説明

液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法および液滴吐出装置

【課題】振動板における振動特性と有機溶剤に対する耐性とを高度に両立する液滴吐出ヘッド、かかる液滴吐出ヘッドを効率よく製造可能な液滴吐出ヘッドの製造方法、および前記液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】インクジェット式記録ヘッド1は、基板20と、ノズルプレート10と、振動フィルム30および支持板40で構成される振動板と、圧電素子50とを有し、基板20とノズルプレート10との間、基板20と振動フィルム30との間、および振動フィルム30と支持板40との間が、振動フィルム30の両面を覆うポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層15、25、35を介して接着されている。このポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にポリエチレンを含み、さらに不飽和カルボン酸またはその誘導体を含むものであるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法および液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、インクジェットプリンターのような液滴吐出装置には、液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドが備えられている。このような液滴吐出ヘッドとしては、例えば、インクを液滴として吐出するノズルに連通し、インクを収容するインク室(キャビティー)と、このインク室の壁面を変形させる駆動用の圧電素子とを備えるものが知られている。
このような液滴吐出ヘッドにあっては、駆動用の圧電素子を伸縮させることにより、インク室の一部(振動板)を変位させる。これにより、インク室の容積を変化させて、ノズルからインク液滴が吐出される。
【0003】
ところで、この液滴吐出ヘッドは、ノズルが形成されたノズルプレートと、インク室が形成された基板と、インク室の容積を変化させる振動板と、歪みにより振動板を振動させる圧電素子とを有しており、これらを接合することによって組み立てられている。
また、振動板は、圧電素子の歪みにより振動する振動フィルムと、圧電素子の歪みを振動フィルムに伝播する支持板とを有しており、これら同士を互いに接合することによって組み立てられている(例えば、特許文献1等参照。)。
このような各種部材の組み立て(接着)に、ビスフェノール系、ノボラック系のようなエポキシ系接着剤や、ウレタン系接着剤等の各種接着剤が用いられる。
【0004】
ここで、例えば、インク室と振動板との接合や、インク室とノズルプレートとの接合では、接着剤がインク室に貯留されるインクと長時間接することとなるため、インクに含まれる溶剤に対する耐性(耐溶剤性)を有していることが求められる。したがって、ウレタン系接着剤は、一般的に耐溶剤性が低く、溶剤の接触により容易に膨潤する性質を有するものであるため、このような部材同士の接合には適しない。
【0005】
また、例えば、振動フィルムと支持板との接合では、圧電素子の歪みを振動フィルムに伝播する必要性があるため、柔軟性に優れることが求められる。ところが、ビスフェノール系、ノボラック系のようなエポキシ系接着剤は、一般的に剛性の高い接着剤であるため、このような部材同士の接合には適しない。
以上のことから、振動特性に優れた振動板を有するとともに、溶剤に対する優れた耐性を有する液滴吐出ヘッドが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−21448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、振動板における振動特性と有機溶剤に対する耐性とを高度に両立する液滴吐出ヘッド、かかる液滴吐出ヘッドを効率よく製造可能な液滴吐出ヘッドの製造方法、および前記液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出ヘッドは、吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔を備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられた振動板と、を有し、
前記振動板は、振動フィルム、前記振動フィルムの両面を覆うポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層、および前記振動フィルムの前記基板とは反対の面に設けられた支持板、を備えており、
前記基板と前記振動フィルム、および、前記振動フィルムと前記支持板は、前記樹脂層を介して接着されていることを特徴とする。
これにより、振動板における振動特性と有機溶剤に対する耐性とを高度に両立する液滴吐出ヘッドが得られる。
【0009】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にポリエチレンを含むものであることが好ましい。
これにより、振動特性に特に優れるとともに、有機溶剤に対する特に優れた耐溶剤性を有する液滴吐出ヘッドが得られる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記ポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にさらに、不飽和カルボン酸またはその誘導体を含むものであることが好ましい。
これにより、樹脂層は、接着に供される部材の材質によらず、より優れた接着性を発現するものとなる。
【0010】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記不飽和カルボン酸は、マレイン酸であることが好ましい。
マレイン酸は、ポリオレフィンと相溶性が高く、かつ、接着性の増強作用が特に高いので、ポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層における添加剤として有用である。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記振動フィルムの一方の面を覆うポリオレフィン系樹脂と、他方の面を覆うポリオレフィン系樹脂は、同じ組成のものであることが好ましい。
これにより、振動板の振動特性がより優れたものとなり、液滴吐出ヘッドの吐出特性の向上が図られる。
【0011】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記樹脂層の平均厚さは、0.5μm以上25μm以下であることが好ましい。
これにより、液滴吐出ヘッドの寸法精度を低下させることなく、十分な接着性を確保することができる。その結果、印字精度が高く、かつ耐溶剤性の高い液滴吐出ヘッドが得られる。
【0012】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記樹脂層は、融着により接着するものであることが好ましい。
これにより、硬化反応の時間を必要としないことから、短時間で接着を完了することができ、液滴吐出ヘッドの製造効率を高めることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記振動板に接するように設けられ、歪みにより前記振動板を振動させる振動手段をさらに有することが好ましい。
これにより、吐出液貯留室の容積を確実に変化させることができ、正確な印字を可能にする。
