説明

液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】本発明の目的は、駆動電圧の大幅な上昇や飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなく、また、製造が容易で、ノズルから吐出する液滴の量を多段階に可変することのできる液滴吐出ヘッドの提供。
【解決手段】複数の流路を区画し少なくとも一部が圧電素子で形成された隔壁と前記複数の流路の配列方向に沿って前記流路の上面を閉鎖する上壁と前記流路の下面を閉鎖する下壁により形成された矩形管状の流路と、流路内の液体を液滴として吐出するノズルとを有し、前記隔壁の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状の流路の長手方向に配置された2つの駆動電極が設けられ、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
微小なインク滴を用いて画像を記録するためのインクジェットヘッド(以下、単にヘッドという場合がある)のようにノズルから液滴を吐出させる液滴吐出ヘッドでは、圧力発生手段により圧力発生室内に圧力を付与することでノズルから液滴を吐出させ、記録紙等の記録媒体上に着弾させる。
【0003】
従来、分極された圧電素子に多数の溝を形成してアクチュエータ基板を構成し、該アクチュエータ基板の上面にカバープレートを接着することにより、上記圧電素子により区画される多数の圧力発生室を形成し、隣接する圧力発生室間の圧電素子に電界を印加することにより該圧電素子を変形させて圧力発生室内のインクを前記カバープレートまたはアクチュエータ基板の底面に形成されたノズル穴から吐出させるようにした、いわゆるせん断モードタイプのインクジェット記録ヘッド(以下、せん断モードヘッドとも言う。)が知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−162795号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、多段階の階調表現や、たとえば300dpiと600dpiの解像度変更が可能であり、高精細な印字イメージを実現でき、高品質で高機能なインクジェットプリンタが求められている。
【0005】
特許文献1に開示されたヘッドでは、各ノズルに対して1対1に備えられた圧力室の圧電素子を駆動することによりノズルからインクを吐出するため、インク滴量を変化させる方法として、圧電素子に印加する駆動パルスの電圧値等の駆動条件に応じてインク滴の噴射する量を変えることが考えられる。しかしながら、通常、インク滴径を変化させるために駆動条件を大きく変更することは難しかった。特に、インク滴の速度を変えずにインク滴量をコントロールすることはできなかった。
【0006】
また、小さいインク滴を吐出するヘッドを用いて、1ドットに対し複数回重ね打ちし、その回数を制御することにより、階調制御を行うことも考えられる。しかし、この方法では、安定に充分高品位な多階調画像を出力することができるが、1ドットに対して複数回インク吐出を行うため印字速度低下を招くこととなる。
【0007】
また、インク吐出量の異なる複数のノズルを設け、これらを選択的に組み合わせて、階調表現をすることも考えられるが、この場合、階調レベルを多く取れる利点はあるが、記録ヘッドが大型化するとともに、ヘッドの製造コストが増加するという問題点がある。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、製造が容易で製造コストを低減でき、飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなく、ノズルから吐出するインクの滴量を多段階に可変することのできる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下のような構成により達成される。

複数の流路を区画し少なくとも一部が圧電素子で形成された隔壁と前記複数の流路の配列方向に沿って前記流路の上面を閉鎖する上壁と前記流路の下面を閉鎖する下壁により形成された矩形管状の流路と、流路内の液体を液滴として吐出するノズルとを有し、前記隔壁の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状の流路の長手方向に配置された2つの駆動電極が設けられ、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。

前記2つの駆動電極の各々に独立して駆動信号が印加されることを特徴とする1に記載の液滴吐出ヘッド。

前記2つの駆動電極の間に対応する位置に1つの前記ノズルが設けられていることを特徴とする1または2に記載の液滴吐出ヘッド。

1乃至3のいずれか1に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造が容易で製造コストを低減でき、飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなく、ノズルから吐出するインクの滴量を多段階に可変することのできる液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明に関する実施の形態の例を示すが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。
【0013】
本発明に係る液滴吐出ヘッドにおいて流路内に満たされる液体はどのような液体であっても良い。以下の説明では、流路内に満たされる液体としてインクを使用した液滴吐出ヘッドであるインクジェットヘッド(以下ヘッドと記す場合がある)を用いて説明する。
【0014】
