説明

液晶ディスプレイのシミュレーション方法および装置

【課題】応答速度の電圧依存性を反映させることが可能で、各種液晶モードに対応可能で、しかも計算時間を短縮でき、使い勝手のよい液晶ディスプレイのシミュレーション方法および装置を提供する。
【解決手段】液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路200のノード電圧の関数で表現し計算するとき、積分回路200を構成する抵抗Rdの値Rまたは容量Cdの値Cは、抵抗Rdの両端の電圧の大小関係により選択的に決定し、積分回路200において、抵抗Rdの一端と容量Cdの一方の電極との接続ノード201のノード電圧x(t)を回路シミュレーションにより計算し、時刻tでの実効電圧Vi(t)を計算し、液晶容量値C(t)と透過率T(t)を計算し、この容量値C(t)は回路シミュレータ機能で用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶の透過率、静電容量の過度的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する液晶ディスプレイのシミュレーション方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶の透過率、静電容量の過度的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する液晶ディスプレイのシミュレーション技術としては、たとえば非特許文献1や特許文献1に開示された技術が知られている。
【0003】
2004年にDe Smet等から提案されている液晶ディスプレイのシミュレーション方法を以下に示す(非特許文献1参照)。
【0004】
Smetのモデルは、液晶の物理的挙動をかなり単純化している点が特徴的である。
まず、液晶のダイレクタの向きを表す量を、抽象的な変数x(t)に集約する。ダイクレタに加わる力の種類としては、以下に示すものがある。
【0005】
・初期位置からの変位量に比例するフック則的な弾性項Kx(t)(Kは比例定数)、 ・移動速度に比例するニュートン粘性的な粘性項γ(d(x)t/dt)(γは比例定数)、
・外部電界Eにより誘電体が受ける力を示す電界項cE(cは比例定数)、
である。
【0006】
ダイクレタの慣性モーメントは微小であり無視できるとすると、図1を参照して、導入した変数x(t)は下記式(1)のバランス式を満たす。
【0007】
【数1】

【0008】
この方程式は、ある初期条件を与えると解析的に解くことができ、たとえばx(0)=0、つまり初期変位が0とすれば、次のようになる。
【0009】
【数2】

【0010】
この関数のイメージを図2に示す。
時定数γ/Kで指数関数的に変化し、tが∞でx(t)はcE/Kとなる。これは長い時間経過すれば、電界項と弾性項が釣り合う点、つまり静特性の解に落ち着くことを意味している。
【0011】
回路シミュレーションでこのようなシステムを組み込むときは、等価な回路を考えると都合が良い。
Smetらは図3の積分回路でノード電圧としてx(t)をモニタする方法を提案している。
この場合、DC電源にはcE/Kを与え、時定数となる抵抗Rと容量Cの積はRC=γ/Kを満たすように設定している。ある時間tが経過した後にx(t)が電源電圧cE/Kのm倍になったとき、すなわち、下記式(3)になったとき、これを実現している配向の様子は、以下の静特性の方程式(4)、(5)を満たした状態と考えられる。
【0012】
【数3】

【0013】
【数4】

【0014】
すなわち、外部電界を√m倍したときの静特性を考えればよいことになる。結局、液晶のセルギャップをdとすると電界の電圧の関係はV=E/dであることから、外部より印加された電圧の√m倍だけ、静特性換算すると正味印加されているものとし、静特性の電圧―透過率カーブ、または電圧―静電容量カーブ上で読み取ればよいことになる。後述するように、静特性のカーブはある解析関数で表現されている。
外部から液晶セルに印加される電圧をVext、静特性換算の電圧をViとすると、次の関係式が得られる。
【0015】
【数5】

【0016】
このとき、図3の電源電圧として与えるのはVextではなく、cE/K=(c/K)・(Vext/d)であることに注意を要する。
【0017】
次に静特性を表現する式を示す。Smetらの方法では静特性を以下のように、容量の式、透過率の式で表現する。
【0018】
【数6】

