説明

液晶ポリエステル、液晶ポリエステルフィルムおよび積層体

【課題】フィルム材料として用いられる液晶ポリエステルにおいて、溶融粘度の温度依存性を低くする。
【解決手段】液晶ポリエステルは、式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全構造単位における全芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を60モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上である。
(1)−O−Ar1 −CO−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の芳香族基を表す。なお、Ar1 は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム材料として用いるに好適な液晶ポリエステルと、この液晶ポリエステルから成形された液晶ポリエステルフィルムと、この液晶ポリエステルフィルムに金属層が積層された積層体とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ポリエステルは、その優れた特性(低吸水性、耐熱性、薄肉成形性など)により、コネクターなどの表面実装の電子部品に幅広く用いられている。最近では、この電子部品その他の分野において、フィルム状の液晶ポリエステルが求められている。
【0003】
従来、このような要望に応えるべく、液晶ポリエステルが、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰り返し構造単位を有し、かつ芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位として、2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位とフェニレン系ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位を有していれば、誘電損失が抑制され、耐熱性にも優れたフィルムを与えるのみならず、フィルム加工性にも優れる事実に着目して、液晶ポリエステルを安定的にフィルム化して液晶ポリエステルフィルムを工業的に製造することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−272819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案された技術によれば、液晶ポリエステルのフィルム加工性は向上するものの、液晶ポリエステルの溶融粘度が温度に依存して大きく変化する。したがって、液晶ポリエステルを安定的にフィルム化するためには、液晶ポリエステルフィルムの成形時の温度管理を厳密に行わなければならない面倒があり、この点を改良した液晶ポリエステルが望まれていた。
【0006】
そこで、本発明は、このような事情に鑑み、液晶ポリエステルフィルムの成形時の温度管理を厳密に行う必要がなく、液晶ポリエステルを安定的にフィルム化することが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、本発明者が鋭意検討したところ、特定の構造を有する液晶ポリエステルについて、その溶融粘度の温度依存性が低いこと(換言すれば、広い温度範囲において溶融粘度の変化が小さいこと)を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、請求項1に記載の発明は、フィルム材料として用いられる液晶ポリエステルであって、以下の式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全構造単位における全芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を60モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上である液晶ポリエステルとしたことを特徴とする。
(1)−O−Ar1 −CO−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の芳香族基を表す。なお、Ar1 は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の液晶ポリエステルを溶融押出成形してなる液晶ポリエステルフィルムとしたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の液晶ポリエステルをインフレーション成形してなる液晶ポリエステルフィルムとしたことを特徴とする。
【0011】
さらに、請求項4に記載の発明は、請求項2または3に記載の液晶ポリエステルフィルムに金属層が積層されている積層体としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、液晶ポリエステルの構造を特定したので、液晶ポリエステルの溶融粘度の温度依存性が低くなる。したがって、液晶ポリエステルフィルムの成形時に液晶ポリエステルの温度管理を厳密に行う必要がなくなり、液晶ポリエステルを安定的にフィルム化して液晶ポリエステルフィルムを工業的に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
[発明の実施の形態1]
【0014】
