説明

液圧作動流体組成物

【課題】圧縮率が低く、加圧操作に対する優れた応答性を有する液圧作動流体組成物を提供すること。
【解決手段】ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコールエーテル類、ポリアルキレングリコールエーテル類のホウ酸エステル類、ポリエーテルポリオール類またはシリコーン類の少なくとも1種をベースとし、前記ベース中に金属、炭化物、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の中から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物からなる固体粒子を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧作動流体組成物、特に液圧ブレーキで運転者がマスターシリンダーに入力した力をキャリパーに伝達するための油圧系統や、クラッチ系統に使用される装置内に充填される液圧作動流体組成物に関する。詳細には、圧縮率が低く、加圧操作に対する優れた応答性を有する液圧作動流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧力媒体として用いられる液圧作動流体組成物には、粘度が低いほど減圧操作に対する応答が速く、圧縮率が小さいほど加圧操作に対する応答性に優れることから、粘度特性及び圧縮特性が求められている。
【0003】
近年、コンピュータ技術の導入から、連続的に加圧する操作に代わり、加圧と圧力緩和を短時間に繰り返し行う方法が用いられるようになり、このような方法に使用する液圧作動流体組成物には、圧力変化に対する応答性に優れるものが求められるようになった。
【0004】
このような要求を満足すべく、低粘度シリコーンオイルまたは、低粘度鉱物油をベースとした液圧作動流体組成物が提案されている。しかし、低粘度シリコーンオイルをベースとした液圧作動流体組成物の場合、粘度特性に優れるものの、圧縮率が高く加圧操作に対する十分な応答性が得られないという問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を有する低粘度シリコーンオイルに代えて粘度特性に優れており、しかも圧縮特性にも優れるトリエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類をベースとした液圧作動流体組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、ブレーキ系統を構成するシリンダーやピストンには、アルミニウム、鋳鉄、鋼などの金属が使用されており、これらシリンダやピストンの腐食に起因してピストンの作動不良が生じることから、グリコールエーテル類をベースとし、このベース中に金属腐食の抑制を目的として防錆剤が添加された液圧作動流体組成物も提案されている(特許文献2参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平2−22394号公報
【特許文献2】特開平10−36869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、ニーズの多様化により、液圧作動流体組成物の加圧操作に対する応答性について、レース用車両並の性能が求められる場合がある。しかし、従来の液圧作動流体組成物は、そのような高い要求を満足するものではなかった。
【0009】
本発明者らは、圧力媒体として用いられる液圧作動流体組成物について、特には圧縮率が低く、加圧操作に対する優れた応答性を有する液圧作動流体組成物について鋭意研究の結果、本発明を完成するに至ったのである。
【0010】
すなわち本発明は、圧縮率が低く、加圧操作に対する優れた応答性を有する液圧作動流体組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、ベース中に固体粒子を含有することを特徴とする液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0012】
請求項2記載の発明は、固体粒子が、金属、炭化物、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の中から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0013】
請求項3記載の発明は、固体粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ダイアモンド、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化モリブデン、炭化チタン、窒化チタン、銀、銅、鉄、スズ、及びグラファイトのいずれか1種若しくはこれらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0014】
請求項4記載の発明は、固体粒子の平均粒径が0.001〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0015】
請求項5記載の発明は、固体粒子がベース中に0.01〜99質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0016】
請求項6記載の発明は、固体粒子が酸化ケイ素であって、ベース中に0.01〜50質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項5に記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0017】
請求項7記載の発明は、固体粒子が酸化アルミニウムであって、ベース中に0.01〜80質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項5に記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0018】
請求項8記載の発明は、ベースが、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコールエーテル類、ポリアルキレングリコールエーテル類のホウ酸エステル類、ポリエーテルポリオール類、及びシリコーン類から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【0019】
請求項9記載の発明は、ベース中に、少なくとも1種の防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤および潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液圧作動流体組成物をその要旨とした。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液圧作動流体組成物にあっては、ベース中に、固体粒子、特には金属、炭化物、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の中から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物を含有することで、圧縮率がより低くなり、加圧操作に対する優れた応答性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の液圧作動流体組成物につき、さらに詳しく説明する。本発明の液圧作動流体組成物(以下、単に組成物という)のベースとしては、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコールエーテル類、ポリアルキレングリコールエーテル類のホウ酸エステル類、ポリエーテルポリオール類、及びシリコーン類から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物を用いることができる。
【0022】
ポリアルキレングリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
【0023】
ポリアルキレングリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
【0024】
ポリアルキレングリコールエーテルのホウ酸エステル類としては、例えばトリエチレングリコールモノメチルホウ酸エステル、トリエチレングリコールモノブチルホウ酸エステル、テトラエチレングリコールモノメチルホウ酸エステルなどの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
【0025】
