説明

液晶光変調素子および光ヘッド装置

【課題】波長500nm以下のレーザー光を長期に渡って安定に変調可能な液晶光変調素子の提供。
【解決手段】一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、前記液晶組成物が酸化防止剤を含む液晶光変調素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長500nm以下のレーザー光を変調するために用いられる液晶光変調素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は小型であり、稼動部がないため耐久性が高いことから光変調素子として注目されており、たとえば、光ヘッド装置に搭載してレーザー光の変調素子として使用することが提案されている(たとえば特許文献1、特許文献2参照)。近年、記録密度向上のため、光ディスクの読み取りや書き込みに使用されるレーザー光の短波長化が進んでおり、波長500nm以下(たとえば波長405nm付近)のレーザー光を読み書きに用いる高密度光ディスクの開発が進んでいる。それに伴って、該波長領域のレーザー光を変調するための液晶素子が求められている(たとえば非特許文献1参照)。
【0003】
このような用途に用いられる液晶素子は、通常、一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持したものであり、この一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜がこの順に積層されていて、前記配向膜と液晶組成物とが接する状態になっている。この配向膜は、通常ラビング処理されており、相接する液晶組成物中の液晶はラビング方向に、かつ配向膜が施された表面と数度から10度程度の角度(これを以下「プレチルト角」という。)をなして配向する。配向膜の材料としては、耐熱性および絶縁性が高いことからポリイミドが広く使われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−260269号公報
【特許文献2】特開2002−237077号公報
【非特許文献1】「2002 International Symposium on Optical Memory and Optical Data Storage Topical Meeting Technical Digest」 p.57
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、波長350〜500nmのレーザー光(以下、青色レーザー光とも記す。)の変調素子としてポリイミド配向膜を有する液晶素子を用いた場合、液晶の配向状態が初期状態から変動することを本発明者らは発見した。
【0006】
たとえば、初期の液晶の配向が、液晶素子の光軸方向のまわりにねじれのない非ツイスト配向(パラレル配向、アンチパラレル配向、ベンド配向等)になっている液晶素子において、入射する青色レーザー光の偏光方向が液晶の配向方向とほぼ平行になるように青色レーザー光の照射を続けると、液晶の配向が素子の光軸まわりにねじれることが観測された。
【0007】
また、初期の液晶の配向が、素子の光軸方向のまわりにねじれのあるツイスト配向である液晶素子においても、入射する青色レーザー光の偏光方向が素子内の少なくとも一部の液晶の配向方向と平行になるように(すなわち、青色レーザー光の偏光方向がツイスト角内に入るように)青色レーザー光の照射を続けると、ツイスト角が初期状態に比べて大きくなることが観測された。
【0008】
さらに、青色レーザー光の照射を続けると、プレチルト角が初期状態に比較して大きくなることも観測された。
【0009】
このように、液晶組成物と接触する面にポリイミド配向膜を有する液晶素子に、青色レーザー光の照射を続けると、液晶の配向状態の変化(すなわち、ツイスト角の発生および増大、プレチルト角の増大)が発生し、このことによって液晶素子の光変調特性が劣化し、実用に耐えなくなる問題が生じることになる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、青色レーザー光を長期に渡り安定に変調できる液晶光変調素子を提供する。すなわち、本発明は、以下の発明を提供する。
【0011】
<1>一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、
前記液晶組成物が下記式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1つの化合物を含み、かつ酸化防止剤を含んでなる
ことを特徴とする液晶光変調素子。
11−A11−(X11−B11−(X12−B12−X13−C11−R12(1)
21−A21−(X21−B21−(X22−B22−X23−A22−R22(2)
31−A31−X31−C31−R32(3)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
j、k、p、q:それぞれ独立に0または1。
11、R21、R22、R31:それぞれ独立に、炭素数2〜7の直鎖アルキル基、炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基、炭素数2〜7の直鎖アルケニル基、または炭素数2〜7の直鎖アルケニルオキシ基。
12:フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、またはジフルオロメトキシ基。
32:炭素数2〜7の直鎖アルキル基または炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基。
11、X12、X13、X21、X22、X23、X31:それぞれ独立に、単結合、−(CH−、−(CH−、−CHO−、−OCH−、−(CF−、−CFO−、または−OCF−。
11、A21、A22、A31:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、B12、B21、B22:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、1,4−フェニレン基、または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、C31:1,4−フェニレン基または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
【0012】
<2>前記酸化防止剤が、ヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含む<1>に記載の液晶光変調素子。
【0013】
<3>前記ヒンダードアミン系化合物の量が前記液晶組成物の全体量に対して0.01〜5質量%である<2>に記載の液晶光変調素子。
【0014】
<4>前記ヒンダードアミン系化合物が、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン誘導体である<2>又は<3>に記載の液晶光変調素子。
【0015】
<5>前記ヒンダードフェノール系化合物の量が前記液晶組成物の全体量に対して0.01〜5質量%である<2>〜<4>のいずれかに記載の液晶光変調素子。
【0016】
<6>前記液晶組成物が、ヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物を含み、この液晶組成物における(ヒンダードフェノール系化合物の質量)/(ヒンダードフェノール系化合物の質量+ヒンダードアミン系化合物の質量)の値が0.01〜0.3である<1>〜<5>のいずれかに記載の液晶光変調素子。
【0017】
<7>液晶光変調素子が波長380〜450nmのレーザー光を変調する<1>〜<6>のいずれかに記載の液晶光変調素子。
【0018】
<8>前記液晶光変調素子が、偏光変換素子、光量調整素子又は収差補正素子のいずれかである<1>〜<7>のいずれかに記載の液晶光変調素子。
【0019】
<9>波長500nm以下のレーザー光を出射する光源と、この光源から出射されたレーザー光を光記録媒体上に集光させる対物レンズと、集光されて光記録媒体により反射された光を受光する光検出器と、前記光源と前記光記録媒体との間の光路中または前記光記録媒体と前記光検出器との間の光路中に配置された<1>〜<8>のいずれかに記載の液晶光変調素子とを備える光ヘッド装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、青色レーザー光を変調する液晶光変調素子において、液晶の配向状態の変化を抑制でき、光変調特性を良好に維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。式(A)で表わされる基を基(A)とも記す。他の化合物および基についても同様に記す。「貼り合わせ角」は、相対向する一対の基板上におけるそれぞれの配向膜のラビング方向が互いになす角度を意味する。また、波長は、一点の値で記載されている場合でも、記載値±15nmの範囲を含むこととする。
