説明

液晶性樹脂組成物の製造方法

【課題】一般的な溶融混練押出機を用いながらも、従来では得られない中空フィラーの残存率と繊維長をバランス良く維持するための液晶樹脂組成物の製造手法を提供する。
【解決手段】一般的な混練押出機を使用し、中空フィラーを5〜30重量%、繊維状充填剤を5〜30重量%含有する液晶性樹脂組成物を製造する方法であって、(1) 押出し方向上流部のメインフィード口1から液晶性樹脂を供給し、押出し方向下流部のサイドフィード口3から中空フィラーと繊維状充填剤を供給すると共に、(2) サイドフィード口の位置から押出機内の圧力上昇が0.1MPaに達する位置までの長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL1、(3) 中空フィラーと繊維状充填剤を供給以降、押出機内の圧力上昇が0.1MPa以上を維持している長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL2、(4) 樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLaとした時、これらが特定の数値範囲を満足する条件にて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空フィラー及び繊維状充填剤を含有する液晶性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種熱可塑性樹脂の用途が拡大するにつれ、低コスト、軽量化、応答速度等の点から、樹脂材料の低比重化の要求がある。こうした背景のもとに、低比重化を実現する試みとして、樹脂中に空気、不活性ガスを導入する方法があり、特に中空フィラーを混合する技術が一般的に知られている。液晶性樹脂に対しても中空フィラーを混合する技術が提案されており(特許文献1)、低比重化と共に低誘電率化という別個の効果もあり、液晶性樹脂の用途の拡大が図られている(特許文献2)。
【0003】
しかしながら、従来提案されている技術により、通常の溶融加工押出し方法で中空フィラーの配合を試みた場合、溶融混練による剪断力のため、かなりの割合の中空フィラーが破壊されることがあり、実質上、低比重の組成物を得ることが困難であった。
【0004】
即ち、中空フィラーは一定の耐圧強度を有しているが、それ以上の圧力がかかると容易に破壊してしまい、配合目的である所定の効果(低比重化)が得られないという問題がある。通常、製造工程では応力の履歴を受けることによって、ある程度の破損は不可避であるが、樹脂組成物中の中空フィラーの残存率が組成物の低比重化に大きく影響するため、製造条件を制御し、高い中空フィラー残存率を保持することが望ましい。
【0005】
一方、中空フィラーを樹脂中に分散させると、見掛け上、樹脂組成物は微細な気泡を含有するため、比重は小さくなるものの、同時に曲げ強度、曲げ弾性率等の物性が極度に低下する。このため、ガラス繊維等の繊維状充填剤を複合しないと、剛性等の点で現実性のないケースが多い。前記した特許文献1、2でも繊維状充填剤の併用を推奨している。ところが、繊維状充填剤を複合した場合、粘度上昇、フィラー衝突確率の上昇により、製造工程における中空フィラーの破損はさらに進む可能性が高い。
【0006】
また、ガラス繊維等の繊維状充填剤は、樹脂組成物内で200〜700μm、好ましくは300〜600μm程度の長さで分散していることが望ましい。これは、当該組成物を使用するアイテム、即ち低比重化が求められる成形品が総じて小さく、薄肉部を持つようなものであるため、繊維長が長すぎると充填不良等の問題を引き起こす可能性が高く、また逆に短すぎると十分な剛性が得られないためである。樹脂組成物中でガラス繊維を上記繊維長で分散させるためには、製造工程中にある程度の応力をかけ、ガラス繊維を折損させることが必要であるが、この応力が中空フィラーの残存率を低下させる原因となる。
【0007】
即ち、従来行われている一般的な溶融混練方法では、中空フィラーの残存率とガラス繊維長を十分にバランス良く維持することは困難であった。
【0008】
この問題の解決のために、特許文献3では、押出し方向上流部のメインフィード口から熱可塑性樹脂を供給し、押出し方向下流部のサイドフィード口から中空フィラーを供給することにより(無機繊維を併用する場合は、メインフィード口からでもサイドフィード口からでも可とされている)、中空フィラーの残存率を向上させる方法が提案されているが、これは単に熱可塑性樹脂と中空フィラーをメインフィード口から同時に供給する場合に比べて残存率が向上したことを示すに過ぎず、物性に与える影響を考慮していないため、その効果は不十分であった。
【0009】
中空フィラーの残存率とガラス繊維長を十分にバランス良く維持するために考えられる手法としては、液晶性樹脂をメインフィード口から供給し十分可塑化した後、ガラス繊維をサイドフィードし十分混練し、最後に中空フィラーを別のサイドフィード口から供給し分散させることが理想的ではあるが、現実の溶融混練押出機はその長さに限度があること、サイドフィード口が複数になり一般的な装置には適用できない等の問題がある。
