説明

淡水化装置

【課題】熱媒を用いることなく太陽熱を直接原料水に伝えて加熱することができる熱交換器を具備する淡水化装置を提供する。
【解決手段】減圧蒸留法により原料水から淡水を生成する淡水化装置10であり、原料水を蒸発させるための加熱部1と、加熱部1で発生した水蒸気を冷却して凝縮させる冷却部3とを備える。加熱部1は、熱交換器5と、太陽光を透過する透明な窓11を設けた断熱容器12とを備え、熱交換器5は断熱容器12に封入される。加熱部1に設けられる熱交換器には、プレートフィンチューブを用いることができる。以上のような構成により、簡便な構造で極めて高効率の淡水化装置が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽熱を利用した蒸留式の淡水化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧蒸留の原理(以下「減圧蒸留法」という。)を用いた淡水化装置は原料水を加熱して水蒸気を得た後、これを冷却・凝縮させることで蒸留水を得る。この加熱のための熱源として太陽熱を利用したものが知られている(特許文献1)。特許文献1は、太陽熱集熱器と熱交換器との間で熱媒を循環させ、熱交換器で原料水を加熱する方式を採用した淡水化装置を開示している。この装置によれば太陽熱を利用することで化石燃料の使用を減らすことができる利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第1997/048646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、熱媒を用いて熱交換を行うと、熱損失の発生が不可避であるだけでなく、持続的な運転のためには熱媒を循環させるためのポンプ等の動力源も必要となる。そのため、各装置が大型化しやすく、設備投資や維持運用面を考えると必ずしも現実的な方策とはいえない。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、熱媒を用いることなく太陽熱を直接原料水に伝えて加熱することができる熱交換器を具備する淡水化装置を提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る淡水化装置は、減圧蒸留法により原料水から淡水を生成する淡水化装置であって、前記原料水を蒸発させるための加熱部と、前記加熱部で発生した水蒸気を冷却して凝縮させる冷却部とを備え、前記加熱部は、太陽光を吸収して熱源とする熱交換器と、太陽光を透過する透明な窓を設けた断熱容器とを備え、前記熱交換器は、前記断熱容器に封入されることを特徴とする。
【0007】
この構成により、太陽光から得られる熱を外部へ放出することを抑えつつ原料水に十分に伝えて原料水を蒸発させることができる。
【発明の効果】
【0008】
以上のような構成によれば、太陽光から得られる熱を外部へ放出することを抑えて、原料水に十分に伝えて原料水を加熱することができる。また、熱媒の循環装置等も不要であるため、装置全体を小型化、簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態の淡水化装置
【図2】第1の実施形態の淡水化装置の加熱部の断面構造
【図3】第1の実施形態の淡水化装置の冷却部の断面構造
【図4】第1の実施形態の淡水化装置
【図5】第2の実施形態の淡水化装置の冷却部の内部構造
【図6】淡水化装置の基本原理を説明する模式図
【発明を実施するための形態】
【0010】
図6は、淡水化装置の基本原理を説明する模式図である。淡水化装置60は、加熱部61と、冷却部63と、淡水W2を貯留する淡水タンク64と、それらを連結する管路62とを有する。海水や汚染水等の原料水W1は加熱部61の熱源65により加熱されて蒸発し、その水蒸気は冷却部63で冷却フィン66や冷却ファン67により冷却されて凝縮し、その凝縮水を淡水W2として淡水タンク63に貯留する。なお、加熱部61では、原料水W1を蒸発した結果、原料水が濃縮される。以下の実施形態では、主に加熱部及び冷却部の構成例について説明する。
【0011】
本発明を実施するための第1の実施形態について、図1を参照して説明する。なお、各実施形態はいずれも例示であり、本発明の限定的な解釈を与えるものでない。
【0012】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態の淡水化装置の構成を示している。矢印は太陽光を示す。淡水化装置10は、加熱部1と、蒸発部2と、冷却部3と、それらに接続された配管4、6、8、14とを有する。加熱部1は、プレートフィンチューブ5と、透明なガラス窓11を設けた断熱容器12とを有する。冷却部3もまた、プレートフィンチューブ7を有する。プレートフィンチューブとは、板状のフィンが取り付けられた管であり、熱交換器の一つである。加熱部1におけるプレートフィンチューブ5は太陽を熱源としてその熱を配管を流れる原料水に伝えるための加熱用の熱交換器として、一方の冷却部3におけるプレートフィンチューブ7は蒸発部2を通過した高温の水蒸気を空気中に放熱する空冷式の放熱部材として、それぞれ機能する。
【0013】
