説明

液晶類似構造を有するジアミン

【課題】焼き付き現象を抑え、その他の要求特性を満足する液晶配向膜材料として有用な新規なジアミン、該ジアミンを原料としたポリアミック酸もしくはポリイミド、該ポリアミック酸もしくはポリイミドの中から選ばれる少なくとも一つを含有する液晶配向剤、該液晶配向剤を用いた液晶配向膜を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるジアミン。


具体的には3−(3−(2,3−ジアミノフェノキシ)−1−プロピニル)−4−ブトキシ−4´−プロピルビフェニルが例示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換基に液晶類似構造を有するジアミン化合物、これを原料の一部として合成したポリアミック酸もしくはポリイミドに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は画面の拡大化やカラー化、コントラストや発色等の表示品位や応答速度向上の要求に伴い、ツイステッドネマチック(Twisted Nematic:TN)から、スーパーツイステッドネマチック(Super Twisted Nematic :STN)へ、さらに画素一つ一つに薄膜トランジスタ(Thin Filmed Transistor:TFT)を取り付けたTFT型表示素子へと発展してきている。近年ではTFT型表示素子の駆動方式の改良が進み、例えば視野角をさらに拡大するため、イン−プレ−ン−スイッチング(In Plain Switching:IPS)方式や垂直配向(Vertical Aliment、以下、VAと略す)方式が開発され、さらに動画対応可能な応答速度を持つ光学補償ベンド(Optically Compensated Bend:OCB)方式が開発されている。
【0003】
液晶配向膜は液晶表示素子において液晶分子を一定方向に配向させること、基板平面に対して傾けること(プレチルト角を付与する)の2つの役割を果たしている。基板平面に対する液晶分子の傾きはプレチルト角と呼ばれる。本明細書中でも以降この名称を使用する。液晶配向膜には、分子配向の経時的な、化学的な、および熱的な劣化を最小限に抑えるため、ガラス転移点(Tg)が高く耐薬品性や耐熱性に優れたポリイミド薄膜がその材料として主に使用されている。液晶配向膜は、通常ポリアミック酸又は可溶性ポリイミドの溶液(以下、液晶配向剤と略す)をスピナー法や印刷法等により電極付ガラス基板に塗布し、その基板を加熱してポリアミック酸を脱水、閉環するか、または可溶性ポリイミド溶液の溶媒を蒸発させることによってポリイミドの薄膜を得、さらにラビング等の配向処理工程を経て得られる。
【0004】
このようにして表面に液晶配向膜を成膜させた基板を、対向させて2枚貼り合わせ、組み立てたセルの内部を減圧にした後、液晶に浸すことで開口部から液晶をセル中に注入することで液晶表示素子は作成される。しかしながらこの方法では液晶の注入に時間がかかり、特に大画面の液晶表示素子を作成する際問題となっていた。そこで生産性を向上させるために、液晶を液晶配向膜の上に直接滴下した後セルを貼り合わせる「滴下注入」が最近行われ始めている。
【0005】
このような液晶配向膜には下記のような液晶表示素子にもたらす効果が要求される。
(1)液晶分子に適切なプレチルト角を付与すること。しかも該プレチルト角が、ラビング時の押込み強度や加熱時の温度の差による変化が小さいこと。
(2)液晶表示素子の配向の欠陥が発生しない配向処理が可能であること。
(3)液晶表示素子に適切な電圧保持率(Voltage Holding Ratio: V. H. R.(VHRとも表記する))を与えることができること。
(4)液晶表示素子に任意の画像を長時間表示させた後、別の画像に変えたときに前の画像が残像として残る「焼き付き」と呼ばれる現象が起きにくいこと。
特にTFT型表示素子に用いられる高品質な液晶配向膜は、高い電圧保持率を有し、しかも焼き付き現象を起こしにくいことが要求されている。
【0006】
上記「焼き付き」現象の原因のひとつとして、液晶と液晶配向膜との界面に発生する電気二重層が指摘されている。つまりこれら2つの材料の誘電率が異なるため、その界面に静電気が発生し、液晶表示素子に余分な電圧が生ずるというものである。この現象を抑え
るためには、液晶配向膜の表面に液晶類似の構造を持つ置換基を導入し、液晶と液晶配向膜との界面をなるべくなくせば良いと考えられる。
【0007】
このような置換基をもつ液晶配向膜用ジアミンとして、下記式(9)の化合物が公知となっている。
【0008】
【化1】

【0009】
【特許文献1】EP0679633号明細書
【0010】
しかしながら上記要求特性を満足する液晶配向膜設計を行うには、さらにさまざまな骨格を有するジアミンの開発が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、例えば、特に焼き付き現象を抑え、その他の要求特性を満足する液晶配向膜材料として有用な新規なジアミン、該ジアミンを原料としたポリアミック酸もしくはポリイミド、該ポリアミック酸もしくはポリイミドの中から選ばれる少なくとも一つを含有する液晶配向剤、該液晶配向剤を用いた液晶配向膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は液晶配向膜において、液晶分子の短軸を液晶配向膜に繋げることにより、特に小さいプレチルト角を与える液晶配向膜の焼き付き現象を抑えられるのではないかと考えた。この思想を基に鋭意研究開発を進めた結果、本発明の液晶骨格を側鎖に有するジアミンを原料とした液晶配向剤から形成された液晶配向膜は、焼き付きが改善された液晶表示素子を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は以下から構成される。
【0014】
<1>
一般式(1)で示されるジアミン。
【化2】