【0022】
本発明における液晶セルは、透明基板と電極とポリイミド配向膜を含む一対の積層体が、ポリイミド配向膜の面が対向するように配置され、積層体上の周縁部をシール剤でシールして組み立てられ、作製される。積層体としては、透明基板に電極およびポリイミド配向膜がこの順に積層された積層体が好ましいが、これに限定されない。すなわち、ポリイミド配向膜が基板から最も離れた層として形成されており、ポリイミド配向膜の面が液晶組成物と接触する構成となっている限り、他の層を有していてもよい。他の層としては後述する層間絶縁膜の層等が挙げられる。他の層は、基板と電極との間に形成されていてもよく、電極とポリイミド配向膜との間に形成されていてもよい。以下、透明基板に電極およびポリイミド配向膜がこの順に積層された構成に限らず、他の層を有するものも「積層体」として表記する。
【0023】
透明基板としては、透明ガラス基板および透明樹脂基板が好ましく、剛性が高い点で、透明ガラス基板が特に好ましい。透明基板の厚さは0.2〜1.5mmが好ましく、0.3〜1.1mmが特に好ましい。電極としては、ITO膜、SnO膜等の透明導電膜を蒸着やスパッタリング等の方法によって積層させてなる膜状透明電極が好ましい。膜状透明電極は、用途に応じてフォトリソグラフィ、ウエットエッチング等の方法でパターニングすることが好ましい。
【0024】
ポリイミド配向膜としては公知の方法によって形成することができ、ポリアミック酸溶液を塗布した後に焼成する方法、可溶性ポリイミド溶液を塗布した後に溶媒を揮発させる方法等によって形成できる。ポリイミドとしては、脂環式ポリイミドが好ましい。芳香族ポリイミドを用いる場合は、該ポリイミド中の芳香環がフッ素原子、トリフルオロメチル基で置換されていることが好ましい。また、配向膜の表面はラビング処理することが好ましい。
【0025】
積層体が他の層を有する場合、透明導電膜とポリイミド配向膜と間に、短絡防止等の目的で無機物からなる層間絶縁膜の層を有することが好ましい。具体的には、透明導電膜の表面に、TiO、SiO、ZrO、Al等の金属酸化物のゾルをスピンコート等の方法によって塗布した後、焼成することによって層間絶縁膜を形成することができる。また、蒸着あるいはスパッタリングによって、前記金属酸化物の膜を成膜してもよい。この層間絶縁膜の厚さは、10〜100nmであることが好ましい。該絶縁膜層の厚さが10nm未満であると、絶縁膜としての機能が不充分となり、100nm超であると、液晶組成物に対して実効的な電圧を印加することが困難になるおそれがあり、好ましくない。
【0026】
液晶セルの作製は常法にしたがって行うことができ、たとえば以下に示す方法で作製できる。まず前記積層体の一対を用意し、少なくとも一方の積層体の、ポリイミド配向膜が形成されている側の面の周縁部にエポキシ樹脂等のシール剤を環状に塗布する。シール剤には、所望のセルギャップを得るためのスペーサ、電圧印加のための導電経路となる導電性微粒子等を予め混ぜることができる。ついで、ポリイミド配向膜の面が対向する形で、所望の間隔(セルギャップ)および貼り合わせ角で一対の積層体を配置し、シール剤を硬化して、空セルを形成する。セルギャップは1〜20μmが好ましく、2〜10μmが特に好ましい。シール剤の環状の塗布部分には、少なくとも一部、液晶組成物を注入するための注入口となる不連続部分が設けられており、該注入口から液晶組成物を注入することによって液晶光変調素子が作製される。液晶組成物はポリイミド配向膜と接する状態で注入される。
【0027】
液晶光変調素子の構成は前記の構成に限定されず、たとえば、透明基板の電極が積層された面と反対側の面に反射防止膜が積層されていてもよく、また、位相板等が積層されていてもよい。
【0028】
本発明の液晶光変調素子に用いられる液晶組成物としては、下記化合物(1)、下記化合物(2)、および下記化合物(3)から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む液晶組成物であり、化合物(1)〜化合物(3)の合計量が、液晶組成物に対して95質量%以上であることが好ましい。化合物(1)〜化合物(3)は単独で液晶性を示す必要はなく、組成物としたときにネマチック液晶性を示せばよい。
【0029】
11−A11−(X11−B11−(X12−B12−X13−C11−R12(1)
21−A21−(X21−B21−(X22−B22−X23−A22−R22(2)
31−A31−X31−C31−R32(3)。
【0030】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
j、k、p、q:それぞれ独立に0または1。
11、R21、R22、R31:それぞれ独立に、炭素数2〜7の直鎖アルキル基、炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基、炭素数2〜7の直鎖アルケニル基、または炭素数2〜7の直鎖アルケニルオキシ基。
12:フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、またはジフルオロメトキシ基。
32:炭素数2〜7の直鎖アルキル基または炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基。
11、X12、X13、X21、X22、X23、X31:それぞれ独立に、単結合、−(CH−、−(CH−、−CHO−、−OCH−、−(CF−、−CFO−、または−OCF−。
11、A21、A22、A31:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、B12、B21、B22:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、1,4−フェニレン基、または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、C31:1,4−フェニレン基または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
【0031】
ただし、上記の環状基のうち、1,4−フェニレン基および1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基は、これらの基中の炭素原子に結合した水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されていてもよい。
【0032】
炭素数2〜7の直鎖アルキル基としては、炭素数2〜5の直鎖アルキル基が好ましく、エチル基、n−プロピル基、またはn−ペンチル基が特に好ましい。炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基としては、炭素数2〜5の直鎖アルコキシ基が好ましく、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、またはn−ブチルオキシ基が特に好ましい。
【0033】
炭素数2〜7の直鎖アルケニル基としては、炭素数2〜5の直鎖アルケニル基が好ましい。前記アルケニル基のうち、弾性定数比(K33/K11)が大きいことから、1−アルケニル基または3−アルケニル基が好ましい(ただし、n−アルケニル基とは、環状基に結合するn番目の炭素原子からアルケニル鎖末端に向けて二重結合があるアルケニル基を意味する。)。炭素数2〜7の直鎖アルケニルオキシ基としては、炭素数2〜5の直鎖アルケニルオキシ基が好ましい。
【0034】
11、R21、R22、およびR31としては、炭素数2〜7の直鎖アルキル基が好ましい。R12としてはフッ素原子が好ましい。R32としては、炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基が好ましい。
【0035】
11、A21、A22、およびA31としては、トランス−1,4−シクロヘキシレン基が好ましい。B11、B12、B21、およびB22としては、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、1,4−フェニレン基、下記基(Ph)、または下記基(PhFF)が好ましい。C11およびC31としては、1,4−フェニレン基、下記基(Ph)、または下記基(PhFF)が好ましい。
【0036】
【化1】