本発明の液晶ポリエステルは、溶融時に光学異方性を示し、450℃以下の温度で異方性溶融体を形成しうるポリエステルである。この液晶ポリエステルは、必須の構成成分として、以下の式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全構造単位における全芳香族基(以下、「全芳香族基合計」という。)の中で2,6−ナフタレンジイル基を60モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上のものである。
(1)−O−Ar1 −CO−
【0015】
ここで、式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の芳香族基を表す。なお、Ar1 は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。
【0016】
このように、液晶ポリエステルは、上記の式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全芳香族基合計の中で2,6−ナフタレンジイル基を60モル%以上含むため、誘電損失が抑制されるのみならず、液晶ポリエステルの溶融粘度の温度依存性が低くなる。したがって、液晶ポリエステルフィルムの成形時に液晶ポリエステルの温度管理を厳密に行う必要がなくなり、液晶ポリエステルを安定的にフィルム化して液晶ポリエステルフィルムを工業的に製造することが可能となる。
【0017】
また、この液晶ポリエステルは、上述したとおり、流動開始温度が280℃以上であるため、耐熱性(特に、高密度実装技術として、はんだリフロー処理に耐えうる耐熱性)を向上させることができる。
【0018】
この液晶ポリエステルは、当該液晶ポリエステルを製造する段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が60モル%以上になるように、原料モノマーを選択して重合させることで得ることができる。液晶ポリエステルに関し、さらに好ましいものは、全芳香族基合計100モル%に対し、2,6−ナフタレンジイル基が、65モル%以上である液晶ポリエステルであり、より好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が70モル%以上の液晶ポリエステルであり、特に好ましくは2,6−ナフタレンジイル基が76モル%以上の液晶ポリエステルである。このように、芳香族基として、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、得られる成形体の更なる低誘電正接化が達成可能であるという利点がある。
【0019】
一方、前記液晶ポリエステルにおいて、全芳香族基合計100モル%に対して、2,6−ナフタレンジイル基が60モル%を下回る場合は、得られる成形体の誘電正接が大きくなる傾向にある。
【0020】
また、本発明に用いられる液晶ポリエステルは、上記の式(1)で表される構造単位の他に、以下の式(2)および(3)で表される構造単位を含んでいてもよい。
(2)−CO−Ar2 −CO−
(3)−O−Ar3 −O−
【0021】
ここで、式中、Ar2 、Ar3 は、それぞれ独立に、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の2価の芳香族基を表す。なお、Ar2 およびAr3 は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。
【0022】
本発明に用いられる液晶ポリエステルを構成する構造単位の合計(以下、「全構造単位合計」ということがある。)を100モル%としたとき、(1)で表される構造単位(以下、「(1)構造単位」という。)の合計が80〜100モル%、(2)で表される構造単位(以下、「(2)構造単位」という。)の合計が0〜10モル%、(3)で表される構造単位(以下、「(3)構造単位」という。)の合計が0〜10モル%であることが好ましい。また、(1)構造単位の合計が90〜100モル%、(2)構造単位の合計が0〜5モル%、(3)構造単位の合計が0〜5モル%であることがさらに好ましい。
【0023】
ここで、(1)構造単位、(2)構造単位および(3)構造単位の全構造単位合計に対するモル比率(共重合比率)が前記の範囲である液晶ポリエステルは、高度の液晶性を発現することに加えて、実用的な温度で溶融しうるものとなり、溶融成形が容易となるため好ましい。
【0024】
液晶ポリエステルは、より高度の耐熱性が得られる点で、全芳香族液晶ポリエステルであると好ましく、前記の(1)構造単位、(2)構造単位および(3)構造単位以外の構造単位を有さないものであると好ましい。したがって、全構造単位合計に対する(2)構造単位の合計のモル比率と、(3)構造単位の合計のモル比率とは実質的に等しくなる。
【0025】
ここで、(1)構造単位は芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位であり、(1)構造単位を誘導するモノマーとしては、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環またはナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸である。
【0026】
また、(2)構造単位は芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位であり、(2)構造単位を誘導するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環またはナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーは、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0027】
