説明

液滴噴射装置

【課題】液滴噴射ヘッドやこの液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダの姿勢が傾いている場合でも、メンテナンスユニットによるメンテナンス動作を正常に行うことが可能な液滴噴射装置を提供すること。
【解決手段】メンテナンスユニット7は、筐体1aに設けられたメンテナンスベース50と、このメンテナンスベース50に取り付けられた吸引キャップ51、排気キャップ54、開閉部材55等のメンテナンス部品を有し、メンテナンスベース55は、液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴を噴射する液滴噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから液滴を噴射する液滴噴射装置として、液滴噴射ヘッドのノズルの噴射性能の維持・回復(メンテナンス)のための構成を備えたものがある。
【0003】
上記液滴噴射装置として、例えば、特許文献1には、ノズルからインクの液滴を噴射して被記録媒体に画像等を記録するインクジェットプリンタが開示されている。このインクジェットプリンタは、往復移動するキャリッジ(ヘッドホルダ)に搭載されたインクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドのメンテナンスを行うメンテナンスユニットを有する。このメンテナンスユニットは、インクジェットヘッドのメンテナンスを行う様々な構成部品(メンテナンス部品)を備えている。
【0004】
まず、特許文献1のメンテナンスユニットは、インクジェットヘッドの複数のノズルを覆うキャップと、キャップに接続された吸引ポンプとを備えている。そして、キャップが複数のノズルを覆った状態で吸引ポンプを駆動してキャップ内を減圧することにより、ノズルの噴射不良の原因となる、気泡や乾燥により増粘化したインク等をノズルから排出する(吸引パージ)。
【0005】
また、特許文献1のメンテナンスユニットは、上記の吸引パージ用の構成に加えて、インクに混入した気泡がノズルを含む下流側の流路に流れて噴射不良を生じさせることを未然に防止するために、インクジェットヘッドよりも上流側のインク流路から気泡を排出するための構成も備えている。まず、キャリッジには、インクジェットヘッドに供給するインクを一時的に貯留するバッファタンクと、このバッファタンク内の気泡貯留室に連通する排気流路と、排気流路を開閉する開閉弁が設けられている。その一方で、メンテナンスユニットは、排気流路の末端の排出口を覆う排気キャップと、前記開閉弁を開閉する開閉部材と、排気キャップに接続された吸引ポンプ(前述の吸引パージと兼用)を備えている。そして、排気キャップが排気流路の排出口を覆い、且つ、開閉部材が開閉弁を開放した状態で、吸引ポンプを駆動して排気キャップ内を減圧することで、バッファタンク内の気泡貯留室に溜まった気泡を排出口から排出する(排気パージ)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−331268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した特許文献1において、インクジェットヘッドが、ある正規の姿勢に対して、液滴噴射面と平行な面内において正規の姿勢に対してわずかに傾いた姿勢でキャリッジに取り付けられたり、あるいは、インクジェットヘッドを搭載(保持)したキャリッジ自体が正規の姿勢に対して傾いて取り付けられたりすることがある。この場合は、、キャリッジやインクジェットヘッドと、メンテナンスユニットのメンテナンス部品との位置関係がずれてしまうため、メンテナンス動作を正常に行うことができなくなることも考えられる。
【0008】
例えば、インクジェットヘッドの姿勢が傾いていると、このインクジェットヘッドの液滴噴射面とメンテナンスユニットのキャップの位置がずれ、キャップによって複数のノズルの開口を完全に塞ぐことができなくなり、吸引パージの実行が不可能となる虞がある。また、インクジェットヘッドを搭載したキャリッジの姿勢が傾いていると、キャリッジに設けられた排気流路の開閉弁とメンテナンスユニットの開閉部材との位置がずれて、開閉弁を開閉できなくなり、排気パージの実行が不可能となる虞がある。
【0009】
本発明の目的は、液滴噴射ヘッドやこの液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダの姿勢が傾いている場合でも、メンテナンスユニットによるメンテナンス動作を正常に行うことが可能な液滴噴射装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明の液滴噴射装置は、装置本体と、液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダと、前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面と対向する位置に配置されたメンテナンスユニットを備え、前記メンテナンスユニットは、前記装置本体に設けられたメンテナンスベースと、前記メンテナンスベースに取り付けられ、前記液滴噴射ヘッドの液滴噴射特性の維持又は回復を行うメンテナンス部品を有し、前記メンテナンスベースは、前記装置本体に、前記液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整可能に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0011】
本発明によれば、液滴噴射ヘッドがその液滴噴射面に平行な面内でヘッドホルダに対して傾いて取り付けられた場合、あるいは、ヘッドホルダ自体が傾いて組み付けられた場合に、それに応じて、メンテナンスベースの、液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整することにより、メンテナンス部品をメンテナンス動作可能な位置に移動させることができる。これにより、メンテナンス部品によるメンテナンス動作を確実に行うことができる。
【0012】
