説明

深さ方向分析方法

【課題】フィルム中の特定成分の表面近傍の成分量と内部に存在する成分量を区別し、深さ方向における特定成分の成分量を求めるための深さ方向分析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】フィルムの特定成分の成分量を深さ方向に分析する深さ方向分析方法であって、フィルム表面の特定面積Sについて第1の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分の成分量mを求める工程と、フィルム表面の特定面積Sについて第2の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分の成分量mを求める工程とを備え、且つ、少なくとも第1の溶媒と第2の溶媒の溶解度パラメーターが異なる、または、時間TとTが異なることを特徴とする深さ方向分析方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム表面とフィルム内部に存在する滑剤等のある特性成分の成分量を区別し、フィルムの深さ方向における成分の存在量を分析するための深さ方向分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飲食品や医薬品、日用雑貨品などあらゆる物品を包装するために使用されるフィルムは、強度、遮光性、バリア性、シール性等様々な特性を持つ。包装袋は様々な特性を持った数種類のフィルムを積層し、その積層フィルムを袋状にすることで得られる。さらに各層のフィルムには機能性を付与するために添加剤を加えることがある。添加剤としては、酸化防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤などがある。
【0003】
フィルムに添加される添加剤において、滑剤はフィルムの滑り性を得るために添加される。フィルムの滑り性が適切でないと袋を作成する製袋工程や内容物の充填工程に不具合を生じることがある。具体的には滑り性が一定でないと製袋工程においてフィルムの送り量にばらつきが生じてしまい、シール幅のずれや印刷柄のずれといった問題が生じる。また滑り性が発揮されていないと、内容物充填工程においてシーラント面のフィルム同士がブロッキングして開封できないといった問題が生じる。
【0004】
フィルム中に添加されている滑剤としてよく用いられるのは脂肪酸アミド系滑剤であり、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド等がある。これらは樹脂中に添加されており、製膜した時に添加された滑剤の一部が表面に移動(ブリードアウト)してくることでフィルムに滑り性を付与する。
【0005】
また、脂肪酸アミド系滑剤は樹脂の初期添加量、フィルムの厚み、温度、接着剤層の影響によって表面へのブリードアウト量が変化することがわかっており、これらの要因に対する滑剤の挙動を把握することは、フィルムや積層フィルムさらには包装袋の滑り性を適切なものとするために重要である。特に温度を変化させた時の滑剤の挙動については滑剤がフィルム表面と内部を移動することが鋭意研究の結果わかってきたが、フィルム表面およびフィルム内部の深さ方向に対する滑剤の分布を把握することが滑剤の挙動を知る上で重要となってくる。このことが明らかとなれば製袋工程および充填工程における不具合の原因を定量的に把握し、改善策を講じることが可能である。
【0006】
特許文献1にあっては、樹脂ごとヘキサフルオロイソプロパノールに溶かし、クロマトグラフィーにて滑剤の定量をおこなう方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−309436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載の方法ではフィルム中に含まれる全量の滑剤を定量するのみであって、滑剤がフィルム中の深さ方向に対してどのように分布しているかを定量的に示すことはできないという問題がある。また、フィルム片をヘキサンやクロロホルム等の有機溶媒に数分浸してクロマトグラフィーにて滑剤の定量をおこなう方法もあるが、フィルムの片側にコロナ処理をしてある場合や数種類のフィルムを積層してある場合には、他の層に含まれる滑剤をも一緒に抽出してしまい、目的のフィルム中の滑剤の表面と内部に存在する量を区別し、なおかつ深さ方向の分布を知ることはできない。
