説明

液晶ポリエステル樹脂組成物

【課題】コネクター等の表面実装用電子部品に使用可能な、薄肉成形性に優れ、低そり性、耐熱性等の性能バランスに優れた成形品を製造できる、液晶ポリエステル樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記式(I)〜(IV)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して(I)の単位が65〜80モル%、(II)の単位が10〜18モル%、(III)及び(IV)の単位がそれぞれ1〜18%からなる、融点が300℃〜400℃である液晶ポリエステル100質量部に対し、無機板状充填材を15〜50質量部、無機繊維状充填材を5〜50質量部配合してなる組成物。(I)−O−Ar−CO−、(II)−O−Ar−O−、(III)−CO−Ar−CO−、(IV)−CO−Ar−CO−(ここで、Ar,Arは、1,4−フェニレン、Arは、パラ位でつながるフェニレン数2の化合物の残基、Arは1,3−フェニレンである。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコネクター向け材料に関するものであり、さらに詳しく言うと、耐熱性が高く、ハンダリフローに耐えることができ、表面実装加工が可能であると共に、高流動性、高剛性、更に、「低そり」性をも有し、FPC(フレキシブルプリントサーキット)用狭ピッチコネクター等の耐熱性、薄肉・高精度加工が要求される全ての用途に好適な液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話などIT機器の小型集積化、また自動車部品のエレクトロニクス化が進むのに伴い、これら機器に使用されるコネクターやソケット等の電子部品の小型・薄肉化の要求が高まってきている。このような現状下、熱可塑性樹脂の中でも寸法変化を起こしにくく、流動性に優れ、成形時のバリ発生が極めて少ないとして知られる液晶ポリマー組成物が多く採用され、コネクターの高耐熱化(実装技術による生産性向上)、高密度化(多芯化)、小型化というエレクトロニクス機器の高性能化に対応してきている。
さらに、最近はコネクターの端子のピッチを1mm以下の狭ピッチにしたもの、またコネクターを基板に組み付けたときの厚さ(いわゆる、スタッキング高さ)が3mm以下のものが要求されている。
しかし、従来の液晶ポリマー組成物では、このような薄肉・狭ピッチのコネクター用の材料としては、成形時の流動性、成形品の寸法安定性、表面実装時のそり変形が不十分であった。特に、そり変形に関しては、リフロー時の液晶ポリマー組成物の成形品の熱膨張が大きく影響しており、この熱膨張の抑制は低そり性の観点から重要な課題である。
これらのことから、薄肉・狭ピッチコネクター用の材料としては、そり変形に大きく関与する熱膨張の抑制に加え、成形性・平面度・耐熱性の全ての特性に優れた材料の提供が待ち望まれている。
従来、コネクター用に液晶ポリマー組成物についていくつかの提案がなされ、実用化されている。
流動温度310〜400℃の液晶ポリエステル(A)100質量部に流動温度270〜370℃であって(A)との流動温度差が10〜60℃の液晶ポリエステル(B)10〜150質量部との総量を100質量部として、これに繊維状充填材または板状充填材を15〜180質量部配合して、0.2mm以下の薄肉部を有するコネクター等の製品に使用して、熱安定性、低そり性を得る組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の2種類の液晶ポリエステルの構成単位は、請求項2のモノマー組成範囲限定から計算すると全構成単位に対してパラヒドロキシ安息香酸から導かれる単位は72.5モル%以下であり、実施例では60モル%である。この組成物では、リフロー時の低そり性や耐熱性(DTUL)が不十分である。さらに、2種類の全芳香族液晶ポリエステルを用意しなければならない点で経済性に問題がある。また、実施例記載の2種ポリマーの流動温度差が40℃であり、このような場合には2種ポリマーが均一に溶け合わず、未溶融物が発生し、射出成形時にノズル詰りが生じるなどの虞がある。
【0003】
細長い形状のコネクターの反りを低下させる手段として、液晶ポリマー100質量部、平均繊維径0.5〜20μm、平均アスペクト比10以下の繊維状充填材5〜100質量部、平均粒径0.1〜50μmの粒状充填材5〜100質量部からなるコネクター用液晶ポリマー組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。液晶ポリマーの具体例として実施例において使用しているベクトラE950iは液晶性ポリエステルであるが、構成単位に関する明確な記載は無い。この液晶ポリエステルは融点が低く(特開2005−276758によるとE950iは融点が335℃)、このような場合、DTULは280℃を下回ると考えられる。そのため、この組成物はFPCコネクター材料として、近年の過酷なリフロー条件下では、リフロー時の低そり性が不十分となる虞がある。
【0004】
低そり性のコネクター用の液晶ポリマー組成物として、液晶ポリマー100質量部に、平均粒径0.5〜100μmで特定形状の板状充填材5〜100質量部、さらに平均繊維径5〜20μm、平均アスペクト比15以上の繊維状充填材5〜100質量部からなる組成物が提案されている(例えば、特許文献3参照)。液晶ポリマーの具体例として実施例において使用しているE950iは液晶性ポリエステルであるが、構成単位に関する明確な記述はない。この液晶ポリエステルは融点が低く(特開2005−276758によるとE950iは融点が335℃)、このような場合、DTULは280℃を下回ると考えられる。そのため、この組成物はFPCコネクター材料として、近年の過酷なリフロー条件下では、リフロー時の低そり性が不十分となる虞がある。
