説明

深層曝気装置

【課題】簡単な構成で、排気装置のホースと絡むことなく、ホースが水面に露出するという問題を生じずに、余剰空気を効率よく排気する、深層曝気装置を提供する。
【解決手段】本発明の深層曝気装置は、水中に浸漬して自立可能な装置本体と、この装置本体に設けられた装置本体内のエアーを排出する排気管とを備える、深層曝気装置であって、前記装置本体の上部と前記装置本体外部とを連通する1以上の流路を備え、この流路の一端は、前記装置本体の上部のエアー層に面し、他端は通常使用時における反転水面より低い位置に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湖沼やダムなどの水源貯水池、港湾などの水域における水層部の水質を改善するために用いる深層曝気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8は、従来の深層曝気装置1を示す概念図である(例えば、特許文献1参照)。深層曝気装置1は、ダム湖などの湖沼2に係留させて、湖沼付近の深層の水をエアーレーションにより循環(矢印a参照)させる装置である。
【0003】
前記深層曝気装置1は、湖底1にシンカー16で係留された状態で、フロート3の浮力により起立状態に保持される装置本体4を備えている。図8に示すように、深層曝気装置1では、コンプレッサーから送気ホース5を介して送り込まれた圧縮空気は、装置本体4底部に設けられた散気管6を経て細かい気泡となり、装置内筒7を上昇する。この気泡の上昇と共に、深層部の水も、上昇する(矢印b)。この際に、気泡中の酸素が深層水に溶解する。酸素が溶解した深層水は、装置外筒8を下降して、内筒7と外筒8との間に設けられた出口9から深層部に戻る(矢印c)。この操作を繰り返すことで、嫌気化している深層水を好気化し、底生生物(ベントス)の生育を促すと共に、深層水中の還元菌の活動を抑制し、硫化水素の発生を抑えることができる。
【0004】
一方、送り込んだ空気のうち、溶解されない余剰空気は、装置本体4上部のエアー溜め室10に溜まる。この余剰空気は、装置本体4上部に設けた排気装置11により放出される。排気装置11は、水面に浮上する排気フロート12に排気ホース13が繋がれているまた、排気ホース13には、排気量を制限し、装置内の上部に水面を保つ必要から、排気弁14が設けられている。
【0005】
前記装置本体4内のエアー溜め室10には、反転水面L2が設定される。反転水面L2が低すぎると、溶存酸素量を上げた水が反転できないので、深層に排水できなくなる恐れがある。一方、反転水面L2が高すぎると、溶存酸素量を上げた水が排気ホース12から排気弁14を介して水面L1に排水される恐れがある。この反転水面L2の設定は、圧縮空気の圧力と排気弁14とを調整することによって行う。
【0006】
しかし、排気弁14に異物が詰まったり、排気ホース12が絡まったり、キンク(kink)したりして、排気不能になった場合、余剰空気を排出できず、装置本体4内に余剰空気が蓄積され、装置本体4が突然浮き上がることになる。
【0007】
これらの問題を解決するために、図8に示すように緊急排気ホース15を設けることが行われている。緊急排気ホース15は、通常状態では作動しない。装置1内の余剰空気が一定以上に蓄積されると、緊急排気ホース15を介して排気される。緊急排気ホース15は、出口端を大気面に露出させ、他端を装置1上部に接合させて、装置1本体を水面下に水没させる。このため、緊急装置11が大掛かりになる、排気装置11の排気ホース13と緊急排気ホース15とが絡み排気し難くなるという問題がある。また、貯水量が減少した場合に、ホースが水面に露出したり、浮遊したりする。この場合に、緊急排気ホース15が水面の浮遊異物により損傷するという問題がある。
【0008】
また、本発明者らは余剰空気を有効に利用するために、浅層散気装置を開発している(例えば、特許文献2参照)。しかし、この場合にも、緊急排気ホースには、上記と同じ問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−314173号公報
