説明

液晶ポリエステルの製造方法及び固相重合方法並びにそれらにより得られる液晶ポリエステル

【課題】重合缶からの吐出性が良好で、固相重合により耐熱性を十分に向上させることができ、且つ固相重合後に溶融状態にしたときに粘度が上昇し難い液晶ポリエステルを製造しうる方法を提供する。
【解決手段】芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、及び芳香族ジオールを用いて、溶融重合により、流動開始温度が255℃以上である液晶ポリエステルを製造する際、さらに、芳香族モノアルコールを、芳香族ジオールと芳香族モノアルコールの合計に対し、50〜200重量ppm用いる。ここで、ヒドロキシカルボン酸の芳香族部分は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基。ジカルボン酸、ジオールの芳香族部分は、それぞれ2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基。モノアルコールの芳香族部分は、ナフチル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ポリエステルの製造方法、及びこの製造方法により得られる液晶ポリエステルに関する。また、本発明は、この液晶ポリエステルの固相重合方法、及びこの固相重合方法により得られる液晶ポリエステルに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、吸水性が低く、耐熱性及び薄肉成形性に優れることから、電気・電子部品の材料をはじめ、各種用途に幅広く用いられている。例えば、2,6−ナフタレンジイル基を有する液晶ポリエステルは、機械強度も高く、誘電損失も低いことから、リレー、スイッチ、コネクターなどの表面実装電子部品の材料として注目されている(例えば特許文献1参照)。また、より高耐熱性の液晶ポリエステルを得ることを目的として、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸及び芳香族ジオールを原料モノマーとして用い、その溶融重合により比較的低分子量の液晶ポリエステルを得てから、この低分子量の液晶ポリエステルを固相状態で加熱処理することで固相重合させ、該液晶ポリエステルを高分子量化することも広く知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−196930号公報
【特許文献2】特開2002−179776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶融重合による液晶ポリエステルの製造では、溶融重合に使用した重合缶から液晶ポリエステルを吐出する際に、重合缶中に液晶ポリエステルが残存し易く、特に、2,6−ナフタレンジイル基を有する液晶ポリエステルは、2,6−ナフタレンジイル基の含有量が多いほど、誘電損失が低減され易い反面、重合缶からの吐出性が低くなり易いことが判明した。このように重合缶中に残存し易い液晶ポリエステルは、その生産性が低くなるだけでなく、この重合缶に次の製造分の原料モノマー等を投入して、液晶ポリエステルを製造する際に、残存していた液晶ポリエステルが品質に悪影響を及ぼすことがあった。また、液晶ポリエステルを製造するたびに、重合缶中に残存する液晶ポリエステルを洗浄により除去しようとしても、液晶ポリエステルは洗浄効率が低いことが経験的に知られており、洗浄に多大なコストを要することになる。
【0005】
そこで、本発明者等は、液晶ポリエステルが重合缶から吐出し難い原因に関し、種々検討した。その結果、液晶ポリエステルは、固化し易いことに加えて、溶融重合時に重合度(流動開始温度)が上昇するに従い、溶融状態での粘度が上昇し易く、特に2,6−ナフタレンジイル基を有する液晶ポリエステルは、その傾向が強いことが判明した。また、この吐出性の問題を回避しようとして、流動開始温度が低い状態で液晶ポリエステルを吐出した場合、得られる液晶ポリエステルを固相重合により高分子量化しようとしても、耐熱性を十分に向上させるのは困難であることも判明した。さらに、流動開始温度が低い状態で液晶ポリエステルを吐出した場合、得られる液晶ポリエステルを固相重合後、各種用途に適用すべく、溶融加工、例えば、表面実装電子部品等に射出成形したり、溶融紡糸により繊維化したりする際、溶融状態での粘度が上昇し易いことも判明した。
【0006】
かかる状況下、本発明の目的は、重合缶からの吐出性が良好で、固相重合により耐熱性を十分に向上させることができ、且つ固相重合後に溶融状態にしたときに粘度が上昇し難い液晶ポリエステルを製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、下記<1>の液晶ポリエステルの製造方法を提供する。
<1>:下記式(i−M)で示される化合物、下記式(ii−M)で示される化合物、及び下記式(iii−M)で示される化合物を用いて、溶融重合により、流動開始温度が255℃以上である液晶ポリエステルを製造する製造方法であって、さらに、下記式(iv−M)で示される化合物を、下記式(i−M)で示される化合物及び下記式(iv−M)で示される化合物の合計に対し、50〜200重量ppm用いる、液晶ポリエステルの製造方法。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar4は、ナフチル基を表す。また、Ar1、Ar2又はAr3は、その水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【0010】
