説明

液化石油ガス製造用触媒、および、この触媒を用いた液化石油ガスの製造方法

【課題】 スラリー床方式で、一酸化炭素と水素とを反応させて主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を製造することができ、しかも、経時劣化が少ない触媒を提供する。
【解決手段】 本発明の液化石油ガス製造用触媒は、Cu−Zn系メタノール合成触媒と、PdとCu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライトとを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一酸化炭素と水素とを反応させて主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造するための触媒に関する。
【0002】
また、本発明は、この触媒を用い、合成ガスから、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法に関する。さらに、本発明は、この触媒を用い、天然ガス等の含炭素原料から、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
液化石油ガス(LPG)は、常温常圧下ではガス状を呈する石油系もしくは天然ガス系炭化水素を圧縮し、あるいは同時に冷却して液状にしたものをいい、その主成分はプロパンまたはブタンである。液体の状態で貯蔵および輸送が可能なLPGは可搬性に優れ、供給にパイプラインを必要とする天然ガスとは違い、ボンベに充填した状態でどのような場所にでも供給することができるという特徴がある。そのため、プロパンを主成分とするLPG、すなわちプロパンガスが、家庭用・業務用の燃料として広く用いられている。現在、日本国内においても、プロパンガスは約2,500万世帯(全世帯の50%以上)に供給されている。また、LPGは、家庭用・業務用燃料以外にも、カセットコンロ、使い捨てライター等の移動体用の燃料(主に、ブタンガス)、工業用燃料、自動車用燃料としても使用されている。
【0004】
従来、LPGは、1)湿性天然ガスから回収する方法、2)原油のスタビライズ(蒸気圧調整)工程から回収する方法、3)石油精製工程などで生成されるものを分離・抽出する方法などにより生産されている。
【0005】
LPG、特に家庭用・業務用の燃料として用いられるプロパンガスは将来的にも需要が見込め、工業的に実施可能な、新規な製造方法を確立できれば非常に有用である。
【0006】
LPGの製造方法として、特許文献1には、Cu−Zn系、Cr−Zn系、Pd系等のメタノール合成触媒、具体的には、CuO−ZnO−Al触媒、Pd/SiO触媒、Cr−Zn系触媒と、平均孔径が略10Å(1nm)以上のゼオライト、具体的にはY型ゼオライトよりなるメタノール転化触媒とを物理的に混合した混合触媒の存在下で、水素および一酸化炭素よりなる合成ガスを反応させて、液化石油ガス、あるいは、これに近い組成の炭化水素混合物を製造する方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の触媒は、必ずしも十分な性能を有しているとは言えない。
【0007】
LPGの製造方法として、非特許文献1には、メタノール合成用触媒である4wt%Pd/SiO、Cu−Zn−Al混合酸化物[Cu:Zn:Al=40:23:37(原子比)]またはCu系低圧メタノール合成用触媒(商品名:BASF S3−85)と、450℃で1時間水蒸気処理した、SiO/Al=7.6の高シリカY型ゼオライトとから成るハイブリッド触媒を用い、合成ガスからメタノール、ジメチルエーテルを経由してC2〜C4のパラフィンを選択率69〜85%で製造する方法が開示されている。しかしながら、非特許文献1に記載の触媒も、上記特許文献1に記載の触媒と同様、十分に優れた性能を有しているとは言い難い。
【0008】
特許文献2には、比較的低温、低圧の条件下において、一酸化炭素と水素とから液化石油ガスを製造することが可能な、経時劣化が少ない触媒として、Cu−Zn系メタノール合成触媒成分と、好ましくは0.1〜1重量%のPdを担持してなるβ−ゼオライト触媒成分とを含有することを特徴とする液化石油ガス製造用触媒が開示されている。この触媒は、優れた触媒性能を有し、高い安定性・耐久性を有しているが、合成ガスからLPGを製造するプロセス、さらには、天然ガス等の含炭素原料からLPGを製造するプロセスの実用化のためには、触媒のさらなる改良が望まれている。特に、触媒の安定性向上、長寿命化は、このプロセスの実用化において、非常に重要である。
【0009】
また、LPG合成反応の反応形式としては、従来、固定床反応方式が多く採用されているが、スラリー床反応方式も非常に有望なものである。
【0010】
一酸化炭素と水素とからLPGを合成する反応は、激しい発熱反応であり、反応熱の除去が最重要の技術課題となる。また、この発熱のために、触媒が劣化・失活してしまうこともある。特に、メタノール合成触媒成分としてCu−Zn系メタノール合成触媒を使用した場合、通常、その耐熱性は他のメタノール合成触媒と比べて低いので、高温になると触媒の劣化が起こりやすい傾向がある。
【0011】
固定床反応器および流動床反応器と比較して、スラリー床反応器は、除熱方法の設計が容易であり、LPG製造プロセスの課題となる大量の反応熱の除去が容易にでき、温度制御も容易である。LPG合成反応においては、LPG選択性が比較的狭い温度範囲で高くなることから、反応温度を厳密に制御することが求められる。この点からも、固定床反応器および流動床反応器よりも均一な温度条件を実現しやすいスラリー床反応器の使用は望ましい。スラリー床反応方式では、触媒の劣化・失活につながる、触媒上の局所的な温度上昇を防ぐこともできる。
【0012】
このように、スラリー床方式はプロセス的に有利である。そのため、スラリー床反応方式で使用するのに適した液化石油ガス製造用触媒の開発が望まれている。しかしながら、上記特許文献2に記載の触媒も含め、従来の触媒は、スラリー床反応方式の場合、活性劣化が比較的速いという問題がある。
【特許文献1】特開昭61−23688号公報
【特許文献2】国際公開第2007/094457号パンフレット
【非特許文献1】“Selective Synthesis of LPG from Synthesis Gas”,Kaoru Fujimoto et al.,Bull.Chem.Soc.Jpn.,58,p.3059−3060(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、一酸化炭素と水素とを反応させて主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を高活性、高選択性、高収率で製造することができ、しかも、触媒寿命が長く、劣化が少ない液化石油ガス製造用触媒を提供すること、特に、スラリー床反応方式で使用するのに適した液化石油ガス製造用触媒を提供することである。
【0014】
本発明の他の目的は、この触媒を用い、合成ガスから、プロパンおよび/またはブタンの濃度が高いLPGを高収率で、長期間にわたって安定に製造することができる方法を提供することである。さらには、天然ガスなどの含炭素原料から、プロパンおよび/またはブタンの濃度が高いLPGを高収率で、長期間にわたって安定に製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は以下の事項に関する。
【0016】
1. 一酸化炭素と水素とを反応させてプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを製造する際に用いられる触媒であって、
Cu−Zn系メタノール合成触媒と、PdとCu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライト(以下、「Pd担持β−ゼオライト」と言う。)とを含有することを特徴とする液化石油ガス製造用触媒。
【0017】
2. 前記Pd担持β−ゼオライトが、PdとCuをβ−ゼオライトに担持したものである上記1に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0018】
3. 前記Pd担持β−ゼオライトのPdの担持量が0.05質量%〜5質量%である上記1または2に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0019】
