説明

液状肥料の製造方法および装置

【課題】 性状が均一で、施用の操作性に優れ、植物生産に有効な成分を持ち、施用作業に困難性をもたらす臭気成分が少なく、植物への硫黄酸化物の悪影響を防止でき、未活用有機物の資源循環・有効利用が実現できる良質な液状肥料の製造方法および装置を提供する。
【解決手段】 少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物1から前処理2により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物3となし、この液状廃棄物3を嫌気発酵槽8での嫌気発酵によって液状肥料9となすのに際し、液状廃棄物3に塩化鉄の溶解液5を添加し、嫌気発酵で解離する硫黄成分を液状肥料9の中に硫化鉄として固定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状肥料の製造方法および装置に関し、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物を肥料化する技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば特許文献1に記載するものがある。これは、家畜糞尿をスクリュープレスやベルトプレスで脱水し、脱水ケーキは固体発酵槽にて発酵させて固体肥料となし、脱水液は尿と混合して空中構造物と貯蔵タンクの間を循環させ、大気中にさらされた構造物と貯蔵タンクの間で空気中の酸素を取り込むことにより、構造物の表面および貯蔵タンクの両方で嫌気発酵を抑制して悪臭を抑えるとともに、水分を蒸発させて濃縮し、熟成して濃縮液肥料を得るものである。
【0003】
また、特許文献2に記載するものでは、有機性廃棄物をメタン発酵槽でメタン発酵処理する際に、メタン発酵槽、あるいはメタン発酵槽の前段に配置して有機性廃棄物を貯留する原料供給槽、あるいは有機性廃棄物をメタン発酵槽へ供給する原料移送系において、有機性廃棄物に液状無機鉄化合物からなる脱硫剤を添加している。
【0004】
また、特許文献3に記載するものでは、有機性廃棄物に鉄系凝集剤を添加して嫌気性条件下でメタン発酵処理し、その発酵処理液の曝気により該発酵処理液中のFe2+をFe3+に酸化した後で脱水分離液と脱水汚泥とに分離している。
【0005】
また、特許文献4に記載するものでは、嫌気性微生物によって分解可能な有機性廃棄物のメタン発酵処理において、メタン発酵槽内の硫化水素濃度を、硫化水素濃度分析計で測定し、この測定値が所定値以下となるようにメタン発酵槽内の硫化水素濃度を調整した後に、メタン発酵槽内にニッケル化合物及び/又はコバルト化合物を添加している。
【特許文献1】特開2001−314897公報
【特許文献2】特開2002−307035公報
【特許文献3】特開2003−275726公報
【特許文献4】特開2004−25088公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、畜産系排泄物を含む有機性廃棄物を液状肥料化する上においては、以下に述べる課題がある。
有機物の嫌気発酵後の溶解液には、その溶解した液状成分として硫化水素および硫化物イオンが生成されるので、嫌気発酵後の溶解液を液状肥料として施肥する場合に、硫化水素および硫化物イオンが植物生産に悪影響を及ぼすものとなる。
【0007】
嫌気発酵後の溶解液はリン成分が不足がちになるので、嫌気発酵後の溶解液を液状肥料として使用する場合には、施肥時にリン系化学肥料を合わせて施用する必要がある。
嫌気発酵後の溶解液に含まれる窒素成分は、ほとんどがアンモニア性窒素であるので、嫌気発酵後の溶解液を液状肥料として適用可能な植物が限定される。
【0008】
嫌気発酵後の溶解液にはアンモニア、硫化水素などの悪臭原因物質が多く含まれ、この悪臭が施用者の作業環境を悪化させている。
難分解性成分を含む固形物が嫌気発酵処理工程に混入すると嫌気発酵後の溶解液に悪臭が発生する原因となり、嫌気発酵後の溶解液に含まれた未分解の固形物が発酵、貯留、施肥時の各工程における管の閉塞および操作性の悪さの要因となる。
