから0.08μmで形成されるW/Oエマルジョン(以降“マイクロエマルジョン”と呼称する)は半透明である。平均水滴サイズの典型的な値は約0.04μmである。この小滴サイズは外観が美しくユーザにとって好ましいだけでなく、大滴サイズのものよりも数々の大きな利点を提供する。これらの半透明または透明なマイクロエマルジョンは、水滴がより長時間拡散した状態を保ち、容易にマクロオイル/水相分離しないため、大滴サイズの乳白色のマクロエマルジョンよりもより安定する傾向にある。小滴サイズは腐食防止剤および殺菌剤の必要性を不要にすると考えられる。
【0013】
US‐A‐3095286(アンドレス他)は、錆の問題を提示する、保管容器の“ブリージング(ガス抜き)”から生じる燃料油保管タンク中の水蓄積の問題を開示している。保管中の燃料油組成物中の沈降分離、スクリーン目詰まり、および錆を抑制するため、フタルアミド酸、テトラヒドロフタルアミン酸、ヘキサヒドロフタルアミン酸、およびナダミン酸および1分子あたり4から30の炭素原子を有する第一級アミンの塩から選択される組成物を添加剤として燃料油へ使用することを開示している。燃料油のW/Oマイクロエマルジョンを形成する追加剤については開示されていない。
【0014】
US‐A‐3346494(ロビン他)は特に、脂肪酸、アミノアルコールおよびアルキルフェノールである三種のマイクロ乳化剤の選択された組合せを利用するマイクロエマルジョンの調製を開示している。
【0015】
FR‐A‐2373328(グランゲット他)は含硫界面活性剤を利用することによる油と食塩水とのマイクロエマルジョンの調製について開示している。
【0016】
US‐A‐3876391(マッコイ他)は、増量された水溶添加物を含むことができる、透明で、安定したウォーター・イン・ペトロリウム(W/P)マイクロエマルジョンの調製プロセスについて開示している。このマイクロエマルジョンはガソリン溶性界面活性剤および水溶性界面活性剤の両方の使用によって形成される。実施例で利用されている唯一の水溶性界面活性剤はエトキシル化ノニルフェノールである。
【0017】
US‐A‐4619967(エマーソン他)はエマルジョン重合化プロセスのためのW/Oエマルジョンの使用について開示している。
【0018】
US‐A‐4744796(ハズブン他)は第三ブチルアルコールおよび少なくとも一種の両性、アニオン性、カオチン性またはノニオン性界面活性剤の共界面活性剤組合せを利用した安定したウォーター・イン・フュエル(W/F)マイクロエマルジョンについて開示している。
【0019】
US‐A‐4770670(ハズブン他)はフェニルアルコールおよび少なくとも一種の両性、アニオン性、カオチン性またはノニオン性界面活性剤を利用した安定したウォーター・イン・フュエル(W/F)マイクロエマルジョンについて開示している。利用可能な両性界面活性剤としてココアミドベタインが開示されている。
【0020】
US‐A‐4832868(シュミッド他)はO/Wエマルジョンの調製に使用できる界面活性剤混合物について開示している。少なくとも60重量%オイル相を含んだW/Oマイクロエマルジョンについては開示されていない。
【0021】
US‐A‐5633220(カウィゼル)は商標Hypermerを付してICIによって販売されている乳化剤を含んだW/Oエマルジョンフラクチャリング液の調製について開示している(Hypermer乳化剤は、C‐C15アルコールエトキシレートまたはその混合物として開示されていない)。
【0022】
‐C15アルコールエトキシレートの混合物は、例えば洗剤の調製に使用するために通常販売されている商業的に入手可能な界面活性剤である。
【0023】
WO‐A‐9818884はポリグリセル‐4‐モノオレエートと混合された6EO基を含んだCアルコールエトキシレートとポリグリセルオレエート直鎖アルコールまたはPOEソルビタンアルコールのいずれかと混合されたC‐C11アルコールエトキシレートの混合物とを含んだエマルジョンの例を含んだW/Fマイクロエマルジョンについて開示している。ポリグリセリルオレエートとPOEソルビタンアルコールの存在はエマルジョンの粘性に有害な傾向にある。それは、結果的にエマルジョンの潤滑性に悪影響を有する。
【0024】
WO‐A‐9850139は脂肪酸アミンエトキシレート、C‐C15アルコールエトキシレートおよびオプションでトール油脂肪酸アミンを含んだ界面活性剤混合物を含んだW/Oマイクロエマルジョンについて開示している。このW/Oマイクロエマルジョンは産業潤滑油として利用できる。
【0025】
WO‐A‐0053699はC‐C15アルコールエトキシレート、アミンエトキシレートおよびポリイソブチルスクシンイミドまたはソルビタンエステルを含んだ乳化剤を含んだW/Oマイクロエマルジョンについて開示している。W/Oマイクロエマルジョンは燃料として利用できる。
【0026】
EP‐A‐1101815は、液体燃料、乳化剤、およびHLB値が9より大きい乳化助剤を含んだマイクロエマルジョン形態の特にディーゼルエンジンのための燃料について開示している。
【0027】
US‐A‐6716801は約5重量%から約40重量%の水性相と約95重量%から約60重量%の非水性相から構成される安定した透明なW/Oマイクロエマルジョンについて開示している。このマイクロエマルジョンは、(i)それぞれが2から12のEO基を含んだC‐C15アルコールエトキシレートの混合物、(ii)0から約25重量%のポリイソブチルスクシンイミドおよび/またはソルビタンエステル、および(iii)0から約90重量%のアミンエトキシレートで成る5重量%から約30重量%の乳化剤を含んでいる。
【0028】
W/Oマイクロエマルジョンの調製での使用に適した液体乳化剤の混合物はWO‐A‐07083106に開示されている。そのような混合物は一般的に濃縮物と呼称され、エマルジョン中の乳化剤の総量に基づき、約0.5重量%から約15重量%の脂肪(C‐C24)‐アミド‐(C‐C)アルキルベタインと、2から12のEO基を含んだ約5重量%から99重量%のC‐C15アルコールエトキシレートまたはそのようなアルコールエトキシレートの混合物(好適には混合物)、0.5重量%から約15重量%の(C‐C24)酸化アルキルアミンと0重量%または約94重量%までのその他の非イオン性乳化剤とを含んでいる。
【0029】
前述の従来技術のいずれも、−40℃またはそれ以下(たとえば−50℃)の温度でのW/Oマイクロエマルジョンの性能について開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】US‐A‐2886423
