説明

淡水製造システム

【課題】海水等の塩を含む原水から、浸透膜を使って淡水を得るシステムにおいて、より小さな消費エネルギーで淡水を製造するためのシステムを提供する。
【解決手段】正浸透膜を介して原水中から塩分を除去して、原水の浸透圧より高い浸透圧を有する溶液へ透過水を得る正浸透膜処理手段と、正浸透膜処理手段で得られた透過水を含み、溶質成分がNa2HPO4又は炭酸エチレンのいずれかである高浸透圧溶液から、高浸透圧溶液の溶質成分を分離する分離手段と、分離手段で溶質成分を分離した後の溶液を原水として、逆浸透膜により脱塩処理し、淡水を得逆浸透膜処理手段と、逆浸透膜処理手段へ原水を供給するポンプと、分離手段で分離回収した溶質成分を正浸透膜処理手段に供給される高浸透圧溶液と混合する配管を備えた淡水製造システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正浸透膜を用いて海水もしくは下水放流水から淡水を得る淡水製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、逆浸透膜を用い、ろ過処理を行う海水淡水化装置が増加する傾向にある。逆浸透膜は、セルロースやポリアミド等の素材で作られており、この逆浸透膜に海水の浸透圧(約2.5MPa)の二倍以上の圧力を加え、水は膜を透過させ、塩分は膜を透過させないようにして淡水を得ることができる。逆浸透膜に海水の浸透圧の二倍以上の圧力を加えるための高圧ポンプの動力が逆浸透膜による海水淡水化のコストの大部分を占めている。
【0003】
例えば、〔特許文献1〕には、逆浸透膜を使って海水から淡水を得る方法が開示されている。
【0004】
原水を所定の高圧力とする高圧ポンプと、高圧とされた高圧供給水中の塩分を濃縮する高圧逆浸透膜を備えた高圧逆浸透装置と、透過水を後流側に供給する透過水ラインに介装され、起動初期の透過水を一時的に排水ラインから排水する第1の排水弁と、第1の排水弁の下流側の透過水ラインに介装され、透過水を所定の低圧力とする低圧ポンプと、低圧ポンプにより低圧とされた低圧供給水中の塩分を濃縮する低圧逆浸透膜を備えた低圧逆浸透装置と、低圧逆浸透装置の濃縮水側の排出ラインに介装され、低圧逆浸透装置に供給する起動初期の低圧供給水を一時的に排出する第2の排水弁とを備えた構成となっている。
高圧と低圧の逆浸透を実施することで、高品質の水を製造することができるとしている。
【0005】
しかし、これを得るためには高圧逆浸透を実施することとなり、そのために大きな動力が必要という問題がある。
【0006】
これとは別の方法として、セルロース等の素材で作られた浸透膜を介して海水中の水を一旦高濃度(高浸透圧)の溶液に回収し、その後に、高浸透圧の溶液から塩を除去する方法がある。この方法は、浸透圧が高い溶液側、すなわち正方向へ水を流すことから、正浸透膜法と呼ばれている。正方向への駆動力を利用するだけでなく、高浸透圧溶液に添加する塩として、溶液からの分離が容易なものを選択することで、淡水製造に係るエネルギーを低減できる可能性がある。
【0007】
〔非特許文献1〕には、正浸透膜を使って、海水から水を回収する方法が示されている。水を回収する高浸透圧溶液として、NH3とCO2を溶解したNH4HCO3溶液を使用している。高浸透圧溶液の濃度を1.1〜6mol/Lの範囲で実験し、浸透圧を駆動力とする流束や透過する塩(NaCl)濃度を測定している。この方法により、海水を模擬したNaCl溶液中の95%以上の塩を分離できるとしている。また、最終的な淡水回収処理では、高浸透圧溶液からNH3とCO2を分離するプロセスを提案している。
【0008】
この方法では、NH3に由来する高pHのアンモニア水による金属構造物の腐食や浸透膜の劣化が生じるという問題がある。また、正浸透膜による塩の除去率は100%ではないため、高浸透圧溶液を循環して長期間使用すると、NH3とCO2の分離工程では除去されない塩が濃縮され、得られる淡水の純度が低下したり、海水中のカチオンと炭酸塩を形成して装置内で析出するという問題もある。