【0009】
さらにはフィルムや積層フィルムを断面切削し、飛行時間型2次イオン質量分析計(TOF−SIMS)を用いて深さ方向の滑剤の分布を確認する方法もあるが、この方法では広範囲を高精度に定量することが困難であり、測定数が多くしても測定箇所のバラツキが生じやすくなり精度に欠けるという問題がある。
【0010】
そこで本発明にあっては、フィルム中の滑剤等の特定成分の表面近傍の成分量と内部に存在する成分量を区別し、なおかつ深さ方向における特定成分の成分量を求めるための深さ方向分析方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1記載の発明としては、フィルムの特定成分Aの成分量を深さ方向に分析する深さ方向分析方法であって、フィルム表面の特定面積Sについて第1の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分Aの成分量mを求める工程と、フィルム表面の特定面積Sについて第2の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分Aの成分量mを求める工程とを備え、且つ、少なくとも第1の溶媒と第2の溶媒の溶解度パラメーターが異なる、または、時間TとTが異なることを特徴とする深さ方向分析方法とした。
【0012】
また、請求項2記載の発明としては、前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の少なくとも一方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることを特徴とする請求項1記載の深さ方向分析方法とした。
【0013】
また、請求項3記載の発明としては、前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の一方の溶解度パラメーターの差が1.5以上であり、他方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることを特徴とする請求項1記載または請求項2に記載の深さ方向分析方法とした。
【0014】
また、請求項4記載の発明としては、前記フィルムがポリオレフィン系フィルムであり、前記特定成分Aが滑剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の深さ方向分析方法とした。
【0015】
また、請求項5記載の発明としては、前記フィルム表面の特定面積Sについて第1の溶媒を接触させる工程及び前記時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、前記フィルム表面の特定面積Sについて第2の溶媒を接触させる工程と前記時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程が、底板と、該底板の表面に前記フィルムを挟んだ状態で設置され、前記空洞を有し、空洞内でフィルムを露出させることのできるフレームと、前記フレームの上部の一部を覆うことができる上板とを順に備え、且つ、前記底板と前記フレームの底面を密着させるための固定化手段を前記底板と前記上板の間に備える抽出装置によりおこなわれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の深さ方向分析方法とした。
【0016】
また、請求項6記載の発明としては、前記抽出装置が、前記底板が支柱を備え、前記上板が該支柱を貫通する穴を備え、前記底板の支柱が前記上板の穴を貫通し、ナットにより底板と上板を固定することを特徴とする請求項5に記載の深さ方向分析方法とした。
【0017】
また、請求項7記載の発明としては、前記抽出装置が、前記フレームの上板側の空洞のうち、上板の覆われていない部分を覆うことのできる蓋を備えることを特徴とする請求項5または請求項6記載の深さ方向分析方法とした。
【発明の効果】
【0018】
本発明の深さ方向方法を用いることでフィルム表面とフィルム中に存在する滑剤等の成分量を区別し、なおかつ深さ方向における成分の存在量を定量的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は本発明の抽出装置の(a)上面図と(b)側面図である。
【図2】図2は本発明の抽出装置の底板1の斜視図である。
【図3】図3は本発明の抽出装置のフレーム2の斜視図である。