第2の発明の液滴噴射装置は、前記第1の発明において、前記ヘッドホルダには、前記液滴噴射ヘッドに液体を供給する液体供給流路と、前記液体供給流路に連通する排気流路と、前記排気流路を開閉する開閉弁とが設けられ、前記メンテナンスユニットは、前記開閉弁を介して前記排気流路と接続されて前記液体供給流路内の気体を前記排気流路から吸引排出する第1吸引手段と、前記開閉弁を開閉駆動させる弁駆動手段を有し、少なくとも、前記弁駆動手段が前記メンテナンス部品であって、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0013】
ヘッドホルダに設けられた排気流路は、液体供給流路を流れる液体に混入した気体(気泡)を、液滴噴射ヘッドに流入する前に排出するための流路である。ここで、ヘッドホルダの姿勢が液滴噴射面と平行な面内で傾いていると、このヘッドホルダに設けられた排気流路の開閉弁の位置も変わってしまうが、本発明では、ヘッドホルダの傾きに応じてメンテナンスベースの傾きを調整することで、メンテナンスユニットの弁駆動手段を、開閉弁の開閉が可能な位置に移動させることができ、開閉弁の開閉を確実に行うことができる。
【0014】
第3の発明の液滴噴射装置は、前記第1又は第2の発明において、前記メンテナンスユニットは、前記液滴噴射面に密着して前記複数のノズルの開口を覆うキャップを有し、前記キャップが前記メンテナンス部品であって、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0015】
液滴噴射ヘッドの姿勢が傾いていると、液滴噴射面の複数のノズルを確実に覆うことができなくなる虞がある。この問題を解決するためにキャップを一回り大きくすることも考えられるが、その分、キャップが大型化するし、キャップを大きくしたことによって、このキャップが接触する液滴噴射面も余計に大きくする必要が生じる。本発明では、液滴噴射ヘッドの傾きに対してメンテナンスベースの傾きを調整することで、液滴噴射面とキャップの姿勢を合わせることができ、キャップや液滴噴射面を大きくする必要がなくなる。
【0016】
第4の発明の液滴噴射装置は、前記第3の発明において、前記メンテナンスユニットは、前記キャップに接続されて、前記キャップによって覆われた前記複数のノズルから液体を吸引排出させる第2吸引手段と、前記複数のノズルから液体が排出された後に、前記液滴噴射面に付着した液体を拭き取るワイパーとを備え、前記第2吸引手段と前記ワイパーとが前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0017】
本発明では、さらにメンテナンスベースに第2吸引手段とワイパーとが取り付けられていることから、液滴噴射ヘッドが液滴噴射面と平行な面内で傾いている場合であっても、キャップと第2吸引手段による吸引パージと、吸引パージ後のワイパーの液体の拭き取りを確実に行うことができる。
【0018】
第5の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第4の何れかの発明において、前記液滴噴射面に平行な方向に延びる駆動軸と、前記駆動軸の動力を前記メンテナンス部品に伝達する動力伝達機構とを備え、前記動力伝達機構は、前記駆動軸に固定されて前記駆動軸と一体回転する駆動ギヤと、前記メンテナンスベースに取り付けられ、且つ、前記液滴噴射面に直交する軸周りに回転する被駆動ギヤと、前記駆動ギヤの前記駆動軸周りの回転を、前記液滴噴射面に直交する軸周りの回転に変換して、前記被駆動ギヤに伝達する変換機構とを有することを特徴とするものである。
【0019】
液滴噴射面と平行な外部の駆動軸からメンテナンスユニットに動力が伝達される場合、液滴噴射面と平行な面内でメンテナンスベースの傾きを調整したときに、メンテナンスベースに取り付けられた被駆動ギヤの位置が変わることによって、駆動軸に設けられた駆動ギヤとの間の動力伝達に支障が出る虞がある。本発明では、駆動ギヤの駆動軸周りの回転が変換機構によって液滴噴射面と直交する軸周りの回転に変換されて被駆動ギヤに伝達され、被駆動ギヤは液滴噴射面と平行な面内で回転する。そのため、メンテナンスベースの傾き調整による被駆動ギヤの位置の変化が小さくなり、動力伝達への影響が小さくなる。
【0020】
第6の発明の液滴噴射装置は、前記第5の発明において、前記被駆動ギヤは、その回転軸が、前記メンテナンスベースの回動中心と一致するように、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とするものである。
【0021】
メンテナンスベースに取り付けられた被駆動ギヤの回転軸と、メンテナンスベースの回動中心とが一致していると、メンテナンスベースの傾き調整によって被駆動ギヤの位置が変わらないことから、被駆動ギヤと変換機構のギヤとの噛み合い位置がずれることがない。
【0022】
第7の発明の液滴噴射装置は、前記第1〜第6の何れかの発明において、前記ヘッドホルダは、前記液滴噴射面に平行な所定の走査方向に延在するガイド部材によって案内されつつ、前記走査方向に移動可能に構成され、前記液滴噴射ヘッドは前記ヘッドホルダとともに前記走査方向に移動して、液滴着弾体に対して前記ノズルから液滴を噴射する液滴噴射位置と、前記メンテナンスユニットと対向するメンテナンス位置とにわたって移動可能であることを特徴とするものである。
【0023】
液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダが、所定の走査方向に延びるガイド部材によって前記走査方向に案内される構成においては、通常、ヘッドホルダとガイド部材との間のガタの存在によって、ヘッドホルダが液滴噴射面と平行な面内で傾いた姿勢で組み付けられることがある。従って、本発明における、メンテナンスベースの傾き調整を行う意義は大きい。
【0024】
第8の発明の液滴噴射装置は、液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面と対向する位置に配置されたメンテナンスユニットを備え、前記メンテナンスユニットは、前記液滴噴射面に密着して前記複数のノズルを覆うキャップを有し、前記キャップが、前記液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0025】
