説明

液滴噴射ヘッド、液滴噴射装置、圧電素子およびセラミックス

【課題】環境に優しく、リーク電流が低減された圧電素子等を提供する。
【解決手段】本発明に係る液滴噴射ヘッドは、ノズル孔に連通する圧力室と、セラミックスおよび前記セラミックスに設けられた電極を有する圧電素子と、を備えた液滴噴射ヘッドであって、前記セラミックスは、鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴噴射ヘッド、液滴噴射装置、圧電素子およびセラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンターに代表される液滴噴射装置には、液体を吐出する液滴噴射ヘッドが搭載されている。液滴噴射ヘッドの代表例としては、例えば、圧力室を圧電アクチュエーターにより変形させて圧力室内のインクを加圧し、ノズル孔からインク滴として吐出させるインクジェット式記録ヘッドがある。インクジェット式記録ヘッドに用いられる圧電アクチュエーターとしては、電気的機械変換機能を呈する圧電セラミックスを、電極で挟んで構成されたものがある(特許文献1)。このように、圧電アクチュエーターを始め、圧電センサー、各種超音波デバイス等に代表される圧電素子は、種々の装置に用いられている。
【0003】
しかしながら、環境問題の観点から従来用いられているチタン酸ジルコン酸鉛に代替可能な圧電特性を発現し得る非鉛(又は低鉛系)のセラミックス材料の開発が盛んに行われている。非鉛系の圧電セラミックスとしては、例えば鉄酸ビスマスとチタン酸ビスマスカリウムを固溶させたセラミックスが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−223404号公報
【特許文献2】特開2008−069051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した鉄酸ビスマスとチタン酸ビスマスカリウムを固溶させたセラミックスを圧電素子に用いた場合、リーク電流が高いという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑み、環境への負荷が小さく、リーク電流が低減された圧電素子を有する液滴噴射ヘッド、これを用いた液滴噴射装置、およびこれを供する圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る液滴噴射ヘッドは、
ノズル孔に連通する圧力室と、セラミックスおよび前記セラミックスに設けられた電極を有する圧電素子と、を備えた液滴噴射ヘッドであって、
前記セラミックスは、鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる。
【0008】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、リーク電流が低減された圧電素子を有する液滴噴射ヘッドを提供することができる。
【0009】
(2)本発明に係る液滴噴射ヘッドにおいて、
前記セラミックスは、x[BiFeO3]−(1−x)[(Bia1-a)TiO3]−y[BiMnO3](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6)であってもよい。
【0010】
なお、化学組成がx[BiFeO3]−(1−x)[(Bia1-a)TiO3]−y[BiMnO3](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6)で表されるセラミックスを、以下、[BiMnO3]をBMと略称し、BF−BKT−BM系セラミックスと略称する。
【0011】
(3)本発明に係る液滴噴射装置は、
上記いずれかの液滴噴射ヘッドを備えた液滴噴射装置。
【0012】
(4)本発明に係る圧電素子は、
セラミックスおよび前記セラミックスに設けられた電極を有する圧電素子であって、
前記セラミックスは、鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる。
【0013】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、リーク電流が低減された圧電素子を提供することができる。
【0014】
(5)本発明に係るセラミックスは、
鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる。
【0015】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、リーク電流が低減された圧電素子等の材料となるセラミックスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1(A)】本実施形態に係るセラミックスの製造方法を示すフローチャート図。
【図1(B)】本実施形態に係るセラミックスの製造方法を示すフローチャート図。
【図2】実施例1及び比較例1に係るセラミックスのP−Eヒステリシスを示す図。
【図3】実施例2に係るセラミックスのP−Eヒステリシスを示す図。
【図4】実施例3に係るセラミックスのP−Eヒステリシスを示す図。
【図5】実施例4に係るセラミックスのP−Eヒステリシスを示す図。
【図6】実施例5に係るセラミックスのP−Eヒステリシス及び電界誘起歪−電界特性を示す図。
【図7】実施例6に係るセラミックスのP−Eヒステリシス及び電界誘起歪−電界特性を示す図。
【図8】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの要部を模式的に示す断面図。
【図9】本実施形態に係る液滴噴射ヘッドの分解斜視図。
【図10】本実施形態に係る液滴噴射装置を模式的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を適用した実施形態の一例について図面を参照して説明する。ただし、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。本発明は、以下の実施形態およびその変形例を自由に組み合わせたものを含むものとする。なお、本明細書においては、鉄酸ビスマス[BiFeO3]をBF、チタン酸ビスマスカリウム[(Bia1-a)TiO3]をBKT、マンガン酸ビスマス[BiMnO3]をBMと略称する。
【0018】
1. セラミックスの原料液およびセラミックスの製造方法
