説明

深絞り成形用熱収縮性多層フィルム及びその製造方法

【課題】高湿度下におけるガスバリア性を有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを提供すること。
【解決手段】塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、ポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えており、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深絞り成形用の蓋材、底材等として有用な深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、延伸収縮性の多層フィルムは生肉、畜肉加工品、魚、チーズ、スープ類といった食品包装に広く用いられている。これらの内容物の包装方法として、バッグ又はパウチの袋に内容物を充填包装する方法、縦ピロー・横ピロー包装機械にて製袋直後のフィルムに充填包装する方法、深絞り成形により充填包装する方法等が一般的に行われている。
【0003】
ここで、生肉包装の場合、その多くはバッグ充填包装されており、このようなバック充填包装としては、手作業にて生肉をバッグ内に充填し、真空チャンバー内にて減圧(真空)脱気した後に、開口部をシールし包装体を得るという方法が行われている。このような一連の充填包装方法は充填速度が遅く、経済的な観点から充填速度の増速が求められていた。
【0004】
一方、前記バッグ充填包装に比べて充填速度が速い深絞り包装には、未延伸、非収縮性の多層フィルムが用いられており、特に、ハム、焼豚、ベーコンといった異形な内容物を充填包装した場合、フィルムの収縮性が乏しいために包装体に皺が入り易く、内容物とのフィット性に欠け内容物の液汁が溜り易くなるという欠点がある。また、フィルムの収縮性が乏しいためにフィルムの密着性が悪くなり、内容物の保存性が悪くなるという欠点もある。
【0005】
これらの問題を解決するために、特表2003−535733号公報(特許文献1)には、熱可塑性樹脂からなる表面層(a)、ポリアミド系樹脂からなる中間層(b)、およびシール可能な樹脂からなる表面層(c)の少なくとも3層からなり、−10℃における厚さ50μm換算における衝撃エネルギーが1.5ジュール以上である延伸配向多層フィルムが開示されており、明細書中において、PET/mod−VL/Ny/EVOH/mod−VL/LLDPE樹脂構成からなる収縮性多層フィルムの深絞り包装が記載されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の収縮性多層フィルムにおいては、内容物の保存性に関連する酸素ガスバリア性を有するNy及びEVOHは湿度依存性を有しており、特に高湿度下における酸素ガス透過度が高値となるために、高湿度下での酸素ガスバリア性に劣るという点において必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2003−535733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高湿度下における高ガスバリア性を有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲である深絞り成形用熱収縮性多層フィルムが、高湿度下における高ガスバリア性を有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、ポリオレフィン系樹脂である第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層を更に備えており、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも5℃以上低い融点を有するシーラント樹脂(d)からなる内層を更に備えることが好ましい。
【0012】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記ポリオレフィン系樹脂が、前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも10℃以上高い融点を有するものである。
【0013】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記第一の熱可塑性樹脂(b)が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、溶融された、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)、第一の熱可塑性樹脂(b)、およびポリオレフィン系樹脂の少なくとも3種の樹脂を管状に共押出しして塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり且つポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えている管状体を形成し、該管状体を縦方向に引出しつつ縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成し、該二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行うと同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和処理を施すことによって得られるものであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、前記シーラント樹脂(d)が、ポリエチレン単独重合体、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレン単独重合体、ポリプロピレン共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において100cm/m・day・atm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の深絞り成形用底材フィルムは、前記深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の深絞り成形用蓋材フィルムは、前記深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ5〜35%の範囲であることを特徴とするものである。