また、このような液滴吐出ヘッドを備えた液滴吐出装置としてインクジェット記録装置を例に挙げて説明する。
【0015】
なお、実施の形態における説明においては、例えば、ヘッドの個々の駆動電極16A−a、16B−a,16A−b、16B−b・・・を説明するとき以外は、添え字のアルファベット等を省略して統括して説明する場合がある。ヘッドの他の構成要素についても同様である。
<インクジェット記録装置>
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドに係る液滴吐出装置が適用されるインクジェット記録装置の概略構成を示す図である。インクジェット記録装置1において、基材である記録媒体Pは、搬送機構3の搬送ローラ対32に挟持され、更に、搬送モータ33によって回転駆動される搬送ローラ31により図示Y方向に搬送されるようになっている。
【0016】
搬送ローラ31と搬送ローラ対32の間には、記録媒体Pの記録面PSと対向するようにインクジェットヘッド2が設けられている。このヘッド2は、記録媒体Pの幅方向に亘って掛け渡されたガイドレール4に沿って、不図示の駆動手段によって、上記記録媒体Pの搬送方向(副走査方向)と略直交する図示X−X’方向(主走査方向)に沿って往復移動可能に設けられたキャリッジ5に、ノズル面側が記録媒体Pの記録面PSと対向するように配置されて搭載されており、駆動回路24A、24B(図3参照)がFPC6A,6Bを介して本体側の制御基板100に電気的に接続されている。
【0017】
なお、基材としては、紙、樹脂、ガラス、金属等何でも良い。
【0018】
ヘッド2は、インク供給管27によりインクタンク9(図3参照)と接続されており、インクタンク9からヘッド2にインクが供給される。
【0019】
かかるヘッド2は、キャリッジ5の移動に伴って記録媒体Pの記録面PSを図示X−X’方向に移動し、この移動過程でインク滴を吐出することによって所望のインクジェット画像を記録するようになっている。
【0020】
なお、図中、7はインク受け器であり、ヘッド2が記録領域外のホームポジション等の待機位置に設けられている。ヘッド2がこの待機位置にある時、このインク受け器7に向けてインク滴を少量はき捨てるようにする。ヘッド2がこの待機位置において長期間作動停止している時は、図示しないが、ヘッド2のノズル面にキャップを被せることにより保護するようになっている。また、8は記録媒体Pを挟んで上記インク受け器7の反対位置に設けられたインク受け器であり、往復両方向で記録するとき、往動から復動に切り替えるときに、上記同様にはき捨てられたインク滴を受け入れる。
<ヘッドの構成>
インクジェットヘッド2は、複数の流路を区画し少なくとも一部が圧電素子で形成された隔壁と前記複数の流路の配列方向に沿って前記流路の上面を閉鎖する上壁と前記流路の下面を閉鎖する下壁により形成された矩形管状の流路と、流路内のインクをインク滴として吐出するノズルとを有し、前記隔壁の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状の流路の長手方向に配置された2つの駆動電極が設けられ、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成されていることを特徴とする。
【0021】
ここで、流路は、インクが供給されるインク流路として機能するものと、インクが供給されない空気流路として機能するものとが交互に配置されるものでもよいし、また、空気流路を設けずに全てインク流路として機能させるようにしたものであってもよい。
【0022】
なお、本明細書においては、ヘッド2からインクが吐出される側の面を「上面」といい、その反対側の面を「下面」という。また、ヘッド2において並設されるインク流路の両端をそれぞれ「前面(図3の右側に位置する外側面)」及び「後面(図3の左側に位置する外側面)」という。
【0023】
図2は空気流路を設けずに全てインク流路として機能させるようにしたヘッド2の一例を示す分解斜視面、図3は、図2のヘッド2の前面と後面にそれぞれ複数のインク流路に対して共通の1つの貫通口21を設けた配線基板11と1つのマニホールド20を取り付けた状態でのD−D線に沿うヘッドの縦断面である。なお、図2においては、配線基板とマニホールドを省略してある。
【0024】
図中、2はヘッド、12はヘッド2の下面に接合された下壁、13はヘッド2の上面に接合されたノズルを有する上壁、11は配線基板(図3)、6A、6Bは配線基板11に接合されるFPCである。
【0025】
本例のヘッド2は、複数のインク流路14を区画し圧電素子で形成された隔壁25−1、25−2と前記複数のインク流路14の配列方向に沿って前記インク流路14の上面を閉鎖する上壁13と前記インク流路の下面を閉鎖する下壁12により形成された矩形管状のインク流路14と、各インク流路に対応して1つずつ設けられインク流路14内のインクをインク滴として吐出するノズル19とを有し、前記隔壁25−1、25−2の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状のインク流路14の長手方向に配置された2つの駆動電極16A,16Bが設けられ、前記上壁13に対して前記ノズル19が形成されている。
【0026】
ヘッド2は、上壁13、下壁12との間に、圧電素子からなる駆動壁25−1,25−2とインク流路14とが交互に並設されている。インク流路14の形状は、両隔壁が上壁13、下壁12に対してほぼ垂直方向に立ち上がっており、そして互いに平行である。図3に示すように、ヘッド2の前面及び後面にそれぞれ各インク流路14の一端22Aと他端22Bとが配設されると共に、各インク流路14は、一端22Aから他端22Bに亘る長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレートタイプである。このようにインク流路14がストレートタイプであることにより、泡抜けが良く、電力効率が高く、発熱が少なく、高速応答性が良いインクジェットヘッドとすることができる。