以下、図面を参照して、本実施形態に係るセラミックスの原料液及びセラミックスの製造方法について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態に係るセラミックスの製造方法を示すフローチャート図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態に係るセラミックスの製造方法は、原料液を準備する工程と、前記原料液を用いて、第1の膜を形成する工程と、前記第1の膜を熱処理し第2の膜を得る工程と、複数の前記第2の膜が積層された積層体を形成する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含む。
【0021】
1.1.原料液の準備工程(S1)
まず、図1(A)に示すように、本実施形態に係るセラミックスの製造方法の出発原料であるセラミックスの原料液を準備する(S1)。本実施形態におけるセラミックスの原料液は、金属化合物を含む。原料液に含まれる金属化合物は、BF−BKT−BM系セラミックスの原料となる金属元素を含んでいればよい。BF−BKT−BM系セラミックスは、ペロブスカイト結晶構造の一般式ABOで示されるBF系セラミックス、BKT系セラミックス、およびBM系セラミックスから構成される3相系の混晶セラミックスである。BF系セラミックスである[BiFeO3]は、A元素がBiからなり、B元素がFeからなる。BKT系セラミックスである[(Bia1-a)TiO3]は、A元素がBiおよびKからなり、B元素がTiからなる。BM系セラミックスである[BiMnO3]は、A元素がBiからなり、B元素がMnからなる。すなわち、本実施形態に係るBF−BKT−BM系セラミックスの原料液は、Bi、Fe、Ti、K、Mnの金属元素を所定のモル比で含んでいればよい。なお、本実施形態に係るBF−BKT−BM系セラミックスの原料液のBi、Fe、Ti、Kの金属元素のモル比の詳細は後述される。
【0022】
BF−BKT−BM系セラミックスの原料液を準備するために用いられる金属化合物は、Bi、Fe、Ti、Kを含む金属化合物であるかぎり特に限定されるものではない。原料液を準備するための金属化合物は、加水分解または酸化されることにより、その金属有機化合物に由来する金属酸化物を生成し得るものであれば、限定されず、例えば、上記金属を含む金属アルコキシド、有機金属錯体、および有機酸塩などから選択されてもよい。
【0023】
Biを含む金属化合物としては、トリエトキシビスマス、トリ―i―プロポキシビスマス、アセチルアセトナートビスマス、硝酸ビスマス、酢酸ビスマス、クエン酸ビスマス、シュウ酸ビスマス、酒石酸ビスマス、2−エチルヘキサン酸ビスマス、等を例示することができる。Feを含む金属化合物としては、トリエトキシ鉄、トリ―i―プロポキシ鉄、トリス(アセチルアセトナト)鉄、硝酸鉄、酢酸鉄、シュウ酸鉄、酒石酸鉄、クエン酸鉄、2−エチルヘキサン酸第二鉄、等を例示することができる。Tiを含む金属化合物としては、テトラメトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ―i―プロポキシチタン、テトラ―n―プロポキシチタン、テトラ―i―ブトキシチタン、テトラ―n―ブトキシチタン、テトラ―t―ブトキシチタン、アセチルアセトナトチタン、硝酸チタン、酢酸チタン、シュウ酸チタン、酒石酸チタン、クエン酸チタン、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、等を例示することができる。Kを含む金属化合物としては、メトキシカリウム、エトキシカリウム、i―プロポキシカリウム、n―プロポキシカリウム、i―ブトキシカリウム、n―ブトキシカリウム、t―ブトキシカリウム、硝酸カリウム、酢酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、クエン酸カリウム2−エチルヘキサン酸カリウム、等を例示することができる。Mnを含む金属化合物としては、ジ―i―プロポキシマンガン、マンガン(III)アセチルアセトナート、硝酸マンガン、酢酸マンガン、クエン酸マンガン、シュウ酸マンガン、酒石酸マンガン、2−エチルヘキサン酸マンガン、等を例示することができる。
【0024】
本実施形態に係る原料液において、用いられる有機溶媒は、特に限定されるものではない。例えば、有機溶媒として、ブタノール、メタノール、エタノール、プロパノール、キシレン、オクタン、トルエン、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセチルアセトン、などの有機溶媒を用いてもよい。
【0025】
本実施形態に係る原料液は、上述された金属化合物を用いて、原料液に含まれる金属元素のモル比が、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=x+(1−x)×a+y:(1−x)×(1−a):x:1−x:y](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6)となるように調整される。例えば、3相系BF−BKT−BM系セラミックスの組成比が、BF:BKT:BM=60:40:3である場合は、具体的には、x=0.6、y=0.03、a=0.5となり、原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.83:0.2:0.6:0.4:0.03となればよい。
【0026】
上述されるモル比に原料液を調整することによって、BF−BKT系セラミックスよりもリーク電流が低減されたセラミックスであるBF−BKT−BM系セラミックスを得ることができる。詳細は後述される。
【0027】
本実施形態に係る原料液は、上述されたモル比から規定されるKの添加量に対して更にKを添加してもよい。Kが過剰に添加された原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=x+(1−x)×a+y:(1−x)×(1−a)+α:x:1−x:y](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6、0≦α≦0.1)となるように調整されてもよい。ここでαは、本実施形態に係る原料液におけるKの割合を相対的に過剰にすることを目的として加えられる添加量の割合を示すものであって、0≦α≦0.1の範囲であればよい。これによれば、Kが相対的に過剰となるように原料液を調整することができる。このような原料液によれば、製造工程中にKが熱処理等において揮発し、BF−BKT−BM系セラミックスが十分に結晶化するために必要となるK量が不足することを防ぐことができ、その結果、得られるえらミックスの圧電特性を向上させることができる。
【0028】
