説明

液晶素子及びそれを備えた光ピックアップ装置

【課題】液晶素子を構成する透明電極と重なる位置に設けられる配線の存在で発生する余分な収差を低減できる簡易な構成の液晶素子を提供する。
【解決手段】液晶素子を構成する第1透明電極14と第2透明電極15とは、異なる同心円状の分割領域14a〜14d、15a〜15eから成る。第1透明電極14の各分割領域14a〜14dは、第2透明電極15の分割領域15a〜15eのうちの2つの領域と対向した状態となっている。一方、第2透明電極15の分割領域15a〜15eのうち、分割領域15aと分割領域15eとは、それぞれ第1透明電極14の分割領域14a、14dの1領域のみと対向しており、残りの分割領域15b〜15dは、第1透明電極14の分割領域14a〜14dのうちの2つの領域と対向している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置等の光学装置に備えられる液晶素子に関し、特に波面収差の補正を可能とする液晶素子に関する。また、本発明は波面収差を補正するために液晶素子を備える光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンパクトディスク(以下、CDという。)やデジタル多用途ディスク(以下、DVDという。)といった光記録媒体が普及し、一般的に用いられるようになっている。そして、光記録媒体の情報量を増やすために、光記録媒体の高密度化に関する研究が進められ、例えば、高品位のDVDであるHD−DVDやブルーレイディスク(以下、BDという。)といった高密度化された光記録媒体も実用化されつつある。
【0003】
このような光記録媒体の記録再生を行うにあたっては、光記録媒体に光ビームを照射して情報の記録や情報の読み取りを可能とする光ピックアップ装置が用いられるが、光記録媒体の種類によって、光ピックアップ装置に用いられる対物レンズの開口数(NA)や光源の波長が異なってくる。例えば、CDに対しては、対物レンズのNAが0.50、光源の波長が780nm、DVDに対しては、対物レンズのNAが0.65、光源の波長が650nm、HD−DVDに対しては、対物レンズのNAが0.65、光源の波長が405nm、BDに対しては、対物レンズのNAが0.85、光源の波長が405nmとなる。
【0004】
このように、光記録媒体の種類によって、用いられる対物レンズのNAや波長が異なるために、光記録媒体毎に異なる光ピックアップ装置を用いることも考えられるが、1つの光ピックアップ装置で複数種類の光記録媒体について情報の読み取り等が行える方が便利であり、そのような光ピックアップ装置が多く開発されている。この中には、例えば、特許文献1に示されているように、1つの対物レンズで、複数種類の光記録媒体について情報の書き込みや読み取りを行う光ピックアップ装置がある。
【0005】
1つの対物レンズで複数種類の光記録媒体に対応しようとすると、例えば、1つの種類の光記録媒体について球面収差が発生しないように対物レンズの調整を行っても、他の種類の光記録媒体について情報の読み取り等を行う際に球面収差が発生する場合がある。このため、特許文献1にも示されているように、光ピックアップ装置の中に液晶パネル(液晶素子)を配置し、液晶素子に印加する電圧を制御して、球面収差の補正を行う構成とするのが一般的である。そして、このような目的で配置される液晶素子においては、液晶素子を構成する2枚の透明電極のうち、一方を同心円状に分割して複数の領域を形成し、もう一方を分割電極とせず共通電極とし、分割した透明電極の各領域に印加する電圧を制御して球面収差の補正を行うタイプのものが、特許文献1をはじめとして多く紹介されている。
【0006】
しかしながら、上述の液晶素子を用いる場合、複数種類の光記録媒体に対して発生する各収差について適切に補正しようとすると、同心円状に複数の領域に分割される透明電極の分割数を増加する必要が生じ、各領域から引き出される配線の数の増大により、液晶素子に占める配線部分の面積が増大して収差の補正が不十分になるといった問題がある。また、同心円状に分割される領域の数が増えた場合、液晶素子を制御する回路基板に設けられる電極や配線の数も増大してしまい、光ピックアップ装置の大型化や製造コストの上昇といった問題も発生する。
