説明

液晶装置の製造方法

【課題】簡易に液晶の配向状態を制御することが可能であると共に、耐湿性に優れた液晶装置の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、対向配置された一対の基板10,20間に液晶50が挟持された液晶装置の製造方法であって、少なくとも一方の基板10(20)の液晶50側に無機配向膜16(22)を形成する無機配向膜形成工程と、無機配向膜16(22)の表面に対して液晶が略垂直又は略水平に配向する配向規制力を無機配向膜の表面に付与するシランカップリング剤26a,26bを用いて、無機配向膜16(22)の表面を処理するシランカップリング処理工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶プロジェクタ等の投射型表示装置の光変調手段として用いられる液晶装置は、一対の基板間に液晶が封止されて構成されている。一対の基板の内面側には電極が形成され、これら電極の内面側には液晶分子の配向を制御する配向膜が形成されている。このような構成によって液晶装置は、非選択電圧印加時と選択電圧印加時との液晶分子の配向変化に基づいて光源光を変調し、画像光を観察者側に出射するようになっている。
【0003】
ところで、上述した配向膜としては、側鎖アルキル基を付加したポリイミド等からなる高分子膜の表面に、ラビング処理を施したものが一般に用いられている。ラビング処理とは、柔らかい布からなるローラで高分子膜の表面を所定方向に擦ることにより、高分子を所定方向に配向させるものである。その配向性高分子と液晶分子との分子間相互作用により、配向性高分子に沿って液晶分子が配置されるので、非選択電圧印加時の液晶分子を所定方向に配向させて液晶分子にプレチルトを与えることができるようになっている。
【0004】
しかしながら、このような有機配向膜を備えた液晶装置をプロジェクタの光変調手段として採用した場合、光源から照射される強い光や熱によって配向膜が次第に分解されるおそれがある。そして、長期間の使用後には、液晶分子を所望のプレチルト角に配列することができなくなるなど液晶分子の配向制御機能が低下し、液晶プロジェクタの表示品質が低下してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、耐光性及び耐熱性に優れた無機材料からなる配向膜の使用が提案されており、このような無機配向膜の製造方法としては、例えば斜方蒸着法による酸化珪素(SiO)膜の成膜が知られている。
【0006】
しかし、斜方蒸着法等により形成された無機配向膜は、その表面に分極した水酸基が多数存在してしまい、特に水等の極性基を持つ化合物を吸着し易い。その結果、特に水を吸着することにより、この水が液晶の劣化を引き起こしてしまい、防湿性が低くなるといった課題があった。
また、無機配向膜は一般にアモルファスであり、その表面がポーラスになっていることから、この無機配向膜とシール材との間の密着性が低くなっている。その結果、これらシール部における気密性が低くなり、シール部としての防湿性が低くなってしまう。これにより、防湿性が低下し、表示特性の異常や配向膜の均一性を確保することができないという問題があった。
【0007】
そこで、無機配向膜表面の表示特性等の向上を図るために、無機配向膜表面をアルコールにより処理する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平7−72468号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では以下の問題があった。
(1)アルコールは、無機配向膜と反応し難いため、無機配向膜の表面に未反応のアルコールが残存し易く、これに起因して表示ムラが発生してしまった。
(2)アルコールによる表面処理は、SiOからなる配向膜にのみ適用可能であるため、無機配向膜にSiO以外の材料を用いる場合には、アルコールによる表面処理を適用することができなかった。
