説明

液体調味料

【課題】 水溶性が高くて優れた生理機能を有するカテコール骨格構造のポリフェノール類を含有し、しかも風味良好で継続摂取可能であり、調理時の着色が抑制された液体調味料料を提供する。
【解決手段】 次の(A)および(B)、
(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類 0.05〜10質量%
(B)リン酸系化合物 0.005〜5質量%
を含有する液体調味料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテコール骨格を有するポリフェノール類等を含有する液体調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療費の高騰から、予防医学の重要性が説かれ、とりわけ、生活習慣病対策として、食事の見直しが唱えられている。安全性の高い素材で、生活習慣病に有効な食品の技術開発が、生活者のみならず、社会経済的にも望まれている。
また、生活者の健康志向を背景に、食品中に含まれる種々の成分の生理機能に関心が集まっている。生理機能を有する素材として、様々なものが提案されているが、中でも食品中に含まれ安全性の高い物質として、ルチン、ケルセチン、クロロゲン酸等といったポリフェノール類が挙げられる。ポリフェノール類の生理機能として、毛細血管の補強作用、抗炎症・抗アレルギー作用、抗酸化作用、抗発癌作用、血圧改善作用、血糖値上昇抑制作用、血中脂質改善作用などが知られている(特許文献1〜3、非特許文献1〜6)。
このようにポリフェノール類は、主に生活習慣病に有用な生理機能を有することから、食品への利用についても開示されているが、特有の異味を有することから、広く応用されていないのが現状である(特許文献1、4、5)。
【0003】
【特許文献1】特開2004-59522号公報
【特許文献2】特開2005-289850号公報
【特許文献3】特開2002-80354号公報
【特許文献4】特開2005-237361号公報
【特許文献5】特開2006-42624号公報
【非特許文献1】J. Agric. Food Chem.2002;50:6211-6
【非特許文献2】Cancer Lett.1986;30:49-54
【非特許文献3】Hypertens. Res.2002;25:3579-85
【非特許文献4】Arch. Biochem. Biophys.1997;339:315-22
【非特許文献5】平成13年度和歌山県工業技術センター「研究報告」2001:17-9
【非特許文献6】Moscou, clinical report.1999:12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように有用な生理機能を有するポリフェノール類は、天然物であるため水溶性に乏しかったり、異味を持っているため、食品に広く用いられていないのが現状である。更に、今回の検討過程で、ある特定のポリフェノールは水溶性が良好であるものの、液体調味料に配合して、特定の調理条件で調理する(卵焼き、親子丼、茶碗蒸し、金平ゴボウ等)と、調理品に変色が生じることが新たに明らかとなった。その現象について検討を行ったところ、ルチン、ケルセチン、クロロゲン酸に代表されるような、カテコール骨格を有するポリフェノール類に特有の現象であることが判明した。
すなわち、カテコール骨格構造を有するポリフェノール類は、水溶性が高く、ポリフェノールの中でも高い生理活性を有する素材であるが、特有の異味を有し、前述のように、液体調味料に配合して調理すると、特定の条件で着色することが課題として新たに判明した。
本発明の目的は、水溶性が高くて優れた生理機能を有するカテコール骨格構造のポリフェノール類を含有し、しかも風味良好で継続摂取可能であり、調理時の着色が抑制された液体調味料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、水溶性が高くて優れた生理機能を有するカテコール骨格構造のポリフェノール類を含有し、しかも風味良好で継続摂取可能であり、調理時の着色が抑制された液体調味料について種々検討してきた。その結果、リン酸系化合物とカテコール骨格を有するポリフェノール類を特定の割合にすることにより、驚くべきことに、カテコール骨格を有するポリフェノール類を含有させたものであるにもかかわらず、カテコール骨格を有するポリフェノール類由来の異味が低下するだけではなく、調理時の着色が抑制されて汎用性を持つことで、血圧降下作用等の有用な生理機能を効率的に発揮することができる液体調味料が得られることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の(A)及び(B)、
(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類 0.05〜10質量%
(B)リン酸系化合物 0.005〜5質量%
を含有する液体調味料を提供するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、カテコール骨格を有するポリフェノール類を含有させたものであるにもかかわらず、カテコール骨格を有するポリフェノール類由来の異味が低下するだけではなく、調理時の着色が抑制され、しかも血圧降下作用等の有用な生理機能を有する液体調味料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において、(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類は、1分子中にヒドロキシル基が結合したベンゼン環を1つ以上有し、該ヒドロキシル基に隣接した位置(オルト位)にヒドロキシル基を有するポリフェノール類をいう。ポリフェノール類は抗酸化活性を持つことが知られているが、中でもカテコール骨格を持つポリフェノール類は、低い濃度でもその活性が顕著で、水溶性も高い。
【0009】
本発明の液体調味料は、(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類を0.05〜10質量%(以下、単に「%」で示す)含有するが、好ましくは0.1〜5%、更に0.2〜3%、特に0.5〜2%が好ましい。カテコール骨格を有するポリフェノールの含有量が0.05%未満では、十分な生理機能が得られ難く、含有量が10%を超えると、異味が強すぎる傾向となる。
【0010】