【0019】
本発明の深絞り成形用フィルムキットは、前記深絞り成形用底材フィルムと前記深絞り成形用蓋材フィルムとからなることを特徴とするものである。
【0020】
本発明の深絞り包装体は、前記深絞り成形用底材フィルムと、前記深絞り成形用蓋材フィルムとを備えることを特徴とするものである。
【0021】
本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、溶融された、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)、第一の熱可塑性樹脂(b)、およびポリオレフィン系樹脂の少なくとも3種の樹脂を管状に共押出しして塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり且つポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えている管状体を形成する工程と、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向(管状体の流れ方向)に引出しつつ縦方向及び横方向(管状体の円周方向)にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、
前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和(弛緩)処理する工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高湿度下における高ガスバリア性を有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0024】
先ず、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムについて説明する。すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とするものである。また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムにおいては、第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層と、シーラント樹脂(d)からなる内層とを更に備えることが好ましい。
【0025】
(塩化ビニリデン共重合体樹脂)
本発明で使用する塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)(以下、場合によってはPVDC樹脂という)は、塩化ビニリデン60〜98質量%と、前記塩化ビニリデンと共重合可能な他の単量体2〜40質量%との共重合により得られる共重合体を含有する樹脂である。
【0026】
このように塩化ビニリデンと共重合可能な単量体(共単量体)としては、例えば、塩化ビニル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ラウリル等のアクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ラウリル等のメタクリル酸アルキルエステル(アルキル基の炭素数1〜18);アクリロニトリル等のシアン化ビニル;スチレン等の芳香族ビニル;酢酸ビニル等の炭素数1〜18の脂肪族カルボン酸のビニルエステル;炭素数1〜18のアルキルビニルエーテル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のビニル重合性不飽和カルボン酸のアルキルエステル(部分エステルを含み、アルキル基の炭素数1〜18)を挙げることができる。これらの共単量体は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0027】
また、これらの共単量体の中でも、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸ラウリルを用いることが好ましい。なお、これらの共単量体の共重合割合は、好ましくは3〜35質量%、より好ましくは3〜25質量%、特に好ましくは4〜20質量%の範囲である。共単量体の共重合割合が前記下限未満では、内部可塑化が不十分となって、溶融加工性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガスバリア性が低下する傾向にある。
【0028】
本発明で使用するPVDC樹脂の還元粘度〔ηsp/C;単位=l/g〕は、フィルムに成形する場合の溶融加工性、延伸加工性、包装機械適性、耐寒性等の観点から、好ましくは0.035〜0.070、より好ましくは0.040〜0.067、特に好ましくは0.045〜0.063である。PVDC樹脂の還元粘度が前記下限未満では、延伸加工性が低下し、二軸延伸フィルムの力学的性質も低下する傾向にある。他方、前記上限を超えると、溶融加工性が低下し、また着色傾向にあり透明性が損なわれる傾向にある。なお、本発明においては、還元粘度が異なる2種以上のPVDC樹脂を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明で使用するPVDC樹脂は、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等の任意の重合法により合成することができるが、粉体レジンとしてコンパウンドを形成する場合には、懸濁重合法により合成することが好ましい。このように懸濁重合法により合成した場合には、PVDC樹脂からなる粉体レジンの粒度を調整するための粉砕工程を必要としない傾向にある。このようなPVDC樹脂からなる粉体レジンの粒度は、40〜600μmの範囲であることが好ましく、50〜500μmの範囲であることがより好ましい。なお、粉体レジンの粒度は、例えば、標準篩いを用いた乾式篩い分け法により測定することができる。