また、本実施形態に係る原料液は、上述されたモル比から規定されるBiの添加量に対して更にBiを添加してもよい。Biが過剰に添加された原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=x+(1−x)×a+y+β:(1−x)×(1−a)+α:x:1−x:y](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6、0≦α≦0.1、0≦β≦0.1)となるように調整されてもよい。ここでβは、本実施形態に係る原料液におけるBiの割合を相対的に過剰にすることを目的として加えられる添加量の割合を示すものであって、0≦β≦0.1の範囲であればよい。これによれば、BF−BKT−BM系セラミックスのP−Eヒステリシスの角型性を向上させることができる。
【0029】
1.2.成膜工程(S2)
次に、図1(A)に示すように、成膜工程(S2)において、原料液の準備工程(S1)で得られた原料液を用いて、第1の膜を形成することができる。本実施形態に係る成膜工程(S2)に用いられる成膜方法は、所定の膜厚を有する膜を形成することができ得る限り特に限定されるものではなく、公知の成膜技術を用いてもよい。本実施形態に係る原料液を用いて、例えばスピンコート法により第1の膜を形成してもよい。
【0030】
1.3.乾燥/脱脂工程(S3)
次に、図1(A)に示すように、乾燥/脱脂工程(S3)において、成膜工程(S2)で得られた第1の膜を熱処理することによって、第1の膜を乾燥および脱脂した第2の膜を得ることができる。本実施形態に係る乾燥工程(S3)に用いられる熱処理方法は、第1の膜を所定の条件で乾燥し得る限り特に限定されるものではなく、公知の加熱機器を用いてもよい。例えば、第1の膜を100℃〜200℃で乾燥した後、350℃〜450℃に設定された乾燥炉において、乾燥処理された第1の膜を脱脂処理することにより、第2の膜を得てもよい。
【0031】
1.4.積層工程(S4)
次に、図1(A)に示すように、積層工程(S4)において、乾燥工程(S3)で得られた第2の膜の上に、本実施形態に係る原料液を用いて、さらに第1の膜を形成し(S2)、該第1の膜を乾燥および脱脂させることによって第2の膜の積層体を得てもよい。また、本工程は、該積層体が所望の膜厚となるまで、成膜工程(S2)と乾燥/脱脂工程(S3)とを複数回繰り返してもよい(S4)。
【0032】
1.5.焼成工程(S5)
次に、図1(A)に示すように、焼成工程(S5)において、積層工程(S4)で得られた複数の第2の膜からなる積層体を焼成することによって、BF−BKT−BM系セラミックスを得ることができる。第2の膜からなる積層体を焼成する工程は、積層体を結晶化させることができ得る限り特に限定されるものではない。本実施形態に係る焼成工程は、加熱機器として、例えば公知の電気炉、赤外炉、RTA(Rapid Thermal Annealing)炉等を用いて行うことができる。積層体の加熱器機として、好ましくはRTA炉を用いてもよい。例えば、本実施形態に係る積層体を、600℃以上かつ700℃以下の温度のRTA炉にて熱処理を行い、該積層体を焼成し、BF−BKT−BM系セラミックスを得てもよい。得られるBF−BKT−BM系セラミックスは、所定の膜厚を有したセラミックス薄膜であってもよい。
【0033】
また、本実施形態に係るセラミックスの製造方法においては、焼成工程(S5)によって得られたBF−BKT−BM系セラミックスの上に、新たに成膜工程(S2)〜焼成工程(S5)を所定の回数繰り返すことによって、所望の膜厚を有したBF−BKT−BM系セラミックスを得てもよい。これによれば、例えば、1μm以上の膜厚を有するBF−BKT−BM系セラミックス薄膜を、クラックの発生をさせずに形成することができる。また、これによれば、より配向性の良いBF−BKT−BM系セラミックス薄膜を得ることができる。
【0034】
また、図1(B)に示すように、積層工程(S4)を実施せずに、焼成工程(S5)を実施し、焼成工程(S5)の後に積層工程(S6)を実施することによって、所望の膜厚を有したBF−BKT−BM系セラミックスを製造してもよい。この場合、原料液を準備した後(S1)、まず、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)よりBF−BKT−BM系セラミックスを得てもよい。その後、得られた該BF−BKT−BM系セラミックスの上において所望の回数、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)の工程を繰り返す積層工程(S6)を実施することにより、所望の膜厚を有したBF−BKT−BM系セラミックスを形成してもよい。
【0035】
本実施形態に係るセラミックスの原料液およびセラミックスの製造方法は、例えば、以下の特徴を有する。
【0036】
本実施形態に係るセラミックスの原料液によれば、BF−BKT系セラミックスよりもリーク電流が低減されたセラミックスであるBF−BKT−BM系セラミックス、およびその原料液を得ることができる。詳細は後述される。
【0037】
また、本実施形態に係る原料液によれば、化学量論のKのモル比に対して、0mol%以上、10mol%以下のKを過剰添加量として原料液に加えることができる。これによれば、得られるBF−BKT−BM系セラミックスの圧電性を向上させることができる。以下に詳細を説明する。
【0038】
化学物質としてのKは、蒸気圧が高く、製造工程の中、特に焼成工程中に揮発しやすい。これによれば、原料液の作製時において、BF−BKT−BM系セラミックスの化学組成を考慮して、原料液の金属元素のモル比を調整した場合であっても、その製造工程中において揮発してしまう。その結果、得られるBF−BKT−BM系セラミックスは、所定のK量が不足し、圧電性が低下する。
【0039】
これに対し、本実施形態に係る原料液によれば、化学量論のKのモル比に対して、0mol%以上、10mol%以下のKが過剰添加量として原料液に加えられているため、焼成により揮発し、減少するKを、過剰添加されたKによって補うことができる。その結果、BF−BKT系セラミックスよりもリーク電流が低減され、かつ、圧電性が向上したBF−BKT−BM系セラミックスを得ることができる。
【0040】
また、本実施形態に係る原料液によれば、化学量論のBiのモル比に対して、0mol%以上、10mol%以下のBiを過剰添加量として原料液に加えることができる。これによれば、得られるBF−BKT−BM系セラミックスのP−Eヒステリシスの角型性を向上させることができる。以下に詳細を説明する。
【0041】
化学物質としてのBiは、蒸気圧が高く、製造工程の中、特に焼成工程中に揮発しやすい。これによれば、原料液の作製時において、BF−BKT−BM系セラミックスの化学組成を考慮して、原料液の金属元素のモル比を調整した場合であっても、その製造工程中において揮発してしまう。その結果、得られるBF−BKT−BM系セラミックスは、所定のBi量が不足し、P−Eヒステリシスの角型性が低下する。