本発明において、(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、測定することができる(島津アプリケーションニュース No.L306)。
【0011】
本発明において、ポリフェノール類は、フラボノイドおよびフェニルプロパノイドに大別でき、更に、フラボノイドは重合物とモノマーに分類できる。本発明において利用できるカテコール骨格を有するポリフェノールは、フラボノイドの重合物としては、ぶどう種子ポリフェノール、ウーロン茶縮合カテキン、リンゴポリフェノール、カカオポリフェノール、ミントポリフェノール、アンズポリフェノール、ポップポリフェノールが挙げられる。また、フラボノイドのモノマーとしては、シアニジン、デルフィニジン、ルテオリニジン、ペチュニジン、ヨーロピニジン、ルチン、ケルセチン、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレートおよびその誘導体、またはそれらの塩が挙げられる。フェニルプロパノイドとしては、クロロゲン酸、ジカフェオイルキナ酸、カフェ酸、エラグ酸、没食子酸およびその誘導体、またはそれらの塩が挙げられる。上記誘導体としては、アセチル化物、マロニル化物、メチル化物、糖結合物が例示される。糖結合物とは、グルコース、ラムノース、ガラクトース、ルチノース、ネオヘスペリドース、アピオシルグルコースなどの糖が、ポリフェノール1分子あたり1分子以上共有結合したもので、好ましくは1〜20分子、更に2〜10分子結合したものが、水溶性の点で好ましい。これらのうち、安定かつ持続的な血圧降下作用を有することからルチン、ケルセチン、カテキン、ぶどう種子ポリフェノール、クロロゲン酸およびその誘導体が好ましく、更にルチン、ケルセチン、カテキン、ぶどう種子ポリフェノールおよびその誘導体が好ましく、特にルチンの糖結合物が好ましい。
【0012】
本発明において、(B)リン酸系化合物とは、リン酸または縮合リン酸およびその誘導体、またはそれらの塩の1種又は2種以上の混合物のことである。ここで、リン酸系化合物は有機リン酸系と無機リン酸系に大別される。本発明に使用する有機リン酸系化合物としては、フィチン酸およびその誘導体または、それらの塩が例示される。無機リン酸系化合物としては、リン酸、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ウルトラリン酸およびその誘導体または、それらの塩が挙げられる。これらのうち、着色抑制、風味の点で、リン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、フィチン酸およびその誘導体または、それらの塩が好ましく、更にリン酸、ポリリン酸、ピロリン酸、フィチン酸が好ましく、特にフィチン酸が好ましい。
【0013】
本発明の液体調味料において、(B)リン酸系化合物の含有量は、0.005〜5%であるが、好ましくは0.01〜3%、更に0.05〜2%、特に0.1〜1%であるのが、カテコール骨格を有するポリフェノール類およびリン酸系化合物の異味の抑制、調理時の着色の抑制、風味バランスの点で好ましく、カリウム併用時においては、カリウム由来の異味を抑制するので好ましい。
【0014】
特に、成分(B)がフィチン酸である場合は、その含有量は0.005〜3%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜2%、更に0.05〜1.5%、特に0.06〜1%であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0015】
特に、成分(B)がピロリン酸およびポリリン酸である場合は、0.005〜3%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜2%、更に0.03〜1.5%、特に0.05〜1%であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0016】
特に、成分(B)がリン酸である場合は、0.005〜5%であるのが好ましく、より好ましくは0.05〜3%、更に0.1〜2.5%、特に0.5〜2%含有するのが、カテコール骨格を有するポリフェノール類の異味および調理時の着色の抑制、風味のバランス、リン酸系化合物自身のにがみやえぐみの抑制、生理効果の点で望ましく、カリウム併用時においては、カリウム由来の異味を抑制するので好ましい。
【0017】
更に、全体的にすっきりとした呈味性、保存性、良好な風味バランス、着色抑制、カリウム併用時における、カリウム由来の異味を抑制する点で、液体調味料中の成分(A)と成分(B)の質量比が特定範囲であるのが好ましい。
【0018】
本発明において、液体調味料中の成分(B)の含有量は、成分(A)が0.2%以下の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が30〜300部であるのが好ましく、更に35〜280部、特に40〜260部、殊更50〜250部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0019】
成分(A)が0.2%超〜0.3%の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が20〜250部であるのが好ましく、更に25〜230部、特に30〜200部、殊更
33〜170部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0020】
成分(A)が0.3%超〜0.5%の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が10〜200部であるのが好ましく、更に15〜150部、特に18〜130部、殊更
20〜100部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0021】
成分(A)が0.5%超〜0.75%の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が40〜200部であるのが好ましく、更に50〜180部、特に60〜160部、殊更65〜140部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0022】