(式(1)において、R1は炭素数1〜12のアルキルを表し、Y1は単結合、メチレン、またはカルボニルを表し、Y2、Y3、およびY4はそれぞれ独立して単結合、−O−、−CH2CH2−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CH2O−または−OCH2−を表し、X1、X2およびX3はそれぞれ独立して単結合、1,4−シクロヘキシレン、また
はベンゼン環に結合している水素の1または2個がフッ素で置換されてもよい1,4−フェニレンを表し、X1、X2およびX3のうち全てが単結合であることはなく、R2は水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−F、−CN、−CO2H、−CO23、または−OHを表し、R3はメチルもしくはエチルを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンを表し、tは1もしくは2であり、DAは下記式(2)〜(7)で示される構造から選択される1価基または2価基の一種である。)
【0015】
【化3】

<2>
前記一般式(1)において、R1は炭素数1〜6のアルキルであり、Y1、Y2、Y3、Y4、X1、およびX3が単結合であり、X2が1,4−フェニレンであり、R2は水素、炭素数1〜6のアルキル、−CN、−CO2H、または−OHを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンである<1>に記載のジアミン。
<3>
前記一般式(1)において、R1は炭素数1〜6のアルキルであり、Y1、Y2、Y4、およびX1が単結合であり、Y3が単結合または−COO−または−OCO−であり、X2が1,4−フェニレンであり、X3が単結合または1,4−フェニレンであり、R2は水素、炭素数1〜6のアルキル、−CN、−CO2H、または−OHを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンである<1>に記載のジアミン。
<4>
前記DAが下記式(2)で示される構造である<1>〜<3>のいずれかに記載のジアミン。
【0016】
【化4】




<5>
前記一般式(1)において、R1は炭素数4のアルキルであり、Y1、Y2、Y4、および
1が単結合であり、Y3が単結合または−COO−または−OCO−であり、X2が1,4−フェニレンであり、X3が単結合または1,4−フェニレンであり、R2は炭素数1もしくは3のアルキル、または−CNを表し、Aは炭素数3または6のアルキレンである<1>〜<4>のいずれかに記載のジアミン。
<6>
酸成分としてのテトラカルボン酸二無水物とアミン成分としての<1>〜<5>のいずれかに記載のジアミンとを用い、これらを反応させて得られるポリアミック酸もしくはポリイミド。
<7>
前記テトラカルボン酸二無水物は、下記式(2−1)〜(2−38)で示される芳香族テトラカルボン酸二無水物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物若しくは脂環式テトラカルボン酸から選ばれる一種以上を含むことを特徴とする<6>に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
【0017】
【化5】


【0018】
【化6】


【0019】
【化7】

<8>
前記テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物及び/又はシクロブタンテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする<6>に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
<9>
前記アミン成分として、下記一般式(3−1)〜(3−52)で示されるジアミンから構成される群から選択される1種以上をさらに用いることを特徴とする<6>〜<8>のいずれか一項に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。

【0020】
【化8】

【0021】
【化9】


【0022】
【化10】

<10>
前記アミン成分として、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをさらに用いることを特徴とする<6>〜<8>のいずれか一項に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
<11>
<6>〜<10>のいずれかに記載のポリアミック酸もしくはポリイミドの一種以上を含有することを特徴とする液晶配向剤。
<12>
<11>に記載の液晶配向剤を用いた液晶配向膜。
<13>
<11>に記載の液晶配向剤を用い、プレチルト角が20度以下であることを特徴とする液晶配向膜。
【発明の効果】
【0023】
本発明の下記式(1)で示されるジアミンを原料として製造されるポリアミック酸もしくはポリイミドを含有する液晶配向剤を用いて作製された液晶配向膜を有する液晶表示素子は、特に小さなプレチルト角が必要なTNまたはIPSモードの液晶表示素子において、焼き付き現象を抑えることができる。また本発明のジアミンは、短い合成ルートで安価に製造することが出来るので、本発明により高機能な液晶表示素子をより安価に提供することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
第1に本発明の式(1)で示されるジアミンについて説明する。
【0025】
本発明の式(1)で示されるジアミンの液晶部位において、X1、X2およびX3はそれぞれ独立して単結合、1,4−シクロヘキシレン、ベンゼン環に結合している水素の1または2個がフッ素で置換されてもよい1,4−フェニレンを表し、X1、X2およびX3のうち全てが単結合であることはない。より小さなプレチルト角が望まれる場合、この液晶部位の環数は、2個であることが好ましく、より大きなプレチルト角が望まれる場合、この液晶部位の環数は、3個〜4個であることが好ましい。また合成上の容易さから、環の数は3以下がより好ましい。
【0026】
1は単結合、メチレン、またはカルボニルを表すが、X1が1,4−シクロヘキシレンまたは1,4−フェニレンの場合、メチレンまたはカルボニルであることが好ましい。Y2およびY3はそれぞれ独立して単結合、−O−、−CH2CH2−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CH2O−、または−OCH2−を表すが、液晶部位の環数が2の場合、単結合、−C≡C−、−COO−、または−OCO−が好ましい。また液晶部位の環数が3以上の場合、単結合以外の連結基は1個以下が好ましい。
【0027】
2は水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−F、−CN、−CO2H、−CO23、または−OHを表し、R3はメチルもしくはエチルを表す。より小さなプレチルト角が望まれる場合、上記R2はアルコキシ、−CN、−CO2H、または−OHであることが好ましく、−CNであることがより好ましい。またより高い電圧保持率が望まれる場合、上記R2はアルキルまたは−Fであることが好ましい。
【0028】
Aは炭素数1〜12のアルキレンを表すが、合成の容易さから炭素数3〜10が好ましく、炭素数3〜6がより好ましい。
【0029】
本発明の式(1)で表されるジアミンの液晶骨格以外の部分は、公知のジニトロフェノール誘導体やジニトロカルボン酸誘導体から任意に選ばれる原料を用いて構築できる。そのような原料を用いて構築できるジアミン骨格の中でも、式(2)から式(7)で表されるものが、合成が容易なことから好適である。残留電荷を早く緩和し、焼きつきを解消したい場合、これらの骨格の中でも式(2)または式(7)を選択するのがより好適である。また高いVHRが望まれる場合、これらの骨格の中でも式(3)〜式(6)のいずれかを選択するのがより好適である。
【0030】
式(1)で示されるジアミンの置換基の構造の例として以下の式(1−1)〜式(1−118)で表される構造が挙げられる。
【0031】
【化11】

