説明

液状リグノセルロースとその製造方法および用途

【課題】 代表的な液状のリグノセルロースである砕木パルプはグラインダーやリファナーで丸太やチップを摩砕して製造されるが、製紙用やパルプモールド用であるため、長い繊維束の取得が目的でリグニンや微細なリグノセルロースは廃棄される。また液化木材や液化リグノセルロースでは高温高圧のエネルギーや化学薬品を消費してリグノセルロースを液状化しており、リグノセルロースそのものではない。
【解決手段】 リグノセルロースのチップを水や溶剤と混合し、閉鎖系あるいは循環系の機械やシステムで湿式粉砕することにより、高温高圧のエネルギーや化学薬品を使用することなく、また廃棄物を排出することなく、微細な粒径のリグノセルロース、好ましくは平均粒径30μm以下のリグノセルロースが分散する液状リグノセルロースを得ることができ、乾燥すると強度のある皮膜を形成し、塗料、成型体、繊維処理剤などに利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
草本植物や木本植物の枝幹、茎、根部あるいは葉部などの総称であるリグノセルロースの微細で均質な分散液である液状リグノセルロースとその製造技術に関し、リグノセルロースの新規な形態を提供し、塗料、繊維仕上げ剤あるいは成型材料など新規な利用分野を開拓するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、代表的な液状のリグノセルロースとして砕木パルプがある。これは木本植物の丸太やチップを流水下、回転するグラインダーに押しつけて、あるいは石臼のようなリファイナーで擦りおろして製造し、水分が70%以上の含水パルプとして取引されることが多い。丸太やチップが、回転するグラインダーやリファイナーと接する時に発生する約180〜190℃の摩擦熱でリグノセルロースを軟化して繊維束とリグニンを不完全ながら分離している。流水下の開放系装置で摩砕するため、幾分かの成分は流失する。砕木パルプは製紙用やパルプモールド用であるため、長い繊維束の取得が目的であり、リグニン成分や微細な木粉は好まれない。
永年、液化木材が研究されている。これは木材を化学薬品と共に高温高圧条件で処理した液化木材である。即ち木材そのものではなく、分子レベルで化学的に修飾された変性木材と言える。
特開平6−263880
では液化リグノセルロースを製造している。これは木材などのリグノセルロースを多価アルコールと共に常圧下100〜200℃に加熱して溶解し液化している。
以上のように、木材を摩砕する砕木パルプでは摩擦熱によって繊維束とリグニン成分を可能な限り分離して製造され、長い繊維束の取得が目的で、それ以外の微細な粒径のリグノセルロースは、紙や成型物の強度低下の原因となり、できるだけ排除したい対象とされている。また、液化木材、液化リグノセルロースでは化学薬品と共に高温高圧のエネルギーを消費してリグノセルロースを液化しており、リグノセルロースの組成そのままを液状化して利用することを目的としていない。
【特許文献1】特開平6−263880号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
リグノセルロースを利用するに当たり、化学薬品を併用して高温高圧のエネルギーを使用し、目的によってはリグニンまたは微細な粒径のリグノセルロースが廃棄物となる従来の液状のあるいは液化リグノセルロースの製造方法に対して、化学薬品を用いずエネルギーを省き、廃棄物を排出しない、微細な粒径の均質なリグノセルロースが分散する液状リグノセルロースの開発とその製造方法が森林資源の有効活用や地球環境を考慮する上でも必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
化学薬品を使用せず、廃棄物も出さず、常温常圧で液状リグノセルロースを製造する方法として、また砕木パルプに比較して、微細な粒径の均質な液状リグノセルロースを製造する方法として、水または溶剤または水と少なくとも1種以上の溶剤の混合液にチップ状のリグノセルロースを混合し、閉鎖系または循環系の機械やシステムで湿式粉砕することにより、微細な粒径の均質なリグノセルロース、好ましくは平均粒径が30μm以下のリグノセルロースが分散する液状リグノセルロースを製造できることを見い出した。
【発明の効果】
【0005】
草本植物、木本植物のリグノセルロースを湿式粉砕して微細なリグノセルロースが分散する液状リグノセルロースにすることにより、植物の新しい利用形態および用途を創出する効果がある。