また、本発明は、前記<1>の液晶ポリエステルの製造方法により得られる下記<2>又は<3>の液晶ポリエステルを提供する。
<2>:前記<1>の液晶ポリエステルの製造方法により得られ、主鎖に下記式(i)で示される構造単位、下記式(ii)で示される構造単位、及び下記式(iii)で示される構造単位を有し、その末端に下記式(iv)で示される基を有する、液晶ポリエステル。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は前記と同義である。)
【0013】
<3>:、Ar1、Ar2及びAr3の合計に対し、2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上有する、前記<2>の液晶ポリエステル。
【0014】
さらに、本発明は、前記<2>又は<3>の液晶ポリエステルを用いる下記<4>の液晶ポリエステルの固相重合方法を提供する。
<4>:前記<2>又は<3>の液晶ポリエステルを、パウダー状又はペレット状に加工した後、加熱処理する、液晶ポリエステルの固相重合方法。
【0015】
また、本発明は、前記<4>の液晶ポリエステルの固相重合方法により得られる下記<5>の液晶ポリエステルを提供する。
<5>:前記<4>又は<5>の液晶ポリエステルの固相重合方法により得られ、流動開始温度が前記T1を超え、且つ300℃以上である、液晶ポリエステル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、重合缶からの吐出性が良好で、固相重合により耐熱性を十分に向上させることができ、かつ、固相重合後に溶融状態にしたときに粘度が上昇し難い液晶ポリエステルを製造することができる。かかる製造方法により得られる液晶ポリエステルは、例えば、さらに固相重合を行うことにより、耐熱性に優れ、且つ溶融状態で粘度が上昇し難い液晶ポリエステルとすることができ、この液晶ポリエステルは、表面実装電子部品用途の他、繊維用途としても好適であり、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(液晶ポリエステルの製造方法)
本発明の液晶ポリエステルの製造方法では、液晶ポリエステルの原料モノマーとして、前記式(i−M)で示される化合物(以下、「化合物(i−M)」ということがある)、前記式(ii−M)で示される化合物(以下、「化合物(ii−M)」ということがある)、前記式(iii−M)で示される化合物(以下、「化合物(iii−M)」ということがある)、及び前記式(iv−M)で示される化合物(以下、「化合物(iv−M)」ということがある)を用い、化合物(iv−M)及び化合物(i−M)の合計重量に対し、化合物(iv−M)を50〜200重量ppm用いることを特徴とする。この化合物(iv−M)の使用量は75〜200重量ppmにすることがより好ましい。この化合物(iv−M)の使用量が、このような範囲にあると、溶融重合後に重合缶から液晶ポリエステルを吐出する際の吐出性が良好になり、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度も十分高くなるので、後述する固相重合を行うことで表面実装電子部品に必要とされる耐熱性を十分備えた液晶ポリエステルを得ることが可能となる。なお、液晶ポリエステルとは、溶融時に光学異方性を示すという特性を有するポリエステルを意味する。
【0018】
化合物(i−M)は芳香族ヒドロキシカルボン酸であり、例えば、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、p−ヒドロキシ安息香酸、4−(4−ヒドロキシフェニル)安息香酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーは、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸である。
【0019】
化合物(ii−M)は芳香族ジカルボン酸であり、例えば、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ビフェニル−4,4’−ジカルボン酸が挙げられる。さらに、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーは、2,6−ナフタレンジカルボン酸である。
【0020】
化合物(iii−M)は芳香族ジオールであり、例えば、2,6−ナフトール、ハイドロキノン、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシビフェニルが挙げられる。また、これらのモノマーのベンゼン環又はナフタレン環に結合している水素原子が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されてなるモノマーも用いることができる。この中で、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位を形成するモノマーは、2,6−ナフトールである。
【0021】
前記のように、化合物(i−M)、化合物(ii−M)又は化合物(iii−M)は、いずれも芳香環(ベンゼン環又はナフタレン環)に前記のような置換基を有していてもよい。これらの置換基を簡単に例示すると、ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基が挙げられ、これらは直鎖でも分岐していもよく、脂環基でもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0022】