さらには、近年、種々の電子機器(テレビ、携帯電話等)が開発されており、電子機器が用いられる環境によって、各電子機器の液晶装置に要求される視野角が異なっている。従って、電子機器に応じて、液晶の配向を垂直配向にしたり、水平配向にしたりすることが簡易かつ低コストな方法も同時に要求されている。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易かつ低コストに液晶の配向状態を制御(変化)することが可能であると共に、耐湿性に優れた液晶装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、対向配置された一対の基板間に液晶が挟持された液晶装置の製造方法であって、少なくとも一方の前記基板の前記液晶側に無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程と、前記無機配向膜の表面に対して前記液晶が略垂直又は略水平に配向する配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与するシランカップリング剤を用いて、前記無機配向膜の表面を処理するシランカップリング処理工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
この方法によれば、液晶が略垂直又は略水平に配向する配向規制力を付与するシランカップリング剤のいずれかを選択して無機配向膜の表面を処理することにより、液晶の配向状態を水平配向又は垂直配向のいずれかに簡易に変化させることができる。これにより、液晶装置の低コスト化を図ることができる。
また、この方法によれば、無機配向膜の種類としてSiOに限定されないため、多種の材料を用いて多種の方法により無機配向膜に適用することができる。
さらに、無機配向膜形成工程においては無機配向膜の表面にポーラスな孔が形成されるが、本発明では、無機配向膜形成工程後にシランカップリング処理工程を設けることで、無機配向膜の表面のポーラスな孔がシランカップリング剤により埋め込まれる。これにより、無機配向膜がより緻密となり、例えばシール材と無機配向膜との界面からの水侵入経路が遮断される。従って、無機配向膜とシール材との間の密着性が高まり、液晶装置の耐湿性、及び信頼性の向上を図ることができる。
【0012】
また本発明の液晶装置の製造方法は、前記シランカップリング処理工程において、前記無機配向膜の表面に対して略垂直に前記液晶を配向させる配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与する前記シランカップリング剤として、アルキル基を含有するシランカップリング剤を用いることも好ましい。
【0013】
この構成によれば、シランカップリング剤がアルキル基を有するため、無機配向膜の表面が撥水性となる。これにより、無機配向膜の表面の表面エネルギーが小さくなり、一対の基板間の液晶を無機配向膜の表面に対して簡易に略垂直に配向させることができる。
【0014】
また本発明の液晶装置の製造方法は、前記シランカップリング処理工程において、前記シランカップリング剤として、前記シランカップリング剤が含有する前記アルキル基の一部又は全部をフッ素化した材料を用いることも好ましい。
【0015】
この構成によれば、アルキル基の一部又は全部をフッ素化する(置換)することにより、シランカップリング剤の撥水性をより向上させることができる。
【0016】
また本発明の液晶装置の製造方法は、前記シランカップリング処理工程において、前記無機配向膜の表面に対して略水平に前記液晶を配向させる配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与するシランカップリング剤として、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、芳香族を有するシランカップリング剤、脂肪族に少なくとも1つの酸素原子を有する脂肪族シランカップリング剤、脂環式シランカップリング剤、鎖中に芳香環及び数個の酸素原子を有するシランカップリング剤、脂肪鎖中に枝分かれを有するシランカップリング剤、又はテロ環芳香族基を有するシランカップリング剤を用いることも好ましい。
【0017】
この構成によれば、シランカップリング剤に上記材料を用いることにより、液晶を配向させる規制力は変化し、一対の基板間の液晶を無機配向膜の表面に対して簡易に略水平方向に配向させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態となる液晶装置60の概略構成を説明するための、TFT基板10の平面図、図2は、液晶装置の等価回路図、図3は、液晶装置の平面構造の説明図、図4は、液晶装置60の断面構造の説明図であり、図3のA−A’線における矢視側断面図である。
【0020】
(液晶装置)