【0042】
これに対し、本実施形態に係る原料液によれば、化学量論のBiのモル比に対して、0mol%以上、10mol%以下のBiが過剰添加量として原料液に加えられているため、焼成により揮発し、減少するBiを、過剰添加されたBiによって補うことができる。その結果、BF−BKT系セラミックスよりもリーク電流が低減され、かつ、P−Eヒステリシスの角型性が向上したBF−BKT−BM系セラミックスを得ることができる。
【0043】
以上によって、リーク電流が低減されたBF−BKT−BM系セラミックスの製造方法およびリーク電流が低減されたBF−BKT−BM系セラミックスの原料液を提供することができる。
【0044】
2. 実施例
以下、本実施形態に係るセラミックス、およびその原料液並びに製造方法の実施例および比較例を、図面を参照しながら説明する。
【0045】
2.1 実施例1、比較例1
実施例1においては、BF−BKT−BMの組成比が、BF:BKT:BM=60:40:3の組成比となるBF−BKT−BM系セラミックスを本実施形態に係るセラミックスの製造方法を用いて作製し、その特性を評価した。具体的には、x=0.6、y=0.03、a=0.5である場合であって、実施例1に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.83:0.2+α:0.6:0.4:0.03(但し、α=0.04)であった。比較例1に係るセラミックスは、BFとBKTのみから成る2相系混晶セラミックスであって、BMを含まないセラミックスであった。本比較例に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:Fe:K:Ti=0.8:0.6:0.2+α:0.4(但し、α=0.04)となるように調整された。
【0046】
実施例1に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、250nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(3500rpm)により実施例1に係る原料液および本比較例に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、第1の膜に対して150℃、2分間の乾燥処理を行った後、400℃、4分間の脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0047】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1kHz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0048】
なお、比較例1に係るBF−BKT系セラミックスも実施例1と同様の製造方法により作製された。
【0049】
2.1.1 P−Eヒステリシス
図2(A)において、比較例1に係るBF−BKT系セラミックスのP−Eヒステリシスを示す。図2(B)において、実施例1に係るBF−BKT−BM系セラミックスのP−Eヒステリシスを示す。
【0050】
図2(A)に示すように、比較例1のBF−BKT系セラミックスは、分極量のピーク値が電界強度の最大値よりも低い電界強度において発現しているため、リーク電流が大きいことが確認できる。これに対して、図2(B)に示すように、実施例1のBF−BKT−BM系セラミックスは、分極量のピーク値が電界強度の最大値付近において発現しており、比較例1と比べてリーク電流が低減されていることが分かる。これによれば、BF−BKT−BM系セラミックスは、BF−BKT系セラミックスと比べてリーク電流が低減されたセラミックスであることが分かる。
【0051】
2.2 実施例2
実施例2においては、実施例1に係る原料液に対して更にBiを添加し、Biがその他の金属元素に対し相対的に過剰となるように原料液を調整した。具体的には、x=0.6、y=0.03、α=0.04である場合であって、実施例2に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:Fe:K:Ti:Mn=0.83+β:0.24:0.6:0.03](但し、0≦β≦0.08)である。
【0052】
実施例2に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、600nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(1500rpm)により実施例2に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、第1の膜に対して150℃、2分間の乾燥処理を行った後、400℃、4分間の脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0053】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1kHz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0054】
2.2.1 P−Eヒステリシス
図3において、実施例2に係るP−Eヒステリシス(β=0.02、0.04、0.08の場合)と実施例1に係るP−Eヒステリシス(β=0の場合)を示す。図3に示すように、実施例1に係るP−Eヒステリシスに比べて、Biを2mol%過剰に添加した場合(β=0.02の場合)の方がヒステリシスの角型性が向上していることが分かる。また、Biを4mol%過剰に添加した場合(β=0.04の場合)およびBiを8mol%過剰に添加した場合(β=0.08の場合)から、よりBiを添加した方がP−Eヒステリシスの角型性が向上していることが分かる。これによれば、原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=x+(1−x)×a+y+β:1−a+α:x:1−x:y](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6、0≦α≦0.1、0≦β≦0.1)であって、Biの過剰添加量を示すβの値は、0≦β≦0.1であればよいことが確認された。
【0055】
2.3 実施例3
実施例3においては、実施例2に係る原料液に対してBMが少なくなるように原料液を調整した。具体的には、x=0.6、y=0.02である場合であって、実施例2に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:Fe:K:Ti:Mn=0.82+β:0.2+α:0.6:0.02](但し、α=0.04、β=0.02)である。
