説明

液状調味料の製造方法

【課題】風味が改善された液状調味料を短時間にかつ安定した品質で製造する方法を提供すること。
【解決手段】液状調味料を減圧条件下、10〜95℃で連続的に脱気処理し、香気成分を飛散させることで、液状調味料の香気を和らげ風味を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状調味料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に調味料は、それらが本来もっている特徴的な風味があるが、場合によっては、使用する食品の風味を損ない、品質を低下させる場合がある。例えば醤油をそばつゆに使用する場合、醤油の香がだしの風味を抑えてしまうことが知られている。これを改善する手段として、伝統的な蕎麦屋では醤油に糖やみりんを加えて瓶で長時間保管し、醤油の香気を穏やかにする方法などが行われており、また工業的には、調味料に窒素や空気などのガスを強制的に吹き込む方法や、膜処理法、減圧濃縮法、攪拌法、攪拌と循環を組み合わせた方法、加温してから攪拌する方法などが報告されている(例えば、特許文献1〜4参照)。しかしこれらの製法に関しては、いずれもバッチ処理方式である点、処理に時間を要する点、などから大量に製造することが難しく、また処理量により処理条件が異なる点などから、品質が安定しないという問題がある。
【0003】
【特許文献1】特許第2862719号公報
【特許文献2】特許第3516893号公報
【特許文献3】特開2003−61608号公報
【特許文献4】特開2006−67849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述のような現状に鑑み、風味が改善された液状調味料を短時間にかつ安定した品質で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで本発明者等は、前記課題解決のために鋭意研究を重ねた結果、液状調味料を減圧条件下、10〜95℃で連続的に脱気処理し、香気成分を飛散させることで、液状調味料の香気を和らげ風味を改善することができることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち、本発明は
(1)液状調味料を減圧条件下、10〜95℃で連続的に脱気処理する工程を含むことを特徴とする調味料の製造方法。
(2)液状調味料が醤油である上記(1)記載の調味料の製造方法。
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、風味が改善された液状調味料を、短時間で、安定した品質で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における液状調味料は、醤油、みりん、料理酒などの調味料、または、それらの混合物、またはそれらにその他の各種調味料を混合した液状調味料全般を対象とする。各種調味料とは、特に限定されるものではなく、例えば食塩、砂糖や液糖などの糖類、酢、だし類、エキス類などの食品原料や、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸調味料、イノシン酸二ナトリウムなどの核酸調味料、甘草などの甘味料、酸味料、増粘剤などの添加物などである。
【0009】
本発明における減圧条件下とは、真空ポンプなどで大気圧より低い圧力に保持された環境下のことである。
【0010】
本発明における脱気処理とは、液状調味料を減圧条件下で脱泡することであるが、本発明においては、脱泡することが主たる目的ではなく、脱気処理することを通して香気成分の飛散を促進し、香気を和らげることを目的としている。連続処理方式で脱気処理した場合、処理量に関わらず一定の処理条件で処理できるため、安定した品質を維持することが可能である。
【0011】
本発明は、脱気処理によって、液状調味料の香気成分を効率的に飛散させ風味を和らげる。調味料中の香気成分は、減圧条件下で飛散しやすくなる。これは、減圧条件下では外圧が低下し、低い温度で蒸気圧が外圧に達するため、香気成分の沸点が低下することによる。また、密閉状態では蒸気圧が飽和蒸気圧に達すると見かけ上の香気成分の飛散は止まるが、真空ポンプなどで減圧状態を保持することによって、蒸気圧が飽和蒸気圧に達することなく香気成分を飛散させることができる。
【0012】