冷却部3は加熱部1の裏側に配置されており、装置の稼働時に加熱部1の日陰になるように配置される。蒸発部2は、内部にバッフル15を設けた配管で構成される。加熱部1で加熱された原料水は水蒸気となって蒸発部2に送られる。バッフル15とは、原料水の突沸を遮るための部材である。蒸発部2は、プレートフィンチューブ5と接続されるとともに配管6を介してプレートフィンチューブ7に接続されている。蒸発部2、配管6、8及びプレートフィンチューブ7は、配管内をそれぞれ真空(減圧)状態となっている。このように、減圧部分をすべて配管中にとどめることで、大がかりな真空装置を必要とせず原料水を低温で効率よく蒸発させることができ、また、装置の構造を大幅に簡素化できる。
【0014】
図2は、第1の実施形態の淡水化装置の加熱部の断面構造を示しており、図1のA−Aの断面図である。矢印は太陽光を示す。加熱部1は、プレートフィンチューブ5を断熱容器12に収納して構成されている。プレートフィンチューブ5は、複数本の配管16と複数枚の板状のフィン17とからなり、図2に示すように各板状のフィン17に複数本の配管16をそれぞれ貫通させている。配管16及びフィン17は主に熱伝導性の良好な部材からなる。フィン17の表面は黒色に構成されており、太陽光を吸収し易くなっている。フィン17を黒色に構成するための手段としては、黒色塗料を塗布してもよく、フィン若しくはその表面自体が黒色の部材で構成されていてもよい。断熱容器12は、ガラスウールや発泡スチロール等の断熱材で構成されている。断熱容器12は、ステンレス等で真空部を設けて内外を断熱する構造であってもよい。
【0015】
加熱部1は、黒色のフィン17で太陽光を効果的に吸収し、断熱容器12で外部への放熱を抑え、その熱を配管16内の原料水に伝えて原料水を蒸発させることができる。このように、第1の実施形態の淡水化装置では、蒸留に必要な加熱を太陽熱で、放熱を空気との熱交換で行うことで、熱媒を介してヒートサイクルを構成する場合よりも格段に熱効率を改善することができる。本件発明者による実測値では、約70%の熱効率が得られた。
【0016】
図3は、第1の実施形態の淡水化装置の冷却部の断面構造を示しており、図1のB−Bの断面図である。冷却部3は、プレートフィンチューブ7を並列に構成されている。プレートフィンチューブ7は、図の例では3本の配管18と複数枚の板状のフィン19とからなり、図3に示すように板状のフィン19のそれぞれに3本の配管18を貫通させている。配管18及びフィン19は主に熱伝導性の良好な部材からなる。冷却部3は、装置の稼働時に日除けのための部材で日陰を設けてそこに配置してもよい。
【0017】
冷却部3は、配管18内の水蒸気の熱をフィン19で放熱し、その水蒸気を冷却して凝縮させることができる。
【0018】
第1の実施形態の淡水化装置10の運転方法について説明する。まず、蒸発部2、配管6、8及びプレートフィンチューブ7の配管内を真空ポンプで減圧状態にする。次に、排出弁9を閉じた状態で原料水の供給弁13を開いて原料水を配管14から蒸発部2及びプレートフィンチューブ5の配管内に供給し、所定の位置まで満たす。次に、太陽光を加熱部1の窓11を介してプレートフィンチューブ5に照射させて原料水を加熱し、水蒸気を発生させる。水蒸気は蒸発部2に送られ、その水蒸気が冷却部3で冷却されて凝縮され、淡水を得ることができる。淡水は配管8を介して図示しない貯留タンクに送られる。一方、原料水が濃縮された結果生成される濃縮水は配管4から排出される。配管内の真空度は加熱部1の加熱量と冷却部3の冷却能のバランスで決まるため、予めそれらを調整しておくことで特に外部からの制御を必要とせずに維持することができる。そのため、淡水化装置10は、一端作動させると、簡単なレベルセンサーなどによる原料水の水位の維持、プレートフィンチューブ5の下部に溜まった濃縮水の排出及び淡水の取り出しを適宜実施するだけで、具体的には、原料水の供給弁13、濃縮水の排出弁9や淡水の流出弁等をそれぞれ適宜調整するだけで淡水を生成し続けることができる。
【0019】
図4は、第1の実施形態の淡水化装置の構成例の斜視図を示す。図4では、配管4、8はそれぞれ統合した形態で図示している。矢印は太陽光を示す。加熱部1における太陽光を受光する面積Sが3[m](=縦3[m]×横1[m])とし、日照時間を10時間、受光面の単位面積あたりのエネルギーを1[kW/m]とすると、受光面に照射される1日あたりの太陽エネルギーの総量は
1[kW/m]×3[m]×10[hr]=30[kWh]
と試算される。一方、水の蒸発潜熱は2.3[kJ/g]であるから、1日あたりの蒸発量の理論値が得られ、この値に試作した淡水化装置の熱効率(実測値で約70%)を乗ずることで1日あたりの淡水生成量が以下のように求められる。
108[MJ]÷2.3[kJ]×70[%]=32.8[kg/日]
すなわち、受光面積Sが3[m]の淡水化装置は1日あたり約33[kg]の淡水を生成する。
【0020】
第1の実施形態の淡水化装置10では、プレートフィンチューブ5、7は、1枚のフィンを3本の配管で共用していたが、任意の本数の配管で共用しても、1枚のフィンを共用していなくてもよい。配管の本数や径は各部のサイズにより変わりうる。
【0021】