【0032】
【化12】

【0033】
【化13】

【0034】
【化14】

【0035】
【化15】

【0036】
【化16】

【0037】
【化17】

【0038】
【化18】


【0039】
【化19】


(式中Alkは炭素数1から12のアルキル基を表す。)
【0040】
本発明の式(1)で示されるジアミンの液晶部位は例えば以下のような方法で容易に合成できる。
【0041】
【化20】


(式中、R1、R2、X1、X2、X3、Y1、Y2、Y3、Y4およびAは上記と同じ意味を表し、halはCl、Br、またはIを表し、A2は炭素数1〜10のアルキレンを表す。)
【0042】
すなわち式(1−a)で表される公知の化合物を、常法に従い、塩素、臭素、またはヨウ素と反応させることにより(1−b)で表される化合物が容易に得られる。この化合物をTetrahedron Lett.,50,4467(1975)に記載の方法に従って(1−c)で表されるアセチレン誘導体と反応させることによって、(1−d)で表される化合物が合成できる。この化合物をパラジウム活性炭等の触媒を用いて水素添加反応を行えば、(1−e)で表される化合物が得られる。この化合物をそのまま、または常法によりOH基をハロゲン化合物やトシラートに変換し、ジニトロ誘導体と反応させる。生成したジニトロ化合物を水素添加反応させることによって、目的とするジアミンが得られる。式(1−a)で表される公知の化合物は特開昭53−119843号公報、特開昭60−051147号公報、特開昭57−064631号公報、特開昭52−013484号公報、DE2522795号明細書、WO9706124号パンフレット、US3925238号明細書、またはEP175591号明細書等に記載の方法に従って合成できる。この合成の詳細は実施例に記載する。ここにおいて、本発明の化合物の製造法は上記に限定されるものではない。
【0043】
本発明の上記(1−1)から(1−118)の化合物を用いた液晶配向膜は、いずれも焼き付きを抑える事ができる。このとき(1−1)〜(1−56)、(1−89)〜(1−92)、(1−96)〜(1−103)、および(1−112)〜(1−114)の2環の液晶骨格を持つ化合物を成分の一つとして使用した液晶配向膜を用いれば、液晶のプレチルト角を小さくすることができる。従ってIPSおよびTNモード用の液晶配向膜として特に好適である。特に(1−15)〜(1−20)、(1−23)〜(1−26)、(1−39)〜(1−42)、(1−54)〜(1−56)、(1−91)、(1−101)〜(1−103)、(1−114)は極性基を持つため、液晶のプレチルト角を低くでき、IPSモード用液晶配向膜として最適である。また、(1−1)〜(1−6)、(1−9)〜(1−14)、(1−43)〜(1−44)、(1−89)、(1−90)、
(1−96)〜(1−98)、および(1−100)は高いVHRを持つので、アクティブマトリックス用TNモード用液晶配向膜として最適である。
【0044】
(1−57)〜(1−88)、(1−93)〜(1−95)、(1−104)〜(1−111)、および(1−116)〜(1−118)の3環の液晶骨格を持つ化合物を成分の一つとして使用した液晶配向膜を用いれば、液晶のプレチルト角を大きくすることができる。従ってTN、OCB、またはVA用の液晶配向膜として特に好適である。特に(1−57)〜(1−59)、(1−61)、(1−62)、(1−81)、(1−82)、(1−84)、(1−104)、(1−105)は高いVHRを持つので、アクティブマトリックス用の液晶配向膜として最適である。
【0045】
第2に、本発明のポリアミック酸もしくはポリイミドについて説明する。
ポリアミック酸は、式(1)で表される液晶骨格を有するジアミン(以下ジアミン(1))と酸二無水物、例えばテトラカルボン酸二無水物とを反応させて得られる。ポリイミドはこのポリアミック酸の脱水反応等によって得られる。上記のテトラカルボン酸二無水物としては公知の全てのテトラカルボン酸二無水物が使用できるが、特に好適な例として、表1に記載する化合物が挙げられる。
【0046】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【0047】
これらの化合物の中には異性体を含むものがあるが、これらの異性体の混合物であってもかまわない。また、上記表の酸二無水物を組み合わせて使用してもよい。また本発明に使用するテトラカルボン酸二無水物は上記化合物以外でもよい。
【0048】
これら好適例の酸二無水物とジアミンとから構成されるポリアミック酸もしくはポリイミドを含有する液晶配向剤を用いた液晶配向膜は、いずれも高いVHRを発現し、焼き付き現象を防ぐとともに高い液晶配向能力を有する。従って、しきい値電圧が低い液晶組成物を含有し、低電圧で駆動するTFT型表示素子用の液晶配向膜として特に優れている。
【0049】
液晶表示素子に高いVHRを特に付与したい場合、No.2−2、2−12、2−13、2−14、2−15、2−16、2−17、2−18、2−20、2−21、2−22、2−23、2−24、2−28、2−29、2−30、2−31、2−32、2−35、2−36、2−38等の脂環骨格を有する化合物を1種類以上選択することにより、これが達成できる。また特に焼き付き現象を防ぎたい場合、No.2−1、2−3、2−4
、2−5、2−6、2−7、2−8、2−9、2−10、2−11、2−19等の化合物とその他の化合物を適宜組み合わせることにより、これが達成できる。
【0050】
本発明においては、式(1)で示されるジアミン(以下、ジアミン(1)ともいう)を単独で使用してもよいが、ジアミン(1)の2つ以上を組み合わせて使用してもよいし、ジアミン(1)と他の公知のジアミンとを組み合わせて使用してもよい。
【0051】
本発明のジアミンと併用することのできるジアミンとしては公知の全てのジアミンが使用できるが、特に好適な例として、表2に記載するジアミンが挙げられる。
【0052】
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【0053】
本発明のフェニレンジアミンと併用することのできる上記ジアミン以外のジアミンとして、式(8)で表されるシロキサン系のジアミンを挙げることができる。
【化21】


