説明

液滴飛翔装置

【課題】 従来ノズル部で生じ易かったインクの固着による詰まり等を防ぎ、印字品質を確保し得る液滴飛翔装置を得る。
【解決手段】 振動を音響放射圧5として音響伝搬部材4とインク溜り9内のインク10を通し、ノズル穴7のインク液面からインク液滴6を飛翔させて印字を行う音響インクジェットプリンタにおいて、ノズル穴を形成するノズルプレート12を交換可能に構成する。このノズルプレートは、ヘッド本体内の新品ノズルプレート仮置き位置19へ手で置くと、通常使用位置へ自動で搬送される。また、使用済みノズルプレートは、通常使用位置から旧品ノズルプレート仮置き位置20へ自動で搬送される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば音響インクジェットプリンタに用いられる液滴飛翔装置に関し、特にノズルプレートのみを分離交換する液滴飛翔装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、音響インクジェットを用いたプリンタとして、種々の構造のものが知られている。
すなわち、この種の音響インクジェットプリンタでは、圧電基板による振動が音響放射圧となって音響伝搬部材とインク溜り内のインクを通り、ノズル穴のインク液面からインク液滴を飛翔させて、印字を行うように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、この種の音響インクジェットプリンタでは、たとえばノズル内のインクは、ノズルの裏側に横方向に設けられたインク供給路から供給されており、ノズル部とヘッド本体側の電極部は分離不可能になっていた。
【0004】
【特許文献1】特開平4−299151号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述した従来構造では、他のインクジェットプリンタと同様に使わないで置いておくと、ノズル部でインクが乾いて固着が起き、インク吐出ができなくなるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、従来ノズル部で生じ易かったインクの固着による詰まり等を防ぎ、印字品質を確保し得る液滴飛翔装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的に応えるために本発明(請求項1記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、振動を音響放射圧として音響伝搬部材とインク溜り内のインクを通し、ノズル穴のインク液面からインク液滴を飛翔させて印字を行う音響インクジェットプリンタにおいて、ノズル穴を形成するノズルプレートを交換可能に構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明(請求項2記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項1記載の液滴飛翔装置において、ノズルプレートは、ヘッド本体内の新品ノズルプレート仮置き位置へ置くと、通常使用位置へ自動で搬送されるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明(請求項3記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項1または請求項2記載の液滴飛翔装置において、使用済みノズルプレートは、通常使用位置から旧品ノズルプレート仮置き位置へ自動で搬送されるように構成されていることを特徴とする。
【0010】
本発明(請求項4記載の発明)に係る液滴飛翔装置は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の液滴飛翔装置において、ノズルプレートを通常使用位置から剥がす時は、自動で片側から徐々に剥がすように構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように本発明に係る液滴飛翔装置によれば、音響インクジェットプリンタの印字ヘッド部において、ノズル穴を形成するノズルプレートのみを分離交換可能にしたので、ノズル部にインクが詰まった時に交換する部分がノズル部だけで、インク溜りは本体側に残るから、ノズル部交換時にインク流路の途中で繋ぎ合わせる部分がなく、繋ぎ部分からのインク漏れがない等の利点がある。
【0012】
また、本発明によれば、ノズルプレートは本体内の新品ノズルプレート仮置き位置へ置くと、通常使用位置へ自動で搬送され交換したノズルプレートを新品仮置き位置へセットすると通常使用位置であるヘッドユニットへ自動で搬送されるように構成しているので、ヘッド及びインクがあるヘッドユニットに触れることがなく、手が汚れない等の利点がある。