4. 前記Pd担持β−ゼオライトのCuの担持量が0.1質量%〜10質量%である上記2または3に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0020】
5. 前記Pd担持β−ゼオライトの担体であるβ−ゼオライトのSiO/Al比が10〜500である上記1〜4のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0021】
6. 前記Cu−Zn系メタノール合成触媒が、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物、または、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物に一種以上の金属を担持したものである上記1〜5のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0022】
7. 前記複合酸化物が、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とし、さらに添加成分として酸化アルミニウムおよび/または酸化クロムを含んでいてもよい複合酸化物であり、
その含有比率が、質量基準で、酸化銅:酸化亜鉛:酸化アルミニウム:酸化クロム=1:0.05〜20:0〜2:0〜2である上記6に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0023】
8. 前記Cu−Zn系メタノール合成触媒と前記Pd担持β−ゼオライトの含有比率が、質量比で、4:1〜1:6である上記1〜7のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【0024】
9. 上記1〜8のいずれかに記載の触媒の存在下で一酸化炭素と水素とを反応させ、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【0025】
10. 上記1〜8のいずれかに記載の触媒を溶媒に懸濁させたスラリーに、一酸化炭素と水素とを含む原料ガスを流通させて、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【0026】
11. 前記溶媒が、炭素数10〜20の炭化水素である上記10に記載の液化石油ガスの製造方法。
【0027】
12. 反応温度が200℃以上325℃以下であり、
反応圧力が1MPa以上8MPa以下であり、
空間速度(触媒1g当たりの標準状態における原料ガスの供給速度)が100ml/g・h以上50000ml/g・h以下である上記10または11に記載の液化石油ガスの製造方法。
【0028】
13. 前記原料ガスが、合成ガスである上記10〜12のいずれかに記載の液化石油ガスの製造方法。
【0029】
14. (1)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(2)上記1〜8のいずれかに記載の触媒を溶媒に懸濁させたスラリーに合成ガスを流通させて、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【0030】
ここで、合成ガスとは、水素と一酸化炭素とを含む混合ガスを指し、水素および一酸化炭素からなる混合ガスに限られない。合成ガスは、例えば、二酸化炭素、水、メタン、エタン、エチレンなどを含む混合ガスであってもよい。天然ガスを改質して得られる合成ガスは、通常、水素と一酸化炭素とに加えて二酸化炭素や水蒸気を含む。また、合成ガスは、石炭ガス化により得られる石炭ガスや、石炭コークスから製造される水性ガスであってもよい。
【発明の効果】
【0031】
メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを含有する触媒の存在下で一酸化炭素と水素とを反応させると、下記式(1)で示されるような反応が起こり、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を製造することができる。
【0032】
【化1】


まず、メタノール合成触媒成分上で一酸化炭素と水素とからメタノールが合成される。この時、メタノールの脱水2量化により、ジメチルエーテルも生成する。次いで、合成されたメタノールはゼオライト触媒成分の細孔内の活性点にて主成分がプロピレンまたはブテンである低級オレフィン炭化水素に転換される。この反応では、メタノールの脱水によってカルベン(HC:)が生成し、このカルベンの重合によって低級オレフィンが生成すると考えられる。そして、生成した低級オレフィンはゼオライト触媒成分の細孔内から抜け出し、メタノール合成触媒成分上で速やかに水素化されて主成分がプロパンまたはブタンであるパラフィン、すなわちLPGとなる。
【0033】
ここで、メタノール合成触媒成分とは、CO+2H→CHOHの反応において触媒作用を示すものを指し、ゼオライト触媒成分とは、メタノールの炭化水素への縮合反応および/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応において触媒作用を示すゼオライトを指す。ただし、メタノール合成触媒成分には、オレフィンのパラフィンへの水素化反応において触媒作用を示すことも求められる。
【0034】
本発明では、メタノール合成触媒成分としてCu−Zn系メタノール合成触媒を使用し、且つゼオライト触媒成分としてPdと、Cu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライト(Pd担持β−ゼオライトとも言う。)を使用する。
【0035】
Cu−Zn系メタノール合成触媒とPdを担持したβ−ゼオライトとを含有する触媒は、前述の通り、優れた触媒性能を有する。それに対し、本発明では、Pdと共に、Cu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上、好ましくはCuをβ−ゼオライトに担持する。これにより、高い活性、高いプロパンおよびブタンの選択性を維持しながら、触媒の安定性・耐久性がさらに向上する。特に、触媒を溶媒(媒体油)に懸濁してスラリーの状態で使用する場合、つまり反応をスラリー床方式で行う場合、本発明の触媒は、従来の触媒と比べて、経時劣化が非常に少なく、高い安定性・耐久性を示す。
【0036】
スラリー床方式は、前述の通り、媒体油が触媒上で発生する反応熱を速やかに移動させるので、一般的な固定床反応方式と比べて、反応熱の除去、温度制御が容易である。その一方で、スラリー床方式では、物質移動が比較的遅い。そのために、LPG合成反応において副生する水がゼオライト触媒成分上に滞留して、触媒を劣化させる可能性があることに本発明者らは想到し、CO+HO→H+COの反応において触媒作用を示すシフト触媒成分をゼオライトに直接担持することにより、触媒の劣化を抑制し、安定性・耐久性をさらに向上させることができることを見出した。固体酸ゼオライト触媒は水に被毒されやすいが、シフト触媒成分を直接担持することで、ゼオライト上の水を速やかに反応させて除去することができ、それによって触媒の活性を維持することができると考えられる。
【0037】
シフト触媒成分としては、CO+HO→H+COの反応において触媒作用を示す金属種であれば特に限定されず、使用することができる。シフト触媒成分として、具体的には、Cu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上が挙げられ、好ましくはCuである。
【0038】
このように、Cu−Zn系メタノール合成触媒と組み合わせるゼオライトを、Pdと共に、Cu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上、好ましくはCuを担持したβ−ゼオライトにすることにより、特にスラリー床方式でLPG合成反応を行う場合の触媒の劣化を抑制することができる。本発明の触媒は、Pdのみを担持したβ−ゼオライトを使用した従来の触媒と比べて、同等の高活性、高LPG選択性を維持しながら、経時劣化が非常に少なく、触媒寿命が長いものであり、スラリー床反応方式で使用するのに適している。なお、本発明の触媒は、固定床反応方式で使用する場合でも、Pdのみを担持したβ−ゼオライトを使用した従来の触媒と同等以上の優れた触媒性能を有している。
