説明

液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置

【課題】例えば、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から脱泡し得る液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備え、高精度で液滴吐出可能な液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】液滴吐出ヘッド1は、複数の流路201が形成された流路基板2と、流路基板2に固定され、各流路201にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、各圧力室に供給された液体を液滴として吐出するヘッドチップ4と、液体を収納する複数の収納空間31を備え、各収納空間31と対応する各流路201との連通を許容しない第1の位置と、これらの連通を許容する第2の位置とに、流路基板2に対して変位可能に設けられた液体収納部3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液滴装置は、ヘッドチップ(液滴吐出部)を備える液滴吐出ヘッド有し、この液滴吐出ヘッドを移動操作して、記録用紙や基板等に複数の液滴を着弾させる。
このような液滴吐出装置において液滴の吐出不良が生じる原因の一つとして、ヘッドチップ内への気泡の侵入が挙げられる。また、ヘッドチップ内に気泡が侵入すると、この気泡を取り除くのは極めて困難である。
【0003】
かかる問題を解決すべく、液滴として吐出する液体を液滴吐出ヘッドに供給する前に、液体からの脱泡を行う機構を備えた液滴吐出装置(液滴付与装置)が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
ところが、特許文献1に記載の装置では、供給する液体から一括してしか脱泡をおこなうことができない。
かかる構成を、例えば、マイクロアレイを作製する装置のように、多種少量の液体を取り扱う装置に適用しても、複数種の液体から効率よく脱泡するのが困難である。
【0004】
【特許文献1】特開2000−251689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、例えば、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から脱泡し得る液滴吐出ヘッド、および、かかる液滴吐出ヘッドを備え、高精度で液滴吐出可能な液滴吐出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の液滴吐出ヘッドは、複数の流路が形成された基部と、
該基部に固定され、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該各圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、
前記液体を収納し、前記各流路に対応する複数の収納空間を備え、該各収納空間と対応する前記各流路との連通を許容しない第1の位置と、これらの連通を許容する第2の位置とに、前記基部に対して相対的に変位可能に設けられた液体収納部とを有することを特徴とする。
これにより、例えば、多種の液体を取り扱う場合でも、確実に液体から脱泡し得る。
【0007】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記液体収納部は、前記基部に対して相対的にスライド可能に設けられていることが好ましい。
これにより、液体収納部の第1の位置から第2の位置への移動操作を比較的容易にできるため、液滴吐出装置を構築する際の移動操作機構の簡略化を図ることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記基部は、平板状をなしており、
前記液滴吐出部と前記液体収納部とは、前記基部を介して反対側に設けられていることが好ましい。
このように、基部、液体収納部および液滴吐出部を積層することにより、液滴吐出ヘッドの小型化を図ることができる。
【0008】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記流路の前記液滴吐出部と反対側の開口は、行列状に配置されていることが好ましい。
このような規則的な配置とすることにより、各収納空間に液体を供給する際に、分注装置を用いる場合には、特にその操作性を向上させることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記各流路と対応する前記各収納空間との連通は、ほぼ同時に行われることが好ましい。