【特許文献1】特開2001−172479号公報
【特許文献2】特開2004−27021号公報
【特許文献3】特開2001−310323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、中空フィラー及び繊維状充填剤を含有する液晶性樹脂組成物を製造するに際し、一般的な溶融混練押出機を用いながらも、従来では得られない中空フィラーの残存率と繊維長を十分にバランス良く維持するための製造手法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記目的を達成すべく、溶融混練条件及び溶融混練押出機のスクリューデザインについて鋭意検討を行ったところ、特定の溶融混練条件で製造すること及びそのためには特定の装置の使用が極めて有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、スクリューを備えた溶融混練押出機を使用し、中空フィラーを5〜30重量%、繊維状充填剤を5〜30重量%含有する液晶性樹脂組成物を製造する方法であって、
(1) 押出し方向上流部のメインフィード口から液晶性樹脂を供給し、押出し方向下流部のサイドフィード口から中空フィラー及び繊維状充填剤を供給すると共に、
(2) サイドフィード口の位置から押出機内の圧力上昇が0.1MPaに達する位置までの長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL1、
(3) 中空フィラー及び繊維状充填剤を供給以降、押出機内の圧力上昇が0.1MPa以上を維持している長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL2、
(4) 樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLaとした時、
これらが以下を満足する条件にて製造を行うことを特徴とする液晶性樹脂組成物の製造方法である。
【0013】
L1>3.5
4<L2<9
La>2
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明は、(1) 押出し方向上流部のメインフィード口から液晶性樹脂を供給し、押出し方向下流部のサイドフィード口から中空フィラー及び繊維状充填剤を供給すると共に、(2) サイドフィード口の位置から押出機内の圧力上昇が0.1MPaに達する位置までの長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL1とした時、(L1>3.5)を満足する条件にて製造を行うことを基本的な特徴とする。
【0015】
L1が3.5以下であると、供給された中空フィラーが急激な剪断力を受けて、中空フィラーの多くが破壊してしまうという不具合が発生する。中空フィラー供給後、圧力上昇のない部分を設けることによって供給された中空フィラーと溶融樹脂をなじませることにより、溶融樹脂が潤滑剤的な役割を果たし、急激な圧力上昇を抑制し、中空フィラーの破壊を抑制することができるのである。そのため、圧力上昇のない部分として、L1が3.5より長い距離、好ましくは5<L1<10が必要なのである。
【0016】
更に、樹脂組成物として良好な特性を得るために、繊維状充填剤が最適な重量平均繊維長200〜700μmにて樹脂組成物内で良好に分散している必要がある。
【0017】
このような繊維状充填剤の最適な重量平均繊維長及び分散状態を考慮すると、前記(3) の条件として、中空フィラー及び繊維状充填剤を供給以降、押出機内の圧力上昇が0.1MPa以上を維持している長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL2とした時、4<L2<9、好ましくは5<L2<8を満足する条件にて製造を行うことが好ましい。L2が4以下であると、十分な混練がなされず、樹脂組成物内に重量平均繊維長の長い繊維状充填剤が分散することになり、流動性が悪くなり、成形性等に問題を生じる場合がある。また、L2が9より大きいと、必要以上に繊維状充填剤が短くなり、また中空フィラーの破損も多くなり、好ましくない。
【0018】
また、液晶性樹脂は、フィラーと混練される前に十分に溶融される必要がある。未溶融の液晶性樹脂が存在すると、中空フィラーが極度に破損してしまうからである。そのためには、樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比Laは、La>2とする必要がある。
【0019】
以上のような条件で押出機を用いて溶融混練することにより、中空フィラーの破損が少なく、最適な重量平均繊維長の繊維状充填剤が分散した樹脂組成物が得られるのであるが、そのためのスクリュー形状としては、以下に規定されるものを用いるのが好ましい。
【0020】
即ち、樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLa、サイドフィード口の位置から混練部の開始位置までの長さとスクリュー径Dとの比L/DをLb、混練部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLcとした時、これらが以下を満足するスクリューで製造を行うのが好ましい。