【0027】
このようなヘッド2を製造するには、まず、1枚の基板である下壁12上に、2枚の圧電素子基板125、126をそれぞれエポキシ系接着剤を用いて接合する。各圧電素子基板125、126に用いられる圧電素子材料としては、電圧を加えることにより変形を生じる公知の圧電素子材料を用いることができるが、特にチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が好ましい。2枚の圧電素子基板125、126は互いに分極方向(矢印で示す)を反対方向に向けて積層し、下壁12に接着剤を用いて接着する。
【0028】
次いで、その2枚の圧電素子基板125、126に亘って、ダイシングブレード等を用いて複数の平行な溝を研削する。これにより、下壁12上に高さ方向で分極方向が反対となる圧電素子からなる隔壁25−1、25−2を並設する。各溝は圧電素子基板125、126の一方の端から他方の端に亘ってほぼ同じ一定の深さで研削することで、長さ方向で大きさと形状がほぼ変わらないストレート状のインク流路14となる。2枚の圧電素子基板125、126は分極方向が反対に向いているので、この圧電素子基板125、126によって形成される隔壁25−1,25−2全体が効率良く、大きな変形量でせん断変形するため、インク流路14内のインクに高い圧力を付与することができ、低電圧で駆動でき、また、インクの着弾ずれを抑えて画質の向上を図ることができる。
【0029】
また、図示しないが、下壁12を用いる代わりに圧電素子基板125を厚手のものとし、薄手の圧電素子基板126側から厚手の圧電素子基板125の中途部にまで至る複数の平行な溝を研削することにより、高さ方向で分極方向が反対となる隔壁25−1,25−2の形成と同時に下壁12の部分が圧電素子基板125によって一体に形成されるようにしてもよい。
【0030】
次いで、このようにして形成した各インク流路14の内面に駆動電極16を形成する。駆動電極16を形成する金属は、Ni、Co、Cu、Al等があり、電気抵抗の面からはAlやCuを用いることが好ましいが、腐食や強度、コストの面からNiが好ましく用いられる。また、Alの上に更にAuを積層した積層構造としてもよい。
【0031】
駆動電極16の形成は、蒸着法、スパッタリング法、めっき法、CVD(化学気相反応法)等の真空装置を用いた方法等によって金属被膜を形成する方法が挙げられるが、めっき法によるものが好ましく、特に無電解めっきにより形成することが好ましい。無電解めっきによれば、均一且つピンホールフリーの金属被膜を形成することができる。めっき膜の厚みは0.5〜5μmの範囲が好ましい。
【0032】
また、駆動電極16はインク流路14毎に独立させる必要があるため、隔壁25−1の上面や後述する引き出し部を除いたヘッドの前面、後面には金属被膜が形成されないようにすることが好ましい。さらに、駆動電極16は、隔壁25−1,25−2の壁面にそれぞれ独立に形成され矩形管状のインク流路14の長手方向に配置された2つの駆動電極16A(長さL2)、16B(長さL1)として独立させる必要があるため、インク流路14の長手方向のほぼ中央部分(長さL3)には金属被膜が形成されないようにする必要がある。このため、例えば各隔壁25−1の上面、引き出し部を除いたヘッドの前面、後面、及びインク流路の長手方向のほぼ中央部分に予めドライフィルムを貼着したり、レジストを形成しておき、金属被膜を形成した後に除去することで、引き出し部、各隔壁25−1,25−2の側面及び各インク流路14の底面に選択的にインク流路の中央で分離された駆動電極16A,16Bを形成するとよい。なお、全体に金属被膜を形成後、不要部分の金属被膜をレーザー光やエッチングで除去するようにしてもよい。
【0033】
本例においては、L1=L2としているが、L1とL2を異ならせても良い。
【0034】
以下、駆動電極16Aに対応した部分をインク流路14A、隔壁25Aとし、駆動電極16Bに対応した部分をインク流路14B、隔壁25Bとして説明する。
【0035】
このようにして駆動電極16A,16Bを形成した後、隔壁25−1の上面に1枚の基板である上壁13をエポキシ系接着剤を用いて接合する。上壁13には、各インク流路14に対応する位置にノズル19が開設されている。
【0036】
下壁12及び上壁13の材料は、下壁12及び上壁13は、隔壁の頂面に接合し、かつ隔壁の頂面を拘束する必要があるため、剛性の高い材質にて形成することが望ましく、非圧電性非金属材料からなる基板が好ましい。この非圧電性非金属材料からなる基板として、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、分極されていないPZTの少なくとも1つから選ばれることが好ましい。また、この下壁12及び上壁13に用いられる材料は、その熱膨張係数が隔壁に通常用いられる圧電材料であるPZTの熱膨張係数と近いことが好ましく、窒化アルミニウムあるいは分極されていないPZTが特に好ましい。その理由は、下壁12及び上壁13を分極されたPZTと接着する際、熱硬化型接着剤が使用されるが、下壁12及び上壁13の熱膨張係数が圧電材料のそれとかけ離れていると、冷却時に歪みが生じたり、材料間で剥離が生じる問題があるためである。また、圧電材料の駆動の発熱によって下壁や上壁との間に上記同様の歪みや剥離が発生する事態を抑えることもできる。なお、上記で例示した窒化アルミニウムとしては、(株)住金セラミックス社製のAlN−BN(BNは窒化ボロン)を用いることができる。
【0037】