成分(A)が0.75%超〜1%の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が5〜150部であるのが好ましく、更に10〜135部、特に15〜120部、殊更20〜100部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0023】
成分(A)が1%超〜10%の場合は、成分(A)100部に対して成分(B)が1〜100部であるのが好ましく、更に2〜95部、特に3〜90部、殊更4〜80部であるのが、風味、着色抑制の点で好ましい。
【0024】
本発明において、成分(B)の含有量は、原子吸光光度計を用いて測定することができる(Z−2000形日立偏光ゼーマン原子吸光光度計)(食品中の食品添加物分析法.厚生省環境衛生局食品化学課編、講談社、1982:85-91)。
【0025】
本発明において、(C)ナトリウムは、食品成分表示上の「ナトリウム」又は「Na」を指し、調味料中に塩の形態で配合されているものをいう(以下に記載するナトリウム以外のアルカリ金属又はアルカリ土類金属についても同様である)。ナトリウムは、人体にとって重要な電解質のひとつであり、その大部分が細胞外液に分布している。濃度は135〜145mol/L程度に保たれており、細胞外液の陽イオンの大半を占める。そのため、ナトリウムの過剰摂取は濃度維持のための水分貯留により、高血圧の大きな原因となる。
【0026】
本発明の液体調味料は、(C)ナトリウムを0.4〜8%含有するのが好ましいが、好ましくは1.4〜7.4%、より好ましくは2.2〜6.2%、更に3.1〜5.7%、特に3.6〜5.4%、殊更3.8〜5.1%含有するのが、塩味、保存性、食塩摂取量低減、工業的生産性の点で好ましい。
【0027】
本発明において、ナトリウムとして、無機ナトリウム塩、有機酸ナトリウム塩、アミノ酸ナトリウム塩、核酸ナトリウム塩等を用いることができる。具体的には、塩化ナトリウム、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム、これらの2種以上の混合物が挙げられる。このうち、塩化ナトリウム(NaCl)を主成分とする食塩を使用するのが、コストの点で好ましい。
【0028】
食塩として、様々なものが市販されており、例えば、日本たばこ産業(株)が扱っている食塩、並塩、あるいは海外からの輸入天日塩等が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、食塩は乾燥物基準で塩化ナトリウム100質量部(以下、単に「部」で示す)に対して、塩化マグネシウムを0.01〜2部、塩化カルシウムを0.01〜2部、塩化カリウムを0.01〜2部含有するものが、風味、工業的生産性の点で好ましい。
【0029】
本発明において、成分(C)の含有量は原子吸光光度計(日立偏光ゼーマン原子吸光光度計Z−2000)により測定することができる。
【0030】
食塩の過多な摂取は、腎臓病、心臓病、高血圧症に悪影響を及ぼすことから食塩の摂取量を制限するために、本発明の液体調味料が、使用頻度の高い醤油類であるのが好ましい。醤油類としては、製品100g中のナトリウム量が塩化ナトリウムとして5.5g超の醤油、3.55g超〜5.5g以下の低塩醤油、3.55g以下である減塩醤油が挙げられるが、食塩摂取量、成分(A)との風味の相性の点から、液体調味料が、低塩醤油、減塩醤油であるのが好ましい。
【0031】
本発明の液体調味料において、(D)カリウムの含有量は0.02〜10%であるのが好ましく、より好ましくは0.1〜7%、更に0.5〜5%、特に1〜4.2%、殊更1.8〜2.7%であることが、苦味や刺激味といったカリウム由来の異味を生じない点から好ましい。また、カリウムは、ポリフェノールおよびリン酸系の化合物と一緒に用いることで、その異味や刺激味を抑制することができる。カリウムは塩味があり、かつ異味が少ない点から塩化カリウムであることが好ましい。塩化カリウムを用いる場合は、その含有量を0.03〜10%、好ましくは0.19〜9%、更に0.95〜8%、特に1.9〜5%、殊更3.5〜4.5%とすることが好ましい。
【0032】
本発明において、(D)カリウムの含有量は原子吸光光度計(Z−2000形日立偏光ゼーマン原子吸光光度計)により測定することができる。
【0033】
本発明の液体調味料は、うま味調味料を含有するのが好ましい。うま味調味料の含有量は0.1〜10%であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜7%、更に1〜5%、特に1.5〜4%、殊更1.5〜3.8%であるのが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。
【0034】
更に、ナトリウム100部に対して、うま味調味料を20〜250部含有するのが好ましく、より好ましくは25〜150部、更に30〜100部、特に35〜70部、殊更40〜50部含有するのが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。
【0035】
うま味調味料としては、アミノ酸系調味料、核酸系調味料、これらの混合物が挙げられる。工業的には、だし汁を使用し、これにアミノ酸系調味料や核酸系調味料を添加して、含有量を上記範囲とするのが、生臭みを抑えてだし風味を生かす点、生産効率やコストの点で好ましい。
【0036】
だし汁としては、通常、つゆ、だし割り醤油などに使用されるものであれば使用できる。すなわち、鰹節、宗田節、鮪節、鯵節、鯖節、鰯節などの魚節の粉砕物又はこれらの削り節、あるいは、鰯、鯖、鯵などを干して乾燥した煮干し類などを水、熱水、アルコール、醤油などで抽出して得られるものや、昆布などの海藻類、椎茸などのきのこ類を抽出して得られるもの、これらを混合してから抽出して得られたもの、これらの抽出物を混合したもの等を用いることができる。
【0037】
核酸系調味料としては、酵母エキス、グアニル酸、イノシン酸等のナトリウム、カリウムあるいはカルシウム塩等が挙げられる。液体調味料中の核酸系調味料の含有量は0〜0.2%が好ましく、0.01〜0.1%が特に好ましい。なお、本発明においては、核酸ナトリウム塩を使用した場合は、ナトリウムの部分は成分(C)として、核酸の部分はうま味調味料として本発明を構成するものとする。例えば、イノシン−5’−リン酸2ナトリウムの場合、2ナトリウムは成分(C)、イノシン−5’−リン酸酸はうま味調味料として含有量を換算する。また、核酸カリウム塩を使用した場合は、カリウムの部分は成分(D)として、核酸の部分はうま味調味料として本発明を構成するものとする。