液滴噴射ヘッドの姿勢が液滴噴射面と平行な面内で傾いていると、液滴噴射面とキャップの位置関係がずれて、キャップによって複数のノズルを確実に覆うことができなくなる虞がある。また、そのために、キャップを一回り大きくすると、キャップが大型化するし、キャップを大きくしたことによって、このキャップが接触する液滴噴射面も余計に大きくする必要が生じる。本発明では、液滴噴射ヘッドの傾きに対してメンテナンスベースの傾きを調整することで、液滴噴射面とキャップの姿勢を合わせることができ、キャップや液滴噴射面を大きくする必要がなくなる。
【発明の効果】
【0026】
液滴噴射ヘッド、あるいは、この液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダの姿勢が液滴噴射面と平行な面内で傾いている場合に、その傾きに応じて、メンテナンスベースの、液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整することにより、メンテナンス部品をメンテナンス動作可能な位置に移動させることができる。これにより、メンテナンス部品によるメンテナンス動作を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【図2】インクジェットヘッドに接続された1つのサブタンクの縦断面図である。
【図3】(a)はキャリッジの平面図、(b)はキャリッジの傾き調整の説明図である。
【図4】メンテナンスユニットの主要部の斜視図である。
【図5】キャリッジ側の排気ユニットと、メンテナンスユニット側の排気キャップ及び開閉部材の構成を示す図である。
【図6】メンテナンスベースの傾き調整の説明図である。
【図7】変更形態の、キャリッジ及びインクジェットヘッドの姿勢と、それに応じたメンテナンスベースの傾き調整を説明する図である。
【図8】別の変更形態に係るメンテナンスユニットの動力伝達機構を示す図である。
【図9】さらに別の変更形態のメンテナンスユニットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェットプリンタの概略構成を示す平面図である。
【0029】
(インクジェットプリンタの概略構成)
図1に示すように、インクジェットプリンタ1(液滴噴射装置)は、走査方向(図1の左右方向)に往復移動可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に搭載されたインクジェットヘッド3(液体噴射ヘッド)及びサブタンク4a〜4dと、記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送する搬送機構5と、インクを貯留するインクカートリッジ6a〜6dと、インクジェットヘッド3の液滴噴射性能の維持・回復を行うメンテナンスユニット7などを備えている。
【0030】
キャリッジ2は、走査方向に平行に延びる2本のガイドレール17a,17b(ガイド部材)に沿って往復移動可能に構成されている。また、キャリッジ2には、無端ベルト18が連結されており、キャリッジ駆動モータ19によって無端ベルト18が走行駆動されたときに、キャリッジ2は、無端ベルト18の走行に伴って左右方向に移動するようになっている。
【0031】
このキャリッジ2(ヘッドホルダ)は、インクジェットヘッド3と4つのサブタンク4a〜4dとを保持している。インクジェットヘッド3の下面(図1の紙面向こう側の面)は複数のノズル30が開口する、水平な液滴噴射面3a(図2参照)となっている。複数のノズル30は搬送方向に配列され、4色(ブラック、シアン、イエロー、マゼンタ)のインクをそれぞれ噴射する4列のノズル列を構成している。また、インクジェットヘッド3は、キャリッジ2とともに、記録用紙Pにノズル30から液滴を噴射する記録領域(液滴噴射位置)とそれよりも走査方向における外側の領域(メンテナンスユニット7が配置されたメンテナンス位置)との間を移動可能となっている。
【0032】
4つのサブタンク4a〜4dはインクジェットヘッド3の上方(図1の手前側)において、走査方向に沿って並べて配置されており、それぞれインクジェットヘッド3に接続されている。一方で、プリンタ1の筐体1a(装置本体)には、4色のインクをそれぞれ貯留する4つのインクカートリッジ6a〜6dが到着されるホルダ10が固定されている。また、4つのサブタンク4a〜4dに一体的に設けられたチューブジョイント20と、ホルダ10とが4本のチューブ11で接続されている。これにより、4つのインクカートリッジ6a〜6dに貯留された4色のインクは、チューブ11によってサブタンク4a〜4dに供給されて一旦貯留された後、インクジェットヘッド3に供給される。つまり、4つのサブタンク4a〜4dと、これら4つのサブタンク4a〜4dと4つのインクカートリッジ6a〜6dとを接続するチューブ11a〜11dによって、インクジェットヘッド3にインクを供給するインク供給流路(本願発明の液体供給流路)が構成されている。
【0033】
図2は、インクジェットヘッド3に接続された1つのサブタンク4の縦断面図である。図2に示すように、サブタンク4は、その内部にインク(符号Iで示す)が貯留されるインク貯留室31を有する。このインク貯留室31は、チューブジョイント20の内部空間と連通し、さらに、チューブジョイント20(図1参照)に連結されたチューブ11を介してインクカートリッジ6と連通する。一方、サブタンク4の底部にはインク貯留室31に連通するインク供給孔34が形成されている。このインク供給孔34は、インクジェットヘッド3に接続されており、インク貯留室31内のインクをインクジェットヘッド3に供給する。
【0034】
また、図2に示すように、サブタンク4やチューブ11からなるインク供給流路に空気(気泡)が混入したときに、この空気(符号Aで示す)の大部分は、インク貯留室31の上部に滞留する。その上で、各サブタンク4には、インク貯留室31に連通してその上部の空気を排出する排気流路32が形成されるとともに、この排気流路32は、サブタンク4に一体的に設けられた排気ユニット33(図1参照)に繋がっている。そして、サブタンク4(インク貯留室31)内の空気がインクジェットヘッド3へ流入することを防止するために、後述するメンテナンスユニット7によって、排気ユニット33から排気流路32を経由してサブタンク4内の空気を排出可能となっている(排気パージ)。排気ユニット33の構成、及び、排気パージの詳細については後ほど説明する。