【0056】
実施例3に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、600nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(1500rpm)により実施例3に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、第1の膜に対して150℃、2分間の乾燥処理を行った後、400℃、4分間の脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0057】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1kHz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0058】
2.3.1 P−Eヒステリシス
図4において、実施例3に係るP−Eヒステリシスを示す。図4に示すように、本実施例においても、Pの値が低いものの、実施例2と同様のP−Eヒステリシスが得られた。これによれば、少なくともy≧0.02であればよいことが確認された。
【0059】
2.4 実施例4
実施例4においては、実施例2に係る原料液に対してBMが多くなるように原料液を調整した。具体的には、x=0.6、y=0.045である場合であって、実施例4に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.845+β:0.2+α:0.6:0.4:0.045(但し、α=0.04、β=0.04)]である。
【0060】
実施例4に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、800nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(1500rpm)により実施例4に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、第1の膜に対して150℃、2分間の乾燥処理を行った後、400℃、4分間の脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0061】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1kHz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0062】
2.4.1 P−Eヒステリシス
図5において、実施例4に係るP−Eヒステリシスを示す。図5に示すように、本実施例においても、Pが大きいものの、実施例2と同様のP−Eヒステリシスが得られた。これによれば、少なくともy≦0.045であればよいことが確認された。
【0063】
2.5 実施例5
実施例5においては、BF−BKT−BMの組成比が、(1)BF:BKT:BM=60:40:1.8、(2)BF:BKT:BM=50:50:1.5、となる場合のBF−BKT−BM系セラミックスであって、原料液にBiおよびKの過剰添加を行わないセラミックスを、本実施形態に係るセラミックスの製造方法を用いて作製し、その特性を評価した。
【0064】
具体的には、(1)の場合は、x=0.6、y=0.018であって、実施例5に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.818:0.2:0.6:0.4:0.018である。(2)の場合は、x=0.6、y=0.018である場合であって、実施例5に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.768:0.25:0.5:0.5:0.015である。
【0065】
実施例5に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、740nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(1500rpm)により実施例5に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、400℃、4分間の乾燥・脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0066】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1Hz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0067】
2.5.1 P−Eヒステリシス/電解誘起歪−電界特性
図4において、実施例5に係るP−Eヒステリシスおよび電界誘起歪−電界特性(x=0.6、0.5の場合)を示す。尚、各グラフにおいて左側の軸が分極量を示し、右側の軸が歪量を示す。図6に示すように、いずれの場合も良好な圧電特性を示していることが分かる。特に、x=0.5の場合、歪率は0.18%であり、良好な歪率が得られた。これによれば、α=0、β=0において、少なくとも0.18%の歪率を示すセラミックスを作製可能であることが確認された。それに加え、y≧0.015で良好な特性を示すことが確認された。
【0068】
2.6 実施例6
実施例3においては、BF−BKT−BMの組成比が、(1)BF:BKT:BM=70:30:3.5、(2)BF:BKT:BM=60:40:3、(3)BF:BKT:BM=50:50:2.5、(4)BF:BKT:BM=40:60:2となる場合のBF−BKT−BM系セラミックスを本実施形態に係るセラミックスの製造方法を用いて作製し、その特性を評価した。
【0069】
具体的には、(1)の場合は、x=0.7、y=0.035、a=0.5であって、実施例6に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.885+β:0.15+α:0.7:0.3:0.035(但し、α=0.03、β=0.04とする)である。(2)の場合は、x=0.6である場合であって、実施例6に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.83+β:0.2+α:0.6:0.4:0.03(但し、α=0.04、β=0.04とする)である。(3)の場合は、x=0.5である場合であって、実施例6に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.775+β:0.25+α:0.5:0.5:0.025(但し、α=0.05、β=0.04とする)である。(4)の場合は、x=0.4である場合であって、実施例6に係る原料液に含まれる金属元素のモル比は、Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.72+β:0.3+α:0.4:0.6:0.02(但し、α=0.06、β=0.04とする)である。
