説明

液化ガス噴射装置

【課題】低温液化ガスを液体の状態で被冷却物に効率よく噴射することができる液化ガス噴射装置を提供する。
【解決手段】円筒形の断熱貯槽11と、断熱貯槽11内に設けられた冷却槽12と、断熱貯槽底部に設けられた噴射ノズル13及び該噴射ノズルを開閉するニードル14と、噴射ノズルを囲むように設けられたシールガス噴射部15と、断熱貯槽内に大気圧を超える圧力の噴射用液体窒素を供給する噴射用液体窒素供給管16と、冷却槽内に大気圧以下で飽和状態となっている冷却用液体窒素を供給する冷却用液体窒素供給管17と、冷却槽内で気化した窒素ガスを外部に放出する窒素ガス放出管18と、シールガス噴射部にシールガスを供給するシールガス供給管19と、ニードル14を開閉作動させるニードル駆動装置20とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化ガス噴射装置に関し、詳しくは、液体窒素等の低温液化ガスを噴射する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
低温の液化ガス、例えば液体窒素を所定の面積の範囲に噴射するためには、所定の圧力を必要とするが、低温液化ガスは、高圧状態から大気中に噴射されるときにフラッシュ蒸発を伴い、その一部がガス化する。また、ノズル直前でのガス化による脈動のために安定した制御が困難である。この対策として、過冷却状態の液化ガスを供給することが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
一方、開閉弁が液化ガスの外にある場合には、過冷却後の液化ガスが熱侵入のために温度上昇あるいはガス化するという問題があることから、開閉弁からの熱侵入による液化ガスの温度上昇あるいはガス化を抑えるためのバルブ構造が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−88574号公報
【特許文献2】特開平11−294696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載されたものでは、構造が複雑で大量の低温液化ガスを必要とする問題があり、液化ガスの噴射には用いることができなかった。また、特許文献2に記載されたものでは、低温液化ガスを気液混合状態のミスト状に噴射することを主目的としているため、ノズルを出た低温液化ガスの一部が気化しても問題にしておらず、低温液化ガスを液体のまま被冷却物に噴射する用途には適用が困難であった。
【0006】
そこで本発明は、低温液化ガスを液体の状態で被冷却物に効率よく噴射することができる液化ガス噴射装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の液化ガス噴射装置は、噴射圧力の液化ガスを貯留する断熱貯槽と、該断熱貯槽内に設けられて前記噴射圧力の液化ガスを過冷却状態に冷却する冷却流体を貯留する冷却槽と、前記断熱貯槽の底部に設けられて過冷却状態に冷却された前記液化ガスを噴射する噴射ノズルと、該噴射ノズルを開閉する開閉手段と、前記断熱貯槽内に前記液化ガスを供給する液化ガス供給管と、前記冷却槽内に前記冷却流体を供給する冷却流体供給管と、前記冷却槽内で気化した冷却流体ガスを放出する気化ガス放出管とを備え、前記冷却槽は、該冷却槽内の冷却流体と前記断熱槽内の液化ガスとを熱交換可能に形成され、前記開閉手段は前記液化ガス中に配置されていることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明の液化ガス噴射装置は、前記噴射圧力の液化ガスが大気圧を超える圧力を有する液体窒素であり、前記冷却流体が大気圧以下で飽和状態の液体窒素であり、前記シールガスが窒素ガスであることを特徴としている。