【0039】
従って、本発明の液化石油ガス製造用触媒を用いることにより、特にスラリー床方式でLPG合成反応を行う場合、長期間にわたって高活性、高収率でプロパンおよび/またはブタン、すなわちLPGを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
1.本発明の液化石油ガス製造用触媒
本発明の液化石油ガス製造用触媒は、Cu−Zn系メタノール合成触媒一種以上と、PdとCu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライト(Pd担持β−ゼオライト)一種以上とを含有する。
【0041】
なお、本発明の液化石油ガス製造用触媒は、その所望の効果を損なわない範囲内で、他の添加成分を含有していてもよい。
【0042】
Cu−Zn系メタノール合成触媒とPd担持β−ゼオライトの含有比率は、質量比で、4:1〜1:6であることが好ましく、2:1〜1:5であることがより好ましく、1:1〜1:4であることが特に好ましい。
【0043】
メタノール合成触媒成分であるCu−Zn系メタノール合成触媒は、メタノール合成触媒としての機能と、オレフィンの水素添加触媒としての機能とを有する。また、ゼオライト触媒成分であるPd担持β−ゼオライトは、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの炭化水素への縮合反応に対して酸性が調整された固体酸ゼオライト触媒としての機能を有する。そのため、ゼオライト触媒成分に対するメタノール合成触媒成分の含有比率は、本発明の触媒の持つメタノール合成機能およびオレフィンの水素添加機能とメタノールからの炭化水素生成機能との相対比に反映される。本発明において一酸化炭素と水素とを反応させて主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造するにあたり、一酸化炭素と水素とをメタノール合成触媒成分によって十分にメタノールに転化しなければならず、かつ、生成したメタノールをゼオライト触媒成分によって十分に主成分がプロピレンまたはブテンであるオレフィンに転化し、それをメタノール合成触媒成分によって主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスに転化しなければならない。Cu−Zn系メタノール合成触媒とPd担持β−ゼオライトの含有比率を上記の範囲にすることにより、より高選択率、高収率でプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。
【0044】
なお、Cu−Zn系メタノール合成触媒とPd担持β−ゼオライトの含有比率は、上記の範囲に限定されるものではなく、メタノール合成触媒成分、ゼオライト触媒成分の種類などに応じて適宜決めることができる。
【0045】
(メタノール合成触媒成分:Cu−Zn系メタノール合成触媒)
本発明において使用するメタノール合成触媒成分は、Cu−Zn系メタノール合成触媒である。
【0046】
Cu−Zn系メタノール合成触媒としては、CuおよびZnを含み、CO+2H→CHOHの反応において触媒作用を示すものであれば特に限定されず、公知のCu−Zn系メタノール合成触媒を使用することができる。また、Cu−Zn系メタノール合成触媒として市販品を使用することもできる。
【0047】
一般的なCu−Zn系メタノール合成触媒は、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物(Cu−Zn複合酸化物)、あるいは酸化銅および酸化亜鉛を主成分とし、さらに添加成分として酸化アルミニウム、酸化クロムなどを含む複合酸化物(Cu−Zn−Al複合酸化物、Cu−Zn−Cr複合酸化物など)である。
【0048】
本発明において使用するCu−Zn系メタノール合成触媒は、例えば、酸化銅:酸化亜鉛:酸化アルミニウム:酸化クロム=1:0.05〜20:0〜2:0〜2(質量基準)であるものが好ましい。
【0049】
本発明においては、このような一般的なCu−Zn系メタノール合成触媒(酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物、あるいは酸化銅および酸化亜鉛を主成分とし、さらに添加成分として酸化アルミニウム、酸化クロムなどを含む複合酸化物)だけではなく、例えば、これに一種以上の金属を担持したものも使用することができる。担持金属はCu−Zn系メタノール合成触媒に高分散担持されていることが好ましい。
【0050】
担持する金属としては、例えば、Zr、Vなどが挙げられる。Cu−Zn系メタノール合成触媒のZr等の担持金属の担持量は適宜決めることができるが、通常、8質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0051】
Cu−Zn系メタノール合成触媒(金属担持Cu−Zn系メタノール合成触媒も含む)は、一種を用いても、二種以上を併用してもよい。
【0052】
Cu−Zn複合酸化物や、Cu−Zn−Al複合酸化物、Cu−Zn−Cr複合酸化物などのCu−Zn系メタノール合成触媒は、沈殿法などの公知の方法で調製することができる。また、Zr等の金属担持Cu−Zn系メタノール合成触媒は、沈殿法などで調製した、または市販のCu−Zn系メタノール合成触媒に、含浸法などの公知の方法によりZr等の金属を担持させて調製することができる。
【0053】
(ゼオライト触媒成分:Pd担持β−ゼオライト)
本発明において使用するゼオライト触媒成分は、Pdと、Cu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライト(Pd担持β−ゼオライトと言う。)である。ゼオライト触媒成分としては、PdとCuを担持したβ−ゼオライトが特に好ましい。
【0054】
PdおよびCuは金属の形で含まれていなくてもよく、例えば、酸化物、硝酸塩、塩化物などの形で含まれていてもよい。その場合、より高い触媒活性を得る目的で、反応前に、例えば、水素還元処理などをすることによって、PdおよびCuを金属パラジウムおよび金属銅に転化させることが好ましい。PdおよびCuを活性化するための還元処理の処理条件は適宜決めることができる。
【0055】
また、PdおよびCuはβ−ゼオライトに高分散担持されていることが好ましい。
【0056】
Pd担持β−ゼオライトのPdの担持量は、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上が特に好ましい。また、Pd担持β−ゼオライトのPdの担持量は、分散性と経済性との点から、5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0057】
Pd担持β−ゼオライトのCuの担持量は、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上が特に好ましい。また、Pd担持β−ゼオライトのCuの担持量は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。本発明の優れた効果を得るためには、ある程度の量のCuを担持させることが必要であるが、一方で、Cuの担持量が多くなりすぎると、活性劣化が速くなってくることがある。
【0058】
Pd担持β−ゼオライトのPdの担持量およびCuの担持量を上記の範囲にすることにより、より高転化率、高選択率、高収率で、しかも長期間にわたって安定にプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。
【0059】
Cu以外の金属種、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上を担持する場合、その担持量は、通常、上記のCuの担持量と同様の範囲が好ましい。
【0060】
Pd担持β−ゼオライトの担体であるβ−ゼオライトとしては、特に限定されないが、SiO/Al比が10〜500のβ−ゼオライトが好ましい。SiO/Al比が10〜500のβ−ゼオライトを用いることにより、より高い触媒活性、より高いプロパンおよびブタンの選択性が得られる。β−ゼオライトのSiO/Al比は、450以下がより好ましく、400以下が特に好ましい。また、β−ゼオライトのSiO/Al比は、20以上がより好ましく、30以上が特に好ましい。本発明の触媒をスラリー床反応方式で使用する場合、β−ゼオライトのSiO/Al比が低すぎると、溶媒が分解しやすい傾向がある。そのため、β−ゼオライトのSiO/Al比は、200以上がさらに好ましく、300以上が特に好ましい。