式(8)において、R10およびR11は炭素数1〜3のアルキルまたはフェニルであり、
10とR11は同じ基であっても異なる基であってもよい。また、R12はそれぞれ独立してメチレン、フェニレンまたはアルキル置換されたフェニレンである。mは1〜6の整数を表し、nは1〜10の整数を表す。
【0054】
第3に本発明の液晶配向剤について説明する。本発明の液晶配向剤は、ポリマーとして本発明のポリアミック酸もしくはポリイミドから選ばれた1つ以上を含有するポリマー溶液である。本発明の液晶配向剤の具体的な例は、本発明のジアミンと酸二無水物とを反応させることによって得られる本発明のポリアミック酸の溶液、該ポリアミック酸の溶液から溶媒を除去して得られるポリアミック酸のポリマーを、別の溶媒に溶解させて得られるポリアミック酸の溶液およびそれらの混合物などである。
液晶配向剤の作製に用いられるポリアミック酸もしくはポリイミドの合成において、ジアミン成分中の前記一般式(1)で示されるジアミンのモル比は液晶表示素子に用いたときの電圧保持率および残留DC低減の観点から、IPSモードでは5〜100%であることが好ましく、20〜100%であることがより好ましい。TN、OCB、およびVAモードでは1〜70%であることが好ましく、1〜50%であることがより好ましい。
【0055】
液晶配向膜に所望の特性を付与するために、本発明の液晶配向剤として、本発明のポリマー(ポリアミック酸もしくはポリイミド)の2種類以上を任意に混ぜて用いてもよい。(このような複数のポリマーをブレンドすることを「ポリマーブレンド」と呼ぶ。)
【0056】
液晶配向膜としてのより良い特性を発現させるため、本発明の液晶配向剤に、さらに公知の全てのポリマーから選ばれる一種類以上をポリマーブレンドしてもよい。このとき全ポリマー中に占める本発明のポリマー(ポリアミック酸もしくはポリイミド)の割合は、本発明の効果を発現させるため、20〜100重量%の範囲が好ましく、30〜100重量%の範囲がより好ましい。
【0057】
本発明の液晶配向剤に含まれるポリマーの割合は特に限定されるものではなく、下記の種々の塗布法に合わせ、最適な値を選べばよい。通常、塗布時のムラやピンホール等を抑えるため、液晶配向剤の重量に対し、好ましくは0.1〜30重量%、より好ましくは1〜10重量%である。
【0058】
本発明の液晶配向剤に有機シリコーン化合物を添加すれば、液晶配向膜のガラス基板への密着性や硬さの調節が可能となり、ラビング等によりポリイミドが削れることに起因する表示不良を改善することが出来る。本発明の液晶配向剤に添加する有機シリコーン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤、ジメチルポリシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリジフェニルシロキサンなどのシリコーンオイルである。
【0059】
該有機シリコーン化合物の液晶配向剤への添加割合は、上記の液晶配向膜に要求される特性を損なうことなく、表示不良を改善することが出来る範囲であれば特に制限はない。しかしながら、これらを多く添加すると、液晶配向膜としたとき液晶の配向不良が生ずる。したがって、これらの濃度は液晶配向剤に含有されるポリマーの重量に対し、0.01〜5重量%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは0.1〜3重量%の範囲である。
【0060】
ポリアミック酸のカルボン酸残基と反応してポリアミック酸同士を繋ぐ、いわゆる架橋剤を本発明の液晶配向剤に添加することも、特性の経時劣化や環境による劣化を防ぐために重要である。このような架橋剤としては、特許3049699号公報、特開2005−275360号公報、特開平10−212484号公報等に記載されているような多官能エポキシ、イソシアネート材料等が挙げられる。また架橋剤自身が反応して網目構造のポリマーとなり、ポリアミック酸もしくはポリイミドを用いて作製した液晶配向剤を用いる液晶配向膜強度を向上るような材料も上記と同様な目的に使用することが出来る。このような架橋剤としては、特開平10−310608号公報、特開2004―341030号公報等に記載されているような多官能ビニルエーテル、マレイミド、またはビスアリルナジイミド誘導体等が挙げられる。なお本発明に用いられる架橋剤はこれら以外でもよい。
【0061】
本発明のポリマー(ポリアミック酸もしくはポリイミド)に対するこれらの架橋剤の割合は、本発明の効果を発現させるため、5〜200重量%の範囲が好ましく、10〜100重量%の範囲がより好ましい。
【0062】
本発明の液晶配向剤に用いる溶媒は特に限定されるものではないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコールモノブチルエーテル(BC)、エチレングリコールモノエチルエーテル、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。本発明においては、上記溶媒から選ばれた2種以上を混合して用いてもよい。また、本発明のポリマーが可溶であれば上記以外の溶媒を用いてもよい。
【0063】
本発明の液晶配向剤の粘度は、塗布する方法、ポリマーの濃度、使用するポリマーの種類、溶剤の種類と割合によって多種多様である。例えば、印刷機による塗布の場合は5〜100mPa・s(より好ましくは10〜70mPa・s)である。この範囲では十分な膜厚が得られ、また印刷ムラもない。インクジェット印刷による塗布の場合は1〜30mPa・s(より好ましくは5〜20mPa・s)である。