【0021】
La>2(好ましくは2<La<6、特に好ましくは3<La<6)
Lb>5(好ましくは6<Lb<10)
4<Lc<9(好ましくは5<Lc<8)
また、混練時の時間当たりの押出量をQ(kg)、スクリュー回転数をN(rpm)とした場合のQ/Nが、0.5〜2.0となる条件で溶融混練することが、中空フィラーの破損、繊維状充填剤の最適な重量平均繊維長等の点で好ましい。
【0022】
以下、添付した図1に基づき、本発明に使用する装置構成を説明する。図1は、本発明に使用する押出機用スクリューの形状を模式的に示した図である。
【0023】
本発明のスクリューは、液晶性樹脂を可塑化させる可塑化部、及び中空フィラーと繊維状充填剤を分散させる混練部からなる。
【0024】
液晶性樹脂は、押出し方向上流部のメインフィード口1から供給され、可塑化部2にて十分溶融させられる。十分な溶融状態が得られないと、混練部4におけるフィラー混練に悪影響を与える。例えば、中空フィラーを極度の破損に至らしめたり、繊維状充填剤を極度に折損させてしまい、目的とする性能を発現する樹脂組成物が得られない。このことから、樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比Laは、La>2(好ましくは2<La<6、特に好ましくは3<La<6)とする必要がある。
【0025】
中空フィラー及び繊維状充填剤は、押出し方向下流部のサイドフィード口3から供給される。サイドフィード口3と混練部4との間には、L1>3.5となるように、適切な搬送ゾーンを設ける必要がある。サイドフィード口3と混練部4が接近しすぎていると、サイドフィード口3から供給されたフィラーが押出機に入ると同時に急激な剪断力を受け、特に中空フィラーはその多くが破壊してしまうという不具合が発生する。
【0026】
このように、L1>3.5を満足させるために、サイドフィード口の位置から混練部の開始位置までの長さとスクリュー径Dとの比Lbは、Lb>5(好ましくは6<Lb<10)を満足する必要がある。
【0027】
次いで、混練部4にて、中空フィラー及び繊維状充填剤は、溶融樹脂と十分に混練される。混練部の長さとスクリュー径Dとの比Lcは、4<Lc<9(好ましくは5<Lc<8)である。
【0028】
前述の通り、L2が、4<L2<9、好ましくは5<L2<8を満足するために、混練部の長さとスクリュー径Dとの比Lcは、4<Lc<9(好ましくは5<Lc<8)にする必要がある。
【0029】
溶融混練式押出機としては、単軸押出機、二軸押出機が挙げられる。二軸押出機には同方向回転タイプ、異方向タイプ、不完全かみ合いタイプなどが挙げられ、好ましくは同方向回転二軸混練押出機が用いられる。同方向タイプには一条ネジタイプ、二条ネジタイプ、三条ネジタイプなどが挙げられ、異方向タイプには平行軸タイプ、斜軸タイプが挙げられる。
【0030】
本発明に用いる溶融混練押出機においては、下流側供給部より下流のスクリューが、実質的に押し出し方向に対して正方向のネジスクリューのみからなり、ニーディング部を持たないものが好ましい。これにより、中空球体の練りが弱くなり、破壊を抑制することができる。ここに、押し出し方向に対して正方向のネジスクリューとは、スクリューを回転させたときに、熱可塑性樹脂等を押出し方向に輸送するネジスクリューのことをいい、例えばフルフライトスクリューが挙げられる。可塑化部および混練部としては、単軸押出機の場合、ダルメージスクリュー、ユニメルトスクリュー、ピンスクリュー、バリアスクリューなどが挙げられる。一方、二軸押出機の場合、ニーディングディスク(右ニーディングディスク、ニュートラルニーディングディスク、左ニーディングディスク)、ミキシングスクリューなどが挙げられる。
【0031】
本発明で使用する液晶性ポリマーとは、光学異方性溶融相を形成し得る性質を有する溶融加工性ポリマーを指す。異方性溶融相の性質は、直交偏光子を利用した慣用の偏光検査法により確認することが出来る。より具体的には、異方性溶融相の確認は、Leitz偏光顕微鏡を使用し、Leitzホットステージに載せた溶融試料を窒素雰囲気下で40倍の倍率で観察することにより実施できる。本発明に適用できる液晶性ポリマーは直交偏光子の間で検査したときに、たとえ溶融静止状態であっても偏光は通常透過し、光学的に異方性を示す。
【0032】
前記のような液晶性ポリマーとしては特に限定されないが、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドであることが好ましく、芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドを同一分子鎖中に部分的に含むポリエステルもその範囲にある。これらは60℃でペンタフルオロフェノールに濃度0.1重量%で溶解したときに、好ましくは少なくとも約2.0dl/g、さらに好ましくは2.0〜10.0dl/gの対数粘度(I.V.)を有するものが使用される。
【0033】