また、本発明のヘッドは、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成される。上述のアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア、シリコン、窒化シリコン、シリコンカーバイド、石英、分極されていないPZTの基板に形状の整ったノズル孔を形成することは容易ではないため、図3に示すように、下壁13をノズルの形成されたノズルプレート13aと支持部材13bを積層した複合部材として構成することが好ましい。
【0038】
ノズルプレート13aの材料としては、ポリイミド樹脂等の樹脂かステンレス等の金属を用いることができる。ノズルの穿孔方法としては、樹脂の場合はレーザー加工、金属の場合はプレス加工が実施可能であり、いずれの方法においても形状の整ったノズルを穿孔できるが、生産性の観点で、レーザー加工、特にエキシマレーザーによる加工が好ましい。ノズルの穿孔方向としては、支持部材側からでも、ノズルプレート側からでも良いが、ノズル形状がノズル出口側(ヘッドのインク吐出口側)に向けて小さくなるテーパ形状とすることが良好な吐出特性を得るために好ましく、穿孔する側を接着面とすることによりノズル出口に向けて小さくなるテーパ形状とすることができる。本発明においては、複合部材の支持部材側からレーザー加工にて穿孔し、支持部材側を圧電部材との接着面とする事が、生産性、加工精度の観点から、更には各種形状を得ることが可能となり、好ましい。
【0039】
支持部材13bとしては、窒化アルミニウムあるいは分極されていないPZTを用いることが好ましい。支持部材13bには、ノズル孔に対応したインク導入口として、ノズルの入口の直径より大きな直径を有する円筒形状の貫通口が設けられている。支持部材13bを剛性の高い材質で構成することにより前述の効果が得られる。
【0040】
例えば、先ずノズルを穿孔していないポリイミド樹脂で構成されたノズルプレート13aを、窒化アルミニウムあるいは分極されていないPZTで構成されノズル孔に対応した貫通口を有する支持部材13bに予め加熱接着して複合部材とした後、常温でノズルプレートに支持部材側からエキシマレーザーを照射してノズル孔を形成し、該ノズル孔の形成された複合部材を圧電部材に加熱接着することにより、複合部材とPZTの熱膨張係数が近似していることから、前述の効果が得られるとともに圧電部材のインク流路溝に対するノズル孔の位置ずれが生じることを低減した接着が可能となる。また、ノズル孔の形状としてインク流路側が広く、外側に向かって小さいテーパを有するノズル孔となる方向で接着をすることが容易となるものである。
【0041】
このようにして作成されたヘッド2は、上壁13における1つの前記矩形管状のインク流路14の長手方向に配置された2つの駆動電極16A,16Bの間に対応する位置に1つの前記ノズル19が設けられている。この様な構成にすることにより、ノズル19に近接して2つの駆動電極16A,16Bを設けることが可能になり、駆動電極16A,16Bにより形成されるインク流路14A、14Bからの圧力波をエネルギーロスを抑えた状態でノズル19のインクに伝播させることができ、好ましい態様である。
【0042】
このようにして作成されたヘッド2の前面には、駆動電極16Aのうちのインク流路14の底面に形成された部分(インク流路14内に臨む下壁12の表面)から下壁12の前端面にかけて引き出された駆動電極16Aが形成されている。
【0043】
同様に、ヘッド2の後面には、駆動電極16Bのうちのインク流路14の底面に形成された部分(インク流路14内に臨む下壁12の表面)から下壁12の後端面にかけて引き出された駆動電極16Bが形成されている。
【0044】
さらにヘッド2の前面には、配線基板11Aとマニホールド20Aが接合され、ヘッド2の後面には、配線基板11Bとマニホールド20Bが接合され、各マニホールドとインクタンク9をインク供給管27で接続する。
【0045】
配線基板11は、ヘッド2の幅方向(図2左右方向)と同一の幅を有すると共に、ヘッド2のインク流路14の並び方向と直交する方向(図2における下方向)に延び、ヘッド2の下面から大きく張り出した張り出し部を有している。
【0046】
また、配線基板11には、その幅方向に亘って延びる貫通口21が形成されている。貫通口21は、ヘッド2のインク流路列方向に沿って全てのインク流路14の開口22を覆うことができる大きさに加工されて共通インク室を形成している。
【0047】
また、配線基板11A,11Bの張り出し部は、各々FPC6A,6Bの接合部位として機能しており、ヘッド2との接合面側となる表面に、ヘッド2の前面、後面に形成された駆動電極16A,16Bと同数及び同ピッチで、配線電極23A、23Bが形成されている。
【0048】
また、配線基板11A,11B上に、圧電素子からなる隔壁25A,25Bを駆動するための駆動回路24A,24Bが実装されており、駆動回路24A、24Bと配線電極23A,23Bは各々電気的に接続されている。
【0049】
この配線電極23A,23Bは、FPC6A,6Bが接合される際、装置本体の制御基板と電気的に接続されるFPC6A、6Bの配線66A、66Bと電気的に接続される。このような構成により、制御基板からの制御信号に基づいて、駆動回路24Aは、隔壁25Aを駆動するための駆動信号を駆動電極16Aに,24Bは、隔壁25Bを駆動するための駆動信号を駆動電極16Bにそれぞれ印加する。即ち、第1の圧力発生手段である隔壁25Aの駆動と第2の圧力発生手段である隔壁25Bの駆動は、独立に制御されるように構成されている。そして、後述するように、隔壁25Aに印加される駆動信号に含まれる駆動パルスと隔壁25Bに印加される駆動信号に含まれる駆動パルスの形状やタイミングを変更することにより吐出されるインク適量を変化させる。
<インク滴吐出時のヘッドの駆動方法>
まず、制御基板からの制御信号に基づいて、駆動回路24Aが、隔壁25Aを駆動するための駆動信号を駆動電極16Aに印加し、第1の圧力発生手段である隔壁25Aを変形させてノズル19からインク滴を吐出させる場合について説明する。