液晶装置60は、図4に示すように、対向配置された一対の基板10,20間に液晶50が挟持されて構成されている。一対の基板10,20のうちの一方であるTFTアレイ基板(基板)10の中央には、図1に示すように、画像作製領域101が形成されている。この画像作製領域101の周縁部にはシール材19が配設されており、これによって画像作製領域101には液晶50(図4参照)が封止されている。この液晶50は、TFT基板10上に液晶が直接塗布されて形成されたもので、シール材19には液晶の注入口が設けられていない、いわゆる封口レス構造となっている。このシール材19の外側には、後述する走査線に走査信号を供給する走査線駆動素子110と、後述するデータ線に画像信号を供給するデータ線駆動素子120とが実装されている。その駆動素子110、120から、TFT基板10の端部の接続端子79にかけて、配線76が引き廻されている。
【0021】
一方、TFT基板10に貼り合わされる対向基板20(図4参照,基板)には、共通電極21(図4参照)が形成されている。この共通電極21は、画像作製領域101の略全域に形成されたもので、その四隅には基板間導通部70が設けられている。この基板間導通部70からは、接続端子79にかけて配線78が引き廻されている。
そして、外部から入力された各種信号が、接続端子79を介して画像作製領域101に供給されることにより、液晶装置が駆動されるようになっている。
【0022】
液晶装置の前記画像作製領域101には、図2の等価回路図に示すように、これを構成すべく複数のドットがマトリクス状に配置されており、これら各ドットには、それぞれ画素電極9が形成されている。また、その画素電極9の側方には、該画素電極9への通電制御を行うためのスイッチング素子であるTFT素子30が形成されている。このTFT素子30のソースにはデータ線6aが接続されている。各データ線6aには、前述したデータ線駆動素子から画像信号S1、S2、…、Snが供給されるようになっている。
【0023】
また、TFT素子30のゲートには走査線3aが接続されている。走査線3aには、前述した走査線駆動素子から所定のタイミングでパルス的に走査信号G1、G2、…、Gmが供給される。一方、TFT素子30のドレインには画素電極9が接続されている。そして、走査線3aから供給された走査信号G1、G2、…、Gmにより、スイッチング素子であるTFT素子30を一定期間だけオンにすると、データ線6aから供給された画像信号S1、S2、…、Snが、画素電極9を介して各ドットの液晶に所定のタイミングで書き込まれるようになっている。
【0024】
液晶に書き込まれた所定レベルの画像信号S1、S2、…、Snは、画素電極9と後述する共通電極との間に形成される液晶容量で一定期間保持される。なお、保持された画像信号S1、S2、…、Snがリークするのを防止するため、画素電極9と容量線3bとの間に蓄積容量17が形成され、液晶容量と並列に配置されている。このように、液晶に電圧信号が印加されると、印加された電圧レベルにより液晶分子の配向状態が変化する。これにより、液晶に入射した光源光が変調されて、画像光が作製されるようになっている。
【0025】
また、本実施形態の液晶装置では、図3の平面構造説明図に示すように、TFTアレイ基板上に、インジウム錫酸化物(Indium Tin Oxide、以下ITOという)等の透明導電性材料からなる矩形状の画素電極9(破線9aによりその輪郭を示す)が、マトリクス状に配列形成されている。さらに、画素電極9の縦横の境界に沿って、データ線6a、走査線3a及び容量線3bが設けられている。本実施形態では、各画素電極9の形成された矩形領域がドットであり、マトリクス状に配置されたドットごとに表示を行うことが可能な構造になっている。
【0026】
TFT素子30は、ポリシリコン膜等からなる半導体層1aを中心として形成されている。半導体層1aのソース領域(後述)には、コンタクトホール5を介して、データ線6aが接続されている。また、半導体層1aのドレイン領域(後述)には、コンタクトホール8を介して、画素電極9が接続されている。一方、半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分には、チャネル領域1a’が形成されている。
【0027】
また、この液晶装置は、図4の断面構造説明図に示すように、TFT基板10と、これに対向配置された対向基板20と、これらの間に挟持された液晶50とを主体として構成されている。TFT基板10は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体10A、及びその内側に形成されたTFT素子30や画素電極9、配向膜16などを主体として構成されている。一方の対向基板20は、ガラスや石英等の透光性材料からなる基板本体20A、及びその内側に形成された共通電極21や配向膜22などを主体として構成されている。