これにより、液滴吐出装置を構築する際の移動操作機構の簡略化を図ることができる。
【0009】
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記液体収納部と前記基部との間の気密性を確保する機能を有する封止材を有することが好ましい。
これにより、液体の脱泡を行う場合には、この操作を確実に行うことができる。
本発明の液滴吐出ヘッドでは、前記液体収納部を前記第2の位置に固定する固定手段を有することが好ましい。
これにより、不本意に、液体収納部が流路基板から脱落するのを確実に防止することができる。
【0010】
本発明の液滴吐出装置は、本発明の液滴吐出ヘッドと、
前記液体収納部を前記第2の位置とした状態で、前記各収納空間を覆うことにより閉空間を形成するキャップと、前記閉空間を減圧する減圧手段とを備える減圧機構とを有することを特徴とする。
これにより、高精度の液滴吐出が可能となる。
【0011】
本発明の液滴吐出装置では、前記液体収納部を前記第2の位置とした状態で、前記各収納空間にそれぞれ前記液体を供給した後、前記各収納空間を前記キャップで覆うことにより前記閉空間を形成し、
次いで、前記減圧手段により前記閉空間を減圧することにより、前記液体の脱泡を行うよう構成されていることが好ましい。
これにより、液体の脱泡を確実に行うことができる。
【0012】
本発明の液滴吐出装置では、前記液体として、複数種のものを用いることが好ましい。
本発明は、各種用途の液滴吐出装置に適用し得るが、特に、複数種の液体を用いる装置へ好適に適用される。
本発明の液滴吐出装置では、前記液体として、生物由来物質を含む液体を用いることが好ましい。
本発明は、各種用途の液滴吐出装置に適用し得るが、特に、生体由来物質を含む液体を用いる装置へ好適に適用される。
本発明の液滴吐出装置では、当該液滴吐出装置は、マイクロアレイ作製装置であることが好ましい。
本発明は、各種用途の液滴吐出装置に適用し得るが、特に、マイクロアレイ作製装置へ好適に適用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドを示す図(平面図および側面図)、図2は、図1に示す液滴吐出ヘッドの断面図(液体収納部が第1の位置にある状態を示す)、図3は、図1に示す液滴吐出ヘッドの断面図(液体収納部が第2の位置にある状態を示す)、図4は、図1に液滴吐出ヘッドの流路基板の分解図(平面図)である。
【0014】
なお、図2および図3中(a)は、図1中のA−A線断面図を、図2および図3中(b)は、図1中B−B線断面図を示す。
また、以下では、図1および図4中、紙面手前側を「上」または「上方」、紙面奥側を「下」または「下方」として、また、図2および図3中、上側を「上」または「上方」、下側を「下」または「下方」として説明する。
【0015】
各図に示す液滴吐出ヘッド1は、流路201が形成された流路基板(基部)2と、流路基板2上に設けられた液体収納部3と、流路基板2の下面に接合されたヘッドチップ(液滴吐出部)4とを備え、液体収納部3に収納された液体を流路201を介してヘッドチップ4に供給し、液体を液滴吐出部4から液滴として吐出する。
図1〜図4に示すように、流路基板2は、上基板21と、この上基板21に接合された下基板(再配置流路基板)22とで構成され、全体形状として直方体形状(四角い平板状)をなしている。
【0016】
上基板21には、その厚さ方向に貫通する貫通孔211が複数形成されている。一方、下基板22には、図4に示すように、平面視において複雑な形状の溝221が複数形成され、各溝221は、それぞれ、下基板22の中央部において、その一端が下基板22の下面に開放している。
上基板21に下基板22を接合した状態で、各溝221は、それぞれ、その他端において貫通孔211に連通するとともに、その上側開口が上基板21により塞がれ、これにより、流路201が画成されている。
【0017】
なお、上基板21と下基板22との接合方法は、例えば、熱圧着や接着剤による接着等の方法を用いることができる。
この流路201の上側開口(後述するヘッドチップ4と反対側の開口)は、行列状に配置されている。後述するが、各流路201にそれぞれ対応して設けられる収納空間31も同様である。このような規則的な配置とすることにより、各収納空間31に液体を供給する際に、分注装置を用いる場合には、特にその操作性を向上させることができる。
【0018】
また、上基板21の上側縁部には、2つの長辺および1つの短辺に沿って凸条(リブ)212がコ字状に形成されている。そして、2つの長辺に沿って設けられた凸条212には、それらの対向する面にそれぞれ溝(ガイド部)213が形成されている。
これらの溝213には、それぞれ、液体収納部3の側面下方に突出形成されたレール部34が挿入される。
【0019】