【0013】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔を備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられ、振動フィルム、前記振動フィルムの両面を覆うポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層、および前記振動フィルムの前記基板とは反対の面に設けられた支持板と、を備える振動板と、を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記振動フィルムの両面を覆うようにポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層を成膜する工程と、
前記振動フィルムと前記支持板とを前記樹脂層の融着により接着し、前記振動板を得る工程と、
前記振動板と前記基板とを前記樹脂層を介して積層し、接着する工程と、
前記基板に対して前記ノズルプレートを接着する工程と、を有することを特徴とする。
これにより、振動特性に優れた振動板を有するとともに、有機溶剤に対する優れた耐性を有する液滴吐出ヘッドを、効率よく製造することができる。
【0014】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法では、前記樹脂層の成膜は、前記樹脂層の原料を含む液体を前記振動フィルムの両面に塗布した後、乾燥させることにより行われることが好ましい。
これにより、樹脂層を効率よく安価に成膜することができるので、液滴吐出ヘッドの製造効率の向上や低コスト化が図られる。
【0015】
本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法では、前記振動フィルムに前記支持板の原料となる板状原料を前記樹脂層の融着により接着した後、前記板状原料の不要部分を除去するパターニング加工を施すことにより前記支持板を形成し、前記振動板を得ることが好ましい。
これにより、振動板に形成されるパターンの位置精度が高くなり、ひいては振動板の振動特性を高めることができる。
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする。
これにより、印字精度が高く、かつ耐久性に優れた液滴吐出装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンターの実施形態を示す概略図である。
【図3】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図5】インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。
【図6】樹脂層と被接着部材との接着状態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法および液滴吐出装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<インクジェット式記録ヘッド>
まず、本発明の液滴吐出ヘッドについて説明する。なお、以下では、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した場合を一例に説明する。
【0018】
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンターの実施形態を示す概略図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に「ヘッド1」と言うこともある。)は、図2に示すようなインクジェットプリンター(本発明の液滴吐出装置)9に搭載されている。
【0019】
図2に示すインクジェットプリンター9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
【0020】
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
【0021】
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモーター941と、キャリッジモーター941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔11を備えるヘッド1と、ヘッド1にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド1およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
【0022】
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
【0023】
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモーター941の作動により、プーリーを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド1から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0024】
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モーター951と、給紙モーター951の作動により回転する給紙ローラー952とを有している。
給紙ローラー952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラー952aと駆動ローラー952bとで構成され、駆動ローラー952bは給紙モーター951に連結されている。これにより、給紙ローラー952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
【0025】
制御部96は、例えばパーソナルコンピューターやディジタルカメラ等のホストコンピューターから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリー、印刷装置94(キャリッジモーター941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モーター951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピューターからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
【0026】
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサー等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリーに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサーからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
【0027】
以下、ヘッド1について、図1を参照しつつ詳述する。
図1に示すように、ヘッド1は、ノズルプレート10と、ノズルプレート10上に設けられた吐出液貯留室形成基板(基板)20と、吐出液貯留室形成基板20上に設けられた振動フィルム30と、振動フィルム30上に設けられた支持板40と、支持板40上に設けられた圧電素子(振動手段)50およびケースヘッド60とを有している。なお、本実施形態では、このヘッド1は、ピエゾジェット式ヘッドを構成する。
【0028】
吐出液貯留室形成基板20(以下、省略して「基板20」と言う。)には、インクを貯留する複数の吐出液貯留室(圧力室)21が形成され、さらに、各吐出液貯留室21に連通し、各吐出液貯留室21にインクを供給する共通の吐出液供給室22が形成されている。
図1に示すように、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、それぞれ、平面視においてほぼ長方形状をなし、各吐出液貯留室21の幅(短辺)は、吐出液供給室22の幅(短辺)より細幅となっている。
