説明

液晶配向剤、液晶配向膜および液晶表示素子

【課題】液晶表示素子において電圧保持率が高く、熱信頼性、耐光性が良好な効果を奏する液晶配向膜を得るための液晶配向剤を提供する。
【解決手段】式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸であるポリマー成分Aを必須成分として含有する液晶配向剤。



式(1)において、Rは水素、−OH、−NH−C、−N(CH、−N(C、−N(CHCH=CH、−NH−CHCH=CH、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルケニル、炭素数6〜20のアリール、炭素数7〜20のアリールアルキル、を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジン構造を有するジアミンをテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸を含有する液晶配向剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子の駆動方式は、ツイストネマチック(Twisted nematic:TN)モード、スーパーツイストネマチック(Super twisted nematic:STN)モード、インプレインスイッチング(In plane switching:IPS)モード、および垂直配向(Vertical alignment:VA)モードに大きく区分できる。
【0003】
これらの液晶表示素子の動作には外部光源を必要とするが、この外部光源の種類により、大きく分けて「透過型」と「反射型」の2種類に分類される。透過型は、画面背面のバックライトを光源にして表示を行うタイプの液晶である。これに対し反射型は、外光の反射によって表示を行うタイプである。特に、透過型液晶表示素子では、動作中は液晶配向膜が常にバックライト光にさらされることとなるとともにバックライト光照射による液晶表示素子自体の温度上昇が考えられる。一方、反射型液晶では、屋外で用いる場合には光源としては太陽光が想定される。太陽光は紫外光を含むため、液晶配向膜の劣化の要因となる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0004】
また、特に大型の液晶表示素子の製造工程では、歩留まり改善の目的で液晶注入工程に液晶滴下工法(ODF工法;One Drop Fill 工法)が用いられることがある。液晶滴下工法では、通常、シール剤として紫外光硬化型のものが用いられる。すなわち、液晶滴下工法では液晶配向膜は紫外光にさらされることになるため、耐UV性の良好な液晶配向膜の開発が求められている(例えば、特許文献4参照)。
【0005】
このように、近年、液晶表示素子は厳しい条件で加工されたり、過酷な環境で使用されるようになった。そのため、液晶配向剤に要求される特性の一つとして、光や熱にさらされた後、またはそのような環境で長時間駆動された後の電圧保持率等の電気特性が重要視されるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−70463号公報
【特許文献2】特開2006−292940号公報
【特許文献3】特開2002−333624号公報
【特許文献4】特開2001−174829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、例えば、上記の問題を解決し、信頼性に優れた液晶表示素子用の液晶配向剤を提供することである。また、本発明の課題は、該液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜を具備した液晶表示素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を行い、2,4−ジアミノ−1,3,5−トリアジン誘導体をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸を液晶配向膜に用いるとき、この液晶配向膜を有する液晶表示素子において電圧保持率が高く、熱信頼性、耐光性が良好となる効果が得られることを見出した。
【0009】
本発明の液晶配向剤は次の[1]項に示される。
[1] 式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体をポリマー成分Aとし;
その他のジアミンの少なくとも1つをテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体をポリマー成分Bとするとき;
ポリマー成分Aを必須成分として含有し、ポリマー成分Bを任意成分として含有する液晶配向剤。


式(1)において、Rは水素、−OH、−NH−C、−N(CH、−N(C、−N(CHCH=CH、−NH−CHCH=CH、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルケニル、炭素数6〜20のアリール、炭素数7〜20のアリールアルキル、または、下記の構造である。


【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高電圧保持率、熱信頼性、耐光性に優れた液晶表示素子、そのための液晶配向膜および該液晶配向膜を形成することができる重合体および液晶配向剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
この明細書における用語の使い方は次の通りである。
「液晶性化合物」は、液晶相を有する化合物および液晶相を有しないが液晶組成物の成分として有用な化合物の総称である。液晶性化合物、液晶組成物、液晶表示素子をそれぞれ化合物、組成物、素子と表記することがある。
式(1)で表わされるジアミンをジアミン(1)と表記することがある。他の式で表されるジアミンについても同様に略記することがある。
テトラカルボン酸二無水物を酸無水物と略記することがある。そして、式(T1)で表されるテトラカルボン酸二無水物を酸無水物(T1)と表記することがある。他の式で表されるテトラカルボン酸二無水物についても同様である。
化学構造式において文字(例えばA)を六角形で囲んだ記号は、それが環(環A)であることを示す。
環を構成する炭素との結合位置が明確でない置換基は、その結合位置が化学的に問題のない範囲内で自由であることを意味する。
【0012】
化学式の定義において用いる用語「任意の」は、「位置だけでなく数においても自由に選択できること」を意味する。例えば、「任意のAがB、C、DまたはEで置き換えられてもよい」という表現は、1つのAがB、C、DまたはEで置き換えられてもよいという意味と、複数のAのどれもがB、C、DおよびEのいずれか1つで置き換えられてもよいという意味とに加えて、Bで置き換えられるA、Cで置き換えられるA、Dで置き換えられるA、およびEで置き換えられるAの少なくとも2つが混在してもよいという意味をも有する。任意の−CH−が−O−で置き換えられてもよいとするとき、結果として結合基−O−O−が生じるような置き換えは含まれない。
複数の式において同じ記号が用いられている場合は、その基が同じ定義範囲を有することを意味するが、すべての式において同時に同じ基でなければならないことを意味しない。そのような場合は、複数の式において同じ基が選択されてもよいし、式ごとに異なる基が選択されてもよい。
【0013】
本発明は前記の[1]項と次の[2]〜[9]項で構成される。
[2] Rがビニルまたはフェニルである、[1]項に記載の液晶配向剤。
【0014】
[3] テトラカルボン酸二無水物が式(T1)〜式(T8)で表される化合物の少なくとも1つである、[1]項または[2]項に記載の液晶配向剤。