化合物(iv−M)は、ナフトール又はその誘導体である。なお、Ar4が任意に有していてもよい置換基の説明は前記と同じである。かかる化合物(iv−M)はポリエステル製造に係る官能基が、フェノール性水酸基1つであるので、この化合物(iv−M)が反応した場合、末端基となってポリエステル成長反応の進行が停止される。かかる化合物(iv−M)の中でも、より入手し易い点で2−ナフトールが好ましい。
【0023】
化合物(i−M)、化合物(ii−M)及び化合物(iii−M)は、得られる液晶ポリエステルが液晶性を示す範囲で、その使用量が決定される。好適には化合物(i−M)、化合物(ii−M)及び化合物(iii−M)の合計(以下、「化合物合計」ということがある)を100モル%としたとき、化合物(i−M)の合計が40〜80モル%であると好ましく、45〜65モル%であるとさらに好ましい。化合物合計に対する化合物(ii−M)の合計は、10〜30モル%であると好ましく、17.5〜27.5モル%であるとより好ましい。化合物合計に対する化合物(iii−M)の合計は、10〜30モル%であると好ましく、17.5〜27.5モル%であるとより好ましい。これらの使用モル比率がこのような範囲であると、得られる液晶ポリエステルは、液晶性が十分となり、さらに実用的な温度で溶融し得るものとなるため、後述する吐出工程において、液晶ポリエステルの溶融状態を維持し易くなる傾向がある。
【0024】
上述したような液晶ポリエステルの原料モノマーは、液晶ポリエステルの形成を容易にするために、その一部をエステル形成性誘導体に転換して溶融重合を実施することが好ましい。該エステル形成性誘導体とは、エステル生成反応を促進するような基を有するような化合物を意味し、具体的に例示すると、カルボキシル基を有するモノマーでは、そのカルボキシル基を、ハロホルミル基やアシルオキシカルボニル基に転換したようなエステル形成性誘導体であり、水酸基を有するモノマーでは、その水酸基を、低級アシルオキシ基にしたようなエステル形成性誘導体である。
【0025】
本発明の液晶ポリエステルの製造方法としては、前記エステル形成性誘導体として、モノマー分子内の水酸基を低級アシルオキシル基に転換した(アシル化した)もの(アシル化物)を用いることが好ましい。アシル化は、通常、水酸基を有するモノマー(化合物(i−M)、化合物(iii−M)、化合物(iv−M))の水酸基を無水酢酸と反応させることでアシルオキシル基に転換することで実施できる。このようにして得られたエステル形成性誘導体のアシルオキシル基は、芳香族ジカルボン酸及びアシル化された芳香族ヒドロキシカルボン酸にあるカルボキシル基とエステル交換を生じ、酢酸が副生(脱離)することでエステル結合が形成される。このようにして脱酢酸重縮合させることにより、容易に液晶ポリエステルを製造することができる。
【0026】
このような、エステル形成性誘導体を用いた液晶ポリエステルの溶融重合は、例えば、特開2002−146003号公報に記載された製造方法を参考にして実施することができる。
【0027】
溶融重合の好適な温度条件(特に昇温条件)は、130〜180℃の範囲から開始温度を選択し、280〜360℃の範囲から最終重合温度を選択し、該開始温度から該最終重合温度まで、昇温速度0.1〜50℃/分の割合で昇温させながら反応させる条件が挙げられる。より好ましくは開始温度を150℃〜170℃の範囲から選択し、最終重合温度を300℃〜320℃の範囲から選択し、さらに昇温速度0.3〜5℃/分とする条件が挙げられる。かかる溶融重合の温度条件において、最高温度(最終重合温度)が360℃を越えると、得られる液晶ポリエステルの高溶融粘度、高融点化が促進されることにより、表面実装電子部品用としての特性が不十分な液晶ポリエステルが形成される傾向がある。また、該液晶ポリエステルの溶融粘度が高くなり過ぎると、溶融重合後の重合缶からの液晶ポリエステルの吐出性が低下する傾向がある。
【0028】
また、溶融重合中に副生する脂肪酸(酢酸)や、未反応の脂肪酸無水物(無水酢酸)等は、蒸発させて系外へ留去することが好ましい。この場合、留出する脂肪酸の一部を還流させて重合缶に戻すことによって、脂肪酸と同伴して蒸発又は昇華する原料モノマーなどを、凝縮又は逆昇華し、重合缶に戻すこともでき、例えば凝縮器で析出した原料モノマーを脂肪酸とともに重合缶に戻すことができる。このようにすると、原料モノマーが未反応のまま系外に留出するのを十分防止できるので、溶融重合に使用した原料モノマーの使用量から、所望の共重合モル比率からなる液晶ポリエステルを製造できる。
【0029】
なお、この溶融重合は触媒の存在下に行ってもよい。該触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、1―メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒を挙げることができる。ただし、本発明で得られる液晶ポリエステルは、表面実装電子部品用として使用するうえで、金属成分等は当該部品の性能に悪影響を及ぼすこともある。その点から前記有機化合物触媒は特に良好な触媒といえる。なお、有機化合物触媒としては、N,N−ジメチルアミノピリジン、1−メチルイミダゾールなどの窒素原子を2個以上含む複素環状有機塩基化合物が特に好ましく使用される(特開2002−146003号公報参照)。また、このような触媒を使用する場合には、重合缶で溶融重合を実施する際に、エステル形成性誘導体を含む原料モノマーと同時に仕込む形式でもよく、エステル形成性誘導体を製造するための反応を実施する際に、触媒を予め仕込んでいてもよく、エステル形成性誘導体を製造する反応を実施する際に、触媒を仕込んでおき、この反応終了後に得られたエステル形成性誘導体を含む原料モノマーを重合缶に仕込む際に、触媒を追加する形式のいずれでもよい。