また、各吐出液貯留室21は、吐出液供給室22に対して、ほぼ垂直をなすように配置されており、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、平面視において全体で櫛状をなしている。
【0029】
基板20を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン材料、ステンレス鋼のような金属材料、石英ガラスのようなガラス材料、アルミナのようなセラミックス材料、グラファイトのような炭素材料、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、シリコーン樹脂のような樹脂材料等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記のような材料に、酸化処理(酸化膜形成)、めっき処理、不働態化処理、窒化処理等の各処理を施した材料でもよい。
【0030】
これらの中でも、基板20の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、基板20が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い基板20が得られる。このため、吐出液貯留室21や吐出液供給室22の容積の精度が高くなり、高品位の印字が可能なヘッド1が得られる。
【0031】
また、吐出液供給室22は、後述するケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通して複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバー70の一部を構成する。
基板20の下面(振動フィルム30と反対側の面)には、樹脂層15を介して、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆うようにノズルプレート10が接着されている。
【0032】
ノズルプレート10には、各吐出液貯留室21に対応するように、それぞれノズル孔11が形成(穿設)されている。このノズル孔11から、吐出液貯留室21に貯留されたインク(吐出液)を押し出すことにより、インクが液滴として吐出されることとなる。
また、ノズルプレート10は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の下面を構成している。すなわち、ノズルプレート10、基板20および振動フィルム30により、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22が画成されている。
【0033】
このようなノズルプレート10を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ノズルプレート10の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、ノズルプレート10が変質・劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高いノズルプレート10が得られる。このため、信頼性の高いヘッド1が得られる。
【0034】
なお、ノズルプレート10の構成材料は、300℃以下で線膨張係数が2.5×10-6/℃以上4.5×10-6/℃以下程度であるものが好ましい。
また、ノズルプレート10の厚さは、特に限定されないが、0.01mm以上1mm以下程度であるのが好ましい。
また、ノズルプレート10の下面には、必要に応じて、撥液処理を施すのが好ましい。これにより、ノズル孔から吐出されるインク滴が意図しない方向に吐出されるのを防止することができる。
【0035】
基板20の上面(他方の面)には、樹脂層25を介して、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆うように振動フィルム30が接着されている。
また、振動フィルム30は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の上面を構成している。すなわち、振動フィルム30と、基板20およびノズルプレート10により、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22が画成されている。そして、振動フィルム30が基板20と確実に接合されていることにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を確保している。
【0036】
さらに、振動フィルム30は、弾性変形する機能を有するものである。したがって、圧電素子50で発生した歪みにより、支持板40を介して振動フィルム30を変位(振動)させることで、吐出液貯留室21の容積を変化させることができ、その結果、インクが吐出される。
振動フィルム30を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、振動フィルム30の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アラミド樹脂のような樹脂材料、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐薬品性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、振動フィルム30が変質・劣化するのを確実に防止することができる。このため、吐出液貯留室21内および吐出液供給室22内に、長期間にわたってインクを貯留することができる。さらに、これらは、高速で弾性変形することが可能な材料であるため、吐出液貯留室21の容積を高速に変化させることができ、その結果、インクを高精度に吐出することができる。
【0038】
振動フィルム30の上面には、樹脂層35を介して、振動フィルム30の一部に対応するように支持板40が接着されている。
支持板40は、圧電素子50で発生した歪みを、このものを介して、振動フィルム30に伝播する機能を有するものである。これにより、圧電素子50に歪みを発生させることで、振動フィルム30に変位が生じ、その結果、各吐出液貯留室21における容積変化を確実に生じさせることができる。
【0039】
支持板40を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、支持板40の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼(SUS)であるのが好ましい。このような材料は、優れた強度を有するものである。そのため、圧電素子50で発生した歪みが、より確実に、振動フィルム30に伝播されることから、インクがより高精度に吐出されることとなる。
【0040】
なお、本実施形態では、上述した振動フィルム30と支持板40とが樹脂層35を介して接合された積層体により、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆う振動板(封止板)が構成される。
支持板40の上面の一部(図1では、支持板40の上面の中央部付近)に、圧電素子(振動手段)50が接着されている。
【0041】
圧電素子50は、圧電材料で構成された圧電体層51と、この圧電体層51に電圧を印加する電極膜52との積層体で構成されている。このような圧電素子50では、電極膜52を介して圧電体層51に電圧を印加することにより、圧電体層51に電圧に応じた歪みが発生する(逆圧電効果)。この歪みが支持板40を介して振動フィルム30に撓み(振動)をもたらし、吐出液貯留室21の容積を変化させる。かかる構成の圧電素子50が支持板40と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、支持板40を介して振動フィルム30の変位へと確実に変換することができ、その結果、各吐出液貯留室21が確実に容積変化することとなる。
【0042】