【0035】
図1に戻り、搬送機構5は、インクジェットヘッド3よりも搬送方向上流側と下流側にそれぞれ配置され、搬送モータ27によって駆動される2つの搬送ローラ25,26を有する。そして、搬送機構5は、これら2つの搬送ローラ25,26によって、記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送する。
【0036】
そして、インクジェットプリンタ1は、記録用紙Pに対して、キャリッジ2とともに走査方向に移動するインクジェットヘッド3から4色のインクを噴射させるとともに、2つの搬送ローラ25,26によって記録用紙Pを搬送方向(図1の前方)に搬送することによって、記録用紙Pに所望の画像や文字等を印刷する。
【0037】
尚、本実施形態のインクジェットヘッド3は、正しくは、ノズル30の配列方向が搬送方向と平行となる姿勢でキャリッジ2に取り付けられるのであるが、インクジェットヘッド3が上記姿勢に対して、液滴噴射面4aと平行な水平面内(図1の紙面と平行な面内)でわずかに傾いた姿勢で取り付けられてしまうことがあり、その場合には、ノズル列が正規の方向(ここでは搬送方向)に対して傾いてしまう。そこで、上記の場合でも、ノズル30の配列方向を正規の方向に向くように、キャリッジ2は、図1の紙面と平行な面内での傾きを調整可能に構成されている。
【0038】
図3(a)はキャリッジ2の平面図、(b)はキャリッジ2の傾き調整の説明図である。図3(a)に示すように、キャリッジ2は矩形の平面形状を有し、このキャリッジの搬送方向上流側の2つの角部に2つの摺動部材40,41がそれぞれ設けられるとともに、搬送方向下流側の2つの角部に2つの押し付け部材42がそれぞれ設けられている。
【0039】
2つの摺動部材40,41は、ともに、搬送方向上流側に位置するガイドレール17aに摺動自在に係合する。但し、2つの摺動部材40,41のうちの図中左側に位置する摺動部材40はキャリッジ2に固定される一方で、右側に位置する摺動部材41は矢印で示されるようにキャリッジ2に対して搬送方向に位置調整可能に構成されている。また、2つの押し付け部材42は、搬送方向下流側に位置するガイドレール17bにバネ43で押し付けられている。尚、キャリッジ2とガイドレール17a,17bの間には一定のガタが存在するが、そのガタは2つのバネ43によって吸収されている。
【0040】
上記構成において、可動側の摺動部材41のキャリッジ2に対する位置を調整することで、キャリッジ2は、固定側の摺動部材40を回動中心C1として、二点鎖線で示すように水平面内で回動することになる。従って、インクジェットヘッド3が、正規の姿勢でキャリッジ2に取り付けられている場合に対して、図3(b)の左図に示されるように水平面内でわずかに傾いた状態で取り付けられたときに、ガイドレール17a,17bに取り付けられるときのキャリッジ2の傾きを調整することで、図3(b)の右図のように、ノズル30の配列方向を搬送方向と平行にすることができる。
【0041】
(メンテナンスユニット)
次に、メンテナンスユニット7について説明する。図1に示すように、メンテナンスユニット7は、インクジェットヘッド3の記録領域(記録用紙Pの搬送領域)よりも、走査方向における外側(図中右側)の位置(メンテナンス位置)に配置されている。キャリッジ2がこのメンテナンス位置に移動したときには、メンテナンスユニット7はインクジェットヘッド3の液滴噴射面3aと対向し、インクジェットヘッド3に対して、後述する吸引パージや排気パージといった様々なメンテナンス動作を行う。
【0042】
図4はメンテナンスユニット7の主要部の斜視図である。図1、図4に示すように、メンテナンスユニット7は、筐体1aの底面に設けられたメンテナンスベース50と、このメンテナンスベース50に取り付けられて、インクジェットヘッド3のメンテナンス動作を行う、吸引キャップ51等の複数のメンテナンス部品を備えている。本実施形態では、複数のメンテナンス部品には、以下に説明する、吸引キャップ51、吸引ポンプ52、ワイパー53、排気キャップ54、開閉部材55等が含まれる。
【0043】
吸引キャップ51と吸引ポンプ52は、インクジェットヘッド3の複数のノズル30からインク流路内のインクを吸引して排出することによって、インクに混入している気泡や塵、あるいは、増粘したインク等を排出する、吸引パージを行うためのものである。
【0044】
吸引キャップ51は、ゴムや合成樹脂などの可撓性を有する材料で形成されており、キャリッジ2がメンテナンス位置にあるときに、インクジェットヘッド3の液滴噴射面3aと対向する。この吸引キャップ51は、後述のキャップ駆動機構56によって昇降駆動され、液滴噴射面3aに密着することによって複数のノズル30の開口を覆う(キャッピング)。尚、図1、図4に示すように、吸引キャップ51は、ブラックインクを噴射するノズル列と、3色(イエロー、シアン、マゼンタ)のカラーインクをそれぞれ噴射する3列のノズル列について、独立して吸引パージを行うことができるように、ブラックのノズル列を覆う領域と、3色のカラーのノズル列を覆う領域とが、仕切り壁51aによって仕切られている。
【0045】
吸引ポンプ52は切換装置57を介して吸引キャップ51に接続されており、吸引キャップ51のキャッピング状態で、吸引キャップ51内の空気を吸引して内部を減圧することで、複数のノズル30から吸引キャップ51内へインクを強制的に排出する。尚、この吸引ポンプ52は、後述する排気キャップ54にも接続されて排気パージをも行うようになっている。そのために、吸引ポンプ52と、吸引キャップ51及び排気キャップ54との間に切換装置57が設けられ、この切換装置57によって、吸引ポンプ52の連通先を吸引キャップ51と排気キャップ54との間で切り換えられるようになっている。
【0046】
