説明

液体連続塔蒸留

ジェットフラッドの50%を超える蒸気速度を使用した場合、蒸留塔のものに近い蒸気−液体物質移動効率で気泡塔が精留する。蒸気速度をジェットフラッドの約70%よりも上に押し上げた場合、与えられた塔充填材の蒸留性能は、液体連続稼働(気泡塔態様)及び蒸気連続稼働(通常の蒸留塔態様)の両方に関して同様になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体連続蒸留塔、特に気泡塔の稼働に関する。
【背景技術】
【0002】
その最も広い意味で、気泡塔は、液体を通って上方へ向かって通過する気泡の流れを有する液体の塔としてよい。従って、こうした系(塔を除外する)は、少なくとも2種の成分、すなわち、液体及びガスで構成される。こうした系においては、これがラバ・ランプ(lava lamp)のような審美的表示品目でない限り、液体とガスとの間に相互作用が存在する。例えば、水槽(fish tank)において、水の塔を通って泡になって上昇する空気は部分的に水中に吸収される。他の系においては、例えば、不純なガス状混合物は液体洗浄液を通過して不純物が除去されるかまたは望ましい成分が液体中に除去されてよく、これは例えば、揮発性有機化合物(VOC)を空気(向流で適切なVOC溶媒を用いて洗浄される)から捕捉する。
【0003】
本発明は、液体、ガス及び固体の3つの相が存在するより特殊な形態の気泡塔にとって特に有用である。非常にしばしば、固体成分は、不活性または触媒的としてよい粒子で構成される。固体成分は、塔中の内部構造の例えば伝熱管、バッフル、トレイまたは板としてよい。塔は比較的に開口されてよく、または充填塔としてよい。充填材は不活性または触媒的としてよい。充填材は、流動化、スラリー化固形物としよく、またはスラリー及び充填材構造の両方を含んでよい。従って、抽出及び/または反応及び抽出のために気泡系を使用してよい。
【0004】
材料または不純物のための高沸点溶媒を塔の頂部近くで導入して、蒸留の最中に材料または不純物を選択的に抽出しながら、抽出蒸留を実行して混合物を精留してよい。しかしながら、塔中ではかまよりも上には液体レベルが存在せず、従って蒸気連続であるが気泡塔ではない。
【0005】
歴史的に、気泡塔は、液体を充填し、総逆混合(gross back mixing)を促進する蒸気流量で稼働する。内容物を時々用いて、蒸気相の栓流を促進するのを助けるが、液相の逆混合は、精留がほとんどまたは全く起きない状態を引き起こす。通常推薦される蒸気速度は、ジェットフラッドポイント(jet flood point)の50%よりもかなり低い。実際に、“フラッドポイント”という用語は、気泡塔稼働においては通常使用されず、通常の蒸留塔稼働によって定義されなければならない。気泡塔の主な工業用途は、フィッシャー−トロプシュ合成にある。
【発明の開示】
【0006】
蒸留塔のものに近い蒸気−液体物質移動効率で気泡塔が精留することを可能にするであろう稼働条件が発見された。ジェットフラッドの50%を超え、かつ、ジェットフラッドの100%未満の蒸気速度は、気泡塔中の精留を促進するであろうということが見い出された。好ましくは、蒸気速度をジェットフラッドの約70%よりも上に押し上げた場合、与えられた塔充填材(column packing)の蒸留性能は、液体連続稼働(気泡塔態様)及び蒸気連続稼働(通常の蒸留塔態様)の両方に関して同様になる。
【0007】
充填材が液体連続態様または蒸気連続態様にあるように単に液体レベルを充填材よりも上にまたはこれよりも下に(通常、蒸留塔の場合にはリボイラー中)制御することによって、同じ塔を、気泡塔としてまたは蒸留塔として稼働できる。“フラッドポイント”(ジェットフラッドの100%)を、蒸気速度が非常に大きいので、還流はリボイラーレベルを維持するのに十分に速くリボイラーに戻ることができないポイントと定義する。このポイントよりも上で、リボイラーは乾燥しようし、定常状態稼働を維持できない。流れ地図(flow map)を使用して、ジェットフラッドポイントを還流比の範囲にわたって定義してよい。塔充填材または他の内容物(トレイまたは熱交換器束を含む)は、ジェットフラッドの%として表される高い蒸気速度で稼働することから生じる本明細書において開示する性能の改良を大幅に変更しないだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明を進める際には3つの相が存在し、ジェットフラッドの50%を超えて液体充填塔蒸留を実行するためには固相は必要無いが、大部分の用途において固相が存在しよう。単純な蒸留構造体の例えばリング、球、多葉状物(polylobs)、鞍状物または繊維質タイプ構造、トレイバブル、シーブ等、または従来技術において周知の他の蒸留構造体があり、これには、参考のために引用する米国特許第5,266,546号、同第5,431,890号、同第5,073,236号、同第5,431,890号及び同第5,730,843号において説明されているタイプの接触蒸留構造体が含まれる。固相は粒子状材料としてよく、不活性または触媒的とすることができ、(例えばフィッシャー−トロプシュ合成におけるように)、流動化するかまたはスラリーでよい(しばしば系中に再循環される)。
【0009】