【0019】
ここで、C‖,C⊥はそれぞれ電界方向に平行にダイレクタが並んだときの容量、垂直に並んだときの容量を示す。また、δ,Vtc、Vmcはフィッティングパラメータを、Viは上述した静特性換算したときのセルに正味印加される電圧を示している。
【0020】
【数7】

【0021】
ここで、Tminは最小透過率を、η、Vto,Vmoはフィッティングパラメータを示している。
【0022】
以上をまとめたものを図4に示す。
【0023】
さらに、液晶の立ち上がりと立ち下がりの応答時間に差をつけるため、図5に示すように、ダイオード2個を回路に挿入し、電流が流れる抵抗を切り替える方式も提案されている。
【0024】
また、特許文献1に開示されているシミュレーション方法を以下に示す。
【0025】
これは一対の透明絶縁基板の内部に液晶を封入し、薄膜のトランジスタを用いて駆動され液晶の電気光学効果によって画像を表示する液晶表示装置の液晶透過率を計算するシミュレーション方法である。
この方法では、液晶表示装置において、一方の基板上の薄膜トランジスタと、他方の基板側の対向電極との間に、配向膜および液晶を有し、薄膜トランジスタは寄生容量を有しており、配向膜および液晶をそれぞれ電気容量および電気抵抗の並列回路として液晶表示装置の等価回路として表す。
そして、この等価回路において、液晶の誘電率εLCは異方性がありかつ次式で表記される。
【0026】
【数8】