【図4】図4は本発明の抽出装置の上板3の斜視図である。
【図5】図5は本発明の抽出装置の支柱41とナット42の斜視図である。
【図6】図6は本発明の抽出方法の説明図である。
【図7】図7は実施例におけるフィルム深さとエルカ酸アミドの定量結果についての関係(グラフ)である。
【図8】図8は実施例におけるクロロホルムを用いて各抽出時間抽出した時のエルカ酸アミドの定量結果からエタノールを用いて抽出した時のエルカ酸アミドの定量結果を引いた値とフィルム深さの関係(グラフ)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の深さ方向分析方法にあっては、フィルムの特定成分Aの成分量を深さ方向に分析する深さ方向分析方法であって、フィルム表面の特定面積Sについて第1の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分Aの成分量mを求める工程と、フィルム表面の特定面積Sについて第2の溶媒を接触させる工程と、時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程と、前記回収した溶媒についてクロマトグラフィーをおこない、特定成分Aの成分量mを求める工程とを備え、且つ、少なくとも第1の溶媒と第2の溶媒の溶解度パラメーターが異なる、または、時間Tと時間Tが異なることを特徴とする。
【0021】
本発明の深さ方向分析方法にあっては、特定成分Aを含むフィルム表面の特定面積S、Sについて第1の溶媒及び第2の溶媒を用いフィルム表面から成分Aを抽出して特定面積Sの成分量を求めることにより、特定面積S、Sにおける成分量を求めることができる。さらには、単位面積あたりの成分量を求めることができる。そして、溶解度パラメーターの異なる溶媒を用いて成分Aを抽出して成分量m、mを求めることにより、フィルム中の特定成分Aの深さ方向における情報を得ることができる。
【0022】
ここで、溶解度パラメーターが異なる溶媒を用いて抽出された特定成分Aの成分量m、mは、その溶解度パラメーターの違いから溶媒を接触させた面からの深さ方向での抽出領域が異なる。すなわち、フィルムの溶解度パラメーターとの差がより小さい溶媒を用いて抽出をおこなった場合には、フィルムの厚さ方向でより深い領域まで含めた形の成分量を得ることができる。一方、フィルムの溶解度パラメーターとの差がより大きい溶媒を用いて抽出をおこなった場合には、フィルムの厚さ方向でより浅い領域での成分量を得ることができる。すなわち、溶解度パラメーターが異なる溶媒を用いて抽出された特定成分Aの成分量m、mから深さ方向での成分Aの存在量の情報を得ることができる。
【0023】
また、抽出時間T、Tを変化させて特定成分Aの成分量m、mを求めることにより、フィルム中の特定成分Aの深さ方向における情報を得ることができる。抽出時間をより短くすることにより、フィルムの厚さ方向においてより浅い領域での成分量を得ることができる。一方、抽出時間を長くすることにより、フィルムの厚さ方向でより深い領域まで含めた形の成分量を得ることができる。すなわち、抽出時間T、Tを変化させて抽出された特定成分Aの成分量m、mから深さ方向での特定成分Aの成分量の情報を得ることができる。
【0024】
また、本発明の深さ方向分析方法にあっては、前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の少なくとも一方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることが好ましい。フィルムとの溶解度パラメーターの差が1.5未満である溶媒はフィルムに対しての溶解性が高く、容易に深さ方向での成分Aの情報を得ることができる。特に、フィルムとの溶解度パラメーターの差が1.5未満である溶媒を用い抽出時間T、Tを変化させて抽出量を測定することにより、容易に深さ方向での成分Aの情報を得ることができる。
【0025】