本発明に適用できる液晶性ポリマー(A) としての芳香族ポリエステル又は芳香族ポリエステルアミドとして特に好ましくは、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンの群から選ばれた少なくとも1種以上の化合物を構成成分として有する芳香族ポリエステル、芳香族ポリエステルアミドである。
【0034】
より具体的には、
(1)主として芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上からなるポリエステル;
(2)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステル;
(3)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミド;
(4)主として(a)芳香族ヒドロキシカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(b)芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミンおよびその誘導体の1種又は2種以上と、(c)芳香族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸およびその誘導体の1種又は2種以上と、(d)芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオールおよびその誘導体の少なくとも1種又は2種以上、とからなるポリエステルアミドなどが挙げられる。さらに上記の構成成分に必要に応じ分子量調整剤を併用してもよい。
【0035】
本発明に適用できる前記液晶性ポリマーを構成する具体的化合物の好ましい例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、レゾルシン、下記一般式(I)および下記一般式(II)で表される化合物等の芳香族ジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および下記一般式(III)で表される化合物等の芳香族ジカルボン酸;p−アミノフェノール、p−フェニレンジアミン等の芳香族アミン類が挙げられる。
【0036】
【化1】

【0037】
(但し、X :アルキレン(C1〜C4)、アルキリデン、-O- 、-SO-、-SO- 、-S-、-CO-より選ばれる基、Y :-(CH)-(n =1〜4)、-O(CH)O-(n =1〜4)より選ばれる基)
本発明が適用される特に好ましい液晶性ポリマーとしては、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を主構成単位成分とする芳香族ポリエステルである。
【0038】
本発明で用いる中空フィラーは、一般にバルーンと呼ばれているものであり、中空球体の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、ガラス等の無機材料;尿素樹脂、フェノール樹脂、等の有機材料;が挙げられ、必要に応じてその2種以上の混合材料であってもよい。中でも、耐熱性や強度の観点からガラスが好ましい、すなわち、中空フィラーとしては、ガラスバルーンが好適に用いられる。
【0039】
中空フィラーの配合量は、液晶樹脂組成物中5〜30重量%であり、好ましくは10〜20重量%である。5重量%より少ないと期待する低比重化が実現できない。また、配合量が多すぎても流動性を著しく損なうために適当ではない。
【0040】
中空フィラーの平均粒径は、成形性の観点から、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは10μm以上であり、中空フィラーの破壊抑制や成形性の観点から、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0041】
本発明に用いる繊維状充填剤としてはガラス繊維、アスベスト繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイトの如き珪酸塩の繊維、硫酸マグネシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、更にステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の繊維状物などの無機質繊維状物質が挙げられる。特に代表的な繊維状充填剤はガラス繊維である。尚、ポリアミド、フッ素樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂などの高融点有機質繊維状物質も使用することが出来る。
【0042】
繊維状充填剤については特に制限はないが、一般的には9〜15μm径で繊維長1〜10mmのチョップドストランドのガラス繊維及び炭素繊維が好ましく使用される。その繊維を押出機内で重量平均繊維長200〜700μmにすることにより、樹脂組成物内で良好な分散状態になる。
【0043】
繊維状充填剤の配合量は、液晶樹脂組成物中5〜30重量%であり、好ましくは10〜20重量%である。5重量%より少ないと期待される剛性(曲げ弾性率;10GPa以上)が得られない。また、配合量が多すぎると流動性を損ない、また中空フィラーの残存率が低下するため、適当ではない。