【0038】
本発明において、液体調味料中のアミノ酸系調味料の含有量は、酸性アミノ酸が2%超、及び/又は塩基性アミノ酸が1%超であるのが好ましい。また、酸性アミノ酸は2%超5%以下、更に2.4〜4.5%、特に2.5〜3.8%であることが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましい。塩基性アミノ酸は1%超3%以下、更に1.2〜2.5%、特に1.5〜2%であることが、塩味の持続性の点から好ましい。なお、本発明の液体調味料は、醸造調味料をベースとしたものがカリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましいが、この場合には、アミノ酸は原料醤油由来のものも含み、上記範囲に満たない場合には、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸塩等を更に添加することが好ましい。なお、本発明にいう「酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸」は、遊離(フリー)のアミノ酸又はアミノ酸塩の状態のものを指すが、本発明に規定する含有量は、遊離のアミノ酸に換算した値をいう。
【0039】
また、本発明の液体調味料においては、酸性アミノ酸、塩基性アミノ酸の中でも酸性アミノ酸であるアスパラギン酸、グルタミン酸がカリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましく、更に、アスパラギン酸とグルタミン酸を併用することが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましい。この場合、アスパラギン酸の含有量は1%超3%以下が好ましく、更に1.2〜2.5%、特に1.2〜2%であることが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましい。アスパラギン酸は、醸造調味料をベースとした場合には原料由来のものも含み、上記範囲に満たない場合には、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン酸ナトリウム等を更に添加することが好ましい。また、グルタミン酸の含有量は1%超2%以下が好ましく、更に1.2〜2%、特に1.3〜1.8%であることが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましい。グルタミン酸は、醸造調味料をベースとした場合には原料由来のものも含み、上記範囲に満たない場合には、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸ナトリウム等を更に添加することが好ましい。
【0040】
塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、及びオルニチンが挙げられるが、中でもリジン、ヒスチジンが好ましく、特にヒスチジンが好ましい。リジンの含有量は0.5〜1%であることがカリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましく、ヒスチジンの含有量は0.2〜2%、更に0.5〜1%であることが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点から好ましい。これらの塩基性アミノ酸も醸造調味料をベースとした場合には原料由来のものも含み、上記範囲に満たない場合には、更に添加することが好ましい。
【0041】
上記以外のものとしては、例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、シスチン、スレオニン、チロシン、イソロイシン、あるいはこれらのナトリウム塩又はカリウム塩等が挙げられ、これらを1種又は2種以上配合することができる。配合後のアミノ酸の含有量はそれぞれ遊離のアミノ酸に換算した場合、グリシンは0.3%超、アラニンは0.7%超、フェニルアラニンは0.5%超、シスチンは0%超、スレオニンは0.3%超、チロシンは0.2%超、イソロイシンは0.5%超であり、かつそれぞれ上限は1.5%以下が好ましい。中でもイソロイシンがカリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましく、含有量は0.5〜1%であることが好ましい。
【0042】
本発明において、アミノ酸の含有量は、アミノ酸分析計(日立L−8800)を用いて測定することができる。核酸の含有量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して測定することができる(「しょうゆ試験法」、(財)日本醤油研究所編集、(株)醤協通信社販売、昭和60年)。
【0043】
本発明の液体調味料は、糖類を含有するのが好ましい。糖類の含有量は1〜30%であるのが好ましく、より好ましくは3.5〜20%、更に5〜15%、特に6〜12%、殊更7〜10%であるのが、カリウム由来の異味抑制、風味バランスの点で好ましい。糖類としては、グルコース、ガラクトース、アラビノース、フルクトース、シュークロース、マルトース、液糖、転化糖、水飴、澱粉、デキストリン等のほか、エリスリトール、グリセロール、ソルビトール、トレハロース、還元水あめ等の糖アルコールも例示される。また必要によりグリチルリチン、ステビオサイド、アスパルテームなどの甘味料も用いられる。
【0044】
本発明において、糖類の含有量は、原料由来の糖類量と新たに添加した糖類量との合計量をいう。すなわち、調味料の原料として日本酒、ワイン等の酒、醤油、味醂(本みりん、みりん風調味料、塩みりん等)等の醸造調味料の他、発酵物等を用いると、原料由来の糖類が含まれることがある。その場合には、原料由来の糖類量と新たに添加した糖類量との合計が、上記範囲内であるものとする。なお、糖類の含有量は、液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、測定することができる(「しょうゆ試験法」、(財)日本醤油研究所編集、(株)醤協通信社販売、昭和60年)。
【0045】
また、本発明においては、上記成分の他に、γ―アミノ酪酸、各種ペプチドなどの血圧降下作用を有する素材を加えてもよい。
【0046】