【0005】
薄肉流動性に優れ、低そり性を有する成形体を提供するものとして、特定のモノマー組成を有する液晶ポリエステル樹脂100質量部に対して、平均繊維径0.1〜10μm、数平均繊維長1〜100μmの繊維状無機充填材10〜100質量部、平均粒径5〜20μmの板状無機充填材を10〜100重量配合してなる組成物が提案されている(例えば、特許文献4参照)。特許文献4においては、液晶ポリエステルの必須の構成単位であるパラヒドロキシ安息香酸から誘導される単位の含有率を30モル%以上であるとしているが、実施例では60モル%であり、好ましい範囲として示されている各モノマーのモル比によれば上限が72.5モル%である。特許文献4の実施例によれば、荷重たわみ温度が不十分(実施例の上限は267℃)であり、その結果、リフロー時の低そり性も不十分である。また、特許文献4の実施例においては、流動温度差が30℃の2種のポリマーをブレンドしている。このような場合には2種のポリマーが均一に溶け合わず、未溶融物が発生し、射出成形時にノズル詰りが生じるなどの虞がある。また、2種ポリマーブレンドであるため原料コストがかかり、経済性も良くない。
【0006】
ピッチ1mm以下、基板に組み付けた際のスタッキングの高さが3mm以下であるような、薄肉・狭ピッチのコネクター用の液晶ポリマー組成物として、液晶ポリエステル樹脂100質量部、マイカ5〜80質量部、繊維状充填材5〜35質量部配合し、該液晶ポリエステル樹脂として2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸単位を必須成分として40〜75モル%含有するものを使用することが提案されている(例えば、特許文献5参照)。この特許においてはモノマーの大半に高価な2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を用いている点で、原料コストが高く、経済性に問題がある。
【0007】
コネクターを、熱変形温度240〜270℃のI−b型のパラヒドロキシ安息香酸の共重合体である液晶ポリマー性高分子を用いて成形した後、125〜205℃でアニールすることでリフロー時のふくれを防止する方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)が、荷重たわみ温度が低く、耐熱性が不十分である。
コネクター等の表面実装用電子部品は、ハンダリフロープロセス(熱処理)による実装が行われるが、その際の耐ハンダ特性として、ハンダリフロープロセスによって生じる膨れ(ブリスター変形)を抑制することが求められている。これを解決する手段として、2,6−ナフチレン単位を含むヒドロキシカルボン酸、ジオール、ジカルボン酸から誘導される構造単位からなる液晶ポリマーAとパラヒドロキシ安息香酸から誘導される成分を必須構成単位として、好ましくは40〜70モル%、含む液晶ポリマーBとを併用するものが提案されている(例えば特許文献7参照)。特許文献7に具体的に記載されている液晶ポリマーBのモノマー構成は、パラヒドロキシ安息香酸から誘導される構造単位が60モル%のものと50モル%のものである。この方法は液晶ポリマーBを単独使用するときは望ましい性能が得られないので、液晶ポリマーAを併用するというものである。実施例での2種ポリマーの流動開始温度の差が35℃以上と大きく、このような場合には2種ポリマーが均一に溶け合わず、未溶融物が発生し、射出成形時にノズル詰りが生じるなどの虞がある。また、実施例において充填剤に板状充填材を用いていないが、板状充填材を添加しないと、熱膨張抑制効果が小さくなり、FPCコネクター材料として、リフロー時の低そり性が不十分となることが多い。
さらにこの特許においてはモノマーの大半に高価な2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸を用いている点や、複数の液晶ポリマーを用いる点で、原料コストが高く、経済性に問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平10−219085号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開2000−178443号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2001−106923号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開2002−294038号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開2006−37061号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献6】特許第3107371号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献7】特開2008−19428号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、薄肉・狭ピッチのコネクターについて液晶ポリマー樹脂組成物の特性に着目して従来いくつかの提案がなされているが、さらに生産性を向上させるには、従来よりも高温で実装することが求められる。それにともない、製品の加熱時の熱膨張によるそり変形が問題となるに至った。したがって、そり変形に大きく関与する熱膨張の抑制に加え、成形品の成形性、耐熱性、平面度のすべてを満足する液晶ポリマー組成物が要望されている。