【0070】
実施例6に係るBF−BKT−BM系セラミックスは、800nmの膜厚を有するように、成膜工程(S2)、乾燥/脱脂工程(S3)、焼成工程(S5)より得られたBF−BKT−BM系セラミックスを、積層することによってそれぞれ製造された(図1(B)参照)。また、成膜工程(S2)においては、スピンコート法(1500rpm)により実施例6に係る原料液から第1の膜を成膜した。また、乾燥/脱脂工程(S3)においては、400℃、4分間の乾燥・脱脂処理を行い第2の膜を得た。また、焼成工程(S5)においては、第2の膜に対して、RTA炉を用い、650℃、5分間の焼成処理を行った。
【0071】
特性の評価を目的として、焼成工程後得られたBF−BKT−BM系セラミックス膜の上に、DCスパッタ法によってPtからなる金属層を形成した。金属層を形成した後、650℃の温度にて5分間、金属層を焼付け、電極を形成した。特性の評価については、周波数1Hz、室温でP−Eヒステリシスを測定した。
【0072】
2.6.1 P−Eヒステリシス/電解誘起歪−電界特性
図7において、実施例6に係るP−Eヒステリシスおよび電界誘起歪−電界特性(x=0.7、0.6、0.5、0.4の場合)を示す。尚、各グラフにおいて左側の軸が分極量を示し、右側の軸が歪量を示す。図7に示すように、いずれの場合も良好な圧電特性を示していることが分かる。特に、x=0.5の場合、歪率は0.27%であり、大きな歪率が得られた。これによれば、原料液に含まれる金属元素のモル比は、[Bi:K:Fe:Ti:Mn=0.5×(x+1)+y+0.04:0.5×(1−x)+α:x:1−x:y](但し、0.4≦x≦0.7、0.03≦α≦0.06)であって、xの値は、0.4≦x≦0.7であればよいことが確認された。それに加え、実施例4と比較して歪率が向上しており、BiおよびKの添加により圧電特性を向上させることができることが確認された。
【0073】
以上のように、本発明に係るセラミックスの原料液およびセラミックスの製造方法によれば、BF−BKTセラミックスのリーク電流を低減し、さらにはP−Eヒステリシスの角型性を向上させることができる。
【0074】
3.液滴噴射ヘッド
本実施形態に係るセラミックスの製造方法は、液滴噴射ヘッドに用いられる圧電素子の圧電体層の製造方法として用いることができる。つまりは、本実施形態に係る液滴噴射ヘッドは、本実施形態に係るセラミックスを有する圧電体層を含む圧電素子を備える。以下には、本実施形態に係るセラミックスの製造方法を用いて製造した圧電体層を含む圧電素子100を備えた、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600について、図面を参照しながら説明する。図8は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600の要部を模式的に示す断面図である。図9は、本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600の分解斜視図であり、通常使用される状態とは上下を逆に示したものである。
【0075】
液滴噴射ヘッド600は、図8及び図9に示すように、ノズル孔612を有するノズル板610と、圧力室622を形成するための圧力室基板620と、圧力室622の一面を構成し、圧電素子100が形成される振動板10と、振動板10の上に形成された圧電素子100と、を含む。
【0076】
振動板10は、プレート状の部材であって、図8に示すように、圧電素子100が上方に形成される。液滴噴射ヘッド600において、振動板10は、変形部を構成する。言い換えれば、後述される圧電素子100の変形によって、振動板10は変形することができる。これにより、下方に形成される圧力室基板620の圧力室622の体積を変化させることができる。振動板10の構造および材料は、可撓性を有し、変形することができる限り、特に限定されない。例えば、振動板10は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。このとき、振動板10は、例えば、酸化シリコンなどの酸化物材料、ポリイミドなどの高分子材料などからなる弾性膜と、酸化ジルコニウムなどの酸化物材料からなる絶縁膜を含む積層体であってもよい。
【0077】
圧電素子100は、図8に示すように、振動板10の上において形成される。圧電素子100は、第1電極20と第2電極40とによって挟まれた圧電体層30を含むものであればよい。例えば、第1電極20と第2電極40とでもって、圧電体層30に所定の電圧を印加して、圧電体層30を変形させ得る構造を有していればよい。具体的には、図8に示すように、振動板10の上に形成された第1電極20と、第1電極20の少なくとも一部を覆うように形成された圧電体層30と、圧電体層30の少なくとも一部を覆い、第1電極20および圧電体層30とオーバーラップするように形成された第2電極40とを含む構造であってもよい。例えば、圧電素子100は、屈曲振動モード(ベントモード)のユニモルフ型圧電素子であってもよい。
【0078】
なお、以下においては、圧電素子100が、屈曲振動モード(ベントモード)のユニモルフ型圧電素子の場合の構造を一例として説明するが、圧電素子100は、以下の形態に限定されるものではない。
【0079】
第1電極20は、図8に示すように、振動板10の上に形成される。第1電極20は、導電性を有した層からなり、例えば、圧電素子100において下部電極を構成してもよい。圧電体層30は、図8に示すように、第1電極20の少なくとも一部を覆うように形成される。圧電体層30の形状は、圧力室622の上方において第1電極20の少なくとも一部を覆っていればよく、特に限定されない。圧電体層30は、本実施形態に係るセラミックスの製造方法によって形成される。第2電極40は、図8に示すように、圧力室622の上方において、第1電極20および圧電体層30の少なくとも一部とオーバーラップするように形成される。第2電極40は、導電性を有した層からなり、例えば、圧電素子100において上部電極を構成してもよい。
【0080】