【特許文献2】特開2007−229662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、余剰空気の排気装置に不具合が生じた場合に、簡単な構成で、排気装置のホースと絡むことなく、ホースが水面に浮遊、露出するという問題を生じずに、緊急かつ確実に余剰空気を排気することができる、深層曝気装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、水中に浸漬して自立可能な装置本体と、この装置本体に設けられた装置本体内のエアーを排出する排気管とを備える、深層曝気装置であって、前記装置本体の上部と前記装置本体外部とを連通する1以上の流路を備え、この流路の一端は、前記装置本体の上部のエアー層に面し、他端は通常使用時における反転水面より低い位置に設けられているという簡単な構成で、排気装置のホースと絡むことなく、強制排気ホースが水面に露出しない深層曝気装置が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
上記流路は、装置本体に取り付けられていてもよく、あるいは装置本体の一部であってもよい。
【0013】
前記流路は、装置本体内に設けられていてもよく、装置本体外に設けられていてもよく、あるいは装置本体内から装置本体外に渡って設けられていてもよい。
【0014】
前記流路は、チャンバ箱を介して連結されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の深層曝気装置では、前記装置本体の上部と前記装置本体外部とを連通する1以上の流路を備える。この流路の一端は、前記装置本体の上部のエアー層に面し、他端は通常使用時における反転水面より低い位置に設けられている。このように、本発明の排気路の構成は簡易である。また、この構成により、装置内で、排気路の出口より低い位置まで余剰空気が増加した場合に、余剰空気を効率よく排出することができる。また、ホースの出口を水面上まで設ける必要がないので、排気装置のホースと絡むという問題を生じない。
【0016】
また、本発明の深層曝気装置において水面に通ずる排気ホースを有する構造のものでは、緊急排気時に排出された空気は、水泡となって水中を上昇する。このため、水面を観察し水泡が観察されれば、深層曝気装置内で余剰空気が多量に発生していることが容易に把握できる。これにより、装置に何らかの異常が生じていることが把握できる。すなわち、本発明の深層曝気装置では、特に検知手段を設けなくても、装置内に多量の余剰空気が発生したことを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、流路を設ける本発明の深層曝気装置の一例を示す要部断面図である。
【図2】図2は、本発明の流路の機能を説明するための図である。
【図3】図3は、本発明の深層曝気装置において流路の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。
【図7】図7は、本発明の深層曝気装置において装置の外筒が流路を構成する一例を示す図である。
【図8】図8は、従来の深層曝気装置1を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら、詳細に説明する。図1は、流路を設ける本発明の深層曝気装置21の一例を示す要部断面図である。この図の例では、水中に浸漬して自立可能な装置本体24に、装置本体内のエアーを排出する排気管23と、前記装置本体24の上部と前記装置本体24外部とを連通する1以上の流路25とを備える。また、他の構成については、図7に記載のものと同一である。本発明では、この流路を用いて、排気管内で排気障害を生じた場合に、緊急排気を行う。
【0019】
上記流路24の一端26は、前記装置本体24の上部のエアー層30に面して、他端27は通常使用時における反転水面L2より低い位置に設けられている。多管構造の深層曝気装置22では、装置の中心部の管または周縁部に導入された水は内筒28から外筒29あるいは外筒29から内筒28に反転しながら移動する。この図の例では、装置の中心部の管に導入された水は内筒27から外筒28に反転しながら移動する。
【0020】
また、水と空気とを効率よく混合するために、装置下部から圧縮空気が導入される。混合水を効率よく反転させるため、装置本体24の上部にエアー層30を形成させる。上記流路25の一端26は、前記装置本体24の上部のエアー層30に面する。エアー層24と水層との境目に反転水面L2が形成される。上記流路25の他端27は、通常使用時における反転水面L2より低い位置に設けられている。反転水面L2の位置は、装置本体24内のエアーを排出する排気管23の先端に設けたバルブ22の調整により排気されるエアーの圧力と供給する圧縮空気の圧力とを調整して、装置本体24内の適切な位置に決定する。例えば、反転水位L2の位置が高い場合、排気管23から水が排出される、この場合、空気の供給量を増やして、反転水位L2の位置を下げる。一方、反転水位L2の位置が低い場合は、流路25から空気が排出される。空気の排出は、水面から水泡が発生していることを観察する。この場合、空気の供給量を減らして、反転水位L2の位置を上げる。この反転水位L2の位置は、排気装置に設けられた制御バルブ22により制御する。