【0030】
溶融重合は、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度を255℃以上にするまで実施される。この流動開始温度は255〜350℃とすることが好ましく、260℃〜330℃にするとさらに好ましく、260℃〜270℃にすると特に好ましい。溶融重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度が255℃を下回ると、溶融重合後の液晶ポリエステルはもちろん、たとえ溶融重合後に後述するような固相重合を用いて液晶ポリエステルの高分子量化を行ったとしても、十分な耐熱性を有する液晶ポリエステルが得られない傾向がある。また、このように流動開始温度255℃以上の液晶ポリエステルが得られるようにして、化合物(iv−M)の使用量を決定してもよく、かかる使用量の決定には適当な予備実験を実施すればよい。なお、ここでいう流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を意味し、該流動開始温度は当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用−」、95〜105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照。本発明においては、流動開始温度を測定する装置として、株式会社島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT−500D」を用いる。)。
【0031】
本発明の製造方法で得られる液晶ポリエステルは、表面実装電子部品に対する電気特性等を良好にするため、芳香族基として2,6−ナフタレンジイル基を特定量含むものである。具体的には、末端を除く主鎖構造が、前記式(i)で示される構造単位、前記式(ii)で示される構造単位、及び前記式(iii)で示される構造単位からなり、Ar1、Ar2及びAr3で表される2価の芳香族基の合計(以下、「全芳香族基合計」ということがある。)を100モル%としたとき、当該芳香族基の中で2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上含むものであると好ましく、50モル%以上含むとより好ましく、65モル%以上含むとさらに好ましく、70モル%以上含むと特に好ましい。
【0032】
また、前記液晶ポリエステルは、その末端基の少なくとも一部に、化合物(iv−M)に由来する前記式(iv)で示される基を有している。
【0033】
このような液晶ポリエステルは、前記溶融重合の段階で、2,6−ナフタレンジイル基を含むモノマーと、それ以外の芳香環を有するモノマーとを、得られる液晶ポリエステル中の芳香族基の合計に対し、2,6−ナフタレンジイル基を有する構造単位が所望の範囲になるようにして、原料モノマーを選択することで製造できる。
【0034】
このように全芳香族基合計に対して、2,6−ナフタレンジイル基をより多く含む液晶ポリエステルは、該液晶ポリエステルを用いて得られる成形体の誘電正接が小さくなる傾向がある。前記溶融重合で得られる液晶ポリエステルは、表面実装電子部品用として好適な2,6−ナフタレンジイル基を特定量有しながらも、溶融重合後の重合缶からの吐出性が極めて良好なものとなる。そして、溶融重合後の液晶ポリエステルは後述する固相重合によって、さらに高分子量化することでより耐熱性に優れるものとなる。
【0035】
(固相重合)
かくして得られた液晶ポリエステルは、更に重合度を高める目的で固相重合を行うと、より一層実用性の高い耐熱性を備えた液晶ポリエステルが得られる。
【0036】
該固相重合に関して一例を挙げると、溶融重合により得られた液晶ポリエステル(以下、「プレポリマー」ということがある)を粉砕等して粉末(パウダー状)にした後、得られた粉末を加熱処理するといった手段が採用される。溶融重合後の液晶ポリエステルを粉砕する際には、該液晶ポリエステルを十分冷却することで固化しておくことが好ましい。
【0037】
該粉末の平均粒子径は、0.05〜3mmの範囲にすることが好ましく、0.05〜1.5mmの範囲にすることがさらに好ましく、0.1〜1.0mmの範囲にすることが特に好ましい。該平均粒子径がこのような範囲であると、固相重合後の液晶ポリエステルの高重合度化がより促進され、粉末同士のシンタリングを生じることも少ないという利点がある。なお、この平均粒子径は、前記粉末の粒子を100個程度、たとえば光学顕微鏡等で外観観察を行うことで、一つひとつの粒径を求め、測定した件数で平均化した値である。また、かかる固相重合に用いるプレポリマーとしては、溶融重合により得られた液晶ポリエステルを適当な押出成形手段によりペレット状にしたものを使用することもできる。
【0038】
固相重合における加熱条件について好適なものを例示する。まず、室温から前記プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度まで昇温する。このときの昇温時間は、特に限定されるものではないが、反応時間の短縮といった観点から1時間以内で行うことが好ましい。
【0039】