【0009】
畜産系排泄物を含む有機性廃棄物を堆肥化する場合には、その操作性が悪く、施用作業に手数を要する。
ところで、窒素肥料の大部分はアンモニアが原料であり、アンモニアは大気中の窒素と水素を高圧下で反応させて製造しているが、水素を作るためのエネルギーコストが問題である。リン酸肥料の主原料であるリン鉱石はすべて輸入に依存しているが、資源の枯渇が問題となっており、アメリカが資源の枯渇を理由に輸出を停止している。カリ肥料の原料はカリ鉱石であるが、これも産出国が限られている。
【0010】
本発明は上記した課題を解決するものであり、性状が均一で、施用の操作性に優れ、植物生産に有効な成分を持ち、施用作業に困難性をもたらす臭気成分が少なく、植物への硫黄酸化物の悪影響を防止でき、未活用有機物の資源循環・有効利用が実現できる良質な液状肥料の製造方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1に記載する本発明の液状肥料の製造方法は、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、液状廃棄物に塩化鉄の溶解液を添加し、嫌気発酵で解離する硫黄成分を液状肥料中において硫化鉄として固定化するものである。
【0012】
請求項2に記載する本発明の液状肥料の製造方法は、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、液状廃棄物に植物由来のリン酸系有機物質を添加し、嫌気発酵で微生物による分解によってリン酸系有機物質から解離するリン成分を液状肥料中に供給するものである。
【0013】
請求項3に記載する本発明の液状肥料の製造方法は、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、好気状態と嫌気状態を繰り返す貯留槽に嫌気発酵液を貯留してアンモニア態窒素と硝酸態窒素の成分量を調整するものである。
【0014】
請求項4に記載する本発明の液状肥料の製造装置は、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から液状肥料を製造するものであって、生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して有機性廃棄物を液状廃棄物となす前処理手段と、液状廃棄物を嫌気発酵させて液状肥料となす嫌気発酵槽と、液状廃棄物に塩化鉄の溶解液を添加する鉄溶解液供給手段と、液状廃棄物に植物由来のリン酸系有機物質を添加する助材添加手段と、嫌気発酵槽から取り出した液状肥料を貯留して好気状態と嫌気状態を繰り返す貯留槽とを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物を前処理して生物難分解性成分を含む固形物を分離除去した液状廃棄物を得ることで、悪臭の原因となる生物難分解性成分の分解生成物が嫌気発酵で生じることを未然に防止し、嫌気発酵後の液状肥料における悪臭を抑制でき、液状肥料中のSS濃度が低下して土壌への浸透性が改善される。
【0016】
液状廃棄物に塩化鉄の溶解液を十分に、もしくは過剰に添加して、嫌気発酵で解離する硫黄成分を完全に不溶性の硫化鉄として固定化することで、液状肥料を施肥した圃場における硫化水素ガスなどの悪臭発生を抑制し、硫化水素、硫化物イオンによる稲の「秋落ち」現象のような植物の生育阻害を回避できる。
【0017】
液状廃棄物に米ぬかやふすま等の植物由来のリン酸系有機物質を添加し、嫌気発酵で微生物による分解によってリン酸系有機物質から解離するリン成分を液状肥料中に供給することで、液状肥料において不足するリンを鉱物資源を用いることなく補充することができ、植物由来のリン酸系有機物質の微生物分解によって生じるビタミン類、アミノ酸、微量成分などを嫌気発酵に寄与させてその促進を図ることができる。
【0018】