流路基板2上には、液体収納部3が移動可能に設けられている。
この液体収納部3は、平板状(直方体状)をなし、前記流路201に対応する複数の収納空間31が形成されている。各収納空間31は、それぞれ、液体収納部3の厚さ方向に貫通して形成された貫通孔で構成され、その下側開口が、後述する液体収納部3が第1の位置にある状態で、流路基板2により塞がれることにより、液体が収納可能となる。
【0020】
また、液体収納部3には、その長手方向に沿って、一対のレール部34が設けられている。各レール部34は、それぞれ対向する側面の下方に突出形成されている。
これらのレール部34が、それぞれ、流路基板2に形成された一対の溝213に挿入され、これにより、液体収納部3は、各収納空間31と対応する各流路201との連通を許容しない第1の位置(図2に示す位置)と、これらの連通を許容する第2の位置(図3に示す位置)とに、流路基板2に対して相対的にスライド可能(変位可能)となっている。
【0021】
図1〜図3に示すように、液体収納部3の上面には、その縁部に沿って、リング状(環状)の凸条(リブ)32が形成されている。この凸条32の内側に、後述する減圧機構16が備えるキャップ161が装着される。
また、図2および図3に示すように、液体収納部3の下面には、その縁部に沿って、リング状(環状)の溝(凹部)33が形成されている。そして、溝33内にシールリング(封止材)5が装着されており、このシールリング5が溝33の内面および流路基板2の上面に密着することにより、液体収納部3と流路基板2との間の気密性(液密性)が確保されている。
【0022】
このシールリング5は、例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレン−プロピレンゴム、ヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等の弾性材料で構成することができる。
このような液体収納部3および前記流路基板2(上基板21、下基板22)の構成材料としては、それぞれ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、アイオノマー、アクリル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリオキシメチレン、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキサンテレフタレート(PCT)等のポリエステル、ポリエーテル、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド、ポリアセタール(POM)、ポリフェニレンオキシド、変性ポリフェニレンオキシド、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、芳香族ポリエステル(液晶ポリマー)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、その他フッ素系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタン等、またはこれらを主とする共重合体、ブレンド体、ポリマーアロイのような各種樹脂材料、各種ガラス材料、各種金属または金属酸化物材料等が挙げられる。
【0023】
収納空間31、貫通孔211、溝221は、例えば、各部材を射出成形により製造する際に型に対応する形状を形成しておく方法、ドライエッチング、ウェットエッチング、ブラスト加工等の方法により形成することができる。
また、流路基板2の上面には、凸部61が形成され、一方、液体収納部3の下面には、凸部61に係合する凹部62が形成されている。液体収納部3が第1の位置から第2の位置に至ると、凸部61が凹部62に係合し、液体収納部3が流路基板2に対して固定される。
すなわち、凸部61と凹部62とにより、液体収納部3を第2の位置に固定する固定手段が構成される。
このような固定手段を設けることにより、不本意に、液体収納部3が流路基板2から脱落するのを確実に防止することができる。
【0024】
なお、液体収納部3は、流路基板2に対してスライドさせる他、例えば回転させることにより、第1の位置から第2の位置に変位するよう構成することもできる。ただし、スライド式にすることにより、液体収納部3の第1の位置から第2の位置への移動操作を比較的容易にできるため、液滴吐出装置を構築する際の移動操作機構の簡略化を図ることができる。
【0025】
また、本実施形態では、各流路201と対応する各収納空間31との連通がほぼ同時に行われるよう構成されているが、液体収納部3が複数に分割され、分割された部分が互いに独立してスライド(変位)可能となっていてもよい。ただし、各流路201と対応する各収納空間31との連通がほぼ同時に行われるよう構成することにより、液滴吐出装置を構築する際の移動操作機構の簡略化を図ることができる。