【0050】
図4はインク吐出時の作動を示す図である。なお、図4ではノズルは省略してある。
【0051】
ヘッド2は、ここでは図4に示すように、上壁13と下壁12の間に、PZT等の圧電材料からなる複数の隔壁25A−a、25A−b、25A−cで隔てられたインク流路14が多数構成されたせん断モード(シェアモード)タイプのヘッドを示している。図4では多数のインク流路14Aの一部である3本(14A−a、14A−b、14A−c)が示されている。そして、各インク流路14A内の隔壁25表面には両隔壁25の上方から下壁12の底面に亘って繋がる駆動電極16A−a、16A−b、16A−cが密着形成され、各駆動電極16A−a、16A−b、16A−cは駆動回路24Aに接続している。
【0052】
各隔壁25は、ここでは図4の矢印で示すように分極方向が異なる2枚の圧電材料25A−1、25A−2によって構成されているが、圧電材料は例えば符号25A−1の部分のみであってもよく、隔壁25の少なくとも一部にあればよい。
【0053】
各隔壁25表面に密着形成された駆動電極16A−a、16A−b、16A−cに駆動回路24Aの制御により吐出信号が印加されると、以下に例示する動作によってインク滴をノズル19から吐出する。なお、駆動電極16Bの駆動電極はすべて接地されている。
【0054】
まず、駆動電極16A−a、16A−b、16A−cのいずれにも吐出信号が印加されない時は、隔壁25A−a、25A−b、25A−cのいずれも変形しないが、図4(a)に示す状態において、駆動電極16A−a及び16A−cを接地すると共に駆動電極16A−bに吐出信号を印加すると、隔壁25A−b、25A−cを構成する圧電材料の分極方向に直角な方向の電界が生じ、各隔壁25A−b、25A−c共に、それぞれ隔壁25A−1、25A−2の接合面にズリ変形を生じ、図4(b)に示すように隔壁25A−b、25A−cは互いに外側に向けて変形し、インク流路14A−bの容積を拡大してインク流路14A−b内に負の圧力が生じてインクが流れ込む。
【0055】
また、この状態から電位を0に戻すと、隔壁25A−b、25A−cは図4(b)に示す膨張位置から図4(a)に示す中立位置に戻り、インク流路14A−b内のインクに高い圧力が掛かる。次いで、図4(c)に示すように、隔壁25A−b、25A−cを互いに逆方向に変形するように吐出信号を印加して、インク流路14A−bの容積を縮小すると、インク流路14A−b内に正の圧力が生じる。これによりインク流路14A−bを満たしているインクの一部によるノズル内のインクメニスカスがノズルから押し出される方向に変化する。この正の圧力がインク滴をノズルから吐出する程に大きくなると、インク滴はノズルから吐出する。他の各インク流路14Aも吐出信号の印加によって上記と同様に動作する。
【0056】
このように少なくとも一部が圧電材料で構成された隔壁25によって隔てられた複数のインク流路14を有するヘッド2を駆動する場合、一つのインク流路の隔壁が吐出の動作をすると、隣のインク流路が影響を受けるため、通常、複数のインク流路14のうち、互いに1本以上のインク流路14を挟んで離れているインク流路14をまとめて1つの組となすようにして、2つ以上の組に分割し、各組毎にインク吐出動作を時分割で順次行うように駆動制御される。例えば、全インク流路14を駆動してベタ画像を出力する場合には、インク流路を2流路おきに選んで3相に分けて吐出する、いわゆる3サイクル吐出法が行われる。
【0057】
かかる3サイクル吐出動作について図5を用いて更に説明する。図5に示す例では、ヘッドはインク流路がa1、b1、c1、a2、b2、c2、a3、b3、c3の9つのインク流路14Aで構成されているとして説明する。また、このときのa,b、cの各組のインク流路14Aに印加される駆動信号のタイミングチャートを図6に示す。図6において、横軸はAL時間、縦軸は駆動電圧を表す。
【0058】
インク吐出時には、まずa組(a1、a2、a3)の各インク流路の駆動電極に電圧を掛け、その両隣のインク流路の駆動電極を接地する。例えばa組のインク流路に1AL幅の正電圧(Von)の矩形波の膨張パルスを掛けると、膨張パルスの最初の立ち上がり部分で吐出したいa組のインク流路の隔壁が外側に変形し、そのインク流路14A内に負圧が発生する。この負圧により、インクタンク9からa組のインク流路14Aにインクが流れ込む。この圧力波は、共通インク室21Aとインク流路14Bの2つの方向に伝播していく。0.5AL経過後には共通インク室21Aのほうに進んだ圧力波は共通インク室21Aとの境界(22A)で符号が反転してインク流路14Aに戻る。このときインクは共通インク室21Aからインク流路14Aに流入する。またインク流路14Bに進んだ圧力波は14Bに到達しインク流路内を負圧とする。
【0059】
なお、AL(Acoustic Length)とは、インク流路14の音響的共振周期の1/2である。実際のヘッドのALは、圧電材料により構成される隔壁25に矩形波のパルスを印加して出射するインク滴の速度を測定し、矩形波の電圧値を一定にして矩形波のパルス幅を変化させたときに、インク滴の飛翔速度が最大になるパルス幅として求められる。
【0060】
また、本例におけるパルスは、一定電圧波高値の矩形波であり、0Vを0%、波高値電圧を100%とした場合に、パルス幅とは、電圧の0Vからの電圧の立ち上がり始め又は立ち下がり始めの10%から波高値電圧からの立ち下がり始め又は立ち上がり始めの10%との間の時間として定義する。更に、ここで矩形波とは、電圧の10%と90%との間の立ち上がり時間、立ち下がり時間のいずれもがALの1/2以内、好ましくは1/4以内であるような波形を指す。
【0061】