【0028】
TFT基板10の表面には、第1遮光膜11a及び第1層間絶縁膜12が形成されている。そして、第1層間絶縁膜12の表面に半導体層1aが形成され、この半導体層1aを中心としてTFT素子30が形成されている。半導体層1aにおける走査線3aとの対向部分にはチャネル領域1a’が形成され、その両側にソース領域及びドレイン領域が形成されている。このTFT素子30はLDD(Lightly Doped Drain)構造を採用しているため、ソース領域及びドレイン領域に、それぞれ不純物濃度が相対的に高い高濃度領域と、相対的に低い低濃度領域(LDD領域)とが形成されている。すなわち、ソース領域には低濃度ソース領域1bと高濃度ソース領域1dとが形成され、ドレイン領域には低濃度ドレイン領域1cと高濃度ドレイン領域1eとが形成されている。
【0029】
半導体層1aの表面には、ゲート絶縁膜2が形成されている。そして、ゲート絶縁膜2の表面に走査線3aが形成されて、チャネル領域1a’との対向部分がゲート電極を構成している。また、ゲート絶縁膜2及び走査線3aの表面には、第2層間絶縁膜4が形成されている。そして、第2層間絶縁膜4の表面にデータ線6aが形成され、第2層間絶縁膜4に形成されたコンタクトホール5を介して、そのデータ線6aが高濃度ソース領域1dに接続されている。さらに、第2層間絶縁膜4及びデータ線6aの表面には、第3層間絶縁膜7が形成されている。そして、第3層間絶縁膜7の表面に画素電極9が形成され、第2層間絶縁膜4及び第3層間絶縁膜7に形成されたコンタクトホール8を介して、その画素電極9が高濃度ドレイン領域1eに接続されている。さらに、画素電極9を覆うように無機配向膜16が形成され、非選択電圧印加時における液晶分子の配向が規制されるようになっている。
【0030】
なお、本実施形態では、半導体層1aを延設して第1蓄積容量電極1fが形成されている。また、ゲート絶縁膜2を延設して誘電体膜が形成され、その表面に容量線3bが配置されて第2蓄積容量電極が形成されている。これらにより、前述した蓄積容量17が構成されている。
また、TFT素子30の形成領域に対応する基板本体10Aの表面に、第1遮光膜11aが形成されている。第1遮光膜11aは、液晶装置に入射した光が、半導体層1aのチャネル領域1a’、低濃度ソース領域1b及び低濃度ドレイン領域1cに侵入することを防止するものである。
【0031】
一方、対向基板20における基板本体20Aの表面には、第2遮光膜23が形成されている。第2遮光膜23は、液晶装置に入射した光が半導体層1aのチャネル領域1a’や低濃度ソース領域1b、低濃度ドレイン領域1c等に侵入するのを防止するものであり、平面視において半導体層1aと重なる領域に設けられている。また対向基板20の表面には、略全面にわたってITO等の導電体からなる共通電極21が形成されている。さらに、共通電極21の表面には無機配向膜22が形成され、非選択電圧印加時における液晶分子の配向が規制されるようになっている。
【0032】
ここで、TFT基板10側の無機配向膜16、及び対向基板20側の無機配向膜22は、共に本発明の特徴的な構成要素となっている。つまり、無機配向膜16,22には、後述するようにシランカップリング処理が施されており、この表面に配置される液晶の配向が所定方向に規制されるようになっている。
【0033】
図4に示したように本実施形態の液晶装置60には、上述したような表面処理(撥水化処理)を行った無機配向膜16(22)を有するTFTアレイ基板10と対向基板20との間に、正の誘電率異方性を有するネマチック液晶等からなる液晶50が挟持され、シール材19(図1参照)によって封止されている。
【0034】
また、両基板10,20の外側には、ポリビニルアルコール(PVA)にヨウ素をドープした材料等からなる偏光板18、28が配置されている。なお、各偏光板18、28は、サファイヤガラスや水晶等の高熱伝導率材料からなる支持基板上に装着して、液晶装置60から離間配置することが望ましい。各偏光板18、28は、その吸収軸方向の直線偏光を吸収し、透過軸方向の直線偏光を透過する機能を有する。TFTアレイ基板10側の偏光板18は、その透過軸が配向膜16の配向規制方向と略一致するように配置され、対向基板20側の偏光板28は、その透過軸が配向膜22の配向規制方向と略一致するように配置されている。
【0035】
(液晶装置の製造方法)
