説明

液体肥料及び液体飼料並びにそれらの製造方法

【課題】焼酎粕を固液分離して得られる液体分を有効利用し、多量の燃料やエネルギーを用いず、環境に対して負荷を与えることを回避しつつ効率的且つ安価に処理し、栄養価の高い液体肥料又は液体飼料を提供する。
【解決手段】焼酎の製造過程で副生される蒸留粕101を固液分離して液体分102を得る工程,液体分102に麹菌104を添加する工程,及び液体分102中で麹菌104を培養する工程を経て得られる発酵液105を得る。発酵液105は、液体肥料又は液体飼料として有用である。麹菌104としては、Aspergillus oryzae,Aspergillus niger及びAspergillus kawachiiからなる群から選ばれる1又は2以上の種が好適であり、Aspergillus oryzaeが特に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼酎粕を原料として製造される液体肥料及び液体飼料、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼酎の製造に伴って副生する蒸留残渣(以下、焼酎粕と称する)は、従来、海洋投棄,農地還元,飼料としての再利用等の手段によって処理されてきた。これらの処理法のうち、海洋投棄は環境保護の観点から問題視されており、「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」の改正等によって、その規制が強化されつつある。焼酎製造業者は、各種の処理設備又は処理装置を導入して海洋投棄を回避する努力を続けているものの、焼酎の需要増加に伴って焼酎粕の量も増加しており、処理効率の向上や新しい処理方法の確立が望まれている。
【0003】
焼酎粕は粘度の高い懸濁液状物であって、取扱い辛く、大量に処理することが難しい。そこで、一般的な焼酎粕の処理方法においては、最初の工程で圧搾,濾過等の固液分離手段によって、固体分と液体分とに分離される。固体分は水分含有量が低下していて、取扱い易いから、肥料又は飼料として容易に再利用される。一方、液体分は、多量の浮遊物質を含有する酸性懸濁液であって再利用も廃棄も困難であるから、液体分の新しい処理方法の確立は急務である。その一つの方向性として、液体分を加工し、肥料又は飼料として利用することを志向する発明が開示されている。
【0004】
例えば、焼酎製造の蒸留工程で発生した焼酎蒸留残渣を脱水塊および濾液に固液分離し、該濾液を濃縮して濃縮液および凝縮液に分離抽出し、得られた濃縮液、濃縮液および凝縮液、濃縮液および水または濃縮液、水および酢酸と、チッソ質肥料、リン酸質肥料およびカリ質肥料から選ばれる少なくとも2種とを混合してなることを特徴とする液体肥料、並びに該液体肥料の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
醸造粕から得られる液を、セルラーゼを主成分とし、キシラナーゼを含有する酵素により処理した後、濃縮することを特徴とする、醸造粕濃縮物の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、焼酎蒸留残渣液を固液分離し、そのろ液を濃縮させて水分含有率65%〜80%の濃縮液を抽出し、該濃縮液と乾草や穀類等の混合原料を所定の割合で混合させてなるウエットタイプ完全飼料の製造方法、及び該製造方法に係るウエットタイプ完全飼料が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】特開2004−338974号公報
【特許文献2】特開2004−298023号公報
【特許文献3】特開2000−125777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1乃至特許文献3に記載の肥料又は飼料の製造方法は、何れも濃縮のための加熱が必要であり、多量の燃料又はエネルギーを必要とする。貴重な資源である燃料又はエネルギーを消費し、大気汚染や温室効果等の原因となり得るガスを排出する方法であるから、焼酎粕を資源として有効活用する目的を掲げながら却って環境への負荷を増す矛盾を生じている。また、燃料又はエネルギーを多量に消費するから、多額の処理費用が必要である。
【0009】
特許文献2に記載の醸造粕濃縮物の製造方法は、セルラーゼ及びキシラナーゼを併用することによって、不溶性固体を減少させ濃縮を容易に行うことはできるものの、単離された高価な酵素を用いる必要があり、前記酵素を調達するために甚大な費用を要する。