【0030】
このようなPVDC樹脂には、必要に応じて、ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、ポリエチレン(低密度、高密度)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン共重合体等の他の樹脂を含有させることができる。また、このようなアクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルは、アルキル基の炭素数1〜18のアルキルエステルであることが好ましい。なお、これらのその他の樹脂を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。
【0031】
さらに、このようなPVDC樹脂には、必要に応じて、熱安定剤、可塑剤、加工助剤、着色剤等の各種添加剤を更に含有させることができる。これらの各種添加剤は、懸濁重合法による粉体レジン製造時に、前記単量体組成物中に含有させてもよい。このように懸濁重合法による粉体レジン製造時に添加剤各種を粉体レジンに添加すると、粉体レジン製造時の温度条件下で、液体の添加剤は粉体レジンに吸収され、固体の添加剤は粉体レジンの表面に付着する傾向にある。
【0032】
前記熱安定剤としては、例えば、エポキシ化植物油、エポキシ化動物油、エポキシ化脂肪酸エステル、エポキシ樹脂プレポリマー等のエポキシ化合物;エポキシ基含有樹脂を挙げることができる。これらの熱安定剤は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。本発明にかかるPVDC樹脂にこのような熱安定剤を添加することにより、PVDC樹脂コンパウンドの熱安定性を改善することができる傾向にある。
【0033】
また、エポキシ化植物油及びエポキシ化動物油としては、不飽和結合を有する天然の動植物油を過酸化水素や過酢酸等でエポキシ化することにより、二重結合をオキシラン環に変性したものを用いることができる。エポキシ化植物油としては、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等が好ましい。エポキシ化脂肪酸エステルとしては、エポキシ化ステアリン酸オクチル等の不飽和脂肪酸エステルのエポキシ化物が挙げられる。エポキシ樹脂プレポリマーとしては、ビスフェノールAグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0034】
さらに、エポキシ基含有樹脂としては、少なくとも1つのエポキシ基を含有する樹脂であればよく特に限定されないが、例えば、グリシジル基含有アクリル樹脂及びグリシジル基含有メタクリル樹脂を用いることが好ましい。これらのグリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルを共重合成分として含有する共重合体が好ましい。グリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、ビニル重合可能な不飽和有機酸のグリシジルエステルと、グリシジル基を含有しないアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステル、並びにこれらの単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体が好ましい。
【0035】
また、グリシジル基含有アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂としては、例えば、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−メタクリル酸メチル−スチレン共重合体、メタクリル酸グリシジル−塩化ビニル共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸エチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−アクリル酸ブチル共重合体、メタクリル酸グリシジル−塩化ビニリデン共重合体が挙げられる。
【0036】
これらの熱安定剤の中でも、食品包装材料の分野においては、エポキシ化植物油を用いることが好ましい。エポキシ化植物油等の熱安定剤は、その使用量の一部をPVDC樹脂の重合工程で単量体組成物中に含有させて粉体レジンを調製し、コンパウンド調製時に、その残量を粉体レジンに添加することができる。さらに、使用する熱安定剤の全量を重合時に添加してもよく、あるいはコンパウンド調製時に粉体レジンとブレンドしてもよい。
【0037】
これらの熱安定剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.05〜6質量部の範囲であることが好ましく、0.08〜5質量部の範囲であることがより好ましく、0.1〜4質量部の範囲であることが特に好ましい。熱安定剤の添加量が前記下限未満では、PVDC樹脂コンパウンドの熱安定性を十分に改善することができず、成形加工が困難になるとともに、黒化の原因となる傾向にある。他方、前記上限を超えると、二軸延伸フィルムのガスバリア性や耐寒性が低下したり、フィッシュアイの原因となったりする傾向にある。
【0038】
前記可塑剤としては、例えば、ジオクチルフタレート、アセチルクエン酸トリブチル、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、アセチル化モノグリセライド、アセチル化ジグリセライド、アセチル化トリグリセライド、及びそれらの2〜3つを含むアセチル化グリセライド類、アジピン酸と1,3−ブタンジオール、アジピン酸と1,4−ブタンジオール、及びこれらの2種以上の混合物等のポリエステル可塑剤が挙げられる。これらの可塑剤は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0039】