ワイパー53は、吸引キャップ51と走査方向に並び、且つ、吸引キャップ51よりも記録領域側(記録用紙Pの搬送領域側:図1の左側)に配置されている。このワイパー53は、吸引パージ後にインクジェットヘッド3がメンテナンス位置から記録領域へ移動する際に、その液滴噴射面3aに付着したインクを拭き取る。
【0047】
排気キャップ54と開閉部材55(及び、吸引ポンプ52)は、図2に示すサブタンク4の上部に滞留する空気を排出する、排気パージを行うためのものである。この排気パージについて説明する前に、キャリッジ2に設けられて排気流路32を開閉する排気ユニット33について説明する。図1に示すように、キャリッジ2に搭載されたサブタンク4dの走査方向における側面に、4つ(4色)のサブタンク4a〜4dにそれぞれ対応する4つの排気ユニット33a〜33dが、搬送方向に並べて設けられている。
【0048】
図5は、キャリッジ2側の排気ユニット33と、メンテナンスユニット7側の排気キャップ54及び開閉部材55の構成を示す図である。図5に示すように、排気ユニット33は、サブタンク4の排気流路32に接続されたケース60と、このケース60内に収容された開閉弁61とを有する。尚、図5では、4つの排気ユニット33のうち、排気ユニット33a〜33cについては、ケース60に接続される排気流路32の図示は省略されている。
【0049】
ケース60の内部には、排気流路32と連通する弁収容空間62が形成され、この弁収容空間62内に開閉弁61が収容されている。また、ケース60の下面には、弁収容空間62と連通する排気口63が形成されている。開閉弁61は、弁収容空間62内で上下に移動可能な弁部材64と、この弁部材64を下方に付勢するコイルバネ65を有する。弁部材64は、コイルバネ65の付勢力によって、弁収容空間62の下部に設けられた弁座66に押し付けられることにより弁収容空間62を閉止する。
【0050】
メンテナンスユニット7の排気キャップ54は、吸引キャップ51と同じく、ゴムや合成樹脂などの可撓性を有する材料で形成されている。図5に示すように、キャリッジ2がメンテナンス位置に移動したときに、排気キャップ54は4つの排気ユニット33の排気口63と対向し、後述するキャップ駆動機構56によって昇降駆動されることによって、4つの排気ユニット33のケース60の下面に密着して4つの排気口63を共通に覆うことが可能となっている。また、この排気キャップ54は、切換装置57を介して吸引ポンプ52に接続されている。そして、排気キャップ54が排気ユニット33の排気口63を覆っている状態では、吸引ポンプ52が開閉弁61、及び、排気流路32を介してサブタンク4内のインク貯留室31(図2参照)と接続されることになる。
【0051】
また、先にも触れたが、吸引ポンプ52は、吸引パージと排気パージとで兼用されており、排気パージを実行する際には、吸引ポンプ52の連通先は、切換装置57によって排気キャップ54に切り換えられる。そして、本実施形態では、吸引ポンプ52が、本願発明における、排気パージ用の第1吸引手段と吸引パージ用の第2吸引手段とを兼ねている。尚、排気パージ用と吸引パージ用とで、吸引ポンプ52が個別に設けられてもよい。
【0052】
開閉部材55(弁駆動手段)はピン状の部材であり、排気ユニット33の4つの排気口63にそれぞれ対応して4本設けられている。これら4本の開閉部材55は、排気キャップ54の底壁を、気密を保った状態で貫通し、図示外のモータで駆動されることによって排気キャップ54に対して上下に移動する。そして、排気口63から、排気ユニット33内の弁部材64をコイルバネ65の付勢力に抗して押し上げることによって、開閉弁61を、排気流路32を閉止した閉状態から開状態に移行させる。
【0053】
排気キャップ54が排気口63を覆い、且つ、排気ユニット33内の開閉弁61が開放されていると、サブタンク4と排気キャップ54が連通した状態となり、この状態において、吸引ポンプ52が排気キャップ54内の空気を吸引して内部を減圧することで、サブタンク4内の空気が排気キャップ54内に排出される(排気パージ)。このように、インクジェットヘッド3よりも上流のサブタンク4内に滞留する空気が、排気パージで排出されることによって、サブタンク4からインクジェットヘッド3へ流入する空気が減り、ノズル30の噴射不良が生じにくくなる。尚、4本の開閉部材55のうち、ブラックインク用の排気ユニット33dに対応する開閉部材55dは単独で上下方向に移動する。一方、3色のカラーインク用の排気ユニット33a〜33cに対応する3本の開閉部材55a〜55cは、それらの下端部において互いに連結され、3本の開閉部材55a〜55cは一体的に上下方向に移動する。従って、ブラックインクの排気ユニット33dと3色のカラーインクの排気ユニット33a〜33cとで、開閉弁61の開閉を独立して行うことができる。即ち、ブラックインクのサブタンク4dの排気パージと、3色のカラーインクのサブタンク4a〜4cの排気パージとを、個別に行うことが可能である。
【0054】
次に、キャップ駆動機構56について説明する。図4に示すように、キャップ駆動機構56は、吸引キャップ51と排気キャップ54を保持するキャップリフトホルダ70と、キャップリフトホルダ70を昇降駆動するキャップスライドカム71とを有する。
【0055】
キャップリフトホルダ70は、上方に開口した略直方体形状を有し、その内側に吸引キャップ51と排気キャップ54とが走査方向に並べて収容される。キャップスライドカム71は、その上面にカム面(図示省略)が形成されカム部75と、このカム部75から搬送方向に延びた延長部分76に設けられたラックギヤ73とを有し、ラックギヤ73にはピニオンギヤ74が噛み合っている。
【0056】
ピニオンギヤ74は、図示外のモータから供給された動力によって回転駆動される。このピニオンギヤ74の回転がラックギヤ73に伝達されることによってキャップスライドカム71は搬送方向と平行に移動し、そのときにカム部75のカム面によってキャップリフトホルダ70が昇降駆動される。そして、キャップリフトホルダ70が上昇したときには、吸引キャップ51がインクジェットヘッド3の液滴噴射面3aに密着するとともに、排気キャップ54が4つの排気ユニット33に密着する。
【0057】