【0037】
11、X12、X13、X21、X22、X23、およびX31としては、単結合または−(CH−が好ましい。
【0038】
化合物(1)〜化合物(3)において、青色レーザー光に対する安定性をより高くできることから、直接結合する1,4−フェニレン基(該基中の炭素原子に結合した水素原子の1個以上がフッ素原子で置換された基も含む。)の数は2個以下が好ましい。
【0039】
以下に、化合物(1)〜化合物(3)の具体例を示す(ただし、以下の具体例におけるRおよびRは、それぞれ独立に炭素数2〜7の直鎖アルキル基を示す。)。
【0040】
化合物(1)としては、下記化合物が挙げられる。これらのうち、ネマチック液晶相を示す温度範囲が広くかつ誘電率異方性が大きい点からは、下記化合物(1a−2)、下記化合物(1d−2)、下記化合物(1h−1)、下記化合物(1g−1)、下記化合物(1g−2)、下記化合物(1b−1)、下記化合物(1b−2)、下記化合物(1c−1)、下記化合物(1c−2)、下記化合物(1e−1)、下記化合物(1f−1)、下記化合物(1i−1)、または下記化合物(1j−1)が好ましい。また、ネマチック相−等方相相転移温度が高くかつ屈折率異方性が大きい点からは、下記化合物(1k−1)、下記化合物(1k−2)、下記化合物(1m−1)、または下記化合物(1m−2)が好ましい。
【0041】
【化2】