本発明は、この要望に応えることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、液晶ポリエステルを構成するモノマー単位の種類とその含有量を特定の範囲にし、かつ無機板状充填材と無機繊維状充填材とを特定の範囲で配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物が、成形品の成形性、耐熱性、平面度のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張の抑制が可能なことから、低そり性に優れる成形体を製造し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、必須の構成成分として下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が65〜80モル%、(II)の構成単位が10〜18モル%、(III)の構成単位が1〜18モル%、(IV)の構成単位が1〜18モル%からなる融点が300℃〜400℃である液晶ポリエステル100質量部に対し、無機板状充填材を15〜60質量部、無機繊維状充填材を5〜60質量部配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【化1】

(ここで、Ar1 は、1,4 −フェニレン、Ar2 は、パラ位でつながるフェニレン数2の化合物の残基、Ar3 は、1,4 −フェニレン、Ar4 は、1,3 −フェニレンである。)
【0012】
本発明は、前記液晶ポリマー樹脂組成物中の前記無機板状充填材が数平均粒子径10〜50μmのタルクもしくはマイカであること、および前記液晶ポリマー樹脂組成物中の前記無機繊維状充填材の数平均繊維長さが50〜500μmであること、ならびに前記液晶ポリエステル樹脂組成物が、せん断速度100sec−1、前記液晶ポリエステルの融点より20℃高い温度での溶融粘度が100〜2,000poise(10〜200Pa・s)であることに関するものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記液晶ポリエステル樹脂組成物から成形された成形品であることおよび該成形品の荷重たわみ温度が280℃以上であることに関するものである。
【0014】
また、さらに本発明は、該成形品がコネクターであることおよび、該コネクターがピッチ1mm以下であり、基板に組みつけられた際のスタッキングの高さが3mm以下であることに関するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いることにより、成形品の成形性、耐熱性、平面度のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張の抑制が可能なことから、低そり性に優れる。よって、耐熱性に優れた薄肉・狭ピッチのコネクターを効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
(液晶ポリエステル)
本発明で用いる液晶ポリエステルとは、一般にサーモトロピックと呼ばれるポリエステルであり、異方性溶融体を形成するものである。全芳香族液晶ポリエステルは、これらの中で、実質的に芳香族化合物のみの重縮合反応によって得られるものをいう。
【0017】
本発明で用いる液晶ポリエステルは、必須の構成成分として、下記式(I)、(II)、(III)および(IV)で表される構成単位を含む。
【化2】

(ここで、Ar1 は、1,4 −フェニレン、Ar2 は、パラ位でつながるフェニレン数2の化合物の残基、Ar3 は、1,4 −フェニレン、Ar4 は1,3 −フェニレンである。)
【0018】
構成単位(I)は、パラヒドロキシ安息香酸またはその誘導体から導入され得る。構成単位(II)は、パラジヒドロキシビフェニルまたはその誘導体から導入され得る。構成単位(III)は、テレフタル酸またはその誘導体から導入され得る。構成単位(IV)は、イソフタル酸またはその誘導体から導入され得る。本発明で使用する液晶ポリエステルは、全構成単位を100モル%として、構成単位(I)が65〜80モル%、(II)の構成単位が10〜18モル%、(III)の構成単位が1〜18モル%、(IV)の構成単位が1〜18モル%からなるものである。構成単位(II)と構成単位(III)+(IV)とは実質的に等モルである。
このような4種類の必須構成単位の組み合わせは、成形品の成形性、耐熱性、平面度、のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張の抑制が可能なことから、優れた低そり性を達成するものである。特に、構成単位(I)が65モル%より少ない場合は、成形品の熱膨張が大きくなるので好ましくない。構成単位(I)が80モル%を超えると融点が上昇し過ぎたり、不融物が生成して、通常の成形機で成形することが困難になる。従来、一般的に成形原料としての液晶ポリエステルとして、構成単位(I)が65モル%未満の液晶ポリエステルが好ましいとされていたが、本発明はこれよりも構成単位(I)の含有量が多いことが特徴のひとつである。また、本発明の液晶ポリエステルでは芳香族ジカルボン酸から誘導される構成単位(III)と(IV)を必須成分として2種類使用することがもう一つの特徴である。2種類使用することにより、結晶性を制御し、成形性を向上できる。
本発明の液晶ポリエステルの融点は300℃〜400℃である。この温度範囲は、コネクターのような薄肉成形品の成形における流動性、成形品の低そり性を満足させるものである。融点が300℃未満である場合耐熱性が不十分である。融点が400℃を超える場合は、加熱による分解が生じるおそれがあり、加工性が困難になる。
【0019】