また、前記噴射ノズルの周囲からシールガスを噴射するシールガス噴射部を備えていること、前記冷却槽が前記液化ガスと接触する伝熱フィンを備えていること、前記開閉手段がニードルからなり、該ニードルは冷却槽内の前記液化ガスの流れに乱流を発生させる撹拌子を備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の液化ガス噴射装置によれば、噴射する液化ガスを過冷却状態にしておくことができるので、噴射した際のフラッシュ気化を抑えることができ、液化ガスを液体のまま被冷却物に噴射することができる。また、ノズル周囲を囲むようにシールガスを噴射することにより、ノズル部分への大気の巻き込みを防止することができ、大気中の水分がノズル部分に凝縮、凝結することを防止できる。さらに、伝熱フィンを設けたり、撹拌子を設けたりすることにより、伝熱効率を向上させることができ、噴射する液化ガスを効果的に過冷却状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の液化ガス噴射装置の一形態例を示す断面正面図である。
【図2】シールガス噴射部の一例を示す要部の断面正面図である。
【図3】図2のIII−III断面図である。
【図4】伝熱フィンの一例を示す断面平面図である。
【図5】撹拌子を設けたニードルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の液化ガス噴射装置を、噴射する液化ガスを圧力が0.5MPaの液体窒素、噴射する液化ガスを冷却する冷却流体を大気圧以下で飽和状態となっている液体窒素、シールガスを窒素ガスとした形態例について説明する。
【0012】
本形態例に示す液化ガス噴射装置は、円筒形の断熱貯槽11と、該断熱貯槽11内に設けられたリング状の冷却槽12と、前記断熱貯槽11の底部である底板11aに設けられた噴射ノズル13と、該噴射ノズル13を開閉する開閉手段であるニードル14と、前記噴射ノズル13を囲むように断熱貯槽11の底板11aの下面に設けられたシールガス噴射部15と、前記断熱貯槽11内に圧力が0.5MPaの液体窒素(以下、噴射用液体窒素という)を供給する噴射用液体窒素供給管16と、前記冷却槽12内に大気圧以下で飽和状態となっている液体窒素(以下、冷却用液体窒素という)を供給する冷却用液体窒素供給管17と、冷却槽12内で冷却用液体窒素から気化した窒素ガスを外部に放出する窒素ガス放出管18と、前記シールガス噴射部15にシールガス(窒素ガス)を供給するシールガス供給管19と、前記ニードル14を開閉作動させるニードル駆動装置20とを備えている。
【0013】
断熱貯槽11は、周囲に断熱層を設けた密閉容器であって、天板11bの中央には、前記ニードル14が上下方向に移動可能な状態で気密に貫通している。この断熱貯槽11内は、前記噴射用液体窒素供給管16から所定の噴射圧力(本形態例では0.5MPa)を有する噴射用液体窒素が供給される。
【0014】
冷却槽12は、断熱貯槽11内の噴射用液体窒素を過冷却状態に冷却可能な温度を有する前記冷却用液体窒素を貯留するとともに、該冷却槽12の槽壁を介して冷却用液体窒素と噴射用液体窒素とが熱交換可能に形成されており、両液体窒素を間接熱交換させることにより、噴射用液体窒素を過冷却状態に冷却する。冷却槽12の中心部には、シールガス噴射部15に向けて噴射用液体窒素が流下する噴射流路となる上下方向の貫通孔12aが設けられている。また、貫通孔12aの中央には、噴射用液体窒素中を貫通した状態で前記ニードル14が配置されている。この冷却槽12内には、前記冷却用液体窒素供給管17から大気圧以下で飽和状態となっている前記冷却用液体窒素が供給される。断熱貯槽11内における冷却槽12の位置は、冷却槽12の下端部が噴射ノズル13の周囲に位置するように設定されている。
【0015】
冷却槽12内で冷却用液体窒素が蒸発した低温の窒素ガスは、前記窒素ガス放出管18を通って外部に放出される。このとき、窒素ガス放出管18が大気に開放された状態になっていれば、冷却槽12内は略大気圧になり、窒素ガス放出管18内の窒素ガスがファンなどによって強制排気される場合は、冷却槽12内は大気圧以下になる。さらに、冷却槽12には、該冷却槽12内の液量(液面)を検出する液面センサー12Sが設けられており、この液面センサー12Sの検出結果に基づいて冷却用液体窒素供給管17に設けられた冷却用液化ガス供給弁17Vが開閉し、冷却槽12内の冷却用液体窒素の液量を一定に保つようにしている。なお、冷却用液体窒素の消費量が一定の場合は、冷却用液化ガス供給弁17Vを手動弁とすることもできる。