【0027】
さらに、液晶の誘電率変化の応答時間は透過率の応答時間と一致するとして、等価回路の液晶の電気容量に印加電圧依存性を用いて液晶透過率を計算する。
【非特許文献1】Electrical model of a liquid crystal pixel with dynamic, voltage history-dependent capacitance value, Herbert De Smet, et al., Liquid Crystal, vol.31, 2004
【特許文献1】特許第3107380号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
ところが、上述した技術には次のような不利益がある。
【0029】
非特許文献1に開示された技術では、印加する電圧によらず時定数はγ/Kで一定であることから、応答速度の電圧依存性が反映できていない。
また、液晶の立ち上りと立ち下りの応答時間に差をつける際、計算ノードが増加するため、計算時間が増大する。図5を参照すると、3から6ノードに2倍増加している。その結果、計算時間で約4倍となる。
また、静特性の(9)-(14)の式で、電圧応答に自由度が少ないためTN以外の液晶モード(VA、IPSなど)への対応が難しい。
【0030】
特許文献1に開示された技術では、応答時間の電圧依存性が正しく表現できない。
kが一定の定数であれば、応答時間の電圧依存性が表現できない。
また、「kは透過率の印加電圧依存性から得られる定数」という記載があるが、第4図のような静的な測定結果からは物理的に正しいkの値は求まらない。kは弾性項以外にも粘性項を含むからである。
また、静的な特性を決める式が不在のため、ある電圧値での透過率、誘電率を都度グラフから読み取る必要がある。計算機で求解する方法としては使い勝手が悪い。
【0031】
本発明は、応答速度の電圧依存性を反映させることが可能で、各種液晶モードに対応可能で、しかも計算時間を短縮でき、使い勝手のよい液晶ディスプレイのシミュレーション方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の第1の観点は、液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する方式を採用した液晶ディスプレイのシミュレーション方法であって、上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する。
【0033】
本発明の第2の観点は、液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する方式を採用した液晶ディスプレイのシミュレーション方法であって、所定時刻のノード実効電圧を計算するステップと、ノード実効電圧を用いて所定時刻での液晶の容量値、透過率を計算するステップと、液晶に印加される電圧をチェックするステップと、上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の大小関係により選択的に決定するステップとを有する。
【0034】
本発明の第3の観点の液晶ディスプレイのシミュレーション装置は、液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する演算装置を有し、上記演算装置は、上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する。
【0035】
本発明の第4の観点の液晶ディスプレイのシミュレーション装置は、液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する演算装置を有し、上記演算装置は、所定時刻のノード実効電圧を計算して、当該ノード実効電圧を用いて所定時刻での液晶の容量値、透過率を計算し、上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する。
【0036】
本発明によれば、液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する。
この場合、積分回路を構成する抵抗の値または容量の値は、抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定される。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、応答速度の電圧依存性を反映させることが可能で、各種液晶モードに対応可能で、しかも計算時間を短縮でき、使い勝手のよい液晶ディスプレイのシミュレーション方法および装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0038】
以下、本発明の実施形態を図面に関連付けて説明する。
【0039】
図6は、本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイのシミュレーションシステムの構成例を示すブロック図である。
【0040】
本シミュレーションシステム1は、図6に示すように、シミュレーション装置(回路シミュレータ)としての演算装置2、駆動信号生成回路3、および液晶表示パネル4を有する。
【0041】
演算装置2は、CPU21およびメモリ22を有している。
メモリ22には、回路シミュレーションプログラムと本実施形態に係る液晶モデルの情報が格納されている。