さらに、(3)構造単位は芳香族ジオールから誘導される構造単位であり、(3)構造単位を誘導するモノマーとしては、2,6−ナフタレンジオール、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられる。また、これらのモノマーのベンゼン環またはナフタレン環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導するモノマーとは、2,6−ナフタレンジオールである。
【0028】
前述したように、(1)構造単位、(2)構造単位または(3)構造単位は、いずれも芳香環(ベンゼン環またはナフタレン環)に前記のような置換基を有していてもよい。これらの置換基を簡単に例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基などに代表されるアルキル基であり、これらは直鎖でも分岐していてもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基などに代表される炭素数6〜20のアリール基が挙げられる。
【0029】
また、(1)構造単位、(2)構造単位または(3)構造単位を誘導するモノマーは、ポリエステルを製造する過程で、重合を容易にするために、エステル形成性誘導体に転換して用いることが好ましい。このエステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有する化合物を意味し、具体的に例示すると、カルボキシル基を有するモノマーでは、そのカルボキシル基を酸ハロゲン化物、酸無水物に転換したようなエステル形成性誘導体であり、ヒドロキシル基(水酸基)を有するモノマーでは、そのヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてエステルにしたようなエステル形成性誘導体である。
【0030】
この液晶ポリエステルの製造方法としては公知の方法が採用できるが、好ましくは、前記エステル形成性誘導体として、モノマー分子内のヒドロキシル基を低級カルボン酸を用いてエステルに転換したエステル形成性誘導体を用いて液晶ポリエステルを製造する方法が挙げられる。中でも、芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのヒドロキシル基をアシル基に転換(アシル化)してなるエステル形成性誘導体を用いる製造方法が好ましい。アシル化は、通常、ヒドロキシル基を有するモノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオール)を無水酢酸と反応させることで実施できる。このようにして得られたエステル形成性誘導体は、芳香族ジカルボン酸と脱酢酸重縮合させることにより、容易にポリエステルを製造することができる。
【0031】
前記エステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステル製造方法としては、例えば、特開2002−146003号公報に記載された製造方法を例示することができる。本発明に用いられる液晶ポリエステルの製造に関し、この公報に記載されているような製造方法を適用することを簡単に説明する。前記の(1)構造単位を形成するモノマーを80モル%以上、および必要に応じて(2)構造単位および(3)構造単位を形成するモノマーを、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を誘導できるモノマーが全モノマーの合計に対して60モル%以上になるように選択し、(1)構造単位を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸および必要に応じて(3)構造単位を誘導する芳香族ジオールをアシル化してエステル形成性誘導体に転換した後、必要に応じて(2)構造単位を形成する芳香族ジカルボン酸と溶融重合させ、比較的低分子量の液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記することがある。)を得る。次いで、このプレポリマーを粉末とし、この粉末を加熱して固相重合させる。このように固相重合を行うと、重合がより進行しやすく、液晶ポリエステルの高分子量化を図ることができるため、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度をより高温化できるという利点がある。
【0032】
溶融重合により得られたプレポリマーを粉末とするには、プレポリマーを冷却固化した後に、各種公知の粉砕手段によって粉砕すればよい。粉末の粒子径は、平均で0.05mm以上3mm程度以下の範囲が好ましく、0.05mm以上1.5mm程度以下の範囲がより好ましい。粉末の粒子径がこのような範囲であれば、液晶ポリエステルの高重合度化が促進されることからより好ましく、0.1mm以上1.0mm程度以下の範囲であれば、粒子間のシンタリングを生じることなく液晶ポリエステルの高重合度化が促進されるため、さらに好ましい。
【0033】
固相重合における加熱条件について、好適なものを以下に例示する。まず、室温からプレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温する。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮といった観点からは、1時間以内で行うことが好ましい。
【0034】