【0042】
化合物(2)としては、下記化合物(2a)〜下記化合物(2d)等が挙げられる。これらのうち、ネマチック相−等方相相転移温度が高くかつ屈折率異方性が大きい点からは、下記化合物(2c)または下記化合物(2d)が好ましい。
【0043】
【化3】

【0044】
化合物(3)としては、下記化合物(3a)および下記化合物(3b)が好ましい。これらの化合物は低粘性であり、該化合物を使用することによって液晶組成物の粘度を小さくできる。
【0045】
【化4】

【0046】
液晶組成物としては、化合物(1)を必須とし、液晶光変調素子に要求される特性に応じて化合物(2)、化合物(3)を適宜組み合わせることが好ましい。化合物(2)を用いることによって、液晶組成物の液晶性を示す温度範囲を広くでき、化合物(3)を用いることによって、液晶組成物の粘性を低くできる。液晶組成物としては、たとえば、下記化合物(1a−2−1)、下記化合物(1g−1−1)、下記化合物(1d−2−1)、下記化合物(1d−2−2)、下記化合物(1d−2−3)、および下記化合物(3a−1)を含む液晶組成物が好ましい。
【0047】
【化5】

【0048】
本発明の液晶光変調素子は、主に光ヘッド装置に搭載して使用される。光ヘッド装置の使用環境が通常室温付近であること、また、光ヘッド装置内部の温度が70℃程度まで上昇する可能性があることから、液晶組成物は少なくとも20〜70℃の範囲でネマチック液晶性を示す必要性がある。さらに、液晶光変調素子が安定に動作するためには、結晶相−ネマチック相転移点は−20℃以下であり、ネマチック相−等方相転移点は90℃以上であることが好ましい。
【0049】
なお、屈折率異方性が正の値をとる液晶組成物を例示したが、屈折率異方性が負の値をとる液晶組成物を用いてもよい。
【0050】
本発明における液晶組成物は酸化防止剤を含む。本発明における酸化防止剤とは、ラジカル反応において、(1)連鎖開始反応の禁止、(2)連鎖成長反応の禁止、および(3)過酸化物の分解、のいずれかに有効な化合物であれば特に限定されない。このような酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物が好ましい。これらは単独で用いてもよく、それぞれ2種以上を併用してもよい。また、ヒンダードアミン系化合物とヒンダードフェノール系化合物とを併用してもよい。
【0051】
ヒンダードアミン系化合物としては、下式(A)で表される基を少なくとも1個有する化合物が好ましく、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン誘導体であることが特に好ましい。
【0052】
【化6】

