説明

液化天然ガスの熱量計測方法及び装置

【課題】 設備が大掛かりとならず、環境面に悪影響をあたえず、さらにはサンプル遅れがなく熱量制御を応答性よくできる液化天然ガスの熱量測定方法及び装置を得る。
【解決手段】 液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度、温度、圧力を計測し、該計測した液密度を該計測した温度、圧力に基づいて前記基準温度、基準圧力状態における液密度に変換し、該変換した液密度に基づいて前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液化天然ガスの熱量計測方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
都市ガスは、液化天然ガス(以下、液化天然ガスを「LNG」と称する場合あり)を原料として、例えば液化石油ガス(LPG)などを熱量調整ガスとして混合して、一定の熱量に調整して製造出荷される。このため、熱量調整の前提として液化天然ガスのガス発熱量を測定する必要があり、種々の方法が提案されている。
従来の天然ガスのガス発熱量を計測する方法としては、(1)ガスを燃焼させたときに得られる熱量を測定する方法、(2)ガス成分分析を行うことによりガス発熱量を算出する方法、(3)ガス密度を計測しガス密度と熱量の相関からガス発熱量を算出する方法、(4)ガスの熱伝導度を計測し熱伝導度と熱量の相関からガス発熱量を算出する方法などがある。
【0003】
ガスを燃焼させたときに得られる熱量を測定する方法としては、流水形熱量計等があり、その中でもユンカース式熱量計についてはJISにも規定されている。これは、ガスをバーナーによって連続して燃焼させ、燃焼排ガスを最初のガス温度まで冷却して生成水蒸気を凝縮させ、発生した熱を、熱量計内を連続して流れる水に完全に吸収させて、その水温の上昇幅と水量および燃焼ガス量を測定して、計算によってガスの発熱量を求めるものである。ユンカース式熱量計による熱量測定のためには室温調節のされた室内に設置し、使用する水についても水温調節装置により調節する必要があり、大掛かりな装置が必要となる。
【0004】
ガス成分分析を行う方法の場合は一般的にガスクロマトグラフが使用されており、測定対象ガスの各成分の分析値(モル分率)にその純粋ガスの理想状態における発熱量を乗じて積算し、混合ガスの圧縮係数によって補正することで、実在状態における混合ガスの発熱量を計算することができる。ガスの成分分析(各成分のモル分率の計測)における検出器としては、熱伝導度検出器(TCD)および水素炎イオン化検出器(FID)があり、いずれの場合も測定対象ガスの全成分を数種のカラムによって分離し各成分の分析値を求めるため、1回の計測に数分〜数十分の時間を要する。また、標準ガスおよびキャリアーガスを必要とするため、常時残ガス量の監視、補給が必要となる。
【0005】
ガス密度を計測しガス密度と熱量の相関からガス発熱量を算出する方法としては、被計測ガスの密度を一定の温度及び一定の圧力状態で計測し、この温度及び圧力に対する被測定ガスの分子量と圧縮係数との関係を求めておき、計測したガス密度から圧縮係数により較正された真の分子量からガスの発熱量を演算するようにしたものがある(特許文献1参照)。
【0006】
ガスの熱伝導度を計測し熱伝導度と熱量の相関からガス発熱量を算出する方法としては、ガスの所定温度における熱伝導率を測定し、熱伝導率に対する出力信号から、熱伝導率と発熱量との対応関係により発熱量を測定して算出する熱伝導率式熱量計を都市ガスの混合設備に至る原料ガスラインに設置し、発熱量の変化により原料ガスへの雑ガス混入を監視するものがある(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平2-257046号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平10-38827号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の熱量計測は、いずれも気化ガスの発熱量計測である。このため、液化天然ガス(LNG)の熱量計測を行う場合は、気化装置により一旦液化ガスを気化させて計測装置に導入する必要がある。この場合、液化天然ガス(LNG)の気化装置、サンプリング装置およびガス熱量計が必要になり、かなり大掛かりな設備となってしまう。また、ガス熱量計のサンプリングガスの処理方法としては大気放散が一般的であり環境面からも好ましくない。
さらに、従来方法による熱量計測では、液化ガスが気化するのにかなりの時間を要するため、熱量計測装置にサンプルガスを導入するまでのサンプル遅れが非常に大きく、その結果熱量計測装置から得られた熱量値を利用して何かを制御しようとした場合、精度の良い制御ができない。
【0008】
以上要するに、液化天然ガスを気化させて発熱量を計測する方法では、第1に設備が大掛かりなものになる、第2にサンプリングガスを大気放散する場合には環境面に悪影響を及ぼす、第3に液化天然ガス(LNG)の熱量を直接的に制御あるいは監視する場合においては、サンプル遅れが非常に大きく使用することができない、といった問題点がある。