また、圧電体層51と電極膜52との積層方向は、特に限定されず、支持板40に対して平行な方向であっても、直交する方向であってもよい。なお、圧電体層51と電極膜52との積層方向が、図1に示すように、支持板40に対して直交する方向である場合、このように配置された圧電素子50を特にMLP(Multi Layer Piezo)と言う。圧電素子50がMLPであれば、支持板40の変位量を大きくとることができるので、インクの吐出量の調整幅が大きいという利点がある。
【0043】
圧電素子50のうち、支持板40に隣接する(接触する)面は、圧電素子50の配置方法によって異なるが、圧電体層が露出した面、電極膜が露出した面、または圧電体層と電極膜の双方が露出した面のいずれかである。
圧電素子50のうち、圧電体層51を構成する材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等が挙げられる。
【0044】
一方、電極膜52を構成する材料としては、例えば、Fe、Ni、Co、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、Mo、またはこれらを含む合金等の各種金属材料が挙げられる。
ここで、前述した支持板40は、圧電素子50に対応する位置を取り囲むように平面視で環状に形成された凹部53を有している。すなわち、支持板40は、振動フィルム30上の一部に設けられており、圧電素子50に対応する位置では、支持板40の一部が、この環状の凹部53を隔てて島状に孤立している。このような島状をなす部分に圧電素子50を接合する構成とすることで、圧電素子50で発生した歪みをより確実に、振動フィルム30に伝播することができるため、振動フィルム30における撓みがより確実に生じることとなる。
【0045】
また、圧電素子50の電極膜52は、図示しない駆動ICと電気的に接続されている。これにより、駆動素子50の動作を駆動ICによって制御することができる。
また、支持板40の上面の一部(図1では、凹部53を隔てて、島状をなす部分を取り囲む部分)には、ケースヘッド60が接合されている。このように、ケースヘッド60と支持板40とが接合されることで、ノズルプレート10、基板20、振動フィルム30および支持板40の積層体で構成された、いわゆるキャビティー部分を補強し、キャビティー部分のよじれや反り等を確実に抑制することができる。
【0046】
ケースヘッド60を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ケースヘッド60の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ザイロンのような変性ポリフェニレンエーテル樹脂(「ザイロン」は登録商標)またはステンレス鋼であるのが好ましい。これらの材料は、十分な剛性を備えていることから、ヘッド1を支持するケースヘッド60の構成材料として好適である。
【0047】
また、振動フィルム30、樹脂層35および支持板40は、吐出液供給室22に対応する位置に貫通孔23を有する。この貫通孔23により、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と吐出液供給室22とが連通している。なお、吐出液供給路61と吐出液供給室22とにより、複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバー70の一部を構成する。
【0048】
このようなヘッド1では、図示しない外部吐出液供給手段からインクを取り込み、リザーバー70からノズル孔11に至るまで内部をインクで満たした後、駆動ICからの記録信号により、各吐出液貯留室21に対応するそれぞれの圧電素子50を動作させる。これにより、圧電素子50の逆圧電効果によって支持板40を介して振動フィルム30に撓み(振動)が生じる。その結果、例えば、各吐出液貯留室21内の容積が収縮すると、各吐出液貯留室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔11からインクが液滴として押し出される(吐出される)。
【0049】
このようにして、ヘッド1において、印刷したい位置の圧電素子50に、駆動ICを介して電圧を印加すること、すなわち、吐出信号を順次入力することにより、任意の文字が図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド1は、前述したような構成のものに限らず、例えば、振動手段としての圧電素子50に代えて、静電アクチュエータを備えるものであってもよい。
【0050】
ただし、本実施形態のように、振動手段が圧電素子で構成されていることにより、振動フィルム30に発生する撓みの程度を容易に制御することができる。これにより、インク滴の大きさを容易に制御することができる。
ここで、上述した各樹脂層15、25、35のうち、少なくとも樹脂層25、35は、それぞれポリオレフィン系樹脂で構成されたものである。
【0051】
ポリオレフィン系樹脂は、極性が低く化学的に安定であるため、基本的には接着性に乏しい。このため、液密性の高い部位、例えばインクジェット式記録ヘッドのように有機溶剤との接触が避けられない部位の接着には、これまで不適であると考えられてきた。したがって、従来のインクジェット式記録ヘッドでは、エポキシ樹脂やウレタン樹脂のような熱硬化性樹脂で構成された接着剤が主に用いられていた。
【0052】
ところが、これらの接着剤の中には耐溶剤性が低いものがあり、長期間インクに接触した場合に接着性が低下する場合があった。また、これらの接着剤は、硬化後の柔軟性に乏しいため、振動板の振動特性に悪影響を及ぼしていた。
そこで、本発明者は、上記の諸問題を同時に解決可能なヘッド1の構造として、各樹脂層25、35がポリオレフィン系樹脂で構成されており、かつ、樹脂層25は振動フィルム30の下面を覆うよう設けられ、樹脂層35は振動フィルム30の上面を覆うように設けられているという構造を見出し、本発明を完成するに至った。
【0053】
このような本発明によれば、振動フィルム30の上面と下面がそれぞれポリオレフィン系樹脂で覆われることとなる。前述したようにポリオレフィン系樹脂は、極性が低く化学的に安定であるため、このような樹脂によって振動フィルム30の両面が覆われることになると、振動フィルム30はインクとの接触から隔離されることとなる。その結果、振動フィルム30がインクに含まれる溶剤に侵されたり、あるいは膨潤したりして、振動フィルム30の振動特性が変化してしまうことが防止される。
【0054】
また、ポリオレフィン系樹脂は、一般に柔軟性が高いため、振動フィルム30の上面および下面を覆ったとしても振動フィルム30の振動特性に悪影響を及ぼし難い。このため、振動フィルム30およびこれを含む振動板は、圧電素子50によって十分な振幅で振動し、液滴吐出の性能を高めることができる。また、比較的小さな駆動波形であっても十分な振幅が得られるので、振動板は多様な振動パターンを実現することができ、ヘッド1は多様な印字を行うことのできるものとなる。
【0055】
また、各樹脂層25、35は、融着により接着性を発現しているのが好ましい。融着は、樹脂の硬化ではなく、溶融、再固化を経て接着性を発現するため、硬化反応の時間を必要としない。このため、各樹脂層25、35において部材同士を融着することにより、極めて短時間で接着を完了することができ、製造効率の観点から好ましい。なお、従来のヘッドに用いられていた接着剤は、硬化時には長時間の硬化時間を確保する必要があり、容易な製造が困難であったが、本発明によれば、このような課題をも解決することができる。
以上のような理由から、ヘッド1は、従来のヘッドにおける諸問題を同時にかつ高度に解決することができる。
【0056】
なお、本発明は、少なくとも樹脂層25、35において上記事項を有していればよいが、本実施形態では樹脂層15も上記事項を有しているものとして説明する。