これらの可塑剤は、PVDC樹脂の重合工程において、生成するPVDC樹脂の粉体レジン中に含有させるか、PVDC樹脂の粉体レジンとブレンドするか、あるいはこれらを組み合わせた方法により、PVDC樹脂コンパウンド中に含有させることができる。また、可塑剤をPVDC樹脂の重合工程において生成する粉体レジン中に含有させるには、塩化ビニリデンとそれと共重合可能な他の単量体とを可塑剤の存在下に共重合するか、あるいは共重合後に可塑剤を添加して、PVDC樹脂の粉体レジンを製造することができる。さらに、重合工程で可塑剤をPVDC樹脂の粉体レジン中に含有させ、ブレンド時に必要に応じて追加の可塑剤をブレンドすることができる。また、使用する可塑剤の全量を重合時に添加してもよく、あるいはコンパウンド調製時に粉体レジンとブレンドしてもよい。
【0040】
このような可塑剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.05〜10質量部の範囲であることが好ましく、0.1〜5質量部の範囲であることがより好ましい。可塑剤の添加量が前記下限未満では、可塑化効果が乏しく、溶融押出加工が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガスバリア性が劣化する傾向にあるためである。
【0041】
前記加工助剤としては、例えば、二酸化珪素(シリカ)、炭酸カルシウム等の無機粉体が挙げられる。これらの加工助剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.001〜1質量部の範囲であることが好ましく、0.03〜0.8質量部の範囲であることがより好ましく、0.01〜0.5質量部の範囲であることが特に好ましい。
【0042】
前記着色剤としては、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系等の有機顔料;酸化チタン、アルミニウム系、マイカ、カーボンブラック等の無機顔料;炭酸カルシウム、酸化マグネシウム等の体質顔料が挙げられる。これらの中でも、魚肉ソーセージや畜肉加工品等の加工食品の包装材料の分野では、ピグメントレッド等の赤色顔料が好適に用いられる。これらの着色剤は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。これらの着色剤を使用する場合には、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.001〜3質量部の範囲であることが好ましく、0.05〜2質量部の範囲であることがより好ましい。また、着色剤として酸化チタンを用いる場合には、PVDC樹脂100質量部に対して、10質量部まで添加することができる。
【0043】
本発明に使用するPVDC樹脂には、必要に応じて、その他の安定剤、紫外線吸収剤、pH調整剤等を更に含有させることができる。
【0044】
前記その他の安定剤としては、リノール酸カルシウム、カルシウムヒドロキシホスフェート、クエン酸、エチレンジアミン四酢酸塩類等が挙げられ、必要に応じて適量を用いることができる。
【0045】
前記紫外線吸収剤としては、2−(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられ、必要に応じて適量を用いることができる。
【0046】
前記pH調整剤としては、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム等が挙げられる。これらのpH調整剤を使用する場合は、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、0.5質量部以下であることが好ましい。なお、これらのpH調整剤は、通常、PVDC樹脂の重合時に用いられる。
【0047】
前記分散助剤としては、例えば、グリセリンやプロピレングリコール類;脂肪族炭化水素系又は芳香族炭化水素系のオリゴマーやポリマーが挙げられる。これらの中でも、炭素数が2〜8の脂肪族炭化水素オリゴマーが好ましく、質量平均分子量が300〜5000の液状の脂肪族炭化水素オリゴマーが特に好ましく用いられる。これらの分散助剤は、無機添加剤や有機顔料の分散性の向上、飛散防止の作用を有するとともに、溶融加工温度を下げる作用も有する。これらの分散助剤を使用する場合は、添加量がPVDC樹脂100質量部に対して、2質量部以下であることが好ましい。
【0048】
(第一の熱可塑性樹脂)
本発明で使用する第一の熱可塑性樹脂(b)としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂を挙げることができる。
【0049】
これらの第一の熱可塑性樹脂(b)の中でも、前述した塩化ビニリデン共重合体樹脂の強度等を補うことができるという観点から、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。このようなポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン6/66、ナイロン6/69、ナイロン6/610、ナイロン6/12等の脂肪族ポリアミド共重合体を挙げることができる。これらの中でも、ナイロン6/66やナイロン6/12が成形加工性の点で特に好ましい。これらの脂肪族ポリアミド共重合体は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0050】
また、このようなポリアミド系樹脂としては、これらの脂肪族ポリアミド(共)重合体を主体とし、芳香族ポリアミドとのブレンド物も用いてもよい。このような芳香族ポリアミドとは、ジアミン及びジカルボン酸の少なくとも一方が芳香族単位有するものをいい、その例としては、ナイロン66/610/MXD6(ここで「MXD6」はポリメタキシリレンアジパミドを示す)、ナイロン66/69/6I、ナイロン6/6I、ナイロン66/6I、ナイロン6I/6T(ここで「ナイロン6I」はポリヘキサメチレンイソフタラミド、「ナイロン6T」はポリヘキサメチレンテレフタラミドを示す)等が挙げられる。
【0051】