また、本発明の深さ方向分析方法にあっては、前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の一方の溶解度パラメーターの差が1.5以上であり、他方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることが好ましい。フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒はフィルムに対する溶解性が低く、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒を用いてフィルム表面での特定成分Aの抽出をおこなうことにより、フィルム表面での成分量を求めることができる。一方、フィルムとの溶解度パラメーターの差が1.5未満である溶媒はフィルムに対しての溶解性が高く、フィルムの厚さ方向でより深い領域での成分Aの情報を得ることができる。したがって、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒と、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒を用いて成分量m、mを求めることにより、フィルムの表面での成分量と、フィルムの表面から深い箇所まで含めた領域の成分量が求められ、深さ方向での特定成分Aの成分量の情報を得ることができる。
【0026】
なお、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒は、さらに好ましくはフィルムの溶解度パラメーターとの差が3.0以上である溶媒を用いることが好ましい。
【0027】
また、本発明の深さ方向分析方法にあっては、前記フィルムがポリオレフィン系フィルムであり、前記成分が滑剤であることが好ましい。滑剤は、初期添加量、フィルムの厚み、温度、接着剤層の影響によって表面へのブリードアウト量が変化することがわかっており、これらの要因に対する滑剤の挙動を把握することはフィルムや積層フィルムさらには包装袋の滑り性を適切なものとするために重要である。特に、シーラント層としてポリオレフィン系フィルムにおける滑剤の深さ方向の挙動を把握することは重要であり、本発明の深さ方向分析方法を好適に用いることができる。
【0028】
滑剤としては、脂肪酸アミド系滑剤があげられ、、滑剤としてステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド等を分析対象とすることができる。また、滑剤以外にも、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤等の添加剤を分析対象とすることができる。
【0029】
次に、フィルム表面の特定面積S、Sについて溶媒を接触させる工程及び溶媒を回収する工程、いわゆる抽出工程に用いられる抽出装置について説明する。
【0030】
図1の本発明の抽出装置の(a)上面図と(b)側面図を示した。
【0031】
本発明の抽出装置にあっては、底板1と、フレーム2と、上板3と、底板1と上板3とを固定化する固定化手段である支柱41とナット42により構成される。底板1とフレーム2の間に試料であるフィルムが載置される。そして、底板1と上板3とを固定化手段である支柱41とナット42で固定することにより、底板1とフレーム2フィルム5を挟んだ状態で密着させることができる。
【0032】
図2に本発明の抽出装置の底板1の斜視図を示した。底板1としては、平滑な表面を有するものであればよい。底板の材質は、例えば、鉄、ステンレス、アルミ等の板を用いることができる。底板の表面1には、支柱41を固定化するための穴が設けられている。
【0033】
図3に本発明の抽出装置のフレーム2の斜視図を示した。フレーム2は、底板1の表面にフィルム5を挟んだ状態で設置され、フィルムを閉じた状態で露出させることのできる空洞を有する。フレーム2とフィルム5によって形成される空間には、溶媒が注入される。そのため、フレーム2は底板1とフィルム5を挟んだ状態で密着する必要がある。
【0034】
フレーム2の空洞に溶媒を注入しフィルム表面と溶媒を接触させ、一定時間保持後フレームの空洞内の溶媒を回収することによって、フィルムの表面及び内部に存在する特定成分Aの抽出はおこなわれる。このとき、フレームと空洞とフィルムによって形成される空間に注入された液がフレーム外に流れ出さないようにする必要がある。したがって、フレームの底板側の表面は平滑にし、底板と密着させることができるようにする必要がある。また、フレーム内の底板側の空洞は、予め空洞の面積値が特定面積S、Sとして計測される。特定面積S、Sを計測することにより、単位面積あたりの成分量を定量することができる。フレーム2にあっては、図2(a)のように柱状であっても構わないし、図2(b)のように円柱状であっても構わない。また、図2(b)のようにフレーム上部の大部分が覆われており、上部の一部に溶媒を注入、回収するための穴を設けているものでも構わない。