【0009】
本発明はかかる問題点を解決するためになされたものであり、設備が大掛かりとならず、環境面に悪影響をあたえず、さらにはサンプル遅れがなく熱量制御を応答性よくできる液化天然ガスの熱量測定方法及び装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述のように、従来のガス発熱量測定方法では、すべて気化ガスの熱量測定であるために種々の問題点を有していた。そこで、発明者は液化天然ガスを気化させることなく液状態のままで熱量計測することにより、液化天然ガスを一旦気化していたことによる種々の問題が解決されるとの着想をもとに本発明を完成したものである。
【0011】
まず、発明者は液密度と発熱量との間に相関があるのか、あるとすればどのような相関があるかを知るために以下のような検討を行った。
11種類の液化天然ガスについて、101.3 KPa飽和状態での液密度と発熱量の関係をプロセスシミュレータによって求めた。この関係を図3のグラフに示す。図3においては、図3(a)がガス発熱量と液密度との関係を示し、図3(b)がガス発熱量と窒素含有率との関係を示している。
図3(a)(b)を対比してみると分かるように、液密度とガス発熱量との関係は「窒素含有率が0%のもののグループ」と「窒素含有率が1%のもののグループ」にわかれ、それぞれのグループのものはほぼ一直線上に描かれる関係にあることがわかる。この関係は、飽和状態で規定せずに同じ温度圧力状態の液密度でも同様である。
つぎに、上記の直線を表す式を求めるために、実運用を考えて熱量換算の基準状態を仮に-160
℃ / 1101.3 kPaと仮定する。この基準状態におけるガス発熱量と液密度の関係を求め、それをグラフに示したものが図4における物性推算値のグラフである。
図4のグラフにおいては、「窒素含有率が0%のもののグループ」と「窒素含有率が1%のもののグループ」をそれぞれ1本の直線で示してある。
【0012】
これらの直線からその傾き及び切片を読み取ると、各直線を表す式は下記のようになる。
(窒素0%の時の直線の推定式)
Q=0.117 ρstd-9.6525
(窒素 1%の時の直線の推定式)
Q=0.117 ρstd-10.0035
窒素分率も変数にして、上記2式をまとめて表現すると下式のようになる。
Q = 0.117 ρstd - 9.6525 - 0.351N
Q : ガス発熱量 MJ/Nm3
ρstd : 液密度 kg/m3 (基準状態-160 ℃ / 1101.3 kPa)
N : 窒素分率 mol%
【0013】
上記の式を一般化して表現すると下記のようになる。
Q=c×ρstd−d−e×N
但し、Q :ガス発熱量 MJ/Nm3
ρstd:LNG液密度 kg/m3 (基準状態-160 ℃ / 1101.3 kPa)
N :窒素分率 mol%
c,d,e:定数
【0014】
以上のように、液密度とガス発熱量との関係を定式化して表現することができるので、この式を用いることで液密度を検出してガス発熱量を求めることができる。
なお、液化天然ガスの熱量の相対的な変化を知るためには、上記の方法で足りる。しかしながら、熱量を用いて例えば、液化天然ガスの熱量調整を行うような場合には、ガス発熱量を正確に定量することが必要となる。この場合には温度圧力の影響を考慮する必要があり、そのためには液密度が温度、圧力とどのような関係にあるかを知る必要がある。
【0015】
そこで、発明者は液密度の温度依存性を調べるために、以下のような検討を行った。
まず、液密度と温度との依存性があるのかどうかを調べるために、一定圧力下(1101.3KPa)において11種類の液化天然ガス(11種類のガス発熱量の液化天然ガス)について、各種類ごとに温度を-160℃から-140℃まで5℃ずつ変化させたときの液密度の変化を調査した。この結果を図5(a)のグラフに示した。この図5(a)のグラフから分かるように各種類の液化天然ガスについて温度の変化に応じてほぼ一定の関係があることが分かる。つまり、同一種類のLNG、例えば発熱量が約40MJ/Nm3のものでは温度が下がるに従って密度が大きくなっているが、この関係は他の種類のLNGでも同様である。
そこで、その関係を定量的に求めるために、図5(a)の3種類(図5(a)において破線で囲んだA、B、C)について、液温度と液密度の関係を図5(b)のグラフに示す。
図5(b)に示すグラフよりLNG液密度の温度依存性は下式にて表されることがわかる。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
a :定数
なお、この例ではa=-1.5 kg/m3/℃とすることができる。なお、A種のLNGの場合-1.59
kg/m3/℃、C種のLNGの場合 -1.43 kg/m3/℃となるが、ここでは平均的な -1.5 kg/m3/℃を採用することにした。もっとも、実際の熱量演算ロジック上においては、本係数を適宜変更できるようパラメータ設定しておくことが望ましい。
【0016】
次に液化天然ガスの液密度の圧力依存性を求めるために、前述の温度依存性の検討と同様の検討を行った。
