説明

液晶−シリカ複合体分散組成物及びその製造方法

【課題】 安定性の改善された液晶分散組成物を提供する。
【解決手段】 両親媒性物質と特定構造の水溶性シラン誘導体とを用いて逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することで、液晶相内でシリカの重合が進み、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)がシリカによって固化された液晶−シリカ複合体が得られ、この液晶−シリカ複合体を分散することで、内相の液晶構造の安定性が改善され、優れた薬剤保持能力を有する液晶分散組成物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶−シリカ複合体分散物及びその製造方法、特に両親媒性物質からなる液晶分散組成物の安定性の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薬剤等を内包するカプセル化技術としてリポソーム等が知られている(例えば特許文献1参照)。リポソームは、レシチンやホスファチジルイノシトールのようなリン脂質によって作られるラメラ二分子膜が小胞体を形成して分散されたものであり、その膜内及び内水相に薬剤等を内包し得るカプセル技術である。しかしながら、リポソームはコロイド化学的に不安定な場合が多く、リポソーム粒子同士の凝集や融合、さらには粒子径の増大などが起こる場合があり、安定性の点で問題があった。
【0003】
一方で、薬物担体として立方晶系または六方晶系の液晶相を含有する組成物が知られている(例えば特許文献2〜4参照)。これらの技術は、液晶相内部の水相あるいは油相部に薬剤等を保持させ、この液晶を処方中へと分散させた液晶分散物として用いるカプセル化技術である。しかしながら、これら従来の液晶カプセルにおいては、薬剤の保持能力の点で限界があり、また、温度や他成分の影響等により液晶構造が崩壊する場合がある等、カプセル化技術としての実用化の際には問題点が存在していた。
【0004】
【特許文献1】特開平4−208216号公報
【特許文献2】特公平5−34332号公報
【特許文献3】特表平7−502197号
【特許文献4】特開平8−40823号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は前記従来技術の課題に鑑みて行われたものであり、その目的は、安定性の改善された液晶分散組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来技術の課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討を行った結果、両親媒性物質と特定構造の水溶性シラン誘導体とを用いて逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することで、液晶相内でシリカの重合が進み、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)がシリカによって固化された液晶−シリカ複合体が得られ、この液晶−シリカ複合体を分散することで、内相の液晶構造の安定性が改善され、優れた薬剤保持能力を有する液晶分散組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明にかかる液晶−シリカ複合体分散組成物は、(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、(B)水と、(C)分散剤とを含み、該(A)両親媒性物質及び一部の(B)水により形成される逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が、該(C)分散剤によって残部の(B)水中に微粒子状に分散された液晶分散組成物であって、該逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)内部においてシリカが形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
また、前記液晶−シリカ複合体分散組成物において、前記(A)両親媒性物質がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンであることが好適である。
また、前記液晶−シリカ複合体分散組成物において、前記(A)両親媒性物質の配合量が、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好適である。
【0009】
また、本発明にかかる液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法は、(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、(B)水の一部と、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体とを含む成分を混合し、該(A)両親媒性物質及び及び一部の(B)水による逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成するとともに、該逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)内においてシリカを形成し、液晶−シリカ複合体を形成する工程と、前記工程により得られた液晶−シリカ複合体を、(B)水の残部と、(C)分散剤を含む水溶液と混合し、該液晶−シリカ複合体が残部の(B)水中に微粒子状に分散された組成物を形成する工程とを備えることを特徴とするものである。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0010】