本液体連続蒸留を行う際に、液体は、単に分別蒸留によって分離されるべき材料としてよく、または、より高沸点で塔中で蒸気から1種以上の成分を抽出することを意図されておりかつボトムスから出る液体を、塔の上端で加えてよい。塔中の液体及び蒸気は反応性としてよく、ジェットフラッドの50%未満でのガスの単なるストリッピング作用によるよりも、本蒸留によって、反応生成物及び供給物をより効果的に分離できる。
【0010】
本蒸留は、炭化水素のような有機化合物の混合物を分離するために特に有用である。
1具体例においては、本改良は、合成ガス(一酸化炭素、二酸化炭素及び水素)からのメタノールの製造において使用される。反応の副産物はジメチルエーテル(DME)である。CO、CO及びHの反応のために有用な触媒は、銅及び酸化亜鉛を含み、他の調整剤の例えば米国特許第4,766,155号及び同第4,780,481号において示すものを含んでよい。1つの適切な触媒は、ズュード−ケミー(Sud-Chemie)(以前はユナイテッド・カタリストInc.(United Catalyst Inc.))のC−79であり、これは、1/4インチ押出物表面の銅及び亜鉛を含むとして説明されることがある。金属銅が活性な触媒であるようなので、触媒を使用する前に還元するのが望ましい。好ましくはCu/Znのモル比は1または1を超え、例えば、10までであり、Al含量は10モル%以下である。酸化亜鉛は、高銅金属表面積の形成を助け、銅粒子のアグロメライゼーションを遅らせ、Cu毒をトラップし、アルミナと反応してDME形成を阻害する。
【0011】
図7を参照すると、メタノールの製造方法は、溶媒中でスラリーにし、接触構造の例えば充填材または蒸留トレイまたは熱交換束を収容する帯域14よりも上で、フローライン105を経て塔10中に供給される触媒を使用する。合成ガスは、フローライン101を経て接触構造よりも下に供給され、触媒スラリーを通って泡になって上昇し、触媒スラリー中でメタノール及びDMEがガス状生成物として製造される。ガス状生成物は、切り離し帯域12において触媒スラリーから分離され、フローライン102を経てオーバーヘッドとして除去される。溶媒は分縮器20中で凝縮し、受け器/分離器30中で集められ、ここで、メタノール及びDME生成物はフローライン103を経て蒸気として除去される。溶媒を還流として、フローライン104を経て塔10に再循環する。溶媒及び触媒は、フローライン107を経てボトムスとして塔10から除去される。使用済みの溶媒及び触媒はフローライン108を経て除去される。触媒及び溶媒の残りをフローライン105を経て塔に再循環し、補給溶媒及び触媒をフローライン106を経て加える。栓流反応の結果が混合よりも良好である場合、利益が生じる。栓流が生じるような稼働もまた、反応の化学を促進する。
【0012】
350〜650°Fの範囲内の温度が好ましい。所望の圧力で反応器中の温度未満で沸騰するように、溶媒を選択する。溶媒がより高沸点である程、与えられた温度のために必要な圧力は低い。
【実施例】
【0013】
直径16.8インチの塔中、24PSIAで、n−ヘプタン及びシクロヘキサンの系を使用して試験を行った。図は、様々な充填材から得たデータのグラフである。充填材は米国特許第5,730,840号において説明されているものであり、様々な微粒子充填をしたものである。塔充填材または他の内容物(トレイまたは熱交換器束を含む)は、ジェットフラッドポイントに影響しようが、ジェットフラッドの%として表される高い蒸気速度で稼働することから生じる本明細書において開示する性能の改良を大幅に変更しないだろう。
【0014】
各場合に図1、3及び5で分かるように、蒸気−液体物質移動効率は、HETPによって示されるように、蒸気速度がジェットフラッドの約50%よりも上に増大するにつれて改良された。ジェットフラッドの約70%よりも上で、気泡塔態様(液体連続)であろうと蒸留塔態様(蒸気連続)であろうと性能は事実上同じだった。
【0015】
液体レベルがリボイラーから充填材の頂部まで上昇するにつれて、均一で順調な遷移が存在した。系は液体で満たされていないが、実際に泡(froth)(蒸気と液体との混合物)で満たされている。蒸気の存在は大きな圧縮性を提供して、いかなる突然の移動も減衰させる。泡密度(froth density)は、DPを示す上記の図2、4及び6から分かる。
【0016】
通常の気泡塔稼働は一般に、ジェットフラッドの30%未満であると思われる。上記のHETP性能から、蒸気速度が増大するがなお50%未満である時の最初の観察は、HETP性能は悪化していくというものだった。驚くべきことに、ジェットフラッドの50%よりも上では、HETP性能は方向を逆にし、大きく改良された。さらに驚くべきことに、液体及び蒸気連続稼働の両方において、HETP性能がぴったり重なり合う稼働領域(ジェットフラッドの約70%よりも上)が存在した。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】充填材Aの場合のHETP対%ジェットフラッドを示すグラフである。
【図2】充填材Aの場合の%ジェットフラッドでの泡密度を示すグラフである。
【図3】充填材Bの場合のHETP対%ジェットフラッドを示すグラフである。
【図4】充填材Bの場合の%ジェットフラッドでの泡密度を示すグラフである。
【図5】充填材Cの場合のHETP対%ジェットフラッドを示すグラフである。
【図6】充填材Cの場合の%ジェットフラッドでの泡密度を示すグラフである。