【0021】
本発明では、本発明の流路25の他端27から空気が流出しない限り、装置内部の反転水面L2の水位と流路25の他端27から流路25に浸入した水の水位がほぼ同じであることを用いる。図2は、本発明の流路の機能を説明するための図である。図2(a)は、流路を設ける深層曝気装置において正常運転時の状態を示す図である。この図の例では、正常運転時における反転水面L2の水位と流路25の他端27から流路25に浸入した水の水位L3は、ほぼ同じである。図2(b)は、排出路がキンクなどして排気障害を起こし始めた状態を示す図である。図2(b)に示すように、装置本体24内のエアー層30が増加し、反転水面L2の水位が下がると共に、流路他端27から流路25に浸入した水の水位L3も下がる。この図の例では、L2とL3の水位は、図2(a)の場合より低いが、ほぼ同じである。図2(c)に示すように、排気障害がさらに進行し、装置内の余剰空気が更に増加して反転水面L2の水位が流路の他端27の開口部より下まで下がると、流路の他端27から余剰空気が排出される。流路の他端27からの余剰空気は、反転水面L2の水位が少なくとも流路の他端27の開口部まで上昇するまで排出される。その後、排出障害が解消され、正常運転されるようになると、反転水面L2の水位と流路の他端27から流路25に浸入した水の水位L3は図2(a)の状態に戻る。
【0022】
本発明において、流路25の一端26は、装置本体24の上面または上側部に設けられている。流路25の一端26は、初期設定時または正常運転時に、余剰空気が存在する部位に開口している。流路25の他端27は、初期設定時または正常運転時に、反転水面L2より下になる位置より下で、エアー層10に余剰空気が溜まり過ぎて深層曝気装置22が浮上などを起こさない部位に開口している。したがって、流路25の他端27は、装置本体24で流路25の一端26が設けられる位置より、低い位置に設けられる。流路25の一端26および他端27を設ける位置は、曝気装置の大きさ(容積、装置全体の高さ、内筒の高さ、内径など)や処理量に応じて、任意に設定することができる。
【0023】
本発明において、流路25が上記機能を奏するものであれば、流路の形状や構造、個数などに特に制限はない。流路25は、装置本体24の外側または内側に付設させてもよく、装置本体24の一部が流路25を構成するものであってもよい。
【0024】
流路は、ホース状、パイプ状、ダクト状などの管状物を装置本体に設けてもよい。図3は、本発明の深層曝気装置において流路の一例を示す図である。この図の例では、ホース状、パイプ状、ダクト状などの管状物を装置本体の外側に設けるものである。図3(a)に示すように、ホース状のように可撓性の管状物を設ける場合は、装置本体の壁面に固定することとしてもよい。また、この図の例以外に、装置本体の上部または上側部に孔を開け、この孔にパイプなどを固定することとしてもよい。
【0025】
図4は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。この図の例では、ホース状、パイプ状、ダクト状などの管状物を装置本体の内側に設けるものである。図4(a)の例に示すように、装置本体24の上側部に孔を開け、屈曲した管状物を取り付けた形態にしてもよい。また、図4(b)の例に示すように、装置本体24の上側部に複数の孔を開け、分岐管を有する管状物で、孔間を連結する形態としてもよい。この場合、分岐管は、エアー層内に開口している。
【0026】
図5は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。図5の例では、上記流路は、壁面に部材を固定して管状構造を形成させている。図5の例では、半円柱の部材を装置内壁に固定して流路を形成する。壁面に固定する部材としては、例えば、半円柱、半角柱(V字状、コの字状など)、U字状柱などの半管を用いる。
【0027】
図6は、本発明の深層曝気装置において流路の別の一例を示す図である。上記流路は、連続した環状物や半管でなくてもよい。例えば、図6に示すように複数の管状物や半管をコネクタなどのチャンバ箱31で連結してもよい。
【0028】