本発明においては、液体調味料とは、食塩を含有する液体状の調味料のことであるが、醤油、つゆ、たれ等の通常、食塩を含有する液体状の調味料や、日本農林規格に適合する「しょうゆ」に調味料、酸味料、香料、だし、エキス類等を添加した、「しょうゆ」と同様の用途で用いられる液体調味料を含む。具体的には、麺つゆ(ストレートタイプ、濃縮タイプ)、おでんつゆ、鍋物つゆ、煮物つゆ、天つゆ、天丼つゆ等のつゆ類、蒲焼のたれ、照り焼のたれ、焼肉のたれ、焼鳥のたれ、すきやきのたれ、しゃぶしゃぶのたれ等のたれ類、だし割り醤油、土佐醤油、松前醤油、八方だし、ぽん酢等が挙げられる。
【0047】
ここで、本発明における「醤油」とは、日本農林規格の「しょうゆ」と同一概念である。また、しょうゆに調味料、酸味料、香料、だし、エキス類等を添加したものを「しょうゆ加工品」という。なお、本願で記載する「液体調味料」は、上記のしょうゆ及びしょうゆ加工品を含むことはもちろん、これらの規格からは外れるが本願の要件を備えた調味料を含める概念であり、例えばドレッシング、塩水、だし、ソース、合わせ調味料なども挙げられる。
【0048】
食塩の過多な摂取は、腎臓病、心臓病、高血圧症に悪影響を及ぼすことから食塩の摂取量を制限するために、本発明の液体調味料が、使用頻度の高い醤油を含有する調味料であるのが好ましい。原料として使用する醤油としては、濃口醤油、淡口醤油、たまり醤油、低塩醤油、減塩醤油等を挙げることができるが、製品100g中のナトリウム量が3.55g超〜5.5g以下の低塩醤油、3.55g以下である減塩醤油を用いるのが、食塩摂取量、風味バランスの点で好ましい。
【0049】
本発明において、ナトリウム含有量とカリウム含有量を所定の範囲に調整するには、例えば仕込水として食塩と例えば塩化カリウムの混合溶液を用いて醤油を製造する方法;塩化カリウム単独の溶液を仕込水として用いて得た醤油と食塩水を単独で仕込水として用いて得た醤油とを混合する方法;食塩水を仕込水として用いた通常の醤油を電気透析、膜処理等によってナトリウムを除去した脱塩醤油に塩化カリウムを添加する方法等が挙げられる。
【0050】
なお、本発明において、液体調味料としてつゆ類、たれ類、だし割り醤油等を製造する場合は、醤油とだし汁を含む調味液に、成分(A)及び(B)などが所定の濃度となるように各種添加物等を配合し、溶解して容器に充填することにより製造することができる。また、塩分(ナトリウム含量)を低下させた液体調味料とする場合は、生醤油を電気透析、又は塩析/希釈により食塩含量の低下した生醤油(減塩生醤油、低塩生醤油)を調製し、火入れ工程後、成分(A)及び(B)などを混合する方法、又は、火入れ工程後の醤油を電気透析、又は塩析/希釈により食塩含量の低下した醤油(減塩醤油、低塩醤油)を調製し、これとだし汁を含む調味液に成分(A)及び(B)などを混合する方法等により製造することができる。更に、容器に充填する際には、加熱処理を行うのが好ましい。この場合には、(i)加熱処理した後、液体調味料の温度が低下しないうちに容器に充填する、(ii)加熱処理しながら容器に充填する、(iii)容器に充填した後、加熱処理する等が挙げられるが、(i)又は(ii)が好ましく、特に(ii)が風味、安定性、色、保存性の点で好ましい。
このように本発明の液体調味料は、水溶性原料と成分(A)及び(B)を混合し、必要に応じて上記成分を適宜配合することにより製造することができる。
【0051】
本発明の液体調味料は、加熱処理を施して製造するのが、成分(A)由来の異味低減、まろやかで一体感のある風味付与、風味バランス向上、カリウム由来の異味抑制など風味の点で好ましい。調味液を容器に充填後、加熱処理を行ったり、調味液を予めプレート式熱交換器などで加熱処理した後に、容器に充填して製造することができる。
【0052】
本発明において、加熱処理とは、成分(A)及び、(B)を含有する液体調味料を、特定の条件で加熱することをいう。加熱温度は、各成分の種類や量比によって異なるが、60℃以上、好ましくは70〜130℃、更に75〜120℃、特に80〜100℃、殊更85〜95℃で加熱することが、風味、安定性、色等の点から好ましい。成分(A)由来の異味を抑制し、一体感のある風味を呈して風味良好となるので、60℃以上で加熱するのが好ましい。
【0053】
本発明において、加熱処理時の加熱時間は、加熱温度により異なるが、60℃の場合は10秒〜120分、更に30秒〜60分、特に1分〜10分、殊更2分〜5分であることが、風味、安定性、色等の点から好ましい。80℃の場合は、2秒〜60分、更に5秒〜30分、特に10秒〜10分、殊更30秒〜5分であるのが、風味、安定性、色等の点から好ましい。90℃の場合は、1秒〜30分、更に2秒〜10分、特に5秒〜5分、殊更10秒〜2分であるのが、風味、安定性、色等の点から好ましい。また、加熱温度と加熱時間を組合せて、60〜70℃で10分以上加熱した後、80℃で1分以上加熱する方法でもよい。
【0054】
本発明において、加熱処理は、液体調味料の品温で規定してもよい。加熱処理時に、品温(サンプルの中心温度)が60℃以上となるように加熱するのが好ましく、更に70〜130℃、特に80〜98℃、殊更85〜95℃となるように加熱するのが、風味、安定性、色等の点から好ましい。品温60℃の場合、60℃に達した時点(60℃達温)から60分以下の加熱処理が好ましく、更に60℃達温時より30秒〜30分、特に60℃達温時より1〜10分、殊更60℃達温時より3〜7分の加熱処理が、風味、安定性、色等の点から好ましい。品温70℃の場合、70℃に達した時点(70℃達温)から30分以下の加熱処理が好ましく、更に70℃達温時より15秒〜15分、特に70℃達温時より20秒〜5分、殊更70℃達温時より30秒〜3分の加熱処理が、風味、安定性、色等の点から好ましい。品温80℃の場合、80℃に達した時点(80℃達温)から10分以下の加熱処理が好ましく、更に80℃達温から5分以下、特に80℃達温から3分以下、殊更80℃達温から1分以下の加熱処理が、風味、安定性、色等の点から好ましい。品温90℃の場合、90℃に達した時点(90℃達温)から5分以下の加熱処理が好ましく、更に90℃達温から3分以下、特に90℃達温から1分以下、殊更90℃達温の加熱処理が、風味、安定性、色等の点から好ましい。
【0055】
加熱処理において使用する装置は、60℃以上の温度が容易に得られる加熱機器であればいずれでもよいが、直火式の地釜、蒸気または湯せん式の二重缶や蛇管、多管式の連続加熱機(パイプヒーター)、プレート式熱交換器(プレートヒーター)が例示される。
【0056】