まず、液密度と圧力との依存性があるのかどうかを調べるために、一定温度下(-160℃)において11種類の液化天然ガス(11種類のガス発熱量の液化天然ガス)について、各種類ごとに圧力を601.03KPaから4101.3KPaまで変化させたときの液密度の変化を調査した。この結果を図6(a)のグラフに示した。この図6(a)のグラフから分かるように各種類の液化天然ガスについて圧力の変化に応じてほぼ一定の関係があることが分かる。
そこで、その関係を定量的に求めるために、図6(a)の3種類(図6(a)において破線で囲んだA、B、C)について、圧力と液密度の関係を図6(b)のグラフに示す。
図6(b)に示すグラフよりLNG液密度の圧力依存性は下式にて表されることがわかる。
ρstd=ρLNG+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液圧力 MPaG
b :定数
図6(b)のグラフよりb=1.45 kg/m3/MPaとすることができる。
なお、A種のLNGの場合1.5 kg/m3/MPa、C種のLNGの場合1.4
kg/m3/MPaとなるが、ここでは平均的な1.45 kg/m3/MPaを採用する。実際の熱量演算ロジック上においては、温度依存性に比べ影響度が小さいため固定係数で運用することも可能である。
【0017】
以上から、液化天然ガスの液密度の温度及び圧力依存性を考慮した場合には、下式に基づいて計測した液密度を補正することで、正確なガス発熱量を求めることができる。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
LNG:LNG液圧力 MPaG
a,b :定数
【0018】
本発明は以上の考察の結果を前提としてなされたものであり、具体的には以下に示すものである。
(1)本発明に係る液化天然ガスの熱量計測方法は、液化天然ガスの液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度を計測して前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出することを特徴とするものである。
【0019】
(2)また、液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度、温度、圧力を計測し、該計測した液密度を該計測した温度、圧力に基づいて前記基準温度、基準圧力状態における液密度に変換し、該変換した液密度に基づいて前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出することを特徴とするものである。
【0020】
(3)また、上記(2)のものにおいて、計測した液密度の基準温度圧力状態における液密度への変換を下式に基づいて行うことを特徴とするものである。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
LNG:LNG液圧力 MPaG
a,b :定数
【0021】
(4)また、上記(1)〜(3)における相関を下式で与えることを特徴とするものである。
Q=c×ρstd−d−e×N
但し、Q :ガス発熱量 MJ/Nm
ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
N :窒素分率 mol%
c,d,e:定数
【0022】
なお、上記の相関式にはLNG中に含まれる窒素分率の項があるが、一般的にLNG中に含まれる窒素分率はほぼ一定比率であると考えられるため、このような場合においては通常時固定値として扱っても差し支えない。ただし、固定値として扱う場合には運用LNGの産地が変更になる場合等で予め窒素分率が変化することが明らかな場合は固定値を変更する必要がある。また、既設設備でガスクロマトグラフ等の設備があり、定期的にLNG中の窒素分率が計測可能な場合はこの計測値を用いることで、より精度の高いガス発熱量の算出が可能となる。
【0023】
(5)本発明における液化天然ガスの熱量計測装置は、測定対象の液化天然ガスの液密度を検出する液密度検出手段と、該液密度検出手段で検出された液密度を入力して予め求めた液化天然ガスの液密度とガス発熱量との相関に基づいて前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する演算手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0024】
(6)また、測定対象の液化天然ガスの液密度を検出する液密度検出手段と、測定対象の液化天然ガスの温度を検出する温度検出手段と、測定対象の液化天然ガスの圧力を検出する圧力検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度及び前記圧力検出手段によって検出された圧力及び前記液密度検出手段によって検出された液密度を入力して前記液密度検出手段によって検出された液密度を基準状態の液密度に変換する第1演算手段と、該第1演算手段によって得られた基準状態の液密度を入力して予め求めた液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関に基づいて前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する第2演算手段と、を備えたことを特徴とするものである。
