説明

液晶配向剤及び液晶表示素子

【課題】 電圧保持率が高く、かつ残留電荷が抑制された液晶表示素子を提供すること。また、該液晶表示素子を製作するための液晶配向剤、ポリアミック酸またはその誘導体を提供すること。
【解決手段】 下記一般式(I)または(I')で表されるジアミンを含むジアミンと、ピロメリット酸二無水物およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる、ポリアミック酸またはその誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミック酸もしくはその誘導体(それらの2種以上を含む組成物でもよい)に関する。また本発明は、ポリアミック酸もしくはその誘導体が溶剤に溶解した液晶配向剤、該液晶配向剤から形成される液晶配向膜を具備した液晶表示素子に関する。
ここで、前記ポリアミック酸もしくはその誘導体の少なくとも1種は、特定のジアミンとテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られることを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、ノートパソコンやデスクトップパソコンのモニターをはじめ、ビデオカメラのビューファインダー、投写型のディスプレイなどの様々な液晶表示装置に使われており、最近ではテレビとしても用いられるようになってきた。さらに、光プリンターヘッド、光フーリエ変換素子、ライトバルブなどのオプトエレクトロニクス関連素子としても利用されている。
従来の液晶表示素子としては、ネマチック液晶を用いた表示素子が主流であり、1)90度ツイストしたTN(Twisted Nematic)型液晶表示素子、2)通常180度以上ツイストしたSTN(Super Twisted Nematic)型液晶表示素子、3)薄膜トランジスタを使用したいわゆるTFT(Thin Film Transistor)型液晶表示素子が実用化されている。
【0003】
これらの液晶表示素子は画像が適正に視認できる視野角が狭く、斜め方向から見たときに、輝度やコントラストの低下および中間調での輝度反転を生じるという欠点を有している。近年、この視野角の問題については、1)光学補償フィルムを用いたTN-TFT型液晶表示素子、2)光学補償フィルムを用いたVA(Vertical Alignment)型表示素子、3)垂直配向と突起構造物の技術を併用したMVA(Multi Domain Vertical Alignment)型液晶表示素子、または4)横電界方式のIPS(In−Plane Switching)型液晶表示素子、5)ECB(Electrically Controlled Birefringence)型液晶表示素子、6)光学補償ベンド(Optically Compensated BendまたはOptically self−Compensated Birefringence:OCB)型液晶表示素子などの技術により改良されて、実用化、或いは検討されている。
【0004】
液晶表示素子の技術の発展は、単にこれらの駆動方式や素子構造の改良のみならず、表示素子に使用される構成部材の改良によっても達成されている。表示素子に使用される構成部材のなかでも、特に液晶配向膜は、液晶表示素子の表示品位に係わる重要な要素の一つであり、表示素子の高品質化に伴って液晶配向膜の役割が年々重要になってきている。
【0005】
液晶配向膜は、液晶配向剤より調製される。現在、主として用いられている液晶配向剤とは、ポリアミック酸もしくは可溶性のポリイミドを有機溶剤に溶解させた溶液である。このような溶液を基板に塗布した後、加熱などの手段により成膜してポリイミド系配向膜を形成する。ポリアミック酸以外の種々の液晶配向剤も検討されているが、耐熱性、耐薬品性(耐液晶性)、塗布性、液晶配向性、電気特性、光学特性、表示特性等の点から、ほとんど実用化されていない。
【0006】
液晶表示素子の表示品位を向上させるために液晶配向膜に要求される重要な特性として、電圧保持率、および残留電荷が挙げられる。電圧保持率が低いと、フレーム期間中に液晶にかかる電圧が低下し、結果として輝度が低下して正常な諧調表示に支障をきたす。一
方、残留電荷が大きいと、電圧印加後に電圧をOFFにしたにもかかわらず、消去される像が残ってしまういわゆる「残像」が発生する。
【0007】
前記した問題を解決する試みとして、最近ではいくつかの方法が提案されている。
1)液晶配向膜を形成させるための、物性の異なる2以上のポリアミド酸を組み合わせて含むポリアミド酸組成物が知られている(特許文献1〜2参照)。
2)ポリアミド酸とポリアミドを含むポリマー成分と、溶剤とを含有するワニス組成物が知られている(特許文献3)。
3)物性の異なる2以上のポリアミド酸およびポリアミド、ならびに溶剤を含有するワニス組成物が知られている。(特許文献4)。
4)特定の構造を有するジアミン化合物を用いて合成されるポリアミド酸などを含む高分子材料を含むワニス組成物が知られている(特許文献5参照)。
しかしながら、これらの先行技術によっては、残留電荷が大きいことによる「残像」の問題が十分には解決されていない。
【0008】
一方、光に対する配向膜の劣化が抑制された配向膜であって、芳香環濃度が0〜30重量%のポリイミドを含有する配向膜が形成されている液晶表示素子装置が知られている(特許文献6参照)。該文献には、芳香環濃度が0〜30重量%のポリイミドとして、1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)およびm−キシリレンジアミンを用いて合成されたポリアミック酸をイミド化したものが例示されている。
【特許文献1】特開平11−193345号公報
【特許文献2】特開平11−193347号公報
【特許文献3】国際公開第00/61684号
【特許文献4】国際公開第01/000733号
【特許文献5】特開2002−162630号公報
【特許文献6】特開2001−42335号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、例えば、前記「残像」特性の問題が改善された液晶表示素子を提供することである。また、該液晶表示素子に所望の残像特性を付与することができる液晶配向膜、該液晶配向膜を形成するための液晶配向剤の機能を担うポリアミック酸およびその誘導体、ならびにその組成物を提供することでもある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を行った。
その結果、下記一般式(I)または(I')で表されるジアミンと、テトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体を含む液晶配向剤を使用して作製された液晶配向膜を具備する液晶表示素子により、前記課題が解決されることを見出した。
また、2種以上のポリアミック酸またはその誘導体を含む組成物であって、かつそのうちの少なくとも1種が後述のポリアミック酸Aである組成物を含有する液晶配向剤を使用して作製された液晶配向膜も、液晶表示素子に所望の残像特性を付与することができることを見出した。
さらに、ポリアミック酸Aと組み合わされるポリアミック酸の種類を適宜選択することにより、前記組成物を含有する液晶配向剤を使用して作製された液晶配向膜が、種々の表示駆動方式の液晶表示素子に適切に適用されうることを見出した。
【0011】
【化1】

(但し、nは1または2の整数を表す。)
【0012】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1] 下記一般式(I)または(I')で表されるジアミンを含むジアミンと、ピロメリット酸二無水物およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる、ポリアミック酸またはその誘導体。
【化2】

(但し、nは1または2の整数を表す。)
【0013】
[2] 前記一般式(I)または(I')で表されるジアミンが、下記構造式(I−1)、(I−2)、(I'−1)および(I'−2)で表されるジアミンからなる群から選択されることを特徴とする、[1]に記載のポリアミック酸またはその誘導体。
【化3】