【0009】
〔特許文献2〕には、被処理水を第1半透膜の一方の面に接触させるとともに、溶解度が温度に依存する仲介溶液を相対的に高温の状態で第1半透膜の他方の面に接触させ、被処理水の水分を第1半透膜を介して仲介溶液に吸収させる水分吸収工程と、水分吸収工程後の仲介溶液を相対的に低温にし、前記仲介溶液の溶質(仲介溶質)を析出させる析出工程と、析出工程後の仲介溶液を第2半透膜に、仲介溶液の水分が第2半透膜を介して放出可能な液圧にて接触させる水分放出工程と、を備えた淡水製造装置が記載されている。そして、析出工程で析出させた仲介溶質の析出体を水分放出工程に供される仲介溶液から分離する分離工程と、分離した析出体を水分放出工程後の仲介溶液と混合して溶解工程に供する混合工程と、を更に備えることが好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010−125395号公報
【特許文献2】特開2010−162527号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. R. McCutcheon, R. L. McGinnis, and M. Elimelech, J. Membrane Science, 278(2006), pp114-123.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
〔特許文献2〕に記載の従来の技術では、仲介溶質、すなわち高浸透圧溶液としてミョウバン水溶液が用いられることが記載されている。このミョウバン水溶液、例えばAlK(SO4)2は、温度上昇に対する濃度が緩く上昇する特性を有しており、40℃くらいまで温度を上昇させる必要があるため、水温の調節幅が大きく、設備運転コストが高いという問題がある。又、AlK(SO4)2は、PHが3に近く、装置の腐食が生じやすいという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、定められた水質より良好な水質の淡水水質を得られ、ランニングコストを低減できる淡水製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するため、本発明は、正浸透膜を介して原水中から塩分を除去して、原水の浸透圧より高い浸透圧を有する溶液へ透過水を得る正浸透膜処理手段と、正浸透膜処理手段で得られた透過水を含み、溶質成分がNa2HPO4又は炭酸エチレンのいずれかである高浸透圧溶液から高浸透圧溶液の溶質成分を分離する分離手段と、分離手段で溶質成分を分離した後の溶液を原水として、逆浸透膜により脱塩処理し、淡水を得る逆浸透膜処理手段と、逆浸透膜処理手段へ原水を供給するポンプと、分離手段で分離回収した溶質成分を、正浸透膜処理手段に供給される高浸透圧溶液と混合する配管を備えた淡水製造システムである。
【0015】
又、高浸透圧溶液からの溶質の分離手段として晶析処理を用い、溶質成分を析出させ、スラリーと上澄み液を分離する淡水製造システムである。
【0016】
又、分離手段で得られ、逆浸透膜処理手段へ供給される原水の浸透圧を、正浸透膜処理手段に供給される原水の浸透圧より低く運転する淡水製造システムである。
【0017】
又、正浸透膜処理と逆浸透膜処理に供給する原水と高浸透圧溶液の温度を調整する手段を有し、溶質成分がNa2HPO4の場合、原水または高浸透圧溶液の温度を25℃以下とする淡水製造システムである。
【0018】
又、分離手段又はその前段に温度調整手段を有し、溶質成分がNa2HPO4の場合、分離手段における溶液の温度を10℃以下とする淡水製造システムである。
【0019】