【0064】
第4に、本発明の液晶配向膜について説明する。本発明の液晶配向膜は本発明の液晶配向剤を用いて得られる液晶配向膜である。本発明の液晶配向膜は、本発明の液晶配向剤の中から選ばれた1種を用いて得られたものであってもよく、既述のように2種以上を混合して用いて得られたものであってもよい。
【0065】
このように液晶配向膜に要求される特性をさらに効果的に発現させる目的で、ポリマーブレンドがしばしば行われる。このとき薄膜化したときの表面エネルギーの値が異なる複数のポリマーでこれを行った場合、表面張力の低い成分は自発的に膜表面に偏析しやすい。このようなポリマーブレンドを行うことによって、液晶配向膜の表面に良好な液晶配向性を示す層を、バルクに良好な電気的特性を発現する層を形成し、これら両方の特性に優れた液晶配向膜を得る方法が、特開平8−43831号公報に開示されている。
【0066】
本発明の液晶配向剤においてもポリマーブレンドを行うことが出来る。このとき、例えばジアミン(1)をジアミン原料としたポリアミック酸もしくはポリイミドのポリマーを表面張力の低い成分とし、より大きな表面張力を発現するポリマーを、上記の公知の酸無水物およびジアミンから調製することが好ましい。このとき大きな表面張力を発現するポリマーのジアミン成分の一つとして、ジアミン(1)を使用してもよい。
【0067】
上記の表面張力のより小さいポリマー(以下、ポリマー1とする)と表面張力の大きいポリマーとの混合比は、それぞれ1重量%〜99重量%の間で任意に選択できる。しかしながら、良好な液晶配向特性およびプレチルト角を保持したまま良好な電気的特性を発現させるためには、全ポリマー重量に対し、1〜30重量%の間でポリマー1を添加するの
が好ましく、5〜15重量%の間で添加するのがより好ましい。
【0068】
本発明の液晶配向膜の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、下記工程を有する製造方法が例示できる。
(1)本発明の液晶配向剤を刷毛塗り法、浸漬法、スピンナー法、スプレー法、印刷法等により基板上に塗布する。(2)50〜150℃、好ましくは80〜120℃で溶媒を蒸発させる。
(3)150〜400℃、好ましくは180〜280℃で加熱し成膜する。
(4)膜表面を布などでラビング処理する。
さらに、液晶配向剤の塗布前に基板表面上をシランカップリング剤で処理しその上に成膜すれば、膜と基板との接着性が改善される。
【0069】
上記の構成による本発明の液晶配向剤は、液晶配向膜、保護膜、絶縁膜等として使用できるが、特に液晶表示素子用の液晶配向剤として最適である。この液晶配向剤の特性は、ポリアミドイミド、ポリアミド等の他の高分子化合物を混合することにより、更に向上する。
【0070】
本発明のジアミン化合物は液晶配向膜用のポリアミック酸もしくはポリイミドのポリマー以外にも、各種ポリイミドコーティング剤、あるいはポリイミド樹脂成型品、フィルム、または繊維などに利用することが出来る。さらにはポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリウレア樹脂の原料、あるいはエポキシ樹脂の硬化剤などとして用いることも出来る。
【実施例】
【0071】
以下実施例により、本発明の化合物およびこの化合物を用いることによって得られる製品、すなわちポリイミドのポリマーを用いた液晶配向膜を応用例として示す。実施例中、NMRはすべて重クロロホルム中で測定した(500MHz)。分子量の測定はGPCを用い、ポリスチレンを標準溶液とし、溶出液はDMFを用いた。粘度は、回転粘度計(東機産業株式会社製、TV−20)を用い測定した。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
<液晶表示素子の評価法>
以下に実施例で用いた液晶表示素子の評価法を記載する。
1.プレチルト角
クリスタルローテーション法により行った。具体的には、中央精機製液晶特性評価装置OMS−CA3型を用いて測定を行なった。具体的な操作手順は、中央精機社発行の該測定装置のマニュアルに記載されている。
2.焼き付き(残留電荷)
「三宅他、信学技報、EID91−111,p19」に記載の方法により、液晶セルに50mV、1kHzの交流および周波数0.0036Hzの直流の三角波を重畳させて残留DC電圧を測定した。この残留電荷を焼き付きの指標にした。つまり残留電荷が多いほど焼き付きやすいとした。
3.電圧保持率
「水嶋他、第14回液晶討論会予稿集 p78」に記載の方法により行った。測定条件は、ゲート幅69μs、周波数30Hz、波高±4.5Vであった。この値が大きいほど電気特性は良好といえる。
4.配向性
偏光顕微鏡観察による目視により行った。
5.液晶中のイオン量測定(イオン密度)
応用物理、第65巻、第10号、1065(1996)に記載の方法に従い、東陽テ
クニカ社製、液晶物性測定システム6254型を用いて測定した。周波数0.01Hzの三角波を用い、±10Vの電圧範囲で測定した。
6.IRスペクトル
基板上に形成した配向膜を削り取り、KBrで錠剤を作成し試料とした。測定はJASCO FT/IR-7300(日本分光)を用い積算回数50回で行った。
【0073】
実施例1
化合物(21)の合成
【化22】