【0015】
[4] テトラカルボン酸二無水物が式(T1)、式(T6)および式(T7)で表される化合物の少なくとも1つである、[3]項に記載の液晶配向剤。
【0016】
[5] その他のジアミンが式(3)〜式(6)で表される化合物の群から選択されるジアミンである、[1]〜[4]のいずれか1項に記載の液晶配向剤。


式(3)において、Yは炭素数1〜7のアルキレンであり、このアルキレンの任意の−CH−は−O−または−S−で置き換えられてもよく;Rは独立して炭素数1〜3のアルキルであり;kは独立して0または1であり;


式(4)において、Xは独立して−CH−または−O−であり;Xは炭素数1〜8のアルキレンであり、このアルキレンの任意の水素はメチルまたは−CFで置き換えられてもよく;


式(5)において、Xは独立して炭素数1〜6のアルキレンまたは−O−であり;Xは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、環Tは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロへキシレンであり、そしてhは0または1であり;Rは水素または炭素数1〜30のアルキルであって、このアルキルの任意の−CH−は、炭素数が2〜30であるとき−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく;


式(6)において、A1は単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CONH−、−NHCO−、炭素数1〜4のアルキレンまたは1,4−シクロへキシレンであり;Rはステロイド骨格を有する基、または式(A)で表される基であり;


式(A)において、AおよびAは独立して単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;
およびRは独立してフッ素またはメチルであり、そしてfおよびgは独立して0〜2の整数であり;
環Sは1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイル、またはアントラセン−9,10−ジイルであり;
は水素、フッ素、−OH、炭素数1〜30のアルキル、炭素数1〜30のフッ素化アルキル、炭素数1〜30のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;
c、dおよびeは独立して0〜3の整数であって、c+d+e≧1であり;そして、
eが2または3であるとき複数の環Sはすべて同じ環であってもよく、少なくとも2つの異なる環で構成されてもよい。
【0017】
[6] 式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物において、式(1)で表されるジアミンの含有割合がこのジアミン混合物全量に対して5〜30モル%である、[1]〜[5]のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【0018】
[7] 式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体であるポリマー成分Aのみを含有する、[1]〜[6]のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【0019】
[8] [1]〜[7]のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【0020】
[9] [8]項に記載の液晶配向膜を含有する液晶表示素子。
【0021】
本発明の液晶配向剤の必須成分であるポリマー成分Aは、ジアミン(1)の少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物を酸無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体である。


式(1)において、Rは水素、−OH、−NH−C、−N(CH、−N(C、−N(CHCH=CH、−NH−CHCH=CH、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルケニル、炭素数6〜20のアリール、炭素数7〜20のアリールアルキル、または、下記の構造である。


【0022】
なお、このポリアミック酸の誘導体の例は可溶性ポリイミド、ポリアミック酸エステルおよびポリアミック酸アミドである。より具体的には、1)ポリイミド、2)部分イミド化ポリアミック酸、3)ポリアミック酸エステル、4)テトラカルボン酸二無水物の一部をジカルボン酸(誘導体)に置き換えて反応させて得られるポリアミック酸−ポリアミド共重合体、および5)このポリアミック酸−ポリアミド共重合体を脱水閉環反応させたポリアミドイミドが挙げられる。実施例を除く以下の説明においては、特に断らない限り、ポリアミック酸およびその誘導体の総称として「ポリアミック酸」を用いる。
【0023】
ジアミン(1)の例を次に示す。


【0024】


【0025】
これらのうち、ジアミン(1−1)〜ジアミン(1−3)、ジアミン(1−7)、ジアミン(1−9)、ジアミン(1−13)、ジアミン(1−20)およびジアミン(1−21)が好ましく、ジアミン(1−7)、ジアミン(1−9)、ジアミン(1−13)およびジアミン(1−20)がより好ましい。ジアミン(1)は単独で用いてもよいし、2つ以上を併用してもよい。さらに、ジアミン(1)の少なくとも1つとジアミン(1)以外のその他のジアミンの少なくとも1つを混合して用いてもよい。
【0026】
その他のジアミンは式(3)〜式(6)で表されるジアミンの群から選択されるジアミンであることが好ましい。


式(3)において、Yは炭素数1〜7のアルキレンであり、このアルキレンの任意の−CH−は−O−または−S−で置き換えられてもよい。Rは独立して炭素数1〜3のアルキルであり、kは独立して0または1である。そして、ベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、Yに対してメタ位またはパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0027】


ここに、Xは独立して−CH−または−O−であり;Xは炭素数1〜8のアルキレンであって、このアルキレンの任意の水素はメチルまたは−CFで置き換えられてもよい。2つのXは同じ結合基であることが好ましい。ベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、Xに対してメタ位またはパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0028】


ここに、Xは独立して炭素数1〜6のアルキレンまたは−O−であり;Xは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、環Tは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロへキシレンであり、そしてhは0または1であり;Rは水素または炭素数1〜30のアルキルであって、このアルキルの任意の−CH−は、炭素数が2〜30であるとき−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよい。この炭素数の好ましい範囲は1〜10である。そして、ベンゼン環に対するアミノ基の結合位置は、Xに対してメタ位またはパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0029】


ここに、A1は単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CONH−、−NHCO−、炭素数1〜4のアルキレンまたは1,4−シクロへキシレンであり;Rはステロイド骨格を有する基、または式(A)で表される基である。
【0030】


ここに、AおよびAは独立して単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;RおよびRは独立してフッ素またはメチルであり、そしてfおよびgは独立して0〜2の整数である。環Sは1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイル、またはアントラセン−9,10−ジイルである。Rは水素、フッ素、−OH、炭素数1〜30のアルキル、炭素数1〜30のフッ素化アルキル、炭素数1〜30のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり、これらのアルキル、フッ素化アルキルおよびアルコキシの好ましい炭素数は1〜10である。c、dおよびeは独立して0〜3の整数であって、c+d+e≧1である。eが2または3であるとき複数の環Sはすべて同じ環であってもよく、少なくとも2つの異なる環で構成されてもよい。そして、ベンゼン環に対する2つのアミノ基の結合位置は、Aに対してメタ位であることが好ましい。
【0031】
ジアミン(3)の好ましい具体例を次に示す。