尚、メンテナンスユニット7の吸引キャップ51等のメンテナンス部品は、外部のモータから供給された動力によって駆動される。具体例を挙げると、図1に示すように、搬送モータ27によって駆動する搬送ローラ25の、図中右端部とメンテナンスユニット7とが動力伝達可能に接続され、搬送モータ27の動力が搬送ローラ25を介してメンテナンスユニット7に供給されてもよい。このようにしてメンテナンスユニット7に供給された動力が、前述したキャップ駆動機構56のピニオンギヤ74など、メンテナンス部品を駆動するための各種ギヤに伝達される。
【0058】
ところで、前述したように、本実施形態では、キャリッジ2の、水平面内(液滴噴射面3aと平行な面内)での傾きを調整可能になっているが(図3参照)、このキャリッジ2の傾きに応じて、メンテナンスユニット7のメンテナンスベース50についても、水平面内で傾きを調整可能となっている。
【0059】
図6は、メンテナンスベース50の傾き調整の説明図である。図6に示すように、メンテナンスベース50の搬送方向上流側部分に真円状の円形穴50aが設けられるとともに、その搬送方向下流側部分には、円形穴50aを中心とする同一円弧上に2つの長円穴50b、50cが設けられている。また、円形穴50aと2つの長円穴50b、50cには、メンテナンスベース50を筐体1aの底部に固定するための固定ネジ68がそれぞれ挿通されている。そして、2つの長円穴50b、50cにおいては、メンテナンスベース50のネジ68による締め付け位置(筐体1aへの固定位置)を穴の長手方向に調整できるようになっており、メンテナンスベース50は、筐体1aに対して、円形穴50aを中心に回動させて水平面内での傾きを調整可能となっている。また、平面視で、円形穴50aの位置(メンテナンスベース50の回動中心C2)は、キャリッジ2の傾き調整時の回動中心C1(図3参照)とほぼ一致している。
【0060】
従って、図7(a)の状態からメンテナンスベース50を水平面内で回動させ、図7(b)に示すように、キャリッジ2の傾き(図3(b)の右図参照)と等しくなるようにその傾きを調整することができる。傾き調整後には、円形穴50a及び2つの長円穴50b、50cにおいて固定ネジ68をそれぞれ締め付けて、調整した位置でメンテナンスベース50を筐体1aに固定する。
【0061】
尚、上述したキャリッジ2の傾き調整や、それに応じたメンテナンスユニット7の傾き調整は非常に小さな角度範囲内(例えば、最大でも0.3度程度)で行われる。つまり、メンテナンスユニット7の傾きの調整は非常に細かな作業となる。この調整を容易に行うためには、例えば、以下のような手法が考えられる。まず、予め、キャリッジ2とメンテナンスベース50のそれぞれについて、回動中心C1,C2から離れた搬送方向下流側(図7における下側)の側面に印を設けておく。その上で、キャリッジ2の傾き調整完了後に、メンテナンスベース50を僅かに回動させて、メンテナンスベース50側の印とキャリッジ2側の印とが上下に一致する姿勢で、3つのネジ68でメンテナンスベース50を筐体1aに固定すればよい。
【0062】
このように、キャリッジ2の傾きに応じて、メンテナンスベース50の傾きを調整することにより、メンテナンスベース50に取り付けられたメンテナンス部品の位置を変更できる。具体的には、キャリッジ2の傾きによって排気ユニット33の排気口63の位置が変わり、開閉部材55の位置が排気口63に対してずれていると、開閉部材55による開閉弁61の開閉が困難となる。しかし、キャリッジ2の傾きに応じて、メンテナンスベース50の傾きを調整することで、メンテナンスベース50に設けられた4つの開閉部材55を、4つの排気口63の直下の位置にそれぞれ移動させることができ、開閉弁61を確実に開閉できる。また、排気キャップ54についても、4つの排気ユニット33の下面に密着して4つの排気口63を確実に覆う姿勢とすることができる。これにより、排気パージを正常に行うことができる。
【0063】
尚、本実施形態では、図3(b)に示すように、インクジェットヘッド3がキャリッジ2に対して正規の姿勢から傾いて取り付けられた場合に、ノズル30の配列方向が搬送方向と平行となるように、キャリッジ2自体の傾きが調整されている。即ち、キャリッジ2が傾いていても、インクジェットヘッド3は正規の姿勢となっている。従って、排気ユニット33の排気口63と開閉部材55の位置を合わせるためにメンテナンスベース50の傾きを調整することによって、逆に、メンテナンスユニット7の吸引キャップ51は、インクジェットヘッド3の液滴噴射面3aに対して少し傾いた姿勢となる。このように、両者の間に姿勢のずれが存在しても吸引キャップ51が確実にキャッピングできるように、本実施形態では、液滴噴射面3aと吸引キャップ51のサイズ(面積)は、両者の姿勢が一致しているときの最低限のサイズよりも、それぞれ一回り大きく設定されることが好ましい。
【0064】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0065】
1]前記実施形態では、図3(b)に示すように、インクジェットヘッド3がキャリッジ2に傾いて取り付けられている場合に、インクジェットヘッド3が、ノズル列が搬送方向と平行となる正規の姿勢となるようにキャリッジ2の傾きが調整されるようになっていたが、インクジェットヘッド3が前記正規の姿勢に対して傾いた傾斜姿勢のまま使用することも可能である。例えば、ノズル列が搬送方向に対して傾いていても、その傾きに応じてノズル列を構成する複数のノズル30の噴射タイミングをずらすことによって、搬送方向と平行なドット列を形成することは可能である。
【0066】
この場合、図7(a)に示すように、インクジェットヘッド3の姿勢が傾いていることから、液滴噴射面3aと吸引キャップ51の姿勢が一致するように、インクジェットヘッド3の傾きに応じて、メンテナンスベース50の傾きが調整されてもよい。これにより、吸引キャップ51によって複数のノズル30を確実に覆うことができ、また、液滴噴射面3aと吸引キャップ51の姿勢のずれを考慮して両者のサイズ(面積)を大きくする必要がなくなる。さらに、吸引キャップ51と同様にワイパー53も、インクジェットヘッド3の傾きに応じて姿勢が変化することから、吸引パージ後におけるワイパー53による液滴噴射面3aのインクの拭き取りを確実に行うことができ、拭き残し等が発生することがない。
【0067】