本発明で使用する液晶ポリエステルは公知の製造法で得ることができる。たとえば、原料モノマーの末端をアシル化したもの、あるいはエステル化したものを用いて、縮重合を行い、所定の分子量の生成物を得て、次いで固相重合することによる方法が挙げられる。具体的には、特開2004−263125公報などに記載されている方法が好ましく使用できる。
【0020】
(無機板状充填材)
本発明における無機板状充填材とは、長径と厚みの比が2以上のものを意味し、好ましいものとして、マイカ、タルクが挙げられるがこれらに限定されるものではない。熱膨張の抑制の点からはマイカが特に好ましい。
液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機板状充填材の長径の数平均粒子径は、タルク・マイカ共に10〜50μmが好ましい。なお、液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機板状充填材の数平均粒子径は、溶融混練して得られた樹脂組成物ペレットを坩堝に入れて電気炉中で灰化した後、残存した無機板状充填剤をスライドガラス上に展開して、顕微鏡で写真撮影した画像中から任意に選択される500個の粒子の長径を0.01mm間隔で読み取った結果から求めたものである。数平均粒子径がこの範囲より小さい場合は、熱膨張抑制効果が小さく、低そり性、耐熱性向上の効果が不十分となる。一方、数平均粒子径がこの範囲を超える場合は、成形品の表面状態、成形品中の分散性などに問題が生じる。成形品の熱膨張抑制効果は液晶ポリエステルの構成単位(I)の含有量が65〜80モル%以上であることが必須であるが、この範囲内で、無機板状充填材は数平均粒子径が大きい方がさらに熱膨張抑制効果が顕著である。無機板状充填材の好ましいアスペクト比は5〜200であり、さらに好ましいアスペクト比は5〜100である。アスペクト比が5未満のものでは無機板状充填剤による熱膨張抑制効果が小さく、低そり性効果が得られにくく、また、100以上のものは溶融混錬の際に割れやすくなるため、それ以上の低そり性効果が得られず、薄肉流動性も十分得られなくなる。
【0021】
(無機繊維状充填材)
本発明における無機繊維状充填材とは、アスペクト比が4以上のものでありガラス繊維、ウオラストナイト、ホウ酸アルミニウムウイスカ、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、金属繊維、炭素繊維等が挙げられるが、特に好ましいのはガラス繊維である。液晶ポリエステル樹脂組成物中の無機繊維状充填材の数平均繊維径は0.1〜20μm、数平均繊維長は50〜500μmが好ましい。繊維長がこれより短いと、耐熱性、強度向上効果が不十分となる。また、繊維長がこれより長いと成形品の表面状態、成形品中の分散性等に問題が生じる。なお、数平均繊維長は溶融混練して得られた樹脂組成物ペレットを坩堝に入れて電気炉中で灰化した後、残存したガラス繊維をスライドガラス上に展開して、顕微鏡で写真撮影した画像中から任意に選択される500本の繊維を0.01mm間隔で読み取った結果から求めたものである。
【0022】
無機板状充填材の配合量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、無機板状充填材を15〜60質量部、無機繊維状充填材を5〜60質量部である。本発明の液晶ポリエステルに両者を併用することによって、成形品の成形性、耐熱性、平面度のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張の抑制が可能なことから、優れた低そり性を得られる。無機板状充填材の配合量がこの範囲より少ないと、熱膨張抑制効果が小さくなることから、低そり性が低下し、この範囲を超えると組成物の製造が困難になり、薄肉成形品の成形が困難になる。また、無機繊維状充填材の配合量がこの範囲より少ないと、機械的強度、耐熱性の向上効果が不十分であり、この範囲を超えると組成物の製造が困難になり、薄肉成形品の成形が困難になる。
これらの、無機板状充填材および無機繊維状充填材は、それぞれ複数を組み合わせて使用することができる。
【0023】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物において、液晶ポリエステルの融点より20℃高い温度で、せん断速度100sec−1の溶融粘度が100〜2,000poise(10〜200Pa.s)であることが好ましい。溶融粘度がこの範囲より高い場合は、薄肉流動性が低下し成形に支障が生じるので好ましくない。溶融温度がこの範囲より低い場合は、薄肉流動性はよくなるが、耐熱性の低下などの問題が生じるので好ましくない。
ここで、液晶ポリエステルの融点とは、以下のようにして測定した値を意味する。
示差走査熱量計によって、リファレンスとしてα−アルミナを用いて融点測定を行った。測定温度条件は、室温から20℃/分の昇温速度で昇温してポリマーを融解させて得られた吸熱ピークをTm1とし、10℃/分で150℃まで冷却して、さらに20℃/分で昇温した時に得られる吸熱ピークをTm2とし、このTm2を融点とした。
また、溶融粘度は以下のようにして測定した値を意味する。
キャピラリーレオメーターを用い、キャピラリーとして径1.0mm,長さ40mm,流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で融点―30℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱を用いながら溶融粘度測定を行い、液晶ポリエステルの融点(Tm2)+20℃における溶融粘度を求めた。
【0024】
(他の配合剤)