【0032】
これらの好ましい具体例のうち、ジアミン(3−1)〜ジアミン(3−4)、ジアミン(3−6)、ジアミン(3−8)、ジアミン(3−13)、ジアミン(3−14)、ジアミン(3−19)、ジアミン(3−20)およびジアミン(3−21)がより好ましい。
【0033】
ジアミン(4)の好ましい具体例を次に示す。


【0034】
これらの好ましい具体例のうち、ジアミン(4−1)およびジアミン(4−5)〜ジアミン(4−9)がより好ましい。
【0035】
ジアミン(5)の好ましい具体例を次に示す。


【0036】


【0037】


【0038】
これらのジアミン(5)の好ましい具体例のうち、ジアミン(5−3)〜ジアミン(5−8)、ジアミン(5−15)〜ジアミン(5−18)、ジアミン(5−23)およびジアミン(5−24)がより好ましい。
【0039】
ジアミン(6)の好ましい例を次に示す。


これらの式において、Rは炭素数3〜12のアルキルまたは炭素数3〜12のアルコキシであり、好ましくは炭素数5〜12のアルキルまたは炭素数5〜12のアルコキシである。Rは炭素数1〜10のアルキルまたは炭素数1〜10のアルコキシであり、好ましくは炭素数3〜10のアルキルまたは炭素数3〜10のアルコキシである。
【0040】


これらの式において、R10は炭素数4〜16のアルキルであり、好ましくは炭素数6〜16のアルキルである。R11は炭素数6〜20のアルキルであり、好ましくは炭素数8〜20のアルキルである。
【0041】


【0042】


【0043】
式(6−18)〜式(6−38)において、R12は炭素数1〜12のアルキルまたは炭素数1〜12のアルコキシであり、好ましくは炭素数3〜12のアルキルまたは炭素数3〜12のアルコキシである。R13は水素、フッ素、炭素数1〜12のアルキル、炭素数1〜12のアルコキシ、シアノ、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり、好ましくは炭素数3〜12のアルキルまたは炭素数3〜12のアルコキシである。Aは炭素数1〜12のアルキレンである。
【0044】


【0045】
上記のジアミン(6)の好ましい例のうち、ジアミン(6−1)〜ジアミン(6−11)がより好ましく、ジアミン(6−2)、ジアミン(6−4)、ジアミン(6−5)およびジアミン(6−6)が更に好ましい。
【0046】
本発明では、ジアミン(3)〜ジアミン(6)以外のその他のジアミンをさらに用いることができる。このようなその他のジアミンの例は、式(7)で表されるシロキサン系ジアミンである。


ここに、R22およびR23は独立して炭素数1〜3のアルキルまたはフェニルを表し、R21は独立してメチレン、フェニレンまたはアルキル置換されたフェニレンを表し、xは独立して1〜6の整数を表し、yは1〜10の整数を表す。
【0047】
本発明において用いるその他のジアミンは、液晶表示素子における電界方式の要求特性に応じて決めることができる。TN方式やVA方式に代表される縦電界方式では比較的大きなプレチルト角が必要となるため、ジアミン(5)やジアミン(6)が主に用いられる。さらにプレチルト角をコントロールするために、ジアミン(3)やジアミン(4)も使用することができる。また、横電界方式ではプレチルト角が小さく、高い液晶配向性が必要となるため、ジアミン(3)やジアミン(4)が主に用いられる。これらのジアミンの併用は、横電界方式の液晶表示素子において、電圧無印加時の黒表示特性を向上させる観点からも好ましい。
【0048】
本発明で用いる前記のジアミン混合物において、ジアミン(1)の使用割合はこのジアミン混合物全量に対して5〜30モル%であることが好ましい。ジアミン(1)の含有率は、電気特性に対する前記の向上効果、即ち熱信頼性、耐光性改善効果を得るために5モル%以上であることが好ましく、ポリアミック酸の合成に支障をきたさないために30モル%以下であることが好ましい。
【0049】
また、縦電界方式であるVA方式、TN方式およびOCB方式においては、比較的大きなプレチルト角の発現が必須である。この場合、側鎖を有するジアミンであるジアミン(5)およびジアミン(6)の1つ以上をジアミン(1)に併用することが必要である。これらのジアミンの種類や割合をコントロールすることで、所定のプレチルト角を発現することができる。これらのジアミンを併用して重合体を得るとき、この重合体を適用した液晶表示素子は、電圧保持率をさらに向上させた縦電界方式の液晶表示素子となりうる。
【0050】
ジアミンと反応させる酸無水物としては、本発明の効果を損なわない限り、芳香族系テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物および脂肪族テトラカルボン酸二無水物のいずれであっても用いることができ、これらの酸無水物の群から1つまたは2つ以上を選択して用いることができる。
【0051】
本発明で使用できる酸無水物の例を次に示す。