また、前記液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(A)両親媒性物質がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンであることが好適である。
また、前記液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(A)両親媒性物質の配合量が、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好適である。
また、前記液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、組成物全量に対して0.01〜10.0質量%であることが好適である。
【0011】
また、本発明にかかる化粧料は、前記液晶−シリカ複合体分散組成物からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、両親媒性物質と特定構造の水溶性シラン誘導体とを用いて逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することで、液晶相内でシリカの重合が進み、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)がシリカによって固化された液晶−シリカ複合体が得られ、この結果、液晶構造の安定性が改善され、この液晶−シリカ複合体を分散することで、優れた薬剤保持能力を有する液晶分散組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明にかかる液晶−シリカ複合体分散組成物は、(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、(B)水と、(C)分散剤とを含み、該(A)両親媒性物質及び一部の(B)水により形成される逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が、該(C)分散剤によって残部の(B)水中に微粒子状に分散された液晶分散組成物であって、該逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)内部においてシリカが形成されていることを特徴とするものである。
【0014】
(A)両親媒性物質
本発明に用いられる(A)両親媒性物質は、水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得るものであれば、特に限定することなく用いることができる。(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質としては、例えば、テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン(商品名フィタントリオール:クラレ社製)、モノオレイン酸グリセリン、モノイソステアリン酸グリセリン等のグリセリン脂肪酸モノエステル等が挙げられるが、特にテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンを好適に用いることができる。
【0015】
また、上記(A)両親媒性物質は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることも可能である。(A)両親媒性物質の配合量は、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る量であれば特に限定されるものではないが、液晶分散組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10.0質量%である。(A)両親媒性物質の配合量が少ないと液晶相の形成による効果が得られない場合があり、一方で、配合量が多すぎると、液晶の凝集や合一が起こりやすく、分散安定性に劣る場合がある。
【0016】
(B)水
(B)水の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物全量に対して(逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)形成の前後で添加された水の総量が)60質量%以上であることが好ましく、さらに好ましくは80〜99.9質量%である。(B)水の配合量が少ないと、液晶の分散安定性が低下する場合がある。
【0017】
上記(A)両親媒性物質及び(B)水は、本発明にかかる液晶−シリカ複合体分散物において、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成している。ここで、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)構造とは、光学的に等方性を示す立方体状の液晶相状態であり、通常、透明ゲル状である。光学的に等方性であることは、偏光板2枚を直行させた間にサンプルを置いた場合に、光が透過しないことによって確認できる。この立方体状相においては、近接した別個の親水性領域と親油性領域とが熱力学的に安定な三次元網目状構造を形成し、2つの極が存在するような両連続相状態に構成されている。立方液晶相は、親水性領域と親油性領域の配列に応じて、正常型と逆転型が存在し、本発明における逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)は、逆転型の形式の立方体状相を有するゲルに分類されるものを意味する。逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)は、X線小角散乱測定及び偏光板による光学的等方性の確認、凍結レプリカによる電子顕微鏡観察等、公知の手法によって同定することができる(Jonas Gustafson.,Langmuir,1997,13,6964−6971)。
【0018】
(C)分散剤