【0053】
ただし、式中のR、R、R、およびRはアルキル基またはフェニル基を示し、Rは水素原子、アルキル基、またはアルコキシ基を示す。
【0054】
、R、R、およびRとしては、アルキル基が好ましい。該基は直鎖構造または分岐構造のいずれであってもよく、直鎖構造であることが好ましい。R〜Rとしては、エチル基またはメチル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。R、R、R、およびRは同一の基であっても異なる基であってもよく、同一の基であることが好ましく、R〜Rのすべてがメチル基であることが特に好ましい。
【0055】
がアルキル基である場合、炭素数1〜4の直鎖アルキル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。Rがアルコキシ基である場合、該アルコキシ基は直鎖構造、分岐構造、または部分的に環を有する構造のいずれであってもよく、直鎖構造であることが好ましい。該アルコキシ基を構成する炭素原子の数は1〜18であり、1〜10が好ましい。該アルコキシ基としては、n−オクチルオキシ基、n−プロピルオキシ基、およびn−シクロヘキシルオキシ基等が挙げられ、n−オクチルオキシ基が好ましい。Rとしては、水素原子、メチル基、またはn−オクチルオキシ基が好ましく、青色レーザー光に対する安定化効果が高いことからメチル基が特に好ましい。
【0056】
式(A)で表される基としては、下記基(A1)、下記基(A2)、または下記基(A3)が好ましい。
【0057】
【化7】

【0058】
本発明におけるヒンダードアミン系化合物としては、たとえば下記化合物が挙げられる。
【0059】
【化8】

【0060】
本発明におけるヒンダードフェノール系化合物としては、フェノール性水酸基の2位および6位の少なくともいずれか1箇所に置換基を有する化合物であることが好ましい。置換基としては、メチル基またはt−ブチル基が好ましい。ヒンダードフェノール系化合物としては、モノフェノール類、ビスフェノール類、およびポリフェノール類のいずれであってもよく、フェノール系酸化防止剤として市販されている化合物から適宜選択して使用することができる。
【0061】
ヒンダードフェノール系化合物としては、たとえば以下に示す化合物が挙げられる。
【0062】
【化9】