本発明では、その効果を妨げない範囲で他の充填材、例えば、カーボンブラック、黒鉛、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、クレー、ケイ藻土、などのケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、アルミナ、硫酸カルシウム、その他各種金属粉末、各種金属箔、フッ素系ポリマー、芳香族ポリエステル、芳香族ポリイミド、ポリアミドなどからなる耐熱性高強度の繊維のような有機充填材などが挙げられる。
【0025】
さらに、本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、酸化防止剤および熱安定剤(たとえばヒンダードフェノール、ヒドロキノン、ホスファイト類およびこれらの置換体など)、紫外線吸収剤(たとえばレゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノンなど)、滑剤および離型剤(モンタン酸およびその塩、そのエステル、そのハーフエステル、ステアリルアルコール、ステアラミドおよびポリエチレンワックスなど)、染料(たとえばニグロシンなど)および顔料(たとえば硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラックなど)を含む着色剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤などの通常の添加剤や他の熱可塑性樹脂を添加して、所定の特性を付与することができる。
【0026】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は各配合成分を常法に従い溶融混練して得られるが、溶融混練に用いる機器および運転方法には特に制限はない。各成分を別々に溶融混練用の機器に供給するか、ミキサーで予備混合してから供給することもできる。あるいは、液晶ポリエステルを溶融混練機器で溶融後、シリンダーの途中の供給口より充填材を供給する方法も好ましく採用できる。
【0027】
(成形品)
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物から射出成形等の公知の成形方法によって所望の成形品とすることができる。
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を使用することにより、成形品の成形性、耐熱性、平面度のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張の抑制が可能なことから、低そり性に優れる。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を用いて、荷重たわみ温度(DTUL)が280℃以上の成形品を得ることができる。
特に、耐熱性に優れた薄肉・狭ピッチのコネクターを効率よく製造することができるものであり、ピッチ1mm以下であり、基板に組みつけられた際のスタッキングの高さが3mm以下であるコネクターを製造することが可能となる。
【0028】
(他の用途)
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、コネクター以外に次のような各種用途の成形品を製造するのに好ましく使用できる。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、コネクター用途に限定されるものではなく、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップなどの電気・電子部品や、OA・AV部品、自動車部品、機械部品、ハウジング部品分野で使用される部材の構成材料として優れた特性を有するものである。
【実施例】
【0029】
以下、実施例、比較例を以って本発明をさらに詳しく説明する。
「液晶ポリエステル」
以下の表1に示す構成単位含量の液晶ポリエステル(A〜D)を使用した。
【表1】

【0030】
製造例(液晶ポリエステルAの製造)
(溶融重縮合)
SUS316を材質とし、ダブルヘリカル攪拌翼を有する1.7mの反応槽にp−ヒドロキシ安息香酸(上野製薬(株)製)484.8kg(3.51kmol)、p,p’−ビフェノール(本州化学工業(株)製)108.9kg(0.585kmol)、テレフタル酸(三井化学(株)製)58.3kg(0.351kmol)、イソフタル酸(エイジーインターナショナル(株)製)38.9kg(0.234kmol)、触媒として酢酸マグネシウム(キシダ化学(株)製)46g、酢酸カリウム(キシダ化学(株)製)15gを仕込んだ。重合槽の減圧−窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(チッソ(株)製)516.0kg(5.05kmol)を添加し、攪拌翼の回転数45rpmで150℃まで1.5時間で昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。アセチル化終了後、酢酸留出状態にして0.5℃/分の速度にて310℃まで昇温し、発生する酢酸を除去しながら重縮合反応を5時間20分行った。310℃において反応層系を密閉し、その系内を窒素で14.7N/m(1.5kgf/cm)に加圧し、反応槽内の溶融重縮合反応性生物である、低重合度液晶ポリエステル約600kgを後述の冷却固化装置に供給した。
【0031】
(冷却固化工程)
冷却固化装置として、特開2002−179979に従い、直径630mmの一対の冷却ロール、ロール間隔2mm、距離1800mmの一対の堰を有する装置を用いた。該一対の冷却ロールを18rpmの回転数で対向回転させ、該一対の冷却ロールと該一対の堰とで形成された凹部に、反応槽から抜出された流動状態の低重合度液晶ポリエステルを徐々に供給し、ロール間を通過直後にシート状に冷却固化した低重合度液晶ポリエステルを、解砕機(日空工業(株)製)によりおおよそ50mm角に解砕した。
【0032】