減圧条件下で脱気処理することによる香気成分の飛散は、低沸点成分ほどその効果が大きい。調味料の香気を形成する成分の中でも、特に低沸点成分は比較的容易に飛散し、官能でもっとも認識しやすい成分の一つである。したがって、脱気処理によって官能的に認識しやすい低沸点の香気成分を飛散させることは、調味料の品質を改善する手段として非常に有効である。
【0013】
さらに、調味料を加温することで、香気成分の飛散を促進することができる。一般的に温度が高くなると物質の運動エネルギーは大きくなる。すなわち、温度が高くなるほど、香気成分の蒸気圧が高くなるため、香気成分が飛散しやすくなる。脱気と加温を組み合わせることで、香気成分の飛散の効果を高めることが可能である。
【0014】
また、あらかじめ調味料に窒素ガスなどを封入してから脱気処理することで、脱気効率を向上することが可能である。
【0015】
本発明に使用する脱気装置は、減圧条件下に保持された槽があり、さらにその部分への処理液の投入と払い出しを連続的に行えるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば大川原製作所の遠心式薄膜真空蒸発装置(エバポールCEP−1型)、横田製作所製の脱気ポンプ(ASP−0510)、イズミフードマシナリ製の加圧噴霧式ディアレーター、などが挙げられる。
【0016】
真空度は、特に限定されるものではないが、好ましくは大気圧基準で−0.05〜−0.10Mpa(ゲージ圧)である。真空度が小さすぎると脱気によって調味料の香気成分を飛散させる効果が得られない。逆に真空度が大きすぎると、調味料の沸点が低下しすぎるため、濃縮や真空ポンプへの引き込みなどの問題が発生しやすくなる。ただし、これらは処理温度条件との組み合わせによって変わってくるため、処理条件に応じて調整することが必要である。
【0017】
処理温度は、10〜95℃であるが、さらに好ましくは40〜80℃である。処理温度が10℃未満の場合、熱による品質の変化を防ぐことが出来るが、沸点が低い香気成分もほとんど飛散しなくなるため、香気を和らげる効果はほとんどない。逆に、処理温度が95℃より高い場合には、香気成分を飛散させる効果は高くなるが、一方で加熱劣化や過度の濃縮など品質へ悪影響を与える可能性が考えられ、また、真空ポンプへの引き込みが発生する可能性も高くなる。
【0018】
処理時間は、装置の種類や規模に影響されるため、特に限定されるものではないが、連続的に処理するため短時間であり、通常は10分以内である。
【0019】
また、本発明では、減圧条件下で脱気された液状調味料を常圧に戻すが、この際、酸化などを防ぐため、窒素雰囲気下のタンクを介してもよい。
【0020】
本発明の製造方法で得られた液状調味料は、香気成分が飛散し、香気が和らぐが、例えば、液状調味料が醤油の場合には、通常、醤油中に10ppm程度存在するイソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコールおよびイソアミルアルコールの濃度がいずれも6ppm以下に低下し、液状調味料がみりんの場合には、通常、みりん中に14%程度存在するアルコール濃度が10%以下に低下する。
【0021】
本発明の製造方法で得られた液状調味料は、香気が和らぎ風味が改善していることから、例えば、液状調味料が醤油の場合には、つゆやたれの原料として好適に利用することができ、液状調味料がみりんの場合には、煮切りみりんの代替品として利用することができる。
【0022】
また、本発明の製造方法で得られた液状調味料は、さらに、その他の調味料を加え複合調味料として利用することができる。加えるその他の調味料としては、特に限定されないが、例えば食塩、砂糖や液糖などの糖類、酢、だし類、エキス類などの食品原料や、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸調味料、イノシン酸二ナトリウムなどの核酸調味料、甘草などの甘味料、酸味料、増粘剤などの添加物などが利用できる。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、何らこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
約40℃に加温した醤油(キッコーマン製特選丸大豆しょうゆ)を流量200L/hrで流し、真空ポンプで真空度−0.07Mpa(ゲージ圧)に減圧しながら、遠心式薄膜真空蒸発装置(大川原製作所製)で連続的に脱気処理した醤油を得た。