演算装置2は、表示特性を見積もりつつ高画質を実現するための駆動信号を調整するための補正情報を生成し、駆動信号生成回路3に供給する。
【0042】
駆動信号生成回路3は、液晶表示パネル4を駆動するための必要な駆動信号を生成し、また、演算装置2により補正情報をもとに駆動信号を補正し、液晶表示パネル4を駆動する。
【0043】
図7は、本実施形態に係るアクティブマトリクス型液晶表示素子の液晶表示パネル部における配置例を示す図である。
【0044】
図7に示すように、液晶表示パネル4は、画素がアレイ状に配列された画素表示領域41、水平転送回路42、垂直転送回路43−1,43−2、プリチャージ回路44、およびレベル変換回路45等を含んで形成されている。
画素表示領域41には複数のデータ線46と複数の走査線(ゲート配線)47が格子状に配線され、各データ線46の一端側は水平転送回路42に接続され、他端側はプリチャージ回路44に接続され、各走査線47の端部が垂直転送回路43−1,43−2に接続されている。
【0045】
液晶表示パネル4の画素表示領域41を構成するマトリクス状に複数形成された画素PXには、スイッチングを制御する薄膜トランジスタ(TFT;thin film transistor)により構成された画素スイッチング用トランジスタ48、液晶49、および補助容量(蓄積容量)50が設けられている。
画素信号が供給されるデータ線46がトランジスタ48のソースに電気的に接続されており、書き込む画素信号を供給している。また、トランジスタ48のゲートに走査線27が電気的に接続されており、所定のタイミングで、走査線47にパルス的に走査信号を印加するように構成されている。
画素電極52は、トランジスタ48のドレインに電気的に接続されており、スイッチング素子であるトランジスタ48を一定期間だけそのスイッチをオンさせることにより、データ線26から供給される画素信号を所定のタイミングで画素信号を書き込む。
【0046】
図8は、透過型の画素(液晶セル)の基本的構成を模式的に示す図である。
画素PXは、図7に示すように、TFTが形成された透明基板101と、基板101に対向配置される透明基板102とを備えている。
透明基板101の透明基板102の対向面側には透明電極103、配向膜104が形成されている。同様に、透明基板102の透明基板101の対向面側には透明電極105、配向膜106が形成されている。
そして、配向膜104と106間に液晶(層)107が挟持されている(封入されている)。
また、透明基板101の光入射側には偏光子108が形成され、透明基板102の光出射側(光透過側)には検光子109が形成されている。
【0047】
この液晶セルのセルギャップはdであり、透明電極103,105間に印加される電圧に応じた電界Eが液晶107にかかる。
これにより液晶107(49)に書き込まれた所定レベルの画素信号は、透明電極103,105間で一定期間保持される。液晶107は、印加される電圧レベルにより分子集合の配向や秩序が変化することにより、光を変調し、階調表示を可能にする。
ノーマリホワイト表示であれば、印加された電圧に応じて入射光がこの液晶部分を通過可能とされ、全体として液晶表示素子から画素信号に応じたコントラストを持つ光が出射する。
ここで、保持された画素信号がリークされるのを防ぐために、画素電極と対向電極との間に形成される液晶容量と並列に補助容量(蓄積容量)50を付加してある。これにより、保持特性はさらに改善され、コントラスト比の高い液晶表示素子が実現できる。
また、このような保持容量(蓄積容量)50を形成するために、抵抗化されたコモン配線51が設けられている。
【0048】
図9は、本実施形態に係る演算装置で採用される液晶セルのモデル例を示す図である。
【0049】
シミュレーション装置(回路シミュレータ)としての演算装置2は、図9に示すように、液晶107の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路200のノード電圧の関数で表現し計算する。
この場合、積分回路200を構成する抵抗Rdの値Rまたは容量Cdの値Cは、抵抗Rdの両端の電圧の大小関係により選択的に決定するように構成されている。
積分回路200において、抵抗Rdの一端と容量Cdの一方の電極との接続ノード201のノード電圧x(t)を回路シミュレーションにより計算し、時刻tでの実効電圧Vi(t)を計算する。
そして、液晶容量値C(t)と透過率T(t)を計算し、この容量値C(t)は回路シミュレータ機能で用いる。
【0050】
本実施形態においては、積分回路200を構成する抵抗Rdまたは容量Cdの値RまたはCが、積分回路200に印加される電圧の関数となっていること。
積分回路200に印加される電圧の関数は、1/(a+aext)という形式をしている。ただし、a1,a2,mは定数、Vextは外部から液晶に印加される電圧を表している。
また、積分回路200のノード電圧Viの関数がf(Vi)という形式で表すことが可能である。ただし、nは定数である。
【0051】
本実施形態においては、基本的に以下に示すことが考慮されている。
【0052】
(1)液晶の応答速度の階調依存性を考慮
Smetらのモデルは、たとえば白から黒と白から中間調での変化の時定数はRC=γ/Kで一定であるが、一般的に液晶の応答は中間調付近で遅い。
液晶の弾性特性を詳細に解析することにより、時定数は以下の式で表現することがより適切であることがわかる(Kc,Kd,a,aは定数)。
【0053】
【数9】