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明は、その多様な形態で添付の「特許請求の範囲」に開示されているようなものである。
【0032】
一形態では本発明は、安定した透明W/Oマイクロエマルジョンを提供するために液体炭化水素中に水を分散できる少なくとも一種の界面活性剤を使用し、分散水相の水滴サイズは、液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲に冷却されたときに液体炭化水素燃料中で重量平均粒子サイズが1μmより大の氷粒の形成を低減または実質的に排除するように、50ppm未満の水を含んだ液体炭化水素燃料中で0.25μm以下であり、その炭化水素燃料中で使用される少なくとも一種の界面活性剤はその炭化水素燃料中で少なくとも50ppmにて分散するのに十分な量であることを特徴とする。
【0033】
別な形態では、本発明は、炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲に冷却されたときに1μmより大きい重量平均粒子サイズを有する氷粒の液体炭化水素中での形成を低減するかまたは実質的に排除(阻止)する方法の提供であり、その方法は、(a)50ppm未満の水を含んだ特定量の液体炭化水素燃料を準備するステップと、(b)分散水相の水滴サイズが0.25μm以下である安定した透明なW/Оマイクロエマルジョンを提供すべく、液体炭化水素中に水を分散できる少なくとも一種の界面活性剤を準備するステップと、(c)その少なくとも一種の界面活性剤を少なくとも50ppmの水をその液体炭化水素燃料中に分散するのに十分な量だけその特定量の液体炭化水素燃料に加えるステップと、(d)その少なくとも一種の界面活性剤をその液体炭化水素燃料中で拡散させるステップと、を含んでいる。
【0034】
別な形態では、本発明は、航空機に液体炭化水素燃料を給油する方法を提供し、給油後、その炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲に冷却されたときに、重量平均粒子サイズが1μmより大の氷粒を形成する傾向を低減するものであり、この方法は、(a)50ppm未満の水を含んだ特定量の液体炭化水素燃料を航空機の燃料タンクに送り込むステップと、(b)分散水相の水滴サイズが0.25μm以下である安定した透明なW/Oマイクロエマルジョンを提供するため、その液体炭化水素燃料中に水を拡散できる少なくとも一種の界面活性剤を利用するステップと、(c)液体炭化水素燃料が燃料タンクに送り込まれた後で、その液体炭化水素燃料中に少なくとも50ppmの水を拡散させるのに十分な量だけ液体炭化水素燃料に少なくとも一種の界面活性剤を加えるステップと、(d)その少なくとも一種の界面活性剤を液体炭化水素燃料中で拡散させるステップと、を含んでいる。また、精油所から貯油所への移送中に不都合な水の混入をできるだけ防止するため、航空機の主翼で、または主翼付近で組成物を追加するための方法についても解説している。その組成物は現在どの空港の作業においても使用されている標準の給油車によって燃料に均質に供給および混合できる。添加組成物はベンチェリおよび/または標準の注入システムを用いて航空機へ送る際に燃料に直接必要な量だけ投入される。
【0035】
別な形態では、本発明は、液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲に冷却されたときに1μmより大の重量平均粒子サイズを有する氷粒を形成する傾向が低減された航空機燃料を提供し、その液体炭化水素燃料は、
(i)45ppmから4575ppm、好適には45ppmから500ppmの少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレートおよび/または(ii)0から425ppmまで、例えば5ppmから425ppm、好適には2ppmから50ppmの少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタインを含んでいる。
【0036】
界面活性剤/乳化剤に加えて、航空機燃料は、静電気放散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、漏出検知添加剤、防錆剤、潤滑性向上剤、アルコール、グリコール、および当業者に知られたその他の標準成分のうちの1種以上の追加成分、および脂肪酸メチルエステルなどの異物を1種以上含んでもよい。
【0037】
別な形態では、本発明は液体濃縮物を提供し、これは本質的に
(A)0.1重量%から10重量%の1種以上の両性乳化剤と、
(B)30重量%から95重量%の1種以上の非イオン性のアルコキシル化界面活性剤と、
(C)0から20重量%の1種以上のグリコールベースの溶解剤と、
(D)0から65重量%の1種以上の有機溶媒と、
を含んでいる。
【0038】
別な形態では、本発明は前述の濃縮物を製造する方法を提供し、成分(A)から(D)を−10℃から60℃の範囲の、好適には0℃から40℃の範囲の温度で混合することを特徴としている。
【0039】
別な形態では、本発明は安定したW/Oエマルジョン、好適にはW/Oマイクロエマルジョンを提供し、このマイクロエマルジョンは、
(a)水と混合しない液体燃料又は油と、
(b)(a)の成分量に基づいた1重量%までの、好適には0.1重量%までの水と、
(c)(a)の成分量に基づいた10重量ppmから10000重量ppmまでの、好適には10重量ppmから1000重量ppmまでの前述の濃縮物とを含んでいる。
【0040】
別な形態では、本発明はタービンエンジン航空機のための液体燃料中での前述の濃縮物の使用形態を提供し、この液体燃料は水と混合せず、この使用は液体燃料中または油中に存在するか、または導入される異物としての自由水を、安定したW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョンを形成することにより除去することで、その液体燃料または油を利用可能な状態に保つ。
【0041】
別な形態では、本発明は水と混合しない液体燃料中に存在するか、または導入される異物としての自由水を排除する方法を提供することで、その液体燃料を利用可能な状態に保ち、本方法は、安定したW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョンを形成するために、実質的に水が存在しない液体燃料または自由水が混入した液体燃料に前述の濃縮物を追加するステップを含んでいる。