【0074】
Liquid Crystals and Ordered Fluids,4,781(1984)と同様にして合成した4−ブトキシ−4’−プロピルビフェニル10g(37mmol)の塩化メチレン(100ml)溶液に、10℃以下で臭素5.9g(37mmol)を加えた。室温で2時間反応後、純水(100ml)に反応混合物を加えた。有機層を分離した後、有機層をさらに10重量%炭酸水素ナトリウム水溶液(100ml)、10重量%チオ硫酸ナトリウム水溶液(100ml)、および純水(100ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、溶媒を減圧留去し、目的とする3−ブロモ−4−ブトキシ−4’−プロピルビフェニルを得た。この化合物は精製をせずにそのまま次の反応に用いた。収量12.7g(収率98%)。
【0075】
上記の化合物12g(34mmol)、プロパルギルアルコール2.9g(52mmol)、PdCl2(PPh32120mg(0.17mmol)、およびCuI32mg(0.17mmol)の混合物をトリエチルアミン(80ml)中、4時間還流させた。冷却後、溶媒を減圧留去した後、トルエン(100ml)−純水(100ml)で抽出した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、溶媒を減圧留去した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/トルエン:酢酸エチル=10:1、v/v)で精製することにより、目的とする3−(3−ヒドロキシ−1−プロピニル)−4−ブトキシ−4’−プロピルビフェニルを得た。収量8.4g(収率76%)。
【0076】
上記の化合物8.0g(25mmol)およびトリフェニルフォスフィン7.9g(30mmol)の塩化メチレン溶液(50ml)中に20℃以下を保ちながら、四臭化炭素9.9g(30mmol)の塩化メチレン(20ml)溶液を加えた。室温で1時間撹拌後、溶媒を減圧留去した。残さにヘプタン(100ml)を加え、目的物を抽出した。ヘプタンを減圧留去した後、残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/ヘプタン:トルエン=1:1、v/v)で精製することにより、目的とする3−(3−ブロモ−1−プロピニル)−4−ブトキシ−4’−プロピルビフェニルを得た。収量7.9g(収率82%)。
【0077】
この化合物7.5g(19.4mmol)、2,4−ジニトロフェノール7.1g(60%、23mmol)、およびK2CO33.2g(23mmol)の混合物をDMF(5
0ml)中、80℃で7時間反応させた。冷却後、反応混合物を純水(80ml)に加え、トルエン(80ml)で抽出した。有機層を純水(50ml)で2回洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過および溶媒を減圧留去後、残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/トルエン)で精製することにより、目的とするジニトロ体を得た。収量6.7g(収率71%)。
【0078】
このジニトロ体6.5g(13mmol)をトルエン:エタノール(2:1、v/v)溶媒中、Pd/Cを触媒として水素添加反応した。残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/塩化メチレン:メタノール=20:1、v/v)で精製することにより、目的とする化合物(21)を得た。収量3.7g(収率64%)。
1H NMR(δppm);7.15−7.34(m,6H)、6.87(d,1H,J=8.50Hz)、6.61(d,1H,J=8.50Hz)、6.13(d,1H,J=2.80Hz)、6.05(dd,1H,J=8.40,2.66Hz)、4.01(t,2H,J=6.50Hz)、3.85(t,2H,J=6.50Hz)、3.81,3.35(brs,4H)、2.75(t,2H,J=6.90Hz)、2.69(t,2H,J=7.00Hz)、0.92−1.81(m,14H)
【0079】
実施例2
化合物(22)の合成
【化23】