【0052】










【0053】








【0054】






【0055】
以上の例のうちより好ましい酸無水物を次に示す。


【0056】
上記の酸無水物(T1)〜酸無水物(T8)のうち、酸無水物(T1)、酸無水物(T6)および酸無水物(T7)がさらに好ましい。
【0057】
前記のジアミンと酸無水物との反応により得られるポリアミック酸の分子量は、例えばゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)で、好ましくは10,000〜500,000、更に好ましくは20,000〜200,000である。
【0058】
ポリアミック酸は、前記のジアミンと酸無水物とを用いること以外は、ポリイミドの膜の形成に用いられる公知のポリアミック酸と同様にして製造することができる。例えば、原料投入口、窒素導入口、温度計、攪拌機およびコンデンサーを備えた反応容器に、ジアミン(1)の少なくとも1つ、またはジアミン(1)の少なくとも1つとジアミン(3)〜ジアミン(6)の群から選択されるその他のジアミンの少なくとも1つとの混合物、場合によってこれらのジアミンに加えてジアミン(3)〜ジアミン(6)以外のその他のジアミンの少なくとも1つ、さらに必要に応じてモノアミンの所要量を仕込む。次に、溶剤(例えばアミド系極性溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンやジメチルホルムアミド等)および酸無水物の少なくとも1つ、さらに必要に応じてカルボン酸無水物を投入し、攪拌下に加熱して反応させる。このとき酸無水物の総仕込み量は、ジアミンの総モル数とほぼ等モル(モル比0.9〜1.1程度)とすることが好ましい。
【0059】
このようにして得られるポリアミック酸は、ジアミン(1)と酸無水物とが反応して生成した化学構造とその他のジアミンと酸無水物とが反応して生成した化学構造を含む。ジアミン(1)と酸無水物との反応による化学構造としては、例えば下記の式(10)および式(11)で表される構成単位が挙げられる。その他のジアミンと酸無水物との反応による構造としては、例えば下記の式(12)および式(13)で表される構成単位が挙げられる。なお、式(10)〜式(13)において、Qは酸無水物の残基であり、Rは式(1)におけるRと同じであり、Qはその他のジアミンの残基である。
【0060】


【0061】
式(10)〜式(13)の構造は、IRやNMRによって特定することができる。より詳しくは、本発明におけるポリアミック酸は、多量の貧溶剤で沈殿させ、固形分と溶剤とを濾過等により完全に分離し、IR、NMRで分析することにより同定され得る。さらには、KOHやNaOH等の強アルカリの水溶液で、固形分のポリアミック酸を分解後、有機溶剤で抽出し、GC、HPLCまたはGC−MSで分析することにより、使用されているモノマーを同定することができる。
【0062】
本発明の液晶配向剤はポリマー成分Aの他に、ジアミン(1)以外のその他のジアミンと酸無水物との反応により得られるポリアミック酸であるポリマー成分Bをさらに含有してもよい。これはいわゆるポリマーブレンドの形態である。ポリマー成分Bをブレンドするとき、その好ましい含有量は液晶配向剤中のポリマー全量に対して1〜50重量%であり、より好ましくは2〜30重量%である。このような範囲にすることによって、本発明の効果の発現と配向性の調整との両立を図ることができる。
【0063】
本発明の液晶配向剤は、前記のポリアミック酸に加えてこれ以外の他の成分の1つまたは2つ以上をさらに含有してもよい。例えば、本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜における耐久性を向上させる観点から、エポキシ化合物をさらに含有していてもよい。
【0064】
本発明において液晶配向剤中の前記エポキシ化合物の含有量は特に限定されないが、エポキシ化合物を用いるときには、液晶配向剤全量中の0.1〜40重量%であることが、液晶配向剤から形成された液晶配向膜において、ラビング処理によって膜が削れにくくなる等の耐久性を良好にする観点から好ましく、0.2〜30重量%であることがさらに好ましい。
【0065】
前記エポキシ化合物としては、例えばビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、オキシランを有するモノマーの重合体、およびオキシランを有するモノマーと他のモノマーとの共重合体、下記の式(E1)〜式(E3)、(E5)で表される化合物、および式(E4)で表される化合物が挙げられる。
【0066】