本発明においては、製造時に充填工程を含むのが好ましい。充填工程とは、加熱処理を施した、又は、後に加熱処理を行う液体調味料を容器に充填する工程をいう。容器に充填して密閉した容器詰め液体調味料とすることは、流通時に風味の変化を抑制することができる点から好ましい。
【0057】
本発明において、液体調味料は、製造時に容器に充填して容器詰め液体調味料とするのが好ましい。本発明において、充填工程で使用される容器の容量は5mL〜20Lであるのが好ましく、次に好ましくは10mL〜5L、より好ましくは50mL〜2L、更に100mL〜1L、特に300mL〜800mL、殊更450〜700mLであるのが、安定性、使い勝手の点で好ましい。本発明に使用される容器は、一般の液体調味料と同様にポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、紙容器、合成樹脂製の袋、ガラス瓶などの通常の形態で提供することができる。紙容器としては、紙基材とバリア性層(アルミニウム等の金属箔、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩化ビニリデン系重合体など)とヒートシール性樹脂層とを含む積層材を製函したものなどが挙げられる。
【0058】
本発明においては、製造時に冷却工程を含むのが、風味、安定性の点で好ましい。冷却工程とは、加熱処理工程を経た液体調味料や、更に充填工程を経た液体調味料を冷却する工程のことである。冷却条件は、加熱温度よりも10℃以上低下させるのが好ましく、より好ましくは20℃以上、更に30℃以上低下させるのが風味バランス、カリウム由来の異味抑制、ペプチド特有の風味抑制の点で好ましい。冷却温度は70℃以下とするのが好ましく、更に5〜65℃、特に10℃〜50℃、殊更15〜30℃とするのが風味の劣化抑制の点で好ましい。冷却工程において使用する装置は、想定する冷却温度が容易に得られる冷却機器であればいずれでもよいが、プレート式加熱冷却装置を用いるのが好ましい。
【0059】
本発明においては、製造時に静置工程を含むのが、風味が落ち着き、風味の一体感が増大するので好ましい。静置工程とは、加熱工程と充填工程を経た容器詰め液体調味料を、振動がなく、直射日光が当たらない場所に静置する工程のことである。静置場所は、倉庫であるのが好ましく、更に冷暗所、特に冷蔵庫であるのが好ましい。静置期間は、1日以上であるのが好ましく、更に3日〜6ヶ月、特に1週間〜3ヶ月、殊更2週間〜1ヶ月であるのが好ましい。
【0060】
また、本発明の液体調味料においては、pHが4.5〜6であるのが好ましく、更に4.6〜5.5、特に4.7〜5.3、殊更4.8〜5であることが、カリウム由来の異味抑制、風味バランス、保存性の点から好ましい。更に、塩素量4〜9%、固形分量20〜45%の特数値を有することが好ましい。
【0061】
本発明の液体調味料を、食品の製造・加工・調理に使用することで、カリウム由来の異味抑制、良好な風味バランスなどの改善効果が得られる。従って、本発明は、風味改善方法、食品の加工・調理方法、食品の製造方法としても有用である。
【0062】
本発明の液体調味料は、各種食品に使用することができる。本発明の液体調味料を使用した食品としては、喫食時に食塩が含まれるものであれば特に制限はないが、例えば、吸い物、味噌汁、コンソメスープ、ポタージュスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ等のスープ類、そば、うどん、ラーメン、パスタ等の麺類のつゆ・スープ・ソース類、おかゆ、雑炊、リゾット、お茶漬け等の米飯調理食品、刺身、お浸し、冷奴、湯豆腐、鍋物、煮物、揚げ物、焼き物、蒸し物等の調理食品等が挙げられる。すなわち、本発明の液体調味料の食品への用途(使用方法)としては、これらの食品に液体調味料をかける用途、これらの食品を液体調味料につける用途、液体調味料と食材を用いて調理する用途、液体調味料を用いて加工食品を製造する用途などが例示される。
【0063】
本発明の液体調味料の、食品中の含有量は0.01〜50%であるのが好ましく、更に0.05〜20%、特に0.1〜10%、殊更0.5〜5%であるのが風味バランス、ナトリウム摂取量、生理機能の点で好ましい。
【実施例】
【0064】
参考例1 親子丼
市販醤油または、市販醤油にクロロゲン酸(和光純薬工業)を0.3%配合したものを使用して、下記調理条件にて、親子丼を作製した。その外観を観察した結果を表1に示す。
【0065】
<材料>
鶏肉(モモ、3cm角) 40g
玉葱(薄切り) 20g
とき卵 1g
だし汁 45g
醤油(またはクロロゲン酸0.3%含有醤油) 18g
みりん 9g
砂糖 3g
【0066】
<調理法>
鉄製フライパン(直径15cm)に、だし汁、醤油、みりん、砂糖を入れ、コンロの火にかけた(都市ガス、流量4.5 l/min)。2分後に、鶏肉と玉葱を加え、鶏肉に火が通ったら、溶いた卵を細く手早く回し入れ、蓋をして、蒸らした。丼にご飯を盛り、具をご飯の上にあけて親子丼を作製した。
【0067】
【表1】

【0068】
市販醤油を用いて得られた親子丼は、卵の黄色が鮮やかで、好ましい外観であった。これに対して、クロロゲン酸を0.3%含む醤油を用いて得られた親子丼は、濃緑色を呈し、外観が極めて損なわれていた。
このように、クロロゲン酸は、有用な生理機能を持つ素材であるが、液体調味料に配合して、親子丼を作製すると、調理品が着色して、外観が損なわれることが明らかとなった。また、同様な傾向が、卵焼き、茶碗蒸し、金平ゴボウといったメニューでも見られた。
【0069】
参考例2 着色の解析
参考例1で発現された着色現象を解析するため、以下の実験を行った。
0.2mM酢酸バッファー(pH8.0)にクロロゲン酸(和光純薬工業)が0.5mM、各種金属イオン(Fe2+ 、Fe3+ 、Co2+ 、Cu2+、Al3+、Ni2+、Sn2+ 、Cu+ 、Sn4+を塩化物塩として添加、全て和光純薬工業)が1.5mMとなるように溶解した。瞬時に溶液が着色したところで、その呈色具合について、下記基準にて目視で官能評価を行った。その結果を表2に示す。
【0070】
<着色の官能評価基準>
5:非常に着色しており、透明性がない。
4:着色しており、透明性がややない。
3:着色しているが、透明性はある。
2:やや着色しているが、透明性はある。