【0010】
焼酎粕を固液分離して得られた液体分は多量の有機物を含み、飼料又は肥料として利用可能ではあるが、そのままでは極めて腐敗し悪臭を発生するおそれが大であり、保存性が非常に悪い。液体分を濃縮あるいは乾燥すれば保存可能となるものの、濃縮・乾燥には多大の費用がかかり、飼料価値あるいは肥料価値と比較して採算性に問題がある。
本発明は、焼酎粕を固液分離して得られた液体分を費用のかかる濃縮又は乾燥処理を行わず微生物処理を行うことで改質し、腐敗を防止して保存性のある液体肥料又は液体飼料とすることを目的とする。
【0011】
これらの問題点に鑑み、本発明は、焼酎粕を固液分離して得られる液体分を有効利用し、多量の燃料やエネルギーを用いず、環境に対して負荷を与えることを回避しつつ効率的且つ安価に処理し、栄養価の高い液体肥料又は液体飼料を提供することを課題とする。また、焼酎粕を固液分離して得られる液体分を、多量の燃料やエネルギーを用いず、環境に対して負荷を与えることを回避しつつ効率的且つ安価に処理し、栄養価の高い液体肥料又は液体飼料を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の発明者は鋭意検討を重ね、新規な液体肥料及び液体飼料並びにそれらの製造方法を発明した。
【0013】
第1の発明は、焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を経て得られることを特徴とする液体肥料である。
【0014】
第2の発明は、焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を経て得られることを特徴とする液体飼料である。
【0015】
第3の発明は、焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法である。
【0016】
第4の発明は、焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を含むことを特徴とする液体飼料の製造方法である。
【0017】
焼酎粕を固液分離して得た液体分に、麹菌を添加して腐敗菌の汚染を防止しつつ、有用菌の増殖をはかり腐敗・悪臭の発生を防止して保存性のある発酵液を得る。該発酵液は、栄養分を含有していて、肥料又は飼料として使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る液体肥料は、肥料の3要素である窒素,リン酸及びカリウムを含有するだけでなく、植物にとって必須元素である亜鉛を多く含有する。亜鉛は葉緑素やβ−インドール酢酸の生成に関与し植物の成長を促進するから、前記液体肥料によって、農作物の成長が促進される。
【0019】
本発明に係る液体飼料は、液体分に含まれていたアミノ酸,クエン酸,ビタミン,ミネラルを含有していて、特に亜鉛の含有量が高い。亜鉛は、動物にとって必須微量元素であるにも関わらず欠乏を起こし易い元素であって、亜鉛の欠乏は、皮膚炎,免疫不全,成長障害,味覚障害,性機能障害,神経系異常等の要因となることが知られている。本発明の液体飼料は亜鉛を豊富に含んでいるから、家畜の成長促進,皮膚炎の防止,感染症の防止等に有用である。
【0020】
食物繊維が分解されて生じる単糖及びオリゴ糖は、動物が摂取し易い糖である。本発明に係る液体飼料は、単糖及びオリゴ糖を多く含有しているから、家畜の成長促進に有用である。
【0021】
本発明に係る液体肥料又は液体飼料の製造方法は、濃縮等の加熱を伴う操作を必ずしも必要とせず、多量の燃料やエネルギーを必要としない。多量の大気汚染や温室効果ガス等を排出しないから、環境に負荷を与えることが回避される。燃料やエネルギーに掛かる費用を抑え、安価に処理を行うことができる。
【0022】
市販の麹菌を用いれば良く、高価な酵素を用いる必要が無いから、調達費用を抑制できる。麹菌の保有するアミラーゼ・プロテアーゼ等の酵素を利用するから、麹菌の培養が進むことによって次々に活性な酵素が産生され、酵素反応が進行する。それによって、相乗的に酵素反応が進行し、酵素を単に添加するよりも効率的に、栄養価の高い液体肥料又は液体飼料を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0024】