【0016】
噴射ノズル13は、図2に示すように、前記ニードル14の先端に設けられた円錐弁部14aに対応した環状弁座13aを有するもので、ニードル14が上昇して円錐弁部14aが環状弁座13aから離れることにより、噴射ノズル13がリング状に開口した状態となる。ニードル14による噴射ノズル13の開閉は、ニードル駆動装置20によって行われ、間欠的に開閉させたりすることもでき、所定の開度を保持したりすることが可能である。
【0017】
シールガス噴射部15は、噴射ノズル13の周囲に環状に設けられた凹溝15aからなるもので、シールガス供給管19から供給されたシールガス(窒素ガス)は、前記噴射ノズル13から噴射される噴射用液体窒素の周囲を包むようにして凹溝15aから噴射する。
【0018】
噴射用液体窒素供給管16には、噴射用液体窒素供給弁16Vが設けられており、噴射ノズル13から噴射用液体窒素を噴射させるときには、噴射用液体窒素供給弁16Vは開状態に保持される。噴射用液体窒素供給弁16Vの下流側からは、噴射用液体窒素の一部をシールガスとして供給するための前記シールガス供給管19が分岐している。シールガス供給管19には、流量調整弁19Vと気化器19Hとが設けられており、シールガス供給管19に流入した噴射用液体窒素の一部は、流量調整弁19Vにて流量調整された後、気化器19Hで気化してからシールガス噴射部15に供給され、中空円筒状の状態に下方に向けて噴射する。
【0019】
このように形成した液化ガス噴射装置において、噴射ノズル13から噴射する噴射用液体窒素は、大気圧より高い0.5MPaで噴射用液体窒素供給管16から断熱貯槽11内に供給される。また、冷却槽12内には、大気圧以下で飽和状態の冷却用液体窒素が冷却用液体窒素供給管17から供給される。このとき、冷却槽12内が大気圧であれば、冷却槽12内の冷却用液体窒素の飽和温度は77Kであるから、断熱貯槽11内の0.5MPaの噴射用液体窒素(飽和温度97K)は、貫通孔12aを通って噴射ノズル13に至る間に、冷却槽12の内周壁(貫通孔12aの周壁)を介して冷却用液体窒素と間接熱交換することによって過冷却された後、噴射ノズル13から被冷却物に向かって噴射する。
【0020】
このようにして過冷却した噴射用液体窒素を、冷却用液体窒素で冷却された過冷却状態を維持したまま噴射ノズル13から噴射することにより、同じ圧力で飽和状態の液体窒素を噴射する場合に比べて、噴射ノズル13から噴射した噴射用液体窒素のフラッシュ気化量を大幅に少なくすることができる。これにより、冷却用に使用する液体窒素の使用量を低減することができ、また、同じ噴射ノズルから噴射させたときの噴射範囲が従来より拡がるので、液体窒素による被冷却物の冷却を効率よく行うことができる。さらに、ニードル14も噴射用液体窒素によって十分に冷却されているため、噴射ノズル13から噴射する噴射用液体窒素を加温することがない。
【0021】
さらに、噴射ノズル13の周囲に設けたシールガス噴射部15からシールガスを筒状に噴射することにより、噴射ノズル13の部分に大気が侵入して大気中の水分などが凝縮、凝結し、噴射ノズル13を閉塞するようなことを防止できるので、噴射ノズル13からの液体窒素の噴射を長時間にわたって安定して行うことができる。
【0022】
また、窒素ガス放出管18を通って外部に放出される蒸発ガス(窒素ガス)は、大気圧以下の飽和温度であるから、窒素ガス放出管18の断熱貯槽11内の部分で噴射用液体窒素を冷却することができる。この場合、窒素ガス放出管18の断熱貯槽11内の部分をコイル状に形成したり、フィンを設けたりすることにより、噴射用液体窒素をより効果的に冷却することができる。
【0023】