【0026】
一方、流路基板2の下面(流路基板2を介して液体収納部3と反対側)には、ヘッドチップ4が固定されている。
このように、流路基板2、液体収納部3およびヘッドチップ4を積層することにより、液滴吐出ヘッド1の小型化を図ることができる。
このヘッドチップ4は、複数の圧力室を備え、各圧力室に供給された液体を液滴として吐出するものである。なお、液滴の吐出方法としては、例えば、圧電素子の作動により圧力室の容積を変化させる方法(インクジェット方式)、ペルチェ素子(加熱手段)の作動により圧力室内に気泡を生じさせる方法(バブルジェット方式(バブルジェットは登録商標))、静電気力により圧力室の容積を変化させる方法(静電駆動方式)等のいかなる方法であってもよい。
ヘッドチップ4が備える各圧力室には、それぞれ、1つの流路201が連通している。これにより、液体収納部3を第2の位置とした状態で、各収納空間31内に収納された液体は、それぞれ、対応する流路201を介して、ヘッドチップ4の対応する圧力室に供給される。
【0027】
次に、このような液滴吐出ヘッド1を備える液滴吐出装置について説明する。
以下では、この本発明の液滴吐出装置をマイクロアレイ作製装置に適用した場合を代表に説明する。
図5は、本発明の液滴吐出装置を適用したマイクロアレイ作製装置を示す斜視図、図6は、図5に示すマイクロアレイ作製装置が備える脱泡用の減圧機構の構成を示す模式図(縦断面図)である。
【0028】
なお、以下では、図5中、左右方向をX軸方向、紙面斜め前後方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向として説明する。
図5に示すマイクロアレイ作製装置10は、基台11、液滴吐出ヘッド1を保持し、X軸方向に往復移動するX軸方向移動機構12と、基板15を載置するテーブル13と、テーブル13を保持し、Y軸方向に往復移動するY軸方向移動機構14と、脱泡用の減圧機構16と、液体充填用の減圧機構17と、各部の駆動を制御する制御部18とを備えている。
【0029】
2つの減圧機構16および17は、それぞれ、液滴吐出ヘッド1の格納位置(ホームポジション)に設けられており、図示しないZ軸方向移動機構により、液滴吐出ヘッド1に接近および離間可能となっている。
X軸方向移動機構12、Y軸方向移動機構14およびZ軸方向移動機構は、それぞれ、例えば、タイミングベルト機構やボールネジ機構等を用いて数値制御方式等により移動させ得るよう構成されている。
【0030】
また、液滴吐出ヘッド1は、流路基板2がX軸方向移動機構14の端部に固定・保持されている。
また、基台11には、減圧機構17の側部に、液滴吐出ヘッド1の液体収納部3と当接し得る当接板19が設けられている。
ここで、減圧機構16、17について説明する。なお、減圧機構16、17の構成は、ほぼ同様であるので、減圧機構16を代表に説明する。
【0031】
図6に示す減圧機構16は、キャップ161と、ポンプ(減圧手段)162と、キャップ161とポンプ162とを接続するチューブ163とで構成されている。
キャップ161は、液滴吐出ヘッド1(液体収納部3)の収納空間31を覆って、閉空間164を画成するものであり、この閉空間164がポンプ163により減圧される。
キャップ161は、有底筒状の部材で構成されている。キャップ161は、例えば、前述したような弾性材料で構成することができる。
【0032】
キャップ161を弾性材料で構成することにより、液滴吐出ヘッド1の液体収納部3の上面と密着させることが可能となり、閉空間164の気密性を向上させることができる。
なお、キャップ161を硬質部材で構成し、キャップ161の開口縁部に、前述したシールリング5と同様のシールリングを設けるようにしてもよい。
このキャップ161には、チューブ163を介して、例えば、減圧ポンプ、チューブポンプ等で構成されるポンプ162が接続されている。
なお、チューブ163は、キャップ161と一体形成されていても、別体であってもよい。
【0033】
以上のようなマイクロアレイ作製装置10では、プローブ(生体由来物質)を含有す液体を液滴吐出ヘッド1から液滴として吐出し、基板15に着弾させてマイクロアレイを作製する。
まず、プローブを含有する液体および基板15について説明する。
プローブには、例えば血液、尿、唾液、髄液のような生体サンプル(検査対象物)に含まれる標的物質(ターゲット)を捕捉し得る物質を用いることができる。
【0034】
例えば、ターゲットがDNAやRNAのような核酸である場合には、プローブとしては、これらの核酸とハイブリダイゼーション(相補的に結合)する核酸やヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)等を用いることができる。このような核酸としては、例えばcDNAやPCR産物等が用いられる。