次いで、前記プレポリマーの流動開始温度より20℃以上低い温度から280℃以上の温度まで昇温する。このときの昇温は、0.3℃/分以下の昇温速度で行うことが好ましく、0.05〜0.15℃/分の昇温速度であるとより好ましい。該昇温速度が0.3℃/分以下であれば、粉末同士のシンタリングがより生じ難くなるため、より高重合度の液晶ポリエステルの製造が容易となる。
【0040】
液晶ポリエステルの重合度をより高めるためには、固相重合は280℃以上の温度で、好ましくは280℃〜400℃の温度範囲で30分以上反応させることが好ましい。とりわけ、固相重合中の液晶ポリエステルの熱安定性をより良好にする点からは、反応温度280〜350℃で30分〜30時間反応させることが好ましく、反応温度285〜340℃で30分〜20時間反応させることがさらに好ましい。かかる加熱条件は、当該液晶ポリエステルの溶融重合に用いたモノマーの種類及び使用量により、適宜最適化することが好ましい。
【0041】
このようにして固相重合を行って得られる液晶ポリエステルは、その流動開始温度T2[℃]が、溶融重合後の液晶ポリエステルの流動開始温度T1[℃]よりも高くなるようにする。好適には、該流動開始温度T2[℃]は300℃以上であることが、より実用性の高い表面実装電子部品を得るためには好ましい。そして、該液晶ポリエステルは優れた耐熱性に加え、2,6−ナフタレンジイル基を特定量含んでいるので、表面実装電子部品としての電気特性にも優れたものとなる。また該液晶ポリエステルは、溶融状態での粘度の増大を確実に制御することができるため、繊維用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0043】
(流動開始温度の測定)
フローテスター〔(株)島津製作所製「CFT−500型」〕を用いて試料約2gを内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターに充填し、9.8MPa(100kg/cm2)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶性ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度を流動開始温度とした。
【0044】
(溶融粘度の測定)
液晶ポリエステルを、120℃で3時間乾燥させた後、二軸押出機(池貝鉄工(株)「PCM−30」)により、液晶ポリエステルの流動開始温度よりも、約10℃程度高い温度で造粒して、ペレットを作製した。得られたペレットについて、コントロールストレスレオメータCVO(Bohlin Instruments社製)を用い、下記の条件で溶融粘度(Pa・s)の時間変化を測定した。なお、溶融粘度は、溶融を開始してから30分及び60分が経過した各時点で測定し、これにより溶融粘度の経時変化を評価した。
<測定条件>
温度:360℃
雰囲気:窒素200ml/分
測定時間:1時間
ジオメトリー:コーンプリート5.4°/25φ
測定周波数:1Hz
Pre−Shear:OFF
Target Strain:0.01
Mode:Auto
【0045】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを75重量ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で2時間30分保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し3%であった。
【0046】
得られた液晶ポリエステルを室温まで冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、267℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、318℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0047】
実施例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを75ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で3時間保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し3%であった。
【0048】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、270℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、318℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0049】
実施例3
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを75ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で2時間保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し2%であった。
【0050】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、263℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、317℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0051】
実施例4