【0014】
[3] [1]または[2]に記載のポリアミック酸またはその誘導体、ならびに溶剤を含有する液晶配向剤。
【0015】
[4] 1)対向配置されており、双方に電極が配置された一対の基板、または対向配置されており、一方に電極が配置された一対の基板、
2)前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜、および
3)前記一対の基板間に挟持された液晶層、を含む液晶表示素子であって、
前記液晶配向膜は、前記基板に[3]に記載の液晶配向剤を塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜である液晶表示素子。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、液晶表示素子において要求される残像特性を付与することができる液晶配向剤、該液晶配向剤の機能を担うポリアミック酸およびその誘導体、ならびにそれらの組成物を提供することができる。さらに本発明により、残留電荷が抑制されて残像特性が改善された、種々の駆動方式の液晶表示素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】IPS用櫛歯状電極付きガラス基板および電極のないガラス基板の2枚のガラス基板を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の組成物は、2種以上のポリアミック酸またはその誘導体を含む組成物である。
本発明の組成物に含まれるポリアミック酸またはその誘導体のうち、少なくとも1種は、上記一般式(I)または(I')で表されるジアミンを含むジアミンA1とテトラカルボン酸二無水物A2とを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体(以下、「ポリアミック酸A」ともいう)である。
さらに、少なくとも別の一種は、側鎖構造を有するジアミンを含むジアミンB1と、テトラカルボン酸二無水物B2とを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体(以下、「ポリアミック酸B」ともいう)である。
なお、本発明の組成物は、ポリアミック酸AおよびBだけを含有してもよく、ポリアミック酸AおよびB以外のポリアミック酸またはその誘導体をさらに含有していてもよい。
【0019】
<1.本発明の組成物に含まれるポリアミック酸A>
前記の通り、本発明の組成物に含まれるポリアミック酸Aは、少なくともジアミンA1と、テトラカルボン酸二無水物A2とを反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体である。
ジアミンA1は1または2種以上のジアミンからなるが、A1に含まれるジアミンの一部はモノアミンに置換されていてもよい。
テトラカルボン酸二無水物A2は1または2種以上のテトラカルボン酸二無水物からなるが、A2に含まれるテトラカルボン酸二無水物の一部はジカルボン酸に置換されていてもよい。
ここでポリアミック酸の誘導体とは、1)ポリアミック酸の全てのアミノ基とカルボン酸とが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)テトラカルボン酸二無水物A2に含まれる酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置き換えて反応させて得られたポリアミック酸−ポリアミド共重合体、さらに4)該ポリアミック酸−ポリアミド共重合体の一部もしくは全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドを含む。
【0020】
前記の通り、ジアミンA1は1または2種以上のジアミンからなるが、少なくとも前記一般式(I)または(I')で表されるジアミンを含む。前記一般式(I)における2つの「−(CH2nNH2」はそれぞれ、シクロヘキサン環の異なる環炭素に結合している。好ましくは、2つの「−(CH2nNH2」はそれぞれ、シクロヘキサン環の1位と3位、または1位と4位の炭素に結合していることが好ましく、1位と3位の炭素に結合していることがさらに好ましい。また、2つの「−(CH2nNH2」におけるnは1または2の整数であるが、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
一般式(I)で表されるジアミンとしては、例えば以下のジアミンが挙げられる。これらのうち、より好ましくは式(I−1)または(I−2)で表されるジアミンが挙げられ、最も好ましくは式(I−2)で表されるジアミンが挙げられる。
【0021】
【化4】

【0022】
前記一般式(I')における2つの「−(CH2nNH2」はそれぞれ、ベンゼン環の異なる環炭素に結合している。好ましくは、2つの「−(CH2nNH2」はそれぞれ、ベンゼン環の1位と3位、または1位と4位の炭素に結合していることが好ましく、1位と3位の炭素に結合していることがさらに好ましい。また、2つの「−(CH2nNH2」におけるnは1または2の整数であるが、それぞれ同一でも異なっていてもよい。さらに、「−(CH2nNH2」が結合していないベンゼン環炭素に結合した水素は、メチル基で置換されていてもよい。
ジアミンA1に含まれる一般式(I')で表されるジアミンとしては、例えば以下の式(I'−1)〜(I'−4)で表されるジアミンが挙げられる。式(I'−1)〜(I'−4)で表されるジアミンは、ベンゼン環に結合した水素のうちの任意の1〜4個の水素が、1〜4個のメチル基で置換されていても良い。
これらのうち、より好ましくは式(I'−1)または(I'−2)で表されるジアミンが挙げられ、最も好ましくは式(I'−2)で表されるジアミンが挙げられる。
【0023】
【化5】

【0024】
前記ジアミンA1は、一般式(I)または(I')で表されるジアミンを単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよい。2種以上を含む場合は、一般式(I)で表されるジアミンと一般式(I')で表されるジアミンとを組み合わせて含むことが好ましく、式(I−2)で表されるジアミンおよび式(I'−2)で表されるジアミンを組み合わせて含むことがさらに好ましい。
【0025】
前記ジアミンA1において、一般式(I)及び/又は(I')で表されるジアミンの総含有量は、ジアミン全体の10〜100モル%であることが好ましく、25〜100モル%であることがさらに好ましい。
前記ジアミンA1に含まれる、一般式(I)または(I')で表されるジアミン以外のジアミンは任意であるが、好ましくは表1に記載されたジアミンが挙げられる。表1に記載されたジアミンのうち、好ましくは式1−8、1−9、1−10、1−11、1−12
、1−13、1−16、1−19、1−34、1−39、1−40で表されるジアミンが挙げられる。
【0026】
【表1−1】

【0027】
【表1−2】

【0028】
【表1−3】

【0029】
前記ジアミンA1に含まれる、一般式(I)または(I')で表されるジアミン以外のジアミンとして、表1に記載されたジアミン以外にシロキサン結合を有するシロキサン系ジアミンを挙げることもできる。該シロキサン系ジアミンは特に限定されるものではないが、下記式(IX)で表されるものが本発明において好ましく使用され得る。
【0030】
【化6】

(式中、R16およびR17は独立して炭素数1〜3のアルキルまたはフェニルであり、R18はメチレン、フェニレンまたはアルキル置換されたフェニレンである。qは1〜6の整数を表し、rは1〜10の整数を表す。)
【0031】
なお、前記ジアミンA1に含まれる、一般式(I)または(I')で表されるジアミン以外のジアミンは、表1に記載されたジアミンおよび式(IX)で表されるジアミンに限定されることなく、本発明の目的が達成される範囲内で他にも種々の形態のジアミンが存在することはいうまでもない。また、該その他のジアミンは単独で、または2つ以上を組み合わせて用いられることができる。
前記の通り、前記ジアミンA1に含まれるジアミンの一部は、モノアミンに置換されていてもよい。ジアミンの一部をモノアミンに置換することにより、重合反応のターミネーションを起こすことができ、それ以上の反応の進行を抑えることができることから、得られる重合体(ポリアミック酸A)の分子量を容易に制御することができる。ジアミンに対するモノアミンの比率は、本発明の効果を損なわない範囲にすればよいが、目安として全アミン量の10モル%以下にすることが好ましい。
【0032】
前記の通りポリアミック酸Aは、テトラカルボン酸二無水物A2を原料として合成される。テトラカルボン酸二無水物A2は、1または2種以上のテトラカルボン酸二無水物からなる。テトラカルボン酸二無水物とは、下記一般式(II)で表される。
【0033】
【化7】

(但し、Aは4価の有機基を表す。)
【0034】
ここで、テトラカルボン酸二無水物A2に含まれるテトラカルボン酸二無水物は任意に選択され、1)芳香族テトラカルボン酸二無水物、2)脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物のいずれであってもよい。
なお、ポリアミック酸Aが液晶配向剤の成分として使用されるためには、溶剤に可溶な形態をとることが好ましい。ポリアミック酸Aを該可溶な形態とするために、テトラカルボン酸二無水物A2に含まれるテトラカルボン酸二無水物を適宜に選択することが好ましい。
【0035】
ここで、1)芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば下記式(II−1)〜(II−13)で表される二無水物が具体例として挙げられる。下記する芳香族テトラカルボン酸二無水物のうち、より好ましくは(II−1)、(II−2)、(II−5)、(II−6)、(II−7)で表される二無水物が挙げられ、最も好ましくは(II−1)で表されるピロメリット酸二無水物が挙げられる。
【0036】
【化8】