【0063】
本発明において、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物等の酸化防止剤は液晶組成物に添加して用いられ、液晶組成物のほか、ポリイミド配向膜に添加しても差し支えない。また、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物は、それぞれ、1種を用いてもよく2種以上を混合して用いてもよい。
【0064】
ヒンダードアミン系化合物の量は、その量が少ないと光変調素子の特性劣化を防止する効果が小さく、該量が多いと液晶組成物の示す液晶温度範囲が狭くなるため、液晶組成物に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が特に好ましい。
【0065】
ヒンダードフェノール系化合物の量は、その量が少ないと光変調素子の特性劣化を防止する効果が小さく、該量が多いと液晶組成物の示す液晶温度範囲が狭くなるため、液晶組成物に対して0.01〜5質量%が好ましく、0.1〜2質量%が特に好ましい。
【0066】
さらに、ヒンダードアミン系化合物とヒンダードフェノール系化合物を併用することもできる。この場合は、ヒンダードフェノール系化合物はヒンダードアミン系化合物に対して当量以下を使用することが好ましく、(ヒンダードフェノール系化合物の質量)/(ヒンダードフェノール系化合物の質量+ヒンダードアミン系化合物の質量)の値が0.5以下であることが好ましく、0.01〜0.3以下であることが特に好ましい。
【0067】
なお、酸化防止剤としては、ヒンダードアミン系化合物およびヒンダードフェノール系化合物に限らず、イオウ系酸化防止剤やリン系酸化防止剤を使用してもよい。
【0068】
また、本発明における液晶組成物は、紫外線安定剤、紫外線吸収剤等の他の成分を含んでいてもよい。たとえば、本発明の液晶光変調素子は、紫外線硬化型接着剤によって、光ヘッド装置等のモジュールに固定して用いられる場合がある。この場合、紫外線による液晶光変調素子の性能劣化を防ぐため、液晶組成物は紫外線安定剤を含んでいてもよい。紫外線安定剤としては、一般的に知られている紫外線安定剤から適宜選択され、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、およびトリアジン系化合物等を用いることができる。紫外線安定剤等の他の成分は青色レーザー光の透過光量を著しく低下させない範囲において使用されることが好ましい。
【0069】
本発明の液晶光変調素子は、波長500nm以下のレーザー光、好ましくは波長350〜500nm、特に好ましくは波長380〜450nmのレーザー光を変調する。具体的には、液晶光変調素子に入射した青色レーザー光の偏光状態または波面状態を変調する場合等がある。偏光状態の変調には、入射した直線偏光を楕円偏光に変調する場合、円偏光に変調する場合、および入射偏光と直交する直線偏光に変調する場合等があり、それらの機能を有する液晶光変調素子は、偏光変換素子として利用できる。偏光変換素子は、偏光ビームスプリッタや偏光板と併せて使用することによって、光量調整素子として利用できる。また、波面状態を変調する液晶光変調素子は、収差補正素子等に利用できる。具体的には、読み取りエラー防止のための収差補正素子、異なる2つ以上の波長を互換使用する多波長互換光ヘッド装置において、全ての波長で同時に収差を抑えるための収差補正素子等がある。
【0070】
本発明の液晶光変調素子における液晶の配向方向は用途に応じて適宜選択することが好ましい。たとえば、積層体の貼り合わせ角が0度の場合はパラレル配向、180度の場合はアンチパラレル配向となり、該配向状態をとる液晶素子は、収差補正素子または光軸を調整するためのレンズ等に用いられる。収差補正素子として用いる場合は、位相変化を大きくすることが必要であり、屈折率異方性が大きいことが求められる。配向方向をパラレル配向またはアンチパラレル配向とすることによって、駆動時の屈折率異方性を大きくできる。
【0071】
また、積層体の貼り合わせ角が0度または180度以外の場合はツイスト配向となり、該配向状態をとる液晶素子は光量調整素子、レンズ等に用いられる。光量調整素子には、出射光の偏光方向を変化させることが求められるので、ツイスト配向とすることが好ましい。
【0072】
また、液晶光変調素子の駆動方式は特に制限されず、IPS(In−Plain Switching)方式のように横電場で駆動する液晶光変調素子であってもよい。
【0073】
本発明の液晶光変調素子は、収差補正素子、液晶レンズ、および光量調節素子等の用途に有用であり、主に光ヘッド装置に搭載して用いられる。
【実施例】
【0074】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。なお、例1〜3、5、6、7、および9は実施例であり、例4、8、および10は比較例である。
【0075】
レーザー光照射は、Krレーザー装置(コヒーレント社製、商品名:イノーバ300)を用いて行った。液晶素子のツイスト角およびチルト角は偏光測定装置(シンテック社製、商品名:OPTIPRO)を用いて測定した。
【0076】
[1] 液晶組成物の調製例
下記化合物(1a−2−1)、下記化合物(1d−2−1)、下記化合物(1d−2−2)、下記化合物(1d−2−3)、下記化合物(1g−1−1)、および下記化合物(3a−1)を29.4/5.2/5.3/10.8/29.2/20.2(質量比)で混合し、液晶組成物1を調製した。液晶組成物1は室温ではネマチック相を示し、96.5℃でネマチック相から等方相に相転移した。室温において、波長405nmのレーザー光に対する屈折率異方性の大きさは0.1であった。
【0077】
【化10】