次いで、プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温させる。昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.1〜0.15℃/分程度の昇温速度がより好ましい。この昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末の粒子間のシンタリングが生じ難いため、より高重合度の液晶ポリエステルの製造を比較的容易に実施することができる。
【0035】
また、液晶ポリエステルの重合度をさらに高めるためには、280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の温度範囲で30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする観点からは、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの製造に用いたモノマーの種類により、適宜最適化することができる。
【0036】
このように固相重合を用いれば、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上にすることが比較的短時間で実施可能であり、このような流動開始温度を有する液晶ポリエステルから得られる成形体は高度の耐熱性を有するものとなる。なお、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取り付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kgf/cm2 )の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押し出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポアズ)を示す温度を意味し、この流動開始温度は、本発明の技術分野で液晶ポリエステルの分子量を表す指標として周知である(例えば、小出直之編「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」第95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。
【0037】
また、かかる流動開始温度の測定において、被測定サンプルとなる液晶ポリエステルの形状は、パウダー状のものはもちろん、この液晶ポリエステルを公知の手段を用いてペレット状にしたものでもよい。
【0038】
以上のようにして、本発明の液晶ポリエステルが得られる。これを成膜して液晶ポリエステルフィルムを製造する際には、溶融押出成形法が採用される。その具体方法としては、例えば、液晶ポリエステルを押出機で溶融混練し、Tダイを通して押し出した溶融樹脂を巻き取り機の方向(長手方向)に延伸しながら巻き取って一軸配向フィルムを得る方法、後述の二軸延伸フィルムを得る方法、円筒形のダイから押し出した溶融体シートをインフレーション法で成膜してインフレーションフィルムを得る方法などが挙げられる。
【0039】
ここで、一軸配向フィルムの製造時の押出機の設定温度は、液晶ポリエステルのモノマー組成に応じて異なるが、通常280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度である。シリンダーの設定温度が280〜400℃程度であると、液晶ポリエステルの熱分解を抑制することができ、成膜が容易になる。
【0040】
また、Tダイのスリット間隔は、通常0.1〜2mm程度であり、また一軸配向フィルムのドラフト比は、通常、1.1〜45程度の範囲である。ここでいうドラフト比とは、Tダイスリットの断面積を長手方向のフィルム断面積で除した値をいう。ドラフト比が1.1以上であると、フィルム強度が向上する傾向があり、ドラフト比が45以下であると、フィルムの表面平滑性に優れる傾向がある。ドラフト比は、押出機の設定条件、巻き取り速度などにより調整することができる。
【0041】
また、二軸延伸フィルムは、一軸配向フィルムと同様の押出機の設定条件、すなわち、シリンダーの設定温度が、通常、280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度であり、Tダイのスリット間隔は、通常、0.1〜2mmの範囲で溶融押出を行う。
【0042】
二軸延伸方法としては、Tダイから押し出した溶融体シートを長手方向および長手方向と垂直方向(横手方向)に同時に延伸する方法、Tダイから押し出した溶融体シートをまず長手方向に延伸し、ついでこの延伸シートを同一工程内で100〜400℃の高温下でテンターより横手方向に延伸する逐次延伸の方法などが挙げられる。
【0043】
二軸延伸フィルムの延伸比は、長手方向に1.1〜20倍、横手方向に1.1〜20倍の範囲であることが好ましい。延伸比が上記の範囲内であると、得られるフィルムの強度に優れ、均一な厚みのフィルムを得ることが容易になる。
【0044】
また、インフレーションフィルムは、液晶ポリエステルを環状スリットのダイを備えた溶融混練押出機に供給し、シリンダー設定温度を、通常、280〜400℃程度、好ましくは320〜380℃程度に保持して溶融混練を行って、押出機の環状スリットから筒状の芳香族ポリエステルフィルムを上方または下方へ押し出す。環状スリットの間隔は、通常、0.1〜5mm、好ましくは0.2〜2mm、環状スリットの直径は、通常、20〜1000mm、好ましくは25〜600mmである。
【0045】
こうして押し出された筒状の溶融樹脂フィルムに、長手方向(MD)にドラフトをかけるとともに、この筒状溶融樹脂フィルムの内側から空気または不活性ガス、例えば、窒素ガス等を吹き込むにより、長手方向と直角な横手方向(TD)にフィルムを膨張延伸させる。