【0037】
また、テトラカルボン酸二無水物A2に含まれる、前記2)脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物としては、例えば下記式(II−14)〜(II−39)で表される酸二無水物が具体的に例示される。
下記する酸二無水物のうち、より好ましくは式(II−14)〜(II−16)、式(II−18)、式(II−20)、式(II−27)〜(II−29)で表される酸二無水物が挙げられ、特に好ましくは式(II−14)で表される1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。またポリアミック酸Aを溶媒に可溶性のポリイミドとするには、式(II−18)、式(II−27)〜(II−29)で表される酸二無水物を用いることが好ましい。
【0038】
【化9】

【0039】
テトラカルボン酸二無水物A2は、テトラカルボン酸二無水物を単独で含むこともできるし、二種以上を組み合わせて含むこともできる。好ましくは前記1)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、2)脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物を組み合わせて含み、特に好ましくは式(II−1)で表されるピロメリット酸二無水物と、式(II−14)で表される1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物を組み合わせて含む。
芳香族テトラカルボン酸二無水物と、脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物(特に好ましくは、ピロメリット酸二無水物と1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物)とを含む、テトラカルボン酸二無水物A2から合成されるポリアミック酸を含む液晶配向剤を用いて形成される液晶配向膜は、それを含む液晶表示素子に、顕著な残留DC低減効果を付与することができる。
テトラカルボン酸二無水物A2が、ピロメリット酸二無水物及び1,2,3,4−シク
ロブタンテトラカルボン酸二無水物を含む場合、ピロメリット酸二無水物/1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物のモル比率は、10/90〜90/10であることが好ましく、15/85〜75/25であることがより好ましい。
【0040】
ポリアミック酸Aは任意の重量平均分子量を有していればよく特に限定されないが、液晶配向剤の成分として用いられる場合には、5×103以上であることが好ましく、1×104であることがより好ましい。5×103以上の重量平均分子量を有するポリアミック酸Aは、配向膜を焼成するステップにおいて蒸発することがなく、液晶配向剤の成分として好ましい物性を有する。
該重量平均分子量の上限については、液晶配向剤として用いたときに好ましい粘度となるような、また液晶配向剤のゲル化が抑制されるような重量平均分子量であればよく、目安として5×105以下であることが好ましい。
ここで、ポリアミック酸Aの重量平均分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により測定される。例えば、得られたポリアミック酸Aをジメチルホルムアミド(DMF)でポリアミック酸濃度が約1重量%になるように希釈し、クロマトパックC-R7A(島津製作所製)を用いて、DMFを展開剤としてゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)法により測定し、ポリスチレン換算することにより求める。
また、ポリアミック酸Aの分子量分布は多分散度で表すことができ、多分散度とは重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の値であり、その値は1.5〜5であることが好ましい。ここで分子量分布は分子量測定と同様のGPC法により測定される。
【0041】
ポリアミック酸Aは、公知の方法を用いて製造することができる。例えば、原料投入口、窒素導入口、温度計、攪拌機およびコンデンサーを備えた反応容器に、前記一般式(I)又は(I')で表されるジアミンの1種もしくは2種以上と、場合によって前記他のジアミン(表1または式(17))から選択される1種もしくは2種以上のジアミン、さらに必要に応じてモノアミンの所望量を仕込む。
次に、溶剤(例えばアミド系極性溶剤であるN−メチル−2ピロリドンやジメチルホルムアミドなど)および前記一般式(II)で表されるテトラカルボン酸二無水物の1種もしくは2種以上、さらに必要に応じてジカルボン酸を投入する。このときテトラカルボン酸二無水物の総仕込み量は、ジアミンの総モル数とほぼ等モル(モル比0.9〜1.1程度)とすることが好ましい。
攪拌下に温度0〜70℃で1〜48時間反応させることによりポリアミック酸の溶液を得ることができる。また、加熱して反応温度を上げる(例えば、50〜80℃)ことにより、分子量の小さいポリアミック酸を得ることもできる。
【0042】
ポリアミック酸Aは、多量の貧溶媒で沈殿させ、固形分と溶剤とを濾過などにより完全に分離し、IR、NMRで分析することにより同定され得る。さらには、KOHやNaOH等の強アルカリの水溶液で固形のポリアミック酸Aを分解後、有機溶媒で抽出し、GC、HPLCもしくはGC-MSで分析することにより、使用されているモノマーを同定することができる。
【0043】
得られたポリアミック酸溶液は、所望の粘度に調整するために溶剤で希釈して使用することができる。
【0044】
また、ポリアミック酸Aを、ポリアミック酸誘導体である可溶性ポリイミドとする場合には、得られたポリアミック酸溶液を、脱水剤である無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物、及び脱水閉環触媒であるトリエチルアミン、ピリジン、コリジンなどの三級アミンとともに、温度20〜150℃でイミド化反応させて得ることができる。
あるいは、得られたポリアミック酸溶液から多量の貧溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒やグリコール系溶媒)を用いてポリアミック酸
を析出させ、析出させたポリアミック酸を、トルエン、キシレン等の溶媒中で、前記と同様の脱水剤及び脱水閉環触媒とともに、温度20〜150℃でイミド化反応させることもできる。
前記イミド化反応において、脱水剤と脱水閉環触媒の割合は0.1〜10(モル比)であることが好ましい。両者の合計使用量は、使用するテトラカルボン酸二無水物A2に含まれる酸二無水物のトータルのモル量に対して1.5〜10倍モルであることが好ましい。この化学的イミド化の脱水剤、触媒量、反応温度および反応時間を調整することによって、イミド化の程度を制御し、部分ポリイミドを得ることができる。
得られたポリイミドは、溶剤と分離して後述する溶剤に再溶解させて液晶配向剤として使用することもできるし、あるいは溶剤と分離することなく液晶配向剤として使用することもできる。
【0045】
また前記したように、テトラカルボン酸二無水物A2に含まれる酸二無水物の一部は有機ジカルボン酸に置換されていてもよい。有機ジカルボン酸を含むA2を用いてポリアミック酸Aを製造すると、ポリアミック酸−ポリアミド共重合体を得ることができる。ここで、テトラカルボン酸二無水物に対するジカルボン酸の比率は、本発明の効果を損なわない範囲にすればよいが、目安としては、10モル%以下にすることが好ましい。
さらに、該ポリアミック酸−ポリアミド共重合体を化学的にイミド化することによってポリアミドイミドを製造することができる。
【0046】
ポリアミック酸Aは、後述するポリアミック酸Bと混合されて、液晶配向剤の成分として使用されることができる。なお後述するように、ポリアミック酸A単独であっても液晶配向剤の成分として使用されうる。
【0047】
<2.本発明の組成物に含まれるポリアミック酸B>
前記の通り、本発明の組成物に含まれるポリアミック酸Bは、ジアミンB1と、テトラカルボン酸二無水物B2を反応させて得られるポリアミック酸またはその誘導体を意味する。
ジアミンB1は1または2種以上のジアミンからなるが、B1に含まれるジアミンの一部はモノアミンに置換されていてもよい。
テトラカルボン酸二無水物B2は1または2種以上のテトラカルボン酸二無水物からなるが、B2に含まれるテトラカルボン酸二無水物の一部はジカルボン酸に置換されていてもよい。
ポリアミック酸の誘導体とは、1)ポリアミック酸の全てのアミノ基とカルボン酸とが脱水閉環反応したポリイミド、2)部分的に脱水閉環反応した部分ポリイミド、3)テトラカルボン酸二無水物の一部を有機ジカルボン酸に置換したB2を使用して得られるポリアミック酸−ポリアミド共重合体、さらに4)該ポリアミック酸−ポリアミド共重合体の一部もしくは全部を脱水閉環反応させたポリアミドイミドを含む。
【0048】
前記の通り、ジアミンB1は1又は2種以上のジアミンからなるが、少なくとも側鎖構造を有するジアミンを含む。また、必要に応じて任意の他のジアミンをさらに含んでいてもよい。ここで、他のジアミンとしては、前述の表1に示されたジアミン、前記式(IX)で表されるジアミン、または前記一般式(I)もしくは(I')で表されるジアミンが挙げられる。ジアミンB1における「側鎖構造を有するジアミン/その他のジアミン」のモル比は、選択された側鎖構造を有するジアミンの構造と、所望するプレチルト角に応じて調整すればよく、100/0〜1/99であることが好ましく、80/20
〜5/95であることがより好ましい。
さらに、ジアミンB1に含まれるジアミンの一部は、モノアミンに置換されていてもよい。ここでジアミンに対するモノアミンの比率は、10モル%以下にすることが好ましい。
【0049】
側鎖構造を有するジアミンとは、2つのアミノ基を結ぶ鎖を主鎖としたときに側鎖を有するジアミンを意味する。すなわち、側鎖構造を有するジアミンは、テトラカルボン酸二無水物と反応することで、高分子主鎖に対して側鎖基を有するポリアミック酸またはポリイミド(分岐ポリアミック酸または分岐ポリイミド)を提供することができる。
高分子主鎖に対して側鎖基を有するポリアミック酸またはポリイミドを含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、液晶表示素子におけるプレチルト角を大きくすることができることが知られている。このことは、例えば、前記特許文献1(特開平11−193345)に記載されている。
【0050】
従って、側鎖構造を有するジアミンにおける側鎖は、求められるプレチルト角に応じて適宜選択すればよい。例えば、該側鎖は炭素数3以上の基が挙げられる。具体的には、1)フェニル基、または炭素数3以上のアルキル基、アルケニル基もしくはアルキニル基、2)フェニルオキシ基、または炭素数3以上のアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基もしくはアルキニルオキシ基、3)フェニルカルボニル基、または炭素数3以上のアルキルカルボニル基、アルケニルカルボニル基もしくはアルキニルカルボニル基、4)フェニルカルボニルオキシ基、または炭素数3以上のアルキルカルボニルオキシ基、アルケニルカルボニルオキシ基もしくはアルキニルカルボニルオキシ基、5)フェニルオキシカルボニル基、または炭素数3以上のアルキルオキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基もしくはアルキニルオキシカルボニル基、6)フェニルアミノカルボニル基、または炭素数3以上のアルキルアミノカルボニル基、アルケニルアミノカルボニル基もしくはアルキニルアミノカルボニル基、および7)炭素数3以上の環状アルキレン基などが挙げられるが、これに限定されない。
【0051】
側鎖構造を有するジアミンとしては、具体的には前記一般式(III)〜(VII)で表されるジアミンが挙げられる。
前記一般式(III)において、2つのアミノ基はフェニル環炭素に結合しているが、好ましくは、2つのアミノ基の結合位置関係は、メタまたはパラであることが好ましい。さらに2つのアミノ基はそれぞれ、「R2−R1−」の結合位置を1位としたときに3位と5位、または2位と5位に結合していることが好ましい。
一般式(III)で表されるジアミンとしては、例えば式(III−1)〜(III−31)で表されるジアミンが挙げられる。
【0052】
【化10】