【0078】
[2]液晶組成物1の耐光試験例
[1]で得た液晶組成物1をn−ヘキサンで希釈し、液晶組成物1が約10質量%含まれるn−ヘキサン溶液1を調製し、石英セルに封入した。石英セルは光路幅4mm、光路長10mmであり、液高を約5mmとした。つぎに石英セルにKrレーザー光(中心波長407nm)を照射し、青色レーザー光曝露加速試験を行った。この際、レーザー光の出力を120mW、ビーム径を約3mmに調整し、レーザー光が石英セル中のn−ヘキサン溶液1を一様に照射できるようにした。また、照射時間を300時間とした。
【0079】
レーザー光照射後、n−ヘキサン溶液1を回収し、ガスクロマトグラフィーで分析した。分析結果をレーザー光照射前の分析結果とともに表1に示す。表1中の数値は、n−ヘキサンのピークを除外して算出した化合物(1a−2−1)、化合物(1d−2−1)、化合物(1d−2−2)、化合物(1d−2−3)、化合物(1g−1−1)、および化合物(3a−1)の面積%である。レーザー光照射前後の各化合物の面積%には変化がなく、分解物等に相当する新しいピークも認められなかったことから、液晶組成物1は青色レーザー光に対して安定な液晶組成物であることが確認された。
【0080】
【表1】

【0081】
[3]セルの作製
[3−1]セルの作製例(その1)
縦100mm、横100mm、厚さ0.53mmの透明ガラス基板を2枚準備した。それぞれの表面に厚さ15nmのITO透明導電膜を成膜し、つぎにフォトリソグラフィおよびウエットエッチングによってパターニングして透明電極を作製した。つぎに透明電極上にポリアミック酸溶液(日産化学社製、商品番号:SE510)をスピンコートし、焼成することによって厚さ約50nmのポリイミド配向膜を積層した。レーヨン布を用いてポリイミド配向膜をラビング処理し、1対の積層体を作製した。
【0082】
前記積層体の一方のポリイミド配向膜が積層された面の周縁部に、エポキシ系シール剤(エポキシ系シール剤には所望の直径のファイバスペーサと導電性コーティングが施されたアクリル球とを添加した。添加するファイバスペーサの直径によってセルギャップを調整できる。)をスクリーン法によって印刷した。つぎに、他方の積層体を、ポリイミド配向膜が向かい合い、かつ所定の貼り合わせ角を保って重ね合わせ、6×10N/mの圧力で圧着し、170℃にて加熱硬化させた。加熱硬化終了後、冷却し、縦5mm、横5mmの大きさに切断してセル1を作製した。
【0083】
[3−2]セルの作製例(その2)
[3−1]と同様の方法によってセル2を作製した。ただし、積層体として、ガラス基板の表面に透明電極を作製した後、該透明電極表面にSiOおよびZrOゾルをスピンコートし焼成することによって絶縁膜を形成し、次に該絶縁膜表面にポリイミド配向膜を形成することによって得た積層体を用いた。
【0084】
[4]液晶素子の作製および評価例
[4−1]液晶組成物の調製
[1]で調整した液晶組成物1に対し、表2〜4に示す割合で、酸化防止剤を添加して液晶組成物を調製した。酸化防止剤のうち、ヒンダードアミン系化合物としては、下記化合物(A2−3)(旭電化工業社製、商品番号:LA−62)、下記化合物(A1−1)、および下記化合物(A1−3)(旭電化工業社製、商品番号:LA−67)を用い、ヒンダードフェノール系化合物としては、下記化合物(B−1)(旭電化工業社製、商品番号:AO−60)および下記化合物(B−2)(住友化学社製、商品番号:GA−80)を用いた。
【0085】
なお、以下の表に示す添加量は、液晶組成物1全体に対する質量%で表し、複数の酸化防剤を使用する場合は、それぞれの液晶組成物1に対する質量%で表す。
【0086】
【化11】

【0087】
[4−2]液晶素子の作製
[4−1]で得たそれぞれの液晶組成物を[3]で得たセルに減圧注入し、紫外線硬化型接着剤を用いて注入口を封止し、液晶素子を作製した。表2〜4には、使用したセル、セルギャップ、貼り合わせ角を併せて示す。
【0088】
[4−3]液晶素子の評価
[4−2]で得たそれぞれの液晶素子に対して、表2〜4に示す照射条件によってKrレーザー(中心波長407nm)を照射し、青色レーザー光曝露加速試験を行った。照射前後のツイスト角、プレチルト角、電圧−透過率曲線の変化を表2〜4に示す。なお、例3においては、液晶素子4に入射するレーザー光の偏光方向を、液晶の配向方向とほぼ平行となるように調整し、その他の例においては液晶素子に入射するレーザー光の偏光方向が、貼り合せ角内にあるように調整した。
【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