【0007】
この点、複数種類の光記録媒体に対して発生する収差について完璧に補正せず、各収差に対して概ね補正するとのコンセプトで、液晶素子の分割される側の透明電極の分割数を減らし、透明電極に設けられる配線の数や液晶素子を制御する回路基板に設けられる電極及び配線の数をある程度減らせるが、これにも限界がある。
【0008】
また、特許文献1に紹介されているような、低抵抗の同心円状の複数の透明電極を有し、互いに隣り合う電極間を透明電極と同一素材の抵抗素子で接続して構成されるセグメント型の液晶パネルや、高抵抗の分割のない透明電極の上に低抵抗の同心円状の複数の電極を配置するグラディエーション型の液晶パネルを用いることで、液晶パネルから引き出される配線の本数を減らし、更にこれにより液晶パネルを制御する回路基板に設けられる電極の数及び配線の数を減らすことも考えられる。しかしながら、このような構成とする場合、そもそも、液晶パネルの構成が複雑となり、更に液晶パネルの製造コストが高くなるといった問題が発生する。
【特許文献1】特開2005−71424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上の点を鑑みて、本発明は、波面収差の補正を適切に行えるように位相差を生じる領域を適切な数だけ確保しつつ、透明電極と重なる位置に配置される配線の存在で発生する余分な収差を低減できる簡易な構成の液晶素子を提供することである。また、本発明の他の目的は、先の目的を達成しつつ、更に液晶素子を制御する回路基板に接続される配線の数を低減できる液晶素子を提供することである。更に、本発明の他の目的は、前述の液晶素子を備えることにより、波面収差の補正を適切に行え、小型で、更に低コストで製造できる光ピックアップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、液晶と、該液晶を挟む第1透明電極と第2透明電極との2枚の透明電極と、を備える液晶素子において、前記第1透明電極と前記第2透明電極とは、いずれも分割されて、互いに異なるパターンの複数の分割領域から成り、前記第1及び第2透明電極の前記パターンは、前記分割領域のそれぞれに所定の電位を与えた場合に、入射する光ビームに対して位相差を生じる位相シフト領域の数が、前記第1透明電極と前記第2透明電極とのいずれの前記分割領域の数よりも多くなるように形成されることを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、上記構成の液晶素子において、少なくとも前記透明電極が存在する部分では、前記第1透明電極と前記第2透明電極とのうちで前記分割領域の数が少ない方の前記透明電極について、前記分割領域のそれぞれから引き出される配線の少なくとも1つが、他方の前記透明電極の前記分割領域から引き出される配線と前記液晶を挟んで重なり合う位置に形成されることを特徴としている。
【0012】
また、本発明は、上記構成の液晶素子において、前記第1及び第2透明電極に形成される前記分割領域は、同心円状の複数の領域から成り、前記第1透明電極の各分割領域は、前記第2透明電極の前記分割領域のうちの1つ以上の領域と対向し、且つ、前記第2透明電極の前記分割領域のうち、少なくとも1つの領域は、前記第1透明電極の前記分割領域のうちの2つ以上の領域と対向することを特徴としている。
【0013】
また、本発明は、上記構成の液晶素子において、前記第1透明電極と前記第2透明電極とのうちの少なくとも一方においては、前記分割領域のうち、前記配線の2つ以上が電気的に接続されて等電位となる領域が1組以上設けられ、前記第1及び第2透明電極と外部に設けられる電極とを接続する接続配線の総数が前記位相シフト領域の数以下となることを特徴としている。
【0014】
また、本発明は、上記構成の液晶素子を備える光ピックアップ装置であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の構成によれば、液晶素子に入射する光ビームに対して位相の差を発生させる位相シフト領域を、収差の補正を適切に行える数だけ確保しつつ、片側の透明電極のみを分割電極とする構成の液晶素子と比べ、一枚の透明電極から引き出される配線の最大数を少なくすることが可能となる。このため、透明電極と重なる位置に設けられる配線の存在によって生じる収差を低減することが可能となる。