式(III-1)〜(III-3)においてR19は炭素数4〜12のアルキル基が好ましく、式(III-4)においてR20は炭素数6〜20のアルキル基が好ましい。
【0053】
【化11】

式中、R22は炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、または炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、R23は水素、炭素数1〜10のアルキル基または炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましい。
【0054】


【化12】

【0055】
前記一般式(IV)において、2つの「NH2−Ph−R5−O−」の一方はステロイド核の3位に結合し、もう一方は6位または7位に結合していることが好ましく、6位に結合していることがより好ましい。また、2つのアミノ基はそれぞれ、フェニル環炭素に結合しており、R5の結合位置に対して、メタまたはパラに結合していることが好ましい。
一般式(IV)で表されるジアミンとしては、例えば式(IV−1)〜(IV−4)で表されるジアミンが挙げられる。
【0056】
【化13】

【0057】
一般式(V)において、2つの「NH2−(R7−)Ph−R5−O−」は、それぞれフェニル環炭素に結合しているが、好ましくはステロイド核が結合している炭素に対してメタまたはパラの炭素に結合している。また、2つのアミノ基はそれぞれフェニル環炭素に結合しているが、R5に対してメタまたはパラに結合していることが好ましい。
一般式(V)で表されるジアミンとしては、例えば式(V−1)〜(V−8)で表されるジアミンが挙げられる。
【0058】
【化14】

【0059】
前記一般式(VI)または(VII)において、2つのアミノ基はそれぞれフェニル環炭素に結合しているが、R9に対してメタまたはパラに結合していることが好ましい。
一般式(VI)で表されるジアミンとしては、例えば式(VI−1)〜(VI−3)で表されるジアミンが、一般式(VII)で表されるジアミンとしては例えば(VII−1)で表されるジアミンが挙げられる。
【0060】
【化15】