1:着色しておらず、透明である。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示すように、Fe2+ および Fe3+ については、顕著な着色がみられ透明性がなくなった。この着色は、親子丼で見られた濃緑色と非常に類似していた。Co2+ および Cu2+は、着色が見られたが、ある程度透明性は残っていた。Al3+、Ni2+、Sn2+ および Cu+ については、やや着色が見られた程度で、十分は透明性を有していた。一方、Sn4+ については、着色は見られなかった。
このように、クロロゲン酸と各種の金属イオンが共存することにより着色した。金属イオンの種類により、着色の度合いが異なることがわかった。特に、Fe3+ が共存する場合の着色(濃緑色)が最も顕著で、親子丼の着色と類似していた。
【0073】
参考例3
参考例2の結果をもとに、着色抑制物質のスクリーニングを行った。すなわち、0.2mM酢酸バッファー(pH7.2)に、各種ポリフェノール(含量0.2%)及び、 Fe3+ (含量0.005%)を溶解した。そこに、各種リン酸系化合物を0〜3%添加して、分光光度計を用いて500nmにおける吸光度(O.D.500)を測定した。その結果を表3に示す。
ここで、着色抑制率は、式(1)より求めた。この着色抑制率により、着色抑制効果を評価した。
【0074】
着色抑制率={1−(リン酸化合物を加えた場合のO.D.500/リン酸化合物を加えない場合のO.D.500)×100% ・・・式(1)
【0075】
〔着色抑制率の判定基準〕
着色抑制率が50〜100%の場合:着色抑制効果が有り強い(A判定)
着色抑制率が10〜50%の場合:着色抑制効果がやや有る(B判定)
着色抑制率が0〜10%の場合:着色抑制効果なし(C判定)
【0076】
尚、ポリフェノールとして、糖結合ルチン(商品名:αGルチン、東洋精糖)、クロロゲン酸(和光純薬工業)、カテキン(和光純薬工業)、ブドウ種子ポリフェノール(商品名:グラヴィノール、キッコーマン)を用いた。リン酸系化合物として、フィチン酸(オーケーフード)、ピロリン酸(和光純薬工業)、リン酸(シグマアルドリッチジャパン)、ポリリン酸(和光純薬工業)を使用した。Fe3+として、塩化鉄(II)水和物(和光純薬工業)を用いた。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示すように、各種のリン酸系化合物に着色抑制効果のあることが明らかとなった。
フィチン酸の場合、糖結合ルチンに対しては、0.01%で着色抑制効果がやや見られ、0.05%以上では、強い着色抑制効果が発現された。クロロゲン酸に対しては、フィチン酸含量0.005〜0.01%で着色抑制効果がやや見られ、0.05%以上では、強い着色抑制効果が示された。カテキンに対しては、フィチン酸含量0.01〜0.05%で着色抑制効果がやや見られ、0.1%以上で、強い着色抑制効果が示された。
【0079】
ピロリン酸やポリリン酸の場合、各種のポリフェノールに対して同等の効果が得られた。すなわち、ピロリン酸又は、ポリリン酸含量0.005〜0.01%では、着色抑制効果がやや見られ、0.05%以上では、強い着色抑制効果が見られた。
【0080】
リン酸の場合、糖結合ルチンに対しては、0.05〜0.1%で着色抑制効果がやや見られ、0.5%以上では、強い着色抑制効果が示された。クロロゲン酸に対しては、リン酸含量0.01%で着色抑制効果がやや見られ、0.05%以上では、強い着色抑制効果が見られた。カテキンに対しては、リン酸含量0.05〜0.5%で着色抑制効果がやや見られ、1%以上では、有意な着色抑制効果が確認された。ぶどう種子ポリフェノールに対しては、リン酸含量0.1〜0.5%で着色抑制効果がやや見られ、1%以上では、強い着色抑制効果が見られた。
このように、リン酸系化合物が着色抑制作用を有することを見出し、特にフィチン酸に強い作用のあることが判明した。
【0081】
実施例1
市販減塩醤油(ヤマサ醤油)に、クロロゲン酸(和光純薬工業)、塩化カリウム(富田製薬)、参考例3で見出されたフィチン酸を添加し、液体調味料A〜Eを作製した。配合を表4に示す。
これらの液体調味料を用いて、参考例1と同様にして調理を行い、調理品(親子丼)の着色、風味について、下記基準にて官能評価を行った。その結果を表4に示す。
【0082】
【表4】

【0083】
<調理品の着色の評価基準>
5:卵の鮮やかな黄色が保持され、着色が抑制されている。
4:卵の黄色が保持され、着色抑制されているが、わずかに着色している。
3:卵の黄色がくすみ、やや着色抑制されている。
2:卵が緑色となり、あまり着色抑制されていない。
1:卵が黒色となり、着色抑制されていない。
【0084】
<ポリフェノール由来の異味の評価基準>
5:ポリフェノール由来の苦味、渋味が全く感じられない。
4:ポリフェノール由来の苦味、渋味がわずかに感じられるが、不快でない。
3:ポリフェノール由来の苦味、渋味がやや感じられ、やや不快である。
2:ポリフェノール由来の苦味、渋味が感じられ、不快である。
1:ポリフェノール由来の苦味、渋味が強く感じられ、かなり不快である。
【0085】
<リン酸化合物由来の異味の評価基準>
5:リン酸化合物由来の収斂味、酸味が全く感じられない。
4:リン酸化合物由来の収斂味、酸味がわずかに感じられるが、不快でない。
3:リン酸化合物由来の収斂味、酸味がやや感じられ、やや不快である。
2:リン酸化合物由来の収斂味、酸味が感じられ、不快である。
1:リン酸化合物由来の収斂味、酸味が強く感じられ、かなり不快である。
【0086】
<カリウム由来の異味の評価基準>
5:カリウム由来の苦味、エグ味が全く感じられない。
4:カリウム由来の苦味、エグ味がわずかに感じられるが、不快でない。
3:カリウム由来の苦味、エグ味がやや感じられ、やや不快である。
2:カリウム由来の苦味、エグ味が感じられ、不快である。
1:カリウム由来の苦味、エグ味が強く感じられ、かなり不快である。
【0087】
<調理品の総合評価>
5:調理品の風味、外観が良好である。
4:調理品の風味、外観がやや良好である。
3:調理品の風味、外観は、どちらともいえない。
2:調理品の風味、外観がやや不良である。
1:調理品の風味、外観が不良である。
【0088】
表4に示すように、フィチン酸を加えない場合(液体調味料A)は、親子丼は黒く着色してしまい、風味に関してもカリウムのえぐ味が感じられた。フィチン酸0.05%の場合(液体調味料B)は、着色にやや改善が見られ、カリウムのえぐ味が抑制されていた。フィチン酸0.1%(液体調味料C)および0.5%(液体調味料D)の場合は、着色が抑制されて、カリウム由来のえぐ味もなく、良好であった。一方、フィチン酸を1%加えた場合(液体調味料E)は、着色は抑制されたが、フィチン酸由来の酸味がやや感じられた。