【0035】
フレーム2は固定することができ、溶媒をフレームの空洞内に注入した際に溶媒が漏れないものであればその厚さに指定はないが、フレーム2は5mm以上の厚みを有することが好ましい。フレームの材質は、ステンレス製、テフロン(登録商標)製、PFA等を用いることができ、溶媒である有機溶媒に不溶であり変形しないものであれば特に限定されるものではない。
【0036】
図4に本発明の抽出装置の上板3の斜視図を示した。本発明の上板3は、フレーム2の上部の一部を覆うように設けられ、固定化手段により底板1と固定し、底板1とフレーム2を密着するために設けられる。上板3には、固定化手段である支柱を貫通するための穴31が設けられている。上板の材質は例えば、鉄、ステンレス、アルミ等の板を用いることができる
【0037】
図5に本発明の抽出装置の支柱41とナット42の斜視図を示した。支柱41の一方の端は、底板1の穴11と固定するためにネジ山が切られている。なお、あらかじめ底板1と支柱42は、溶接や接着剤により固定されていてもよい。また支柱のもう一方の端は上板3と底板1を固定するために、上板3の穴31を貫通させた状態で、ナット42を締めるためのネジ山が切られている。上板を貫通させた状態で、支柱41とナット42を締め上げることにより、前記底板とフレームの底面を密着させることができ、フレーム内に溶媒を注入した際に溶媒がフレームの外へ流れ出すことを防ぐことができる。ナット42は手で簡単に締められるために、図5に図示するような蝶ナットを用いることが好ましい。
【0038】
なお、底板とフレームの底面を密着させるための固定化手段としては、支柱とナットに限定されるものではない。例えば、上板と底板を一本のボルトで締め上げて固定しても良い。ただし、操作上、支柱とナットを固定化手段として好適に用いることができる。
【0039】
また、本発明の抽出装置にあっては、フレームの上部のうち、上板の覆われていない部分を覆うことのできる蓋を備えることが好ましい。本発明の抽出装置を用いた抽出方法にあっては、溶媒をフレーム内に注入後、フレーム内の溶媒を回収するまでに、一定の時間保持させる必要がある。このとき、溶媒の蒸発を防ぐために、本発明の抽出装置にあってはフレームの上板側の空洞を覆うための蓋を備えることが好ましい。蓋としてはガラス板、ステンレス板等平坦なものなら何でもよいが、フレームとの間になるべく隙間ができないようなものにすることが望ましい
【0040】
次に、本発明の抽出装置を用いた抽出方法について説明する。図6に本発明の抽出方法の説明図を示した。なお、図6にあっては、固定化手段である支柱、ナットは省略した。
【0041】
本発明の抽出方法にあっては、底板1と特定面積S、Sを空洞として備えるフレーム2の間にフィルム5を載置し、底板と上板を固定し、底板1上に載置されたフィルム5とフレーム2を密着させてフレーム2の空洞にフィルム5を露出させる工程(図6(a))と、前記フレーム2の空洞内に溶媒(第1の溶媒、第2の溶媒)8を注入し表面に溶媒を接触させる工程(図6(b))と、一定時間T、T保持する工程(図6(c))と、前記フレーム2内に注入された溶媒8を回収する工程(図6(d))とを備える。
【0042】
本発明の抽出方法にあっては、まず、底板上に特定面積S、Sを空洞として備えるフィルムを載置し、フィルム上にフレームを載置して、上板と底板を固定化手段により固定し、底板上に載置されたフィルムとフレームを密着させる(図6(a))。これによって、フレームの空洞にフィルムを閉じた状態で露出させることができる。このとき、抽出面がフレーム側となるようにフィルムは底板上に載置される。また、フレームの底板側の空洞内はすべてフィルムによって覆われるようにフレームは載置される。
【0043】
また、このとき、底板とフレームとの密着性をよくするために底板にゴム板やシリコーンゴム板を敷くことも好ましくおこなわれる。
【0044】
次に、フレーム2の空洞内に溶媒8がピペット6等により注入される(図6(b))。本発明にあっては、フレームの空洞内に入れる溶媒量はフレームの中のフィルム全面にいきわたる最低量を入れることが好ましい。使用する溶媒は目的とする表面成分を溶解するものから選択される。
【0045】