【0016】
また、本発明の第2の構成によれば、上記第1の構成の液晶素子において、配線の存在よって生じる収差を有効に低減することが可能となる。
【0017】
また、本発明の第3の構成によれば、上記第1又は第2の構成の液晶素子において、簡易な構成で、透明電極と重なる位置に設けられる配線の存在によって発生する収差を低減できる液晶素子を実現可能となる。
【0018】
また、本発明の第4の構成によれば、上記第1から第3のいずれかの構成の液晶素子において、液晶素子から引き出されて液晶素子に印加する電圧を制御する回路基板上の電極と接続する接続配線の数が低減されるため、回路基板上に設けられる電極及び配線の数を低減できる。
【0019】
また、本発明の第5の構成によれば、上記第1から第4のいずれかの構成の液晶素子を備える光ピックアップ装置において、液晶素子を構成する透明電極と重なる位置に設けられる配線によって生じる収差を低減することが可能となり、収差の補正を適切に行い易い光ピックアップ装置を提供できる。また、液晶素子から引き出される配線の数を減らすことも可能であるために、液晶素子に印加する電圧を制御する回路基板に設ける電極及び配線の数を減らすことができる。このため、光ピックアップ装置の小型化及び製造コストの抑制を図ることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。なお、ここで示す実施形態は一例であり、本発明はここに示す実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1は、本発明の液晶素子を備える光ピックアップ装置の実施形態の一例であり、光ピックアップ装置の光学系を示す概略図である。1は、光ピックアップ装置で、DVDとBDの2種類の光記録媒体12に対して、光ビームを照射して反射光を受光することにより光記録媒体12の記録面12aに記録されている情報を読み取ったり、光記録媒体12に光ビームを照射して記録面12aに情報を書き込んだりすることを可能とする装置である。なお、光ピックアップ装置1で情報の読み取り等が可能な光記録媒体12の種類及び数は、本実施形態に示す種類及び数に限らず、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
この光ピックアップ装置1は、第1光源2と、第2光源3と、ダイクロプリズム4と、コリメートレンズ5と、ビームスプリッタ6と、立ち上げミラー7と、液晶素子8と、対物レンズ9と、検出レンズ10と、光検出器11と、を備えている。以下に、光ピックアップ装置1を構成する各光学部材の詳細を説明する。
【0023】
第1光源2は、DVDに対応する650nm帯の光ビームを出射できる半導体レーザで、第2光源3は、BDに対応する405nm帯の光ビームを出射できる半導体レーザである。なお、本実施形態では、光源2、3として、単一の波長の光ビームのみを出射する半導体レーザを用いているがこれに限られる趣旨ではなく、例えば、2種類の波長の光ビームを出射できるように2つの発光点を有する2波長一体型の半導体レーザを用いても構わない。
【0024】
ダイクロプリズム4は、DVD用の光ビームを出射する第1光源2から出射される光ビームを透過し、BD用の光ビームを出射する第2光源3から出射される光ビームを反射する。そして、第1光源2及び第2光源3から出射される光ビームの光軸を一致させる。ダイクロプリズム4において、透過又は反射された光ビームは、コリメートレンズ5に送られる。
【0025】
コリメートレンズ5は、ダイクロプリズム4を通過した光ビームを平行光に変換する。ここで、平行光とは、第1光源2及び第2光源3から出射された光ビームの全ての光路が光軸とほぼ平行である光をいう。コリメートレンズ5で平行光とされた光ビームは、ビームスプリッタ6に送られる。
【0026】
ビームスプリッタ6は、入射する光ビームを分離する光分離素子として機能し、コリメートレンズ5から送られてきた光ビームを透過して、光記録媒体12側へと導くとともに、光記録媒体12で反射された反射光を反射して光検出器11側へと導く。ビームスプリッタ6を透過した光ビームは、立ち上げミラー7に送られる。