(粉砕工程および固相重合工程)
この解砕物を、ホソカワミクロン(株)製のフェザーミルを用いて、目開き1mmのメッシュを通過するまで粉砕し、固相重縮合用原料を得た。該粉砕物をロータリーキルンに収納し、15m/hの窒素流通下、回転数2rpmにて、室温から170℃まで3時間かけて昇温した後、280℃まで5時間かけて昇温し、更に310℃まで3時間かけて昇温して、固相重縮合を行い、室温まで1時間で冷却し、液晶ポリエステルAを得た。得られたポリマーの融点は366℃であった。400℃における偏光顕微鏡観察で、溶融状態において光学異方性が観測された。
【0033】
(液晶ポリエステルBの製造)
液晶ポリエステルAの原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸446.7kg(3.234kmol)、p,p’−ビフェノール129.0kg(0.693kmol)、テレフタル酸84.4kg(0.508kmol)、イソフタル酸30.7kg(0.185kmol)に変え、触媒として酢酸マグネシウム46g、酢酸カリウム15gを仕込み、以下液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合、固相重縮合をおこない、液晶ポリエステルBを得た。得られたポリマーの融点は358℃であった。400℃における偏光顕微鏡観察で、溶融状態において光学異方性が観測された。
【0034】
(液晶ポリエステルCの製造)
液晶ポリエステルAの原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸409.4kg(2.964kmol)、p,p’−ビフェノール148.6kg(0.798kmol)、テレフタル酸94.7kg(0.570kmol)、イソフタル酸37.9kg(0.228kmol)に変え、触媒として酢酸マグネシウム46g、酢酸カリウム15gを仕込み、以下液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合をおこない、液晶ポリエステルCを得た。得られたポリマーの融点は355℃であった。400℃における偏光顕微鏡観察で、溶融状態において光学異方性が観測された。
【0035】
(液晶ポリエステルDの製造)
液晶ポリエステルAの原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸372.9kg(2.70kmol)、p,p’−ビフェノール167.6kg(0.90kmol)、テレフタル酸112.1kg(0.675kmol)、イソフタル酸37.4kg(0.225kmol)に変え、触媒として酢酸マグネシウム67g、酢酸カリウム23gを仕込み、以下液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合をおこない、液晶ポリエステルDを得た。得られたポリマーの融点は353℃であった。400℃における偏光顕微鏡観察で、溶融状態において光学異方性が観測された。
【0036】
(液晶ポリエステルEの製造)
液晶ポリエステルAの原料の配合を、p−ヒドロキシ安息香酸302.5kg(2.19kmol)、p,p’−ビフェノール203.9kg(1.095kmol)、テレフタル酸109.2kg(0.657kmol)、イソフタル酸72.8kg(0.438kmol)に変え、触媒として酢酸マグネシウム43g、酢酸カリウム14gを仕込み、以下液晶ポリエステルAと同様に溶融重縮合と固相重縮合をおこない、液晶ポリエステルEを得た。得られたポリマーの融点は305℃であった。350℃における偏光顕微鏡観察で、溶融状態において光学異方性が観測された。
【0037】
液晶ポリエステルA〜Eの融点は次のようにして測定した。
示差走査熱量計(セイコー電子工業(株)社製)により、リファレンスとしてα−アルミナを用いて融点測定を行った。測定温度条件は20℃/分で室温から昇温してポリマーを融解させて得られた吸熱ピークをTm1とし、10℃/分で150℃まで冷却して、さらに20℃/分で昇温した時に得られる吸熱ピークをTm2とし、このTm2を融点とした。
【0038】
「充填材」
以下の充填材を使用した。
マイカA:体積平均径23μm、アスペクト比90、嵩比重0.17g/ml((株)山口雲母工業所製、商品名AB−25S)
マイカB:体積平均径47μm、アスペクト比80、嵩比重0.26g/ml((株)山口雲母工業所製、商品名A−41S)
タルク:体積平均径24μm、アスペクト比7、(日本タルク(株)製、商品名MS−KY)
ガラス繊維:数平均繊維長3.5mm、数平均繊維径10μm、アスペクト比350(旭ファイバーグラス社製のチョップドガラスファイバー、商品名PX−1)
「他の配合剤」
カーボンブラック:(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク社製、商品名REGAL99I)
【0039】
各配合成分を表2に記載した割合で配合して実施例1〜実施例7および比較例1〜比較例5の組成物を製造した。
実施例および比較例における液晶ポリエステル樹脂組成物の製造は以下のようにして行った。
液晶ポリエステルA〜Eと無機板状充填材、無機繊維状充填材およびカーボンブラックを、表2に記載した割合で配合して、二軸押出機(池貝鉄工(株)製PCM30)により溶融混練してペレットを得た。その際の押出量は15kg/分、最高シリンダー温度は380℃とした。
【0040】
(試験片の製造)
得られた樹脂組成物のペレットを射出成形機(住友重機工業(株)製,SG−25)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度100mm/sec、金型温度80℃で、13mm(幅)×130mm(長さ)×3mm(厚み)の射出成形体を得て、これを試験片1とした。試験片1は、荷重たわみ温度(DTUL)、熱膨張率、曲げ弾性率の測定に用いた。同様に新潟鉄工(株)製MIN7射出成形機により1mm厚のASTM D1822準拠の試験片を得てこれを試験片2とした。試験片2はブリスター測定に用いた。