図5(a)、(b)は液晶装置の無機配向膜を形成する工程を示す断面図であり、図6は無機配向膜を形成するための蒸着装置の概略構成図である。また、図7(a)は垂直配向させる配向規制力を無機配向膜に付与した場合の液晶の配向状態を示す図であり、(b)は水平配向させる配向規制力を無機配向膜に付与した場合の液晶の配向状態を示す図である。なお、以下の説明においては、TFT基板10に形成される無機配向膜16についてのみ説明し、対向基板20の無機配向膜22については無機配向膜16と同様の工程により形成されるため、説明を省略する。さらに、その他の液晶装置の製造工程についても公知の方法が採用されるため、説明を省略する。
【0036】
まず、図5(a)に示すように、TFTが形成されたTFT基板10上に斜方蒸着法によりSiO若しくはSiO等の珪素酸化物、又はAl、ZnO、MgF若しくはITO等の金属酸化物等からなる無機配向膜16を形成する。なお、本実施形態においては、斜方蒸着法により無機配向膜16を形成しているが、他の方法として、イオンビームスパッタ法やマグネトロンスパッタ法等のスパッタ法、ゾルゲル法、又は自己組織化法等の方法を採用することができる。
【0037】
ここで、無機配向膜16を形成する蒸着装置40の構成について図6(a)、(b)を参照して説明する。
蒸着装置40は、無機配向膜材料の蒸気流を発生させる蒸着源512と、TFT基板10を保持する保持機構514とを備えている。TFT基板10は、蒸着源512とTFT基板10の基板面重心位置とを結ぶ基準線X1と、TFT基板10の被成膜面と垂直に交わる直線X2とのなす角θ0が、所定値となるように、保持機構514に保持される。従って、図6(a)、(b)において矢印Y1によって示される、蒸着源512で発生された無機材料の進行方向、すなわち無機材料が飛ぶ方向と、TFT基板10において配向膜が形成される基板面(被成膜面)とのなす角度θ1は、角度θ0を変化させることによって調整可能となっている。なお、この角度θ1は、無機配向膜16において配向制御を行うための表面形状効果が得られるように、後述する柱状構造物を基板面上に配列させるための所定値に設定されている。ただし、本実施形態では斜方蒸着を行うことから、角度θ1は90°未満となっている。
【0038】
上記蒸着装置40を用いてTFTアレイ基板上に斜方蒸着すると、図6(b)中矢印で示すように、蒸着源512から昇華した配向膜材料がTFT基板10に対して一定の入射角度(傾斜角度)で連続入射する。これにより、図5(a)に示すように、TFT基板10に配向膜材料が斜め柱状に堆積し、無機材料(珪素酸化物)の柱状構造体16aが形成される。本実施形態において無機配向膜16は、TFT基板10の表面に無数に形成された柱状構造体16aにより構成されている。
【0039】
次に、図5(b)に示すように、CVD法により無機配向膜16の表面をシランカップリング処理(脱アルコール反応)する。具体的には、無機配向膜16を形成したTFT基板10をCVD装置内に搬送した後、シランカップリング剤26をCVD装置内に導入する。このとき、CVD装置内の温度を100〜200℃に設定し、1〜4時間程度、無機配向膜16の表面をシランカップリング処理する。この処理により、図5(b)に示すように、無機配向膜16の表面(柱状構造体16a,16aの間隙)にシランカップリング剤26が積層される。
【0040】
ここで、シランカップリング剤26としては、液晶を無機配向膜16の表面に対して垂直配向させる配向規制力を無機配向膜16の表面に付与する場合に用いるシランカップリング剤26aと、液晶を無機配向膜16の表面に対して水平配向させる配向規制力を無機配向膜16の表面に付与する場合に用いるシランカップリング剤26bとで異なる。
【0041】
まず、垂直配向させる配向規制力を付与する場合に説明する。
この場合、シランカップリング剤26aとしては、有機官能基が良好な撥水性を有し、かつ良好な耐光性を有するものであれば良く、具体的には、有機官能基(Y)がアルキル基であるものが用いられ、より具体的にはSi(OCH(C1837)が好適に用いられる。さらには、アルキル基を有するシランカップリング剤の一部又は全部の有機官能基をCF基に置換しても良い。これにより、より無機配向膜16の表面の撥液性を向上させることができる。
【0042】