【0054】
さらに、カーブの形の自由度を増し、フィッティング精度を向上させるため、ViをVimc(mcはフィッティングパラメータ)としてモデルに組み込む。
【0055】
(2)液晶の立ち上がり/立ち下がり応答の差をノード数を増やさず表現
一般的に、液晶が立ち上がるときと、立ち下がるときの応答速度は異なる。これを表現するため、等価回路の抵抗Rdまたは容量Cdの両端の電圧値を比較し、
(c/K)・(Vext/d)>x(t)のとき、液晶の立ち上がり過程と判断し、a=a1 r,a=a2 rとする。
(c/K)・(Vext/d)<x(t)のとき、液晶の立ち下がり過程と判断し、a=a1 f,a=a2 fとする。
モデルパラメータa1 r,a2 r、a1 f,a2 fの値を独立に設定することで応答速度の違いを表現する。
これによりサブサーキット上でのノードの増加はない。
【0056】
(3)さまざまな液晶モードに対応
(10),(12),(14)式内でノード電圧ViをViとした(nはパラメータ)。
これにより、静特性の電圧依存性に対するカーブに自由度が増し、急峻に透過率、容量が変化するようなVAモードなど他の液晶モードに対応することが可能となっている。
【0057】
以下、具体的なシミュレーション方法について説明する。
上述したように、本実施形態においては、積分回路200を構成する抵抗Rdの値Rまたは容量Cdの値Cは、抵抗Rdの両端の電圧の大小関係により選択的に決定することから、値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合と、容量Cdを選択する場合に分けてシミュレーションを行うことが可能である。
【0058】
図10は、値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合のシミュレーションモデル例を示す図である。
図11は、値を選択する対象として容量Cdを選択する場合のシミュレーションモデル例を示す図である。
【0059】
値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合において、液晶が立ち上がるときと、立ち下がるときの応答速度に応じた抵抗の値を以下のように、印加電圧(c/K)・(Vext/d)との大小関係によって選択する。
【0060】
【数10】