また、図1に示すFPCコネクター金型を用いて、薄肉成形性を評価し、得られた成形品はそり量の測定に用いた。
【0041】
組成物および成形品の評価を次の項目について行った。
1.組成物の生産性:上記製造条件で、組成物ペレットが得られたものを○、コンパウンドが困難でペレットが得られなかったものを×とした。ペレットが得られなった比較例3については他の評価試験に供しなかった。
2.液晶ポリエステル樹脂組成物の溶融粘度:インテスコ(株)社製キャピラリーレオメーター(Mode12010)を用い、キャピラリーとして径1.0mm,長さ40mm,流入角90°のものを用い、せん断速度100sec−1で融点―30℃から+4℃/分の昇温速度で等速加熱を用いながら溶融粘度測定を行い、液晶ポリエステルの融点(Tm2)+20℃における溶融粘度を求めた。
3.無機繊維状充填材の数平均繊維長測定:得られた樹脂組成物ペレットを坩堝中で灰化した後、残存物のうち100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させ、その分散液をスポイトを用いて数滴ガラススライド上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影した。この写真に撮影された画像中から任意に選択した500本の無機繊維状充填材の繊維長測定を0.01mm間隔で読み取った結果から、数平均繊維長を求めた。
4.無機板状充填材の数平均粒子径測定:得られた樹脂組成物ペレットを坩堝中で灰化した後、残存物のうち100mgを採取し、100ccの石鹸水中に分散させ、その分散液をスポイトを用いて数滴ガラススライド上に置き、顕微鏡下に観察して、写真撮影した。この写真に撮影された画像中から任意に選択した500個の無機板状充填材のそれぞれの粒子の最も長い部分を粒子径とし、粒子径の測定を0.01mm間隔で行い、数平均粒子径を求めた。
5.荷重たわみ温度(DTUL):試験片1を用いて、ASTM D648に準拠して荷重たわみ温度を測定した。
6.曲げ弾性率:試験片1を用いて、スパン間距離50mmでASTMD−790に準拠して行った。
7.熱膨張率:試験片1を、ヒートデストーションテスター(安田精機製作所NO−148HD−500)を用いて、荷重0.25MPa下にて50〜250℃間のTD方向の膨張変位の測定を行った。50℃での膨張変位Xmm、200℃での膨張変位Ymm、50℃での試験片のTD方向幅Zから、以下の式を用いて膨張率Aとした。
【数1】

8.薄肉成形性:図1に示すFPCモデルコネクター金型(60芯、0.3mmピッチ、最小肉厚0.1mm)を用い、射出成形機((株)ソディック プラステック製、LD10EH2)を用いて、シリンダー最高温度370℃、射出速度350mm/sec、金型温度60℃でFPCモデルコネクターを成形した。射出成形による成形が可能で、射出圧力が比較的低かったものを○、射出成形が不能、または、可能であるが型付着が発生、ショートショットの発生が起こったものを×と評価した。
9.そり量:図1の金型を用いて成形したコネクター成形品を定盤において、長手方向の端点から端点までを0.2mmごとに、定盤からの高さを三次元測定機で測定した。端点から端点を結んだ直線を基準とし、直線からの変位を測定した。この変位の最大値を求め、3個の成形品の平均値をもって「そり量(加熱前)」とした。
次に、そり量を測定したあとの成形品を、内部温度260℃雰囲気としたオーブン内に入れ、2分間熱処理を行った。熱処理後の成形品を取り出し、上記の方法にてそり量を求め、得られた値を「そり量(加熱後)」とした。
10.ブリスター測定:ハンダ耐熱性の評価として行った。試験片2を内部温度280℃の雰囲気にしたオーブン内に入れ、30分間熱処理を行った。熱処理後の成形品を取り出して、成形品の発泡、膨れの有無を検査した。結果を「有り」、「無し」で表示した。
【0042】
評価結果を表2に示す。
【表2】

【0043】
表2から次のことが分かる。
実施例1、6、7と比較例1、2とは、p−ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位(I)の含有量が実施例1では75モル%(液晶ポリエステルA)、実施例6では70モル%(液晶ポリエステルB)、実施例7では65モル%(これは本発明の構成単位(I)の下限)(液晶ポリエステルC)であり、比較例1では60モル%(液晶ポリエステルD)、比較例2では50モル%(液晶ポリエステルE)であり、その他の配合成分および配合割合は同一である。DTUL、曲げ弾性率は実施例1、6、7が比較例1、2よりも5%以上高い値を示している。熱膨張率は、実施例1が17.2、実施例6が17.3、実施例7が18.2であるのに対し、比較例1は22.1、比較例2は25.0であり、実施例1、6、7は著しく改善されている。そり量(加熱前)は、実施例1が0.020mm、実施例6が0.028mm、実施例7が0.032mmであるのに対し比較例1、2は0.050mmおよび0.076mmであり、さらにそり量(加熱後)は、実施例1が0.070mm、実施例6が0.086mm、実施例7が0.090mmであるのに対し比較例1、2は0.122mmおよび0.154mmであり、実施例1、6、7の改善効果は著しいものであることが示されている。このことは、本発明の構成単位(I)の含有量が上限に近い75%の実施例1のみならず、中間値の70モル%である実施例6および下限の65モル%である実施例7でも、従来技術で使用されていた構成単位(I)の含有量が60モル%、50モル%の液晶ポリエステルD、Eからは到底予測できない結果である。さらに、比較例2はブリスターの発生が見られ、ハンダ耐熱性に劣るものである。