各樹脂層15、25、35を構成するポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にポリオレフィンを含む樹脂であればいかなるものでもよい。前記ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリイソブチレン、ポリメチルペンテンのような単独重合体の他、プロピレンとエチレンおよび1−ブテンの一方または双方とのランダム共重合体またはブロック共重合体、エチレンとプロピレンとジエン成分とを含むエチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、シクロペンタジエンとエチレンおよびプロピレンの一方または双方との共重合体、エチレンまたはプロピレンとビニル化合物とのランダム共重合体またはブロック共重合体等が挙げられる。
【0057】
これらの中でも、ポリエチレンが好ましく用いられる。ポリエチレンを含む樹脂は、柔軟性が特に高い(ヤング率が特に低い)一方、耐溶剤性が比較的高く、融着による接着性も高い。このため、このような樹脂で構成された各樹脂層15、25、35は、振動板の振動特性が特に高く(振動への追従性が高い等)、振動フィルム30に対して優れた耐溶剤性を付与し、かつ、容易に接着可能なものとなる。
【0058】
また、このようなポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にさらに、ポリオレフィンを被接着部材に対して強固に結合させるための任意の構造(官能基含有構造)を含んでいてもよい。かかる構造としては、例えば、不飽和カルボン酸またはその誘導体、グリシジル基含有不飽和化合物、ビニル基含有化合物等が挙げられるが、このうち不飽和カルボン酸またはその誘導体を含むものが好ましく用いられる。かかるポリオレフィン系樹脂は、接着に供される部材の材質によらず、より優れた接着性を発現する。
【0059】
不飽和カルボン酸またはその誘導体は、被接着部材に対して水素結合を生じるため、ポリオレフィン系樹脂の接着性をより高めることができる。
不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマ−ル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アクリル酸等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記不飽和カルボン酸の金属塩、アミド、イミド、エステル等が挙げられる。
これらの中でも、マレイン酸が好ましく用いられる。マレイン酸は、ポリオレフィンと相溶性が高く、かつ、接着性の増強作用が特に優れている。このため、マレイン酸を含むポリオレフィン系樹脂は、前述した諸問題を同時に解決し得る各樹脂層15、25、35の構成材料として特に有用である。
【0060】
なお、不飽和カルボン酸またはその誘導体は、前述したポリオレフィンと共重合体を形成する。この共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、ポリオレフィンを主鎖とするグラフト共重合体等の各種共重合体のいずれであってもよいが、好ましくは不飽和カルボン酸またはその誘導体中の不飽和結合がポリオレフィンの主鎖の一部を構成するように付加重合してなる共重合体とされる。このような共重合体は、水素結合を生じる官能基がポリオレフィンの主鎖に対して強固に結合した構造を有するものとなるため、ポリオレフィン系樹脂は、被接着部材に対して特に優れた接着性を示すものとなる。
【0061】
図6は、各樹脂層15、25、35と被接着部材との接着状態の一例を示す模式図である。なお、図6は、ポリエチレンの主鎖に対してマレイン酸の不飽和結合が付加重合してなる共重合体が、被接着部材に対して接着している状態を示すものである。
被接着部材の表面には、一般に水酸基が露出している場合が多い。また、露出していない場合でも、一般的な下地処理により水酸基が導入される。この水酸基とマレイン酸由来の水酸基との間に水素結合が生じることにより、各樹脂層15、25、35と被接着部材との間には、強固な接着力が生じる。
【0062】
上述した共重合体の具体例としては、マレイン酸変性ポリエチレン、無水マレイン酸変性ポリエチレン、マレイン酸変性ポリプロピレン、無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が挙げられる。
上述した任意の構造の含有率は、特に限定されないが、ポリオレフィン100質量部に対して0.001質量部以上20質量部以下であるのが好ましく、0.01質量部以上15質量部以下であるのがより好ましく、0.05質量部以上10質量部以下であるのがさらに好ましい。前記構造の含有率が前記範囲内であれば、ポリオレフィンが本来有している物性を損なうことなく、ポリオレフィン系樹脂に対してより強固な接着性が付与される。
【0063】
また、ポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、好ましくは1万以上10万以下、より好ましくは2万以上8万以下とされる。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定し、標準ポリスチレンで換算して求めることができる。
各樹脂層15、25、35の平均厚さは、それぞれ、0.5μm以上25μm以下であるのが好ましく、2μm以上10μm以下であるのがより好ましい。各樹脂層15、25、35の平均厚さを前記範囲内にすることにより、ヘッド1の寸法精度を低下させることなく、十分な接着性を確保することができる。その結果、印字精度が高く、かつ耐溶剤性の高いヘッド1が得られる。
【0064】
なお、振動フィルム30の下面に設けられた樹脂層25を構成するポリオレフィン系樹脂と上面に設けられた樹脂層35を構成するポリオレフィン系樹脂は、互いに異なる組成のものであってもよいが、互いに同じ組成であるのが好ましい。これにより、振動板の振動特性がより優れたものとなり、ヘッド1の吐出特性の向上が図られる。また、振動板の構造が簡素化され、製造が容易になるので、ヘッド1の製造効率の観点から有効である。
【0065】
また、基板20の下面に設けられた樹脂層15を構成するポリオレフィン系樹脂も、上記2つの樹脂層25、35を構成するポリオレフィン系樹脂と互いに同じ組成であるのが好ましい。これにより、ヘッド1の構造が簡素化され、製造が容易になるので、ヘッド1の製造効率の観点から有用である。
また、各樹脂層15、25、35は、上述したポリオレフィン等の必須成分以外に、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、乳化剤等の成分またはその反応生成物等を含んでいてもよい。
【0066】
なお、樹脂層15は、その他の接着剤で構成されたものであってもよい。その他の接着剤としては、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤、ウレタン系接着剤等が挙げられる。
また、圧電素子50やケースヘッド60の接着においても、上述したポリオレフィン系樹脂で構成された接着剤を用いることもでき、その他の接着剤を用いることもできる。
【0067】
<インクジェット式記録ヘッドの製造方法>
次に、本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法について説明する。なお、以下では、本発明の液滴吐出ヘッドの製造方法をインクジェット式記録ヘッドの製造方法に適用した場合を一例に説明する。
図3ないし図5は、インクジェット式記録ヘッドの製造方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図3ないし図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本実施形態にかかるヘッド1の製造方法は、[1]振動フィルム30の両面に樹脂層を成膜する工程と、[2]振動フィルム30と支持板40とを接着し、振動板を得る工程と、[3]振動板と基板20とを接着する工程と、[4]基板20に対してノズルプレート10を接着する工程と、を有する。