式中、R21は水素または炭素数1〜20のアルキル基が好ましい。
【0061】
ポリアミック酸Bは、前述のポリアミック酸Aと組み合わされる(ブレンドされる)ことにより、本発明の組成物に、液晶配向剤の成分としての好ましい特性を付与することができる。
具体的には、ポリアミック酸Bの原料であるジアミンB1に含まれるジアミンの種類およびその組み合わせを適宜選択することにより、本発明の組成物を用いて形成される液晶配向膜に、プレチルト角を調整させることができる。
【0062】
TN型液晶表示素子やSTN型液晶表示素子の場合には3〜10°程度のプレチルト角が、OCB型液晶表示素子の場合には7〜20°程度のプレチルト角が、およびVA型液晶表示素子の場合には80〜90°程度のプレチルト角が要求される場合が多い。従って、プレチルト角を適宜調整することができる本発明の組成物を含む液晶配向剤は、任意の種類の液晶表示素子に適用することができる。
なお、ポリアミック酸Aを単独で、すなわちポリアミック酸Bと組み合わせずに用いた液晶配向剤は、IPS型液晶表示素子(プレチルト角が0°程度)の配向膜を形成するのに適しているが、これについては後述する。
【0063】
以下、ジアミンB2に含まれるジアミン(側鎖構造を有するジアミン)について、液晶表示素子の駆動方式(プレチルト角)と関係付けて説明する。
【0064】
1)TN型液晶表示素子またはOCB型液晶表示素子の場合
上記表示素子における配向膜を形成させる場合には、上記一般式(VI−1)〜(VI−3)、または一般式(VII−1)で表されるジアミンを含むジアミンB1から得られるポリアミック酸Bを含有する本発明の組成物を、液晶配向剤成分として用いることが好ましい。
【0065】
2)VA型液晶表示素子の場合
VA型液晶表示素子おける配向膜を形成させる場合には、前記一般式(III−11)〜(III−25)で表されるジアミン(さらに好ましくは、一般式(III−19)〜(III−25)で表されるジアミン)を含むジアミンB1から得られるポリアミック酸Bを含有する本発明の組成物を、液晶配向剤成分として用いることが好ましい。
【0066】
ポリアミック酸Bは、前記ジアミンB1とテトラカルボン酸二無水物B2とを反応させることで得られるが、テトラカルボン酸二無水物B2に含まれるテトラカルボン酸二無水
物としては、テトラカルボン酸二無水物A2の説明において記載されたテトラカルボン酸二無水物と同様のものが挙げられる。
また、A2と同様、テトラカルボン酸二無水物B2に含まれるテトラカルボン酸二無水物の一部は、ジカルボン酸に置換されていてもよい。
【0067】
ポリアミック酸Bは、ポリアミック酸Aと同様に、任意の重量平均分子量を有することができ特に限定されないが、液晶配向剤の成分として用いられる場合は5×103以上であることが好ましく、1×104であることがより好ましい。5×103以上の重量平均分子量を有するポリアミック酸Bは、配向膜を焼成するステップにおいて蒸発することがなく、液晶配向剤の成分として好ましい物性を有する。
該重量平均分子量の上限については、液晶配向剤として用いたときに好ましい粘度となるような、また液晶配向剤のゲル化が抑制されるような重量平均分子量であればよく、目安として5×105以下であることが好ましい。
また、ポリアミック酸Bの分子量分布は多分散度で表すことができ、多分散度とは重量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)の値であり、その値は1.5〜5であることが好ましい。
ポリアミック酸Bの重量平均分子量および分子量分布は、ポリアミック酸Aの場合と同様に測定される。
【0068】
ポリアミック酸Bはポリアミック酸Aと同様にして製造することができる。また、ポリアミック酸Bの製法については、例えば、特開平01−25126号公報、特開平03−219213号公報、特開平06−228061号公報、特開平06−265911号公報、特開2002−162630号公報を参照することができる。
【0069】
<3.本発明の組成物>
本発明の組成物は、前述のポリアミック酸Aとポリアミック酸Bを混合させることにより調製され得る。混合されるポリアミック酸Aとポリアミック酸Bの重量比は、A/B=99/1〜50/50であることが好ましく、A/B=95/5〜80/20であることがより好ましい。該重量比は、求められるプレチルト角に応じて適宜調整されればよく、ポリアミック酸Bの比率を上げればプレチルト角を大きくすることができる。
【0070】
<4.本発明のポリアミック酸またはその誘導体>
前記の通りポリアミック酸Aは、ポリアミック酸Bと組み合わされることにより好ましい液晶配向剤の成分として用いられることができる。但し、ポリアミック酸Aを液晶配向剤の成分として使用するために、必ずしもポリアミック酸Bと組み合わされる必要があるわけではない。
すなわち、ポリアミック酸Aは単独で(ポリアミック酸Bと組み合わされずに)、液晶配向剤の成分として用いられることができる。ポリアミック酸Aを単独で含む液晶配向剤から形成される液晶配向膜は、液晶表示素子のプレチルト角を0〜2°にすることができ、従ってIPS型液晶表示素子の作製に特に有用である。
【0071】
ポリアミック酸Aを、ポリアミック酸Bと組み合わせることなく液晶配向剤の成分として用いる場合には、原料である酸二無水物を、前記芳香族テトラカルボン酸二無水物と、前記脂肪族テトラカルボン酸二無水物もしくは脂環式テトラカルボン酸二無水物との組み合わせとすることが好ましい。特に、式(II−1)で表されるピロメリット酸二無水物と、式(II−14)で表される1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物との組み合わせとすることが好ましい。
【0072】
<5.本発明の液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、前述したポリアミック酸A、または前述したポリアミック酸A
およびポリアミック酸Bの組成物、ならびに溶剤を含み、通常の液晶配向剤に含有される各種添加剤をさらに含んでいてもよい。
本発明の液晶配向剤におけるポリアミック酸の含有率は、液晶配向剤の基板への塗布方法によって適宜選択されることができる。例えば、通常の液晶表示素子の製造工程で用いられる印刷機(オフセット印刷やインクジェット印刷機を含む。以下、「印刷機」と略すことがある。)で使用される液晶配向剤におけるポリアミック酸の含有率は、0.5〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜15重量%であることが好ましいが、液晶配向剤の粘度(後述)との関係で適宜調整される。
【0073】
前記溶剤は、ポリアミック酸、可溶性ポリイミド、およびポリアミドイミドなどの高分子成分の製造工程や用途で通常使用されている溶剤を広く含み、使用目的に応じて適宜選択され得る。該溶剤は、1)ポリアミック酸や可溶性ポリイミドに対して親溶性である非プロトン性極性有機溶剤と、2)表面張力を変えて塗布性改善などを目的とする溶剤とを含む混合溶剤であることが好ましい。
これらの溶剤を例示すれば以下のとおりである。
1)ポリアミック酸や可溶性ポリイミドに対し親溶剤である非プロトン性極性有機溶剤(以下、非プロトン性極性有機溶剤):例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、ジエチルアセトアミド、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンである。これらのうち、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンなどがさらに好ましく例示される。
【0074】
2)表面張力を変えて塗布性改善などを目的とした溶剤(以下、その他の溶剤):例えば、乳酸アルキル、3−メチル−3−メトキシブタノール、テトラリン、イソホロン、エチレングリコールモノブチルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのジエチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールモノアルキルまたはフェニルアセテート、トリエチレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル、マロン酸ジエチルなどのマロン酸ジアルキル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのジプロピレングリコールモノアルキルエーテル、これらアセテート類などのエステル化合物である。これらのうち、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどがさらに好ましく例示される。
【0075】
非プロトン性極性溶媒とその他の溶媒の種類および割合は、液晶配向剤の印刷性、塗布性、溶解性および保存安定性などを考慮して、適宜に設定することができる。非プロトン性極性溶媒は、その他の溶媒よりも相対的に溶解性および保存安定性に優れ、その他の溶媒は印刷性および塗布性に優れる傾向がある。
【0076】
前記の通り、本発明の液晶配向剤は各種添加剤を含有していてもよい。各種添加剤としては、ポリアミック酸またはその誘導体以外の高分子化合物、または低分子化合物をそれぞれの目的に応じて選択して使用することができる。
例えば、有機溶剤に可溶性の高分子化合物を添加剤としてもよく、それらを添加することにより、形成される配向膜の電気特性や配向性を制御することができる。該高分子化合物の例としては、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリエステル、ポリエポキサイド、ポリエステルポリオール、シリコン変性ポリウレタン、シリコン変性ポリエステルなどを挙げることができる。
【0077】
また、低分子化合物の添加剤の例としては、1)塗布性の向上を望むときにはかかる目的に沿った界面活性剤を、2)帯電防止の向上を必要とするときは帯電防止剤を、また3)基板との密着性や対ラビング性の向上を望むときにはシランカップリング剤やチタン系のカップリング剤を用いることができる。
前記シランカップリング剤の例としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリメトキシシラン、パラアミノフェニルトリエトキシシラン、メタアミノフェニルトリメトキシシラン、メタアミノフェニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロピルアミン、N,N'−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミンなどを挙げることができる。
【0078】
これらの添加剤の添加量は、ポリアミック酸およびその誘導体の重量に対して0〜10重量%、好ましくは0.1〜3重量%である。
【0079】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリアミック酸およびその誘導体の濃度、使用するポリアミック酸およびその誘導体の種類、溶剤の種類と割合によって多種多様である。例えば、印刷機による塗布の場合は5〜100mPa・s(より好ましくは10〜80mPa・s)である。5mPa・sより小さいと十分な膜厚を得ることが難しくなり、100mPa・sを超えると印刷ムラが大きくなることがある。スピンコートによる塗布の場合は5〜200mPa・s(より好ましくは10〜100mPa・s)が適している。
液晶配向剤の粘度は回転粘度測定法により測定され、例えば回転粘度計(東機産業製TVE-20L型)を用いて測定(測定温度:25℃)される。
【0080】
<6.本発明の液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、1)対向配置された一対の基板、2)前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜、および3)前記一対の基板間に挟持された液晶層を含む。ここで、前記一対の基板の双方に電極が配置されていてもよいが、IPS型液晶表示素子である場合は、前記一対の基板の一方に、電極(櫛型またはジグザグ構造の電極でありうる)が配置されている。
【0081】
前記液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤を前記基板に塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜である。ここで液晶配向膜の膜厚は、10〜300nmであることが好ましく、30〜100nmであることがより好ましい。また、液晶配向膜はラビング処理されていることが好ましい。
【0082】
前記対向配置された一対の電極付き基板は、透明基板(例えばガラス基板)であることが好ましい。
【0083】
前記一対の基板間に挟持された液晶層は液晶組成物を含む。ここで液晶組成物は特に制限はされず、駆動モードに応じて、誘電率異方性が正の液晶組成物および誘電率異方性が負の液晶組成物のいずれの組成物も用いることができる。
誘電率異方性が正である好ましい液晶組成物の例は、特許第3086228号公報、特許第2635435号公報、特表平5−501735号公報、特開平8−157828号
公報、特開平8−231960号公報、特開平9−241644号公報(EP885272A1)、特開平9−302346号公報(EP806466A1)、特開平8−199168号公報(EP722998A1)、特開平9−235552号公報、特開平9−255956号公報、特開平9−241643号公報(EP885271A1)、特開平10−204016号公報(EP844229A1)、特開平10−204436号公報、特開平10−231482号公報、特開2000−087040公報、特開2001−48822公報などに開示されている。
【0084】
VA型液晶表示素子において用いられる液晶組成物は、誘電率異方性が負の各種の液晶組成物とすることができる。好ましい液晶組成物の例は、特開昭57−114532号公報、特開平2−4725号公報、特開平4−224885号公報、特開平8−40953号公報、特開平8−104869号公報、特開平10−168076号公報、特開平10−168453号公報、特開平10−236989号公報、特開平10−236990号公報、特開平10−236992号公報、特開平10−236993号公報、特開平10−236994号公報、特開平10−237000号公報、特開平10−237004号公報、特開平10−237024号公報、特開平10−237035号公報、特開平10−237075号公報、特開平10−237076号公報、特開平10−237448号公報(EP967261A1)、特開平10−287874号公報、特開平10−287875号公報、特開平10−291945号公報、特開平11−029581号公報、特開平11−080049号公報、特開2000−256307公報、特開2001−019965公報、特開2001−072626公報、特開2001−192657公報などに開示されている。
【0085】
前記誘電率異方性が正または負の液晶組成物に、一つ以上の光学活性化合物を添加して使用することも何ら差し支えない。
【0086】
本発明の液晶表示素子は、もちろんその他の部材を有していてもよい。
例えば、薄膜トランジスタを使用したカラー表示のTFT型液晶素子においては、第1の透明基板上に薄膜トランジスタ、絶縁膜、保護膜、信号電極および画素電極などが形成されており、第2の透明基板上に画素領域以外の光を遮断するブラックマトリクス、カラーフィルター、平坦化膜および画素電極などを有しうる。
また、VA型液晶表示素子、特にMVA型液晶表示素子においては、第1の透明基板上にドメインと称される微小な突起物が形成されている。また、基板間のセルギャップの調整用にスペーサーが形成されていてもよい。
【0087】
本発明の液晶表示素子は任意の方法で製作され得るが、例えば、1)前記2枚の透明基板上に液晶配向剤を塗布する工程、2)塗布された液晶配向剤を乾燥する工程、3)乾燥された液晶配向剤を脱水・閉環反応させるために必要な加熱処理をする工程、4)得られた配向膜を配向処理する工程、5)2枚の基板を張り合わせた後に、基板の間に液晶を封入する工程、または一方の基板に液晶を滴下させた後に、もう一方の基板と張り合わせる工程を含む方法で製作される。
【0088】
前記液晶配向剤を塗布する工程における塗布方法としては、スピンナー法、印刷法、ディッピング法、滴下法、インクジェット法などが一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。
【0089】
また、前記乾燥工程および脱水・閉環反応に必要な加熱処理を施す工程の方法として、オーブンまたは赤外炉の中で加熱処理する方法、ホットプレート上で加熱処理する方法などが一般に知られている。これらの方法が本発明においても適用可能である。乾燥工程は、溶剤の蒸発が可能な範囲内の比較的低温(50〜100℃)で実施することが好ましい
。加熱処理の工程は一般に150〜300℃程度の温度で行うことが好ましい。
【0090】
配向処理は、TN型液晶表示素子、STN型液晶表示素子、IPS型液晶表示素子、OCB型液晶表示素子ではラビング処理を行う。VA型液晶表示素子では通常ラビング処理を行わないが行っても良い。
【0091】
次いで、一方の基板上に接着剤を塗布し貼りあわせ真空中で液晶を注入する。滴下注入法の場合には、貼りあわせる前に液晶を基板上に滴下し、その後もう一方の基板で貼りあわせる。貼りあわせに使用した接着剤を熱または紫外線で硬化させて本発明の液晶表示素子が作製される。
【0092】
本発明の液晶表示素子には、偏光板(偏光フィルム)、波長板、光散乱フィルム、駆動回路などが実装されてもよい。
【0093】
TN型液晶表示素子およびSTN型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は3〜10°のプレチルト角を与えることが好ましく、IPS型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は0〜2°のプレチルト角を与えることが好ましく、OCB型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は5〜45°、好ましくは7〜15°のプレチルト角を与えることが好ましく、VA型液晶表示素子に用いられる液晶配向膜は85〜90°のプレチルト角を与えることが好ましい。前述したように、プレチルト角の調整は、主に、1)本発明の組成物のポリアミック酸Bの原料であるジアミンの種類、およびその含有比、2)本発明の組成物におけるポリアミック酸AとBの含有比などを調整することにより達成される。
【0094】
また、本発明の液晶表示素子は、電圧保持率が高く、かつ残留電荷が低いという特徴を有する。これは本発明の液晶表示素子の液晶配向膜が、ポリアミック酸Aを含む液晶配向剤により形成されていることによるものである。このことは、後述する実施例においても説明されている。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例において用いられるテトラカルボン酸二無水物、ジアミンおよび溶剤の名称は、以下の略号で示されることがある。
【0096】
[テトラカルボン酸二無水物]
ピロメリット酸二無水物{式(II−1)}:PMDA
1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物{式(II−14)}
:CBDA
ブタンテトラカルボン酸二無水物{式(II−18)}:BTCA
【0097】
[ジアミン]
m−キシリレンジアミン{式(I'−2)}:MXDA
1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン{式(I−2)}:BAC
1,1−ビス{4−[(4−アミノフェニル)メチル]フェニル}−4−n−ブチルシクロヘキサン{式(VI−2)/R21=C49}:4Ch
5−{4−[2−(4−nヘプチルシクロヘキシル)エチル]シクロヘキシル}フェニルメチル−1,3−ジアミノベンゼン{式(III−25)/R23=C715
:7Ch2Ch
p−フェニレンジアミン(表1の1−8):PDA
4,4'−ジアミノジフェニルメタン(表1の1−11):DDM
1,2−ビス(4−アミノフェニル)エタン(表1の1−16):DDEt
【0098】
[溶剤]
N−メチル−2−ピロリドン:NMP
γ−ブチロラクトン:GBL
ブチルセロソルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル):BC
【0099】
<1.ポリアミック酸の合成>
[ポリアミック酸Aの合成]
合成例1
温度計、攪拌機、原料投入仕込み口および窒素ガス導入口を備えた100mlの四つ口フラスコに、MXDAを1.9835g(14.56mmol)および脱水NMP35gを入れ、乾燥窒素気流下攪拌溶解した。次いでPMDA1.5884g(7.28mmol)およびCBDA1.4282g(7.28mmol)を添加し、室温環境下で30時間反応させた。反応中に反応温度が上昇する場合は、反応温度を約70℃以下に抑えて反応させた。
得られた溶液に、GBL30gおよびBC30gを加えて、濃度が5重量%のポリアミック酸溶液(PA1)を合成した。得られたPA1の粘度は20mPa・sであった。また、生成したポリアミック酸の重量平均分子量は44,000であった。
【0100】
合成例2〜7
表2に示した割合にテトラカルボン酸二無水物、ジアミンおよび溶剤の組成を変更した以外は、合成例1に準拠してポリアミック酸溶液(PA2〜PA7)を合成した。合成例1を含めて、結果を表2にまとめた。
【0101】
[ポリアミック酸Bの合成]
合成例8〜9
表3に示した割合でテトラカルボン酸二無水物、ジアミンおよび溶剤組成を変更した以外は、合成例1に準拠して側鎖を有するポリアミック酸(PA8〜PA9)を合成した。結果を表3にまとめた。
【0102】
[その他のポリアミック酸の合成]
比較合成例1〜2
表2に示した割合でテトラカルボン酸二無水物、ジアミンおよび溶剤組成を変更した以外は、合成例1に準拠してポリアミック酸溶液(CPA1〜2)を合成した。合成例1を含めて、結果を表2にまとめた。
【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
<2.液晶表示素子の作製>
[実施例1]
合成例1で合成した濃度5重量%のポリアミック酸溶液(PA1)を、NMP/BC=1/1(重量比)の混合溶剤で、3重量%に希釈して液晶配向剤とした。得られた液晶配向剤を用いて、下記の通りIPS型液晶表示素子を作製した。
【0106】
IPS型液晶表示素子の作製方法
図1に示すIPS用櫛歯状電極付きガラス基板および電極のないガラス基板の2枚のガラス基板を使用した。液晶配向剤を、IPS用櫛歯状電極付きガラス基板上および電極のないガラス基板上にスピンナーにて塗布し、膜厚100nmの膜を形成させた。塗膜後、80℃にて約5分間加熱乾燥した後、220℃にて30分間加熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
配向膜が形成された2枚の基板をそれぞれ、株式会社飯沼ゲージ製作所製のラビング処理装置を用いて、ラビング布(毛足長1.9mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.4mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、電極の方向に対して30°の傾きになるようにラビング処理した。
ラビング処理した基板を、超純水中で5分間超音波洗浄した後、エタノールにて表面を洗浄してから、オーブン中120℃で30分間乾燥した。前記IPS用櫛歯状電極付きガラス基板に4μmのギャップ材を散布した。配向膜を形成した面を内側にして電極のないガラス基板をラビング方向が逆平行になるように対向配置させた後、エポキシ硬化剤でシールし、ギャップ4μmのアンチパラレルセルを作製した。該セルに下記液晶組成物Aを注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行い、IPS型液晶表示素子を作製した。
【0107】
【化16】