【0013】
さらに、本発明によれば、使用済みノズルプレートは通常使用位置から旧品ノズルプレート仮置き位置へ自動で搬送されるように構成しているから、上述した場合と同様に、ヘッド及びインクがあるヘッドユニットに触れることがなく、手が汚れない等の利点がある。
【0014】
また、本発明によれば、ノズルプレートを通常使用位置から剥がす時は、自動で片側から徐々に剥がす構造にしているから、使用後のノズルプレートを自動でヘッドユニットから剥がして旧品仮置き位置まで搬送するので取り出す時は剥がす力を入れなくて良い等の利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1および図2(a),(b)は本発明に係る液滴飛翔装置の一実施形態を示す。
ここで、図1は印字ヘッドのノズル部の平面図、図2(a)はノズル部にノズルプレート12を取り付けた状態での通常使用状態の断面図、図2(b)はノズルプレート12を分離した状態でのノズルプレート12の交換中の状態の断面図を示す。
【0016】
これらの図において、符号1は圧電基板、2はコモン電極ライン、3は信号電極ライン、4は音響伝搬部材、5は音響放射圧、6はインク液滴、7はノズル穴、8はインク供給路、9はインク溜まり、10はインク、12はノズルプレートである。
【0017】
このような印字ヘッドによれば、コモン電極ライン2とコモン電極ライン2に直行する信号電極ライン3の両電極に圧電基板1の共振周波数で電圧を印加すると圧電基板1の振動が音響放射圧5となって音響伝搬部材4とインク溜り9内のインク10を通り、ノズル穴のインク液面からインク液滴6を飛翔させて、図示しない印字用紙に印字するようになっている。
【0018】
また、図2(b)に示すように、ノズルプレート12は、その裏面に粘着層14を設けて、ヘッドユニット15に貼り付くようになっている。
【0019】
ここで、ノズル穴7は、この例ではφ100μmとし、インク溜り開口部13の大きさは、ノズル穴7より大きく、しかもノズルプレート12がない状態でもインクがボタ落ちしない大きさで、この例ではφ200μmとする。
【0020】
また、音響インクジェットプリンタの場合、ピエゾインクジェットやサーマルインクジェットと違って音響放射圧5には指向性があり、インク10に働く力は1方向となる。
【0021】
そのため、ピエゾインクジェットやサーマルインクジェットでは、ノズル穴7の径よりインク溜り開口部13が大きいと、ノズルプレート12を剥がす方向に力が働くが、音響インクジェットプリンタの場合は信号電極3の大きさにより決まるヘッドの大きさがノズル穴7の径より小さければ音響放射圧5は、ノズル穴7の中のみに掛かるのでノズルプレート12を剥がす方向には力は働かない。
また、この実施形態での信号電極のサイズはφ50μmとする。
【0022】
図3はノズルプレート12を新品仮置き位置19に載せてから、ヘッドユニット15に運ばれるまでのリンクアーム16部の詳細図である。
【0023】
リンクアーム16の動作手順は、同図(a)に示すように、ノズルプレート12を新品仮置き位置19に置くと、同図(b)のように、アーム駆動板17が回転してリンクアーム16を動かし、リンクアーム16は、同図(c)、(d)に示すように、ノズルプレート12を新品仮置き位置19から持ち上げ、同図(e)に示すように、ヘッドユニット15へ降ろす。
【0024】
新品仮置き位置19の上面には剥離層21があり、ノズルプレート12の裏面には粘着層14があるが、ノズルプレート12が新品仮置き位置19に貼り付くことはない。
また、ノズルプレート12は、厚み50μm程度とそれ自体では弱いので、ノズルプレート12の周囲には補強部23を設ける。
【0025】
これにより、リンクアーム16でノズルプレート12を持ち上げる際には、ノズルプレート12の周囲にある補強部23を持ち上げることにより反ることもないし、ノズルプレート12を新品仮置き位置19に手で置く際にも、補強部23の効果によりノズルプレート12が曲がって持ちにくくなるようなことがない。
【0026】
図4は上述した図3(e)の状態を横から見た図である。
すなわち、ノズルプレート12は、リンクアーム16によりヘッドユニット15の上に置いた後に、押えローラ22によりヘッドユニット15に密着される。
【0027】
図5(a),(b)はノズルプレート12を新品仮置き位置19に載せてからリンクアーム16によりノズルプレート12がヘッドユニット15に運ばれ、旧品(使用済品)のノズルプレート12がヘッドユニット15から旧品仮置き位置20まで運ぶために、2つのリンクアーム16を使ったリンク機構の詳細図である。
【0028】