この状態を1AL時間保つと、圧力が正圧に反転するので、このタイミングで電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、高い圧力がa組のインク流路14A内のインクに掛かる。更に、同じタイミングでa組の各インク流路の電極に2AL幅の負電圧(Voff)の矩形波の収縮パルスを掛けると、収縮パルスの最初の立ち下がり部分で隔壁が内側に変形し、更に高い圧力がインクに掛かり、ノズルからインク柱が押し出される。1AL後、圧力が反転してインク流路14A内が負圧になり、更に1AL経過すると、インク流路14A内の圧力が反転して正圧になるので、このタイミングで電極を接地すると、隔壁の変形が元に戻り、残留する圧力波をキャンセルできる。
【0062】
続いてb組(b1、b2、b3)の各インク流路14A、更に続いてc組(c1、c2、c3)の各インク流路14Aへと上記同様に動作する。
【0063】
かかるせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、隔壁の変形は壁の両側に設けられる電極に掛かる電圧差で起こるので、インク吐出を行うインク流路の電極に負電圧を掛ける代わりに、図7に示すように、インク吐出を行うインク流路の電極を接地して、その両隣のインク流路の電極に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば正電圧だけで駆動させることができるため、好ましい態様である。
【0064】
膨張パルスのパルス幅Dは、効率よくインク滴を吐出する観点から0.7AL〜1.3ALが好ましく、収縮パルスのパルス幅Rは、残留する圧力波のキャンセルが容易になる観点から1.7AL〜2.3ALが好ましい。
【0065】
また、膨張パルスの駆動電圧Von(V)と収縮パルスの駆動電圧Voff(V)は|Von|≧|Voff|の関係にすると、インク流路内へのインクの供給を促進する効果があり、特に、高粘度インクで高周波駆動を行う場合に好ましい。
【0066】
なお、この電圧Von(V)と電圧Voff(V)の基準電圧は0とは限らない。この電圧Vonと電圧Voffは、それぞれ差分の電圧である。
【0067】
そして、図4〜図7では、駆動回路24Aから隔壁25Aを駆動するための駆動信号を駆動電極16Aに印加し、第1の圧力発生手段である隔壁25Aを変形させてノズル19からインク滴を吐出させる場合について説明したが、駆動回路24Bから隔壁25Bを駆動するための駆動信号を駆動電極16Bに印加し、第2の圧力発生手段である隔壁25Bを変形させてノズル19からインク滴を吐出させる場合についても同様の原理にて吐出させることができる。
【0068】
次に、2つ同時に駆動する場合において、各駆動電極に印加する駆動パルスのタイミングを調節することにより以下に示すようにインク滴量をさらに多段階に変調できる。また、一方のみを駆動する場合に比較して駆動電圧を下げられるという効果も得られる。
【0069】
制御基板からの制御信号に基づいて、駆動回路24Aが、隔壁25Aを駆動するための駆動信号を駆動電極16Aに印加し、第1の圧力発生手段である隔壁25Aを変形させ、駆動回路24Bが、隔壁25Bを駆動するための駆動信号を駆動電極16Bに印加し、第2の圧力発生手段である隔壁25Bを変形させてノズル19からインク滴を吐出させる。
【0070】
図8は駆動信号のタイミングチャートを示す図である。駆動信号として、インク流路14Aの駆動電極16Aにはパルス幅D1の矩形波の膨張パルスとそれに続くパルス幅R1の矩形波の収縮パルスが印加され、インク流路14Bの駆動電極16Bにはパルス幅D2の矩形波の膨張パルスとそれに続くパルス幅R2の矩形波の収縮パルスが印加される。
【0071】
2つの駆動電極16A,16Bに印加される駆動信号は、膨張パルスの立ち上がりのタイミングが同一で、膨張パルスの立ち下がり及び収縮パルスの立ち下がりのタイミングを時間差Δtを持たせるように構成されている。このΔtを変化させることにより、膨張パルスの立ち下がり及び収縮パルスの立ち下がりにおける隔壁25Aの変形による圧力波と隔壁25Bの変形による圧力波の位相が同じ場合にはそれぞれの隔壁の変形による圧力波が加算され大きな圧力でノズルからインクを吐出させることができ、また、隔壁25Aによる圧力波と隔壁25Bによる圧力波の位相が異なる場合にはそれぞれの隔壁の変形による圧力波が減算されノズルに加わる圧力の持続時間を実効的に変化させることができるため、ノズルから1回に吐出するインク滴の大きさを複数段階に可変できる。
【0072】
膨張パルスのパルス幅D1は、効率よくインク滴を吐出する観点から0.7AL〜1.3ALが好ましく、時間差Δtは、長すぎると駆動電極16Bに膨張パルスの立ち下がり及び収縮パルスの立ち下がりを印加するタイミングにおいて圧力波の減衰が大きくなるので、効率よくインク滴を吐出する観点から0≦Δt≦2ALが好ましい。
【0073】
また、収縮パルスの幅R1,R2は、圧力変動の位相と振幅に応じて、その変動を打ち消すように適宜設定される。
【0074】
また、前述のようにかかるせん断モードタイプのインクジェットヘッドでは、隔壁の変形は壁の両側に設けられる電極に掛かる電圧差で起こるので、インク吐出を行うインク流路の電極に負電圧を掛ける代わりに、図9に示すように、インク吐出を行うインク流路の電極を接地して、その両隣のインク流路の電極に正電圧を掛けるようにしても同様に動作させることができる。この後者の方法によれば正電圧だけで駆動させることができるため、好ましい態様である。
【0075】
以上は、ベタ画像(フル駆動)の場合であるが、実際は、各画素の画像データに応じて、駆動パルスを変化させる。
【0076】
制御基板100は、画像データの解像度や画素毎の階調データにより各画素を埋めるのに適したインク適量を決める。そして内部のインク滴量テーブルを参照して所望のインク滴を得るのにもっとも適した駆動パルスで各画素に対応したノズルのインク流路を駆動するようにして、選択された駆動パルスが各駆動回路から各駆動電極16に印加されて所望の量のインク滴が吐出される。後述の実施例の表1で具体例を示すが、Δtを調節することにより、インク滴量を可変できる。