【0068】
以下、各工程について順次説明する。
[1]まず、振動フィルム30の下面に樹脂層25を成膜するとともに、上面に樹脂層35を成膜する。
樹脂層25、35は、その原料を含む薄膜を積層する方法、その原料を含む液体(液体原料)を塗布した後、乾燥させる方法等により成膜される。
【0069】
このうち、後者の方法が好ましく用いられる。後者の方法によれば、樹脂層25、35を効率よく安価に成膜することができるので、ヘッド1の製造効率の向上や低コスト化に寄与する。
液体原料としては、樹脂層25、35の原料の水性分散媒または水溶液が用いられる。このような液体原料は、例えば、原料と、必要に応じて添加される前述したような成分と水性媒体とを撹拌することにより調製される。撹拌の方法や撹拌の条件等は特に限定されないが、加熱下で撹拌するのが好ましい。
【0070】
また、液体原料における固形分濃度は、5質量%以上50質量%以下であるのが好ましく、10質量%以上40質量%以下であるのがより好ましい。
また、水性媒体としては、例えば、水、アルコール類等が挙げられる。
振動フィルム30の上面および下面に対する液体原料の塗布は、いかなる方法で行われてもよく、その方法としては、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、マイクログラビア、ディップコート印刷、バーコーターコーティング、ロールコーターコーティング、リップコーターコーティング、スプレーコーターコーティング等の各種方法が挙げられる。
【0071】
また、振動フィルム30の塗布面には、必要に応じて表面処理を施すようにしてもよい。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、紫外線照射処理、オゾン処理、超音波洗浄等が挙げられる。
また、液体原料の塗布後、乾燥を行う。乾燥温度は、40℃以上200℃以下であるのが好ましく、50℃以上170℃以下であるのがより好ましい。また、乾燥時間は、10秒以上600秒以下であるのが好ましく、20秒以上180秒以下であるのがより好ましい。
【0072】
[2]次に、振動フィルム30と支持板40とを積層し、振動板を得る。
この支持板40は、圧電素子50の形状に合わせてパターニングされる場合、あらかじめパターニングされたものを積層するようにしてもよく、パターニングされていないものを積層した後、パターニングするようにしてもよい。後者の場合、位置合わせをしつつ貼り合わせる作業が不要になるため、パターンの位置精度が高くなり、ひいては振動板の振動特性が高くなるという点で有用である。一方、前者の場合、貼り合わせ作業の難易度は高いものの、パターニングにおいて樹脂層を汚染しないという点で有用である。ここでは、後者の場合について説明する。
【0073】
まず、振動フィルム30の上面に成膜した樹脂層35上に支持板形成用基板41を積層する。支持板形成用基板41は、振動フィルム30の上面を覆う形状のものである。
次いで、樹脂層35を介して振動フィルム30と支持板形成用基板41とを積層し、得られた積層体を厚さ方向に加圧する。これにより、樹脂層35を介して振動フィルム30と支持板形成用基板41とが接着される。
【0074】
加圧時の圧力は、特に限定されず、被接着部材の材質等に応じて適宜設定されるものの、0.01MPa以上10MPa以下であるのが好ましく、0.05MPa以上5MPa以下であるのがより好ましい。これにより、各樹脂層15、25、35において必要かつ十分な接着力が得られる。
また、加圧処理は必要に応じて加熱下で行われる。その際の加熱温度は、80℃以上300℃以下であるのが好ましく、100℃以上250℃以下であるのがより好ましい。これにより、ポリオレフィン系樹脂が溶融し、その後の再固化により被接着部材が強固に接着される。また、ポリオレフィン系樹脂が極性基を有している場合、水素結合による接着が増強される。その結果、振動特性に優れた振動板が得られる。
【0075】
また、加圧時間は、0.1秒以上20秒以下であるのが好ましく、0.5秒以上10秒以下であるのがより好ましい。これにより、被接着部材を変質させることなく、効率よく強固な接着を行うことができる。
その後、支持板形成用基板41に対して不要部分を除去するパターニング加工を施し、支持板40を形成する。これにより振動板が得られる。
【0076】
このパターニング加工は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせた方法が用いられる。
なお、樹脂層25、振動フィルム30、樹脂層35および支持板形成用基板41の4層を積層したものは、あらかじめ大量に製造、保管しておくことができるので、製造効率の観点から有用である。その場合、長尺の帯状をなす振動フィルム用の母材を使用することで、ロール状に巻き取って保管することができるので、保管効率や、その後の工程における搬送容易性の観点から有用である。
また、支持板40の接着面には、あらかじめ前述したような表面処理を施しておくのが好ましい。これにより、水素結合の結合力がより大きくなる。
【0077】
[3]次に、振動板と基板20とを接着する。
[3−1]基板20は、図3(b)に示すような平板状の母材20’を用意し、これに加工を施して、図3(c)に示すような各吐出液貯留室21および吐出液供給室22を形成することにより得られる。
吐出液貯留室21および吐出液供給室22の形成は、ドライエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウエットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いて行うことができる。
【0078】
次いで、樹脂層25を介して振動板と基板20とを積層し、得られた積層体を厚さ方向に加圧する。これにより、図3(d)に示すように、樹脂層25を介して振動板(振動フィルム30)と基板20とが接着される。
加圧条件等は、上記工程と同様である。
また、本実施形態では、振動フィルム30と支持板40とを接着して振動板を得た後、得られた振動板と基板20とを接着するようにしたが、振動フィルム30と支持板40との接着と振動フィルム30と基板20との接着を同時に行うようにしてもよい。これにより、製造効率のさらなる向上が図られる。
【0079】
一方、2箇所の接着を個別に行う場合には、振動フィルム30と支持板40とを接着する際に、樹脂層25の表面が汚染されたり他の部材と意図せず接着したりしないよう、剥離性を有する保護フィルム等で覆うようにすればよい。
なお、基板20の接着面には、あらかじめ前述したような表面処理を施しておくのが好ましい。これにより、水素結合の結合力がより大きくなる。
【0080】
[3−2]続いて、図4(a)に示すように、振動フィルム30、樹脂層35および支持板40のうち、基板20の吐出液供給室22に対応する位置に、すなわち、吐出液供給室22に連通するように貫通孔23を形成する。さらに、支持板40のうち、圧電素子50が組み立てられる位置を取り囲む環状の領域に、凹部53を形成する。
貫通孔23および凹部53の形成は、前述した吐出液貯留室21および吐出液供給室22の形成で説明したのと同様の各種エッチング法を用いて行われる。
【0081】
[3−3]次に、圧電素子50を用意し、支持板40の島状をなす部分に、圧電素子50を接合することで、図4(b)に示すように、振動板と圧電素子50とを接合する。
[3−4]次に、ケースヘッド60を用意し、振動板の上面にケースヘッド60を接合することで、図5(a)に示すように、振動板とケースヘッド60とを接合する。
この際、吐出液供給室22は、振動フィルム30、樹脂層35および支持板40に形成された貫通孔23、および、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通し、これにより、リザーバー70が形成される。
【0082】