【0027】
立ち上げミラー7は、ビームスプリッタ6を透過してきた光ビームを反射して光記録媒体12へと導く。立ち上げミラー7は、ビームスプリッタ6からの光ビームの光軸に対して45°傾いた状態となっており、立ち上げミラー7で反射された光ビームの光軸は、光記録媒体12の記録面12aと略直交する。立ち上げミラー7で反射された光ビームは、液晶素子8に送られる。
【0028】
液晶素子8は、透明電極に挟まれた液晶(いずれも図示せず)に電圧を印加することで、液晶分子がその配向方向を変える性質を利用して、屈折率の変化を制御し、液晶素子6を透過する光ビームの位相の制御を可能とする素子である。この液晶素子8を配置することによって、光記録媒体12の記録面12aを保護する保護層の厚みの違い等によって生じる球面収差の補正が可能となる。本実施形態においては、DVD用の光源(第1光源2)から出射される光ビームについて、球面収差の補正が可能とされている。なお、液晶素子8の詳細については後述する。液晶素子8を通過した光ビームは対物レンズ9へと送られる。
【0029】
対物レンズ9は、液晶素子8を透過した光ビームを光記録媒体12の記録面12a上に集光させる。本実施形態における対物レンズ9は、BD用の光源(第2光源3)から出射される光ビームについて、球面収差を発生しないように設計されている。この場合、DVD用の光源(第1光源2)から出射されて対物レンズ9を透過する光ビームは球面収差を発生する。このため、光ピックアップ装置1の光学系中には、上述の液晶素子8が配置され、球面収差を補正できるようになっている。また、対物レンズ9は図示しない対物レンズアクチュエータによって、例えば、図1の上下方向および左右方向に移動可能とされており、フォーカスサーボ信号及びトラッキングサーボ信号に基づいてその位置が制御される。
【0030】
なお、本実施形態においては、液晶素子8も対物レンズ9と共に移動できるように、対物レンズアクチュエータに搭載されている。ただし、液晶素子8は、必ずしも対物レンズアクチュエータに搭載する必要はなく、光学系の構成に応じて、その構成は変更可能である。
【0031】
光記録媒体12で反射された反射光は、対物レンズ9、液晶素子8の順に通過し、立ち上げミラー7で反射された後、更にビームスプリッタ6で反射されて、検出レンズ10によって光検出器11上に設けられる図示しない受光部へと集光される。
【0032】
光検出器11は、受光した光情報を電気信号に変換して、例えば、図示しないRFアンプ等に出力する。そして、この電気信号は、記録面12aに記録されているデータの再生信号として、更には、フォーカス制御やトラッキング制御を行うためのサーボ信号として用いられる。
【0033】
次に、本実施形態の光ピックアップ装置1が備える液晶素子8の構成の第1実施形態について説明する。図2は、光ピックアップ装置1が備える第1実施形態の液晶素子8の構成を説明するための模式図である。図2に示すように、液晶素子8は、液晶13と、液晶13を挟む2枚の透明電極14、15(第1透明電極14と第2透明電極15)と、液晶13と透明電極14、15とで形成される部分16を挟む2枚のガラス板17と、を備えている。
【0034】
液晶13は、両端に電圧を印加することにより内部の液晶分子の配向が変化し、これに伴い屈折率が変化する性質を有する。このため、液晶内部を透過する光ビームは、液晶13の屈折率の変化に従って光路差に変化を生じ、光路差の変化分に相当する位相差を発生する。透明電極14、15はITO等を素材として構成され、光透過性を有する。また、透明電極14、15はガラス基板17上に形成保持されている。なお、透明電極14、15からは、後述するように配線が引き出され、この配線は液晶素子8に印加する電圧を制御する図示しない回路基板(以下、単に回路基板と記載することがある。)上に設けられる電極と電気的に接続される。
【0035】
図3は、液晶素子8が備える第1透明電極14と第2透明電極15の電極パターンの構成を説明するための図で、図3(a)、図3(b)は、それぞれ第1透明電極14と第2透明電極15の電極パターンを示す図、図3(c)は、パターン形成された第1透明電極14と第2透明電極15との位置関係を示す図で、図3(a)(b)のA−A断面図である。