【0061】
なお、本発明において使用するPd担持β−ゼオライトは、その所望の効果を損なわない範囲内で、上記のPdおよびCu等以外の金属をβ−ゼオライトに担持したものであってもよい。
【0062】
Pd担持β−ゼオライトは、一種を用いても、二種以上を併用してもよい。
【0063】
PdおよびCu等をβ−ゼオライトに担持したPd担持β−ゼオライトは、含浸法、イオン交換法などの公知の方法によりPdおよびCu等の金属をβ−ゼオライトに担持させて調製することができる。また、β−ゼオライトは公知の方法で調製することができ、市販品を使用することもできる。
【0064】
2.本発明の液化石油ガス製造用触媒の製造方法
本発明の液化石油ガス製造用触媒の製造方法としては、メタノール合成触媒成分であるCu−Zn系メタノール合成触媒と、ゼオライト触媒成分であるPd担持β−ゼオライトとを別途に調製し、これらを混合することが好ましい。メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを別途に調製することにより、各々の機能に対して、それぞれの組成、構造、物性を最適に設計することが容易にできる。
【0065】
Cu−Zn系メタノール合成触媒は、前述の通り、公知の方法で調製することができる。また、市販品を使用することもできる。
【0066】
メタノール合成触媒成分には、使用前に還元処理をして活性化することが必要なものもある。本発明においては、メタノール合成触媒成分を予め還元処理して活性化する必要は必ずしもなく、メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを混合・成形して本発明の液化石油ガス製造用触媒を製造した後、反応を開始するに先立ち還元処理をしてメタノール合成触媒成分を活性化することができる。なお、この還元処理の処理条件は、メタノール合成触媒成分の種類などに応じて適宜決めることができる。
【0067】
ゼオライト触媒成分であるPd担持β−ゼオライトも、前述の通り、公知の方法で調製することができる。
【0068】
本発明の液化石油ガス製造用触媒は、メタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを均一に混合した後、必要に応じて成形して製造される。両触媒成分の混合・成形の方法としては特に限定されないが、乾式の方法が好ましい。湿式で両触媒成分の混合・成形を行った場合、両触媒成分間での化合物の移動、例えばメタノール合成触媒成分中の塩基性成分のゼオライト触媒成分中の酸点への移動・中和が生じることによって、両触媒成分の各々の機能に対して最適化された物性等が変化することがある。触媒の成形方法としては、押出成形法、打錠成形法などが挙げられる。
【0069】
本発明において、混合するメタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とは、固定床反応方式で使用する場合、粒径がある程度大きい方が好ましく、具体的には粒径が100μm以上であることが好ましい。粒径が100μm以上のメタノール合成触媒成分と、同じく粒径が100μm以上のゼオライト触媒成分とを混合し、必要に応じて成形して得られた本発明の液化石油ガス製造用触媒は、粒径が小さいメタノール合成触媒成分とゼオライト触媒成分とを混合して得られた触媒と比較して、触媒活性およびLPGの収率が高くなることがある。
【0070】
この場合、混合するメタノール合成触媒成分の粒径およびゼオライト触媒成分の粒径は、200μm以上がより好ましく、500μm以上が特に好ましい。一方、本発明の混合触媒の優れた性能を保つ点から、混合するメタノール合成触媒成分の粒径およびゼオライト触媒成分の粒径は、5mm以下が好ましく、3mm以下がより好ましい。
【0071】
一方、本発明の混合触媒は、スラリー床反応方式で使用する場合、メタノール合成触媒成分の粒径およびゼオライト触媒成分の粒径は比較的小さい方が好ましく、具体的には粒径が400μm以下であることが好ましく、200μm以下であることがさらに好ましく、1〜100μmがより好ましく、1〜50μmが特に好ましい。
【0072】
固定床反応方式で使用する場合でも、スラリー床反応方式で使用する場合でも、混合するメタノール合成触媒成分の粒径とゼオライト触媒成分の粒径とは、同じである方が好ましい。
【0073】
混合触媒を製造する場合、通常、それぞれの触媒成分を必要に応じて機械的に粉砕し、粒径を例えば0.5〜2μm程度に揃えた後、均一に混合し、必要に応じて成形する。あるいは、所望の触媒成分すべてを加え、機械的に粉砕しながら均一になるまで混合し、粒径を例えば0.5〜2μm程度に揃え、必要に応じて成形する。
【0074】
それに対して、粒径が100μm以上のメタノール合成触媒成分と粒径が100μm以上のゼオライト触媒成分とを混合して本発明の液化石油ガス製造用触媒を製造する場合、通常、それぞれの触媒成分を予め打錠成形法、押出成形法などの公知の成形方法により成形し、それを必要に応じて機械的に粉砕し、粒径を好ましくは100μm〜5mm程度に揃えた後、両者を均一に混合する。そして、この混合物を必要に応じて再度成形し、本発明の液化石油ガス製造用触媒を製造する。
【0075】
3.液化石油ガスの製造方法
次に、上記のような本発明の液化石油ガス製造用触媒を用いて一酸化炭素と水素とを反応させ、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガス、好ましくは主成分がプロパンである液化石油ガスを製造する方法について説明する。
【0076】
LPGの合成反応は、固定床方式、流動床方式、スラリー床方式など、各種の反応形式で実施することができるが、前述の通り、本発明においてはスラリー床方式で実施することが好ましい。
【0077】
反応をスラリー床方式で行う場合、本発明の触媒を溶媒である媒体油に分散させて、スラリーの状態で使用する。そして、この触媒スラリー中に、一酸化炭素と水素とを含む原料ガスを流通させて、LPGを合成する。
【0078】
本発明において用いられる媒体油は、(1)反応条件下において安定で、不活性であり、(2)反応条件下において液体状態を安定に維持でき、(3)反応原料である一酸化炭素と水素の溶解性が高いものであれば、そのいずれもが使用可能である。媒体油としては、例えば、脂肪族、芳香族または脂環族の炭化水素、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、および、これらのハロゲン化物などが挙げられるが、炭化水素を主成分とするものが好ましく、炭素数10〜20の炭化水素であることが特に好ましい。媒体油は、一種を用いても、二種以上を混合して用いてもよい。また、媒体油として、硫黄分を除去した軽油、減圧軽油、水素化処理したコールタールの高沸点留分、フィッシャー・トロプシュ合成油、高沸点食用油なども用いることができる。
【0079】
本発明の触媒の使用量は、用いる溶媒(媒体油)の種類、反応条件などに応じて適宜決めることができるが、通常、溶媒に対して1〜50重量%程度が好ましく、5〜40重量%程度がより好ましい。
【0080】
原料ガス組成、反応温度、反応圧力、触媒との接触時間などの反応条件は適宜決めることができるが、例えば、以下のような条件で反応を行うことができる。
【0081】
反応器に送入されるガス中の一酸化炭素の濃度は、特に限定されないが、20モル%〜45モル%が好ましく、25モル%〜40モル%がより好ましい。
【0082】
反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、特に限定されないが、一酸化炭素がより十分に反応する点から、一酸化炭素1モルに対して1.2モル以上が好ましく、1.5モル以上がより好ましい。また、反応器に送入されるガス中の水素の濃度は、経済性の点から、一酸化炭素1モルに対して3モル以下が好ましく、2.5モル以下がより好ましい。
【0083】
反応器に送入されるガスは、二酸化炭素や、Ar等の不活性ガスなど、一酸化炭素および水素以外の成分を含有していてもよい。
【0084】