図1は、本発明に係る発酵液の製造方法を示すフローチャートである。
【0025】
本発明に係る焼酎粕101は、焼酎の製造過程で生じる蒸留残渣であれば良く、芋,米,麦,黒糖等の焼酎の原料を限定するものではない。また、常圧蒸留と減圧蒸留の何れで生じる焼酎粕であっても良い。
【0026】
焼酎粕101を固液分離して液体分102を得、それを本発明に用いる。固液分離の方法は、大きな固形物を除去できる方法であれば特に限定されず、濾過,遠心分離,圧搾,篩掛け等の各種固液分離方法が適用可能である。液体分102は、90重量%以上の水分を含有することが好ましい。
【0027】
液体分102に、麹菌104を加え、培養する。焼酎粕101及び液体分102は、何れも、糖分,食物繊維,蛋白質等を含有していて、雑菌等の微生物が混入すると容易に腐敗してしまう。それによって、後述する麹菌の培養が阻害され又は有毒物質や悪臭を生じる虞があるから、焼酎粕101を得た後、培養開始までの操作は、迅速に行うことが望ましい。
【0028】
本発明に係る麹菌104は、その種類,入手元等を限定するものではないが、安価に入手可能な市販の食品製造用の麹菌を使用することが好ましい。麹菌104の種としては、食物繊維の分解に有用な酵素を保有する、Aspergillus oryzae,Aspergillus niger又はAspergillus kawachiiが好適に用いられる。一般的に食品製造用に用いられ、澱粉及び蛋白質を分解する能力に優れたAspergillus oryzaeが、特に好適である。また、これらの種から2種以上を混合して用いても良い。
【0029】
一応の目安としては、液体分102 100Lに対して、麹菌104 30gを加える。麹菌は一般的に20乃至40℃程度で生育し易く、常温で放置するのみで充分に増殖する。
好ましくは、他の微生物の混入や腐敗を回避するため、落下菌の混入し難い蓋付き容器内で麹菌104を培養する。更に好ましくは、麹菌104を添加した後、30℃〜50℃,好ましくは約40℃で24〜78時間,好ましくは約48時間加温する。この加温の操作によって、麹菌104を速やかに増殖させることができ、他の微生物の混入や腐敗を、より確実に回避することができる。加温には燃料又はエネルギーを必要とするものの、例えば液体分102を濃縮するのに比べて僅かな消費量で事足りる。
【0030】
常温で、麹菌を添加した液体分の発酵・熟成を行う。発酵・熟成期間は特に限定されないが、一応の目安として、3乃至36ヶ月の間、発酵・熟成を行う。ここで、各種有用微生物,例えば,各種乳酸菌,酵母類、あるいは発酵菌等が発酵に寄与すると考えられる。
【0031】
発酵・熟成によって、発酵液105が得られる。発酵液105は、原料の焼酎粕101を固液分離して得た液体分102と比べ、不溶性固体が少なく粘度の低い液である。発酵液105を、密閉容器に入れ、保存する。
【0032】
発酵液105は、窒素,リン酸,カリウム,カルシウム,マグネシウム及び微量元素を含有しており、液体肥料として使用することができる。使用に際しては、水で適宜希釈して用いても良く、一応の目安としては約1000倍希釈したものを用いる。
【0033】
また、発酵液105には、液体分102に含まれていたアミノ酸,クエン酸,ビタミン,ミネラル等が含有されていて、特に亜鉛の含有量が高い。食物繊維が分解されて生じた単糖やオリゴ糖を含有しているから、牛,豚,鶏等の家畜に対して液体飼料としても使用することができる。液体飼料として使用する場合には、そのまま家畜に与えても良く、家畜が摂食し易い様に藁等の飼料と混合しても良い。
【0034】
以下、実施例を記載するが、本発明は、これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0035】
(発酵液105の製造)
焼酎製造業者より入手した液体分102 100Lを、表面が耐食加工された金属製の円筒容器に入れた。これに、麹菌104として、純粋培養されたAspergillus oryzae(株式会社菱六製;長白菌小袋粉状)30gを加え、40℃で48時間加温した。加温を止め、そのまま同一容器内で3ヶ月間、常温で液体分の発酵・熟成を行った。
叙上の操作によって、発酵液105を得た。発酵液105は、液体分102に比べて粘度が低く、浮遊物質の含有量も少ない。Aspergillus oryzaeを初め、麹菌には、食物繊維を分解する酵素を保有する種があり、その働きによって浮遊物質が減少し、粘度が低下したものと理解される。