また、これらの核酸およびオリゴヌクレオチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0035】
また、ターゲットが特定のタンパク質である場合には、プローブとしては、このタンパク質を特異的に捕捉(例えば、吸着、結合等)するもの等が用いられる。
具体的には、抗原、抗体、レセプター、酵素等のタンパク質、ペプチド(オリゴペプチド)が挙げられる。
また、これらのタンパク質およびペプチドは、それぞれ、一部が他原子により置換されたものであってもよく、蛍光分子等の標識が導入されたものであってもよい。
【0036】
なお、プローブとしてタンパク質を使用する場合、このプローブとなるタンパク質を表面に発現した細胞(生細胞)を液体に混合してもよい。
液体の調製に用いる媒質(溶媒または分散媒)としては、プローブの種類に応じて適宜選択され、特に限定されないが、前述したようなプローブの場合には、例えば水や各種緩衝液等が好適に用いられる。
【0037】
この媒質には、粘度や表面張力等を制御する各種添加剤が添加されていてもよい。このような添加剤としては、単価アルコール、多価アルコール、界面活性剤等が挙げられる。
液体の粘度は、1〜10cps程度であるのが好ましく、2〜5cps程度であるのがより好ましい。また、液体の表面張力は、10〜60mN/m程度であるのが好ましく、20〜40mN/m程度であるのがより好ましい。
【0038】
基板15としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、シリコン、金属(例えば金、銀、銅、アルミニユウム、白金等)、金属酸化物(例えばSrTiO、LaAlO、NdGaO、ZrO、酸化ケイ素等)、樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート)等よりなる基板を用いることができる。
また、基板15は、1種類の材料で構成されたもの(単層基板)でもよく、複数種の材料を組み合わせたもの(例えば、複数層の積層基板等)であってもよい。
【0039】
なお、基板15としては、ガラス基板を用いるのが好適である。ガラス基板は、入手の容易さ、低コストであること等から好ましい。
また、基板15には、必要に応じて、表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、例えば、プローブを基板15の表面に確実に固定するための処理(固相化処理)等が挙げられる。
【0040】
固相化処理としては、プローブと共有結合またはイオン結合する官能基、例えばチオール基、アミノ基、イソシアネート基、クロライド基、エポキシ基等を導入する処理等が挙げられる。
基板15としてガラス基板を用いる場合には、前記官能基は、これを有するカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、ジルコニウム系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤等)で処理することにより導入することができる。
【0041】
その他、固相化処理としては、プローブが核酸やヌクレオチドの場合、ポリ−L−リジンの被着、プラズマ重合膜の形成等の方法を用いるようにしてもよい。また、活性化エステルを基板15に被着させる表面処理を行うとともに、プローブの末端(例えば、二重鎖DNA断片のセンス鎖末端)をアミノ化するようにしてもよい。これにより、活性化エステルとアミノ基の共有結合を介してプローブが基板15に強固に固定される。
一方、プローブがタンパク質やペプチドである場合、タンパク質とアミド結合を形成する活性基を、基板15の表面に導入する表面処理等を行う。これにより、プローブを基板15に強固に固定することができる。活性基としては、カルボニルイミダゾール基、エポキシ基等が挙げられる。
【0042】
以下、マイクロアレイ作製装置10によるマイクロアレイの作製方法(作用)について、図5および図7を参照しつつ説明する。
図7は、マイクロアレイの作製方法を説明するための図である。
【0043】
[1] まず、液体収納部3を第1の位置とし、この状態で、液滴吐出ヘッド1の各収納空間31に所定の液体7を供給する(図7(a)参照。)。
液体7の供給方法は、特に限定されず、例えば、ピペットを用いた手法により、各収納空間31にそれぞれ液体7を供給してもよく、分注装置を用いて複数の収納空間31に一括して液体7を供給するようにしてもよい。
【0044】
[2] 次に、液滴吐出ヘッド1(流路基板2)をX軸方向移動機構12の端部に固定する。