反応温度は、200℃以上が好ましく、260℃以上がより好ましく、270℃以上が特に好ましい。反応温度を上記の範囲にすることにより、より高い触媒活性およびLPG選択性が得られ、高収率でプロパンおよび/またはブタンを製造することができる。一方、反応温度は、触媒の安定性・耐久性の点から、325℃以下が好ましく、315℃以下がより好ましく、310℃以下が特に好ましい。
【0085】
反応圧力は、より高い触媒活性が得られる点から、1MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましく、2.5MPa以上が特に好ましい。一方、反応圧力は、経済性の点から、10MPa以下が好ましく、8MPa以下がより好ましい。
【0086】
空間速度(触媒1g当たりの標準状態における原料ガスの供給速度)は、100〜50000ml/g・hが好ましく、500〜30000ml/g・hがより好ましい。空間速度を50000ml/g・h以下にすることにより、一酸化炭素の転化率がより高くなる。一方、経済性の点から、空間速度を100ml/g・h以上にすることが好ましい。
【0087】
このようにして、本発明の液化石油ガス製造用触媒を用い、スラリー床方式で一酸化炭素と水素とを反応させることにより、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を得ることができる。
【0088】
また、本発明の液化石油ガス製造用触媒を用い、固定床方式、流動床方式などで一酸化炭素と水素とを反応させることによっても、主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を得ることができる。この場合、国際公開第2007/094457号パンフレットに記載の方法などに準じてLPG合成反応を行うことができる。
【0089】
4.含炭素原料からの液化石油ガスの製造方法
本発明においては、液化石油ガス(LPG)合成の原料ガスとして合成ガスを用いることができる。
【0090】
次に、含炭素原料から合成ガスを製造し(合成ガス製造工程)、得られた合成ガスから、本発明の触媒を用いて、LPGを製造する(液化石油ガス製造工程)、本発明のLPGの製造方法の一実施形態について説明する。
【0091】
〔合成ガス製造工程〕
合成ガス製造工程では、含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する。
【0092】
含炭素原料としては、炭素を含む物質であって、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種と反応してHおよびCOを生成可能なものを用いることができる。含炭素原料としては、合成ガスの原料として公知のものを用いることができ、例えば、メタンやエタン等の低級炭化水素など、また、天然ガス、ナフサ、石炭などを用いることができる。
【0093】
本発明では、通常、合成ガス製造工程および液化石油ガス製造工程において触媒を用いるため、含炭素原料(天然ガス、ナフサ、石炭など)としては、硫黄や硫黄化合物などの触媒被毒物質の含有量が少ないものが好ましい。また、含炭素原料に触媒被毒物質が含まれる場合には、必要に応じて、合成ガス製造工程に先立ち脱硫など、触媒被毒物質を除去する工程を行うことができる。
【0094】
合成ガスは、合成ガス製造用触媒(改質触媒)の存在下で、上記のような含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とを反応させることにより製造される。
【0095】
合成ガスは、公知の方法により製造することができる。例えば、天然ガス(メタン)を原料とする場合には、水蒸気改質法や、自己熱改質法などによって合成ガスを製造することができる。なお、この場合、水蒸気改質に必要な水蒸気や、自己熱改質に必要な酸素などは必要に応じて供給することができる。また、石炭を原料とする場合には、空気吹きガス化炉などを用いて合成ガスを製造することができる。
【0096】
また、例えば、上記のような原料から合成ガスを製造する反応器である改質器の下流にシフト反応器を設け、シフト反応(CO+HO→CO+H)によって合成ガスの組成を調整することもできる。
【0097】
本発明において、合成ガス製造工程から製造される好ましい合成ガスの組成は、低級パラフィン製造のための化学量論から言えばH/COのモル比は7/3≒2.3であるが、製造される合成ガス中の一酸化炭素に対する水素の含有比率(H/CO;モル基準)は1.2〜3であることが好ましい。合成ガスからLPGへの転換反応で生成する水によるシフト反応によって水素が生成するため、一酸化炭素を好適に反応させる点から、合成ガス中の一酸化炭素に対する水素の含有比率(H/CO;モル基準)は、1.2以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、水素は、一酸化炭素が好適に反応し、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを得ることのできる量があればよく、余剰の水素は原料ガスの全圧を不必要に上げることになって技術の経済性を低下させる。この点から、合成ガス中の一酸化炭素に対する水素の含有比率(H/CO;モル基準)は、3以下が好ましく、2.5以下がより好ましい。
【0098】
また、製造される合成ガス中の一酸化炭素の濃度は、合成ガスからLPGへの転換反応に好適な一酸化炭素の圧力(分圧)の確保と、原料原単位向上との点から、20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましい。また、製造される合成ガス中の一酸化炭素の濃度は、合成ガスからLPGへの転換反応において一酸化炭素の転化率がより十分に高くなる点から、45モル%以下が好ましく、40モル%以下がより好ましい。
【0099】
上記の組成の合成ガスを製造するためには、含炭素原料とスチーム(水)、酸素および二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも一種との供給量比、用いる合成ガス製造用触媒の種類や、その他の反応条件を適宜選択すればよい。
【0100】
例えば、原料ガスとしてスチーム/メタン(モル比)が1、二酸化炭素/メタン(モル比)が0.4となるような組成のガスを用い、RuあるいはRh/焼結低表面積化マグネシア触媒が充填された外熱式多管反応管型の装置にて、反応温度(触媒層出口温度)800〜900℃、反応圧力1〜4MPa、ガス空間速度(GHSV)2000hr−1等の操作条件にて合成ガスを製造することができる。
【0101】
合成ガス製造においてスチームを用いて改質する場合、エネルギー効率の点から、スチームと原料カーボンとの比(S/C)は1.5以下とすることが好ましく、0.8〜1.2とすることがより好ましい。その一方で、S/Cをこのような低い値にすると、炭素析出発生の可能性が無視できなくなる。
【0102】
低S/Cで合成ガス製造を行う場合には、例えば、WO98/46524号公報、特開2000−288394号公報あるいは特開2000−469号公報に記載されているような、良好な合成ガス化反応の活性を有しつつも炭素析出活性が抑えられた触媒を用いることが好ましい。以下、これらの触媒について述べる。
【0103】
WO98/46524号公報に記載されている触媒は、金属酸化物からなる担体にロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウムおよび白金の中から選ばれる少なくとも1種の触媒金属を担持させた触媒であって、該触媒の比表面積が25m/g以下で、かつ該担体金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度が13.0以下であり、該触媒金属の担持量が金属換算量で担体金属酸化物に対して0.0005〜0.1モル%である触媒である。炭素析出防止の点からは、上記電気陰性度は4〜12が好ましく、上記触媒の比表面積は0.01〜10m/gが好ましい。
【0104】
なお、前記金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度は、次式により定義されるものである。
【0105】
Xi=(1+2i)Xo
ここで、Xi:金属イオンの電気陰性度、Xo:金属の電気陰性度、i:金属イオンの荷電子数である。
【0106】
金属酸化物が複合金属酸化物の場合は、平均の金属イオン電気陰性度を用い、その値は、その複合金属酸化物中に含まれる各金属イオンの電気陰性度に複合酸化物中の各酸化物のモル分率を掛けた値の合計値とする。