(式(E4)におけるnは0〜10の整数を表す。)
【0067】
エポキシ樹脂の具体例としては、エピコート807、エピコート815」、エピコート825、エピコート827が挙げられる。式(E4)で表される化合物としては、エピコート828、エピコート190P、エピコート191P、エピコート1004、エピコート1256、アラルダイトCY177等が挙げられる。エピコートはジャパンエポキシレジン(株)の商品名である(現在は三菱化学(株)のjERシリーズの製品として入手可能である)。アラルダイトは日本チバガイギー(株)の商品名である(現在はハンツマン・ジャパン(株)から入手できる)。
【0068】
式(E1)で表される化合物としては、アラルダイトCY184が挙げられる。式(E2)で表される化合物としては、ダイセル化学工業(株)の商品名「セロキサイド2021P」、「EHPE−3150」が挙げられる。式(E3)で表される化合物としては、三井化学(株)の商品名「テクモアVG3101L」が挙げられる。式(E5)で表される化合物としては、シグマ・アルドリッチ社の商品名「4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)」が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、式(E4)で表される化合物(n=0〜4の化合物の混合物)であるエピコート828、式(E1)で表される化合物であるアラルダイトCY184、式(E2)で表される化合物であるセロキサイド2021P、式(E3)で表される化合物であるテクモアVG3101L、および式(E5)で表される化合物である4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)が、液晶配向膜における透明性と平坦性を良好にする観点から好ましい。
【0070】
本発明の液晶配向剤は、基板への密着性を良くする観点から、シランカップリング剤、チタン系のカップリング剤、アミノシリコン化合物等のカップリング剤の1種または2種以上をさらに含有してもよい。アミノシリコン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリエトキシシラン、メタアミノフェニルトリメトキシシラン、メタアミノフェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミン、およびN,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン等が挙げられる。そして、このカップリング剤を用いるとき、その含有率は液晶配向剤中の0.01〜20重量%であることが好ましい。
【0071】
本発明の液晶配向剤は、本発明の特性を損なわない範囲でポリエステル、アクリル酸ポリマー、アクリレートポリマー等のその他のポリマー成分をさらに含有していてもよい。その他のポリマー成分として、前記のその他のジアミンをジアミン原料とするポリアミドやポリアミドイミドを用いることもできる。このとき、その他のポリマー成分の好ましい使用割合は、構成単位中にジアミン(1)の残基を有する前記のポリアミック酸に対する重量比で0.2以下である。
【0072】
本発明の液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性の向上を図る観点からその目的に沿った界面活性剤をさらに含有していてもよいし、液晶配向剤の帯電防止性を向上させる観点から帯電防止剤をさらに含有していてもよい。
【0073】
そして、本発明の液晶配向剤は、液晶配向剤の塗布性やポリマー成分の濃度の調整の観点から、溶剤をさらに含有していてもよい。この溶剤の選択条件は、ポリマー成分に対する溶解力、経済性、環境安全性等を考慮して決めればよく、具体的にはポリアミック酸、可溶性ポリイミド等のポリマー成分の製造工程や用途面で通常使用されている溶剤が選択できる。この溶剤は単独使用でもよいし、2つ以上の混合溶剤であってもよい。
【0074】
ポリアミック酸に対する親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤の例は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、およびラクトン類(例:γ−ブチロラクトン)である。
【0075】
塗布性改善等を目的とした、非プロトン性極性有機溶剤以外の溶剤の例は、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノアルキルエーテル(例:エチレングリコールモノブチルエーテル)、ジエチレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジエチレングリコールモノエチルエーテル)、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:プロピレングリコールモノブチルエーテル)、マロン酸ジアルキル(例:マロン酸ジエチル)、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテル(例:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル)、およびこれらグリコールモノアルキルエーテルのエステル化合物(例:アセテート)である。
【0076】
これらの中で好ましい溶剤は、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルおよびジプロピレングリコールモノメチルエーテルである。
【0077】
本発明において液晶配向剤中のポリマー成分の好ましい濃度は、0.1〜40重量%である。この液晶配向剤を基板に塗布するときには、膜厚調整のため含有されているポリマー成分を予め溶剤により希釈する操作が必要とされることがある。ポリマー成分の濃度が40重量%以下であれば、希釈溶剤を容易に混合することができ、膜厚調整のための粘度調整に支障を生じることがないと考えてよい。
【0078】
液晶配向剤中におけるポリマー成分の濃度は、液晶配向剤の塗布方法によって調整される場合もある。液晶配向剤の塗布方法がスピンナー法や印刷法のときには、膜厚を良好に保つために、前記ポリマー成分の濃度を通常10重量%以下とすることが多い。その他の塗布方法、例えばディッピング法やインクジェット法では更に低濃度とすることもあり得る。一方、前記ポリマー成分の濃度が0.1重量%以上であると、得られる液晶配向膜の膜厚が最適となり易い。したがって前記ポリマー成分の濃度は、通常のスピンナー法や印刷法等では0.1重量%以上、好ましくは0.5〜10重量%である。しかしながら、液晶配向剤の塗布方法によっては、更に希薄な濃度で使用してもよい。
【0079】
なお、液晶配向膜の作製に用いる場合において、本発明の液晶配向剤の粘度は、この液晶配向剤の膜を形成する手段や方法に応じて決めることができる。例えば、印刷機を用いて液晶配向剤の膜を形成する場合は、十分な膜厚を得る観点から5mPa・s以上であることが好ましく、また印刷ムラを抑制する観点から100mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは10〜80mPa・sである。スピンコートによって液晶配向剤を塗布して液晶配向剤の膜を形成する場合は、同様の観点から、5〜200mPa・sであることが好ましく、より好ましくは10〜100mPa・sである。液晶配向剤の粘度は、溶剤による希釈や攪拌を伴う養生によって小さくすることができる。
【0080】
本発明の液晶配向膜は、前述した本発明の液晶配向剤から得られる。本発明の液晶配向膜は、液晶配向剤から液晶配向膜を作製する通常の方法によって得ることができ、例えば本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤の塗膜を形成する工程と、これを加熱して焼成する工程とによって得ることができる。この塗膜は、通常の液晶配向膜の作製と同様に、液晶表示素子における基板に本発明の液晶配向剤を塗布することによって形成することができる。塗布の方法としては、スピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法等、一般に知られている方法が適用可能である。基板としては、ITO(Indium TinOxide)電極等の電極やカラーフィルタ等が設けられていてもよいガラス製の基板が挙げられる。
【0081】
塗膜の焼成は、ポリアミック酸の脱水・閉環に必要な条件下で行う。焼成方法としては、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が適用可能である。一般に150〜300℃程度の温度で1分間〜3時間行うことが好ましい。
【0082】
本発明の液晶配向膜については、必要に応じて、前記焼成工程で得られる膜をラビング処理してもよい。このラビング処理は、通常の液晶配向膜の配向処理のためのラビング処理と同様に行うことができ、本発明の液晶配向膜において十分なリタデーションが得られる条件であればよい。特に好ましい条件は、毛足押し込み量0.2〜0.8mm、ステージ移動速度5〜250mm/sec、ローラー回転速度500〜2,000rpmである。液晶配向膜の配向処理方法としては、ラビング法の他に、光配向法や転写法等が一般に知られている。本発明の効果が得られる範囲において、これらの他の配向処理方法を前記ラビング処理において併用してもよい。
【0083】
本発明の液晶配向膜は、前述した工程以外の他の工程をさらに含む方法によっても好適に得られる。このような他の工程としては、前記塗膜を乾燥させる工程や、ラビング処理前後の膜を洗浄液で洗浄する工程等が挙げられる。
【0084】
この乾燥工程は、前記焼成工程と同様に、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法等が一般に知られている。これらの方法も前記乾燥工程に同様に適用可能である。乾燥工程は溶剤の蒸発が可能な範囲内の温度で実施することが好ましく、前記焼成工程における温度に対して比較的低い温度で実施することがより好ましい。
【0085】
配向処理の前後における液晶配向膜の洗浄液による洗浄方法としては、ブラッシング、ジェットスプレー、蒸気洗浄または超音波洗浄等が挙げられる。これらの方法は単独で行ってもよいし、併用してもよい。洗浄液としては純水または、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の各種アルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、塩化メチレン等のハロゲン系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類を用いることができるが、これらに限定されるものではない。もちろん、これらの洗浄液は十分に精製された不純物の少ないものが用いられる。このような洗浄方法は、本発明の液晶配向膜の形成における前記洗浄工程にも適用することができる。