【0036】
発酵液105を小分けし、ポリエチレンテレフタレート製容器に入れて保存した。
【実施例2】
【0037】
(発酵液105の分析)
実施例1の発酵液105を試料として、含有成分の分析を行った。その結果を、表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

(註)表2に焼酎粕の分析値の1例を示した。(鹿児島県本格焼酎研究会編 鹿児島県の本格焼酎P145,春苑堂出版,平成12年6月発行)
【0040】
表1と表2を比較するとT−N以下肥料としての有効成分のほとんどが本発明で得られた発酵液の方が焼酎粕そのものより濃縮されていることがわかる。このことは、麹菌その他有用微生物の働きにより、有効成分が液化し発酵液中に溶出していることがわかる。
【0041】
上記の結果より、本発明の発酵液105は、肥料の3要素である窒素,リン酸及びカリウムを含有し、肥料として有用であることが示された。また、葉緑素やβ−インドール酢酸の生成に関与し植物の成長を促進するとされる、植物にとって必須元素である亜鉛の含有量が特に多いことが示された。
【0042】
また、上記結果より、本発明の発酵液105は亜鉛を豊富に含んでいて、飼料として用いることで、家畜の成長促進,皮膚炎の防止,感染症の防止等に有用であることが示唆される。亜鉛等のミネラルの摂取を阻害するとされる食物繊維の少なくとも一部が分解されているから、発酵液105の含有する豊富な亜鉛を、家畜が効率的に摂取することができる。
【使用例1】
【0043】
本発明に係る液体肥料を水で1000倍に希釈したものを、水田に散布した。
収穫した米を炊飯米食味分析に供し、近隣水田で収穫された米と比較した。その結果、近隣水田で収穫された米の平均食味値が約82であったのに対し、本発明に係る液体肥料を用いた米は、食味値87を示した。
【使用例2】
【0044】
本発明に係る液体肥料を水で1000倍に希釈したものを、ジャガイモを栽培している畑に投与した。従来に比べ、収穫高が1000m当たり約1t増えた。
【使用例3】
【0045】
本発明に係る液体肥料を水で1000倍に希釈したものを、大根を栽培している畑に投与した。従来に比べ大きく育った大根が収穫され、10kgを超す個体も多数あった。真直ぐに成長した白い大根であり、且つ味も良好であった。
【使用例4】
【0046】
本発明に係る液体飼料を藁に混合したものを、飼料として肉牛に与えた。その結果、ウシの食欲が増進され、毛並み良く、肥え太ったウシが得られた。
【使用例5】
【0047】
本発明に係る液体飼料を藁に混合したものを、飼料として仔牛に与えた。仔牛の食欲が増進されただけでなく、感染症を発病する頻度が大幅に減少した。獣医の診察を仰ぐ頻度が極めて少なくなったため、大幅な原価低減が達成された。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る発酵液の製造方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0049】
101 焼酎粕
102 液体分
103 固体分
104 麹菌
105 発酵液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を経て得られることを特徴とする液体肥料。
【請求項2】
焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を経て得られることを特徴とする液体飼料。
【請求項3】
焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を含むことを特徴とする液体肥料の製造方法。
【請求項4】
焼酎の製造過程で副生される蒸留粕を固液分離して得られた液体分に麹菌を添加する工程,及び麹菌を添加した液体分をさらに発酵・熟成する工程を含むことを特徴とする液体飼料の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−51709(P2009−51709A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−221975(P2007−221975)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(507247944)株式会社Gs酵素 (1)
【Fターム(参考)】