このように、ポリフェノールとしてクロロゲン酸を添加した液体調味料にフィチン酸を特定量配合することにより、調理品の着色が抑制されることが示された。また、カリウム由来の異味が抑制されることが示された。
【0089】
実施例2
市販減塩醤油(ヤマサ醤油)に、糖結合ルチン(東洋精糖)、塩化カリウム(富田製薬)、参考例3で見出されたフィチン酸を添加し、液体調味料F〜Yを作製した。配合を表5−1及び表5−2に示す。
これらの液体調味料を用いて、参考例1と同様にして調理を行い、調理品(親子丼)の着色、風味について、実施例1と同じ基準で官能評価を行った。その結果を表5−1及び表5−2に示す。
【0090】
【表5−1】

【0091】
【表5−2】

【0092】
表5−1に示すように、ルチンが0.3%の時は、フィチン酸を加えない場合(液体調味料F)、親子丼は、濃緑色に着色し、ルチン由来の異味が感じられた。フィチン酸0.05%を加えると(液体調味料G)、着色にやや改善が見られたが、ルチンおよびカリウム由来の異味がやや感じられた。フィチン酸0.1%(液体調味料H)および0.5%(液体調味料I)の場合は、着色が抑制されただけでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味が抑制され、色および風味の両点で良好であった。一方、フィチン酸が1%の場合(液体調味料J)は、着色が顕著に抑制され、ルチン由来の異味も抑制されたが、フィチン酸由来の異味が生じた。
ルチンが0.5%の場合、フィチン酸を加えないと(液体調味料K)、着色が生じ、ルチンおよびカリム由来の異味が感じられた。フィチン酸0.05%を加えた場合(液体調味料L)、若干の着色改善が見られたばかりでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味の改善が若干見られた。フィチン酸0.1%の場合は(液体調味料M)、若干の着色抑制効果が見られただけでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味の抑制が確認され、良好であった。フィチン酸0.5%の場合は(液体調味料N)、十分な着色抑制効果とともに、ルチンおよびカリウムの異味抑制効果が見られ、良好であった。フィチン酸1%の場合(液体調味料O)は、十分な着色抑制効果、および、ルチンおよびカリウムの異味抑制効果が見られたが、フィチン酸由来の異味が生じた。
【0093】
表5−2に示すように、ルチンが0.75%の場合、フィチン酸を加えないと(液体調味料P)、着色が生じ、ルチンおよびカリム由来の異味が感じられた。フィチン酸を0.05%加えた場合(液体調味料Q)、及び0.1%加えた場合(液体調味料R)は、若干の着色改善が見られたばかりでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味の改善が若干見られた。フィチン酸を0.5%加えた場合(液体調味料S)、及び1.0%加えた場合(液体調味料T)は、着色が抑制されただけでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味が抑制され、色および風味の両点で良好であった。
ルチンが1.0%の場合、フィチン酸を加えないと(液体調味料U)、着色が生じ、ルチンおよびカリム由来の異味が感じられた。フィチン酸を0.05%加えた場合(液体調味料V)、及び0.1%加えた場合(液体調味料W)は、若干の着色改善が見られたばかりでなく、ルチンおよびカリウム由来の異味の改善が若干見られた。フィチン酸を0.5%加えた場合(液体調味料X)、および1.0%加えた場合(液体調味料Y)は、十分な着色抑制効果とともに、ルチンおよびカリウムの異味抑制効果が見られ、良好であった。また、フィチン酸の異味の抑制効果も確認された。
このように、カテコール骨格を有するポリフェノールとフィチン酸を特定量含有することにより、卵料理を作った場合の液体調味料の着色が改善することが示された。また、風味に関しても、互いの異味を抑制し合うばかりではなく、カリウム由来の異味も抑制することが示された。
【0094】
実施例3
市販減塩醤油(ヤマサ醤油)に、クロロゲン酸0.3%、フィチン酸0.1%を配合した。一部を金属缶(9L容)に充填し、容器詰め液体調味料αとした。残りを、プレート式熱交換器を用いて、加熱処理(70℃達温時から30秒間)を行った。次いで、プレート式熱交換器を用いて40℃に冷却し、金属缶(9L容)に充填して、容器詰め液体調味料βを製造した。これらの液体調味料α、βについて、官能評価を行った。その結果を表6に示す。
【0095】
【表6】

【0096】
表6に示すように、加熱処理を施さない場合(液体調味料α)は、調味料の香りが弱く、味は、とげとげした感じでまとまりのない風味であった。一方、加熱処理を施した場合(液体調味料β)は、香ばしい香りがあり、味に深みとこくが感じられて、全体としてまとまりのある良好な風味であった。
このように、カテコール骨格を有するポリフェノールとリン酸系化合物を特定量含有する液体調味料を加熱処理することで、液体調味料の風味が改善されることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)および(B)、
(A)カテコール骨格を有するポリフェノール類 0.05〜10質量%
(B)リン酸系化合物 0.005〜5質量%
を含有する液体調味料。
【請求項2】
更に(C)ナトリウムを0.4〜8質量%含有する請求項1記載の液体調味料。
【請求項3】
更に(D)カリウムを0.02〜10質量%含有する請求項1又は2に記載の液体調味料。
【請求項4】
液体調味料が、減塩醤油又は低塩醤油である請求項1〜3のいずれか1項に記載の液体調味料。
【請求項5】
液体調味料が、容器詰め液体調味料である請求項1〜4のいずれか1項に記載の液体調味料。
【請求項6】
加熱処理工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の液体調味料を製造する方法。

【公開番号】特開2008−289438(P2008−289438A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−139896(P2007−139896)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】