【0036】
図3に示すように、液晶素子8の第1透明電極14は、分割されて同心円状の4つの分割領域14a〜14dから成り、第2透明電極15は分割されて同心円状の5つの分割領域15a〜15gから成る。そして、図3(c)に示すように、第1透明電極14の各分割領域14a〜14dは、第2透明電極15の分割領域15a〜15eのうちの2つの領域と対向した状態となっている。一方、第2透明電極15の分割領域15a〜15eのうち、分割領域15aと分割領域15eとは、それぞれ第1透明電極14の分割領域14a、14dの1領域のみと対向しており、残りの分割領域15b〜15dは、第1透明電極14の分割領域14a〜14dのうちの2つの領域と対向している。
【0037】
このため、第1透明電極14の各分割領域14a〜14d、及び第2透明電極15の各分割領域15a〜15eのそれぞれに所定の電位(V14a、V14b、V14c、V14d、V15a、V15b、V15c、V15d、V15e)を与えた場合に、液晶素子8を構成する液晶13には、V14a−V15a、V14a−V15b、V14b−V15b、V14b−V15c、V14c−V15c、V14c−V15d、V14d−V15d、V14d−V15eで、求められる電圧が印加される8つの位相シフト領域が発生することになる。すなわち、第1透明電極14及び第2透明電極15を分割して形成した分割領域(それぞれ4領域、5領域)の数より多い領域を液晶素子8に入射する光ビームに対して位相差を生じさせる位相シフト領域とすることが可能となる。
【0038】
このように液晶素子8を構成した場合の作用について、図4を用いて説明する。なお、図4は、DVD用の光源(第1光源2)から出射された光ビームについて生じる球面収差と球面収差を補正するために液晶素子8に発生させる位相差の関係を示したグラフである。図4において、液晶素子で発生する位相差のグラフ中に示したR1〜R8は、上述の第1透明電極14と第2透明電極15との各分割領域に与えられる電位の差分で求められる電圧が印加される8つの領域が順に該当する。そして、各領域R1〜R8において、液晶13に電圧を印加して所定の位相差を発生させることにより、DVD用の光ビームが生じる球面収差は補正されて、光ピックアップ装置1を用いてDVDの記録再生を行う際に、品質上問題とならないレベル(図4における液晶作動時の収差に相当)の収差となる。
【0039】
図5は、従来の液晶素子の構成例を示す図で、本実施形態の液晶素子8との比較のために示している。図5(a)は第1透明電極102の電極パターンを示す図で、図5(b)は図5(a)のB−B断面図である。なお、図5においては、2枚の透明電極102、103のうち、第2透明電極103は、一枚全体で共通電極となり、特に電極パターンが形成されないため、第2透明電極103の構成は図示していない。また、図5において101は液晶である。
【0040】
図5に示すように、従来の液晶素子においては、球面収差を補正するために、液晶素子に入射する光ビームに対して位相の差を発生する位相シフト領域が、例えば8領域必要である場合には、第1透明電極102のみを8つの領域102a〜102hに分割していた。そして、この場合には、第1透明電極102の分割された8つの領域102a〜102hそれぞれから配線104が引き出されるために、8本の配線104が第1透明電極102と重なる位置に設けられ、この配線104が存在する部分に生じる収差を大きくしていた。
【0041】
一方、図3に示す本実施形態の液晶素子8では、上述のように、球面収差の補正をするために8つの位相シフト領域が必要な場合においても、第1及び第2透明電極14、15の分割する分割領域を8つより少ない数としている。そして、第1透明電極14から引き出される配線18は4本であり、第2透明電極15から引き出される配線19は5本である。更に、本実施形態の液晶素子8においては、第1透明電極14の各分割領域14a〜14dから引き出される配線18a〜18dの位置は、順に、第2透明電極15の各分割領域15a〜15eから引き出される配線19a〜19dの位置と液晶13を挟んで重なり合う位置とされている。このため、透明電極14、15と重なる位置に設けられる配線18、19が、透明電極と重なる幅は、従来の構成に比べて低減し、透明電極14、15と重なる位置に設けられる配線18、19の存在によって生じる収差の量は、従来の構成に比べて低減される。