なお、上記の説明では、予め母材20’に加工を施して各吐出液貯留室21および吐出液供給室22が形成された基板20に対して振動フィルム30、支持板40、圧電素子50およびケースヘッド60を接着する場合について説明したが、ヘッド1の製造方法はこれに限定されず、母材20’に対して振動フィルム30、支持板40、圧電素子50およびケースヘッド60を接合した後に、母材20’に加工を施し、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22が形成して基板20を得るようにしてもよい。
【0083】
[4]次に、ノズルプレート10を用意し、図5(b)に示すように、樹脂層15を介して基板20とノズルプレート10とを接着する。これによりヘッド1が得られる。
樹脂層15の成膜も、前述した各樹脂層25、35と同様にして行うことができる。
また、樹脂層25や樹脂層35を介した接着のみならず、樹脂層15を介した接着も同時に行うことができる。すなわち、樹脂層15、25、35の3層を介した接着を同時に行うことができる。これにより、製造効率のさらなる向上が図られる。
【0084】
以上、液滴吐出ヘッド、液滴吐出ヘッドの製造方法および液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
例えば、本発明の液滴吐出ヘッドを製造する方法では、前記実施形態の構成に限定されず、工程の順序が前後してもよい。また、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよく、不要な工程が付加されていてもよい。
【実施例】
【0085】
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.インクジェット記録ヘッドの製造
(実施例1)
<1>まず、ポリフェニレンサルファイド(PPS)製の振動フィルムを用意し、その両面全体に、マイクログラビア方式により樹脂層の液体原料を塗布した。振動フィルムの塗布面には、あらかじめコロナ放電処理を施しておいた。液体原料には、マレイン酸変性ポリエチレンと、水性媒体(水、イソプロピルアルコール)とを含むものを用いた。
【0086】
次いで、塗布膜を150℃で3分間加熱して乾燥させた。その結果、マレイン酸変性ポリエチレン(ポリオレフィン系樹脂)で構成された平均厚さ5μmの樹脂層が成膜された。なお、マレイン酸変性ポリエチレン中には、マレイン酸由来の部位がポリエチレン100質量部に対して0.5質量部の割合で含まれている。また、マレイン酸変性ポリエチレンの重量平均分子量は、約5万であった。さらに、使用したマレイン酸変性ポリエチレンは、マレイン酸中の不飽和結合がポリエチレンに対して付加重合し、主鎖の一部を構成するように共重合してなるものである。
【0087】
<2>次に、支持板形成用基板としてステンレス鋼箔を用意した。そして、振動フィルムの一方の面に成膜された樹脂層を介してステンレス鋼箔を積層した。その後、厚さ方向に0.15MPaの圧力、200℃の温度で、2秒間加圧することにより、振動フィルムとステンレス鋼箔とを接着した。
次いで、ステンレス鋼箔にレジスト膜を形成した後、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術によりレジスト膜をパターニングした。そして、パターニングしたレジスト膜をマスクとしてステンレス鋼箔にエッチング処理を施し、所定の形状にパターニングした。併せて、エッチング処理により、リザーバー用の貫通孔を形成した。その後、レジスト膜を除去して振動板を得た。
【0088】
<3>次に、単結晶シリコン製の母材を用意し、フォトリソグラフィー技術およびエッチング技術により、母材を加工して各吐出液貯留室および吐出液供給室を形成した。これにより、吐出液貯留室形成基板を得た。
次いで、振動フィルムの他方の面に成膜された樹脂層を介して吐出液貯留室形成基板を積層した。そして、厚さ方向に0.15MPaの圧力、200℃の温度で、2秒間加圧することにより、振動フィルムと吐出液貯留室形成基板とを接着した。
また、圧電素子およびケースヘッドを用意し、これらについても上記樹脂層と同様の樹脂層を用いて接着した。
【0089】
<4>次に、ステンレス鋼製のノズルプレートを用意し、その一方の面に上記と同様のポリオレフィン系樹脂で構成された平均厚さ5μmの樹脂層を成膜した。そして、成膜した樹脂層を介してノズルプレートと吐出液貯留室形成基板とを積層した。その後、厚さ方向に0.15MPaの圧力、200℃の温度で、2秒間加圧することにより、吐出液貯留室形成基板とノズルプレートとを接着した。
以上のようにしてインクジェット記録ヘッドを得た。
【0090】
(実施例2〜15)
使用するポリオレフィン系樹脂の組成を表1に示すように変更した以外は、それぞれ実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
(実施例16)
樹脂層としてポリエチレンのフィルム(平均厚さ5μm)を用い、これを介して積層、融着するようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
(実施例17)
振動フィルムの両面で、成膜するポリオレフィン系樹脂の組成を互いに異ならせるようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
【0091】
(比較例1)
ポリオレフィン系樹脂で構成された各樹脂層に代えて、エポキシ系接着剤を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
なお、接着の際には、接着剤を塗布した後、硬化前に被接着部材を貼り合わせ、その状態で1日間保持した。
【0092】
(比較例2)
ポリオレフィン系樹脂で構成された各樹脂層に代えて、ウレタン系接着剤を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
なお、接着の際には、接着剤を塗布した後、硬化前に被接着部材を貼り合わせ、その状態で1日間保持した。
【0093】
(比較例3)
振動フィルムの両面に成膜された2つの樹脂層のうち、支持板と振動フィルムとを接着する樹脂層についてはエポキシ系接着剤を用いるようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。
なお、接着の際には、接着剤を塗布した後、硬化前に被接着部材を貼り合わせ、その状態で1日間保持した。
【0094】
(比較例4)
振動フィルムと吐出液貯留室形成基板との接着に際し、樹脂層を振動フィルム側に成膜するのではなく、吐出液貯留室形成基板の上面に成膜し、これを介して接着するようにした以外は、実施例1と同様にしてインクジェット記録ヘッドを得た。なお、これにより、得られたインクジェット記録ヘッドでは、吐出液貯留室に振動フィルムが露出した状態となる。
以上、インクジェット記録ヘッドの製造条件を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
2.インクジェット記録ヘッドの評価
各実施例および各比較例で得られたインクジェット記録ヘッドを用い、以下の3種類の溶剤からなるインクa〜cを基板上に1000時間吐出し続ける長期吐出動作を行った。
<3種類のインク>
インクa:N−メチル−2−ピロリドン
インクb:γ−ブチロラクトン
インクc:ブチルセロソルブ
その後、吐出を一旦停止し、再度吐出したときのヘッドやインクの挙動について以下に示す評価を行った。
【0097】
2−1.インクの吐出速度の変動の評価
まず、インクジェット記録ヘッドから吐出されるインクの速度の平均値のバラツキを測定した。そして、その測定結果を以下に示す評価基準にしたがって評価した。
<吐出速度の変動の評価基準>
A:速度のバラツキが±2%未満
B:速度のバラツキが±2%以上5%未満
C:速度のバラツキが±5%以上10%未満
D:速度のバラツキが±10%以上20%未満
E:速度のバラツキが±20%以上、またはインクを射出しない射出口が発生
【0098】