【0044】
なお、本発明の液晶性樹脂組成物に対し、本発明の効果を損なわない範囲で、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤および難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明で言う液晶性樹脂組成物の範囲に含まれる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中の物性は次の方法で測定し、製造条件等は以下に示す通りである。
[測定方法]
(1)比重測定
ISO178に従って、(株)日本製鋼所製J75SSII−A射出成形機によりダンベル試験片を成形し、その試験片をISO1183に従って室温(23℃)にて比重測定を行った。尚、130×12×0.8mmの試験片を用いても、同等の結果となった。
(2)中空フィラーの残存率
樹脂中に破損せずに残っている中空フィラーの割合を「中空フィラー残存率」として、以下の式により求めた。
【0046】
ρ=100/[α/ρ1+β/ρ2+γX/ρ3+γ(1−X)/ρ4]
:中空フィラーの材料比重
α:液晶性樹脂の重量%
β:ガラス繊維の重量%
γ:中空フィラーの重量%
ρ:液晶性樹脂組成物の比重
ρ1:液晶性樹脂の比重
ρ2:ガラス繊維の比重
ρ3:中空フィラーの比重
ρ4:中空フィラーの材料比重
X:中空フィラー残存率
(3)ガラス繊維の繊維長
樹脂組成物ペレット5gを600℃で2時間加熱し、灰化した。灰化残渣を5%ポリエチレングリコール水溶液に十分分散させた後、スポイトでシャーレに移し、顕微鏡でガラス繊維を観察した。同時に画像解析装置((株)ニレコ製、LUZEX FS)を用いてガラス繊維の重量平均長さを測定した。尚、画像解析の際には、重なり合った繊維を別々の繊維に分離し、それぞれの長さを求めるようなサブルーチンを適用した。尚、長さ50μm以下のガラス繊維は除外して測定した。
(4)曲げ弾性率
ISO178に準拠して測定した。
(5)押出機内の圧力分布
スクリュー形状から、シュミレーションソフト(TEX−FAN(日本製鋼所))を用いて、解析に必要な下記の樹脂物性及び押出機の運転条件より、押出機内の圧力分布を求めた。
(樹脂物性)
固体密度 :1390kg/m3
溶融密度 :1310kg/m3
固体熱伝導率:0.3J/m・sec
溶融熱伝導率:0.28J/m・sec
固体比熱 :880J/kg
溶融比熱 :1590J/kg
融点 :360℃
[製造条件]
(使用成分)
・ポリマー;
液晶性ポリマーペレット(ポリプラスチックス(株)製、ベクトラS950)、融点355℃、粘度30Pa・sのベースポリマー(380℃、剪断速度1000/sで測定)、ペレット寸法:約5〜3mm×約3〜2mm×約3〜1mm
・ガラス繊維;
旭ファイバーガラス(株)製、CS03JA419(繊維径10μmのチョツプドストランドファイバー)
・中空フィラー;
住友3M(株)製、S60HS(平均粒径30μm、真比重0.60、材料比重2.50)
(押出条件)
押出機;日本製鋼所(株)製、二軸スクリュー押出機TEX−30α(スクリュー径33mm、L/D:38.5)
実施例1〜3、比較例1〜3
図1に示すような、メインフィード口(樹脂フィード部)1−可塑化部2−サイドフィード口(フィラーフィード部)3−混練部4という基本構成のスクリューを用い、スクリューエレメントの構成を変えることで、La、Lb、Lcの長さを変えて製造を行った。
【0047】
各実施例・比較例の具体的なスクリュー構成は以下の通りである。
(実施例1)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ132mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;208mm
・混練部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、長さ231mm
(実施例2)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ132mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;231mm
・混練部構成;上流側より、バックミキシングスクリュー(BMS)、逆ニーディング、逆フライト、長さ198mm
(実施例3)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ132mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;257mm
・混練部構成;上流側より、バックミキシングスクリュー(BMS)、逆ニーディング、逆フライト、長さ198mm
(比較例1)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ132mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;50mm