そして、図7(a)に示すように、上記アルキル基を有するシランカップリング剤26aを用いて処理した無機配向膜16,22が形成された一対の基板10,20を対向して配置し、一対の基板10,20間に液晶50を配置する。これにより、電圧を印加していない状態において液晶分子52は、図7(a)に示すように、無機配向膜16,22の表面に対して略垂直に配向する。一方、電圧を印加している状態において液晶分子52は、電極9,21間の電界により、無機配向膜16,22の表面に対して略水平に配向する。このように、無機配向膜16,22の表面のシランカップリング剤26aはアルキル基を有するため、無機配向膜16,22の表面が撥水性となる。そのため、無機配向膜16,22の表面の表面エネルギーが小さくなり、電圧を印加していない状態においては液晶分子52を無機配向膜16,22の表面に対して簡易に略垂直に配向させることができるようになっている。
【0043】
次に、水平配向させる配向規制力を付与する場合について説明する。
この場合には、シランカップリング剤26bとしては、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、芳香族を有するシランカップリング剤、脂肪族に少なくとも1つの酸素原子を有する脂肪族シランカップリング剤、脂環式シランカップリング剤、鎖中に芳香環及び数個の酸素原子を有するシランカップリング剤、脂肪鎖中に枝分かれを有するシランカップリング剤、又はテロ環芳香族基を有するシランカップリング剤が好適に用いられる。
【0044】
そして、図7(a)に示すように、上記エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、又は芳香族を有するシランカップリング剤26bを用いて処理した無機配向膜16,22が形成された一対の基板10,20を対向して配置し、一対の基板10,20間に液晶50を配置する。これにより、電圧を印加していない状態において液晶分子52は、図7(b)に示すように、無機配向膜16,22の表面に対して略水平に配向する。一方、電圧を印加している状態において液晶分子52は、電極9,21間の電界により、無機配向膜16,22の表面に対して略垂直に配向する。このように、シランカップリング剤26bに上記材料を用いることにより、無機配向膜16,22の表面の液晶を配向させる規制力は変化するため、液晶分子52を無機配向膜16,22の表面に対して簡易に略水平方向に配向させることができるようになっている。
【0045】
本実施形態によれば、上記シランカップリング剤26a,26bの中からいずれかのシランカップリング剤を選択することにより、液晶50の配向状態を水平配向又は垂直配向のいずれかに簡易に変化させることができる。これにより、液晶装置60の低コスト化を図ることができる。
また、本実施形態によれば、シランカップリング処理は、無機配向膜16,22の材料としてSiOに限定されないため、例えばAl、ZnO、MgF若しくはITO等の金属酸化物等の多種の材料を用いて多種の方法により無機配向膜16,22を形成することができる。
さらに、無機配向膜形成工程においては無機配向膜16,22の表面にポーラスな孔が形成されるが、本実施形態では、無機配向膜形成工程後にシランカップリング処理工程を設けることで、無機配向膜16,22の表面のポーラスな孔がシランカップリング剤26により埋め込まれる。これにより、無機配向膜16,22がより緻密となり、例えばシール材19と無機配向膜16,22との界面からの水侵入経路が遮断される。従って、無機配向膜16,22とシール材19との間の密着性が高まり、液晶装置60の耐湿性、及び信頼性の向上を図ることができる。
【0046】
(プロジェクタ)
次に、本発明の電子機器の一実施形態としてのプロジェクタについて、図8を用いて説明する。図8は、プロジェクタの要部を示す概略構成図である。このプロジェクタは、上記実施形態に係る液晶装置60を光変調手段として備えたものである。
【0047】
図8において、810は光源、813、814はダイクロイックミラー、815、816、817は反射ミラー、818は入射レンズ、819はリレーレンズ、820は出射レンズ、822、823、824は本発明の液晶装置からなる光変調手段、825はクロスダイクロイックプリズム、826は投射レンズである。光源810は、メタルハライド等のランプ811とランプの光を反射するリフレクタ812とからなる。
【0048】