又、正浸透膜処理から排出される高浸透圧溶液の熱を回収する熱交換手段と、晶析手段から排出されるスラリーまたは上澄み液へ熱を供給する別の熱交換手段と、これら2種の熱交換手段の間で熱の媒体となる流体を循環させる手段とを備える淡水製造システムである。
【0020】
又、正浸透膜処理手段から排出される高浸透圧溶液の圧力を、逆浸透膜処理手段の原水へ伝達する圧力変換器を備える淡水製造システムである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高圧ポンプを用いない正浸透膜処理によって海水から水を回収することができ、淡水製造フローにおいて水温の調整幅を小さくでき、その結果、必要なエネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。
【図2】本発明の第1実施形態における水処理の説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に図面を用いて本発明の各実施形態を説明する。
【0024】
〔第1実施形態〕
図1は本発明の第1実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。本実施例の淡水製造システムは、海水を取り込む前処理手段2、前処理手段2に接続される正浸透膜処理手段3、正浸透膜処理手段3と冷却手段4を介して接続される晶析手段5、晶析手段5と加熱手段6b、ポンプ15を介して接続される逆浸透膜処理手段7、逆浸透膜処理手段7と接続される切り替え手段8、逆浸透膜処理手段7と切り替え手段8を接続する配管に取付けられる塩化物イオンセンサ13、切り替え手段8に接続される貯槽14で構成され、晶析手段5は加熱手段6aを介して正浸透膜処理手段3と接続され、切り替え手段8は正浸透膜処理手段3と接続されている。
【0025】
前処理手段2は、図示しないポンプで取水した海水1をMF膜(Microfiltlation,精密ろ過膜)でろ過処理するもので、これにより濁質を除去し、正浸透膜処理手段3に適合する水質の海水を得る。前処理手段2では、MF膜の差圧とろ過継続時間を計測し、予め設定したろ過継続時間、又は予め設定した差圧のいずれかを超えた時点で、MF膜の逆洗を所定時間実行する。逆洗で排出される汚泥9は、濃縮,脱水の処理を実施した後に廃棄する。
【0026】
正浸透膜処理手段3は、正浸透膜を挟んだ両側にそれぞれ部屋を備え、一方の部屋に前処理手段2でろ過した海水を供給し、他方の部屋に高浸透圧溶液を供給する。このとき、各液の浸透圧は数1から算出することができる。
【0027】
【数1】

【0028】
ここで、Πは浸透圧、Rは気体定数、Tは絶対温度、Cは溶液のモル濃度、iはファント・ホッフの係数である。ファント・ホッフの係数iは、溶質が電解質の場合で電離が生じる影響を表す係数である。
【0029】
正浸透膜間には、2種の溶液の浸透圧の差および膜圧に応じた駆動力が生じる。高浸透圧溶液の浸透圧を海水の浸透圧より大きくし、海水から高浸透圧溶液に水を回収する。このとき、海水中のイオンの一部は除去されず、高浸透溶液側に漏えいする。
【0030】
高浸透圧溶液の浸透圧は、少なくとも海水の2倍となるように溶質の濃度を調整する。
この浸透圧が高いほど駆動力が大きくなるため、原水からの水の回収率を高くしたり、膜の透過流速を大きくしたりすることができる。
【0031】
溶質として用いる物質は、後段の晶析処理に適し、高い浸透圧が得られる物質(すなわち、モル濃度が高くできる物質)が望ましい。具体的な溶質の種類については後述する。
正浸透膜は、酢酸セルロースやポリアミド等の材質を適用することができる。また、正浸透膜処理手段3内部の液温は、膜の透過抵抗を低減させるため30℃程度に保持する。正浸透膜処理手段3から排出される濃縮廃液10は、海洋へ放流される。
【0032】