【0042】
前述の濃縮物に関する本発明のそれぞれの形態では、(A)から(D)の成分の量は好適には合計で100%である。
【0043】
“自由水”という単語は、2相になっている燃料と水との混合物中で分離して見える液体相として存在する水のことである。これは取り込まれた水または液体燃料相中に溶解した水から生じる。液体燃料中での水の溶解性低下のために、溶解した水は低温で自由水になる。
【0044】
本発明の前述の形態では、自由水は異物として液体燃料中に存在するか、または導入される。すなわちそれはW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョンの調製において液体燃料に追加された水のように液体燃料に意図的に追加された水ではない。自由水は、水が偶然にまたは意図に反して液体燃料に追加されたときに液体燃料中の異物として存在または導入されるか、あるいは液体燃料は大気に通じているタンク、または航空機などの幅広い温度変化に暴露されるタンク内に存在し、その水は空気中の湿度レベルの変化によって生じる雨または濃縮水などの大気中の湿気である。本発明の前述の形態では、自由水は好適には大気中の湿気として液体燃料に導入される自由水である。過酷な条件では、異物として導入される自由水の量は水と液体燃料の合計重量の0.5重量%以上であり、当業者であれは、実際には異物としての自由水の量は一般的には自由水と液体燃料との混合物の0.5重量%未満であることを理解するであろう。例えば、液体燃料を汚染する自由水の量は、水と液体燃料の混合物の重量の、典型的には0.2重量%未満であり、さらに典型的には0.05重量%未満等の0.1重量%未満である。
【0045】
“除去(する)”なる用語はスカベンジャとして作用することを意味し、“スカベンジャ”とはコリンズ英語辞典、第4版、1998年度、1999年再版(2回)ハーパーコリンズ出版社において定義されているように不純物の作用に対抗するために化学反応物または混合物に加えられる物質のことである。
【0046】
“液体炭化水素燃料”、“炭化水素燃料”または“液体燃料”とはここではジェット燃料、航空機用ガソリン、軍事基準燃料、ディーゼル、ケロセン、ガソリン(加鉛または無鉛)、パラフィン、ナフサ、重油、バイオ燃料、廃油、脂肪酸メチルエステル(FAME)、ポリアルファオレフィンおよびそれらの混合物などの包括的用語として使用されており、それら全ては一般的に水と混合しないとされている。本発明の実施に最も適した液体燃料は炭化水素燃料油であり、最適にはジェット燃料、航空機用ガソリン、軍事基準燃料、バイオディーゼル、ディーゼル、ケロセン、ガソリンおよびこれらの混合物であり、1重量%以上のバイオエタノールおよび/または菜種メチルエステル(RME)などのFAMEとのそれらの混合物である。
【0047】
1μmより大きい氷粒の形成を減少または排除(阻止)するためのマイクロエマルジョン形成(用)界面活性剤/乳化剤の能力は、異物としての菜種メチルエステル(RME)等のFAMEを含む炭化水素燃料について実証されている。よって、本発明のそれぞれの形態において液体燃料はRMEなどのFAMEを異物として例えば500ppmまでの量(100ppmなど)含むことができる。
【0048】
好適には液体燃料はタービンエンジン航空機用、すなわち液体タービン燃料用である。液体タービン燃料は民間的または軍事的に習慣的に使用されているタービン燃料である。これらは例えば指定ジェット燃料、ジェット燃料A‐I、ジェット燃料B、ジェット燃料JP‐4、JP‐5、JP‐7、JP‐8およびJP‐8+100の燃料を含む。ジェットAおよびジェットA‐Iは商業的に入手可能なケロセンベースのタービン燃料規格品である。現在の基準は例えばASTM D 1655およびDEF STAN 91‐91などを含む。ジェットBはナフサおよびケロセン分割成分に基づくさらに高度な切削燃料である。JP‐4はジェットBと同等である。JP‐5、JP‐7、JP‐8およびJP8+10は軍事用タービン燃料である。これらの基準品の一部は腐食防止剤、その他の凍結防止剤、静電気防散剤、洗剤、拡散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤など他の添加剤を既に含んでいる。
【0049】
“水と混ざらない液体燃料”とは、約0.1%以上、好適には0.05%以上の水と混合しない炭化水素燃料などの液体燃料のことであり、液体燃料と0.05%以上の水は静止状態で2相に分離する。
【0050】
ここで使用する乳化剤、界面活性剤およびマイクロエマルジョン形成界面活性剤とは、W/Oマイクロエマルジョンを形成する液体燃料と水との2つの可視非混合相を含む混合物と単純に混合させる全ての適した界面活性剤または界面活性剤の混合物のことである。マイクロエマルジョンは実質的には、水と界面活性剤の混合割合が1対1であるときに液体燃料と水の2つの可視非混合相を含む混合物への界面活性剤の常温(例:10℃から30℃)での追加によって自然に形成される。当業者であれば、例えば前述の従来技術で開示された、このような界面活性剤または界面活性剤混合物について詳しいであろう。US‐A‐3095286で開示されている保管中の燃料油組成物の沈殿、スクリーン塊化、および錆化の過程は研究されていないが、US‐A‐3095286で開示されている追加剤は液体燃料と水との2つの可視非混合相を含む混合物との混合で安定した、透明なW/Oマイクロエマルジョンを形成するとは考えられていない。したがって、US‐A‐3095286で開示されている追加剤は本発明に必要なマイクロエマルジョン形成界面活性剤/乳化剤であるとは考えられていない。同様に、US‐A‐2886423(バイタリス他)で開示されているアシルアミドアルキルグリシンベタインは液体燃料と水との2つの可視非混合相を含む混合物との混合で安定した、透明なW/Oマイクロエマルジョンを形成するとは考えられていない。したがって、US‐A‐2886423で開示されているアシルアミドアルキルグリシンベタインは本発明に必要なマイクロエマルジョン形成界面活性剤/乳化剤とは考えられない。しかしながら、疑いを回避するため、本発明で使用される“1種以上の安定した、透明なマイクロエマルジョン形成界面活性剤”は、US‐A‐3095286に開示されている分子あたり4個から30個の炭素原子を有する第一級アミンの化学式(1)、(2)、(3)および(4)並びにこれらの塩、およびUS‐A‐2886423で開示されているアシルアミドアルキルグリシンベタインのアミド酸を除外する。