【0086】
本発明の液晶配向膜の膜厚は、特に限定されないが、10〜300nmであることが好ましく、30〜150nmであることがより好ましい。本発明の液晶配向膜の膜厚は、段差計やエリプソメータ等の公知の膜厚測定装置によって測定することができる。
【0087】
本発明の液晶表示素子は、少なくとも一方に本発明の液晶配向膜を形成して得られた一対の基板を、液晶配向膜を内向きにスペーサーを介して対向させ、基板間に形成された隙間に液晶組成物を封入して液晶層を形成することによって得られる。この基板には前記のITO電極付きガラス基板を用いることができる。本発明の液晶表示素子における製造には、必要に応じて基板に偏光フィルムを貼り付ける等のさらなる工程が含まれていてもよい。
【0088】
前記液晶組成物には、特に制限はなく、誘電率異方性が正または負の各種の液晶組成物を用いることができる。誘電率異方性が正の好ましい液晶組成物には、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5−501735号公報、特開平8−157826号公報、特開平8−231960号公報、特開平9−241644号公報(EP885272A1明細書)、特開平9−302346号公報(EP806466A1明細書)、特開平8−199168号公報(EP722998A1明細書)、特開平9−235552号公報、特開平9−255956号公報、特開平9−241643号公報(EP885271A1明細書)、特開平10−204016号公報(EP844229A1明細書)、特開平10−204436号公報、特開平10−231482号公報、特開2000−087040公報、特開2001−48822公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0089】
誘電率異方性が負の好ましい液晶組成物には、特開昭57−114532号公報、特開平2−4725号公報、特開平4−224885号公報、特開平8−40953号公報、特開平8−104869号公報、特開平10−168076号公報、特開平10−168453号公報、特開平10−236989号公報、特開平10−236990号公報、特開平10−236992号公報、特開平10−236993号公報、特開平10−236994号公報、特開平10−237000号公報、特開平10−237004号公報、特開平10−237024号公報、特開平10−237035号公報、特開平10−237075号公報、特開平10−237076号公報、特開平10−237448号公報(EP967261A1明細書)、特開平10−287874号公報、特開平10−287875号公報、特開平10−291945号公報、特開平11−029581号公報、特開平11−080049号公報、特開2000−256307号公報、特開2001−019965号公報、特開2001−072626号公報、特開2001−192657号公報等に開示されている液晶組成物が挙げられる。
【0090】
前記誘電率異方性が正または負の液晶組成物に一種以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0091】
本発明の液晶表示素子は、種々の電界方式用の液晶表示素子を形成することができる。このような電界方式用の液晶表示素子には、前記基板の表面に対して水平方向に前記電極が前記液晶層に電圧を印加する横電界方式用の液晶表示素子や、前記基板の表面に対して垂直方向に前記電極が前記液晶層に電圧を印加する縦電界方式用の液晶表示素子が挙げられる。
【0092】
横電界方式用の液晶表示素子は、比較的大きなプレチルト角を発現しなくてもよいことから、側鎖を有するジアミンを含まないジアミンから得られる本発明の液晶配向剤による液晶配向膜が好適に用いられる。
【0093】
縦電界方式用の液晶表示素子は、比較的大きなプレチルト角の発現を要することから、一般式(1)で表されるジアミンと側鎖を有するジアミンを含むジアミン混合物から得られたポリマーAを用いた液晶配向膜が好適に用いられる。また、ポリマーAが一般式(1)で表されるジアミンと側鎖を有さないジアミンの混合物から得られたポリマーである場合は、側鎖を有するジアミン、または側鎖を有するジアミンと側鎖を有さないジアミンを含むジアミン混合物から得られたポリマーBを併用した本発明の液晶配向剤による液晶配向膜が好適に用いられる。
【0094】
このように、本発明の液晶配向剤を原料として作製される液晶配向膜は、その原料であるポリマーを適宜選択することにより、種々の表示駆動方式の液晶表示素子に適用させることができる。
【実施例】
【0095】
以下実施例により、本発明の重合体を用いることによって得られる液晶配向剤および液晶表示素子を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例において、分子量の測定にはGPCを用い、ポリスチレンを標準溶液とし、溶出液はDMFを用いた。なお、以下の実施例においては、容積の単位リットルをLで表示する。従って、mLはミリリットルを意味する。
【0096】
以下に実施例で用いた液晶表示素子の評価法を記載する。
(1)電圧保持率(VHR)
東陽テクニカ(株)社製「6254型液晶物性評価システム」を用いて、周波数:30Hz、電圧:±5V、測定温度60℃で測定を行った。この値が大きいほど電気特性は良好であると言える。
(2)長期高温信頼性の測定
作製した液晶表示素子について、経時的に電圧保持率を求め、保持特性を評価した。保持特性の試験方法は、温度100℃の雰囲気中に液晶表示素子を500時間放置し、途中経時的に取り出し電圧保持率測定を測定した。初期電圧保持率と比較した100℃で加熱後の電圧保持率の低下が小さいほど、長期高温信頼性は良好であると言える。
(3)耐UV性の測定
作成した液晶表示素子について、メタルハライドランプを光源として、素子全面に光照射をおこなった。フィルターを使用することで照射波長は300−450nmの波長域とし、照射エネルギーは8J/cmで行った。初期電圧保持率と比較した光照射後の電圧保持率の低下が小さいほど、耐UV性は良好であると言える。
(4)プレチルト角(Pt角)
中央精機(株)製の液晶評価装置(OMS−CA3)を用いて、室温で測定した。
【0097】
実施例および比較例で用いる酸無水物、ジアミンおよび溶剤の名称を略号で示す。以降の記述にはこの略号を使用することがある。
【0098】
<酸無水物>
1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物(T6)):CBDA
ピロメリット酸二無水物(酸無水物(T1)):PMDA
1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物(酸無水物(T7)):BTDA
4,4’−(エタン−1,2−ジイル)ビス(モルホリン−2,6−ジオン):EDDA
<ジアミン>
2,4−ジアミノ−6−フェニル−1,3,5−トリアジン(ジアミン(1−9)):DPTA
2−ビニル−4,6−ジアミノ−1,3,5−トリアジン(ジアミン(1−7)):VDTA
2,4−ジアミノ−6−(メタクリロイルオキシ)エチル−1,3,5−トリアジン(ジアミン(1−13)):ETZ
2,4−ジアミノ−6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン(ジアミン(1−20)):AAZ
4,4’−ジアミノジフェニルメタン(ジアミン(3−1)):DDM
2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン(ジアミン(3−21)):MBMB
5−[[4−(4’−ペンチル[1,1’−ビシクロヘキシル]−4−イル)フェニル]メチル]−1,3−ジアミノベンゼン(ジアミン(6−5−1)):PBPB
化合物:1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル−4−(トランス−4−n−ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキサン(ジアミン(5−23)):5HHBA
1,2−ビス(4−アミノフェニル)エタン(ジアミン(3−2)):DET
<溶剤>
N−メチル−2−ピロリドン:NMP
ブチルセロソルブ:BC
【0099】
[合成例1]
<液晶配向膜用組成物P1(ワニスP1)の調製>
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口および窒素ガス導入口を備えた200mLの四つ口フラスコに、DPTAを0.298g、MBMBを2.883g、PBPBを0.689g、脱水NMPを58.3mL入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。反応系の温度を5℃に保ちながらCBDAを2.50g、BTDAを0.631g加え、30時間反応させた後、BCを36.6mL加えてポリマー成分の濃度が7重量%のポリアミック酸のワニスを調製した。原料の反応中に反応熱により反応温度が上昇するときは、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。
【0100】
得られたポリアミック酸の重量平均分子量は108,500であった。重量平均分子量は、得られたポリアミック酸をリン酸−DMF混合溶液(リン酸/DMF=0.6/100:重量比)でポリアミック酸濃度が約1重量%になるように希釈し、2695セパレーションモジュール・2414示差屈折計(ウォーターズ(社)製)を用いて、上記混合溶液を展開剤としてGPC法により測定し、ポリスチレン換算することにより求めた。カラムはHSPgel RT MB−M(ウォーターズ(社)製)を使用し、カラム温度40℃、流速0.35mL/minの条件で測定した。
【0101】
前記のようにして得られたワニスをNMP/BC(重量比50/50)の混合溶剤で希釈して全ポリマー成分の濃度が3重量%となるように調整し塗布用のワニスP1とした。
【0102】
[合成例2〜18]
<各種ワニスの調製>
表1に示す原料をそれぞれのモル比で用いた以外はワニスP1と同様の方法で、全ポリマー成分の濃度が3重量%のワニスP2〜P18を調製した。得られたポリアミック酸の重量平均分子量を、合成例1の結果と共に表1に示す。
【0103】