[3] 次に、液滴吐出ヘッド1を格納位置に移動させ、脱泡用の減圧機構16を下降させる。これにより、減圧機構16のキャップ161が、液滴吐出ヘッド1の液体収納部3に密着し、各収納空間31がキャップ161で覆われ、閉空間164が形成される(図7(b)参照。)。
【0045】
この状態で、ポンプ162により閉空間164を減圧する。これにより、各収納空間31内に収納された液体7から空気が除去(脱泡)される。
このとき、液体収納部3と流路基板2との間の気密性がシールリング5により確保されているため、液体7の脱泡を確実に行うことができる。
マイクロアレイ作製装置10では、液体7として複数種のもの(異なる生体由来物質を含む液体)が用いられるが、かかる構成によれば、複数種の液体7から一括して脱泡を行うことができるので作業性に優れ、マイクロアレイの製造時間の短縮、製造コストの削減を図ることができる。
【0046】
[4] 次に、減圧機構16を上昇させ、液滴吐出ヘッド1を格納位置から基台11の外側(図5および図7中、右側)に向かって、液滴吐出ヘッド1を移動させる。
液滴吐出ヘッド1を移動させると、液体収納部3が当接板19に当接し、それ以上、基台11の外側に移動するのが阻止される(図7(c)参照。)。
さらに、X軸方向移動機構12を、基台11の外側に向かって移動させると、当接板19により移動が阻止された液体収納部3に対して、流路基板2がスライドを開始する。これにより、液体収納部3が第1の位置から第2の位置に移動する(図7(d)参照。)。
【0047】
また、このとき、凸部61が凹部62に係合し、液体収納部3が流路基板2に対して固定される。
液体収納部3が第2の位置に至ると、収納空間31と所定の流路201とが連通する。これにより、収納空間31に収納された液体7は、流路201を流れて、ヘッドチップ4の所定の圧力室内に供給される。
【0048】
[5] 次に、減圧機構17を上昇させる。これにより、減圧機構17のキャップが、液滴吐出ヘッド1のヘッドチップ4または流路基板2に密着し、ヘッドチップ4の各ノズル孔がキャップで覆われ、閉空間が形成される。
この状態で、ポンプにより閉空間を減圧する。これにより、各ノズル孔に均一かつ確実に液体7が充填される。
【0049】
[6] 次に、減圧機構17を下降させた後、液滴吐出ヘッド1とテーブル13とを相対的にX軸方向およびY軸方向に移動させ、液滴吐出ヘッド1から基板15に液滴を吐出する。
これにより、基板15上には、スポットが複数形成される。このスポットのスポット径は、10〜300μm程度であるのが好ましく、15〜150μm程度であるのがより好ましい。
【0050】
また、スポットの平面形状(基板15の鉛直上方から見た形状)は、一般には円形形状とされるが、非円形形状であってもよい。この非円形形状としては、例えば、楕円形、十字型、記号、数字等が挙げられる。
基板15上には、スポットを1種類の形状で形成してもよく、2種類以上の形状を組み合わせて形成するようにしてもよい。
非円形形状のスポットを形成する場合、このものは、マイクロアレイ上の特定位置を識別するための位置標識として用いてもよく、プローブの種類や、検査・解析の結果を示すための形状としてもよい。これにより、このマイクロアレイを用いる検査・解析が容易になる。
【0051】
[7] 次に、液体7のスポットが形成された基板15を、必要に応じて、インキュベート(加温)するようにしてもよい。これにより、プローブを基板15上により確実に定着(固定)させることができる。
インキュベートの方法としては、例えば、基板15を加熱する方法、液体7を加熱する方法等を用いることができる。加熱の方法としては、例えば、ヒータによる加熱、レーザ光の照射、赤外線や電磁波の付与等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
インキュベートの温度は、25〜40℃程度が好ましい。また、インキュベートの時間も、特に限定されないが、前記温度範囲で行う場合には、30分〜24時間程度であるのが好ましい。
以上のような工程を経て、マイクロアレイが得られる。
このように、本発明によれば、液体同士が混ざり合うこと(コンタミネーション)を防止しつつ、各液体からの確実な脱泡や、各ノズル孔への確実な液体の充填等を行うことができ、その結果、高精度での液滴吐出が可能となる。
【0053】
以上、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置の各部の構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することもできる。
また、前記実施形態では、本発明の液滴吐出装置をマイクロアレイ作製装置に適用した場合を代表に説明したが、本発明の液滴吐出装置は、複数種のインクを吐出するプリンタに適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の液滴吐出ヘッドを示す図(平面図および側面図)である。