【0108】
[実施例2〜7]
PA1の代わりにPA2〜PA7を用いた以外は、実施例1と同様に液晶配向剤を得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にIPS型液晶表示素子を作製した。
【0109】
[比較例1〜2]
PA1の代わりにCPA1〜CPA2を用いた以外は、実施例1と同様に液晶配向剤を
得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例1と同様にIPS型液晶表示素子を作製した。
【0110】
[実施例8]
合成例1で合成した濃度5重量%のポリアミック酸溶液(PA1)と合成例8で合成したポリアミック酸溶液(PA8)とを重量比9/1で混合した。得られた混合物を、NMP/BC=1/1(重量比)の混合溶剤で4重量%に希釈して液晶配向剤とした。得られた液晶配向剤を用いて、下記の通りTN型液晶表示素子を作製した。
【0111】
TN型液晶表示素子の作製
液晶配向剤を、2枚のITO電極付きガラス基板にスピンナーにて塗布し、膜厚70nmの膜を形成した。塗膜後80℃にて約5分間加熱乾燥した後、220℃にて30分間加熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
配向膜が形成された一方のガラス基板を、株式会社飯沼ゲージ製作所製のラビング処理装置を用いて、ラビング布(毛足長1.9mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.40mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、ラビング処理した。もう一方のガラス基板は、他方のラビング方向と直交するようにラビング方向を90°変えて同様にラビング処理した。該基板を、超純水中で5分間超音波洗浄後、エタノールにて表面を洗浄してから、オーブン中120℃で30分間乾燥した。一方のガラス基板に7μmのギャップ材を散布した。
配向膜を形成した面を内側にしてラビング方向が直交するように対向配置させた後、エポキシ硬化剤でシールし、ギャップ7μmの90°ツイストセルを作製した。該セルに、前記液晶組成物A100質量部に対して光学活性物質であるコレステリックノナノエート5質量部を加えて均質にした組成物を注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行い、TN型液晶表示素子を作製した。
【0112】
[実施例9〜14]
PA1の代わりにPA2〜PA7を用いたこと以外は、実施例8と同様に液晶配向剤を得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例8と同様にTN型液晶表示素子を作製した。
【0113】
[比較例3]
PA1の代わりにCPA1を用いたこと以外は、実施例8と同様に液晶配向剤を得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例8と同様にTN型液晶表示素子を作製した。
【0114】
[実施例15]
合成例1で合成した濃度5重量%のポリアミック酸溶液(PA1)と合成例9で合成したポリアミック酸溶液(PA9)とを重量比9/1で混合した。得られた混合液を、NMP/BC=1/1(重量比)の混合溶剤で、4重量%に希釈して液晶配向剤とした。該液晶配向剤を用いて、下記するようにVA型液晶表示素子を作製した。
【0115】
VA型液晶表示素子の作製方法
液晶配向剤を、2枚のITO電極付きガラス基板にスピンナーにて塗布し、膜厚70nmの膜を形成した。塗膜後80℃にて約5分間加熱乾燥した後、220℃にて30分間加熱処理を行い、液晶配向膜を形成した。
配向膜が形成されたガラス基板を、株式会社飯沼ゲージ製作所製のラビング処理装置を用いて、ラビング布(毛足長1.9mm:レーヨン)の毛足押し込み量0.20mm、ステージ移動速度を60mm/sec、ローラー回転速度を1000rpmの条件で、ラビング処理した。配向膜が形成されたガラス基板を超純水中で5分間超音波洗浄後、エタノ
ールにて表面を洗浄してからオーブン中120℃で30分間乾燥した。
一方のガラス基板に4μmのギャップ材を散布し、配向膜を形成した面を内側にしてラビング方向が逆平行になるように対向配置させた後、エポキシ硬化剤でシールし、ギャップ4μmのアンチパラレルセルを作製した。該セルに下記する液晶組成物Bを注入し、注入口を光硬化剤で封止した。次いで、110℃で30分間加熱処理を行い、VA型液晶表示素子を作製した。
【0116】
【化17】