【0107】
金属の電気陰性度(Xo)はPaulingの電気陰性度を用いる。Paulingの電気陰性度は、「藤代亮一訳、ムーア物理化学(下)(第4版)、東京化学同人,p.707(1974)」の表15.4に記載の値を用いる。なお、金属酸化物中の金属イオンの電気陰性度(Xi)については、例えば、「触媒学会編、触媒講座、第2巻、p.145(1985)」に詳述されている。
【0108】
この触媒において、前記金属酸化物としては、Mg、Ca、Ba、Zn、Al、Zr、La等の金属を1種または2種以上含む金属酸化物が挙げられる。このような金属酸化物としては、例えば、マグネシア(MgO)が挙げられる。
【0109】
メタンとスチームとを反応させる方法(スチームリフォーミング)の場合、その反応は下記式(i)で示される。
【0110】
【化2】


メタンと二酸化炭素とを反応させる方法(COリフォーミング)の場合、その反応は下記式(ii)で示される。
【0111】
【化3】


メタンとスチームと二酸化炭素とを反応させる方法(スチーム/CO混合リフォーミング)の場合、その反応は下記式(iii)で示される。
【0112】
【化4】


上記の触媒を用いてスチームリフォーミングを行う場合、その反応温度は、好ましくは600〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.098MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaG(Gはゲージ圧であることを示す)である。また、このスチームリフォーミングを固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は、好ましくは1,000〜10,000hr−1、より好ましくは2,000〜8,000hr−1である。含炭素原料に対するスチームの使用割合を示すと、含炭素原料(COを除く)中の炭素1モル当り、好ましくはスチーム(HO)0.5〜2モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.8〜1.2モルの割合である。
【0113】
上記の触媒を用いてCOリフォーミングを行う場合、その反応温度は、好ましくは500〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.49MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaGである。また、このCOリフォーミングを固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は、好ましくは1,000〜10,000hr−1、より好ましくは2,000〜8,000hr−1である。含炭素原料に対するCOの使用割合を示すと、含炭素原料(COを除く)中の炭素1モル当り、好ましくはCO20〜0.5モル、より好ましくは10〜1モルの割合である。
【0114】
上記の触媒を用いて、含炭素原料にスチームとCOとの混合物を反応させて合成ガスを製造する(スチーム/CO混合リフォーミングを行う)場合、スチームとCOとの混合割合は特に制約されないが、一般的には、HO/CO(モル比)は、0.1〜10であり、その反応温度は、好ましくは550〜1200℃、より好ましくは600〜1000℃であり、その反応圧力は、好ましくは0.29MPaG〜3.9MPaG、より好ましくは0.49MPaG〜2.9MPaGである。また、この反応を固定床方式で行う場合、そのガス空間速度(GHSV)は、好ましくは1,000〜10,000hr−1、より好ましくは2,000〜8,000hr−1である。含炭素原料に対するスチームの使用割合を示すと、含炭素原料(COを除く)中の炭素1モル当り、好ましくはスチーム(HO)0.5〜2モル、より好ましくは0.5〜1.5モル、さらに好ましくは0.5〜1.2モルの割合である。
【0115】
特開2000−288394号公報に記載されている触媒は、下記式(I)で表される組成を有する複合酸化物からなり、MおよびCoが該複合酸化物中で高分散化されていることを特徴とする触媒である。
【0116】
・bCo・cMg・dCa・eO (I)
(式中、a,b,c,d,eはモル分率であり、a+b+c+d=1、0.0001≦a≦0.10、0.0001≦b≦0.20、0.70≦(c+d)≦0.9998、0<c≦0.9998、0≦d<0.9998であり、eは元素が酸素と電荷均衡を保つのに必要な数である。
【0117】
また、Mは周期律表第6A族元素、第7A族元素、Coを除く第8族遷移元素、第1B族元素、第2B族元素、第4B族元素およびランタノイド元素の少なくとも1種類の元素である。)
特開2000−469号公報に記載されている触媒は、下記式(II)で表される組成を有する複合酸化物からなり、MおよびNiが該複合酸化物中で高分散化されていることを特徴とする触媒である。
【0118】
・bNi・cMg・dCa・eO (II)
(式中、a,b,c,d,eはモル分率であり、a+b+c+d=1、0.0001≦a≦0.10、0.0001≦b≦0.10、0.80≦(c+d)≦0.9998、0<c≦0.9998、0≦d<0.9998であり、eは元素が酸素と電荷均衡を保つのに必要な数である。
【0119】
また、Mは周期律表第3B族元素、第4A族元素、第6B族元素、第7B族元素、第1A族元素およびランタノイド元素の少なくとも1種類の元素である。)
これらの触媒も、WO98/46524号公報に記載の触媒と同様にして用いることができる。
【0120】
含炭素原料のリフォーミング反応、すなわち合成ガスの合成反応は、上記の方法に限らず、その他、公知の方法に準じて行えばよい。また、含炭素原料のリフォーミング反応は、各種の反応器形式で実施することができるが、通常、固定床方式、流動床方式で実施することが好ましい。
【0121】
〔液化石油ガス製造工程〕
液化石油ガス製造工程では、本発明の液化石油ガス製造用触媒を用いて、上記の合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである低級パラフィン含有ガスを製造する。そして、得られた低級パラフィン含有ガスから、必要に応じて水分などを分離した後、プロパンの沸点より低い沸点または昇華点を持つ物質である低沸点成分(未反応の原料である水素および一酸化炭素、副生物である二酸化炭素、エタン、エチレンおよびメタンなど)や、ブタンの沸点より高い沸点を持つ物質である高沸点成分(副生物である高沸点パラフィンガスなど)を必要に応じて分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガス(LPG)を得る。また、液化石油ガスを得るために、必要に応じて加圧および/または冷却を行ってもよい。
【0122】
液化石油ガス製造工程では、上記のような本発明の液化石油ガス製造用触媒の存在下、一酸化炭素と水素とを反応させ、主成分がプロパンまたはブタンであるパラフィン類、好ましくは主成分がプロパンであるパラフィン類を製造する。
【0123】
ここで、反応器に送入されるガスは、上記の合成ガス製造工程において得られた合成ガスである。反応器に送入されるガスは、上記の合成ガス製造工程において得られた合成ガスに、必要に応じて、一酸化炭素や水素、その他の成分を加えたものであってもよい。また、反応器に送入されるガスは、上記の合成ガス製造工程において得られた合成ガスから、必要に応じて、所定の成分を分離したものであってもよい。
【0124】
本発明の触媒を用いた低級パラフィン含有ガス合成反応(LPG合成反応)は、好ましくはスラリー床方式で、前述のような反応条件で行えばよい。
【0125】
この液化石油ガス製造工程において得られる低級パラフィン含有ガスは、含まれる炭化水素の主成分がプロパンまたはブタンである。液化特性の点から、低級パラフィン含有ガス中のプロパンおよびブタンの合計含有量は多いほど好ましい。本発明では、プロパンおよびブタンの合計含有量が、含まれる炭化水素の炭素量基準で60%以上、さらには70%以上、さらには75%以上(100%も含む)である低級パラフィン含有ガスを得ることができる。
【0126】
さらに、液化石油ガス製造工程において得られる低級パラフィン含有ガスは、燃焼性および蒸気圧特性の点から、ブタンよりプロパンが多いことが好ましい。
【0127】