フレーム2内に溶媒8を注入した後は、一定時間保持される(図6(c))。保持する間は、溶媒の蒸発を防ぐことを目的として、フレームの上板側の空洞のうち上板で覆われていない部分を蓋7で覆うことが好ましい。フレーム内に注入する溶媒として揮発性が高い溶媒を用いる場合には、フレームの内に溶媒を入れたら、溶媒の揮発を防ぐことを目的としてすばやく蓋7で覆うことが好ましい。蓋7は板で覆われていない部分すべてを覆うことが好ましく、蓋7とフレーム2の間はできるだけ隙間が無いほうが好ましい。
【0046】
一定時間経過後、フレーム内の溶媒はピペット6等により回収される(図6(d))。抽出された溶媒はフィルム中の特定成分Aが抽出された溶媒となる。本発明の深さ方向分析方法にあっては、上記抽出作業を、溶媒もしくは抽出時間を変化させて複数回おこない、抽出された溶媒についてクロマトグラフィーによる定量分析をおこない、フィルム中の成分Aの深さ方向における情報を得ることができる。
【0047】
フィルムの表面成分が抽出された溶媒は、クロマトグラフィーにより定量分析をおこない、成分量m、mを求めることができる。クロマトグラフィーとしては、定量する表面成分の種類に合わせてガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフを選択して用いる。
特定成分A由来のピークの面積値から成分量m、mを求めることができる。成分量が微量な場合は特にこれらに質量分析計の付いたガスクロマトグラフ/質量分析装置または液体クロマトグラフ/質量分析装置を用いることが好ましい。
【0048】
フィルムの一方の面について抽出した溶媒を用い、クロマトグラフィーにより求めた特定面積S、Sでの特定成分Aの成分量m、mからは、フィルムの深さ方向における特定成分Aの挙動を求めることができる。
【0049】
このとき、本発明の深さ方向分析方法を用いてフィルム由来の成分の分析をおこなうことにより、抽出時間TとTを分析深さに換算することも可能である。例えば、ポリオレフィン系フィルムを用いた際に、ポリオレフィン系フィルム由来の炭化水素由来の成分について本発明の深さ方向分析をおこなうことにより、抽出時間TとTを分析深さに換算することも可能である。また、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5未満である溶媒と、フィルムの溶解度パラメーターとの差が1.5以上である溶媒を用いて成分量m、mを求め、差し引くことにより、表面を除いたフィルム内部での特定成分Aの挙動を分析することができる。成分量m、mの差を求めることにより、ある特定深さ領域の特定成分Aの存在量を見積もることも可能である。また、溶媒の種類および抽出時間TとTを変化させて複数回測定をおこないグラフ化することもフィルムの深さ方向における特定成分の挙動を分析する上で有効である。
【実施例】
【0050】
以下に具体的実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限られるものではない。
【0051】
<実施例1>
滑剤としてエルカ酸アミドが300ppm含有した溶解度パラメーター7.9のポリエチレンフィルム(厚み50μm)を20cm角に切り取った。図1〜図6に示したステンレスからなる抽出装置を用い、支柱を備える底板の上に乗せ、ステンレス製のフレームをその上に置き、ステンレス製の上板をさらに乗せ、ナットを締め上げて上板を押し付けてフィルムとフレームを固定させた。このとき、フレーム内の空洞の面積が100cmである正方形状のフレームを用いた。フレーム内に溶解度パラメーター9.3のクロロホルムを10ml流し入れ、すばやくガラス製の蓋をフレームの上に置いて1分間静置させた。1分後、クロロホルム液をピペットにより回収し、ガスクロマトグラフ/質量分析計(Agilent製)に注入し、分析を行った。分析条件は注入量1μl、スプリットレス注入、SCAN測定を行った。得られたクロマトグラムからポリエチレンフィルム由来ピークであるテトラヘキサデカンピークのピーク面積を記録した。同様の工程を抽出時間を30秒、2分、3分と変えておこない、ピーク面積を記録した。次に、20cm角の同フィルムを密閉容器に入れ、クロロホルムを10ml加え密閉し、50℃に加熱して6時間浸とうさせた。6時間後、クロロホルム液をピペットにより回収し、ガスクロマトグラフ/質量分析計(Agilent製)に注入し、分析をおこなった。分析条件は注入量1μl、スプリットレス注入、SCAN測定でおこなった。得られたクロマトグラムからポリエチレンフィルム由来ピークであるテトラヘキサデカンピークのピーク面積を記録した。先に求めた各抽出時間におけるピーク面積との比率にフィルムの厚み50μmを掛け合わせ、それを各抽出時間におけるクロロホルムで抽出可能なフィルム深さとした。抽出時間とクロロホルムで抽出可能なフィルム深さの関係を表1に示す。