【0042】
なお、本実施形態においては、第1透明電極14から引き出される配線18a〜18dの全てが、第2透明電極15から引き出される配線19と液晶13を挟んで重なるように構成しているが、必ずしもこの構成に限定される趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で変更可能である。すなわち、例えば、透明電極14、15に対して配線18、19が重なる幅が、従来の構成に比べて減少する範囲で、配線18の一部のみが配線19と重なる構成等としても構わない。
【0043】
また、第1実施形態の液晶素子8においては、液晶素子8と液晶素子8に印加する電圧を制御する回路基板上に設けられる電極とを接続する接続配線の総数は、第1透明電極14から引き出される配線18の4本と、第2透明電極15から引き出される配線19の5本と、の合計である9本である。この接続配線の本数は、図5に示す従来の液晶素子における、第1透明電極102から引き出される配線104の8本と、共通電極である第2透明電極103から引き出される配線の1本と、の合計である9本と同じである。この場合、液晶素子8に印加する電圧を制御する回路基板上に設けられる電極及び配線の数を従来との比較で低減できないために、第1実施形態の液晶素子8を用いた場合には、回路基板を小型化することはできない。この回路基板の小型化を考慮した第2実施形態の液晶素子8について、以下に説明する。なお、第1実施形態の液晶素子8と重複する部分については同一の符号を付し、特に必要がない場合には、その説明を省略する。
【0044】
図6は、第2実施形態の液晶素子8が備える第1透明電極14と第2透明電極15の電極パターンの構成を説明するための図の構成を示す図で、図6(a)、図6(b)は、それぞれ第1透明電極14と第2透明電極15の電極パターンを示す図、図6(c)は、パターン形成された第1透明電極14と第2透明電極15との位置関係を示す図で、図6(a)(b)のA−A断面図である。
【0045】
第2実施形態の液晶素子8も、第1実施形態の液晶素子8と同様に、液晶13と、透明電極14、15(第1透明電極14と第2透明電極15)と、ガラス板17(図2参照)と、を備えている。ただし、透明電極14、15及び配線18、19の構成が異なっている。
【0046】
図6(a)に示すように、第1透明電極14は分割されて同心円状の4つの分割領域14a〜14dから成り、第2透明電極15は分割されて同心円状の7つの分割領域15a〜15gから成る。そして、図6(c)に示すように、第1透明電極14の各分割領域14a〜14dは、第2透明電極15の分割領域15a〜15gのうちの2つの領域と対向した状態となっている。一方、第2透明電極15の分割領域15a〜15gのうち、分割領域15dのみは、第1透明電極14の分割領域14b、14cの2つの領域と対向し、残りの分割領域15a〜15c、15e〜15gは、第1透明電極14の分割領域14a〜14dのいずれか1つの領域とのみ対向している。
【0047】
このように透明電極14、15を形成した場合にも、第1実施形態の液晶素子8と同様に、透明電極14、15の各分割領域14a〜14d、15a〜15dに所定の電位を与えた場合に、液晶素子8に入射するDVD用の光ビームに対して位相差を発生する位相シフト領域が8領域となり、液晶素子8は球面収差の補正を適切に行うことができる。
【0048】
第2実施形態の液晶素子8は、第2透明電極15の分割される領域数が7領域15a〜15gであり、第1実施形態の場合より多くしている。しかし、この場合でも、片側の透明電極のみを分割していた従来の構成(図4参照)に比べて、一枚の透明電極から引き出される配線の最大数(第2透明電極15から引き出される配線19の数である7本が該当する)は少なく、透明電極14、15と重なる位置に設けられる配線18、19が透明電極14、15と重なる幅は従来に比べて少なく、配線18、19の存在による収差の発生を低減できる。
【0049】