【図7】本発明を利用するメタノールプロセスの流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸留帯域中の精留可能な液体混合物を、混合物蒸気を精留する温度及び圧力の条件下で接触させることを含む混合物の蒸留の改良において、前記蒸留帯域を液体連続として維持し、前記蒸気をジェットフラッドの50%を超え、かつ、ジェットフラッドの100%未満の速度で維持することを含む改良。
【請求項2】
蒸気速度はジェットフラッドの少なくとも70%である、請求項1に記載の蒸留。
【請求項3】
前記混合物は有機化合物を含む、請求項1に記載の蒸留。
【請求項4】
前記混合物は炭化水素を含む、請求項3に記載の蒸留。
【請求項5】
液体混合物を、前記混合物を精留する温度及び圧力の条件下で精留帯域中に置くことと、連続液相を前記精留帯域において維持することと、を含み、蒸気は、ジェットフラッドの50%を超え、かつ、ジェットフラッドの100%未満の前記精留帯域を通る速度を有する、液体混合物を精留する方法。
【請求項6】
固体成分は前記精留帯域中に存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記固体成分は粒子状材料を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子状材料は不活性材料を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子状材料は触媒を含み、前記混合物の成分は、単独でまたは前記蒸気と一緒で反応性がある、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記触媒はスラリーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記触媒は流動床を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記触媒は蒸留構造を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記固体成分は複数の蒸留構造を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項14】
前記固体成分は複数のトレイを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記触媒は充填材と組み合わせたスラリーを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項16】
前記固体成分は充填材構造を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項17】
前記充填材構造は熱交換器束を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項18】
スラリーが存在する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記蒸気速度はジェットフラッドの70%を超える、請求項5に記載の方法。
【請求項20】
前記混合物は有機化合物を含む、請求項9に記載の蒸留。
【請求項21】
前記混合物は炭化水素を含む、請求項20に記載の蒸留。
【請求項22】
メタノールの製造方法であって:
(a)メタノール触媒を含む溶媒を、液体連続相を含む塔に供給する工程と;
(b)一酸化炭素、二酸化炭素及び水素を含むガスを、該ガスがジェットフラッドの50%を超え、かつ、ジェットフラッドの100%未満の速度で前記塔中を上方へ向かって流れる速度で、溶媒供給物を含む前記触媒よりも下で前記塔に供給する工程と;
(c)メタノールを前記塔からオーバーヘッドとして抜き出す工程と;
(d)溶媒を含む触媒を前記塔からボトムスとして抜き出す工程と;
を含む方法。
【請求項23】
前記触媒はアルミナ表面に担持された銅及び亜鉛を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記溶媒の一部分は蒸発し、オーバーヘッドとして除去される、請求項18に記載の方法。
【請求項25】
前記オーバーヘッド中の蒸発した溶媒の全ては凝縮され、還流として前記塔に戻る、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
使用済みの触媒はスリップ流れ中に除去され、補給触媒は必要に応じて加えられる、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−501125(P2007−501125A)
【公表日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536526(P2006−536526)
【出願日】平成16年1月8日(2004.1.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/000609
【国際公開番号】WO2004/069410
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(599003073)キャタリティック・ディスティレイション・テクノロジーズ (28)
【Fターム(参考)】