【0025】
(7)また、上記(6)に記載のものにおいて、第1演算手段は、計測した液密度を基準温度圧力状態における液密度への変換を下式(1)に基づいて行い、第2演算手段は、予め求めた液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関を下式(2)に基づいて行うことを特徴とするものである。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}------(1)
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
LNG:LNG液圧力 MPaG
a,b :定数
Q=c×ρstd−d−e×N----------------------(2)
但し、Q :ガス発熱量 MJ/Nm
ρstd:LNG液密度kg/m (基準温度、基準圧力)
N :窒素分率mol%
c,d,e:定数
【発明の効果】
【0026】
本発明においては、液化天然ガスの液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度を計測して前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出するようにしたので、従来のように液化天然ガスを一旦気化する必要がなくなり、気化により生じていた前述の問題点が全て解決することができる。すなわち、本発明によれば、設備が大掛かりとならず、環境面に悪影響をあたえず、さらにはサンプル遅れがなく熱量制御を応答性よくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は本発明の一実施の形態に係る液化天然ガスの熱量計測装置の説明図である。本発明に係る液化天然ガスの熱量計測装置は、図1に示されるように、LNGタンクからLNGを払い出すためのLNGポンプの下流側のラインに設置される。そして、測定対象の液化天然ガスの液密度を検出する液密度検出手段としてのLNG液密度計1と、測定対象の液化天然ガスの温度を検出する温度検出手段としての温度計3と、測定対象の液化天然ガスの圧力を検出する圧力検出手段としての圧力計5と、LNG液密度計1、温度計3、圧力計5の検出信号を入力してガス発熱量を演算する演算部7を備えている。
また、本実施の形態では既設設備のガスクロマトグラフィ9から窒素分率を演算部7に入力するようにしている。
【0028】
以下、上記の構成についてさらに詳細に説明する。
<LNG液密度計>
LNG液密度計1としては、コリオリ力を利用した密度計測装置等を使用することにより、連続かつリアルタイムに液化天然ガスの液密度計測が可能である。
LNG液密度計は、図1に示されるように、LNGタンクからLNGポンプにより払い出されるLNGライン中に設置する。
【0029】
<温度計、圧力計>
前述のように、LNG液密度は、その温度、圧力の変化による影響を受ける。そのため、ガス発熱量の測定を熱量調整のために行うような場合には温度、圧力の補正を行う必要がある。
したがって、LNG液密度の計測と同時にLNG液温度および圧力の計測を行う必要があるが、この場合LNG液温度および圧力の計測点はLNG液密度計測点と同一ライン上でLNG液密度計測点の極力近傍にすることが好ましく、このように設置することで精度の高い計測が可能となる。
しかし、一般にLNG配管は保冷材等により外部入熱が遮断されているため、同一ライン上におけるLNGの液温度および液圧力は計測場所によらずほぼ同じと考えることができる。よって、既設設備として温度計および圧力計が設置されている場合はこれらを使用することで設備コストの低減が図れる。
なお、LNG液密度計には温度センサーが組込まれており、LNGの温度計測値も出力可能なタイプのLNG液密度計を使用する場合は、この温度信号を使用することで別置の温度計が不要となり更に設備コストの低減が図れる。
【0030】
<演算部>
演算部は、例えばコンピュータによって実現される。そして、この演算部は、LNG液密度計1、温度計3及び圧力計5によって検出された液密度、温度及び圧力を入力してLNG液密度計1によって検出された液密度を基準状態の液密度に変換する第一演算手段としての補正手段と、該補正手段によって得られた基準状態の液密度を入力して予め求めた液化天然ガスの基準温度、基準状態における液密度とガス発熱量との相関に基づいて測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する第2演算手段としての主演算手段を有している。以下、補正手段と主演算手段について説明する。
【0031】
(1)補正手段
補正手段は、下記に示す前述の補正式に基づいて演算を行う。なお、この補正式は、前述したように数種類の液化天然ガス(LNG)組成を用いて、その液密度と温度、圧力の関係を導き出し、その関係から求めたものである。