【0104】
[実施例1]
<電圧保持率測定用セルaの作製>
合成例1で得られたワニスP1をITO電極付きガラス基板上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は1,700rpm、15秒間であった。このワニスP1を塗布した基板を、80℃にて約5分間予備焼成した後、200℃にて40分間加熱処理を行って、膜厚がおよそ70nmの液晶配向膜を形成させた液晶挟持用基板を得た。この基板を超純水中で5分間超音波洗浄後、オーブン中120℃で30分間乾燥した。片方のITO電極付きガラス基板に4μmのギャップ剤を散布し、もう片方のITO電極付きガラス基板にエポキシ硬化剤でシールして、ギャップ4μmのセルを作製した。このセルに液晶材料を注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行って、プレチルト角および電圧保持率測定用セルaとした。液晶材料として使用した液晶組成物Aの組成を下記に示す。この組成物のNI点は75.4℃であり、複屈折は0.081であった。
【0105】
<液晶組成物A>


【0106】
この測定用セルaを用いて、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0107】
[実施例2〜8]
合成例2および7〜12で得られたワニスP2およびワニスP7〜12を用いて実施例1と同様に測定用セルaを作製し、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0108】
[比較例1]
合成例3で得られたワニスP3を用いて実施例1と同様に測定用セルaを作製し、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表2に示す。
【0109】


【0110】
[実施例9]
合成例4で得られたワニスP4をITO電極付きガラス基板上にスピンナーにて塗布した。塗布条件は1,700rpm、15秒間であった。このワニスP4を塗布した基板を80℃にて約3分間予備焼成した後、230℃にて20分間加熱処理を行って、膜厚がおよそ70nmの液晶配向膜を形成させた基板を得た。この液晶配向膜を(株)飯沼ゲージ製作所製のラビング処理装置を用いて、ラビング布(毛足長1.8mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.40mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1,000rpmの条件でラビング処理し、液晶挟持用基板を得た。この基板を超純水中で5分間超音波洗浄後、オーブン中120℃で30分間乾燥した。片方のITO電極付きガラス基板に7μmのギャップ剤を散布して、もう片方のITO電極付きガラス基板にエポキシ硬化剤で接着し、ギャップ7μmのアンチパラレルセルを作製した。このセルに液晶材料を注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行って、プレチルト角および電圧保持率測定用セルbとした。液晶材料として使用した液晶組成物Bの組成を下記に示す。この組成物のNI点は100.0℃であり、複屈折は0.093であった。
【0111】
<液晶組成物B>