【0080】
4−ブトキシ−4’−プロピルビフェニルの代わりに市販の4−ブトキシ−4’−シアノビフェニルをプロパルギルアルコールの代わりに5−ヘキシン−1−オールを用いる以外は実施例1と同様な方法で合成した。トータル収率20%。
1H NMR(δppm);7.66(d,2H,J=6.32Hz)、7.64(d,2H,J=6.43Hz)、7.39(dd、1H、J=8.50,2.01Hz)、7.36(d,1H,J=2.52Hz)、6.91(d,1H,J=8.51Hz)、6.60(d,1H,J=8.53Hz)、6.13(d,1H,J=2.80Hz)、6.04(dd,1H,J=8.40,2.65Hz)、4.01(t,2H,J=6.40Hz)、3.89(t,2H,J=6.50Hz)、3.72,3.33(brs,4H)、2.68(t,2H,J=7.60Hz)、1.43−1.81(m,14H)、1.00(t,3H,J=7.50Hz)
【0081】
実施例3
化合物(23)の合成
【化24】


実施例2で合成した下記式(23−1)で表される化合物10g(19mmol)を酢酸/濃塩酸1:1(v/v)溶液(100ml)中、12時間還流した。冷却後、反応液を純水(1L)に加え、析出した沈殿をろ過した。この沈殿を真空乾燥し、(23−2)を得た。この化合物10g(19mmol)、ジシクロヘキサカルボジイミド4.3g(21mmol)、および4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン100mg(0.8mmol)のDMF溶液(30ml)中、p−クレゾール2.4g(22mmol)のDMF溶液(10ml)を加えた。室温で1番撹拌した後、生じた沈殿をろ過した。ろ液を減圧留去した後、残さをカラムクロマトグラフィー(シリカゲル/トルエン:酢酸エチル=10:1、v/v)で精製することにより、(23−3)で表される化合物が得られた。5.0g、収率42%。
【0082】
この化合物を実施例1と同様に水素添加反応し、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル/塩化メチレン:メタノール=20:1、v/v)で精製することにより、目的とする化合物(23)を得た。収量2.8g(収率61%)。
1H NMR(δppm);8.17(dd,2H,J=8.50,2.00Hz)、7.70(dd,2H,J=8.49,2.02Hz)、7.30−7.39(m,2H)、7.14(dd,2H,J=8.40,2.05Hz)、7.02(dd,2H,J=8.50Hz),6.91(d,1H,J=8.49Hz)、6.60(d,1H,J=8.53Hz)、6.11(d,1H,J=2.80Hz)、6.02(dd,1H,J=8.40,2.65Hz)、4.00(t,2H,J=6.50Hz)、3.90(t,2H,J=6.50Hz)、3.70,3.30(brs,4H)、2.65(t,2H,J=7.58Hz)、2.37(s,3H)、1.41−1.81(m,12H)、0.98(t,3H,J=7.48Hz)
【化25】


【0083】
実施例4(ポリアミック酸の合成)
100mlの3つ口フラスコに、実施例1で合成した化合物(21)2.1408g(4.668mmol)および4,4’−ジアミノジフェニルメタン0.9255g(4.668mmol)を入れ、NMP22.5gに溶解した。ここにピロメリット酸二無水物1.0182g(PMDA、4.668mmol)およびシクロブタンテトラカルボン酸二無水物0.9154g(CBDA、4.668mmol)を加え、1時間攪拌した。その後この溶液をBC22.5gで希釈することにより、ポリアミック酸が約5重量%の透明溶液が得られた。この溶液の重量平均分子量は4.2万であり、25℃での粘度は10kPa・sであった。以下この溶液をポリマー溶液Aとする。
【0084】
以下同様にして、表3に示すポリマー溶液(B,C,D)を調製した。
【表3】

【0085】
実施例7
片面にITO電極を設けた透明ガラス基板上に、ポリマー溶液Aを滴下し、スピンナー法により塗布した(2200rpm、15秒)。塗布後80℃で5分間溶媒を蒸発させた後、オーブン中、210℃で30分間加熱処理を行い、膜厚約70nmの樹脂膜を得た。(この液晶配向膜AのIRスペクトルを図1に示す。)この樹脂膜形成したガラス基板をラビング(毛先押しこみ量;0.4mm、ローラー回転数;1000rpm、ローラー送り速度;60mm/sec、回数;1回)した後、ラビング方向が逆平行となるように2枚を合わせ、セル厚7μmの液晶セルを組み立てた。このセルに下記の化合物からなる液晶組成物Aを注入し、110℃で30分間アイソトロピック処理を行い、室温まで冷却し液晶表示素子を得た。この液晶表示素子の残留DCは270mVであり、イオン密度は63pCであり(各60℃)、20、60、および90℃におけるVHRはそれぞれ99.0、98.3、96.2%であった。またこの液晶表示素子を用いてプレチルト角を測定した結果、3.0度であった。さらに偏光顕微鏡観察の結果、配向不良による光りぬけは全く観察されなかった(これらの値を初期値とする)。このセルを100℃で20時間静置し、室温まで冷却した後、これらの値を再測定した(この値を高温後値とする)。その結果残留DCは296mVであり、イオン密度は78pCであり(60℃)であり、VHRは99.0(20)、98.1(60)、96.1%(90℃)、プレチルト角は2.7度であった。さらに偏光顕微鏡観察の結果、配向不良による光りぬけは全く観察されなかった。なお、本願でいう「光りぬけ」とは、クロスニコルにした偏光顕微鏡を観察する際、表示素子を回転させ暗視野にしたとき、黒が実用レベルより明るくなる状態を示す。
【0086】
【化26】

【0087】
実施例8および9
ポリマー溶液Aを以下に示すポリマー溶液に変えた以外は実施例7と同様にして液晶表示素子を製作した。該液晶表示素子の作製に用いた液晶配向膜BおよびCのIRスペクトルをそれぞれ図2および図3に示す。これらの液晶表示素子の物性測定結果を表4に示す。
【0088】
【表4】