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを200ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で2時間30分保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し2%であった。
【0052】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、263℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、312℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0053】
比較例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを75ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)及び触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で1時間30分保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し1%であった。
【0054】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、250℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、298℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0055】
比較例2
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを15ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で2時間30分保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し5%であった。
【0056】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、272℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、318℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0057】
比較例3
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを15ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で1時間30分保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し1%であった。
【0058】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、254℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、318℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0059】
比較例4
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ナフトールを500ppm含有させた2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸1034.99g(5.5モル)を仕込み、その後ハイドロキノン272.52g(2.475モル、0.225モル過剰仕込み)、2,6−ナフタレンジカルボン酸378.33g(1.75モル)、テレフタル酸83.07g(0.5モル)、無水酢酸1226.87g(12.0モル)および触媒として1−メチルイミダゾール0.17gを添加し、室温で15分間攪拌した後、攪拌しながら昇温した。内温が145℃となったところで、同温度を保持したまま1時間攪拌した。次に、留出する副生酢酸、未反応の無水酢酸を留去しながら、145℃から305℃まで5時間18分かけて昇温した。同温度で3時間保温して反応容器から液晶ポリエステルを吐出した。吐出中の液晶ポリエステルの温度を放射温度計で測定したところ樹脂温度は298〜302℃で推移した。また反応容器に残存した液晶ポリエステルは得量に対し2%であった。同温度で3時間保温して液晶ポリエステルを得た。
【0060】
得られた液晶ポリエステルを室温に冷却し、粉砕機で粉砕して、粒子径が約0.1〜1mmの液晶ポリエステルの粉末(プレポリマー)を得た。このプレポリマーについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、263℃であった。得られた粉末状のプレポリマーを、25℃から250℃まで1時間かけて昇温したのち、同温度から297℃まで0.1℃/分の昇温速度で昇温し、次いで同温度で5時間保温して固相重合した後、冷却した。得られた液晶ポリエステルについてフローテスターを用いて、流動開始温度を測定したところ、299℃であった。なお、この液晶ポリエステルの全芳香族基合計に対する2,6−ナフタレンジイル基の含有量は、72.5モル%である。
【0061】