実施例2、3、4および5は、液晶ポリエステルAに対して無機板状充填材の種類と配合量およびガラス繊維の配合量を変えたものである。本発明において性能に影響を及ぼす作用が顕著な無機板状充填材については、本発明の配合範囲である15〜60質量部内の下限に近い17質量部(実施例2)、中央値に近い43質量部(実施例4、5)および上限に近い51質量部(実施例3)を用いた。無機繊維状充填材は性能に与える作用が無機板状充填材に比して少ないので、配合範囲5〜60質量部の範囲内で、無機板状充填材との合計量がほぼ同じ(68質量部又は69質量部)になるように配合量を調整した。実施例2〜5は、測定した諸性能のいずれにおいても液晶ポリエステルAを用いた実施例1と同等の結果がバランスよく得られている。
これに対して、比較例3は本発明の範囲内の構成単位(I)を含む液晶ポリエステルAを使用しているが、マイカの配合量が本発明の無機板状充填材の配合量の上限値60質量部を超えると、組成物の生産が困難であることを示しており、従来技術において液晶ポリエステル100質量部に対して60質量部を超えるような多量の無機板状充填材の配合が可能であるとされていたが、本発明の特定の液晶ポリエステルに対しては異なった結果が得られることを示している。
また、比較例4は無機板状充填材の配合量を本発明の配合量の下限値15よりも少なくすると、無機繊維状充填材との合計配合量を実施例と同等の69質量部に調整しても、DTUL、曲げ弾性率は実施例と遜色ないが、熱膨張率およびそり量が劣ることを示している。また、比較例5は、無機板状充填材の配合割合が本発明の範囲内であっても、無機繊維状充填材の配合量が本発明の上限である60質量%を超えると、DTUL,曲げ弾性率は実施例と変わらないが、溶融粘度が増加し、薄肉成形ができなくなることを示している。さらに、比較例5は薄肉成形ができなかったのでFPCモデルコネクターが得られず、そり量の測定は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、薄肉成形品の成形性、耐熱性、平面度、ハンダリフロー性のすべてを満足し、さらに加熱時の熱膨張が抑制されていることで、低そり性に優れる。しかも、それらの諸性能のバランスに優れている。よって、薄肉・狭ピッチのコネクターを効率よく製造することができるのみならず、各種の表面実装用電気電子部品に広く利用できるものである。さらに、ソケット、リレー部品、コイルボビン、光ピックアップなどの電気・電子部品や、OA・AV部品、自動車部品、機械部品、ハウジング部品分野で使用される部材の構成材料として優れた特性を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】FPCコネクターのモデル金型の斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
必須の構成成分として下記式(I)、(II)、(III)、および(IV)で表される構成単位を含み、全構成単位に対して(I)の構成単位が65〜80モル%、(II)の構成単位が10〜18モル%、(III)の構成単位が1〜18モル%、(IV)の構成単位が1〜18モル%からなる融点が300℃〜400℃である液晶ポリエステル100質量部に対し、無機板状充填材を15〜60質量部、無機繊維状充填材を5〜60質量部配合してなる液晶ポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(ここで、Ar1 は、1,4 −フェニレン、Ar2 は、パラ位でつながるフェニレン数2の化合物の残基、Ar3 は、1,4 −フェニレン、Ar4 は1,3 −フェニレンである。)
【請求項2】
前記液晶ポリエステル樹脂組成物中の前記無機板状充填材が、数平均粒子径10〜50μmの、タルクもしくはマイカである請求項1記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記液晶ポリエステル樹脂組成物中の前記無機繊維状充填材の数平均繊維長さが50〜500μmである請求項1又は2記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
前記液晶ポリエステル樹脂組成物が、せん断速度100sec−1、前記液晶ポリエステルの融点より20℃高い温度での溶融粘度が100〜2,000poise(10〜200Pa・s)である請求項1、2または3のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4記載のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物からなる成形品。
【請求項6】
前記成形品の荷重たわみ温度が280℃以上である請求項5記載の成形品。
【請求項7】
請求項1〜4記載のいずれかに記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から成形されたコネクター。
【請求項8】
ピッチ1mm以下であり、基板に組みつけられた際のスタッキングの高さが3mm以下である請求項7記載のコネクター。

【図1】
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【公開番号】特開2010−138228(P2010−138228A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313389(P2008−313389)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】