本発明に用いられる(C)分散剤は、以上のようにして得られた逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)構造を微粒子として水性溶媒中に安定に分散し得るものであれば、特に限定することなく用いることができる。このような(C)分散剤としては、特に陰イオン性界面活性剤を好適に用いることができる。陰イオン性界面活性剤を用いた場合、静電反発力によって粒子同士の反発力が強まり、液晶−シリカ複合体の分散安定性に優れる。
【0019】
本発明に用いられる陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等の脂肪酸セッケン、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルキル硫酸エステル塩、POEラウリル硫酸ナトリウム等のアルキルエーテル硫酸エステル塩、N−ミリストイル−N−メチルタウリンナトリウム等の高級脂肪酸アミドスルホン酸塩、POEオレイルエーテルリン酸ナトリウム等のリン酸エステル塩、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、N−ラウロイルグルタミン酸モノナトリウム等のN−アシルグルタミン酸塩、硬化ヤシ油脂肪酸グリセリン硫酸ナトリウム等の高級脂肪酸エステル硫酸エステル塩、ロート油等の硫酸化油、POEアルキルエーテルカルボン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、高級脂肪酸エステルスルホン酸塩、二級アルコール硫酸エステル塩、高級脂肪酸アルキロールアミド硫酸エステル塩、ラウロイルモノエタノールアミドコハク酸ナトリウム、N−パルミトイルアスパラギン酸ジトリエタノールアミン、カゼインナトリウム等が挙げられるが、特にPOEアルキルエーテル酢酸塩を好適に用いることができる。

【0020】
製造方法
本発明にかかる液晶−シリカ複合体分散組成物は、上記(A)両親媒性物質と(B)水の一部と(D)特定構造の水溶性シラン誘導体とを用いて逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することで、液晶相内でシリカの重合が進み、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)がシリカによって固化された液晶−シリカ複合体が得られ、この液晶−シリカ複合体を上記(C)分散剤によって残部の(B)水中に分散することで、優れた薬剤保持能力を有する液晶−シリカ複合体分散組成物として得られるものである。
【0021】
本発明の液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法の一例を示し、製造方法についてさらに詳しく説明する。
1) まず最初に、(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、一部の(B)水と、(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体とを含む成分を混合し、該(A)両親媒性物質及び(B)水による逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成する。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【0022】
(D)水溶性シラン誘導体
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体は、上記一般式(1)に示されるものである。上記一般式(1)に示される水溶性シラン誘導体において、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。多価アルコール残基は、多価アルコールにおける1つの水酸基が除かれた形として示される。なお、(D)水溶性シラン誘導体は、通常、テトラアルコキシシランと多価アルコールとの置換反応により調製することができ、Rの多価アルコール残基は、使用する多価アルコールの種類によって異なるが、例えば、多価アルコールとしてエチレングリコールを用いた場合、Rは−CH−CH−OHとなる。なお、Rの少なくとも1つが、置換多価アルコール残基であればよく、その他は未置換のアルキル基であってもよい。
【0023】
上記一般式(1)におけるRの多価アルコール残基としては、例えば、エチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ポリエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、ポリプロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、ヘキシレングリコール残基、グリセリン残基、ジグリセリン残基、ポリグリセリン残基、ネオペンチルグリコール残基、トリメチロールプロパン残基、ペンタエリスリトール残基、マルチトール残基等が挙げられる。これらのうち、Rがエチレングリコール残基、プロピレングリコール残基、ブチレングリコール残基、グリセリン残基のいずれかであることが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体としては、より具体的には、Si−(O−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CH−OH)、Si−(O−CH−CH−CHOH−CH、Si−(O−CH−CHOH−CH−OH)等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられる(D)水溶性シラン誘導体は、例えば、テトラアルコキシシランと多価アルコールとを、固体触媒の共存下で反応させることにより調製することができる。
【0026】