【0052】
滑剤としてエルカ酸アミドが300ppm含有した溶解度パラメーター7.9のポリエチレンフィルム(厚み50μm)を20cm角に切り取り、ステンレスからなり支柱を備える底板の上に乗せ、ステンレス製のフレームをその上に置き、ステンレス製の上板をさらに乗せ、ナットを締め上げて上板を押し付けてフィルムとフレームを固定させた。このとき、フレーム内の空洞の面積が100cmである正方形状のフレームを用いた。フレーム内に溶解度パラメーター12.7のエタノールを10ml流し入れ、すばやくガラス製の蓋をフレームの上に置いて1分間静置させた。1分後、エタノール液をピペットにより回収し、ガスクロマトグラフ/質量分析計(Agilent製)に注入し、分析を行った。分析条件は注入量1μl、スプリットレス注入、SIM測定で行い、指定イオンはm/z=59、72、337とした。また、エルカ酸アミド試薬(東京化成工業)を3水準の濃度でクロロホルムにてエルカ酸アミド標準液を調整した。m/z=59のイオンクロマトグラムよりピーク面積を求め、検量線を作成した。この検量線を用いて、抽出液のピーク面積より濃度を算出し、さらにはフレーム内の面積を用いてフィルム1mあたりのエルカ酸アミドの重量に換算した。
同様の工程を、溶解度パラメーター9.3のクロロホルムにて抽出時間を30秒、1分、2分、3分としておこない、それぞれの抽出時間におけるフィルム1mあたりのエルカ酸アミドの重量を求めた。得られた結果を表2に示す。またフィルム深さとエルカ酸アミドの定量結果についてグラフ化したものを図7に示す。さらにクロロホルムを用いて各抽出時間抽出した時のエルカ酸アミドの定量結果からエタノールを用いて抽出した時のエルカ酸アミドの定量結果を引いた値とフィルム深さの関係を表3および図8に示す。
【0053】
<実施例2>
外面から、PET(膜厚15μm)/接着剤(ポリエステル系)/ポリエチレン(エルカ酸アミド初期添加量300ppm、膜厚50μm)の積層フィルムにおいて25℃環境下で保管した積層フィルムを(実施例1)と同様の抽出装置を用いてポリエチレン側を露出させ、エタノール1分、クロロホルム30秒、1分、2分、3分間抽出をおこない、抽出液の濃度を上記と同様の方法で算出し、フィルム1m2あたりのエルカ酸アミド重量に換算した。得られた結果を表2に示す。またフィルム深さと定量結果についてグラフ化したものを図7に示す。さらにクロロホルムを用いて各抽出時間抽出した時の定量結果からエタノールを用いて抽出した時の定量結果を引いた値とフィルム深さの関係を表3および図8に示す。
【0054】
<実施例3>
外面から、PET(膜厚15μm)/接着剤(ポリエステル系)/ポリエチレン(エルカ酸アミド初期添加量300ppm、膜厚50μm)の積層フィルムにおいて60℃環境下で保管した積層フィルムを(実施例1)と同様の抽出装置を用いてポリエチレン側を露出させ、エタノール1分、クロロホルム30秒、1分、2分、3分間抽出をおこない、抽出液の濃度を上記と同様の方法で算出し、フィルム1mあたりのエルカ酸アミド重量に換算した。得られた結果を表2に示す。またフィルム深さと定量結果についてグラフ化したものを図7に示す。さらにクロロホルムを用いて各抽出時間抽出した時の定量結果からエタノールを用いて抽出した時の定量結果を引いた値とフィルム深さの関係を表3および図8に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
(実施例1)の表1の結果より、クロロホルム30秒抽出ではフィルム深さ約10μm、1分間では約20μm、2分間では約30μm、3分間約40μmまでエルカ酸アミドを抽出できることが示された。この結果を用いると、ポリエチレンフィルム(エルカ酸アミド300ppm、膜厚50μm)を25℃に保管したものについては、エルカ酸アミドはフィルム内部ではエルカ酸アミドがほぼ深さ方向にほぼ均一に存在していることが図7、図8より示された。また、(実施例2)では(実施例1)で用いたポリエチレンフィルムが接着剤によってPETフィルムと積層されているが、接着剤を用いて積層されることでポリエチレン表面に存在していたエルカ酸アミドは単一のポリエチレンフィルムの時より減少していることがわかり、(実施例1)の場合に比べフィルム深さが深くなるに従い、すなわち接着剤層側に近づくに従い若干の偏りが生じていることが図7、図8より示された。