これらのポリアミド系樹脂は、単独で又は2種以上を混合して、融点が160〜200℃となるものが好ましく用いられる。さらに、これらのポリアミド系樹脂には、マレイン酸等の酸又はこれらの無水物によって変成されたオレフィン系樹脂、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びそのケン化物等の熱可塑性樹脂を30質量%程度まで含有させることができる。
【0052】
(第二の熱可塑性樹脂)
本発明で使用する第二の熱可塑性樹脂(c)は、前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも10℃以上高い融点を有するものである。このような第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層を更に備えることにより、得られる深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの耐熱性が向上するため、ヒートシールを行う際のシールバーへの粘着、包装体の皺伸ばしを目的とする熱収縮処理や包装体のボイルクッキングの行う際の粘着を防止できる。そして、このような第二の熱可塑性樹脂(c)としては、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂を挙げることができる。これらの第二の熱可塑性樹脂の中でも、透明性、表面硬度、印刷性、耐熱性等の表面特性に優れるという観点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリエステル系樹脂が特に好ましい。
【0053】
(シーラント樹脂)
本発明で使用するシーラント樹脂(d)は、前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも5℃以上低い融点を有するものである。このようなシーラント樹脂(d)の融点が前記上限を超えると、ヒートシールを行う際にシールバーへの粘着が生じやすくなる。そして、このようなシーラント樹脂(d)としては、90〜250℃の範囲において適当なシール強度を有するものを挙げることができる。また、このようなシーラント樹脂(d)としては、例えば、ポリエチレンの単独重合体もしくは共重合体、ポリプロピレンの単独重合体もしくは共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーを挙げることができる。これらのシーラント樹脂(d)は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0054】
また、本発明においては、隣接する樹脂層との接着性の観点から、前記シーラント樹脂(d)に接着性樹脂(e)を3〜30質量%の範囲で混合して用いることが好ましい。
【0055】
(接着性樹脂)
本発明で使用する接着性樹脂(e)としては、エチレン系共重合体又はその酸変性物が用いられ、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー等のエチレン系共重合体、及びこれらのマレイン酸、フマル酸、アクリル酸等の不飽和カルボン酸又は酸無水物による変性物を挙げることができる。これらの接着性樹脂(e)は、1種のものを単独で用いても、2種以上のものを混合して用いてもよい。
【0056】
また、これらの接着性樹脂(e)の中でも、酢酸ビニル含量が10〜28質量%のエチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル酸エステル含量が10〜28質量%のエチレン−アクリル酸エステル共重合体、又はこれらの不飽和カルボン酸もしくは酸無水物による変性物を用いることが好ましい。
【0057】
(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)
本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムは、前述した塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、前述した第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなるフィルムである。そして、本発明の収縮性多層フィルムにおいては、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることが必要である。熱水収縮率が3%未満であると内容物とのタイトフィット性が悪くなり、他方、35%を超えると延伸後の非晶部の配向が緩められていないために深絞り性が悪くなる。なお、熱水収縮率は後述する実施例で説明する通りの方法で測定した値である。
【0058】
また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることが好ましい。熱水収縮率が上記下限未満では、熱水収縮時において絞り部の内容物へのフィット性が不足し、さらにはシール部における収縮が不足する傾向にあり、他方、上記上限を超えると、包装された内容物の角が潰れやすくなり、場合によってはシール部が収縮応力により剥がれてしまう傾向にある。さらに、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ5〜35%の範囲であることが好ましい。熱水収縮率が上記下限未満では、蓋材の内容物に対するフィット性が不足し、しわが発生しやすくなる傾向にあり、他方、上記上限を超えると熱水収縮時において蓋材に底材側が引っ張られるためにつっぱり皺が生じやすく、さらには内容物へのフィット性が不足する傾向にある。
【0059】