正浸透膜処理手段3から排出された高浸透圧溶液から、淡水回収量と逆浸透膜処理手段7における淡水回収率を考慮した必要量を冷却手段4に分配する。冷却手段4は、正浸透膜処理手段3の高浸透圧溶液出口の後段に設置する。溶液の水温を晶析処理のための設定温度に低下させる。水温は、高浸透圧溶液の溶質の溶解度によるが、少なくとも20℃以下にする。
【0033】
晶析手段5の内部構造は、一般的な晶析槽と同様、結晶成長部と固液分離部で構成する。設定された水温における溶解度を超える量の溶質は、種結晶に析出する。成長した結晶は沈降し、所定の時間間隔で引き抜かれる。このスラリーは加熱手段6aに送られる。一方、固液分離部で分離された上澄み液は、オーバーフローし、加熱手段6aとは別の加熱手段6bに送られる。加熱手段6a,6bでは、正浸透膜処理および逆浸透膜処理における水温(50℃)までそれぞれの溶液を加熱する。
【0034】
逆浸透処理手段7には、ポンプ15により加熱手段6aから上澄み液が供給され、逆浸透膜処理でろ過して目的とする淡水を回収する。一方、濃縮廃液は、逆浸透処理手段7から切り替え手段8へ送られる。このとき、塩化物イオンセンサ13で液中の塩化物イオン濃度を測定する。塩化物イオン濃度が所定の濃度未満のときは、切り替え手段8で濃縮廃液を正浸透膜処理手段3の高浸透圧溶液側に供給する。一方、塩化物イオン濃度が所定の濃度以上のときは、切り替え手段8で排水11側に切り替えてプロセス外へ排出させ、貯槽14から新規の高浸透圧溶液を正浸透膜処理手段3へ供給する。
【0035】
排水11は、濃縮・脱水の処理後に廃棄するか、高浸透圧溶液の溶質にアルミニウムや鉄など凝集剤として機能する成分が含まれている場合は、前処理手段2における凝集剤として添加することもできる。
【0036】
図2は、本発明の第1実施形態における水処理の説明図である。イオン濃度は、前処理手段2および正浸透膜処理手段3の入り口では、海水の濃度と等しい。高浸透圧溶液はこれより高濃度とし、膜を介して海水中の水を高浸透圧溶液側に移行させる。次に、晶析手段5での晶析工程では、高浸透圧溶液を冷却することで固体を析出させ、イオン濃度を低下させる。このとき、晶析の上澄み液中のイオン濃度が、海水の濃度より低くなるような温度条件で運転する。逆浸透処理手段7により、さらにイオンを除去して淡水を得る。
【0037】
従来の逆浸透膜処理では、海水の浸透圧を対象とした高圧ポンプが必要であったが、第1実施形態では、晶析に適した溶液を介在させることで、逆浸透処理で必要なポンプ圧力を低減することが可能である。このことは、ポンプの動力だけでなく、ポンプの初期費用を低減させる効果がある。
【0038】
次に、本発明の第1実施形態の処理で用いる高浸透圧溶液について説明する。高浸透圧溶液には(a)から(e)の条件を満足する溶液を選択する。
(a)正浸透膜処理の水温においてイオン濃度が海水の濃度よりも高い(正浸透膜処理のための条件)。
(b)溶解度の温度依存性が大きい(晶析処理のための条件)。
(c)晶析処理後のイオン濃度が海水の濃度よりも低い(逆浸透膜処理のための条件)。
(d)金属の腐食性が低い。
(e)高浸透圧溶液への海水成分の混入の程度が判断できる。
【0039】
正浸透膜処理におけるイオン濃度の差は、浸透圧差、すなわち水の駆動力の大きさに影響する。イオン濃度が高くできる溶質を選定することで、正浸透膜処理手段3の膜面積を小さくできる。また、溶解度の温度依存性が大きい溶質を選定することで、正浸透膜処理と晶析処理での温度差を小さくすることができる。この結果、加熱手段および冷却手段の容量や運転時に必要なエネルギーを低減できる。そして、逆浸透膜処理の原水は低いイオン濃度であるほど必要なポンプ動力が低減できる。
【0040】
又、腐食性が低い系を選択することで、機器の寿命を延長できる。又、例えば、海水中の主要な成分である塩化物イオンやナトリウムイオンを含まない系を選択することで、不純物濃度をモニタリングでき、これらの混入による各工程の処理効率低下を抑制できる。