【0051】
適した界面活性剤混合物には、C‐C15アルコールエトキシレートまたはそのようなエトキシレートおよび/または脂肪酸アミンエトキシレートの混合物が含まれ、オプションでトール油脂肪酸アミンが含まれる。他の適した界面活性剤混合物には、C‐C15アルコールエトキシレートまたはそのようなエトキシレートおよび/または脂肪酸アミンエトキシレートおよびポリイソブチルスクシンイミドおよび/またはソルビタンエステルの混合物が含まれる。特に適した安定した、透明なW/Oマイクロエマルジョン形成界面活性剤は、両性界面活性剤であるか、または少なくとも一種の両性界面活性剤を含む界面活性剤の混合物が含まれる。好適な両性界面活性剤は、ベタインおよびスルフォベタインであり、特にベタインが好適である。最も好適な界面活性剤は後述する乳化剤である。
【0052】
透明な水性組成物の物理的性質は完全には理解されていないが、透明な水性組成物は非水性相中の水性相を含み、その水性相は0.03μmから0.08μm、典型的には平均で約0.04μmである約0.1μm以下の大きさを有するミセルなどの小滴の形態で非水性相中に拡散している。
【0053】
本発明のマイクロエマルジョンが“安定している”とは、W/Oマイクロエマルジョンを形成するため、液体炭化水素燃料、水および界面活性剤/乳化剤の全重量に基づいて、1:1の割合の水と界面活性剤または乳化剤が1重量%で液体炭化水素燃料に加えられた場合のことを意味しており、W/Oマイクロエマルジョン中のその水相は、撹拌せずに25℃の一定温度で少なくとも12ヶ月間保存されたとき、油相中の平均粒子サイズが0.1μm以下である拡散した水滴として存在する。そのマイクロエマルジョンは、0.1μm以下の平均水滴サイズを有する水滴が拡散された継続的な油相のマイクロエマルジョンである。得られた半透明マイクロエマルジョンはジェットエンジンまたはディーゼルエンジン用の燃料として使用されるときに熱力学的に安定したままである。本発明のW/Oマイクロエマルジョン中の水滴はミセルの形態であろう。
【0054】
驚くべきことに、適量の安定したマイクロエマルジョン形成界面活性剤/乳化剤と水とを含んだ液体燃料が−50℃に冷却されたとき、存在するとしても非常に少ない、見ることができる氷粒が燃料中に形成されるだけであり、ゲルは形成されないことが判明した。この非常に驚くべき現象を説明すると(この説明に限定されることは望まない)、W/Oマイクロエマルジョンが冷却されたとき、燃料中の界面活性剤/乳化剤の存在が、水の氷点を下げることによって燃料中に拡散される水滴が通常の温度で凍結することを当初は防止するが、その水が凍るほどその温度が降下すると、その冷却された燃料中に形成される氷結晶と塊のサイズをその界面活性剤/乳化剤が制限するように作用する。よって、氷結晶が燃料中に形成されたとしても、燃料中の界面活性剤/乳化剤が1μmを大きく上回るサイズの粒子を形成するような氷結晶の成長または塊化を防止するため、結果として氷塊が形成されない。さらに、アップルジェリーも形成されないことが判明している。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は200ppmの水と700ppmのDiEGMEを含むジェット燃料のDSCを示す。
【図2】図2は200ppmの水と200ppmの実施例4の濃縮物を含むジェット燃料のDSCを示す。
【図3A】図3Aはジェット燃料、200ppmの赤染水および200ppmの実施例4の組成物を含んだ大気中に通気されている−17℃のコンテナを示す。
【図3B】図3Bはジェット燃料、200ppmの赤染水および700ppmのDiEGMEを含んだ大気中に通気されている−17℃のコンテナを示す。
【図4】図4は200ppmの水および500ppmの菜種メチルエステルを含むジェット燃料のDSCと、200ppmの水、500ppmの菜種メチルエステル200ppmの実施例4の濃縮物を含むジェット燃料のDSCとの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0056】
本発明は、固有の安定性によって、1μmより大きい粒子サイズを有する氷粒の形成を防止する含水流体を提供する。その含水流体は、好適には0.1μmより大きい粒子を有する氷粒とアップルジェリーの形成を防止する。
【0057】
本発明以前は、小型航空機および軍事用航空機(商業的航空機はタンクヒータを使用する傾向にある)の燃料中の氷形成を防止するためにジエチレングリコールモノメチルエーテル(DiEGME)などの物質が使用されてきた。それらの化学的特性のため、それらは燃料中よりも水中に溶解しやすく、燃料に溶解させるには激しい撹拌を必要とする。当初に均質な燃料を確実に提供するため、混合プロセス中の注意深い監視が常に要求される。しかしながら、DiEGME(温度が降下するにつれてその化学的性質は水相に留まる傾向にある)をいくら注意深く混合させても低温で燃料から分離し、水相に進入するであろう。DiEGMEはこの水の一部が凍るのを防止する。しかしながら、DiEGMEと水の混合物は航空産業で“アップルジェリー”と呼称されるゲル様物質を形成するという特異な特徴を有する。連邦航空局は航空機事故のいくらかはこの物質に起因するとしている。本発明はこの問題を、大型の氷結晶または氷結晶塊の形成を防止することで克服する。氷結晶や塊が燃料中に形成されても、そのような粒子の大きさはサブミクロン粒子(<1μm)に制限されると信じられる。図1と図2に示すDSCの結果はそれぞれDiEGME含有燃料とW/F(水+燃料)マイクロエマルジョンとの比較を示している。マイクロエマルジョンはDiEGMEの使用に勝る数々の利点を提供する。後者は性質として吸湿性がより高く、水を引き込む傾向がある。DiEGMEはまた、化学的に侵食性であり燃料タンクライニングなどを腐食する可能性があり、乳化剤よりもより高レベルで使用される必要がある。DiEGMEの扱い及び廃棄はその製品の危険な性質のため費用もかかる。
【0058】
実施例を除いて、または明示されていないかぎり、ここで使用される成分量を表す全ての数字は全ての場合において“約”の数字であると理解すべきである。
【0059】
