説明

液体物質の後処理法

後処理を1つ以上のマイクロリアクター及び/又はマイクロミキサー中で実施する液体物質の後処理法が記載されており、その際、後処理すべき液体物質をマイクロリアクター及び/又はマイクロミキサー中で連続的に洗浄液と混合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体物質の後処理法に関する。
【0002】
多数の化学的方法において、液体物質は他の液体物質で洗浄される。得られた液体/液体混合物はその後再度個々の液相に分離される。特に液体の硝酸塩エステル、例えばニトログリセリンを製造する場合、粗製生成物の後処理の際に複数の洗浄及び相分離が必要である。これについてはニトログリセリン製造の例でより詳細に記載する:
混酸とグリセリンとの反応の後、酸相と粗製ニトログリセリンとから成る混合物が得られ、該混合物は二相に分離する。この分離は先行技術に相応する慣用の装置内で数分から約40分継続する。酸相を排出させた後、なおも酸性である粗製ニトログリセリン相を、得られたニトログリセリンが酸及び塩基不含となるまで、アルカリ水溶液(例えば炭酸ナトリウム溶液)で撹拌下に5〜6回洗浄する。この相分離も同様にその都度数分から約40分継続する。この手法における欠点は、相分離時間が長いこと、及び特に水相が多量であることであり、これは費用のかかる廃棄にかかわることである。純度の要求に応じて、例えばニトログリセリン1質量部につき16質量部までの水性廃棄物が生じる。同様の問題が一般に液体物質の後処理及び精製の際に生じる。
【0003】
従って本発明の課題は、先行技術の欠点を払拭し、かつ特に、液体物質を1種以上の別の液体物質で洗浄し、その際、形成された液相を迅速に分離することができ、わずかな廃棄物量が生じるに過ぎない、液体物質の後処理法を提供することである。
【0004】
前記課題は、請求項1の特徴を有する液体物質の後処理法により解決される。本発明による方法の有利な態様は従属請求項に記載されている。
【0005】
マイクロリアクター及びマイクロミキサーは、ミリメートル未満の範囲の流路直径ないしミリリットル未満の範囲の体積を有する著しく小型化された管型リアクターであり、自体公知である。例えば以下に記載されている:
V.Hessel und H.Loewe, "Mikroverfahrenstechnik: Komponenten, Anlagenkonzeption, Anwenderakzeptanz", Chem. Ing. Techn. 74, 2002. 第17-30,185-207 及び381-400頁.
J.R.Burns, C.Ramshaw, C., "A Microreactor for the Nitration of Benzene and Toluene", in: Proceed. 4th Int. Conference on Microreaction Technology (IMRET 4), 2000, Atlanta, USA.
S.Loebbecke et al., "The Potential of Microreactors for the Synthesis of Energetic Materials", 3lst Int. Annu. Conf. ICT; Energetic Materials-Analysis, Diagnostics and Testing, 33, 27 - 30 June 2000, Karlsruhe, Germany.