テトラアルコキシシランは、ケイ素原子に4つのアルコキシ基が結合したものであればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いるテトラアルコキシシランとしては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び反応副生成物の安全性の点から、テトラエトキシシランを用いるのが最も好ましい。
【0027】
なお、テトラアルコキシシランの代替化合物として、モノ、ジ、トリハロゲン化アルコキシシラン、例えばモノクロロトリエトキシシラン、ジクロロジメトキシシラン、モノブロモトリエトキシシラン等、あるいはテトラハロゲン化シラン、例えばテトラクロロシラン等を用いる事も考えられるが、これらの化合物は、多価アルコールとの反応において、塩化水素、臭化水素などの強酸を生成するため、反応装置の腐食が生じたり、さらには反応後の分離除去が困難であるため、実用的であるとは言い難い。
【0028】
多価アルコールは、分子中に2つ以上の水酸基を有する化合物であればよく、特に限定されるものではない。水溶性シリケートモノマーの製造に用いる多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、マルチトール等が挙げられる。これらのうち、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリンのいずれかを用いるのが好ましい。
【0029】
固体触媒は、用いられる原料成分、反応溶媒、及び反応生成物に対して不溶な固体状の触媒であり、ケイ素原子上の置換基交換反応に対して活性を有する酸点及び/又は塩基点を有する固体であればよい。本発明に用いられる固体触媒としては、例えば、イオン交換樹脂、及び各種無機固体酸/塩基触媒が挙げられる。
【0030】
固体触媒として用いられるイオン交換樹脂としては、例えば、酸性陽イオン交換樹脂及び塩基性陰イオン交換樹脂が挙げられる。これらのイオン交換樹脂の基体をなす樹脂としてはスチレン系、アクリル系、メタクリル系樹脂等が挙げられ、また、触媒活性を示す官能基としてはスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、4級アンモニウム、3級アミン、1,2級ポリアミン等が挙げられる。また、イオン交換樹脂の基体構造としては、ゲル型、ポーラス型、バイポーラス型等から、目的に応じて選択することができる。
【0031】
酸性陽イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRC76、FPC3500、IRC748、IRB120B Na、IR124 Na、200CT Na(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SK1B、PK208(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア650C、マラソンC、HCR−S、マラソンMSC(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。また、塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライト IRA400J CL、IRA402BL CL、IRA410J CL、IRA411 CL、IRA458RF CL、IRA900J CL、IRA910CT CL、IRA67、IRA96SB(以上、ロームアンドハース社製)、ダイヤイオン SA10A、SAF11AL、SAF12A、PAF308L(以上、三菱化学社製)、Dow EX モノスフィア550A、マラソンA、マラソンA2、マラソンMSA(以上、ダウ・ケミカル社製)等が挙げられる。
【0032】
固体触媒として用いられる無機固体酸/塩基触媒としては、特に限定されるものではない。無機固体酸触媒としては、Al、SiO、ZrO、TiO、ZnO、MgO、Cr等の単元系金属酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、SiO−ZrO、TiO−ZrO、ZnO−Al、Cr−AlO3、SiO−MgO、ZnO−SiO等の複合系金属酸化物、NiSO、FeSO等の金属硫酸塩、FePO等の金属リン酸塩、HSO/SiO等の固定化硫酸、HPO/SiO等の固定化リン酸、HBO/SiO等の固定化ホウ酸、活性白土、ゼオライト、カオリン、モンモリロナイト等の天然鉱物又は層状化合物、AlPO−ゼオライト等の合成ゼオライト、HPW1240・5HO、HPW1240等のヘテロポリ酸等が挙げられる。また、無機固体塩基触媒としては、NaO、KO、RbO、CsO、MgO、CaO、SrO、BaO、La、ZrO、ThO等の単元系金属酸化物、NaCO、KCO、KHCO、KNaCO、CaCO、SrCO、BaCO、(NHCO、NaWO・2HO、KCN等の金属塩、Na−Al、K−SiO等のアルカリ金属担持金属酸化物、Na−モルデナイト等のアルカリ金属担持ゼオライト、SiO−MgO、SiO−CaO、SiO−SrO、SiO−ZnO、SiO−Al、SiO−ThO、SiO−TiO、SiO−ZrO、SiO−MoO、SiO−WO、Al−MgO、Al−ThO、Al−TiO、Al−ZrO、ZrO−ZnO、ZrO−TiO、TiO−MgO、ZrO−SnO等の複合系金属酸化物等が挙げられる。
【0033】
固体触媒は、反応終了後にろ過あるいはデカンテーション等の処理を行なうことによって、容易に生成物と分離することができる。
【0034】