【図2】図1に示す液滴吐出ヘッドの断面図(液体収納部が第1の位置にある状態を示す)である。
【図3】図1に示す液滴吐出ヘッドの断面図(液体収納部が第2の位置にある状態を示す)である。
【図4】図1に液滴吐出ヘッドの流路基板の分解図(平面図)である。
【図5】本発明の液滴吐出装置を適用したマイクロアレイ作製装置を示す斜視図である。
【図6】図5に示すマイクロアレイ作製装置が備える脱泡用の減圧機構の構成を示す模式図(縦断面図)である。
【図7】マイクロアレイの作製方法を説明するための図である。
【符号の説明】
【0055】
1……液滴吐出ヘッド 2……流路基板 201……流路 21……上基板 211……貫通孔 212……凸条 213……溝 22……下基板 221……溝 3……液体収納部 31……収納空間 32……凸条 33……溝 34……レール部 4……ヘッドチップ 5……シールリング 61……凸部 62……凹部 7……液体 10……マイクロアレイ作製装置 11……基台 12……X軸方向移動機構 13……テーブル 14……Y軸方向移動機構 15……基板 16、17……減圧機構 161……キャップ 162……ポンプ 163……チューブ 164……閉空間 18……制御部 19……当接板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路が形成された基部と、
該基部に固定され、前記各流路にそれぞれ連通する複数の圧力室を備え、該各圧力室に供給された液体を液滴として吐出する液滴吐出部と、
前記液体を収納し、前記各流路に対応する複数の収納空間を備え、該各収納空間と対応する前記各流路との連通を許容しない第1の位置と、これらの連通を許容する第2の位置とに、前記基部に対して相対的に変位可能に設けられた液体収納部とを有することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記液体収納部は、前記基部に対して相対的にスライド可能に設けられている請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記基部は、平板状をなしており、
前記液滴吐出部と前記液体収納部とは、前記基部を介して反対側に設けられている請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
前記流路の前記液滴吐出部と反対側の開口は、行列状に配置されている請求項3に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項5】
前記各流路と対応する前記各収納空間との連通は、ほぼ同時に行われる請求項1ないし4のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項6】
前記液体収納部と前記基部との間の気密性を確保する機能を有する封止材を有する請求項1ないし5のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記液体収納部を前記第2の位置に固定する固定手段を有する請求項1ないし6のいずれかに記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の液滴吐出ヘッドと、
前記液体収納部を前記第2の位置とした状態で、前記各収納空間を覆うことにより閉空間を形成するキャップと、前記閉空間を減圧する減圧手段とを備える減圧機構とを有することを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項9】
前記液体収納部を前記第2の位置とした状態で、前記各収納空間にそれぞれ前記液体を供給した後、前記各収納空間を前記キャップで覆うことにより前記閉空間を形成し、
次いで、前記減圧手段により前記閉空間を減圧することにより、前記液体の脱泡を行うよう構成されている請求項8に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記液体として、複数種のものを用いる請求項8または9に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
前記液体として、生物由来物質を含む液体を用いる請求項8ないし10のいずれかに記載の液滴吐出装置。
【請求項12】
当該液滴吐出装置は、マイクロアレイ作製装置である請求項8ないし11のいずれかに記載の液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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