本発明のマイクロエマルジョンはどのサービスステーションでも、またはどの産業供給業者からも入手可能な標準グレードの燃料から調製できる。好適には、その燃料はジェット燃料、航空機ガソリン、軍事基準燃料、ディーゼル、ケロセン、ガソリン(加鉛または無鉛)およびこれらの混合物から選択される。好適にはその液体燃料はタービンエンジン航空機用、すなわち液体タービン燃料である。液体タービン燃料は民間航空産業または軍事航空産業において通常使用されているタービン燃料である。これらは例えば、指定ジェット燃料A,ジェット燃料A‐1、ジェット燃料B,ジェット燃料JP‐4、JP‐5、JP‐7、JP‐8およびJP‐8+100を含む。ジェットAおよびジェット燃料A‐1は商業的に利用可能なケロセンベースのタービン燃料である。現在の基準は、例えば、ASTM D 1655およびDEF STAN91‐91を含む。ジェットBはナフサおよびケロセン分留ベースの高度なカット燃料である。JP‐4はジェットBと同じである。JP‐5、JP‐7、JP‐8およびJP‐8+100は軍事用タービン燃料である。これらの基準の一部は、腐食防止剤、凍結防止剤、静電気防散剤、洗剤、拡散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤などの別な添加剤をすでに含む組成に関するものである。それらの添加剤の別な典型的な等級および種類はUS2008/0178523 A1、US2008/0196300 A1、US2009/0065744 A1、WO2008/107371およびWO2009/0010441において開示されている。
【0060】
本発明のエマルジョンにおいて採用される燃料と水の混合比率は多くの要素に依存する。一般的に、その燃料は透明な水相組成物またはエマルジョンの総重量に基づいて、少なくとも99重量%、好適には少なくとも99.5重量%、さらに好適には少なくとも99.995重量%、最も好適には約99.999%重量%を含んでいる。一般的には燃料相は約99.999重量%より多くはなく、好適には約99.99%重量%より多くない。
【0061】
典型的には、その組成物またはマイクロエマルジョンは約0.0001重量%から約1.0重量%、好適には約0.0001重量%から約0.5重量%の、さらに好適には約0.0001重量%から約0.1重量%、さらに好適には約0.0001重量%から約0.025重量%の界面活性剤/乳化剤を含んでいる。その乳化剤は最も好適には、与えられた流体のマイクロエマルジョンを形成するために必要な乳化剤の総量を最小限にするように選択された乳化剤の混合物である。
【0062】
化合物が“エトキシル化された(ethoxylated)”という場合、それは少なくとも2つのEO基を含むものである。好適にはエトキシル化物は2個から12個のEO基を含む。
【0063】
好適実施態様においては、成分(B)としての1以上のC‐C15アルカノールエトキシレートは、3.7以下、好適には2.5以下の、一般的には1.5から2.5のアルカノールユニットに対する平均メチル分岐度を有しており、あるいは代案として、3.7以下の、好適には1.5以下、一般的には1.05から1.0個のアルカノールユニットに対する平均メチル分岐度を有する。
【0064】
‐C15アルコールエトキシレートがマイクロエマルジョンに利用されるとき、それは好適には、C‐C11アルコールエトキシレートの混合物やC12‐C14アルコールエトキシレートの混合物のようなC‐C14アルコールエトキシレートの混合物である。その混合物内の成分量は0から50重量%の範囲であり、好適にはガウスフォーマットで含まれる。商業的に入手可能なC‐C15アルコールエトキシレートは主な化学会社によって販売されている関連製品を含んでいる。商業的なC12‐C14アルコールエトキシレートの一例は、ラウロパル2(英国ウィトコ社から入手可能な商品の名)である。
【0065】
1実施態様では、乳化剤は次の成分を含んでいる:(i)3重量部のココアミドプロピルベタインと(ii)97重量部のC‐C11アルコールエトキシレートである。別な実施態様では、乳化剤は次の成分を含んでいる:(i)1重量部のココアミドプロピルベタインと、(ii)8重量部のC‐C11アルコールエトキシレートと、(iii)3重量部のC10酸化アルキルアミンと、(iv)約2個から約20個のEO基を含む90重量部の非イオン性脂肪(C‐C24)酸アミンエトキシレートである。
【0066】
別な実施態様では、その乳化剤は次の成分を含んでいる:(i)5重量部のココアミドプロピルベタインと、(ii)75重量部のC‐C15アルコールエトキシレートと、(iii)10重量部のC10酸化アルキルアミンと、(iv)約2個から約20個のEO基を含む10重量部の非イオン性脂肪(C‐C24)酸アミンエトキシレートである。
【0067】
本発明で利用される乳化剤は、室温で液体である。
【0068】
乳化剤と同様に、乳化剤組成物も、その他の物質、例えば脂肪族アルコール、グリコール、および標準の添加剤として燃料に一般的に加えられるその他の成分、を含んでいてもよい。
【0069】
別な実施態様では、乳化剤組成物は次の成分を含んでいる:(i)2重量部のココアミドプロピルベタインと、(ii)60重量部のC‐C11アルコールエトキシレートと、(iii)4重量部のエチレングリコールと、(iv)34重量部のエタノールである。
【0070】
本発明の1実施態様では、マイクロエマルジョンは、
(a)約99.995体積部から約99.999体積部の、例えば99.998体積部の燃料、例えばジェット燃料、および
(b)約0.0001体積部から約0.01、例えば0.025体積部の乳化剤、
を混合することで調製され、その乳化剤はi)脂肪(C‐C24)‐アミド‐(C‐C)アルキルベタインと、ii)2個から12個のEO基を含むC‐C15アルコールエトキシレートまたはそのようなアルコールエトキシレートの混合物とを含んでいる。
【0071】
本発明はジェットエンジン、ディーゼルエンジン、または油燃焼加熱システムで利用でき、これらの利用域内での全ての使用に適している。燃料産業におけるその他の使用は当業者には明らかであろう。
【0072】
そのマイクロエマルジョンは追加の成分を含むことができる。これらの追加の成分は磨耗防止性や超高圧特性を向上させ、低温気候での性能、または燃料燃焼性を向上させるために混合される。追加の組成物を追加する必要性はマイクロエマルジョンが使用される利用領域によって決定される。利用領域によって適した追加成分およびその利用の必要性は当業者には明らかであろう。
【0073】