ここで、ノズルプレート12を新品仮置き位置19からヘッドユニット15まで運ぶリンクアーム16と、ノズルプレート12をヘッドユニット15から旧品仮置き位置20まで運ぶリンクアーム16は、アーム駆動板17を駆動ベルト18で繋ぎ、同位相で動かす。
【0029】
また、ノズルプレート12を新品仮置き位置19に載せてからヘッドユニット15に運ばれるまでは前述した通りだが、ノズルプレート12をヘッドユニット15から剥がす際に、リンクアーム16は、その動きによりノズルプレート12を片側から徐々に剥がしていくので、ヘッドユニット15にノズルプレート12が粘着層21により貼り付けられていても、剥がすことが可能になる。
【0030】
ここで、この実施形態では、音響伝搬部材4はt=20μmの樹脂製とする。インク溜り9の深さは60μmとした。
【0031】
以上の構成によれば、以下のような種々優れた効果を奏する。
(1)ノズルにインクが詰まった時に交換する部分がノズル部だけで、インク溜りは本体側に残るのでノズル部交換時にインク流路の途中で繋ぎ合わせる部分がなく、繋ぎ部分からのインク漏れがない。
【0032】
(2)交換したノズルプレートを新品仮置き位置へセットすると通常使用位置であるヘッドユニットへ自動で搬送するのでヘッド及びインクがあるヘッドユニットに触れる事が無く手が汚れない。
【0033】
(3)使用後のノズルプレートを自動でヘッドユニットから剥がして旧品仮置き位置まで搬送するので取り出す時は剥がす力を入れなくて良い。
【0034】
なお、本発明は上述した実施の形態で説明した構造には限定されず、液滴飛翔装置を構成する各部の形状、構造等を適宜変形、変更し得ることはいうまでもない。
たとえば上述した実施形態では、ノズル穴を丸穴としたが、長穴であってもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る液滴飛翔装置の一実施形態を示し、印字ヘッドのノズル部の平面図である。
【図2】(a)はノズル部にノズルプレートを取り付けた状態での通常使用状態を示す図1のA−A線断面図、(b)はノズルプレートを分離した状態でのノズルプレートの交換中の状態の断面図である。
【図3】(a)〜(e)はノズルプレートを新品仮置き位置に載せてから、ヘッドユニットに運ばれるまでのリンクアーム部の詳細図である。
【図4】上述した図3の(e)の状態を横から見た図である。
【図5】(a),(b)はノズルプレートを新品仮置き位置に載せてからリンクアームによりノズルプレートがヘッドユニットに運ばれ、旧品のノズルプレートがヘッドユニットから旧品仮置き位置まで運ぶために、2つのリンクアームを使ったリンク機構の詳細図である。
【符号の説明】
【0036】
1…圧電基板、2…コモン電極、3…信号電極、4…音響伝搬部材、5…音響放射圧、6…液滴、7…ノズル穴、8…インク供給路、9…インク溜り、10…インク、12…ノズルプレート、13…インク溜り開□部、14…粘着層、15…ヘッドユニット、16…リンクアーム、17…アーム駆動板、18…駆動べルト、19…新品仮置き位置、20…旧品仮置き位置、21…剥離層、22…押えローラ、23…補強部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動を音響放射圧として音響伝搬部材とインク溜り内のインクを通し、ノズル穴のインク液面からインク液滴を飛翔させて印字を行う音響インクジェットプリンタにおいて、
ノズル穴を形成するノズルプレートを交換可能に構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項2】
請求項1記載の液滴飛翔装置において、
ノズルプレートは、ヘッド本体内の新品ノズルプレート仮置き位置へ置くと、通常使用位置へ自動で搬送されるように構成されていることを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の液滴飛翔装置において、
使用済みノズルプレートは、通常使用位置から旧品ノズルプレート仮置き位置へ自動で搬送されるように構成されていることを特徴とする液滴飛翔装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の液滴飛翔装置において、
ノズルプレートを通常使用位置から剥がす時は、自動で片側から徐々に剥がすように構成したことを特徴とする液滴飛翔装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−292107(P2009−292107A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150121(P2008−150121)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】