【0061】
一方、値を選択する対象として容量Cdを選択する場合において、液晶が立ち上がるときと、立ち下がるときの応答速度に応じた容量の値を以下のように、印加電圧(c/K)・(Vext/d)との大小関係によって選択する。
【0062】
【数11】

【0063】
なお、液晶容量Cと透過率Tの各計算式は、図12および下記式に示すように、値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合と、容量Cdを選択する場合とで共通である。
【0064】
【数12】

【0065】
【数13】

【0066】
次に、値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合と、容量Cdを選択する場合における演算装置2におけるシミュレーションの手順について説明する。
値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合のシミュレーション手順を図13に関連付けて説明した後、値を選択する対象として容量Cdを選択する場合のシミュレーション手順を図14に関連付けて説明する。
【0067】
図13は、値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合におけるシミュレーション手順を示すフローチャートである。
【0068】
<ステップST1>
ステップST1においては、初期t=0での液晶107の容量値C(0)、透過率T(0)を下記式で計算する。容量値C(0)の値は回路シミュレータ機能に渡す。
【0069】
【数14】

【0070】
<ステップST2>
ステップST2においては、初期のノード電圧x(0)を下記式により算出する。
【0071】
【数15】

【0072】
<ステップST3>
ステップST3においては、液晶に外部より印加されている電圧Vextをチェックする。
【0073】
<ステップST4>
ステップST4においては、下記式のように、抵抗Rdの両端の電圧を比較し、抵抗Rdの値Rを選択する。
【0074】
【数16】

【0075】
<ステップST5>
ステップST5においては、時間を進める。
【0076】
<ステップST6>
ステップST6においては、ノード電圧x(t)を回路シミュレーションにより計算する。
【0077】
<ステップST7>
ステップST7においては、下記式で時刻tの実効電圧Vi(t)を計算する。
【0078】
【数17】

【0079】
<ステップST8>
ステップST8においては、時刻tでの液晶107の容量値C(t)、透過率T(t)を下記式で計算する。容量値C(t)の値は回路シミュレータ機能に渡す。
【0080】
【数18】

<ステップST9>
ステップST9においては、液晶に外部より印加されている電圧Vextをチェックする。
【0081】
<ステップST10>
ステップST10においては、下記式のように、抵抗Rdの両端の電圧を比較し、抵抗Rdの値Rを選択する。ただし、この式は[数10]に示した式に対応する。
【0082】
【数19】

【0083】
<ステップST11>
ステップST11においては、あらかじめ規定した最終時間まで進めたか否かを判定する。最終時間まで進めていないと判定した場合には、ステップST5の処理に移行する。
最終時間まで進めたと判定した場合には、処理を終了する。
【0084】
次に、値を選択する対象として容量Cdを選択する場合のシミュレーション手順を図14に関連付けて説明する。
【0085】
図14は、値を選択する対象として容量Cdを選択する場合におけるシミュレーション手順を示すフローチャートである。
【0086】
この手順は、図13の場合と基本的に同様に行われる。異なる処理は、ステップST4AとステップST10Aの処理であることから、その処理についてのみ説明する。
【0087】
<ステップST4A>
ステップST4Aにおいては、下記式のように、抵抗Rdの両端の電圧を比較し、容量Cdの値Cを選択する。
【0088】
【数20】

【0089】
<ステップST10A>
ステップST10Aにおいては、下記式のように、抵抗Rdの両端の電圧を比較し、容量Cdの値Cを選択する。ただし、この式は[数11]に示した式に対応する。
【0090】
【数21】