【0117】
[実施例16〜21]
PA1の代わりにPA2〜7を用いたこと以外は、実施例15と同様に液晶配向剤を得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例15と同様にVA型液晶表示素子を作製した。
【0118】
[比較例4]
PA1の代わりにCPA2を用いたこと以外は、実施例15と同様に液晶配向剤を得た。さらに、得られた液晶配向剤を用いて、実施例15と同様にVA型液晶表示素子を作製した。
【0119】
<3.電気特性の評価>
[試験例1〜7および比較試験例1〜2]
実施例1〜7および比較例1〜2で作製したIPS型液晶表示素子について、電気特性の評価を行った。具体的には、1)電圧保持率、2)フリッカーフリー法による残留DC、3)VTヒステリシス法による残留DC、4)誘電吸収法による残留DCを測定した。各測定は以下のようにして行った。これらの測定結果を表4に示した。
【0120】
1)電圧保持率の測定
東陽テクニカ製液晶物性評価装置6254型を用いて電圧保持率の測定を行った。測定条件は、ゲ−ト幅60μs、周波数0.3Hz、波高±5Vであり、測定温度は60℃とした。この値が大きいほど電気特性は良好といえる。
【0121】
2)フリッカーフリー法による残留DCの測定
横河電機(株)製FG−110を用いて、30Hz、2V(液晶組成物A)または5.5V(液晶組成物B)の矩形波に、1V(IPS型液晶表示素子およびVA型液晶表示素子)または3V(TN型液晶表示素子)の直流電圧を重畳し、30分間印加した。印加終了直後から30分間フリッカー消去電圧を測定した。
表には、初期の値として印加終了直後のフリッカー消去電圧と10分後のフリッカー消去電圧を記載した。なお測定温度は25℃とした。この値が0(零)に近いほど電気特性が良好といえる。
【0122】
3)VTヒステリシス法による残留DCの測定
液晶表示素子の両面に、一方の偏光板の偏光軸がラビング方向に合致するように配置し、他方の偏光板をそれとは直交(クロスニコル)になるように配置し、大塚電子(株)製5100AGSを使用して1kHzの矩形波で0.1〜10Vの各電圧(V)での透過率(%T)を測定した。次に負荷電圧として6Vの矩形波に1Vの直流電圧をオフセットした波形の電圧を4時間印加し、その後、再度1kHzの矩形波で0.1〜10Vの各電圧(V)での透過率(%T)を測定した。なお測定温度は60℃とした。
該負荷電圧の印加前後での透過率の差(ΔT)を求めた。表4には、負荷電圧を印加する前の測定において透過率が10%であったときの電圧(V10)および30%であったときの電圧(V30)におけるΔTの値を記載した。ΔTが小さいほど電気特性が良好といえる。
【0123】
4)誘電吸収法による残留DCの測定
東陽テクニカ製液晶物性評価装置6254型を用いて誘電吸収法による残留DCの測定を行った。測定条件は、セルに直流5Vを1時間印加後1秒ショートして30分間電位差を観察した。表には最大の残留DCと最小の残留DCを記載した。なお測定温度は60℃である。この値が小さいほど電気特性が良好といえる。
【0124】
【表4】