【0025】
得られた脱気処理醤油を分析した結果、香気成分が低下していることを確認した(図1)。
【0026】
次に脱気処理醤油と加温のみで脱気処理未処理の醤油(対照)を官能評価で比較した結果、脱気処理醤油で醤油の香が有意に穏やかになっていることが示された(図2)。
【0027】
さらに脱気処理醤油および脱気処理未処理の醤油(対照)それぞれ200gに対し、砂糖30g、みりん70gを混和して得たかえし300gに、40gの鰹節の粉砕物をこれの重量の15倍の重量の熱水600gで90〜92℃、15分で抽出して得ただし汁550gを混和し、水を加えて1,000gとし、80℃、10分の加熱殺菌を行いつゆを得た。
【0028】
これらのつゆを官能評価で比較した結果、脱気処理醤油使用つゆで、醤油の香、味が有意に弱く、逆にだしの香り、味が有意に強くなり、脱気処理未処理の醤油使用つゆ(対照)と比較して品質が向上していることが確認された(図3)。
【実施例2】
【0029】
約80℃に加熱した醤油(キッコーマン製特選丸大豆しょうゆ)を流量1.2kL/hrで流し、真空ポンプで真空度−0.08Mpa(ゲージ圧)に減圧しながら、脱気ポンプ(横田製作所製)で連続的に脱気処理した醤油を得た。
【0030】
得られた脱気処理醤油を分析した結果、香気成分が低下していることを確認した(図4)。
【0031】
次に脱気処理醤油および脱気処理未処理の醤油(対照)それぞれ200gに対し、砂糖30g、みりん70gを混和して得たかえし300gに、40gの鰹節の粉砕物をこれの重量の15倍の重量の熱水600gで90〜92℃、15分で抽出して得ただし汁550gを混和し、水を加えて1,000gとし、80℃、10分の加熱殺菌を行いつゆを得た。
【0032】
これらのつゆを官能評価で比較した結果、脱気処理醤油使用つゆで、醤油の香、味が有意に弱く、逆にだしの香り、味が有意に強くなり、脱気処理未処理の醤油使用つゆ(対照)と比較して品質が向上していることが確認された(図5)。
【実施例3】
【0033】
約60℃に加温したみりん(キッコーマン製割烹本みりん)を流量240L/hrで流し、真空ポンプで真空度−0.09Mpa(ゲージ圧)に保持した脱気缶(イズミフードマシナリ製)の内部に、上部から加圧噴霧し、脱気缶下部から回収し連続的に脱気処理したみりんを得た。
【0034】
得られた脱気処理みりんを分析した結果、アルコール濃度が低下していることを確認した(図6)。
【0035】
次に脱気処理みりんと加温のみで脱気処理未処理のみりん(対照)を官能評価で比較した結果、脱気処理みりんでアルコールの香り、苦味が有意に穏やかになり、コクやまろやかさが有意に強くなっていることが示され、脱気処理により煮切りと同様の効果が得られた(図7)。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】実施例1の脱気処理前後の醤油の香気成分濃度の変化
【図2】実施例1の脱気処理醤油の官能評価結果(2点比較法、N=20、*:危険率5%で有意差あり、**:危険率1%で有意差あり)
【図3】実施例1のつゆの官能評価結果(2点比較法、N=20、*:危険率5%で有意差あり、**:危険率1%で有意差あり)
【図4】実施例2の脱気処理前後の醤油の香気成分濃度の変化
【図5】実施例2のつゆの官能評価結果(2点比較法、N=20、*:危険率5%で有意差あり、**:危険率1%で有意差あり)
【図6】実施例3の脱気処理前後のみりんのアルコール濃度の変化
【図7】実施例3のみりんの官能評価結果(2点比較法、N=12、**:危険率1%で有意差あり)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状調味料を減圧条件下、10〜95℃で連続的に脱気処理する工程を含むことを特徴とする調味料の製造方法。
【請求項2】
液状調味料が醤油である請求項1記載の液状調味料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−330125(P2007−330125A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164111(P2006−164111)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】