ポリエーテルポリオール類としては、例えば分子量1000〜4000の中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
【0026】
シリコーン類としては、例えばジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸含有シリコーンオイル、フェニル変性シリコーンオイルの中から選ばれる1種若しくは2種以上からなるものを挙げることができる。
【0027】
上記ベース中に含まれる固体粒子としては、金属、炭化物、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の中から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物を挙げることができ、固体粒子の好ましい具体的としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ダイアモンド、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化モリブデン、炭化チタン、窒化チタン、銀、銅、鉄、スズ、グラファイトのいずれか1種若しくはこれらの混合物を挙げることができる。
【0028】
金属粒子の平均粒径は0.001〜1000μmの範囲内ものを用いる。固体粒子の平均粒径が上記範囲外の場合には、固体粒子の沈殿などにより圧縮率が低くなり、加圧操作に対する優れた応答性を有する、という十分な効果を得ることができなくなるからである。金属粒子の平均粒径の好ましい範囲としては、0.001〜100μmであり、より好ましくは0.001〜10μmであり、最適には0.001〜1μmである。
【0029】
ベース中における金属粒子の含有量としては1〜85質量%の範囲が好ましく、より好ましくは10〜85質量%であり、最適には20〜85質量%である。金属粒子の含有量が1質量%を下回る場合、圧縮率を下げる十分な効果を得ることができなくなり、85質量%を上回る場合には、上回った分だけ、圧縮率を下げる効果を得られないばかりか、潤滑特性を損なう恐れがある。
【0030】
特に固体粒子として酸化ケイ素を用いる場合、ベース中に0.01〜50質量%の割合で含まれていることが、圧縮率を下げ、応答性向上効果を得る点で望ましい。また、金属粒子として酸化アルミニウムを用いる場合には、ベース中に0.01〜80質量%の割合で含まれていることが、圧縮率を下げ、応答性向上効果を得る点で望ましい。
【0031】
本発明の組成物は、金属腐食の抑制を目的として防錆剤を含む形態を採ることができる。ベースに添加される防錆剤の種類並びにその添加量は、ブレーキ系統のシリンダーやピストンを構成する金属に対応して適宜決定すればよい。具体的には、ブレーキ系統のシリンダーやピストンを構成する金属には、主にアルミニウム、鋳鉄、鋼などの金属が使用されることから、その防錆剤としては、ラウリル酸やオレイン酸などのモノカルボン酸、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールなどのトリアゾール類が好ましく用いることができる。
【0032】
酸化防止剤としてはビスフェノール類、BHTなどのフェノール類などが挙げられる。
【0033】
pH調整剤としては、例えばトリエタノールアミン、イソプロパノールアミンなどのアルカノールアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミンなどのアルキルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどのシクロアルキルアミンなどを用いることができる。
【0034】
潤滑剤としては、例えばリン酸エステル類、ジチオプロピオネート、ヒドラジン類などが挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の組成物の表1に示す好ましい実施例1〜7並びに比較例について、その圧縮性を測定し、加圧操作に対する優れた応答性を評価した。その結果を表2に示した。表1の実施例1〜7並びに比較例のベースには、いずれもトリエチレングリコールメチルエーテルを使用した。また、これら実施例1〜7並びに比較例のベースには、防錆剤として、トリルトリアゾール、BHT、ジシクロヘキシルアミンをそれぞれ同量を添加した。さらに実施例1には、金属粒子として平均粒径10μmの酸化ケイ素を配合し、実施例2〜7には、平均粒径13μmの酸化アルミニウムを配合した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
尚、応答性の評価は、図1に示す試験装置を用い、この装置のマスタシリンダに実施例1〜7並びに比較例の各組成物を充填し、40kgf/cm2の圧力を付加したときのシリンダの移動距離(mm)を測定するという方法により行った。
【0039】
表2から、金属粒子を含まない比較例のシリンダの移動距離が4.94mmであるのに対し、酸化ケイ素を配合した実施例1のシリンダの移動距離は4.51mm、酸化アルミニウムを配合した実施例2〜7のシリンダの移動距離は4.83〜4.40mmであった。このことから、金属粒子の配合により応答性が向上することが確認された。
【0040】
さらに実施例2〜7の結果を見たとき、5質量部、10質量部、20質量部、30質量部、40質量部、50質量部と酸化アルミニウムの配合量が増えるに従って、応答性が向上することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施例1〜7並びに比較例の応答性を評価する試験装置を示す模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース中に固体粒子を含有することを特徴とする液圧作動流体組成物。
【請求項2】
固体粒子が、金属、炭化物、金属酸化物、金属炭化物、及び金属窒化物の中から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1に記載の液圧作動流体組成物。
【請求項3】
固体粒子が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、ダイアモンド、炭化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化タングステン、酸化ストロンチウム、酸化インジウム、酸化モリブデン、炭化チタン、窒化チタン、銀、銅、鉄、スズ、及びグラファイトのいずれか1種若しくはこれらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載の液圧作動流体組成物。
【請求項4】
固体粒子の平均粒径が0.001〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の液圧作動流体組成物。
【請求項5】
固体粒子がベース中に0.01〜99質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の液圧作動流体組成物。
【請求項6】
固体粒子が酸化ケイ素であって、ベース中に0.01〜50質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項5に記載の液圧作動流体組成物。
【請求項7】
固体粒子が酸化アルミニウムであって、ベース中に0.01〜80質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項5に記載の液圧作動流体組成物。
【請求項8】
ベースが、ポリアルキレングリコール類、ポリアルキレングリコールエーテル類、ポリアルキレングリコールエーテル類のホウ酸エステル類、ポリエーテルポリオール類、及びシリコーン類から選ばれるいずれか1種若しくはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の液圧作動流体組成物。
【請求項9】
ベース中に、少なくとも1種の防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤および潤滑剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の液圧作動流体組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−256525(P2009−256525A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109909(P2008−109909)
【出願日】平成20年4月21日(2008.4.21)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】