(D)水溶性シラン誘導体の製造においては、反応時に溶媒を用いなくてもよいが、必要に応じて各種溶媒を用いても構わない。反応に用いる溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、セロソルブ、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエステル、エーテル、ケトン系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、さらにはクロロホルム、ジクロロメタン等のハロゲン系溶媒が挙げられる。ここで、原料として用いるテトラアルコキシシランの加水分解縮合反応を抑制するため、溶媒は予め脱水しておくことが好ましい。また、これらのうちで、反応時に副生成するエタノール等のアルコールと共沸混合物を形成して系外へと除去することで反応を促進することのできるアセトニトリル、トルエン等を用いることが好ましい。
【0035】
(D)水溶性シラン誘導体は、単独で用いても、2種以上を混合して用いても構わない。(D)水溶性シラン誘導体の配合量は、特に限定されるものではないが、組成物全量中0.01〜10質量%であることが好適である。水溶性シラン誘導体の含有量が0.01質量%未満では液晶の安定化効果が得られない場合があり、10質量%を超えると液晶が硬くなりすぎて分散しにくくなったり、あるいは使用感触に劣ってしまう場合がある。
【0036】
ここで、(D)水溶性シラン誘導体は、水中での加水分解・脱水縮合反応により、シリカゲルと多価アルコールとを生成する。このため、(D)水溶性シラン誘導体を添加・混合することにより、液晶相内でシリカの重合が進み、、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)がシリカによって固化された液晶−シリカ複合体が得られる。
【0037】
なお、上記(A),(B)及び(D)成分のほかに、任意の水性成分あるいは油性成分を液晶相内包成分として上記成分とともに混合して、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することができる。
【0038】
2)つづいて、前記工程により得られた液晶−シリカ複合体を、上記(B)水の残部と(C)分散剤を含む水溶液と混合し、該液晶−シリカ複合体が残部の(B)水中に微粒子状に分散された組成物を形成する。
【0039】
ここで、液晶−シリカ複合体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、通常、20〜500nm程度であり、好ましくは50〜200nmである。平均粒子径の測定は、例えば、動的光散乱法、レーザー回折法等によって行うことができる。
【0040】
以上のようにして得られる液晶−シリカ複合体分散組成物は、例えば、化粧料として好適に用いることができる。化粧料として用いる場合には、上記(A)〜(D)の必須成分の他に、通常、医薬品、化粧品に用いられる成分を、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)あるいはシリカの形成、およびこれらの安定性について悪影響の無い範囲で、任意に配合してもよい。なお、他の処方成分は、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)形成の前後、あるいは液晶−シリカ複合体形成後のいずれの時点で配合しても構わない。通常の場合、任意の水性(あるいは油性の)薬剤成分を処方中に配合して液晶−シリカ複合体を形成し、その後、液晶−シリカ複合体を分散することで、液晶相内にのみ薬剤成分が存在するマイクロカプセル組成物とすることが可能である。
【0041】
本発明にかかる化粧料の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、化粧水、ヘアリキッド等として好適に使用することが可能である。
【実施例1】
【0042】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明についてさらに詳しく説明を行うが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下、特に断りの無い限り、配合量は質量%で示す。
【0043】
まず最初に、本発明において用いられる水溶性シラン誘導体の製造方法について説明する。
合成例1:グリセリン置換シラン誘導体
テトラエトキシシラン60.1g(0.28モル)と、グリセリン106.33g(1.16モル)とを混合し、無溶媒下、固体触媒として強酸性イオン交換樹脂(DowEX 50W−X8:ダウ・ケミカル社製)1.1gを添加した後、85℃で混合攪拌した。約3時間の後、混合物は一層透明溶液となった。さらに5時間30分反応を続けた後、得られた溶液を終夜静置した。減圧下、固体触媒をろ過分離した後、少量のエタノールで洗浄した。さらにこの溶液からエタノールを留去して、透明の粘性液体112gを得た。生成物は、同量の水と室温で混合することにより、やや発熱し、均一で透明なゲルを形成した(収率:97%)。
【0044】
本発明者らは、上記合成例に準じてグリセリン置換シラン誘導体を調製し、これを両親媒性物質とともに用いて逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成することで、液晶相内でシリカを重合した液晶−シリカ複合体の調製を試み、得られた生成物についての検討を行った。
【0045】
液晶‐シリカ複合体
両親媒性物質としてテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン(フィタントリオール:クラレ社製)75質量部、グリセリン置換シラン誘導体5質量部、水20質量部を混合し、透明ゲル状の組成物を得た。
以上のようにして得られたゲル状組成物について小角X線回折測定(JDX3500:JEOL社製)を行った結果を図1に示す。
【0046】
図1に示されるように、両親媒性物質と水溶性シラン誘導体と水とを用いて調製した上記の透明ゲル状組成物においては、V2相(逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相))が形成されていることが確認された。
【0047】