さらに、上述したプレートフィンチューブ5、7は熱交換器の例であり、フィンの形状もプレート状のものに限定されず、また、それ以外の他の種類の熱交換器でもよい。また、冷却部3における放熱部材は空冷式に限らず、海水や原料水又は濃縮水の顕熱等を利用した水冷式を用いても良い。
【0022】
(第2の実施形態)
第1の実施形態の淡水化装置は、冷却部を空冷用ダクトで覆うように構成してもよい。
【0023】
図5は、第2の実施形態の淡水化装置の冷却部の内部構造を示している。矢印は空気の流れる方向を示す。冷却部20は、空冷用ダクト21と、空冷用ダクト21の内部にプレートフィンチューブ7と、電動ファン22とを有する。プレートフィンチューブ7は第1の実施形態と同様の構成である。
【0024】
冷却部20は、電動ファン22で空冷用ダクト21の内外に空気を流入出させて、プレートフィンチューブ7内の水蒸気の冷却を促進させることができる。それに伴ってプレートフィンチューブ7の本数やプレートフィンチューブ7のフィンの数も削減しコストを抑えることができる。
【0025】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変更可能である。火力発電所の熱源を部分的に取り入れる、或いは冷却手段として海水や原料水或いは濃縮水の顕熱を主体的に或いは補助的に利用してもよい。また、トリチェリの水柱圧を用いて淡水や濃縮水の取り出しをしてもよい。原料水が海水である場合、その濃縮水を製塩の原料に用いることもできる。
【0026】
上記の各実施形態の淡水化装置は、いずれもフィン付のパイプを配管で連結した非常に単純な構造であるにもかかわらず、極めて高効率の淡水化装置として利用できる。装置を運転するために必要とされる熱源に太陽光が、冷却源には空冷ないしは濃縮水の顕熱が、ポンプ動力には太陽光発電などが利用できるため、例えば砂漠の奥地などでも、海水や塩類で汚染された地下水などの原料水と太陽光さえあれば、それらを効率良く淡水化して生活用水や灌概用水として用いることが可能となる。
【0027】
また、多くの地域で住人を苦しめている塩害や有毒物質の混入した地下水に対しても、蒸留による淡水化は非常に有効な対策といえる。なによりも、本実施形態が用いる蒸留方式は装置自体が低コストで実現でき、かつメンテナンスが殆ど不要であるので、多くの地域に適用できる。よって、本実施形態の淡水化装置によると、砂漠地帯或いは塩害や地下水汚染地帯を緑化、農地化することができ、食料増産と雇用の創出を世界規模で可能にするための最も有効な手段の一つとして、活用が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る淡水化装置は、淡水を必要とする様々な分野に用いられることが期待される。特に、設備投資や維持運転等に大きな費用をかけることが困難な多くの発展途上国の乾燥地帯でも、太陽光と原料水さえ確保できれば、簡便な設備でほとんどランニングコストをかけずに淡水を得ることができる。すなわち、本発明は、深刻な水不足の問題を解消することができる基本技術として、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0029】
1 加熱部
2 蒸発部
3、20 冷却部
4、6、8,14 配管
5 プレートフィンチューブ(熱交換器)
7 プレートフィンチューブ(放熱部材)
9 排出弁
10 淡水化装置
11 窓
12 断熱容器
13 供給弁
15 バッフル
16、18 配管
17、19 フィン
21 空冷用ダクト
22 電動ファン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧蒸留法により原料水から淡水を生成する淡水化装置であって、
前記原料水を加熱させるための加熱部と、
前記加熱部で発生した水蒸気を冷却して凝縮させる冷却部とを備え、
前記加熱部は、太陽光を吸収して太陽熱を熱源とする熱交換器と、太陽光を透過する透明な窓を設けた断熱容器とを備え、
前記熱交換器は前記断熱容器内に封入されることを特徴とする淡水化装置。
【請求項2】
前記熱交換器はプレートフィンチューブであることを特徴とする請求項1記載の淡水化装置。
【請求項3】
前記プレートフィンチューブは、フィンの表面が黒色であることを特徴とする請求項2記載の淡水化装置。
【請求項4】
前記冷却部は空冷式又は水冷式の放熱部材で構成されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の淡水化装置。
【請求項5】
前記冷却部を覆うダクトと、前記ダクトに空気を流入出させるためのファンとをさらに備えることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の淡水化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−245445(P2012−245445A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117367(P2011−117367)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(597057922)
【Fターム(参考)】