貯留槽に嫌気発酵液を貯留し、間欠曝気等によって貯留槽内の溶存酸素濃度を制御して好気状態と嫌気状態を繰り返し、好気状態での硝化作用によってアンモニア態窒素を硝酸態窒素となして液状肥料中の硝酸態窒素成分を増加させ、液状肥料としてアンモニア態窒素と硝酸態窒素の量を調整して品質の向上を図ることができ、攪拌によって液状肥料の性状の均一化、およびスカムの発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1において、有機性廃棄物1は、少なくとも畜産系排泄物を含むものであり、畜産系排泄物が単独であっても良く、その他に食品残渣、集落排水汚泥、下水汚泥等を任意に組み合わせても良い。
【0020】
有機性廃棄物1は、バースクリーン、スクリュープレス、ベルトプレス等による前処理2を行って、有機性廃棄物1に含まれたわら、おがくず等の生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物3となす。
【0021】
この液状廃棄物に鉄溶解液供給装置4から塩化鉄の溶解液5を添加し、助材添加装置6から植物由来のリン酸系有機物質7として米ぬか、ふすまを添加する。本実施の形態では、塩化鉄の溶解液5の添加と植物由来のリン酸系有機物質7の添加を共に行うが、有機性廃棄物1の性状によっては塩化鉄の溶解液5の添加、もしくは植物由来のリン酸系有機物質7の添加だけでも良い。
【0022】
塩化鉄の溶解液5および植物由来のリン酸系有機物質7を添加した液状廃棄物3は嫌気発酵槽8において嫌気発酵(メタン発酵)させて液状肥料9となす。
この嫌気発酵槽8での嫌気発酵に際して、液状廃棄物3は前処理2において生物難分解性成分を含む固形物を分離除去されているので、悪臭の原因となる生物難分解性成分の分解生成物の発生を抑制できる。当然に、嫌気発酵後の液状肥料9における悪臭も抑制でき、液状肥料9はSS濃度の低下によて土壌への浸透性が改善される。
【0023】
また、嫌気発酵に際して、液状廃棄物3に塩化鉄の溶解液5を十分に、もしくは過剰に添加することで、嫌気発酵による液状廃棄物3の有機物の分解によって解離する硫黄成分は、塩化鉄との反応によって完全に不溶性の硫化鉄として固定化される。
【0024】
このため、液状肥料9を施肥した圃場における硫化水素ガスなどの悪臭発生を抑制し、硫化水素、硫化物イオンによる稲の「秋落ち」現象のような植物の生育阻害を回避できる。よって、植物への硫化物による悪影響がなく、悪臭の少ない液状肥料9を提供できる。
【0025】
また、嫌気発酵に際して、液状廃棄物3に米ぬかやふすま等の植物由来のリン酸系有機物質7を添加することで、嫌気発酵において微生物によるリン酸系有機物質7の分解によって解離するリン成分を液状肥料9中に供給することができる。
【0026】
米ぬか、ふすまは肥料主成分である窒素N、リンP、カリK以外に微量要素であるマグネシウムMg、カルシウムCa、鉄Fe等を含み、ビタミン類やタンパク質(アミノ酸)を多く含んでおり、微生物の良質な栄養源となり、嫌気性発酵を促進する。
【0027】
【表1】

【0028】
表1に示すように、一般的に、牛ふん尿、豚ふん尿はリン成分が低く(0.1〜0.3%)、肥料として考えた場合にリン成分を補う必要がある。このため、リン成分供給源として、リン成分を豊富に含む米ぬか(リン成分5%)、ふすまが有効である。米ぬか、ふすまのリン成分は、水に溶け難く、クエン酸のような弱酸によって溶解するものであるが、微生物によって分解することで解離する。
【0029】
【表2】

【0030】
よって、微生物を多く含むふん尿等との接触は米ぬか、ふすまの分解を助長し、米ぬか、ふすまに含まれたリン成分が液状肥料9に移行することを促進する。表2に示すように、嫌気性発酵後においてリン成分が大幅に増加する。米ぬか、ふすまは粉状なので、容易に利用することができ、特有の嫌な臭いが無く、化学肥料なみに取り扱いやすいリン酸系有機質である。
【0031】
このように、液状肥料9において不足するリンを、従来のような鉱物資源を用いることなく、従来において固形肥料として散布するに過ぎなかった米ぬかやふすま等から取り出し、即効性のある溶解したリンとして補充することができ、圃場においてリン酸肥料を追加する必要がない。また、塩化鉄の溶解液5の添加によりリンが燐酸鉄となっても、肥料成分としてのリンが不足することを防止できる。