【0077】
また、インク滴の大きさを可変する場合でも、インクの着弾位置を一定とするためにインク滴の飛翔速度は、小さなインク滴を吐出する場合と、大きなインク滴を吐出する場合とで変化させてはならない。本願のヘッドを用いたインクジェット記録装置においては、実施例で示すように駆動パルスの駆動電圧を調整することにより、飛翔速度を所定の値に調整している。
【0078】
膨張パルスあるいは収縮パルスの少なくともどちらか一方の電圧を調整すればよいが、前述のように、収縮パルスの立ち上がりのエッジは、液滴の吐出後にインク流路内に残った圧力波の残響をキャンセルする作用があり、膨張パルスの駆動電圧Vonに対する収縮パルスの駆動電圧Voffの比を一定に保つことにより、飛翔速度を揃えるために駆動パルスの電圧を変化させても、圧力波の残響を適正にキャンセルすることができる。
【0079】
なお、以上説明した駆動パルスは一例であり、本発明はこのタイプの駆動パルスに限定されるものではない。駆動パルスとしては、インク流路の容積を膨張させ一定時間保持した後に元の容積に戻す矩形波の膨張パルスのみから構成される駆動パルスでもよく、矩形波に限らず、スロープ波形および任意のアナログ波形であってもよい。
【0080】
以上、本発明のヘッドは、1つのインク流路の隔壁に独立して形成した2つ駆動用電極が設けられているので、2つ駆動用電極に通電して隔壁を変位させた時に発生する圧力波の干渉を有効に利用して、飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなく、インク滴量を変調することが可能になる。
【0081】
また、第2の圧力発生手段である隔壁25Bは第1の圧力発生手段である隔壁25Aと同じ工程で、且つ同一の部材で形成できるので、駆動電極を分離することにより容易に製造でき、製造コストを低減できる。
【0082】
上記実施形態では、空気流路を設けずに全てインク流路として機能させるヘッドの例を示したが、流路は、インクが供給されるインク流路として機能するものと、インクが供給されない空気流路として機能するものとが交互に配置されるものでもよい。配線基板11の貫通口21を、流路14の1流路おきの開口22に対応して形成されればよい。すなわち、1流路おきにインクが供給されインク流路になり、その間の流路はインク供給がされずに空気流路となるので、インク流路と空気流路(ダミー流路)が交互に形成された独立流路ヘッドとすることができる。インク流路に対応してノズル19を設けることにより、ノズル19からインクが吐出される。この場合、インク流路の隔壁がせん断変形しても、隣接した他のインク流路に影響することがなく、隔壁の駆動が容易である。
【0083】
また、上記実施形態では、ALに比べて十分に短い立ち上がり時間及び立ち下がり時間を持った矩形波の駆動パルスを圧電素子に印加している。矩形波を用いることで、圧力波の音響的共振をより有効に利用した駆動を行なうことができる。台形波を使用する方法に比べてインク滴を吐出させる効率が良く、低い駆動電圧で駆動することができる上に、簡単なデジタル回路で駆動回路を設計できる効果がある。また、パルス幅の設定が容易になるという利点を有する。さらに、2つ駆動用電極に通電して隔壁を変位させた時に発生する圧力波の干渉を有効に利用して、飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなく、インク滴量を変調することが可能になる。
【0084】
また、本発明のヘッドは、圧力発生手段として電界を印加することによりせん断モードで変形するせん断モード型の圧電素子をインク流路の隔壁に用いている。せん断モード型の圧電素子では、矩形波の駆動パルスをより効果的に利用することができ、インク滴を吐出の駆動電圧が下げられ、より効率的な駆動が可能となるため好ましい。
【0085】
また、以上の説明では、本発明に係る液滴吐出装置としてインクジェット記録装置の適用例を示し、液滴吐出ヘッドとして画像記録を行うためのインクジェットヘッドを用いたが、本発明は、これに限定されるものではなく、複数の流路を区画し少なくとも一部が圧電素子で形成された隔壁と前記複数の流路の配列方向に沿って前記流路の上面を閉鎖する上壁と前記流路の下面を閉鎖する下壁により形成された矩形管状の流路と、流路内の液体を液滴として吐出するノズルとを有し、前記隔壁の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状の流路の長手方向に配置された2つの駆動電極が設けられ、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置として広く適用可能である。特に1ドットに打ち込む液適量を変調することを必要とする産業用途において有効である。
【実施例】
【0086】
(本発明)
図3に示すシェアモードタイプのヘッド(ノズル数:256)の各インク流路14Aのみを図7に示す駆動信号(電圧、パルス幅等は表1参照)を用いて3群に分け、3サイクル駆動を行った。また、同様に各インク流路14A、14Bを図9に示す駆動信号(電圧、パルス幅、時間差等は表1参照)を用いて3群に分け、以下の条件で3サイクル駆動を行った。
【0087】
なおヘッドのALは、14Aのみを駆動した場合は、AL=7.4(μsec)であり、14A、14Bを両方駆動した場合は、AL=7.8(μsec)であった。
【0088】
インクは水性染料インクを用いた。
【0089】
本実験にあたり、圧電素子基板125,126として、分極されたPZTを用い、下壁12として、窒化アルミニウム基板((株)住金セラミックス社製のAlN−BN)を用いた。また、上壁13を構成するノズルプレート13aは、厚さ75μmのポリイミド樹脂シートを用いエキシマレーザーによりノズル孔を穿孔した。支持部材13bとして厚さ100μmの上記と同様の窒化アルミニウム基板を用いた。