第1電極20および第2電極40の構造および材料は、導電性を有する限り、特に限定されない。例えば、第1電極20および第2電極40は、単層で形成されていてもよい。あるいは、第1電極20および第2電極40は、複数の膜の積層体で形成されていてもよい。第1電極20および第2電極40は、例えば、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、金(Au)、ニッケル(Ni)およびチタン(Ti)等の金属、酸化ストロンチウム(SRO)および酸化ランタンニッケル(LNO)等の導電性酸化物、などのいずれかを含む導電層であってもよい。
【0081】
また、第1電極20および第2電極40は、図示されない駆動回路(IC)と電気的に接続されている。
【0082】
圧電体層30は、圧電特性を有した多結晶体であり、本実施形態に係るセラミックスであるBF−BKT−BM系セラミックスである。したがって、圧電体層(BF−BKT−BM系セラミックス)30の詳細は上述されているため、省略する。
【0083】
圧電素子100の数は特に限定されず、複数形成されていてよい。なお、圧電素子100が複数形成される場合は、第1電極20が共通電極となってもよいし、第2電極40が共通電極となってもよい。
【0084】
さらに、液滴噴射ヘッド600は、図9に示すように、筐体630を有することができる。なお、図9では、圧電素子100を簡略化して図示している。筐体630は、図9に示すように、ノズル板610、圧力室基板620及び圧電素子100を収納することができる。筐体630の材質としては、例えば、樹脂、金属などを挙げることができる。
【0085】
ノズル板610は、図8及び図9に示すように、ノズル孔612を有する。ノズル孔612からは、インクなどの液体等(液体のみならず、各種の機能性材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したもの、又は、メタルフレーク等を含むものなどを含む。以下同じ。)を液滴として吐出されることができる。ノズル板610には、例えば、多数のノズル孔612が一列に設けられている。ノズル板620の材質としては、例えば、シリコン、ステンレス鋼(SUS)などを挙げることができる。
【0086】
圧力室基板620は、ノズル板610上(図9の例では下)に設けられている。圧力室基板620の材質としては、例えば、シリコンなどを例示することができる。圧力室基板620がノズル板610と振動板10との間の空間を区画することにより、図9に示すように、リザーバー(液体貯留部)624と、リザーバー624と連通する供給口626と、供給口626と連通する圧力室622と、が設けられている。この例では、リザーバー624と、供給口626と、圧力室622とを区別して説明するが、これらはいずれも液体等の流路であって、このような流路はどのように設計されても構わない。また例えば、供給口626は、図示の例では流路の一部が狭窄された形状を有しているが、設計にしたがって任意に形成することができ、必ずしも必須の構成ではない。リザーバー624、供給口626及び圧力室622は、ノズル板610と圧力室基板620と振動板10とによって区画されている。リザーバー624は、外部(例えばインクカートリッジ)から、振動板10に設けられた貫通孔628を通じて供給されるインクを一時貯留することができる。リザーバー624内のインクは、供給口626を介して、圧力室622に供給されることができる。圧力室622は、振動板10の変形により容積が変化する。圧力室622はノズル孔612と連通しており、圧力室622の容積が変化することによって、ノズル孔612から液体等が吐出される。
【0087】
圧電素子100は、圧力室基板620上(図9の例では下)に設けられている。圧電素子100は、圧電素子の駆動回路(図示せず)に電気的に接続され、圧電素子の駆動回路の信号に基づいて動作(振動、変形)することができる。振動板10は、積層構造(圧電体層20)の動作によって変形し、圧力室622の内部圧力を適宜変化させることができる。
【0088】
本実施形態に係る液滴噴射ヘッド600は、本実施形態に係るセラミックスを有する圧電体層を含む圧電素子100を備える。したがって、BF−BKTセラミックスよりもリーク電流が低減し、さらにはP−Eヒステリシスの角型性が向上したBF−BKT−BM系セラミックスからなる圧電体層を含む圧電素子100を有する液滴噴射ヘッド600を提供することができる。
【0089】
なお、ここでは、液滴噴射ヘッド600がインクジェット式記録ヘッドである場合について説明した。しかしながら、本発明の液滴噴射ヘッドは、例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドなどとして用いられることもできる。
【0090】
4.液滴噴射装置
次に、本実施形態に係るセラミックスの製造方法によって製造された圧電素子100を含む液滴噴射ヘッドを有した液滴噴射装置について、図面を参照しながら説明する。以下では、液滴噴射装置が上述の液滴噴射ヘッドを有するインクジェットプリンターである場合について説明する。図10は、本実施形態に係る液滴噴射装置700を模式的に示す斜視図である。
【0091】
液滴噴射装置700は、図10に示すように、ヘッドユニット730と、駆動部710と、制御部760と、を含む。さらに、液滴噴射装置700は、装置本体720と、給紙部750と、記録用紙Pを設置するトレイ721と、記録用紙Pを排出する排出口722と、装置本体720の上面に配置された操作パネル770と、を含むことができる。
【0092】
ヘッドユニット730は、上述した液滴噴射ヘッド600から構成されるインクジェット式記録ヘッド(以下単に「ヘッド」ともいう)を有する。ヘッドユニット730は、さらに、ヘッドにインクを供給するインクカートリッジ731と、ヘッド及びインクカートリッジ731を搭載した運搬部(キャリッジ)732と、を備える。
【0093】
駆動部710は、ヘッドユニット730を往復動させることができる。駆動部710は、ヘッドユニット730の駆動源となるキャリッジモーター741と、キャリッジモーター741の回転を受けて、ヘッドユニット730を往復動させる往復動機構742と、を有する。
【0094】
往復動機構742は、その両端がフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸744と、キャリッジガイド軸744と平行に延在するタイミングベルト743と、を備える。キャリッジガイド軸744は、キャリッジ732が自在に往復動できるようにしながら、キャリッジ732を支持している。さらに、キャリッジ732は、タイミングベルト743の一部に固定されている。キャリッジモーター741の作動により、タイミングベルト743を走行させると、キャリッジガイド軸744に導かれて、ヘッドユニット730が往復動する。この往復動の際に、ヘッドから適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