ここで、ブローアップ比(最終チューブ径と初期径の比)は、通常、1.5〜10である。
【0046】
MD延伸倍率は、通常、1.5〜40であり、この範囲内であると厚さが均一でしわのない高強度の液晶ポリエステルフィルムを得ることができる。
【0047】
膨張延伸させたフィルムは、空冷または水冷させた後、ニップロールを通過させて引き取る。
【0048】
また、インフレーション成膜に際しては、液晶ポリエステルの組成に応じて、筒状の溶融体フィルムが均一な厚みで表面平滑な状態に膨張するような条件を選択することが好ましい。
【0049】
以上のようにして得られた本発明の液晶ポリエステルフィルムの厚みは、成膜性や機械特性の観点から、通常、0.5〜500μmであり、取り扱い性の観点から1〜300μmであることが好ましい。
【0050】
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、フィラー、添加剤などを含有することもできる。
【0051】
ここで、フィラーとしては、例えば、エポキシ樹脂粉末、メラミン樹脂粉末、尿素樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリエステル樹脂粉末、スチレン樹脂などの有機系フィラー、シリカ、アルミナ、酸化チタン、ジルコニア、カオリン、炭酸カルシウム、燐酸カルシウムなどの無機フィラーなどが挙げられる。
【0052】
また、添加剤としては、例えば、カップリング剤、沈降防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤などが挙げられる。
【0053】
さらに、本発明の液晶ポリエステルフィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルおよびその変性物、ポリエーテルイミドなどの熱可塑性樹脂、グリシジルメタクリレートとポリエチレンの共重合体などのエラストマーなどを一種または二種以上を含有することもできる。
【0054】
また、本発明の液晶ポリエステルフィルムには、金属層を積層することもできる。金属層を積層するにあたって、液晶ポリエステルフィルムの金属層を積層する面には、接着力を高めるため、コロナ放電処理、紫外線照射処理、またはプラズマ処理を実施してもよい。
【0055】
ここで、本発明の液晶ポリエステルフィルムに金属層を積層する方法としては、例えば、
(a)液晶ポリエステルフィルムを加熱圧着により金属箔に貼付する方法、
(b)液晶ポリエステルフィルムと金属箔とを接着剤により貼付する方法、
(c)液晶ポリエステルフィルムに金属層を蒸着により形成する方法
を挙げることができる。
【0056】
これらの中でも、積層方法(a)は、プレス機または加熱ロールを用いて液晶ポリエステルフィルムの流動開始温度付近で金属箔と圧着する方法であり、容易に実施できることから推奨される。
【0057】
また、積層方法(b)において使用される接着剤としては、例えば、ホットメルト接着剤、ポリウレタン接着剤などが挙げられる。中でもエポキシ基含有エチレン共重合体などが接着剤として好ましく使用される。
【0058】
さらに、積層方法(c)としては、例えば、イオンビームスパッタリング法、高周波スパッタリング法、直流マグネトロンスパッタリング法、グロー放電法などが挙げられる。中でも高周波スパッタリング法が好ましく使用される。
【0059】
また、金属層を積層するに当って使用される金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウムなどが挙げられる。タブテープ、プリント配線板用途では銅が好ましく、コンデンサー(キャパシター)用途ではアルミニウムが好ましい。
【0060】
また、積層体の構造としては、例えば、液晶ポリエステルフィルムと金属層との二層構造、液晶ポリエステルフィルム両面に金属層を積層させた三層構造、液晶ポリエステルフィルムと金属層を交互に積層させた多層構造などが挙げられる。この積層体には、高強度発現の目的で、必要に応じて、熱処理を行ってもよい。
【0061】
以上のように、本発明の液晶ポリエステルは、耐熱性とフィルム加工性のバランスに優れ、誘電損失の小さいフィルムが得られるので、この液晶ポリエステルを溶融成形して得られる液晶ポリエステルフィルムは、フレキシブルプリント配線板やリジッドプリント配線板、モジュール基盤などの電子基盤用の基板材料、層間絶縁材料及び表面保護フィルムなどに好適に使用することができる。また、この液晶ポリエステルフィルムと金属層との積層体は、コンデンサーや電磁波シールド材として好適に使用することができる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
【0063】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1144.13g(6.08モル)、パラヒドロキシ安息香酸265.19g(1.92モル)、無水酢酸898.39g(8.80モル)を添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま3時間攪拌した。
【0064】
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで4時間30分かけて昇温した。次に、同温度(305℃)で1時間保温して液晶ポリエステルを得た。こうして得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。
【0065】