なお、本形態例では、噴射用の液化ガス、冷却流体及びシールガスとして全て窒素を使用しているので、一つの液体窒素供給源からの液体窒素を適宜分配して使用することができ、装置構成の単純化やガスコストの低減を図ることができるが、噴射用の液化ガス、冷却流体及びシールガスを異なるものとすることも可能である。また、断熱貯槽11及び冷却槽12の構造は、液化ガス噴射装置の使用目的に応じて任意の構造を採用することができ、例えば、一つの断熱貯槽11に複数の冷却槽12や複数の噴射ノズル13を設けることも可能である。
【0024】
さらに、図4に示すように、貫通孔12aの周壁に伝熱フィン21を設けることにより、噴射用液体窒素と冷却用液体窒素とが熱交換する伝熱面積を拡大して熱交換効率を向上させることができ、噴射用液体窒素をより効果的に冷却することができる。なお、伝熱フィン21の形状や設置数は任意であり、平板の他、波板や凹凸構造も採用することができる。
【0025】
また、図5に示すように、ニードル14の周囲に撹拌子22を設けることにより、貫通孔12a内を流下する噴射用液体窒素に乱流を発生させることができ、貫通孔12aの周壁や伝熱フィン21と噴射用液体窒素とを効果的に接触させることができるので、両液体窒素の熱交換効率を更に向上させることができる。特に、液体窒素の噴射を間欠的に行うものでは、噴射ノズル13を開閉するニードル14の上下動によって噴射用液体窒素を撹拌することができるので、噴射用液体窒素の全体をより確実に過冷却状態とすることができる。なお、撹拌子22の形状や設置数は任意であり、螺旋状や羽根状にすることができる。
【符号の説明】
【0026】
11…断熱貯槽、11a…底板、11b…天板、12…冷却槽、12a…貫通孔、12S…液面センサー、13…噴射ノズル、13a…環状弁座、14…ニードル、14a…円錐弁部、15…シールガス噴射部、15a…凹溝、16…噴射用液体窒素供給管、16V…噴射用液体窒素供給弁、17…冷却用液体窒素供給管、17V…冷却用液化ガス供給弁、18…窒素ガス放出管、19…シールガス供給管、19H…気化器、19V…流量調整弁、20…ニードル駆動装置、21…伝熱フィン、22…撹拌子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴射圧力の液化ガスを貯留する断熱貯槽と、該断熱貯槽内に設けられて前記噴射圧力の液化ガスを過冷却状態に冷却する冷却流体を貯留する冷却槽と、前記断熱貯槽の底部に設けられて過冷却状態に冷却された前記液化ガスを噴射する噴射ノズルと、該噴射ノズルを開閉する開閉手段と、前記断熱貯槽内に前記液化ガスを供給する液化ガス供給管と、前記冷却槽内に前記冷却流体を供給する冷却流体供給管と、前記冷却槽内で気化した冷却流体ガスを放出する気化ガス放出管とを備え、前記冷却槽は、該冷却槽内の冷却流体と前記断熱槽内の液化ガスとを熱交換可能に形成され、前記開閉手段は前記液化ガス中に配置されていることを特徴とする液化ガス噴射装置。
【請求項2】
前記噴射圧力の液化ガスが大気圧を超える圧力を有する液体窒素であり、前記冷却流体が大気圧以下で飽和状態の液体窒素であり、前記シールガスが窒素ガスであることを特徴とする請求項1記載の液化ガス噴射装置。
【請求項3】
前記噴射ノズルの周囲からシールガスを噴射するシールガス噴射部を備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の液化ガス噴射装置。
【請求項4】
前記冷却槽は、前記液化ガスと接触する伝熱フィンを備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の液化ガス噴射装置。
【請求項5】
前記開閉手段は、ニードルからなり、該ニードルは冷却槽内の前記液化ガスの流れに乱流を発生させる撹拌子を備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の液化ガス噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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