【0090】
図3において、インク流路14全体の長さを6mm、インク流路14の中央部分から図示左右方向に0.5mm幅で駆動電極が形成されていない部分を設け、その長さL3を1mmとし、駆動電極16Aの長さL2を2.5mm、駆動電極16Bの長さL1を2.5mmとした。またインク流路14の中央部分に対応する位置にノズルと円筒開口部の中心が位置している。
【0091】
なお、ヘッドのサイズは、インク流路14A、14Bの高さが310μm、幅が82μm、長さが2.5mmとした。ノズルプレート13aのノズル19は、断面が円形でノズルの出口の直径27μm、テーパー角6.3°、支持部材13bの円筒開口部の直径を60μmとした。
【0092】
任意の1ノズルについて、駆動電圧(Von、Voff)を変化させながら(|Von|/|Voff|は1/1に固定)、インク滴の飛翔速度を測定した。各駆動信号において、飛翔速度が8m/sになるときの駆動電圧に駆動電圧を固定し、このときのインク滴量を測定した。その結果を表1に示す。
【0093】
飛翔速度測定:CCDカメラを用いたストロボ測定により、インク滴がノズル出口から約1mm飛翔した時点でのインク滴速度を測定した。
(比較例)
L3=0として、インク流路14の全長に駆動電極16を設けて、各インク流路14を図7に示す駆動信号(電圧、パルス幅等は表1参照)を用いて3群に分け、3サイクル駆動を行なった以外は、実施例と同様にして駆動した。なお、このヘッドのALは7.3(μsec)であった。
【0094】
任意の1ノズルについて、駆動電圧(Von、Voff)を変化させながら(|Von|/|Voff|は1/1に固定)、インク滴の飛翔速度とインク滴量を測定した。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1に示す通り、比較例では、飛翔速度を変化させずにインク滴量を変化させることは限界があり、駆動電圧を増大させてインク滴量を増加させると飛翔速度の上昇が見られる。本発明では、飛翔速度の変動等の副作用を起こすことなくインク滴量を変化させることが可能となる。また、時間差Δtが0〜0.5ALまでは、隔壁25Aの変形による圧力波と隔壁25Bの変形による圧力波の位相が同じであるので、それぞれの隔壁の変形による圧力波が加算され大きな圧力でノズルから大きなインク滴を吐出させることができ、また、0.5〜1ALまでは、隔壁25Aによる圧力波と隔壁25Bによる圧力波の位相が異なるので、それぞれの隔壁の変形による圧力波が減算されノズルに加わる圧力の持続時間を実効的に変化させることができるため、ノズルから1回に吐出するインク滴の大きさを複数段階に可変できる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【図2】液滴吐出ヘッドの一態様であるせん断モード(シェアモード)タイプのインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図である。
【図3】図2のヘッドの配線基板、マニホールドを備えた状態の断面図である。
【図4】(a)〜(c)はインク滴吐出時のヘッドの動作を示す図である。
【図5】(a)〜(c)はヘッドの時分割動作の説明図である。
【図6】a、b、cの各組のインク流路に印加される駆動信号のタイミングチャートである。
【図7】正電圧のみを用いた場合の駆動信号のタイミングチャートである。
【図8】a、b、cの各組のインク流路に印加される駆動信号のタイミングチャートである。
【図9】正電圧のみを用いた場合の駆動信号のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0098】
1 インクジェット記録装置
2 ヘッド
4 ガイドレール
5 キャリッジ
6、6A,6B FPC
7、8 インク受け器
12 下壁
13 上壁
14,14A、14B インク流路
19 ノズル
24A、24B 駆動回路
25A 隔壁、第1の圧力発生手段
25B 隔壁、第2の圧力発生手段
31 搬送ローラ
32 搬送ローラ対
33 搬送モータ
P 記録媒体
PS 記録面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の流路を区画し少なくとも一部が圧電素子で形成された隔壁と前記複数の流路の配列方向に沿って前記流路の上面を閉鎖する上壁と前記流路の下面を閉鎖する下壁により形成された矩形管状の流路と、流路内の液体を液滴として吐出するノズルとを有し、前記隔壁の壁面にそれぞれ独立に形成され前記矩形管状の流路の長手方向に配置された2つの駆動電極が設けられ、前記上壁または前記下壁のいずれかに対して前記ノズルが形成されていることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項2】
前記2つの駆動電極の各々に独立して駆動信号が印加されることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項3】
前記2つの駆動電極の間に対応する位置に1つの前記ノズルが設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の液滴吐出ヘッド。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−203610(P2007−203610A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25538(P2006−25538)
【出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】