但し、図7(a)の形態では、前記実施形態とは違って、キャリッジ2は傾いていないために、メンテナンスベース50の傾きを調整することで、キャリッジ2に設けられた排気ユニット33と、メンテナンスベース50側の開閉部材55及び排気キャップ54との間では姿勢(位置関係)がずれ、インクジェットヘッド3の傾きの程度によっては開閉弁61の開閉等ができず、排気パージの実行が不可能となることもある。従って、この変更形態は、メンテナンスユニット7が排気パージを行わない構成である場合(即ち、排気キャップ54や開閉部材55を備えていない構成である場合)に適用すると、特に有効である。
【0068】
また、図7(b)に示すように、インクジェットヘッド3はキャリッジ2に対しては正規の姿勢で取り付けられているのだが、キャリッジ2自体が水平面内で傾いた傾斜姿勢で取り付けられてしまうことも考えられる。このとき、キャリッジ2とインクジェットヘッド3は、共に、図3(a)に示される正規の姿勢に対して傾くことになる。この場合、キャリッジ2の傾きに応じてメンテナンスベース50の傾きを調整することで、インクジェットヘッド3の液滴噴射面3aと吸引キャップ51の姿勢が一致するとともに、キャリッジ2に設けられた排気ユニット33と排気キャップ54及び開閉部材55の姿勢も一致する。
【0069】
2]メンテナンスユニット7が、メンテナンス部品を駆動するモータ等の駆動源を自ら有し、外部からの動力供給なしに独立して駆動できるものであるならば、特に問題はないのであるが、前記実施形態のように、メンテナンスユニット7の外部(例えば搬送モータ27)から動力が供給される場合には、メンテナンスユニット7の傾き調整によって、外部からの動力伝達に影響が出ないことが必要である。
【0070】
前記実施形態で例示したように、搬送モータ27から搬送ローラ25を介して、メンテナンスユニット7に動力を伝達する場合を考えたときには、その動力伝達機構は、例えば、図8(a)のような構成を採用することができる。図1に示されるように、搬送モータ27によって駆動される搬送ローラ25は、メンテナンスユニット7の左側に位置しており、この搬送ローラ25の右端部に連結された駆動軸80が、メンテナンスユニット7に向けて走査方向に沿って水平に延びているとする。その上で、動力伝達機構81は、駆動軸80に固定されてこの駆動軸80と一体回転する駆動ギヤ82と、メンテナンスベース50に取り付けられるとともに駆動ギヤ82と噛み合い、駆動軸80と平行な軸84周りに回転する被駆動ギヤ83とを有する。また、被駆動ギヤ83は、メンテナンスユニット7のメンテナンス部品を駆動するギヤ(例えば、キャップ駆動機構56のピニオンギヤ74)に連結されている。しかしながら、この図8(a)の構成では、メンテナンスベース50が二点鎖線で示すように傾いたときには、駆動ギヤ82と被駆動ギヤ83の噛み合いが少しずれることになる。
【0071】
そこで、以下のように、水平な駆動軸80から伝達される回転が、鉛直軸周りの回転に変換された上でメンテナンスユニット7に伝達される構成を採用してもよい。例えば、図8(b)の構成では、動力伝達機構81の駆動ギヤ82と被駆動ギヤ83とが共に傘歯車で構成されており、水平な駆動軸80周りの駆動ギヤ82の回転が、鉛直軸周りの回転(水平面内での回転)に変換されて、被駆動ギヤ83に伝達されている。このように、被駆動ギヤ83が水平面(液滴噴射面3aと平行な面)内で回転するため、メンテナンスベース50の傾きを調整したときの被駆動ギヤ83の位置の変化が小さくなり、駆動ギヤ82との間の動力伝達への影響が抑えられる。この構成においては、傘歯車からなる駆動ギヤ82と被駆動ギヤ83自体が、本願発明の変換機構に相当する。あるいは、図8(c)のように、駆動ギヤ82と被駆動ギヤ83との間に、同じく傘歯車からなり、駆動ギヤ82と被駆動ギヤ83とそれぞれ噛み合う変換ギヤ85(変換機構)が設けられてもよい。
【0072】
特に、図8(b)及び(c)の構成において、被駆動ギヤ83の回転軸84が、メンテナンスベース50の回動中心C2と一致していることが好ましい。この構成によれば、メンテナンスベース50の傾き調整によって被駆動ギヤ83の位置が変わらないことから、被駆動ギヤ83と駆動ギヤ82あるいは変換ギヤ85との噛み合い位置がずれることがない。
【0073】
尚、前記実施形態の中で少し触れたように、上述したキャリッジ2の傾き調整や、それに応じたメンテナンスユニット7の傾き調整は非常に小さな角度範囲内(例えば、最大でも0.3度程度)で行われる。従って、仮にギヤの噛み合い位置が生じてもわずかな量であり、この程度の傾き調整であれば、図8(a)の構成であっても、実際には動力伝達にほとんど影響はない。
【0074】
3]メンテナンスユニット7全体が筐体1aに対して回動する構成には限られない。例えば、図9に示すように、メンテナンスユニット7が、吸引キャップ51等のメンテナンス部品が取り付けられたメンテナンスベース50と、動力伝達機構81が取り付けられた駆動フレーム58とに分かれている場合に、駆動フレーム58が筐体1aに回動不能に固定される一方で、メンテナンスベース50のみが筐体1aに対して傾き調整可能とされてもよい。
【0075】
具体的には、図9においては、吸引キャップ51を昇降させるキャップスライドカム71の、吸引キャップ51(キャップリフトホルダ70)が載置されるカム部75がメンテナンスベース50に取り付けられる一方で、ラックギヤ73が設けられた延長部分76が駆動フレーム58に取り付けられている。また、カム部75は延長部分76に対して水平面内で揺動可能に構成されている。従って、メンテナンスベース50の傾きを調整する際に、カム部75はメンテナンスベース50と一体的に回動し、それに伴って吸引キャップ51の姿勢が変化する。一方で、駆動フレーム58は筐体1aに固定されたままであるので、図8で説明したような動力伝達機構81による外部からの動力伝達への影響は生じない。
【0076】