【0041】
本発明の第1実施形態で用いる高浸透圧溶液の溶質としては、上記を満足する物質であればいずれでもよいが、例えば、Na2HPO4,炭酸エチレンを適用することができる。
表1にNa2HPO4の溶解度から推定した各水温におけるモル濃度を示す。海水中のNaClの濃度は約0.513mol/L(3wt%)であり、少なくとも25℃〜0℃の範囲で上記の(a)(b)(c)の条件を満足する。
【0042】
【表1】

【0043】
具体的には、数1において、NaClのi=2,C=0.5mol/Lとすると、Π=22.4atm(0℃),24.5atm(25℃)となる。一方、Na2HPO4のi=4(最大値)とした場合、Π=9.9atm(0℃,C=0.11mol/L),146.7atm(25℃,C=1.5mol/L)となり、条件(a)(b)(c)を満足する。また、Na2HPO4は、pHが7に近く、装置の腐食性や不純物の点でも適用可能な物質である。
【0044】
Na2HPO4の溶解度は、表1に示すように、0〜20℃で低く、25℃以上で急激に増加し、25℃では0℃に比べて10倍以上の濃度となる。すなわち、比較的低温(〜25℃)で海水よりもかなり高い6倍の浸透圧が得られるため、正浸透膜処理が効率よく実施できる。晶析操作では、この溶液を比較的高い温度(〜10℃)まで冷却するだけで大部分のNa2HPO4の固体(水和物)を回収できる。したがって、Na2HPO4を適用すれば、一連の淡水製造フローにおいて水温の調整幅を小さくでき、その結果、必要なエネルギーを低減することができる。また、過熱・冷却に要する時間の短縮や設備の小型化にもつながるため、淡水製造のスループット向上や初期の設備コストの低減が可能という利点もある。
【0045】
上記の物質は、淡水製造システムの想定する温度範囲(0℃〜25℃)において、単体として固体で存在する物質である。これらを水に溶解させて高浸透圧溶液を得ている。このような物質以外に、上記の温度範囲で相変化する物質を溶質に用いることもできる。例えば、凝固点がこの温度範囲にあり、液体の状態で水と相互に溶解する物質を使用する方法である。正浸透膜処理においては、少なくともこの溶質の凝固点より高い温度を維持する。そして、晶析処理では凝固点よりも低い温度とし、液体から固体への相変化による溶質成分の析出・固体回収を実施する。このような物質を用いることで、水温の調整幅を小さくすることが可能である。このような物質の例として炭酸エチレン(1,3−ジオキソラン−2−オン,C343)がある。炭酸エチレンの凝固点は34〜37℃で、水に容易に溶解する。
【0046】
淡水製造システムにおける主な消費エネルギーは、ポンプによる送水エネルギー、晶析工程での水温調整のためのエネルギー、逆浸透膜処理における高圧ポンプによるろ過のためのエネルギーである。このうち、晶析工程で水温調整に用いる熱エネルギーは、調整する温度範囲が蒸発法に比べて狭く、蒸発潜熱を必要としないことから、蒸発法に比べて小さくできる。後述の実施例に記載した熱交換や海水等を冷却水に用いることで、さらに効率が向上する。
【0047】
一方、逆浸透における高圧ポンプのエネルギーは原水の浸透圧に概ね比例する。したがって、本実施形態の淡水製造システムにおける逆浸透膜処理の原水の浸透圧を、少なくとも海水の浸透圧より低くすることで、エネルギーの低減が可能となる。すなわち、晶析工程で得られる高浸透圧溶液の濃度をより低濃度にすればよい。Na2HPO4や炭酸エチレンは濃度を海水の1/5以下に調整することが可能であり、エネルギー低減に有利である。また、供給時の圧力(揚程)が低いポンプの使用が可能となるため、初期の設備コストを低減させる効果もある。
【0048】
また、前処理手段2は、MF膜処理の場合を記載したが、正浸透膜処理に適当なレベルの濁質除去性能(例えば、SDI(シルト濃度指数)≦2)を達成できる方法であれば、凝集沈殿・砂ろ過でもよい。