【0091】
以上、具体的なシミュレーション方法について説明した。
次に、図6の構成の全体的な動作について図15に関連付けて説明する。
【0092】
<ステップST21>
ステップST21において、外部より駆動信号生成回路3に対して、映像信号、タイミング信号、電源電圧が供給される。
【0093】
<ステップST22>
ステップST22において、駆動信号生成回路3で、液晶表示パネル4を駆動するために必要な信号が生成される。
【0094】
<ステップST23>
ステップST23において、駆動信号生成回路3で生成された信号が演算装置2に転送される。
【0095】
<ステップST24>
ステップST24において、前述したように、CPU21およびメモリ22を有し、メモリ22には、回路シミュレーションプログラムと本実施形態に係る液晶モデルの情報が格納されている。
演算装置2においては、表示特性を見積もりつつ高画質を実現するための駆動信号を調整するための補正情報が生成される。
【0096】
<ステップST25>
ステップST25において、演算装置2で生成された補正情報が駆動信号生成回路3に転送される。
【0097】
<ステップST26>
ステップST26において、補正情報をもとに駆動信号生成回路3が元の信号に補正をかける。
【0098】
<ステップST27>
ステップST27において、補正後の信号が液晶表示パネル4に転送される。
【0099】
<ステップST28>
ステップST28において、液晶表示パネル4においては、補正信号により表示駆動が行われる。これにより、高画質の映像が得られる。
【0100】
ここで、実際にシミュレーションを行った結果について考察する。
【0101】
<フィッティング精度>
実際に測定データからモデルパラメータを抽出しフィッティング精度を確認した。測定データはTN液晶セルで使用されている代表的な材料を3.29μmのギャップ内に封入したテストセルのものである。
【0102】
<静特性>
図16は、静特性のフィッティング結果および得られたモデルパラメータの値を示す図である。
図16からわかるように、容量で3.3%、透過率で2.5%のRMSエラーである、高精度にフィッティングできている。
【0103】
<動特性>
図17は、透過率の過度応答に関しフィッティングした結果および得られたモデルパラメータの値を示す図である。
図17からわかるように、立ち上がり特性で10%以内、立ち下がり特性で20%以内の精度で抽出できた。
容量の過度応答は、現時点で測定手段がないため測定データを得ることができなかったが、どちらも液晶配向の挙動と1対1で対応するものであることから、暫定的に透過率から抽出した過度応答パラメータを採用しても大きな違いはないものと思われる。
【0104】
<計算速度>
図18は、720段並列に液晶素子を電源に接続し、100m秒まで過度解析を行ったときの計算時間を示す図である。
本実施形態で組み込んだモデル(グラフ左)では、従来技術(中央)と比較し約4倍、液晶配向モデル(右)と比較して約500倍の性能が得られている。
【0105】
以上のように、本実施形態によれば、演算装置2は、液晶107の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路200のノード電圧の関数で表現し計算するとき、積分回路200を構成する抵抗Rの値Rdまたは容量Cdの値Cは、抵抗Rdの両端の電圧の大小関係により選択的に決定し、積分回路200において、抵抗Rdの一端と容量Cdの一方の電極との接続ノード201のノード電圧x(t)を回路シミュレーションにより計算し、時刻tでの実効電圧Vi(t)を計算し、液晶容量値C(t)と透過率T(t)を計算し、この容量値C(t)は回路シミュレータ機能で用いるようにしたことから、全電圧領域での過渡応答特性のシミュレーション精度が向上する。
RMSエラーで20%以内で精度よくシミュレーションすることが可能となった。
また、計算速度の向上を図ることができる。
従来技術の約1/4程度の時間で、シミュレーションできるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】液晶のダイレクタに加わる力について説明するための図である。
【図2】バランスの式から得た解の挙動について説明するための図である。
【図3】ダイレクタ方程式と等価な電気回路を示す図である。
【図4】Smetらの液晶モデルを示す図である。
【図5】Smetらの液晶の立ち上がり、立ち下がり応答の差を持たせる提案モデルを示す図である。
【図6】本発明の実施形態に係る液晶ディスプレイのシミュレーションシステムの構成例を示すブロック図である。
【図7】本実施形態に係るアクティブマトリクス型液晶表示素子の液晶表示パネル部における配置例を示す図である。本実施形態に係るアクティブマトリクス型液晶表示素子の液晶表示パネル部における配置例を示す図である。
【図8】本実施形態に係るアクティブマトリクス型液晶表示素子の液晶表示パネル部における配置例を示す図である。
【図9】本実施形態に係る演算装置で採用される液晶セルのモデル例を示す図である。
【図10】値を選択する対象として抵抗Rを選択する場合のシミュレーションモデル例を示す図である。
【図11】値を選択する対象として容量Cを選択する場合のシミュレーションモデル例を示す図である。
【図12】液晶容量Cと透過率Tの各計算式は共通であることを説明するための図である。
【図13】値を選択する対象として抵抗Rdを選択する場合におけるシミュレーション手順を示すフローチャートである。
【図14】値を選択する対象として容量Cdを選択する場合におけるシミュレーション手順を示すフローチャートである。
【図15】図6の構成の全体的な動作について説明するための図である。
【図16】静特性のフィッティング結果および得られたモデルパラメータの値を示す図である。
【図17】透過率の過度応答に関しフィッティングした結果および得られたモデルパラメータの値を示す図である。
【図18】720段並列に液晶素子を電源に接続し、100m秒まで過度解析を行ったときの計算時間を示す図である。
【符号の説明】
【0107】
1・・・シミュレーションシステム、2・・・演算装置、21・・・CPU、22・・・メモリ、3・・・駆動信号生成回路、4・・・液晶表示パネル、200・・・積分回路、201・・・ノード、Rd・・・抵抗、Cd・・・容量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する方式を採用した液晶ディスプレイのシミュレーション方法であって、
上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する
液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項2】
上記積分回路を構成する抵抗と容量の値が、積分回路に印加される電圧の関数となっている
請求項1記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項3】
上記積分回路に印加される電圧の関数は、1/(a+aext)という形式をしている(ただし、a1,a2,mは定数、Vextは外部から液晶に印加される電圧を表している)
請求項2記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項4】
上記積分回路の抵抗と容量の接続ノードのノード電圧をViとしたとき、f(Vi)という形式で表すことが可能である(ただし、nは定数である)
請求項2記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項5】
上記積分回路の抵抗と容量の接続ノードのノード電圧Viとしたとき、f(Vi)という形式で表すことが可能である(ただし、nは定数である)
請求項3記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項6】
液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する方式を採用した液晶ディスプレイのシミュレーション方法であって、
所定時刻のノード実効電圧を計算するステップと、
ノード実効電圧を用いて所定時刻での液晶の容量値、透過率を計算するステップと、
液晶に印加される電圧をチェックするステップと、
上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定するステップと
を有する液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項7】
上記積分回路を構成する抵抗と容量の値が、積分回路に印加される電圧の関数となっている
請求項6記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項8】
上記積分回路に印加される電圧の関数は、1/(a+aext)という形式をしている(ただし、a1,a2,mは定数、Vextは外部から液晶に印加される電圧を表している)
請求項7記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項9】
上記積分回路の抵抗と容量の接続ノードのノード電圧Viとしたとき、関数がf(Vi)という形式で表すことが可能である(ただし、nは定数である)
請求項7記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項10】
上記積分回路の抵抗と容量の接続ノードのノード電圧Viとしたよき、関数がf(Vi)という形式で表すことが可能である(ただし、nは定数である)
請求項8記載の液晶ディスプレイのシミュレーション方法。
【請求項11】
液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する 演算装置を有し、
上記演算装置は、
上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する
液晶ディスプレイのシミュレーション装置。
【請求項12】
液晶の透過率、静電容量の過渡的変化を積分回路のノード電圧の関数で表現し計算する 演算装置を有し、
上記演算装置は、
所定時刻のノード実効電圧を計算して、当該ノード実効電圧を用いて所定時刻での液晶の容量値、透過率を計算し、上記積分回路を構成する抵抗または容量の値は、当該抵抗の両端の電圧の大小関係により選択的に決定する
液晶ディスプレイのシミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−3145(P2009−3145A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163325(P2007−163325)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】