ダイクロイックミラー813は、光源810からの白色光に含まれる赤色光を透過させると共に、青色光と緑色光とを反射する。透過した赤色光は反射ミラー817で反射されて、赤色光用光変調手段822に入射される。また、ダイクロイックミラー813で反射された緑色光は、ダイクロイックミラー814によって反射され、緑色光用光変調手段823に入射される。さらに、ダイクロイックミラー813で反射された青色光は、ダイクロイックミラー814を透過する。青色光に対しては、長い光路による光損失を防ぐため、入射レンズ818、リレーレンズ819及び出射レンズ820を含むリレーレンズ系からなる導光手段821が設けられている。この導光手段821を介して、青色光が青色光用光変調手段824に入射される。
【0049】
各光変調手段822、823、824により変調された3つの色光は、クロスダイクロイックプリズム825に入射する。このクロスダイクロイックプリズム825は4つの直角プリズムを貼り合わせたものであり、その界面には赤光を反射する誘電体多層膜と青光を反射する誘電体多層膜とがX字状に形成されている。これらの誘電体多層膜により3つの色光が合成されて、カラー画像を表す光が形成される。合成された光は、投射光学系である投射レンズ826によってスクリーン827上に投影され、画像が拡大されて表示される。
【0050】
本実施形態に係るプロジェクタによれば、耐光性及び耐熱性に優れた無機配向膜を有する液晶装置60を備えているため、光源から照射される強い光や熱により配向膜が劣化することはない。また、このプロジェクタよれば、水分(湿気)に起因する液晶の劣化が確実に防止され、長寿命化が図られた液晶装置を備えているので、この電子機器自体も長寿命化が図られた信頼性の高いものとなる。
【0051】
なお、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】液晶装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】液晶装置の等価回路図である。
【図3】TFTの構成を示す平面図である。
【図4】図3に示すTFTのA−A’線に沿った断面図である。
【図5】液晶装置の製造工程を示す断面図である。
【図6】斜方蒸着装置の概略構成を示す図である。
【図7】各カップリング剤を用いた場合の液晶の配向状態を示す図である。
【図8】プロジェクタの概略構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0053】
10…TFT基板(基板)、 16,22…無機配向膜、 20…対向基板(基板)
26(26a,26b)…シランカップリング剤、 50…液晶、 60…液晶装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置された一対の基板間に液晶が挟持された液晶装置の製造方法であって、
少なくとも一方の前記基板の前記液晶側に無機配向膜を形成する無機配向膜形成工程と、
前記無機配向膜の表面に対して前記液晶が略垂直又は略水平に配向する配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与するシランカップリング剤を用いて、前記無機配向膜の表面を処理するシランカップリング処理工程と、
を有することを特徴とする液晶装置の製造方法。
【請求項2】
前記シランカップリング処理工程において、
前記無機配向膜の表面に対して略垂直に前記液晶を配向させる配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与する前記シランカップリング剤として、アルキル基を含有するシランカップリング剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項3】
前記シランカップリング処理工程において、
前記シランカップリング剤として、前記シランカップリング剤が含有する前記アルキル基の一部又は全部をフッ素化した材料を用いることを特徴とする請求項2に記載の液晶装置の製造方法。
【請求項4】
前記シランカップリング処理工程において、
前記無機配向膜の表面に対して略水平に前記液晶を配向させる配向規制力を前記無機配向膜の表面に付与するシランカップリング剤として、エポキシシクロヘキシルエチルトリメトキシシラン、又は芳香族を有するシランカップリング剤を用いることを特徴とする請求項1に記載の液晶装置の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−286468(P2007−286468A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115417(P2006−115417)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】