また、いくつかのメンテナンス部品が取り付けられたメンテナンスベース50が回動するのではなく、吸引キャップ51など、一部のメンテナンス部品のみが回動して個々の傾きを調整可能な構成であってもよい。例えば、図4において、吸引キャップ51を保持するキャップリフトホルダ70が、キャップスライドカム71のカム部75に対して水平面内で回動可能に構成されていると、インクジェットヘッド3が正規の姿勢に対して傾いている場合に、吸引キャップ51の水平面内での傾きを調整して、インクジェットヘッド3の姿勢に合わせることができる。また、吸引キャップ51の傾きのみを調整して、他のメンテナンス部品、例えば、開閉部材55については傾かせないようにすることができ、図7(a)のように、インクジェットヘッド3が傾斜姿勢であるが、キャリッジ2は傾いていない場合に対応できる。
【0077】
4]メンテナンスユニット7のメンテナンスベース50に取り付けられるメンテナンス部品は、吸引キャップ51や開閉部材55等、前記実施形態に挙げたものには限られない。例えば、複数のノズル30の保護(乾燥防止)のために、液滴噴射面3aに装着される保護キャップであってもよい。
【0078】
以上説明した実施形態及びその変更形態は、記録用紙に画像を記録するインクジェットプリンタに適用したものであるが、これ以外の用途で使用される液滴噴射装置においても、ノズルの噴射性能の維持又は回復を行うメンテナンスユニットを有するものであれば、本発明を適用することは可能である。
【符号の説明】
【0079】
1 インクジェットプリンタ
1a 筐体
2 キャリッジ
3 インクジェットヘッド
3a 液滴噴射面
4 サブタンク
7 メンテナンスユニット
17a,17b ガイドレール
27 搬送モータ
30 ノズル
31 インク貯留室
32 排気流路
50 メンテナンスベース
51 吸引キャップ
52 吸引ポンプ
53 ワイパー
55 開閉部材
61 開閉弁
80 駆動軸
81 動力伝達機構
82 駆動ギヤ
83 被駆動ギヤ
84 回転軸
85 変換ギヤ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置本体と、
液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッドを保持するヘッドホルダと、
前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面と対向する位置に配置されたメンテナンスユニットを備え、
前記メンテナンスユニットは、前記装置本体に設けられたメンテナンスベースと、前記メンテナンスベースに取り付けられ、前記液滴噴射ヘッドの液滴噴射特性の維持又は回復を行うメンテナンス部品を有し、
前記メンテナンスベースは、前記装置本体に、前記液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整可能に取り付けられていることを特徴とする液滴噴射装置。
【請求項2】
前記ヘッドホルダには、前記液滴噴射ヘッドに液体を供給する液体供給流路と、前記液体供給流路に連通する排気流路と、前記排気流路を開閉する開閉弁とが設けられ、
前記メンテナンスユニットは、前記開閉弁を介して前記排気流路と接続されて前記液体供給流路内の気体を前記排気流路から吸引排出する第1吸引手段と、前記開閉弁を開閉駆動させる弁駆動手段を有し、
少なくとも、前記弁駆動手段が前記メンテナンス部品であって、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載の液滴噴射装置。
【請求項3】
前記メンテナンスユニットは、前記液滴噴射面に密着して前記複数のノズルの開口を覆うキャップを有し、
前記キャップが前記メンテナンス部品であって、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の液滴噴射装置。
【請求項4】
前記メンテナンスユニットは、前記キャップに接続されて、前記キャップによって覆われた前記複数のノズルから液体を吸引排出させる第2吸引手段と、前記複数のノズルから液体が排出された後に、前記液滴噴射面に付着した液体を拭き取るワイパーとを備え、
前記第2吸引手段と前記ワイパーとが前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載の液滴噴射装置。
【請求項5】
前記液滴噴射面に平行な方向に延びる駆動軸と、前記駆動軸の動力を前記メンテナンス部品に伝達する動力伝達機構とを備え、
前記動力伝達機構は、
前記駆動軸に固定されて前記駆動軸と一体回転する駆動ギヤと、
前記メンテナンスベースに取り付けられ、且つ、前記液滴噴射面に直交する軸周りに回転する被駆動ギヤと、
前記駆動ギヤの前記駆動軸周りの回転を、前記液滴噴射面に直交する軸周りの回転に変換して、前記被駆動ギヤに伝達する変換機構と、
を有することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項6】
前記被駆動ギヤは、その回転軸が、前記メンテナンスベースの回動中心と一致するように、前記メンテナンスベースに取り付けられていることを特徴とする請求項5に記載の液滴噴射装置。
【請求項7】
前記ヘッドホルダは、前記液滴噴射面に平行な所定の走査方向に延在するガイド部材によって案内されつつ、前記走査方向に移動可能に構成され、
前記液滴噴射ヘッドは前記ヘッドホルダとともに前記走査方向に移動して、液滴着弾体に対して前記ノズルから液滴を噴射する液滴噴射位置と、前記メンテナンスユニットと対向するメンテナンス位置とにわたって移動可能であることを特徴とする請求項1〜6の何れかに記載の液滴噴射装置。
【請求項8】
液滴を噴射する複数のノズルが開口した液滴噴射面を有する液滴噴射ヘッドと、
前記液滴噴射ヘッドの前記液滴噴射面と対向する位置に配置されたメンテナンスユニットを備え、
前記メンテナンスユニットは、前記液滴噴射面に密着して前記複数のノズルを覆うキャップを有し、
前記キャップが、前記液滴噴射面と平行な面内での傾きを調整可能に構成されていることを特徴とする液滴噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−206396(P2012−206396A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74067(P2011−74067)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】