ρstd=ρLNG+{
a×(基準温度−TLNG)}+[ b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}]
ρstd :LNG液密度 kg/m3 (基準温度、基準圧力)
ρLNG :LNG液密度 kg/m3 (実温度、実圧力)
TLNG :LNG液温度 ℃
PLNG :LNG液圧力 MPaG

a,b :定数
なお、定数a、bについては、当該LNG基地にて取り扱う液化天然ガスについて、前述のような検討を行って具体的に決定する。
また、基準温度、基準圧力としては、極力実際に計測するLNGの状態に近い温度、圧力値を設定したほうが精度に与える影響が小さく望ましい。
【0032】
(2)主演算手段
主演算手段は、基準状態における液密度とガス発熱量との相関に基づいて測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する。
このときの相関式は、前述したように数種類の液化天然ガス(LNG)組成から液密度とガス発熱量の相関を導き出して求めた下式である。
Q=c×ρstd−d−e×N
Q :ガス発熱量 MJ/Nm3
ρstd:LNG液密度 kg/m3 (基準温度、基準圧力)
N :窒素分率 mol%
c,d,e :定数
【0033】
なお、定数c、d、eについては、当該LNG基地にて取り扱う液化天然ガスについて、前述のような検討を行って決定する。
【0034】
以上のように構成された本実施の形態においては、LNG液密度計1、温度計3及び圧力計5によってLNG液密度、温度及び圧力をリアルタイムで計測し、その計測信号を演算部7に入力する。また、既設設備のガスクロマトグラフィ9から窒素分率を演算部7に入力する。
演算部7では、計測された温度及び圧力に基づいて測定された液密度を基準状態の液密度に変換する。そして、変換後の液密度及びガスクロマトグラフィ9から入力された窒素分率に基づいて、予め求められた基準状態における液密度とガス発熱量との相関に基づいて測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する。
この演算値は各種の制御に用いることができる。例えば、液化天然ガスの熱量調整に用いるならば、演算されたガス発熱量に基づいて、例えば増熱制御においては液化石油ガス(LPG)などの熱量調整ガスの混合割合を調整する。
【0035】
以上のように、本実施の形態によれば、液化天然ガス(LNG)の熱量計測が連続かつリアルタイムに行うことが可能となり、これにより、液化天然ガス(LNG)の熱量制御、あるいは熱量監視を行うことが可能となる。
また、液化天然ガスの液密度を計測してガス発熱量を求めるので、従来のガス熱量計測方法のように液化天然ガス(LNG)の気化装置およびサンプリング装置等が不要となり、熱量計測設備構成の簡素化、設備コストの低減が図れるとともに、サンプルガスの処理が不要となるため環境に与える影響も小さい。
【0036】
なお、上記図1に示した例はLNGの払い出しラインが小口径の例であり、払い出しラインに直接LNG液密度計を設置したものである。
しかしながら、大規模基地の場合にはLNGポンプの吐出ラインが大口径になるため、図1のように吐出ラインに直接LNG液密度計を設置しようとすると、特殊なLNG液密度計を別途用いる必要があり、経済的に不利となる。
そこで、このような場合には、図2に示すように、LNGポンプの吐出ラインから小口径の分岐ライン11を設け、その分岐ライン中にLNG液密度計1を設置するようにすればよい。この場合、LNG密度計1の設置にあたっては計測対象ラインの分岐部からのサンプル距離を極力小さくし、サンプル遅れを小さくすることが望ましい。
なお、LNG液密度計を経て送り出されるサンプルLNGは低圧LNGラインであるLNGタンクへ戻す保冷循環ライン等に分岐ラインを接続することで処理することができる。
【実施例】
【0037】
上記においては、LNG液密度とガス発熱量の関係、およびLNG液密度と温度、圧力の関係を明らかにし、これらの相関関係を踏まえてLNG液熱量計が実現できることを説明した。
以下においては、本実施の形態の装置の具体的な構成方法について検討した結果を示す。
前述の手段の項で説明したように、基本となる式は、
ρstd=ρLNG+{
a×(基準温度−TLNG)}+[ b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}]
Q=c×ρstd−d−e×N
である。
上式における各定数の具体例としては、「課題を解決するための手段」の項で示した以下のものを用いる。
a=-1.5、b=1.45、c=0.117、d=9.6525、e=0.351
これらの数値を上式に代入して、両式はまとめて記載すると以下のようになる。
Q = 0.117ρLNG - 0.1755(-160-TLNG)
+ 0.16965(1.0-PLNG) - 9.6525 - 0.351N