製油所から燃料貯蔵所への燃料の輸送中における不都合な水分混入を防止するため、組成物は航空機の翼部に加えられる。その組成物はどの空港でも現在使用されている標準の燃料給油車を用いて燃料に供給および良好に混合される。添加組成物は、ベンチュリシステムなどを用いて航空機の翼部に送られるときに必要な割合で直接燃料に投入できる。これによって良好に混合され、組成物の性質によって燃料に容易に拡散し、−50℃の低温でも燃料中で拡散された状態を保つ。
【実施例】
【0074】
本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。
【0075】
“乳化が半透明な乳化であるW/Oマイクロエマルジョン”とは、“W/Oマイクロエマルジョンの水相の平均水滴サイズが0.25μm以下、好適には0.1μm以下であるW/Oマイクロエマルジョン”と均等であると考えられる。実施例では、エマルジョンは視覚的に検査された。透明なものは“W/Oマイクロエマルジョンの水相の平均水滴サイズが0.1μm以下であると考えられた。
【0076】
以下の各実施例では、それ以外と明示されている場合を除いて、全ての“部”は“重量部”である。
【0077】
「実施例1」
記載された分量で次の成分を加えてジェット燃料(ケロセン)と水との混合に適した濃縮物を調製した:
(i)97部のC‐C11アルコールエトキシレートおよび(ii)3部のココアミドプロピルベタイン。
それらの成分を静かに混合して均質な組成物を調製した。
【0078】
[実施例2]
記載された分量で次の成分を加えてジェット燃料と水との混合に適した濃縮物を調製した:
i)1重量部のココアミドプロピルベタイン、(ii)8重量部のC‐C11アルコールエトキシレート、(iii)3重量部のC10アルキルアミンオキサイド、およびiv)約2個から20個のEO基を含む90重量部の脂肪(C‐C24)酸アミンエトキシレート。
それらの成分を静かに混合して均質な組成物を調製した。
【0079】
[実施例3]
記載された分量で次の成分を加えてジェット燃料と水との混合に適した濃縮物を調製した:
i)5重量部のココアミドプロピルベタイン、(ii)75重量部のC‐C15アルコールエトキシレート、(iii)10重量部のC10アルキルアミンオキサイド、およびiv)約2個から20個のEO基を含む10重量部の脂肪(C‐C24)酸アミンエトキシレート。
それらの成分を静かに混合して均質な組成物を調製した。
【0080】
[実施例4]
記載された体積部で次の成分を加えてジェット燃料と水との混合に適した濃縮物を調製した:
i)2部のココアミドプロピルベタイン、(ii)60部のC‐C11アルコールエトキシレート、(iii)4部のエチレングリコール、および(iv)34部のエタノール。
それらの成分を静かに混合して均質な組成物を調製した。
【0081】
[実施例5]
200ppmの水を異物として含んだ1リットルのジェット燃料(ケロセン)に実施例1の濃縮物を0.001リットル加えた。その組成物をマイクロピペットから油と水に導入した。半透明な流体が観察されるまで、得られた流体を静かに混合した。得られた流体は1年以上経過しても安定した状態を保った。
【0082】
[実施例6]
200ppmの水を異物として含んだ1リットルのジェット燃料に実施例2の濃縮物を0.001リットル加えた。その組成物をマイクロピペットから油と水に導入した。半透明な流体が観察されるまで、得られた流体を静かに混合した。得られた流体は1年以上経過しても安定した状態を保った。
【0083】
[実施例7]
200ppmの水を異物として含んだ1リットルのジェット燃料に実施例3の濃縮物を0.001リットル加えた。その組成物をマイクロピペットから油と水に導入した。半透明な流体が観察されるまで、得られた流体を静かに混合した。得られた流体は1年以上経過しても安定した状態を保った。
【0084】
[実施例8]
200ppmの水を異物として含んだ1リットルのジェット燃料に実施例4の濃縮物を0.001リットル加えた。その組成物をマイクロピペットから油と水に導入した。半透明な流体が観察されるまで、得られた流体を静かに混合した。得られた流体は1年以上経過しても安定した状態を保った。
【0085】
[実施例9]
1リットルのジェット燃料(ケロセン)中の実施例4の200ppmの濃縮物を、1リットルのジェット燃料中の700ppmの凍結防止製品ジエチレングリコールモノメチルエーテル(DiEGME)と比較するために、差動走査熱量測定装置(DSC)で測定した。走査結果は、水の不在下ではその組成物はDiEGMEと同等にふるまった。ただし、200ppmの異物としての水の存在下ではその組成物は相の変化を示さず、氷形成はなく、他方で、DiEGMEは特に−40℃という低温で燃料中での低い溶解性のために氷形成を示した。走査結果を図1と図2に示した。
【0086】
図3Aは大気中に通じている−17℃のコンテナを示しており、このコンテナは、ジェット燃料、200ppmの赤染色水および200ppmの実施例4の組成物を含んでいる。ジェット燃料、水および実施例4の組成物の混合物は透き通っており、ほぼ透明であり、水と(存在するとして)大気凝結物は燃料中でW/Oマイクロエマルジョン状態であることを示している。その組成物中に氷粒またはアップルジェリーは観察されなかった。
【0087】
図3Bは大気中に通じている−17℃のコンテナを示しており、このコンテナは、ジェット燃料、200ppmの赤染色水および700ppmのDiEGMEを含んでいる。ジェット燃料、水およびDiEGMEの混合物は実質的には不透明であり、DiEGMEは全部の水と(存在するとして)大気凝結物を吸収していないことを示している。その代わりに、その水は可視の水滴または氷結晶、すなわち1ミクロン以上の粒子として燃料中に拡散しているように見え、それらは時間が経つと塊化し、タンクの底部にDiEGMEとのアップルジェリーを形成する。
【0088】
[実施例10]
実施例4の濃縮物を航空機燃料中の微生物の繁殖を評価するために使用した。水を異物として含んだ未処理の航空機燃料と比較するため、殺滅速度および殺滅持続性に基づく一連の試験を実施した。全てのケースにおいて、その組成物は微生物の繁殖を防止したが、未処理のコントロール(対照)は10のコロニー形成単位までの繁殖を示した。
【0089】
[実施例11]
ジェット燃料(ケロセン)中の200ppmの水、200ppmの実施例4の濃縮物、および500ppmの菜種メチルエステル(RME)の混合物を、1リットルのジェット燃料(ケロセン)中の200ppmの水と500ppmのRMEと比較するために、DSCで測定した。走査結果は実施例4の濃縮物を含まない燃料では約−20℃でピークを示した。これは、1μmより大きい粒子サイズの氷粒の存在を示したが、そのようなピークは実施例4の濃縮物を含んだジェット燃料では見られなかった。これは1μmより大きい粒子サイズの氷粒が形成されなかったことを示している。