また、上記試験において、両親媒性物質を75質量部、水と水溶性シラン誘導体を合計量で25質量部とした条件で、水溶性シラン誘導体の濃度を適宜変化させ、得られたゲル状組成物の硬度(3φ,200g荷重)を硬度計(カードメーター(301):LIO electric社製)を用いて測定した。
水溶性シラン誘導体濃度に対するゲル状組成物の硬度の変化を図2に示す。
【0048】
図2に示されるように、水溶性シラン誘導体濃度の増加に伴って、ゲル状組成物の硬度が増加していることがわかった。この結果から、水溶性シラン誘導体の配合によって、液晶相内部において、シリカが形成されていることが確認される。
【0049】
液晶‐シリカ複合体分散物
つづいて、上記試験において、両親媒性物質75質量部、水溶性シラン誘導体5質量部、水20質量部の条件で得られた透明ゲル状組成物(逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相))を、0.1%の分散剤(ポリオキシエチレン(2モル)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム)水溶液95質量部中に添加し、ホモミキサーで攪拌混合して、液晶−シリカ複合体分散物を得た。
以上のようにして得られた液晶−シリカ複合体分散物について、凍結レプリカ法により透過型顕微鏡(TEM)写真の撮影を行った(H7000:日立製作所製)。
液晶−シリカ複合体分散物のTEM写真図を図3に示す。
【0050】
図3に示されるように、約100nm程度の球状の液晶粒子の存在が確認され、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)構造が水中に微分散されていることがわかった。
【0051】
さらに、上記試験と同様にして、テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン75質量部、グリセリン置換シラン誘導体5質量部、水19質量部、タートラジン(色素)1質量部を混合し、透明ゲル状組成物(逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相))を調製した。これを室温で1週間保存し、0.1%ポリオキシエチレン(2モル)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム水溶液95質量部中に添加し、ホモミキサーで攪拌混合して、液晶−シリカ複合体分散物を得た。
以上のようにして得られた液晶−シリカ複合体分散物について、経時での色素の溶出量を、遠心分離後の上澄み液の425nmにおける吸光度によって測定した。なお、比較として、水溶性シラン誘導体無添加の液晶分散物を用いて同様の試験を行った。
液晶−シリカ複合体分散物及び未処理液晶分散物の経時での色素溶出量の測定結果を図4に示す。
【0052】
図4より、液晶−シリカ複合体分散物においては、未処理の液晶分散物の場合と比較して、初期の色素溶出量が低下していることが確認された。このことから、水溶性シラン誘導体を用いた液晶−シリカ複合体とすることによって、薬剤保持能力が向上していることがわかる。
【0053】
化粧料
つづいて、本発明者らは、以上に説明した液晶−シリカ複合体分散物を用いた化粧料(化粧水)の調製を試み、相状態、使用感触及び液晶安定性のそれぞれについて評価を行った。また、比較として、未処理液晶分散物と微粒子シリカ又はグリセリンとを配合した化粧料を調製し、同様の評価を行った。試験に用いた各種化粧料の組成と、評価結果とを併せて表1に示す。なお、評価基準は以下のとおりである。
【0054】
(1)相状態
各種実施例及び比較例の化粧料について、分散前のバルク状態の組成物の小角X線回折測定(JDX3500:JEOL社製)を行うことにより、相状態を確認した。
(2)使用感触
各種実施例及び比較例の化粧料を使用した際の使用感触(肌なじみ、塗布時の広がり感、べたつき感)について、専門パネラー10名による実使用試験を実施した。評価基準は以下のとおりである。
〈評価基準〉
◎:パネラー8名以上が、使用感触が良いと認めた。
○:パネラー6名以上8名未満が、使用感触が良いと認めた。
△:パネラー3名以上6名未満が、使用感触が良いと認めた。
×:パネラー3名未満が、使用感触が良いと認めた。
(3)液晶安定性
各種実施例及び比較例の化粧料について、室温で1ヶ月保存後の外観(透明度)の変化を目視で観察することにより、液晶安定性の評価を行った。評価基準は以下のとおりである。
〈評価基準〉
◎:凝集物がまったく認められず、透明度も変化しなかった。
○:凝集物が認められず、透明度もほとんど変化しなかった。
△:若干凝集物が認められ、透明度もわずかに低下した。
×:凝集物が認められ、透明度が低下した。
【0055】
【表1】

【0056】
(製造方法) テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン、水、及びグリセリン置換シラン誘導体を混合して液晶組成物を形成した後、0.1%ポリオキシエチレン(2モル)ラウリルエーテル酢酸ナトリウム水溶液を添加して、ホモミキサーで攪拌混合した。その後、残余の配合成分及び水を添加して、化粧水を調製した。
【0057】
表1に示されるように、実施例1及び2の化粧料は、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が分散した状態であり、使用感触に優れ、且つ液晶の安定性も良好であることがわかった。これに対して、実施例1及び2のグリセリン置換水溶性シラン誘導体に代えて微粒子シリカとグリセリンとを同量配合した比較例1及び2の化粧水では、微粒子シリカが分離沈殿してしまい、使用感触に劣り、液晶安定性も不十分であった。さらに、実施例1及び2のグリセリン置換水溶性シラン誘導体の全量をグリセリンに置き換えた比較例3及び4では、液晶安定性は比較的良好であったものの、使用感触の点で劣っているものであった。
【実施例2】
【0058】
以下、本発明にかかる化粧料のその他の処方例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