【0125】
表4に示されたように、電圧保持率はいずれの場合も92%以上であった。
一方、残留DCはいずれの測定方法によっても、比較試験例1〜2の場合と比較して、本発明の液晶配向剤を用いた試験例1〜7では、残留DCが顕著に抑制されていることがわかる。
すなわち、試験例1〜7において、フリッカーフリー法では初期および30分後のいずれにおいても残留DCが低いことがわかる。VTヒステリシス法では2Vおよび3Vのいずれの場合も透過率差ΔTが小さく、残留電圧が抑制されていることがわかる。また、誘電吸引法では残留DCの最大値および最小値とも低いことがわかる。
【0126】
[試験例8〜14および比較試験例3]
実施例8〜14および比較例3で作製したTN型液晶表示素子について、電気特性の評価を行った。具体的には、1)電圧保持率、2)フリッカーフリー法による残留DC、3)誘電吸収法による残留DCを、試験例1と同様にして測定した。これらの測定結果を表5に示した。
【0127】
【表5】

【0128】
表5に示されたように、電圧保持率はいずれの場合も94%以上であった。一方、残留DCはいずれの測定方法によっても、比較試験例3の場合と比較して、本発明の液晶配向剤を用いた試験例8〜14では、残留DCが顕著に抑制されていることがわかる。
【0129】
[試験例15〜21および比較試験例4]
実施例15〜21および比較例4で作製したVA型液晶表示素子について、電気特性の評価を行った。具体的には、1)電圧保持率、2)フリッカーフリー法による残留DC、3)VTヒステリシス法による残留DCを測定した。
1)および2)の測定は試験例1と同様にして測定した。3)の測定では、負荷電圧を6Vの矩形波に1Vの直流電圧をオフセットした波形の電圧を4時間印加する代わりに、7Vの直流電圧を4時間印加すること以外は、試験例1と同様にして測定した。
これらの測定結果を表6に示した。
【0130】
【表6】

【0131】
表6に示されたように、電圧保持率はいずれの場合も94%以上であった。一方、残留DCはいずれの測定方法によっても、比較試験例4の場合と比較して、本発明の液晶配向剤を用いた試験例15〜21では、残留DCが顕著に抑制されていることがわかる。
【0132】
以上のように、本発明のポリアミック酸およびその誘導体を含む液晶配向剤は、種々の表示駆動方式の液晶表示素子の液晶配向膜の形成に使用されることができる。そして、いずれの表示駆動方式の液晶表示素子においても、電圧保持率が高く、かつ残留電荷が抑制されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)または(I')で表されるジアミンを含むジアミンと、ピロメリット酸二無水物およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる、ポリアミック酸またはその誘導体。
【化1】

(但し、nは1または2の整数を表す。)
【請求項2】
前記一般式(I)または(I')で表されるジアミンが、下記構造式(I−1)、(I−2)、(I'−1)および(I'−2)で表されるジアミンからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載のポリアミック酸またはその誘導体。
【化2】

【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミック酸またはその誘導体、ならびに溶剤を含有する液晶配向剤。
【請求項4】
1)対向配置されており、双方に電極が配置された一対の基板、または対向配置されており、一方に電極が配置された一対の基板、
2)前記一対の基板それぞれの対向している面に形成された液晶配向膜、および
3)前記一対の基板間に挟持された液晶層、を含む液晶表示素子であって、
前記液晶配向膜は、前記基板に請求項3に記載の液晶配向剤を塗布し、加熱することによって形成される液晶配向膜である液晶表示素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246726(P2011−246726A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185527(P2011−185527)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【分割の表示】特願2005−245822(P2005−245822)の分割
【原出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【出願人】(596032100)JNC石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】