流体流が相互に混合されるマイクロリアクターは本発明による方法のために原則的に適当である。例示的に、ここでは、分岐及び再結合(split and recombine)の原則に従って動作するマイクロリアクター、又はマルチラミネーションの原則に従って動作するマイクロリアクター、又は流体流が容易にTピース型の形状で接触するマイクロリアクターが挙げられる。このようなマイクロリアクターはマイクロミキサーとも呼称される。
【0006】
分岐及び再結合の原則に従って動作するマイクロリアクターの場合、流体流は分岐され、種々の通路区間を導通した後に再度合流する。この導流を例えば複数配置された平行のマイクロ流路中で数回繰り返すことにより、液体流の効率的な混合がもたらされる。このようなマイクロリアクターのマイクロ流路構造の流路直径は約50〜3000μmの直径である。平行なマイクロ流路構造の長さは1〜50mm、有利に15〜20mmで変動してよい。
【0007】
マルチラミネーションの原則に従って動作するマイクロリアクターの場合、個々の流体流はまず平行の層流に分配され、その後、交互に第二の多重層状化された流体流と合流し、そのようにして混合される。そのようなマイクロリアクターのマイクロ流路構造の流路内径は約50〜3000μmの直径である。平行なマイクロ流路構造の長さは1〜50mm、有利に15〜20mmで変動してよい。
【0008】
マイクロリアクターの流路内径は50〜3000μmで変動してよい。有利に、100〜1000μmm、極めて特に有利に200〜300μmの流路内径が用いられる。
【0009】
マイクロリアクター中での後処理の際、有利に液体の層流を用いて処理され、その際、レイノルズ数は特に有利に1000を下回る。
【0010】
本発明による方法の場合、理想的にマイクロ構造化された受動混合構造を含むマイクロリアクターが使用される。しかしながら、同等の内部流路寸法を有する単純なTミキサー又はYミキサーを使用することもできる。
【0011】
有利に、原料としてのガラス又はシリコンを有するマイクロリアクターが使用される。更に、金属、セラミック又はエナメルから成る原料を有するリアクターを使用することもできる。
【0012】
本発明によれば、更に、複数の同じか又は異なるマイクロリアクター(ないしマイクロミキサー)を連続して直列接続することにより、洗浄操作と分離操作とを任意に繰り返し、かつ/又はその都度別の洗浄液を添加することにより、種々のマイクロリアクター洗浄器ないしマイクロミキサー洗浄器を直列接続することを予定することができる(マイクロリアクター系)。
【0013】
驚異的にも、本発明により後処理された、マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーから去る、液体(有用)物質と洗浄液とから成る混合物は、すでに相に分離して存在する。本発明による洗浄操作はこの場合、慣用の方法における洗浄操作よりも本質的に効率的であることが明らかである。例えば、洗浄操作の数を明らかに低減することができる。洗浄時間及び洗浄液の消費は75%まで低減される。先行技術と比較して、混合不可能な液体において明らかに促進された相分離が達成される。
【0014】
本発明によれば有利に、マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーを去る、液体(有用)物質と洗浄液とから成る混合物は、上方排出口と下方排出口とを有する容器内に流入し、すでに分離した液相を抜き出すことができる。第三の相が生じた場合、この第三の相を1つ以上の付加的な中央の容器排出口を介して抜き出すことができる。
【0015】
本発明による方法は硝酸塩エステルの後処理のために特に適当である。本発明による方法は、ニトログリセリンの後処理のために極めて特に適当である。
【0016】
本発明の対象を、以下の実施例をもとに更に詳細に説明する:
実施例
実施例1:3つのマイクロミキサー中での粗製ニトログリセリンの後処理
粗製ニトログリセリンの後処理を、原料シリコンから成る直列接続された3つのマイクロミキサー中で実施した。前記ミキサーは分岐及び再結合の原則に従って動作する。この場合、液体流を分岐させ、種々の通路区間を導通させた後に再度合流させる。この導流を平行のマイクロ流路中で数回繰り返すことにより、液体流の効率的な混合がもたらされる。マイクロミキサーのマイクロ流路構造は約200〜300μmの直径である。平行なマイクロ流路構造の長さは15〜20mmで変動する。マイクロミキサーを直列接続し、あるマイクロミキサーから排出される混合物を、Tキャピラリー又はYキャピラリーにより、次のマイクロミキサーの2つの流体入口に分配した。
【0017】
連続的に、又はバッチ式に処理される製造プロセスから得ることができる粗製ニトログリセリンの後処理の実施のために、この粗製ニトログリセリンを、ガス圧(例えば窒素)を用いて、容器から、第一のマイクロミキサーの2つの出発物質流路のうちの1つに搬送した。第二の出発物質流路に洗浄水を搬送した。粗製ニトログリセリン対水の質量流量比は約1:1.5であった。最後のマイクロミキサーから排出され、回収容器に達する混合物は、マイクロミキサーから排出されるとすぐにすでに相分離していたため、回収容器から下方排出口を介して継続的にニトログリセリンを取り出すことができた。この1回洗浄された粗製グリセリンを、ガス圧を用いて3つのマイクロミキサーから成る直列接続された装置に再度搬送し、そこで、希釈(5質量%)ソーダ溶液で、同様に粗製ニトログリセリン対ソーダ溶液の質量流量比1:1.5で洗浄した。再度、最後のマイクロミキサーからの排出の直後に相分離が生じた。最後の洗浄工程において、ニトログリセリン相を再度水で第一の洗浄工程と同様に洗浄した。
【0018】
洗浄工程の後、生成物流を、上方に水性洗浄相のための流出口を有し、下方に洗浄されたニトログリセリン相のための流出口を含む回収容器中に導いた。
【0019】