処方例1 (質量%)
テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン 1
グリセリン 2
1,3−ブタンジオール 3
アスコルビン酸 0.2
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
ヘキサメタリン酸ソーダ 0.1
メチルパラベン 0.15
グリセリン置換シラン誘導体 0.1
水 残量
以上により得られた処方例1の化粧水は、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が分散した状態であり、使用感触に優れ、且つ液晶の安定性も良好なものであった。
【0059】
処方例2 (質量%)
テトラメチルトリヒドロキシヘキサデカン 3
グリセリン 2
1,3−ブタンジオール 3
エタノール 5
アスコルビン酸 0.2
クエン酸 0.02
クエン酸ナトリウム 0.08
ヘキサメタリン酸ソーダ 0.1
メチルパラベン 0.15
グリセリン置換シラン誘導体 0.5
水 残量
以上により得られた処方例2の化粧水は、逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が分散した状態であり、使用感触に優れ、且つ液晶の安定性も良好であった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例において得られた透明ゲル状組成物について小角X線回折測定結果である。
【図2】水溶性シラン誘導体濃度に対するゲル状組成物の硬度の変化を示した図である。
【図3】本発明の一実施例にかかる液晶−シリカ複合体分散物のTEM写真図である。
【図4】本発明の一実施例にかかる液晶−シリカ複合体分散物及び未処理液晶分散物の経時での色素溶出量の測定結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、
(B)水と、
(C)分散剤と
を含み、該(A)両親媒性物質及び一部の(B)水により形成される逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)が、該(C)分散剤によって残部の(B)水中に微粒子状に分散された液晶分散組成物であって、
該逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)内においてシリカが形成されていることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の液晶−シリカ複合体分散組成物において、前記(A)両親媒性物質がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンであることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の液晶−シリカ複合体分散組成物において、前記(A)両親媒性物質の配合量が、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散組成物。
【請求項4】
(A)水中で逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成し得る両親媒性物質と、
(B)水の一部と、
(D)下記一般式(1)で示される水溶性シラン誘導体と
を含む成分を混合し、該(A)両親媒性物質及び及び一部の(B)水による逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)を形成するとともに、該逆立方両連続液晶相(バイコンティニュアスキュービック液晶相)内においてシリカを形成し、液晶−シリカ複合体を形成する工程と、
前記工程により得られた液晶−シリカ複合体を、
(B)水の残部と、
(C)分散剤
を含む水溶液と混合し、該液晶−シリカ複合体が残部の(B)水中に微粒子状に分散された組成物を形成する工程と
を備えることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法。
Si−(OR (1)
(式中、Rは少なくとも1つが多価アルコール残基であり、その他はアルキル基であってもよい。)
【請求項5】
請求項4に記載の液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(A)両親媒性物質がテトラメチルトリヒドロキシヘキサデカンであることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散物の製造方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(A)両親媒性物質の配合量が、組成物全量に対して0.1〜20.0質量%であることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項4から6のいずれかに記載の液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法において、前記(D)水溶性シラン誘導体の配合量が、組成物全量に対して0.01〜10.0質量%であることを特徴とする液晶−シリカ複合体分散組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1から3のいずれかに記載の液晶−シリカ複合体分散組成物からなることを特徴とする化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−57332(P2009−57332A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−226828(P2007−226828)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】