以上に示した実施例の重合条件に加え、溶融重合後、液晶ポリエステルを吐出した後の重合缶に残存した液晶ポリエステルの重量比率、得られたプレポリマーの流動開始温度と該プレポリマーを固相重合して得られた液晶ポリエステルの流動開始温度の結果を表1に示す。なお、ここでいう残存した液晶ポリエステルの重量比率とは、使用した原料モノマーの重量から計算される液晶ポリエステルの理論重量から、吐出して得られた液晶ポリエステルの重量を減じて、この値を理論収量で除した比率である。なお、同様にして比較例の重合結果及び液晶ポリエステルの重量比率等の結果を表2にまとめる。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
※1 化合物(iv−M)[2−ナフトール]及び化合物(i−M)[2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸]の合計に対する化合物(iv−M)[2−ナフトール]の含有重量比
【0065】
本発明の製造方法における溶融重合で得られたプレポリマーは、重合缶に残存した液晶ポリエステルの重量比率が3重量%程度であり、吐出性に優れていることが判明した。また、実施例で得られたプレポリマーは固相重合により、流動開始温度が310℃以上という表面実装電子部品用として好適な耐熱性を備えた液晶ポリエステルが得られることも判明した。
【0066】
一方、化合物(iv−M)[2−ナフトール]及び化合物(i−M)[2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸]の合計に対する化合物(iv−M)[2−ナフトール]の含有重量比が50重量ppmに満たない比較例2では、溶融重合に重合缶に生成した液晶ポリエステルが残存し易く、吐出性が悪いことが判明した。また、該含有重量比が200重量ppmを超える比較例4では、溶融重合で得られるプレポリマーは固相重合を行ったとしても、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度は低いものであった。また、溶融重合で得られるプレポリマーの流動開始温度が255℃に満たない比較例1、3でも同様に、固相重合を行ったとしても、得られる液晶ポリエステルの流動開始温度は低いものであった。
【0067】
また、実施例2で得られた流動開始温度が318℃の液晶ポリエステルについて溶融粘度測定を実施したところ、溶融粘度は、溶融を開始してから30分後で1185Pa・sであり、60分後では5425Pa・sであった。
【0068】
一方、比較例2で得られた流動開始温度が318℃の液晶ポリエステルについて溶融粘度測定を実施したところ、溶融粘度は、溶融を開始してから30分後で1580Pa・sであり、60分後では7750Pa・sであった。
【0069】
溶融粘度測定の結果より、同一の流動開始温度である実施例5と比較例5の熱安定性は、化合物(iv−M)[2−ナフトール]の含有重量比が75重量ppm含む実施例2が優れるため、繊維用途として好適な熱安定性を示すことが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(i−M)で示される化合物、下記式(ii−M)で示される化合物、及び下記式(iii−M)で示される化合物を用いて、溶融重合により、流動開始温度T1が255℃以上である液晶ポリエステルを製造する製造方法であって、さらに、下記式(iv−M)で示される化合物を、下記式(i−M)で示される化合物及び下記式(iv−M)で示される化合物の合計に対し、50〜200重量ppm用いることを特徴とする液晶ポリエステルの製造方法。
【化1】

(式中、Ar1は、2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ2,6−ナフタレンジイル基、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基又は4,4’−ビフェニレン基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。Ar4は、ナフチル基を表す。また、Ar1、Ar2Ar3又はAr4は、その水素原子の一部が、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基で置換されていてもよい。)
【請求項2】
請求項1に記載の液晶ポリエステルの製造方法により得られ、主鎖に下記式(i)で示される構造単位、下記式(ii)で示される構造単位、及び下記式(iii)で示される構造単位を有し、その末端に下記式(iv)で表される基を有することを特徴とする液晶ポリエステル。
【化2】

(式中、Ar1、Ar2、Ar3及びAr4は前記と同義である。)
【請求項3】
Ar1、Ar2及びAr3の合計に対し、2,6−ナフタレンジイル基を40モル%以上有することを特徴とする請求項2記載の液晶ポリエステル。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の液晶ポリエステルを、パウダー状又はペレット状に加工した後、加熱処理することを特徴とする液晶ポリエステルの固相重合方法。
【請求項5】
請求項4又は5に記載の液晶ポリエステルの固相重合方法により得られ、流動開始温度が前記T1を超え、且つ300℃以上であることを特徴とする液晶ポリエステル。

【公開番号】特開2010−132888(P2010−132888A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247479(P2009−247479)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】