液化石油ガス製造工程において得られる低級パラフィン含有ガスには、通常、水分や、プロパンの沸点より低い沸点または昇華点を有する低沸点成分、ブタンの沸点より高い沸点を持つ物質である高沸点成分が含まれる。低沸点成分としては、例えば、副生物であるエタン、メタン、エチレンや、シフト反応により生成する二酸化炭素、未反応の原料である水素および一酸化炭素が挙げられる。高沸点成分としては、例えば、副生物である高沸点パラフィン(ペンタン、ヘキサン等)などが挙げられる。
【0128】
そのため、得られた低級パラフィン含有ガスから、必要に応じて水分、低沸点成分および高沸点成分などを分離し、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガス(LPG)を得る。
【0129】
水分の分離、低沸点成分の分離、高沸点成分の分離は、公知の方法によって行うことができる。
【0130】
水分の分離は、例えば、液液分離などによって行うことができる。
【0131】
低沸点成分の分離は、例えば、気液分離、吸収分離、蒸留などによって行うことができる。より具体的には、加圧常温での気液分離や吸収分離、冷却しての気液分離や吸収分離、あるいは、その組み合わせによって行うことができる。また、膜分離や吸着分離によって行うこともでき、これらと気液分離、吸収分離、蒸留との組み合わせによって行うこともできる。低沸点成分の分離には、製油所で通常用いられているガス回収プロセス(「石油精製プロセス」石油学会/編、講談社サイエンティフィク、1998年、p.28〜p.32記載)を適用することができる。
【0132】
低沸点成分の分離方法としては、プロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを、ブタンより沸点の高い高沸点パラフィンガス、あるいは、ガソリンなどの吸収液に吸収させる吸収プロセスが好ましい。
【0133】
高沸点成分の分離は、例えば、気液分離、吸収分離、蒸留などによって行うことができる。
【0134】
民生用としては、使用時の安全性の点から、例えば、分離によってLPG中の低沸点成分の含有量を5モル%以下(0モル%も含む)とすることが好ましい。
【0135】
このようにして製造されるLPG中のプロパンおよびブタンの合計含有量は、90モル%以上、さらには95モル%以上(100モル%も含む)とすることができる。
【0136】
本発明においては、低級パラフィン含有ガスから分離された低沸点成分を、合成ガス製造工程の原料としてリサイクルすることができる。
【0137】
低級パラフィン含有ガスから分離された低沸点成分は、合成ガス製造工程の原料として再利用することができる物質、具体的にはメタン、エタン、エチレンなどを含む。また、この低沸点成分中に含まれる二酸化炭素は、COリフォーミング反応によって合成ガスに戻すことができる。さらに、低沸点成分は、未反応の原料である水素、一酸化炭素を含む。そのため、この低級パラフィン含有ガスから分離された低沸点成分を合成ガス製造工程の原料としてリサイクルすることにより、原料原単位を低減させることができる。
【0138】
低級パラフィン含有ガスから分離された低沸点成分は、すべて合成ガス製造工程にリサイクルしてもよいし、また、一部を系外に抜き出し、残りを合成ガス製造工程にリサイクルしてもよい。低沸点成分は、所望の成分のみを分離して合成ガス製造工程にリサイクルすることもできる。
【0139】
合成ガス製造工程において、反応器である改質器に送入されるガス中の低沸点成分の含有量、すなわちリサイクル原料の含有量は適宜決めることができ、例えば、40〜75モル%とすることができる。
【0140】
低沸点成分をリサイクルするためには、適宜リサイクルラインに昇圧手段を設ける等、公知の技術を採用することができる。
【実施例】
【0141】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0142】
〔実施例1〕
(触媒の製造)
メタノール合成触媒成分としては、市販のCu−Zn系メタノール合成触媒(Cu−Zn−Al複合酸化物)を用いた。
【0143】
ゼオライト触媒成分としては、以下のようにして、市販のSiO/Al比が350のプロトン型β−ゼオライト(Zeolyst International社製)に含浸法により0.5重量%のPdと1.35重量%のCuを担持したCu−Pd/β−ゼオライトを用いた。
【0144】
まず、所定量のPd(NH(NO溶液に所定量のCu(NO・3HO、およびイオン交換水を加え、溶解させて、Cu−Pd含有溶液7ml(Cu濃度:7.56重量%、Pd濃度:0.75重量%)を調製した。そして、調製したCu−Pd含有溶液に、500℃で4時間焼成したβ−ゼオライト10gを加え、1時間撹拌して含浸させた。その後、65℃で減圧乾燥して溶媒を蒸発させ、得られたCu−Pd担持β−ゼオライトを120℃で8時間乾燥した後、さらに500℃で4時間焼成した。そして、これを機械的に粉砕して、Cu−Pd担持β−ゼオライト(以下、「Cu−Pd/β−ゼオライト」ともいう。)を得た。
【0145】
そして、Cu−Zn系メタノール合成触媒(以下、「Cu−Zn」ともいう。)と、調製したCu−Pd/β−ゼオライトとを、Cu−Zn:Cu−Pd/β−ゼオライト=1:4(重量比)で、均一に粉砕、混合して、約355μm以下に成形して、液化石油ガス製造用触媒を得た。
【0146】
(LPGの製造)
図1に示す撹拌型スラリー床高温高圧反応装置を用いてLPG合成反応を行った。反応器にはバンドヒーターを取り付け、その周りを保温カバーで覆った。バンドヒーターの温度は、反応器との間に挿入した熱電対で測定した。反応器内の温度は、反応器内に差し込まれた熱電対で測定し、PID制御を行った。
【0147】
反応に先立ち、調製した触媒は、水素・窒素混合ガス気流中(H/N=5/95;流量:100ml/min.)、常圧、300℃で8時間還元処理した。
【0148】
まず、反応器中に、溶媒としてn−ヘキサデカン50ml(38.65g)を入れた。次いで、窒素雰囲気下で、還元処理した触媒5gを溶媒に入れ、反応器を装置に設置した。
【0149】
最初にNを100ml/min.の流量で流し、3.5MPaまで昇圧した後、Nを止め、組成がCO:H:CO:Ar=32:60:5:3(モル比)の原料ガスを80ml/min.の流量で流しながら、3.5MPaまで昇圧した。そして、撹拌を開始し、触媒を溶媒に懸濁させてスラリー状態にした後、撹拌しながら、280℃まで2時間で昇温し、反応を開始した。このとき、200℃までは200rpm、280℃までは1050rpmで撹拌した。LPG合成反応の反応条件は、反応温度280℃、反応圧力3.5MPa、空間速度(触媒1g当たりの標準状態における原料ガスの供給速度)960ml/g・hとした。
【0150】
反応中、所定の時点で、オンラインに接続したガスクロマトグラフィーを用いて、生成ガスを分析した。分析終了後、反応ガス流通下で降温し、次いで反応ガスを止め、降圧した。反応停止後、触媒および溶媒をサンプリングした。
【0151】
なお、使用したガスクロマトグラフィーはGC−8A(島津製作所製)であり、炭化水素およびDMEの分析には検出器としてFIDを用いた。カラムは、充填剤にPropack−Qを用い、温度は60〜170℃とした。キャリアガスにはHeを用いた。CO、CO、CHおよびArの分析にはTCDを用いた。カラムは、充填剤に活性炭を用い、温度は90℃とした。キャリアガスにはHeを用いた。
【0152】
炭化水素(HC)の収率、ジメチルエーテル(DME)の収率、および、二酸化炭素(CO)の収率の経時変化を図2に、生成した炭化水素の組成の経時変化を図3に示す。
【0153】
「CO転化率(%)」、「炭化水素の収率(%)」、「COの収率(%)」、「DMEの収率(%)」、「炭化水素の組成(%)」は次のように定義される。
【0154】
CO転化率は、原料ガス中のCOが生成物に転化した割合を示したものである。
CO転化率(%)=[(入口のCO流量−出口のCO流量)/(入口のCO流量)]×100。
【0155】
炭化水素、CO、DMEの収率は、全原料から得られたそれぞれの生成物の割合を炭素基準で示したものである。
炭化水素の収率(%)=CO転化率(%)×炭化水素の選択率(%)×100、
COの収率(%)=CO転化率(%)×COの選択率(%)×100、
DMEの収率(%)=CO転化率(%)×DMEの選択率(%)×100。
【0156】
炭化水素の組成は、生成した全炭化水素に占めるそれぞれの炭化水素の含有率を炭素基準で示したものである。例えば、C3の炭化水素の含有率は次のように算出する。