【0049】
〔第2実施形態〕
図3は、本発明の第2実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。本実施形態のシステムは、第1実施形態の構成において、晶析手段5と加熱手段6a,6bとの間に熱交換器31a,31bを設けた構成となっている。
【0050】
熱交換器31aでは、正浸透膜処理手段3から排出される高浸透圧溶液から熱を回収する。回収された熱は、媒体となる流体を介して熱交換器31bに移送し、晶析手段5から排出されるスラリーおよび上澄み液と再度熱交換する。熱の媒体となる流体は、熱交換器31a,31bの間を循環し、連続的に、晶析処理前の高浸透圧溶液の冷却、および晶析処理後のスラリーと上澄み液の加熱を行うのに使用される。熱交換だけでは所定の水温に到達しない場合は、冷却手段4又は加熱手段6a,6bを運転して水温を調整する。
【0051】
熱交換器の構造としては、隔壁式の多管円筒熱交換器で、熱の媒体となる流体としては水を使用することができる。この組み合わせ以外の熱交換の方式には、直接式,蓄熱式,ヒートパイプ式があり、また、流体としては、MEA(モノエタノールアミン)水溶液,油,重質油,ブライン(塩化ナトリウム溶液),有機溶剤,苛性ソーダ溶液があり、これらを用いることができる。
【0052】
このような構成とすると、第1実施形態で述べた効果に加え、膜処理や晶析処理での水温調整に必要なエネルギーの一部をシステム内で循環して使用できるため、淡水製造に必要なエネルギーの低減が可能となる。
【0053】
本実施例は、熱の回収・再利用において、流体を通じた直接的な熱伝動を適用した例である。これ以外の熱の効率的な利用手段としてヒートポンプがある。ヒートポンプは、熱エネルギーを低い温度から高い温度に組み上げる装置であり、空気中やその他の排熱などの未利用エネルギーを利用することができる。熱媒体を用いるヒートポンプによる熱移動では可逆な発熱現象と吸熱現象を共に利用し、加熱・冷却のいずれにも適用可能である。
そのため、本実施形態の熱回収・加熱・冷却の手段として、適用することで、熱交換と同様の効果が得られる。
【0054】
〔第3実施形態〕
図4は本発明の第3実施形態に係る淡水製造システムのブロック図である。本実施形態のシステムは、第1実施形態の構成において、正浸透膜処理手段3と冷却手段4とを接続する流路と、加熱手段6bとポンプ15とを接続する流路との間に圧力変換器41を設けた構成としている。
【0055】
圧力変換器41には、正浸透膜処理手段3から排出される高浸透圧溶液を導入する。高浸透圧溶液の圧力は、圧力変換器41に接続された晶析手段5の上澄み水に伝達される。
加圧された上澄み水は、逆浸透膜処理に必要なだけの圧力をさらにポンプ15から得た後に、逆浸透膜処理手段7に供給される。圧力が低下した高浸透圧溶液は冷却手段4を経て、晶析手段5に導入される。
【0056】
圧力変換の方式は特に限定されず、例えば、モータ軸直結型ペルトン水車,ターボチャージャーを使用することができる。
【0057】
ポンプ15に必要とされる性能は、海水(浸透圧=p1atm),正浸透膜処理の高浸透圧溶液(浸透圧=p2atm)の浸透圧および逆浸透膜処理の原水に必要な浸透圧(p3atm)の関係、ならびに、圧力回収器の効率(α)で決定され、理想的には、(p2−p1)×αだけの圧力が逆浸透膜処理の原水に与えられ、この圧力値とp3の差分を付与できる性能のポンプ15を使用すればよい。
【0058】
このような構成とすると、第1実施形態で述べた効果に加え、逆浸透膜処理に必要なエネルギーの一部をシステム内で回収して使用できるため、淡水製造に必要なエネルギーの低減が可能となる。
【0059】
このように、各実施形態によれば、高圧ポンプを用いない正浸透膜処理によって海水から水を回収することができ、また、淡水回収のための逆浸透処理時の原液濃度を低くすることで高圧ポンプの消費電力を少なくすることができることから、淡水製造に係る総エネルギー量を低減できる。