・混練部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、長さ231mm
(比較例2)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ50mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;208mm
・混練部構成;上流側より、バックミキシングスクリュー(BMS)、逆ニーディング、逆フライト、長さ165mm
(比較例3)
・可塑化部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、長さ132mm
・サイドフィード口から混練部の開始位置までの長さ;330mm
・混練部構成;上流側より、順ニーディング、逆ニーディング、逆フライト、長さ50mm
(押出条件)
・メインフィード口1へのフィーダー;(株)日本製鋼所製スクリュー式ロスインウェイトフィーダー
・サイドフィード口3へのフィーダー;
中空フィラー;(株)日本製鋼所製スクリュー式ロスインウェイトフィーダー
ガラス繊維;K−TRON社製スクリュー式ロスインウェイトフィーダー
・シリンダー温度;メインフィード口1のシリンダーのみが200℃であり、他のシリンダー温度は全て370℃とした。
・押出吐出量;30kg/h
・スクリュー回転数;300rpm
・ダイ温度;375℃
(組成物の混練および押出方法)
上記二軸スクリュー押出機を用い、液晶性ポリマーのペレットをメインフィード口1から供給し、中空フィラーとガラス繊維をサイドフィード口から供給した。サイドフィード口には二軸サイドフィーダーを用いて供給し、組成物中の割合が液晶性ポリマー65重量%、中空フィラー15重量%、ガラス繊維20重量%(実施例3は液晶性ポリマー60重量%、中空フィラー60重量%、ガラス繊維20重量%)となるように重量フィーダーを用いて制御した。ダイストランド状に吐出させた溶融樹脂組成物をタナカ製作所製メッシュベルトコンベアで搬送しつつ、スプレー噴霧水により冷却した後、カッティングしてペレットを得た。このペレットから下記条件で射出成形機により試験片を作成し、評価した。これらの結果を表1に示す。
(射出成形条件)
・射出成形機;(株)日本製鋼所製J75SSII−A
・シリンダー温度;370℃
・金型温度;90℃
・射出速度;4m/min
・保圧力;49.0MPa
・射出保圧時間;7sec
・冷却時間;10sec
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明に使用する押出機用スクリューの形状を模式的に示した図であり、(a) はスクリュー部分を示し、(b) は押出機内の圧力上昇を示す。
【符号の説明】
【0050】
1…メインフィード口
2…可塑化部
3…サイドフィード口
4…混練部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリューを備えた溶融混練押出機を使用し、中空フィラーを5〜30重量%、繊維状充填剤を5〜30重量%含有する液晶性樹脂組成物を製造する方法であって、
(1) 押出し方向上流部のメインフィード口から液晶性樹脂を供給し、押出し方向下流部のサイドフィード口から中空フィラー及び繊維状充填剤を供給すると共に、
(2) サイドフィード口の位置から押出機内の圧力上昇が0.1MPaに達する位置までの長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL1、
(3) 中空フィラー及び繊維状充填剤を供給以降、押出機内の圧力上昇が0.1MPa以上を維持している長さLとスクリュー径Dとの比L/DをL2、
(4) 樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLaとした時、
これらが以下を満足する条件にて製造を行うことを特徴とする液晶性樹脂組成物の製造方法。
L1>3.5
4<L2<9
La>2
【請求項2】
樹脂可塑化部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLa、サイドフィード口の位置から混練部の開始位置までの長さとスクリュー径Dとの比L/DをLb、混練部の長さとスクリュー径Dとの比L/DをLcとした時、これらが以下を満足するスクリューで製造を行う請求項1記載の液晶性樹脂組成物の製造方法。
2<La<6
Lb>5
4<Lc<9
【請求項3】
La、Lb、Lcが以下を満足するスクリューで製造を行う請求項2記載の液晶性樹脂組成物の製造方法。
3<La<6
6<Lb<10
5<Lc<8

【図1】
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【公開番号】特開2006−35677(P2006−35677A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219940(P2004−219940)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【Fターム(参考)】