第2実施形態の液晶素子8においては、第1実施形態の場合と比べて第2透明電極15の分割領域数を増加することで、第2透明電極15を構成する分割領域15a〜15gを、異なる電位が与えられる2種類の組に分けた状態で球面収差の補正を行えるようにしている。ここで、2種類の組とは、分割領域15a、15c、15e、15gから成る第1の組と、分割領域15b、15d、15fから成る第2の組である。第1の組では、分割領域15a、15c、15e、15gから引き出される配線19a、19c、19e、19gが電気的に接続され、第2の組では、分割領域15b、15d、15fから引き出される配線19b、19d、19fが電気的に接続されることで、各組を構成する領域が等電位となっている。
【0050】
この場合、配線19a、19c、19e、19g、及び配線19b、19d、19fは、いずれも最終的には1本の配線に纏められた状態で、液晶素子8を制御する回路基板に設けられる電極へと接続できる。従って、液晶素子8の第1透明電極14及び第2透明電極15と、回路基板に設けられる電極とを接続する接続配線の数は、透明電極14の各分割領域14a〜14dから引き出される配線18の4本と、第2透明電極15の各分割領域15a〜15gから引き出されて纏められた配線2本と、の合計である6本となり、前述した従来の構成の液晶素子の場合の接続配線の総数9本より低減できる。このため、従来の液晶素子を用いる場合に比べ、回路基板上に設けられる電極及び配線を減らせ、回路基板の小型化が可能となり、光ピックアップ装置1の小型化も可能となる。
【0051】
なお、第2実施形態の液晶素子8では、第2透明電極15を構成する分割領域15a〜15gを異なる電位が与えられる2種類の組に分けることで、透明電極14、15と回路基板に設けられる電極との接続配線の総数を、従来の液晶素子の場合と比べて減らす構成としているが、この構成に限られる趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。すなわち、片側の透明電極のみを分割して、分割した領域数だけ位相シフト領域を得る従来の構成の場合は、接続配線の総数が位相シフト領域の数+1個(+1は共通電極となるもう一方からの配線数が該当する)となるため、この数より回路基板の電極と接続する接続配線を減らせるのが好ましく、例えば、第2透明電極15を構成する分割領域15a〜15gの各々から引き出される配線を電気的に接続することで、異なる電位が与えられる3種類又は4種類の組とする構成等としても構わない。また、第2透明電極15のみならず、第1透明電極15についても、配線18の一部を電気的に接続する構成等としても構わない。
【0052】
また、液晶素子8の透明電極14、15の電極パターンの構成については、以上に示した実施形態の構成に限られる趣旨ではなく、本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。すなわち、例えば、第1透明電極14の分割領域の中には、第2透明電極15の分割領域の1つ又は3つ以上の領域と対向する領域があっても構わないし、また、第2透明電極の分割領域の中には、第1透明電極の分割領域の3つ以上の領域と対向する領域があっても構わない。
【0053】
更に、以上に示した実施形態では、位相シフト領域の数を8領域とした場合について示しているが、この数に限定されず、球面収差の補正が可能であって、例えば装置サイズ及び製造コストの要求等を満たす範囲で、位相シフト領域の数は種々の変更が可能である。
【0054】
その他、以上に示した実施形態では、液晶素子8はDVD用の光ビームについて生じる球面収差の補正を行う目的で使用されているが、本発明の液晶素子8は、DVD以外の様々な光記録媒体を再生等する場合に生じる球面収差の補正を行う液晶素子としても適用できるし、球面収差に限らず他の波面収差を補正する液晶素子としても適用できる。また、光ピックアップ装置に限らず、収差の補正が必要な光学装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の液晶素子を用いれば、液晶素子の透明電極と重なる位置に設けられる配線の存在のために発生する余分な収差を低減できるため、収差の補正を適切に行い易い。また、収差の補正を適切に行い易い構成を実現しつつ、電極パターンの構成を工夫することで、液晶素子から引き出される配線の数を低減できる。