(実施例3)ではさらに(実施例2)のフィルムを加温しており、ポリエチレン表面にはエルカ酸アミドはほとんど存在していないことが図7、図8より示された。さらに(実施例3)の場合は、図7、図8からも明らかな通りフィルム表面から20μmまでの間にはエルカ酸アミドはほとんど存在せず、接着剤層側に近くなると急に存在量が多くなっていることが示された。以上のように、本発明の深さ方向分析方法を用いれば、フィルム表面と内部に存在するエルカ酸アミドの量が区別可能であり、さらにフィルムの深さ方向のエルカ酸アミドの定量が可能となり、フィルムの温度や接着剤層の有無によりエルカ酸アミドのフィルム中での深さ方向での分布が異なることが明らかにすることが可能であり、フィルム中の滑剤の深さ方向での挙動解明が可能となる。
【符号の説明】
【0059】
1 底板
2 フレーム
3 上板
41 支柱
42 ナット
5 フィルム
6 ピペット
7 蓋
8 溶媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの特定成分の成分量を深さ方向に分析する深さ方向分析方法であって、
フィルム表面の特定面積について第1の溶媒を接触させる工程と、
時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、
前記回収した溶媒についてクロマトグラフィー分析をおこない、特定成分の成分量を求める工程と、
フィルム表面の特定面積Sについて第2の溶媒を接触させる工程と、
時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程と、
前記回収した溶媒についてクロマトグラフィー分析をおこない、特定成分の成分量を求める工程とを備え、且つ、
少なくとも第1の溶媒と第2の溶媒の溶解度パラメーターが異なる、または、時間Tと時間Tが異なる
ことを特徴とする深さ方向分析方法。
【請求項2】
前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の少なくとも一方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることを特徴とする請求項1記載の深さ方向分析方法。
【請求項3】
前記フィルムの溶解度パラメーターと前記第1の溶媒もしくは前記第2の溶媒の一方の溶解度パラメーターの差が1.5以上であり、他方の溶解度パラメーターの差が1.5未満であることを特徴とする請求項1記載または請求項2に記載の深さ方向分析方法。
【請求項4】
前記フィルムがポリオレフィン系フィルムであり、前記特定成分Aが滑剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の深さ方向分析方法。
【請求項5】
前記フィルム表面の特定面積について第1の溶媒を接触させる工程及び前記時間T経過後に前記第1の溶媒を回収する工程と、前記フィルム表面の特定面積について第2の溶媒を接触させる工程と前記時間T経過後に前記第2の溶媒を回収する工程が、
底板と、
該底板の表面に前記フィルムを挟んだ状態で設置され、前記空洞を有し、空洞内でフィルムを露出させることのできるフレームと、
前記フレームの上部の一部を覆うことができる上板とを順に備え、且つ、
前記底板と前記フレームの底面を密着させるための固定化手段を前記底板と前記上板の間に備える抽出装置によりおこなわれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の深さ方向分析方法。
【請求項6】
前記抽出装置が、前記底板が支柱を備え、前記上板が該支柱を貫通する穴を備え、前記底板の支柱が前記上板の穴を貫通し、ナットにより底板と上板を固定することを特徴とする請求項5に記載の深さ方向分析方法。
【請求項7】
前記抽出装置が、前記フレームの上板側の空洞のうち、上板の覆われていない部分を覆うことのできる蓋を備えることを特徴とする請求項5または請求項6記載の深さ方向分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−203891(P2010−203891A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49134(P2009−49134)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】