【0089】
実施例10
ポリマー溶液Aをポリマー溶液Aとポリマー溶液Dの混合物(混合比1:9、v/v)に代え、さらにこのポリマー溶液混合物をNMP/BC=1/1(v/v)の混合溶媒で3重量%に希釈した。このポリマー溶液を用い、実施例1と同様な方法で液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子の物性測定結果を以下に示す。
【0090】
初期値
残留DC;232mV
イオン密度;35
VHR;99.4(20)、98.9(60)、97.3%(90℃)
プレチルト角;4.5度
光りぬけなし。
高温後値
残留DC;244mV
イオン密度;40
VHR;99.1(20)、98.6(60)、97.3%(90℃)
プレチルト角;4.5度
光りぬけなし。
【0091】
実施例11
ポリマー溶液Aをポリマー溶液Cに代えた以外は、実施例10と同様な方法で液晶表示素子を作製した。この液晶表示素子の物性測定結果を以下に示す。
【0092】
初期値
残留DC;268mV
イオン密度;58
VHR;99.1(20)、98.3(60)、97.0%(90℃)
プレチルト角;5.3度
光りぬけなし。
高温後値
残留DC;274mV
イオン密度;64
VHR;99.1(20)、98.0(60)、96.7%(90℃)
プレチルト角;5.3度
光りぬけなし。
【0093】
比較例
ポリマー溶液Aの代わりに以下の組成のポリマー溶液Eを用いた以外は、実施例7と同様な方法で液晶表示素子を製作し、その電気特性を測定した。ここにおいて原料として使用したジアミン(31)はEP0679633号明細書記載の方法に従い合成した。その結果を以下に示す。
【0094】
【化27】

【0095】
【表5】

【0096】
初期値
残留DC;444mV
イオン密度;155
VHR;93.2(20)、91.4(60)、87.3%(90℃)
プレチルト角;1.7度
光りぬけなし。
高温後値
残留DC;420mV
イオン密度;169
VHR;92.8(20)、90.9(60)、86.5%(90℃)
プレチルト角;1.8度
光りぬけなし。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の液晶配向膜AのIRスペクトルを示す図である。
【図2】本発明の液晶配向膜BのIRスペクトルを示す図である。
【図3】本発明の液晶配向膜CのIRスペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるジアミン。
【化1】

(式(1)において、R1は炭素数1〜12のアルキルを表し、Y1は単結合、メチレン、またはカルボニルを表し、Y2、Y3、およびY4はそれぞれ独立して単結合、−O−、−CH2CH2−、−C≡C−、−COO−、−OCO−、−CH2O−または−OCH2−を表し、X1、X2およびX3はそれぞれ独立して単結合、1,4−シクロヘキシレン、またはベンゼン環に結合している水素の1または2個がフッ素で置換されてもよい1,4−フェニレンを表し、X1、X2およびX3のうち全てが単結合であることはなく、R2は水素、炭素数1〜20のアルキル、炭素数1〜20のアルコキシ、−F、−CN、−CO2H、−CO23、または−OHを表し、R3はメチルもしくはエチルを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンを表し、tは1もしくは2であり、DAは下記式(2)〜(7)で示される構造から選択される1価基または2価基の一種である。)
【化2】

【請求項2】
前記一般式(1)において、R1は炭素数1〜6のアルキルであり、Y1、Y2、Y3、Y4、X1、およびX3が単結合であり、X2が1,4−フェニレンであり、R2は水素、炭素数1〜6のアルキル、−CN、−CO2H、または−OHを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンである請求項1に記載のジアミン。
【請求項3】
前記一般式(1)において、R1は炭素数1〜6のアルキルであり、Y1、Y2、Y4、およびX1が単結合であり、Y3が単結合、−COO−または−OCO−であり、X2が1,4−フェニレンであり、X3が単結合または1,4−フェニレンであり、R2は水素、炭素数1〜6のアルキル、−CN、−CO2H、または−OHを表し、Aは炭素数1〜12のアルキレンである請求項1に記載のジアミン。
【請求項4】
前記DAが下記式(2)で示される構造である請求項1〜3のいずれか一項に記載のジ
アミン。
【化3】

【請求項5】
前記一般式(1)において、R1は炭素数4のアルキルであり、Y1、Y2、Y4、およびX1が単結合であり、Y3が単結合、−COO−または−OCO−であり、X2が1,4−フェニレンであり、X3が単結合または1,4−フェニレンであり、R2は炭素数1もしくは3のアルキル、または−CNを表し、Aは炭素数3または6のアルキレンである請求項1〜4のいずれか一項に記載のジアミン。
【請求項6】
酸成分としてのテトラカルボン酸二無水物とアミン成分としての請求項1〜5のいずれか1項に記載のジアミンとを用い、これらを反応させて得られるポリアミック酸もしくはポリイミド。
【請求項7】
前記テトラカルボン酸二無水物は、下記式(2−1)〜(2−38)で示される芳香族テトラカルボン酸二無水物及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物若しくは脂環式テトラカルボン酸から選ばれる一種以上を含むことを特徴とする請求項6に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
【化4】

【化5】

【化6】

【請求項8】
前記テトラカルボン酸二無水物が、ピロメリット酸二無水物及び/又はシクロブタンテトラカルボン酸二無水物であることを特徴とする請求項6に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
【請求項9】
前記アミン成分として、下記一般式(3−1)〜(3−52)で示されるジアミンから構成される群から選択される1種以上をさらに用いることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
【化7】

【化8】

【化9】

【請求項10】
前記アミン成分として、4,4’−ジアミノジフェニルメタンをさらに用いることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載のポリアミック酸もしくはポリイミド。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載のポリアミック酸もしくはポリイミドの一種以上を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【請求項12】
請求項11に記載の液晶配向剤を用いた液晶配向膜。
【請求項13】
請求項11に記載の液晶配向剤を用い、プレチルト角が20度以下であることを特徴とする液晶配向膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−143877(P2008−143877A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336076(P2006−336076)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(596032100)チッソ石油化学株式会社 (309)
【Fターム(参考)】