【0090】
本発明で説明された方法やシステムの多様な修正および変更が、本発明の範囲および精神から逸脱することなく可能であることは当業者には明らかであろう。本発明を特定の好適実施例に基づいて説明したが、本発明をそのような実施例に限定すべきではない。化学または関連する分野における当業者には明らかであろうが、本発明を実施するために説明した態様の多様の修正は全て「特許請求の範囲」の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲の温度に冷却されたときに、液体炭化水素燃料中で重量平均粒子サイズが1μmより大きい氷粒の形成を低減または実質的に阻止するように、50ppm未満の水を含む液体炭化水素燃料中で分散水相の水滴サイズが0.25μm以下である安定して澄んだW/Оマイクロエマルジョンを提供するために、液体炭化水素燃料中に水を分散可能な少なくとも一種の界面活性剤の使用であって、
前記液体炭化水素燃料中で使用される前記少なくとも一種の界面活性剤の量は、前記液体炭化水素燃料中で少なくとも50ppmの水を拡散するのに十分な量である、使用。
【請求項2】
液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲の温度に冷却されたときに、液体炭化水素燃料中で、重量平均粒子サイズが1μmより大きい氷粒の形成を低減するか、または実質的に阻止する方法であって、本方法は、
(a)50ppm未満の水を含んだ特定量の液体炭化水素燃料を準備するステップと、
(b)分散水相の水滴サイズが0.25μm以下である安定して澄んだW/Oマイクロエマルジョンを提供すべく、前記液体炭化水素燃料中に水を分散させることができる少なくとも一種の界面活性剤を準備するステップと、
(c)前記少なくとも一種の界面活性剤を、前記特定量の液体炭化水素燃料に、前記液体炭化水素燃料中で少なくとも50ppmの水を分散するのに十分な量だけ加えるステップと、
(d)前記少なくとも一種の界面活性剤を前記液体炭化水素燃料中で分散させるステップと、を含んでいる方法。
【請求項3】
前記少なくとも一種の界面活性剤は、
(i)少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレート、及び/又は、
(ii)少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタイン、
からなる混合物である、請求項1記載の使用または請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも一種の界面活性剤を追加した後の前記液体炭化水素燃料は、
(i)45ppmから4575ppmの少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレート、及び、
(ii)5ppmから425ppmの少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタイン、
を含んでいる、請求項3記載の使用または方法。
【請求項5】
前記少なくとも一種の界面活性剤の総量は、5000ppm以下の水、好ましくは1000ppm以下の水を、前記液体炭化水素中に分散させるのに十分な量である、
請求項1から4のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項6】
前記少なくとも一種の界面活性剤の総量は、前記液体炭化水素燃料中に250ppm以下の水を分散させるのに十分な量である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の使用または方法。
【請求項7】
前記少なくとも一種の界面活性剤を追加した後の前記炭化水素燃料は、
(i)約160ppmの少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレート、及び、
(ii)約10ppmの少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタイン、
を含んでいる、請求項6記載の使用または方法。
【請求項8】
航空機への液体炭化水素燃料の給油方法であって、給油後の液体炭化水素燃料は、0℃から−50℃の範囲の温度に冷却されたときに重量平均粒子サイズが1μmより大きい氷粒を形成する傾向が低下する、本方法は、
(a)50ppm未満の水を含んだ特定量の液体炭化水素燃料を航空機の燃料タンクに送り込むステップと、
(b)分散水相の水滴サイズが0.25μm以下である安定して澄んだW/Oマイクロエマルジョンを提供すべく、前記液体炭化水素燃料中に水を分散させることができる少なくとも一種の界面活性剤を準備するステップと、
(c)前記液体炭化水素燃料を前記燃料タンクに送り込むとき又は送り込んだ後に、前記少なくとも一種の界面活性剤を、前記液体炭化水素燃料に、前記液体炭化水素燃料中に少なくとも50ppmの水を分散させるのに十分な量だけ追加するステップと、
(d)前記少なくとも一種の界面活性剤を前記炭化水素燃料中に分散させるステップと、
を含んでいる、航空機への給油方法。
【請求項9】
液体炭化水素燃料が0℃から−50℃の範囲の温度に冷却されたとき、重量平均粒子サイズが1μmより大きい氷粒を形成する傾向を低減させられた航空機燃料であって、
前記液体炭化水素燃料は、
(i)45ppmから4575ppmの少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレート、及び/又は、
(ii)5ppmから425ppmの少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタイン、
を含んでいる航空機燃料。
【請求項10】
請求項9記載の航空機燃料であって、
(i)45ppmから200ppmの少なくとも一種の(C‐C15)アルコールエトキシレート、及び、
(ii)5ppmから15ppmの少なくとも一種の(C‐C24)アルキルアミド(C‐C)アルキルベタイン、
を含んでいる航空機燃料。
【請求項11】
請求項10記載の航空機燃料であって、