図7は、装置の外筒が流路を構成する一例を示す図である。この図の例では、装置本体24の外筒28を上部28aとそれ以外の部材28bで形成する。外筒28の上部28aの内径は、それ以外の部材28bの外径より大きく、外筒28の上部28aとそれ以外の部材28bとは、嵌合する。例えば、外筒28の上部28aとそれ以外の部材28bとの両者を嵌合する際に、1以上の流路が得られるように、外筒28の上部28aの内面またはそれ以外の部材28bの外面に溝部を形成しておく。接合の方法は、水底に設置し使用する場合に安全に使用することができる強度が得られるものであれば、公知の方法でよい。この例による流路は、装置本体の上部とそれ以外の部材との間の空間で形成される。
【0029】
本発明において、装置本体24の上部と前記装置本体外部とを連通する流路25は、過剰空気を有効に排出することができるものであれば、1以上設ければよい。流路25が管状構造の場合は、流路25は複数で構成されていてもよい。流路が複数であると、1の流路が何らかの理由で閉塞しても、過剰空気を排出することができる。また、装置本体の周囲に複数の流路を均等に設置することで、バランスよく過剰空気を排出することができる。
【0030】
本発明において、流路を設ける深層曝気装置は、図1に示す例に限られず、装置本体上部にエアー層が形成されるものに広く適用することができる。また、例えば、公知の緊急排気ホースを設けた深層曝気装置の緊急排気ホースを除去した後の孔に本発明にかかる流路を設けることもできる。また、公知の深層曝気装置に、本発明にかかる流路を設けることもできる。例えば、特開2007−229662号公報や特開2011−98265号公報に記載されている浅層曝気装置に、さらに本発明にかかる流路を設けてもよい。2重管構造に限らず、装置本体上部に余剰空気が溜まる構造の深層曝気装置であれば、その構造に関係なく適用することができる。例えば、特開2003−220396号公報に記載される単管構造であってもよく、装置が多重管構造を有するものであってもよい。すなわち、本発明にかかる流路を設ける深層曝気装置は、装置内でエアー層を形成する方式のものであれば、全ての方式の深層曝気装置に適用することができる。
【0031】
本発明の深層曝気装置を用いれば、簡単な構成で効率よく余剰空気を排出することができる。また、外部に設ける流路がないか、あっても極めて短い。この結果。従来の緊急排気ホースを用いる場合のように、緊急排気ホースが固着などにより機能しなくなるという問題を生じない。また、湖沼などの水位が下がった場合でも、調整の必要はない。
【符号の説明】
【0032】
1 深層曝気装置
2 湖底
3 フロート
4 装置本体
5 送気ホース
6 散気管
7 内筒
8 外筒
9 出口
10 エアー溜め室
11 排気装置
12 排気フロート
13 排気ホース
14 排気弁
15 緊急排気ホース
16 シンカー
21 深層曝気装置
23 排気管
24 装置本体
25 流路
26 一端
27 他端
28 内筒
29 外筒
30 エアー層
31 チャンバ箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中に浸漬して自立可能な装置本体と、この装置本体に設けられた装置本体内のエアーを排出する排気管とを備える、深層曝気装置であって、
前記装置本体の上部と前記装置本体外部とを連通する1以上の流路を備え、この流路の一端は、前記装置本体の上部のエアー層に面し、他端は通常使用時における反転水面より低い位置に設けられている、深層曝気装置。
【請求項2】
前記流路は、装置本体に取り付けられている、あるいは装置本体の一部である、請求項1記載の深層曝気装置。
【請求項3】
前記流路は、装置本体内に設けられている、装置本体外に設けられている、あるいは装置本体内から装置本体外に渡って設けられている、請求項1または2記載の深層曝気装置。
【請求項4】
前記流路は、チャンバ箱を介して連結されている、請求項1〜3のいずれかに記載の深層曝気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−86056(P2013−86056A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230880(P2011−230880)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(504024597)独立行政法人水資源機構 (15)
【出願人】(591073337)株式会社丸島アクアシステム (58)
【Fターム(参考)】