全炭化水素中のC3(%)=[(C3のFID面積)/(C1のFID面積+C2のFID面積+C3のFID面積+C4のFID面積+C5のFID面積+C6のFID面積+・・・)]×100 (FID面積:ガスクロマトグラフィーのピーク面積)。
【0157】
〔比較例1〕
(触媒の製造)
メタノール合成触媒成分としては、実施例1で用いたものと同じ市販のCu−Zn系メタノール合成触媒を用いた。
【0158】
ゼオライト触媒成分としては、以下のようにして、実施例1で用いたものと同じ市販のSiO/Al比が350のプロトン型β−ゼオライトにイオン交換法により0.5重量%のPdを担持したPd/β−ゼオライトを用いた。
【0159】
まず、所定量のPd(NH(NO溶液にイオン交換水を加え、これを60℃の湯浴中で30分間撹拌して、Pd含有溶液150ml(濃度:0.027重量%)を調製した。そして、調製したPd含有溶液に、500℃で4時間焼成したβ−ゼオライト8gをゆっくりと加え、60℃で8時間加熱・撹拌した。その後、試料のろ過、イオン交換水による水洗を3回繰り返した。
【0160】
このようにして得られたPd担持β−ゼオライトを120℃で8時間乾燥した後、さらに500℃で4時間焼成した。そして、これを機械的に粉砕して、Pd担持β−ゼオライト(以下、「Pd/β−ゼオライト」ともいう。)を得た。
【0161】
そして、Cu−Zn系メタノール合成触媒(以下、「Cu−Zn」ともいう。)と、調製したPd/β−ゼオライトとを、Cu−Zn:Pd/β−ゼオライト=1:4(重量比)で、均一に粉砕、混合して、約355μm以下に成形して、液化石油ガス製造用触媒を得た。
【0162】
(LPGの製造)
調製した触媒を用い、実施例1と同様にしてLPG合成反応を行い、生成物をガスクロマトグラフィーにより分析した。
【0163】
炭化水素(HC)の収率、ジメチルエーテル(DME)の収率、および、二酸化炭素(CO)の収率の経時変化を図4に、生成した炭化水素の組成の経時変化を図5に示す。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上のように、本発明の液化石油ガス製造用触媒は、一酸化炭素と水素とを反応させて主成分がプロパンまたはブタンである炭化水素、すなわち液化石油ガス(LPG)を高活性、高選択性、高収率で製造することができ、しかも、触媒寿命が長く、劣化が少ないものであり、特にスラリー床反応方式で使用するのに適している。本発明の触媒を用いることにより、天然ガスなどの含炭素原料あるいは合成ガスから、LPGを長期間にわたって安定に、高活性、高選択性、高収率で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】本発明のLPGの製造方法を実施するのに好適な反応装置の一例を示す図である。
【図2】実施例1の(Cu−Zn系メタノール合成触媒+Cu−Pd/β−ゼオライト)触媒を用いたLPG合成反応における、炭化水素(HC)の収率、ジメチルエーテル(DME)の収率、および、二酸化炭素(CO)の収率の経時変化を示すグラフである。
【図3】実施例1の(Cu−Zn系メタノール合成触媒+Cu−Pd/β−ゼオライト)触媒を用いたLPG合成反応における、生成した炭化水素の組成の経時変化を示すグラフである。
【図4】比較例1の(Cu−Zn系メタノール合成触媒+Pd/β−ゼオライト)触媒を用いたLPG合成反応における、炭化水素(HC)の収率、ジメチルエーテル(DME)の収率、および、二酸化炭素(CO)の収率の経時変化を示すグラフである。
【図5】比較例1の(Cu−Zn系メタノール合成触媒+Pd/β−ゼオライト)触媒を用いたLPG合成反応における、生成した炭化水素の組成の経時変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素と水素とを反応させてプロパンまたはブタンを主成分とする液化石油ガスを製造する際に用いられる触媒であって、
Cu−Zn系メタノール合成触媒と、PdとCu、Cr、MnまたはFeのいずれか1種以上とを担持したβ−ゼオライト(以下、「Pd担持β−ゼオライト」と言う。)とを含有することを特徴とする液化石油ガス製造用触媒。
【請求項2】
前記Pd担持β−ゼオライトが、PdとCuをβ−ゼオライトに担持したものである請求項1に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項3】
前記Pd担持β−ゼオライトのPdの担持量が0.05質量%〜5質量%である請求項1または2に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項4】
前記Pd担持β−ゼオライトのCuの担持量が0.1質量%〜10質量%である請求項2または3に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項5】
前記Pd担持β−ゼオライトの担体であるβ−ゼオライトのSiO/Al比が10〜500である請求項1〜4のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項6】
前記Cu−Zn系メタノール合成触媒が、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物、または、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とする複合酸化物に一種以上の金属を担持したものである請求項1〜5のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項7】
前記複合酸化物が、酸化銅および酸化亜鉛を主成分とし、さらに添加成分として酸化アルミニウムおよび/または酸化クロムを含んでいてもよい複合酸化物であり、
その含有比率が、質量基準で、酸化銅:酸化亜鉛:酸化アルミニウム:酸化クロム=1:0.05〜20:0〜2:0〜2である請求項6に記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項8】
前記Cu−Zn系メタノール合成触媒と前記Pd担持β−ゼオライトの含有比率が、質量比で、4:1〜1:6である請求項1〜7のいずれかに記載の液化石油ガス製造用触媒。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒の存在下で一酸化炭素と水素とを反応させ、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載の触媒を溶媒に懸濁させたスラリーに、一酸化炭素と水素とを含む原料ガスを流通させて、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。
【請求項11】
前記溶媒が、炭素数10〜20の炭化水素である請求項10に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項12】
反応温度が200℃以上325℃以下であり、
反応圧力が1MPa以上8MPa以下であり、
空間速度(触媒1g当たりの標準状態における原料ガスの供給速度)が100ml/g・h以上50000ml/g・h以下である請求項10または11に記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項13】
前記原料ガスが、合成ガスである請求項10〜12のいずれかに記載の液化石油ガスの製造方法。
【請求項14】
(1)含炭素原料と、HO、OおよびCOからなる群より選択される少なくとも一種とから、合成ガスを製造する合成ガス製造工程と、
(2)請求項1〜8のいずれかに記載の触媒を溶媒に懸濁させたスラリーに合成ガスを流通させて、主成分がプロパンまたはブタンである液化石油ガスを製造する液化石油ガス製造工程と
を有することを特徴とする液化石油ガスの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−195815(P2009−195815A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39295(P2008−39295)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(503065494)日本ガス合成株式会社 (18)
【Fターム(参考)】