【0112】
得られた測定用セルbを用いて、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0113】
[実施例10〜16]
合成例5および合成例13〜18で得られたワニスP5およびワニスP13〜P18を用いて実施例9と同様に測定用セルbを作製し、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0114】
[比較例2]
合成例6で得られたワニスP6を用いて実施例9と同様に測定用セルbを作製し、プレチルト角、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表3に示す。
【0115】


【0116】
[合成例19〜22]
表4に示す原料をそれぞれのモル比で用い、合成例1に準拠してポリマー濃度7重量%のポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸の重量平均分子量を表4に示す。
【0117】


【0118】
[実施例17]
合成例19で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液と合成例22で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液を重量比10/90(合成例19/合成例22)で混合した。この混合液にNMP/BC(重量比50/50)の混合溶剤で希釈して全ポリマー成分の濃度が3重量%となるように調整し塗布用のワニスP19とした。このワニスP19を用いて、実施例1と同様に測定用セルaを作製し、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0119】
[実施例18]
合成例20で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液と合成例22で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液を重量比10/90(合成例20/合成例22)で混合した。この混合液にNMP/BC(重量比50/50)の混合溶剤で希釈して全ポリマー成分の濃度が3重量%となるように調整し塗布用のワニスP20とした。このワニスP20を用いて、実施例1と同様に測定用セルaを作製し、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0120】
[比較例3]
合成例21で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液と合成例22で得られた濃度7重量%のポリアミック酸溶液を重量比10/90(合成例21/合成例22)で混合した。この混合液にNMP/BC(重量比50/50)の混合溶剤で希釈して全ポリマー成分の濃度が3重量%となるように調整し塗布用のワニスP21とした。このワニスP21を用いて、実施例1と同様に測定用セルaを作製し、電圧保持率、長期高温信頼性および耐UV性を測定した。測定結果を表5に示す。
【0121】


【0122】
実施例1〜18および比較例1〜3の結果から明らかなように、トリアジン骨格のジアミン残基を構成単位中に有するポリアミック酸を用いることにより、高電圧保持率、長期高温信頼性(熱信頼性)および耐UV性(耐光性)を同時に満たすことができる液晶表示素子を作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体をポリマー成分Aとし;
その他のジアミンの少なくとも1つをテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体をポリマー成分Bとするとき;
ポリマー成分Aを必須成分として含有し、ポリマー成分Bを任意成分として含有する液晶配向剤。


式(1)において、Rは水素、−OH、−NH−C、−N(CH、−N(C、−N(CHCH=CH、−NH−CHCH=CH、ハロゲン、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、炭素数2〜20のアルケニル、炭素数6〜20のアリール、炭素数7〜10のアリールアルキル、または、下記の構造である。


【請求項2】
がビニルまたはフェニルである、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
テトラカルボン酸二無水物が式(T1)〜式(T8)で表される化合物の少なくとも1つである、請求項1または2に記載の液晶配向剤。


【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物が式(T1)、式(T6)および式(T7)で表される化合物の少なくとも1つである、請求項3に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
その他のジアミンが式(3)〜式(6)で表される化合物の群から選択されるジアミンである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶配向剤:


式(3)において、Yは炭素数1〜7のアルキレンであり、このアルキレンの任意の−CH−は−O−または−S−で置き換えられてもよく;Rは独立して炭素数1〜3のアルキルであり;kは独立して0または1であり:


式(4)において、Xは独立して−CH−または−O−であり;Xは炭素数1〜8のアルキレンであり、このアルキレンの任意の水素はメチルまたは−CFで置き換えられてもよく:


式(5)において、Xは独立して炭素数1〜6のアルキレンまたは−O−であり;Xは単結合または炭素数1〜3のアルキレンであり、環Tは1,4−フェニレンまたは1,4−シクロへキシレンであり、そしてhは0または1であり;Rは水素または炭素数1〜30のアルキルであって、このアルキルの任意の−CH−は、炭素数が2〜30であるとき−O−、−CH=CH−または−C≡C−で置き換えられてもよく:


式(6)において、A1は単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CO−、−CONH−、−NHCO−、炭素数1〜4のアルキレンまたは1,4−シクロへキシレンであり;Rはステロイド骨格を有する基、または式(A)で表される基である。


(ここに、AおよびAは独立して単結合、−O−、−COO−、−OCO−、−CONH−、−NHCO−、−CH=CH−または炭素数1〜12のアルキレンであり;
およびRは独立してフッ素またはメチルであり、そしてfおよびgは独立して0〜2の整数であり;環Sは1,4−フェニレン、1,4−シクロヘキシレン、1,3−ジオキサン−2,5−ジイル、ピリミジン−2,5−ジイル、ピリジン−2,5−ジイル、ナフタレン−1,4−ジイル、ナフタレン−1,5−ジイル、ナフタレン−2,6−ジイル、ナフタレン−2,7−ジイル、またはアントラセン−9,10−ジイルであり;Rは水素、フッ素、−OH、炭素数1〜30のアルキル、炭素数1〜30のフッ素化アルキル、炭素数1〜30のアルコキシ、−CN、−OCHF、−OCHFまたは−OCFであり;
c、dおよびeは独立して0〜3の整数であって、c+d+e≧1であり;eが2または3であるとき複数の環Sはすべて同じ環であってもよく、少なくとも2つの異なる環で構成されてもよい。)
【請求項6】
式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物において、式(1)で表されるジアミンの含有割合がこのジアミン混合物全量に対して5〜30モル%である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
式(1)で表されるジアミンの少なくとも1つとその他のジアミンの少なくとも1つとからなるジアミン混合物をテトラカルボン酸二無水物と反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体であるポリマー成分Aのみを含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶配向膜を含有する液晶表示素子。

【公開番号】特開2011−128597(P2011−128597A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−211728(P2010−211728)
【出願日】平成22年9月22日(2010.9.22)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】