間伐材、籾殻、バガスをはじめとする多くの未利用植物バイオマスに由来するリグノセルロースも液状という新規な形態に変換することにより、塗料、成型体あるいは繊維処理剤として利用が可能となり、植物を木目細かく、且つ余すところなく活用できる効果を生む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
湿式粉砕を行う閉鎖系あるいは循環系の機械やシステムとしてボールミルやビーズ(小径のボール)ミルが代表的である。他にもグラインダーや石臼のように突起状物や溝を施した擦り板を用いて摩砕する機械やシステムもよく知られている。以下に、ボールミルとビーズミルを例に挙げて本発明の実施形態を説明するが、使用する湿式粉砕の機械やシステムはこれらに限定されるものではない。
本発明の液状リグノセルロースは原料のリグノセルロースチップの大きさによって、使用するボールやビーズ(小径のボール)の大きさを選定して湿式粉砕を行うが、粉砕が進みリグノセルロースの粒径が微細になるに従って直径の小さなボールへと交換しながら、幾段階かの湿式粉砕を経過して製造するのが望ましい。一般にボールミル、ビーズミルでは、大きな原料チップには大きなボールを使用して粉砕し、小さな原料チップには小さなボールやビーズを使用して粉砕する。大きな原料チップに小さなボールを使用して粉砕してもボールの質量が小さく、効率よく粉砕されない。また小さな原料チップに大きなボールを使用しても粉砕効率が低い。平均粒径が30μm以下の微細な粒径の均質な液状リグノセルロースは最終段階の湿式粉砕に小さな直径の、例えば0.5mmのビーズを使用するビーズミルで湿式粉砕して製造できる。
閉鎖系または循環系の機械やシステムで湿式粉砕を行うことにより、原料となるリグノセルロースの組成から何も失うことなく、また廃棄物を生じることなく液状リグノセルロースを得ることができる。即ち、原料リグノセルロースのチップとしてスギの枝幹のオガ屑を用いる時、スギそのものの液状リグノセルロースが製造できる。

0%の液状リグノセルロースが得られる。
平均粒径が微細になるに従い、液状リグノセルロースに粘稠性が付与されることが多く、塗料としての適性が増す。その乾燥皮膜の接着性は良好で、ある程度の摩擦強度や耐水性を有する。
スギの枝幹の液状リグノセルロースを容器に流し込み乾燥すると、容器形状の板状物が製造できる。これは高強度を有し、カンナがけ、ドリルでの穴あけ、ノコギリによる切断が可能な成型スギ板となる。
スギの枝幹の液状リグノセルロースとヒノキの枝幹の液状リグノセルロースを1:1に混合して、容器に流し込み、乾燥すると、スギとヒノキのハイブリッド成型体が得られる。また、原料リグノセルロースのチップとして温州みかんの果汁の絞りカスを用い、防腐剤と共にボールミルで湿式粉砕すると、温州みかんの液状リグノセルロースが製造できる。
孟宗竹の枝幹の液状リグノセルロースを適度に水で希釈して、繊維仕上げ剤とすることができる。例えばポリエステル布帛をこれに浸漬して乾燥すると繊維表面に微細な孟宗竹が附着したポリエステル布帛となり、付加価値の高い衣類等に加工できる。
このように如何なる硬化剤も使用せず、また廃棄物も排出せずに塗料や成型板および繊維仕上げ剤となる。これはリグノセルロースを微細で均質な液状リグノセルロースになるよう湿式粉砕できたことによる。リグノセルロースの組成であるセルロース、ヘミセルロース、リグニン、脂質、精油などが何も失われることなく水に均一に分散できたことによる。
以下、実施例により本発明を説明する。
【実施例1】
【0007】
粉砕機で粉砕した孟宗竹をふるいにかけて1mm以下の粉末を260g選別した。水1740gを加えて2000gとし直径10mmと5mmのアルミナボール各500gと共に容量5Lの密閉円筒型ボールミルに投入し24時間回転しながら湿式粉砕を行った。容器から取り出した液状孟宗竹は粗粉を含む孟宗竹粉末を13%含有している。これを直径0.5mmのボール(ビーズ)1kgを充填した循環式のビーズミルに投入し、循環しながら更に100分湿式粉砕して、平均粒径が約7μm、90%が24μm以下の微細な孟宗竹が13%分散する孟宗竹の液状リグノセルロースを得た(図1)。
【実施例2】
【0008】
実施例1で得られた孟宗竹の液状リグノセルロースを水で3倍に希釈し、ベニヤ合板に塗布して自然乾燥した。合板の表面に乳白色の竹の塗膜が形成され、黒い布で摩擦しても塗膜の脱落が殆ど見られなかった。また水道の流水にさらしても流出しなかった。
【実施例3】
【0009】
実施例1で得られた孟宗竹の液状リグノセルロースを、底面の直径が約7cmのポリエチレン製ビーカーに200g投入して、80℃で12時間乾燥した。乾燥後厚さ約1cm、直径約5cmの円板状の孟宗竹100%の成型体を得た。この成型体は強度を有し、ドリルでの穴あけやノコギリによる切断が可能であった。