こうして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から280℃まで5時間かけて昇温し、次いで、同温度(280℃)で3時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。得られた液晶ポリエステルについて、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、流動開始温度は328℃であった。
【0066】
最後に、(株)池貝の二軸押出機「PCM−30」により、この粉末状の液晶ポリエステル500gを用いて、その流動開始温度〜流動開始温度+10℃高い温度で造粒し、ペレット状の液晶ポリエステルを得た。
<比較例1>
【0067】
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)、ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度(145℃)を保持したまま1時間攪拌した。
【0068】
次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から310℃まで3時間30分かけて昇温した。次に、同温度(310℃)で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについて、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、流動開始温度は267℃であった。
【0069】
こうして得られた粉末を25℃から250℃まで1時間かけて昇温した後、同温度(250℃)から340℃まで9時間かけて昇温し、次いで、同温度(340℃)で5時間保温して固相重合させた。その後、固相重合した後の粉末を冷却し、液晶ポリエステルを粉末状で得た。得られた液晶ポリエステルについて、フローテスターを用いて流動開始温度を測定したところ、流動開始温度は325℃であった。
【0070】
最後に、(株)池貝の二軸押出機「PCM−30」により、この粉末状の液晶ポリエステル500gを用いて、その流動開始温度〜流動開始温度+10℃高い温度で造粒し、ペレット状の液晶ポリエステルを得た。
<ペレット状の液晶ポリエステルの溶融粘度の測定>
【0071】
これらの実施例1、比較例1についてそれぞれ、(株)東洋精機製作所のキャピログラフ1Bを用いて、ダイス径0.5mm、せん断速度1000s-1で、3段階の測定温度(330℃、340℃、350℃)においてペレット状の液晶ポリエステルの溶融粘度(単位:Pa・s)を測定した。その結果をまとめて表1に示す。
【表1】

【0072】
表1から明らかなように、液晶ポリエステルの溶融粘度の温度依存性が、比較例1では高いのに対して、実施例1では大幅に低くなった。
【0073】
すなわち、比較例1では、測定温度340℃で溶融粘度が129Pa・sであったのに対して、測定温度330℃で溶融粘度が339Pa・s(つまり、2.63倍)となり、測定温度350℃で溶融粘度が102Pa・s(つまり、0.791倍)となった。このように、測定温度が±10℃異なると、溶融粘度が0.791〜2.63倍と大きく変動し、溶融粘度の温度依存性が高いことが判明した。
【0074】
他方、実施例1では、測定温度340℃で溶融粘度が129Pa・sであったのに対して、測定温度330℃で溶融粘度が158Pa・s(つまり、1.22倍)となり、測定温度350℃で溶融粘度が118Pa・s(つまり、0.915倍)となった。このように、測定温度が±10℃異なっても、溶融粘度が0.915〜1.22倍と僅かしか変動せず、溶融粘度の温度依存性が低いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、表面実装の電子部品その他の分野に広く適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム材料として用いられる液晶ポリエステルであって、
以下の式(1)で示される構造単位を全構造単位に対して80モル%以上含むとともに、全構造単位における全芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を60モル%以上含み、流動開始温度が280℃以上であることを特徴とする液晶ポリエステル。
(1)−O−Ar1 −CO−
(式中、Ar1 は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基および4,4’−ビフェニレン基からなる群から選ばれる1種以上の芳香族基を表す。なお、Ar1 は、その芳香環に結合している水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数6〜20のアリール基に置換されていてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリエステルを溶融押出成形してなることを特徴とする液晶ポリエステルフィルム。
【請求項3】
請求項1に記載の液晶ポリエステルをインフレーション成形してなることを特徴とする液晶ポリエステルフィルム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の液晶ポリエステルフィルムに金属層が積層されていることを特徴とする積層体。

【公開番号】特開2011−74167(P2011−74167A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225729(P2009−225729)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】