【0032】
次に、嫌気発酵槽8から取り出した液状肥料9は貯留槽10に貯留する。貯留槽10ではブロア11によって供給する空気を散気管12から散気して液状肥料9を曝気する。この曝気は間欠的に行い、前段の嫌気発酵に起因して自然と嫌気状態となる貯留槽10の内部環境を好気状態と嫌気状態とに繰り返し変化させる。
【0033】
この間欠曝気は、ORP計13で計測する液状肥料9の酸化還元電位を制御指標として、あるいはpH計14で計測する液状肥料9のpH値を制御指標として、あるいはタイマー15によって適当時間ごとに行う。
【0034】
貯留槽10の内部環境を好気状態とすることにより、液状肥料9に含まれたアンモニア態窒素を硝化作用によって硝酸態窒素となして液状肥料9に含まれる硝酸態窒素成分を増加させる。この操作によって、液状肥料9としてアンモニア態窒素と硝酸態窒素の量を調整して、好硝酸性植物、好アンモニア性植物等の栽培対象の植物に最適な肥料成分に調整し、品質の向上を図ることができる。また、攪拌によって液状肥料の性状の均一化、およびスカムの発生を防止できる。
【0035】
本実施の形態では、嫌気発酵槽8へ投入する液状廃棄物3に塩化鉄の溶解液5を添加する事例を示したが、塩化鉄の溶解液5は貯留槽10へ投入する液状肥料9に添加しても良く、液状廃棄物3の段階と液状肥料9の段階の双方に添加することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施の形態における液状肥料の製造装置を示すブロック図
【符号の説明】
【0037】
1 有機性廃棄物(畜産系排泄物を含む)
2 前処理
3 液状廃棄物
4 鉄溶解液供給装置
5 塩化鉄の溶解液
6 助材添加装置
7 リン酸系有機物質
8 嫌気発酵槽
9 液状肥料
10 貯留槽
11 ブロア
12 散気管
13 ORP計
14 pH計
15 タイマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、液状廃棄物に塩化鉄の溶解液を添加し、嫌気発酵で解離する硫黄成分を液状肥料中において硫化鉄として固定化することを特徴とする液状肥料の製造方法。
【請求項2】
少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、液状廃棄物に植物由来のリン酸系有機物質を添加し、嫌気発酵で微生物による分解によってリン酸系有機物質から解離するリン成分を液状肥料中に供給することを特徴とする液状肥料の製造方法。
【請求項3】
少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から前処理により生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して液状廃棄物となし、この液状廃棄物を嫌気発酵によって液状肥料となすのに際し、好気状態と嫌気状態を繰り返す貯留槽に嫌気発酵液を貯留してアンモニア態窒素と硝酸態窒素の成分量を調整することを特徴とする液状肥料の製造方法。
【請求項4】
少なくとも畜産系排泄物を含む有機性廃棄物から液状肥料を製造するものであって、生物難分解性成分を含む固形物を分離除去して有機性廃棄物を液状廃棄物となす前処理手段と、液状廃棄物を嫌気発酵させて液状肥料となす嫌気発酵槽と、液状廃棄物に塩化鉄の溶解液を添加する鉄溶解液供給手段と、液状廃棄物に植物由来のリン酸系有機物質を添加する助材添加手段と、嫌気発酵槽から取り出した液状肥料を貯留して好気状態と嫌気状態を繰り返す貯留槽とを備えたことを特徴とする液状肥料の製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−27950(P2006−27950A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209280(P2004−209280)
【出願日】平成16年7月16日(2004.7.16)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】