最後のマイクロミキサーから排出される際にすぐに生じる相分離に基づき、マイクロミキサー中での滞留時間の合計は全洗浄時間に相当する。洗浄の成果を、公知の方法で、Abel試験でのニトログリセリン相の安定性時間の決定により、並びに純度分析(液体クロマトグラフィー)により調査した。比較として、慣用の巨視的に実施される洗浄プロセスを利用し、その際、連続した5つの洗浄工程(水、水、ソーダ、水、水)を、その都度粗製ニトログリセリン/洗浄相比1:3(質量比)で実施した。第1表に結果をまとめる。比較のために、第1表において「慣用の巨視的」の行に、先行技術による後処理を示す。試験結果の比較により、マイクロミキサーの使用によって、
・洗浄溶液の絶対量を75%までの分減少させることができ、
・洗浄工程の数を減少させることができ、
・正味の洗浄時間を劇的に減少させることができ、
・高純度の安定なニトログリセリン(第2表参照)が得られる
ことが明らかである。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例2:新規のマイクロミキサーを用いた粗製ニトログリセリンの後処理
方法様式は実施例1からの方法様式に相当するが、但し、粗製ニトログリセリンを直列接続された3つのマイクロミキサーから成る系に9回連続して導通させた。第一の3回の洗浄をそれぞれ水で行い、第二の3回の洗浄をそれぞれ希釈(5質量%)ソーダ溶液で行い、最後に第三の3回の洗浄を再度水で行った。ニトログリセリン対洗浄溶液の質量流量比は2:1であった。第3表に結果をまとめる。極めて高いニトログリセリン安定性が達成されたことが明らかである。
【0022】
比較のために、第3表において、「慣用の巨視的」の行に、先行技術による後処理を示す。
【0023】
【表2】

【0024】
実施例1〜2において達成された結果は、同一の処理条件下で、「分岐及び再結合」混合原則、又はマルチラミネーション混合原則に基づく受動混合構造を含む他のマイクロミキサーを用いても達成された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体物質の後処理法において、後処理すべき液体物質を1つ以上のマイクロリアクター及び/又はマイクロミキサー中で連続的に洗浄液と混合することを特徴とする、液体物質の後処理法。
【請求項2】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーの流路内径が少なくとも50μmである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーの流路内径が少なくとも100μmである、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーの流路内径が最大で3000μmである、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーの流路内径が最大で1000μmである、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサー中での液体の流れが層流である、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサー中での液体の流れが<1000のレイノルズ数を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーがマイクロ構造化された受動混合構造を含む、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーが、原料であるガラス又はシリコンから成る、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーが、原料である金属、セラミック又はエナメルから成る、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
マイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーから去る、液体(有用)物質と洗浄液とから成る混合物を、上方排出口と下方排出口とを有する容器内に流入させ、すでに分離した液相を抜き出すことができる、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
容器が上方排出口及び下方排出口の他に更に1つ以上の付加的な排出口を有し、前記排出口を介して他の液相を抜き出すことができる、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
洗浄工程及び分離工程を、複数のマイクロリアクター及び/又はマイクロミキサーの直列接続により繰り返すか、もしくはその都度別の洗浄液の添加により変化させる、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
液体の硝酸塩エステルの後処理のための、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
ニトログリセリンの後処理のための、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−521961(P2007−521961A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553517(P2006−553517)
【出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【国際出願番号】PCT/EP2005/001525
【国際公開番号】WO2005/077484
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(597060405)デイナミート ノーベル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング エクスプロジーフシュトッフ− ウント ジステームテヒニク (5)
【住所又は居所原語表記】Kalkstrasse 218,D−51377 Leverkusen,Germany
【Fターム(参考)】