【0095】
なお、本実施形態では、液滴噴射ヘッド600及び記録用紙Pがいずれも移動しながら印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置は、液滴噴射ヘッド600及び記録用紙Pが互いに相対的に位置を変えて記録用紙Pに印刷される機構であってもよい。また、本実施形態では、記録用紙Pに印刷が行われる例を示しているが、本発明の液滴噴射装置によって印刷を施すことができる記録媒体としては、紙に限定されず、布、フィルム、金属など、広範な媒体を挙げることができ、適宜構成を変更することができる。
【0096】
制御部760は、ヘッドユニット730、駆動部710及び給紙部750を制御することができる。
【0097】
給紙部750は、記録用紙Pをトレイ721からヘッドユニット730側へ送り込むことができる。給紙部750は、その駆動源となる給紙モーター751と、給紙モーター751の作動により回転する給紙ローラー752と、を備える。給紙ローラー752は、記録用紙Pの送り経路を挟んで上下に対向する従動ローラー752a及び駆動ローラー752bを備える。駆動ローラー752bは、給紙モーター751に連結されている。制御部760によって供紙部750が駆動されると、記録用紙Pは、ヘッドユニット730の下方を通過するように送られる。
【0098】
ヘッドユニット730、駆動部710、制御部760及び給紙部750は、装置本体720の内部に設けられている。
【0099】
液滴噴射装置700は、上述した液滴噴射ヘッドを含んでいる。したがって、BF−BKTセラミックスよりもリーク電流が低減し、さらにはP−Eヒステリシスの角型性が向上したBF−BKT−BM系セラミックスからなる圧電体層を含む圧電素子100を有する液滴噴射ヘッドを備えた液滴噴射装置を提供することができる。
【0100】
なお、上記例示した液滴噴射装置は、1つの液滴噴射ヘッドを有し、この液滴噴射ヘッドによって、記録媒体に印刷を行うことができるものであるが、複数の液滴噴射ヘッドを有してもよい。液滴噴射装置が複数の液滴噴射ヘッドを有する場合には、複数の液滴噴射ヘッドは、それぞれ独立して上述のように動作されてもよいし、複数の液滴噴射ヘッドが互いに連結されて、1つの集合したヘッドとなっていてもよい。このような集合となったヘッドとしては、例えば、複数のヘッドのそれぞれのノズル孔が全体として均一な間隔を有するような、ライン型のヘッドを挙げることができる。
【0101】
以上、本発明に係る液滴噴射装置の一例として、インクジェットプリンターとしてのインクジェット記録装置700を説明したが、本発明に係る液滴噴射装置は、工業的にも利用することができる。この場合に吐出される液体等(液状材料)としては、各種の機能性
材料を溶媒や分散媒によって適当な粘度に調整したものなどを用いることができる。本発明の液滴噴射装置は、例示したプリンター等の画像記録装置以外にも、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機ELディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)、電気泳動ディスプレイ等の電極やカラーフィルターの形成に用いられる液体材料噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機材料噴射装置としても好適に用いられることができる。
【0102】
なお、上述した実施形態及び各種の変形は、それぞれ一例であって、本発明は、これらに限定されるわけではない。例えば実施形態及び各変形は、複数を適宜組み合わせることが可能である。
【0103】
上記のように、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できよう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0104】
10 振動板、20 第1電極、30 圧電体層、40 第2電極、100 圧電素子、
600 液滴噴射ヘッド、610 ノズル板、612 ノズル孔、
620 圧力室基板、622 圧力室、624 リザーバー、626 供給口、
628 貫通孔、630 筐体、700 液滴噴射装置、710 駆動部、
720 装置本体、721 トレイ、722 排出口、730 ヘッドユニット、
731 インクカートリッジ、732 キャリッジ、741 キャリッジモーター、
742 往復動機構、743 タイミングベルト、744 キャリッジガイド軸、
750 給紙部、751 給紙モーター、752 給紙ローラー、
752a 従動ローラー、752b 駆動ローラー、760 制御部、
770 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル孔に連通する圧力室と、セラミックスおよび前記セラミックスに設けられた電極を有する圧電素子と、を備えた液滴噴射ヘッドであって、
前記セラミックスは、鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる、液滴噴射ヘッド。
【請求項2】
請求項1に記載の液滴噴射ヘッドであって、
前記セラミックスは、x[BiFeO3]−(1−x)[(Bia1-a)TiO3]−y[BiMnO3](但し、0.4≦x≦0.7、0<y≦0.045、0.4<a<0.6)である、液滴噴射ヘッド。
【請求項3】
請求項1または2に記載された液滴噴射ヘッドを備えた、液滴噴射装置。
【請求項4】
セラミックスおよび前記セラミックスに設けられた電極を有する圧電素子であって、
前記セラミックスは、鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる、圧電素子。
【請求項5】
鉄酸ビスマスと、チタン酸ビスマスカリウムと、マンガン酸ビスマスと、を含む固溶体からなる、セラミックス。

【図1(A)】
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【図1(B)】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−66382(P2011−66382A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54885(P2010−54885)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】