2−2.インクの飛行曲がりの評価
次に、インクジェット記録ヘッドから吐出されるインクの着弾位置のズレ量を測定した。そして、その測定結果を以下に示す評価基準にしたがって評価した。
<飛行曲がりの評価基準>
A:飛行曲がりが5μm未満
B:飛行曲がりが5μm以上10μm未満
C:飛行曲がりが10μm以上20μm未満
D:飛行曲がりが20μm以上30μm未満
E:飛行曲がりが30μm以上40μm未満
【0099】
2−3.振動数補正の評価
次に、インクジェット記録ヘッドの振動板を振動させる圧電素子に印加する電圧について、インクの吐出動作を安定させるために(振動板の振動を安定させるために)必要な電圧の補正量を測定した。そして、その測定結果を以下に示す評価基準にしたがって評価した。
【0100】
<振動数補正の評価基準>
A:電圧による振動数補正が2V未満
B:電圧による振動数補正が2V以上5V未満
C:電圧による振動数補正が5V以上、または電圧の波形を補正しても安定動作が困難である
2−4.評価結果
2−1〜2−3から得られた評価結果について、表2に示す。
【0101】
【表2】

【0102】
表2から明らかなように、各実施例で得られたインクジェット記録ヘッドでは、長期にわたる連続駆動の後でも、インクの吐出速度のバラツキやインクの飛行曲がりが少なく、かつ、必要な電圧の補正量が少ないという結果が得られた。これは、各ヘッドでは、振動板中の振動フィルムが、耐溶剤性の高いポリオレフィン系樹脂の層で覆われているため、インク中の有機溶剤によって侵され難く、それゆえ、インクジェット記録ヘッドが、有機溶剤を含むインクに対して高い耐久性を示すことに起因する結果であると推察される。
【0103】
一方、各比較例で得られたインクジェット記録ヘッドでは、長期にわたる連続駆動の結果、インクの吐出速度のバラツキやインクの飛行曲がりが多くなった。また、インクの吐出動作を安定させるために、より大きな電圧の補正が必要になった。
また、各実施例で得られたインクジェット記録ヘッドでは、比較例1〜3で得られたインクジェット記録ヘッドに比べて、同じ駆動電圧であっても吐出されるインク量が多いという結果になった。これは、振動板の振幅等、振動特性の差によるものと考えられる。各ヘッドでの振動板の相違点は樹脂層の構成であるので、ポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層を用いることで、振動板の振動特性を高められることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0104】
1……インクジェット式記録ヘッド 10……ノズルプレート 11……ノズル孔 15、25、35……樹脂層 20……吐出液貯留室形成基板 20’……母材 21……吐出液貯留室 22……吐出液供給室 23……貫通孔 30……振動フィルム 31……液状材料 32……液状被膜 40……支持板 41……支持板形成用基板 50……圧電素子 51……圧電体層 52……電極膜 53……凹部 60……ケースヘッド 61……吐出液供給路 70……リザーバー 9……インクジェットプリンター 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモーター 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モーター 952……給紙ローラー 952a……従動ローラー 952b……駆動ローラー 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔を備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられた振動板と、を有し、
前記振動板は、振動フィルム、前記振動フィルムの両面を覆うポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層、および前記振動フィルムの前記基板とは反対の面に設けられた支持板、を備えており、
前記基板と前記振動フィルム、および、前記振動フィルムと前記支持板は、前記樹脂層を介して接着されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にポリエチレンを含むものである請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂は、分子構造中にさらに、不飽和カルボン酸またはその誘導体を含むものである請求項2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記不飽和カルボン酸は、マレイン酸である請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記振動フィルムの一方の面を覆うポリオレフィン系樹脂と、他方の面を覆うポリオレフィン系樹脂は、同じ組成のものである請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記樹脂層の平均厚さは、0.5μm以上25μm以下である請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記樹脂層は、融着により接着するものである請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
前記振動板に接するように設けられ、歪みにより前記振動板を振動させる振動手段をさらに有する請求項1ないし7のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項9】
吐出液を貯留する吐出液貯留室が形成された基板と、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の一方の面に設けられ、前記吐出液を液滴として吐出するノズル孔を備えるノズルプレートと、
前記吐出液貯留室を覆うように前記基板の他方の面に設けられ、振動フィルム、前記振動フィルムの両面を覆うポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層、および前記振動フィルムの前記基板とは反対の面に設けられた支持板と、を備える振動板と、を有する液滴吐出ヘッドの製造方法であって、
前記振動フィルムの両面を覆うようにポリオレフィン系樹脂で構成された樹脂層を成膜する工程と、
前記振動フィルムと前記支持板とを前記樹脂層の融着により接着し、前記振動板を得る工程と、
前記振動板と前記基板とを前記樹脂層を介して積層し、接着する工程と、
前記基板に対して前記ノズルプレートを接着する工程と、を有することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項10】
前記樹脂層の成膜は、前記樹脂層の原料を含む液体を前記振動フィルムの両面に塗布した後、乾燥させることにより行われる請求項9に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項11】
前記振動フィルムに前記支持板の原料となる板状原料を前記樹脂層の融着により接着した後、前記板状原料の不要部分を除去するパターニング加工を施すことにより前記支持板を形成し、前記振動板を得る請求項9または10に記載の液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし8のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドを有することを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−250517(P2012−250517A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−127023(P2011−127023)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】