【0060】
又、原水や高浸透圧溶液の温度調整のために、システム内の排熱を利用する構成とすることから、淡水製造に係る総エネルギー量を低減できる。
【0061】
又、逆浸透膜処理に必要なエネルギーの一部をシステム内で回収して使用できる構成とすることから、淡水製造に係るエネルギー量を低減できる。又、これらの処理では、腐食性が低い高浸透圧溶液系を適用するため、設備機器の健全性を維持することが容易となる。
【符号の説明】
【0062】
2 前処理手段
3 正浸透膜処理手段
4 冷却手段
5 晶析手段
6a,6b 加熱手段
7 逆浸透膜処理手段
8 切り替え手段
13 塩化物イオンセンサ
14 貯槽
15 ポンプ
31a,31b 熱交換器
41 圧力変換器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正浸透膜を介して原水中から塩分を除去して、原水の浸透圧より高い浸透圧を有する溶液へ透過水を得る正浸透膜処理手段と、前記正浸透膜処理手段で得られた透過水を含み、溶質成分がNa2HPO4又は炭酸エチレンのいずれかである高浸透圧溶液から、高浸透圧溶液の溶質成分を分離する分離手段と、前記分離手段で溶質成分を分離した後の溶液を原水として、逆浸透膜により脱塩処理し、淡水を得る逆浸透膜処理手段と、前記逆浸透膜処理手段へ原水を供給するポンプと、前記分離手段で分離回収した溶質成分を、正浸透膜処理手段に供給される高浸透圧溶液と混合する配管を備えたことを特徴とする淡水製造システム。
【請求項2】
請求項1に記載の淡水製造システムにおいて、前記分離手段として晶析処理を用い、高浸透圧溶液の溶質成分を析出させ、スラリーと上澄み液を分離することを特徴とする淡水製造システム。
【請求項3】
請求項1に記載の淡水製造システムにおいて、前記分離手段で得られ、逆浸透膜処理手段へ供給される原水の浸透圧を、正浸透膜処理手段に供給される原水の浸透圧より低くすることを特徴とする淡水製造システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の淡水製造システムにおいて、前記正浸透膜処理または逆浸透膜処理に供給する原水又は高浸透圧溶液の温度を調整する手段を有し、溶質成分がNa2HPO4の場合、原水または高浸透圧溶液の温度を25℃以下とすることを特徴とする淡水製造システム。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の淡水製造システムにおいて、前記分離手段またはその前段に温度調整手段を有し、溶質成分がNa2HPO4の場合、前記分離手段における溶液の温度を10℃以下とすることを特徴とする淡水製造システム。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の淡水製造システムにおいて、前記正浸透膜処理から排出される高浸透圧溶液の熱を回収する熱交換手段と、前記晶析処理装置から排出されるスラリー又は上澄み液へ熱を供給する別の熱交換手段と、これら2種の熱交換手段の間で熱の媒体となる流体を循環させる手段とを備えることを特徴とする淡水製造システム。
【請求項7】
請求項1に記載の淡水製造システムにおいて、前記正浸透膜処理手段から排出される高浸透圧溶液の圧力を、前記逆浸透膜処理の原水へ伝達する圧力変換器を備えることを特徴とする淡水製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183492(P2012−183492A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48483(P2011−48483)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】