【0056】
そして、本発明の液晶素子を光ピックアップ装置に備えることにより、例えば、光記録媒体の基材厚みの違いによって生じる球面収差の補正を適切に行うことが可能となり、更には、光ピックアップ装置に備えられる液晶素子を制御する回路基板上に設けられる電極及び配線の数を低減できるために、光ピックアップ装置の小型化、製造コストの抑制を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】は、本発明の液晶素子を備える光ピックアップ装置の実施形態を示す図で、光学系の構成を示す概略図である。
【図2】は、第1実施形態の液晶素子の構成を説明するための模式図である。
【図3】は、第1実施形態の液晶素子が備える透明電極の電極パターンの構成を説明する図である。
【図4】は、本実施形態の光ピックアップ装置で発生する球面収差と第1実施液体の液晶素子に発生させる位相差との関係を示したグラフである。
【図5】は、従来の液晶素子の構成を説明するための図である。
【図6】は、第2実施形態の液晶素子が備える透明電極の電極パターンの構成を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
1 光ピックアップ装置
2 第1光源
3 第2光源
8 液晶素子
9 対物レンズ(集束手段)
12 光記録媒体
12a 記録面
13 液晶
14 第1透明電極
14a〜14d 第1透明電極の分割領域
15 第2透明電極
15a〜15g 第2透明電極の分割領域
18、19 配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶と、該液晶を挟む第1透明電極と第2透明電極との2枚の透明電極と、を備える液晶素子において、
前記第1透明電極と前記第2透明電極とは、いずれも分割されて、互いに異なるパターンの複数の分割領域から成り、
前記第1及び第2透明電極の前記パターンは、前記分割領域のそれぞれに所定の電位を与えた場合に、入射する光ビームに対して位相差を生じる位相シフト領域の数が、前記第1透明電極と前記第2透明電極とのいずれの前記分割領域の数よりも多くなるように形成されることを特徴とする液晶素子。
【請求項2】
少なくとも前記透明電極が存在する部分では、前記第1透明電極と前記第2透明電極とのうちで前記分割領域の数が少ない方の前記透明電極について、前記分割領域のそれぞれから引き出される配線の少なくとも1つが、他方の前記透明電極の前記分割領域から引き出される配線と前記液晶を挟んで重なり合う位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の液晶素子。
【請求項3】
前記第1及び第2透明電極に形成される前記分割領域は、同心円状の複数の領域から成り、
前記第1透明電極の各分割領域は、前記第2透明電極の前記分割領域のうちの1つ以上の領域と対向し、且つ、前記第2透明電極の前記分割領域のうち、少なくとも1つの領域は、前記第1透明電極の前記分割領域のうちの2つ以上の領域と対向することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の液晶素子。
【請求項4】
前記第1透明電極と前記第2透明電極とのうちの少なくとも一方においては、前記分割領域のうち、前記配線の2つ以上が電気的に接続されて等電位となる領域が1組以上設けられ、
前記第1及び第2透明電極と外部に設けられる電極とを接続する接続配線の総数が前記位相シフト領域の数以下となることを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の液晶素子。
【請求項5】
請求項1から請求項4のうちのいずれか1項に記載の液晶素子を備えることを特徴とする光ピックアップ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−199200(P2007−199200A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−15476(P2006−15476)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】