【0091】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の液晶光変調素子は、青色レーザー光の照射によって発生する液晶の配向状態の変化を抑制できる。よって、光変調特性の劣化を防止でき、青色レーザー光を変調する光変調素子として有用である。
なお、2004年6月29日に出願された日本特許出願2004−191257号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の対向する透明基板間に液晶組成物の層を挟持してなる、波長500nm以下のレーザー光を変調する液晶光変調素子であって、
前記一対の透明基板には、互いの対向面側の表面に電極およびポリイミドからなる配向膜を含み、前記配向膜と前記液晶組成物とが接しており、
前記液晶組成物が下記式(1)〜(3)から選ばれる少なくとも1つの化合物を含み、かつ酸化防止剤を含んでなる
ことを特徴とする液晶光変調素子。
11−A11−(X11−B11−(X12−B12−X13−C11−R12(1)
21−A21−(X21−B21−(X22−B22−X23−A22−R22(2)
31−A31−X31−C31−R32(3)。
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
j、k、p、q:それぞれ独立に0または1。
11、R21、R22、R31:それぞれ独立に、炭素数2〜7の直鎖アルキル基、炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基、炭素数2〜7の直鎖アルケニル基、または炭素数2〜7の直鎖アルケニルオキシ基。
12:フッ素原子、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、またはジフルオロメトキシ基。
32:炭素数2〜7の直鎖アルキル基または炭素数2〜7の直鎖アルコキシ基。
11、X12、X13、X21、X22、X23、X31:それぞれ独立に、単結合、−(CH−、−(CH−、−CHO−、−OCH−、−(CF−、−CFO−、または−OCF−。
11、A21、A22、A31:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基またはデカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、B12、B21、B22:それぞれ独立に、トランス−1,4−シクロヘキシレン基、デカヒドロナフタレン−2,6−ジイル基、1,4−フェニレン基、または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
11、C31:1,4−フェニレン基または1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−2,6−ジイル基。
【請求項2】
前記酸化防止剤が、ヒンダードアミン系化合物及び/又はヒンダードフェノール系化合物を含む請求項1記載の液晶光変調素子。
【請求項3】
前記ヒンダードアミン系化合物の量が前記液晶組成物の全体量に対して0.01〜5質量%である請求項2記載の液晶光変調素子。
【請求項4】
前記ヒンダードアミン系化合物が、2,2,6,6−テトラアルキルピペリジン誘導体である請求項2又は3記載の液晶光変調素子。
【請求項5】
前記ヒンダードフェノール系化合物の量が前記液晶組成物の全体量に対して0.01〜5質量%である請求項2〜4のいずれか1項記載の液晶光変調素子。
【請求項6】
前記液晶組成物が、ヒンダードアミン系化合物及びヒンダードフェノール系化合物を含み、この液晶組成物における(ヒンダードフェノール系化合物の質量)/(ヒンダードフェノール系化合物の質量+ヒンダードアミン系化合物の質量)の値が0.01〜0.3である請求項1〜5のいずれか1項記載の液晶光変調素子。
【請求項7】
液晶光変調素子が波長380〜450nmのレーザー光を変調する請求項1〜6のいずれか1項記載の液晶光変調素子。
【請求項8】
前記液晶光変調素子が、偏光変換素子、光量調整素子又は収差補正素子のいずれかである、請求項1〜7のいずれか1項記載の液晶光変調素子。
【請求項9】
波長500nm以下のレーザー光を出射する光源と、この光源から出射されたレーザー光を光記録媒体上に集光させる対物レンズと、集光されて光記録媒体により反射された光を受光する光検出器と、前記光源と前記光記録媒体との間の光路中または前記光記録媒体と前記光検出器との間の光路中に配置された請求項1〜8のいずれか1項に記載の液晶光変調素子とを備える光ヘッド装置。

【公開番号】特開2011−39531(P2011−39531A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202155(P2010−202155)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【分割の表示】特願2006−528699(P2006−528699)の分割
【原出願日】平成17年6月28日(2005.6.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】