【実施例4】
【0010】
スギのオガ屑をふるいに通して0.5mm以下のオガ屑を100g選別した。10重量%のメタノールを混合した水を加えて2000gとし、直径10mmと5mmのアルミナボール各々500gと共に5L容量の密閉円筒型ボールミルに投入し、容器を12時間回転して湿式粉砕を行った。取り出したスギの液状リグノセルロースはスギの粉末が5%分散しているが、平均粒径は約100μmであったので直径0.5mmのビーズを約1kg充填した循環式のビーズミルにこげ茶色の顔料と共に投入し、更に120分湿式粉砕してスギの微粉末が5%分散する粘稠なこげ茶色のスギの液状リグノセルロースを得た。この液状リグノセルロースの平均粒径は約20μmであり、90%が45μm以下の微粉末であった。
【実施例5】
【0011】
実施例4で得られたスギの液状リグノセルロースと実施例1で得られた孟宗竹の液状リグノセルロースを重量比1:1で混合し撹拌して、スギと孟宗竹の混合液状リグノセルロースを得た。これを底面の直径が約7cmのポリエチレン製ビーカーに200g投入して、80℃で12時間乾燥し、厚さ約1cm、直径約5cmの茶色の円板状成型体を得た。この成型体は強度を有し、ドリルの穴あけ加工やノコギリによる切断加工が可能であった。
【実施例6】
【0012】
青森ヒバの葉部とヒノキの葉部を重量比1:1で混合し家庭用ジューサーミキサーで粉砕してペースト状物を得た。このペースト280gに水を加えて2000gとし、直径5mmのアルミナ製ボール2kgと共に回転羽根でボールを強制的に撹拌して粉砕する密閉堅型ボールミルに投入し、2時間湿式粉砕を行った。容器から取り出した青森ヒバとヒノキの葉部の液状リグノセルロースは、目に見える繊維状物が残存していたので0.5mmのビーズ1kgを充填したビーズミルで更に50分間湿式粉砕して粘稠で粘着性のある青森ヒバの葉部とヒノキの葉部のハイブリッド液状リグノセルロースを得た。
【実施例7】
【0013】
実施例6で得られた青森ヒバとヒノキの葉部の液状リグノセルロースをシナ合板に塗布し、自然乾燥して緑色の塗膜を形成した。この塗膜を白い布で擦っても色落ちは殆ど発生せず、水道の流水で流失しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の液状リグノセルロースは、乾燥するだけで強度のある皮膜や成型体を形成し、原料に使用するリグノセルロースの特性を有する塗料、繊維や不織布あるいは紙の処理剤また成型材料などに利用できる。例えば青森ヒバの枝幹を原料とする液状リグノセルロースはヒノキチオールを含有する抗菌塗料に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】 実施例1で得られた孟宗竹の液状リグノセルロースに分散する孟宗竹の粒度分布データであり、平均粒径は7.088μmで90%が24.03μm以下の微細な孟宗竹であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種以上のリグノセルロースのチップに水または溶剤または水と少なくとも1種以上の溶剤の混合液を加え、湿式粉砕して得られる液状リグノセルロースの製造方法。
【請求項2】
少なくとも1種以上のリグノセルロースのチップに水または溶剤または水と少なくとも1種以上の溶剤の混合液を加え、湿式粉砕して得られる平均粒径が30μm以下の液状リグノセルロースの製造方法。
【請求項3】
染料または顔料または防腐剤のうち少なくとも1種以上を添加して製造する請求項1または2のいずれかに記載の液状リグノセルロースの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の製造方法によって得られた液状リグノセルロース。
【請求項5】
請求項4に記載の液状リグノセルロースを含む塗料。
【請求項6】
請求項4に記載の液状リグノセルロースを含む成型体。
【請求項7】
請求項4に記載の液状リグノセルロースを含む繊維仕上げ剤。

【図1】
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【公開番号】特開2006−307400(P2006−307400A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−161971(P2005−161971)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(395018778)機能性木質新素材技術研究組合 (17)
【Fターム(参考)】