静電気放散剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、漏出検知添加剤、防錆剤、潤滑性向上剤、アルコール、グリコール、および当業者に知られたその他の標準成分、から選択される1種以上の追加成分、並びに、脂肪酸メチルエステルなどの異物を含んでいる、航空機燃料。
【請求項12】
液体濃縮物であって、
(A)0.1重量%から10重量%の一種以上の両性乳化剤と、
(B)30重量%から95重量%の一種以上の非イオン性アルコキシル化界面活性剤と、
(C)0から20重量%の一種以上のグリコールベースの溶解剤と、
(D)0から65重量%の一種以上の有機溶媒と、
を本質的に含んでいる液体濃縮物。
【請求項13】
(A)0.1重量%から10重量%の一種以上のベタインベースの乳化剤と、
(B)30重量%から95重量%の一種以上のC‐C15‐アルカノールエトキシレート界面活性剤と、
(C)0から20重量%の一種以上のグリコールベースの溶解剤と、
(D)0から65重量%の一種以上の有機溶媒と、
を含んでいる、請求項12記載の液体濃縮物。
【請求項14】
(A)0.5重量%から5重量%の一種以上の脂肪性(C‐C24)‐アミド‐(C‐C)‐アルキルベタイン乳化剤と、
(B)45重量%から75重量%の一種以上のC‐C15‐アルカノールエトキシレート界面活性剤と、
(C)0.5重量%から10重量%の一種以上のグリコールベースの溶解剤と、
(D)5重量%から50重量%の一種以上の有機溶媒と、
を含んでいる、請求項13記載の液体濃縮物。
【請求項15】
前記成分(A)としてココアミドプロピルベタインを含んでいる、請求項12から14のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項16】
前記成分(B)として、アルカノールのモルあたり平均で2モルから5モルの酸化エチレンユニットを持った一種以上のC‐C15‐アルカノールエトキシレートを含んでいる、請求項12から15のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項17】
前記成分(B)として、3.7以下のアルカノールユニットに対する平均メチル分岐度を持った一種以上のC‐C15‐アルカノールエトキシレートを含んでいる、
請求項12から16のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項18】
前記成分(B)として、一種以上のC‐C11‐アルカノールエトキシレートを含んでいる、請求項12から17のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項19】
前記成分(B)として、アルカノールのモルあたり平均で2モルから12モルの酸化エチレンユニットを持った一種以上のC‐C11‐アルカノールエトキシレートを含んでいる、請求項18記載の液体濃縮物。
【請求項20】
前記成分(C)として、エチレングリコールを含んでいる、請求項12から19のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項21】
前記成分(D)として、一種以上のC‐Cアルカノールを含んでいる、請求項12から20のいずれか一項に記載の液体濃縮物。
【請求項22】
前記成分(D)として、エタノールを含んでいる、請求項21記載の液体濃縮物。
【請求項23】
請求項12から22のいずれかに記載の液体濃縮物を製造する方法であって、
前記成分(A)から(D)は、−10℃から60℃、好ましくは0℃から40℃の範囲の温度で混合されることを特徴とする液体濃縮物の製造方法。
【請求項24】
安定したW/Oエマルジョンであって、
(a)水と混ざらない液体燃料またはオイルと、
(b)前記(a)の成分量に基づいて1重量%までの、好ましくは0.1重量%までの水と、
(c)前記(a)の成分量に基づいて10重量ppmから10000重量ppm、好ましくは10重量ppmから1000重量ppmの請求項12から22のいずれか一項に記載の液体濃縮物と、
を含んでいる、安定したW/Oエマルジョン。
【請求項25】
W/Oマイクロエマルジョンであることを特徴とする請求項24記載のW/Oエマルジョン。
【請求項26】
前記液体燃料またはオイルは、ジェット燃料またはケロセンであることを特徴とする請求項24または25記載の安定したW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョン。
【請求項27】
水とは混ざらないタービンエンジン航空機用の液体燃料またはオイルにおける、請求項12から22のいずれか一項に記載の液体濃縮物の使用であって、
本使用は、前記液体燃料もしくはオイル中に存在するか又は前記液体燃料もしくはオイル中に異物として導入される自由水を、安定したW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョンを形成することによって除去し、前記液体燃料またはオイルを利用可能な状態に保つものである、ことを特徴とする使用。
【請求項28】
前記液体燃料またはオイルは、ジェット燃料またはケロセンであることを特徴とする請求項27記載の使用。
【請求項29】
水とは混ざらない液体燃料もしくはオイル中に存在するか又は液体燃料もしくはオイル中に異物として導入される自由水を除去し、これにより前記液体燃料またはオイルを利用可能な状態に保つ方法であって、本方法は、
安定したW/OエマルジョンまたはW/Oマイクロエマルジョンを形成するために、実質的に水が存在しない液体燃料もしくはオイルに、あるいは自由水が混入した液体燃料もしくはオイルに、請求項12から22のいずれか一項に記載の液体濃縮物を加えること、
を含んでいる方法。
【請求項30】
前記液体燃料またはオイルは、ジェット燃料またはケロセンであることを特徴とする請求項29記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−507506(P2013−507506A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533616(P2012−533616)
【出願日】平成22年10月13日(2010.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/065314
【国際公開番号】WO2011/045334
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(512065661)パロックス リミテッド (2)