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施の形態に係る液化天然ガスの熱量測定装置の説明図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る液化天然ガスの熱量測定装置の変形例の説明図である。
【図3】本発明の液化天然ガスの熱量測定方法に係るガス発熱量と液密度との相関を求めるためのグラフである(その1)。
【図4】本発明の液化天然ガスの熱量測定方法に係るガス発熱量と液密度との相関を求めるためのグラフである(その2)。
【図5】温度依存性を検討するためのグラフである。
【図6】圧力依存性を検討するためのグラフである。
【符号の説明】
【0039】
1 LNG液密度計
3 温度計
5 圧力計
7 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化天然ガスの液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度を計測して前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出することを特徴とする液化天然ガスの熱量計測方法。
【請求項2】
液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関を予め求めておき、測定対象の液化天然ガスの液密度、温度、圧力を計測し、該計測した液密度を該計測した温度、圧力に基づいて前記基準温度、基準圧力状態における液密度に変換し、該変換した液密度に基づいて前記予め求めた相関から前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を算出することを特徴とする液化天然ガスの熱量計測方法。
【請求項3】
計測した液密度の基準温度圧力状態における液密度への変換を下式に基づいて行うことを特徴とする請求項2記載の液化天然ガスの熱量計測方法。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
LNG:LNG液圧力 MPaG
a,b :定数
【請求項4】
相関を下式で与えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液化天然ガスの熱量計測方法。
Q=c×ρstd−d−e×N
但し、Q :ガス発熱量 MJ/Nm
ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
N :窒素分率 mol%
c,d,e:定数
【請求項5】
測定対象の液化天然ガスの液密度を検出する液密度検出手段と、該液密度検出手段で検出された液密度を入力して予め求めた液化天然ガスの液密度とガス発熱量との相関に基づいて前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する演算手段と、を備えたことを特徴とする液化天然ガスの熱量計測装置。
【請求項6】
測定対象の液化天然ガスの液密度を検出する液密度検出手段と、測定対象の液化天然ガスの温度を検出する温度検出手段と、測定対象の液化天然ガスの圧力を検出する圧力検出手段と、前記温度検出手段によって検出された温度及び前記圧力検出手段によって検出された圧力及び前記液密度検出手段によって検出された液密度を入力して前記液密度検出手段によって検出された液密度を基準状態の液密度に変換する第1演算手段と、該第1演算手段によって得られた基準状態の液密度を入力して予め求めた液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関に基づいて前記測定対象の液化天然ガスのガス発熱量を演算する第2演算手段と、を備えたことを特徴とする液化天然ガスの熱量計測装置。
【請求項7】
第1演算手段は、計測した液密度を基準温度圧力状態における液密度への変換を下式(1)に基づいて行い、第2演算手段は、予め求めた液化天然ガスの基準温度、基準圧力状態における液密度とガス発熱量との相関を下式(2)に基づいて行うことを特徴とする請求項6に記載の液化天然ガスの熱量計測装置。
ρstd=ρLNG+{a×(基準温度−TLNG)}+[b×{基準圧力−(PLNG+0.1013)}------(1)
但し、ρstd:LNG液密度 kg/m (基準温度、基準圧力)
ρLNG:LNG液密度 kg/m (実温度、実圧力)
LNG:LNG液温度 ℃
LNG:LNG液圧力 MPaG
a,b :定数
Q=c×ρstd−d−e×N----------------------(2)
但し、Q :ガス発熱量 MJ/Nm
ρstd:LNG液密度kg/m (基準温度、基準圧力)
N :窒素分率mol%
c,d,e:定数

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−47071(P2006−47071A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−227441(P2004−227441)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000156938)関西電力株式会社 (1,442)
【Fターム(参考)】