さらに、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、フィルムの厚みが60〜150μmの範囲であることが好ましい。フィルムの厚みが60μm未満では、強度やガスバリア性が不満足となる傾向にある。他方、150μmを超えると、フィルム製造時のインフレーション延伸における内圧が高くなり、製膜が難しくなる傾向にある。また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、フィルムの厚みが30〜90μmの範囲であることが好ましい。フィルムの厚みが30μm未満では、強度、ガスバリア性等が不満足となる傾向にある。他方、90μmを超えると、包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。また、蓋材はフラット状に成形もしくは浅絞り成形され用いられることになるため、厚みが90μm以下でも十分な強度、ガスバリア性等が保持される傾向にある。
【0060】
なお、本発明においては、このような底材フィルムとこのような蓋材フィルムとを組み合わせて深絞り成形用フィルムキットとして使用することができる。そして、このような深絞り成形用フィルムキットを用いると、高湿度条件においても長期間の保管が可能な深絞り包装体を得ることができる。
【0061】
また、本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムは、前述した塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、前述した第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなるフィルムであるが、前述したシーラント樹脂(d)からなる内層を更に備えることが好ましい。また、本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、前記第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が外層であってもよいが、前記第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が外層ではなく、前述した第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層を更に備えていてもよい。さらに、上記各層の層間の接着性の観点から、上記各層の他に接着性樹脂(e)からなる接着剤層を備えていてもよい。ここで、本発明の深絞り成形用収縮性多層フィルムの積層態様の例を示す。ただし、これらはあくまでも例示であって、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
1:(b)/(e)/(a)/(e)/(d)、
2:(b)/(e)/(a)/(e)/(b)/(e)/(d)、
3:(c)/(e)/(a)/(e)/(b)/(e)/(d)、
4:(c)/(e)/(b)/(e)/(a)/(e)/(d)。
【0062】
このような塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の厚さとしては、中間層の厚みが1〜20μmであることが好ましい。中間層の厚みが前記下限未満では、高ガスバリア性の機能が得られない傾向にあると共に、押出し加工、製膜時における膜厚みのコントロールが難しくなる傾向にある。他方、前記上限を超えると、得られるフィルムの剛性が増加し過ぎる傾向にあると共に包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。なお、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用いる場合には、中間層の厚みが2〜20μmであることが好ましく、2〜15μmであることがより好ましく、2〜10μmであることが特に好ましい。また、本発明の収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いる場合には、中間層の厚みが1〜10μmであることが好ましい。
【0063】
また、このような第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層の厚さとしては、樹脂層の厚みが5〜40μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。樹脂層の厚みが前記下限未満では、包装体の強度が不足する傾向にある。他方、前記上限を超えると、フィルムが硬すぎるために延伸性が悪くなる傾向にある。
【0064】
さらに、このような第二の熱可塑性樹脂(c)からなる外層の厚さとしては、外層の厚みが1〜20μmであることが好ましく、1〜10μmであることがより好ましい。外層の厚みが前記下限未満では、包装体の強度が不足する傾向にある。他方、前記上限を超えると、フィルムが硬すぎるために延伸性が悪くなる傾向にある。
【0065】
また、このようなシーラント樹脂(d)からなる内層の厚さとしては、内層の厚みが10〜120μmであることが好ましく、10〜80μmであることがより好ましい。内層の厚みが前記下限未満では、十分なシール強度が得られない傾向にある。他方、前記上限を超えると、包装体の強度が不足すると共にフィルムの透明性が悪くなる傾向にある。
【0066】
さらに、このような接着性樹脂(e)からなる接着剤層の厚さとしては、接着剤層の厚みが1〜10μmであることが好ましく、1〜5μmであることがより好ましい。接着剤層の厚みが前記下限未満では、十分な接着力が得られない傾向にある。他方、前記上限を超えても、それ以上の接着力の向上は見込めず、さらには包装資材の廃棄量が増える等の経済的な不利益となる傾向にある。
【0067】
このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において100cm/m・day・atm以下であることが好ましく、80cm/m・day・atm以下であることがより好ましく、更に好ましくは50cm/m・day・atm以下であることが特に好ましい。酸素ガス透過度が前記上限を超えると、内容物が酸化し易い生肉等の食品を包装した場合、包装体の保存時に赤味が無くなる等の劣化が起こる傾向にある。
【0068】
また、このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、透湿度(WVTR)が、温度40℃、90%RHの条件下において20g/m・day以下であることが目減りの点で好ましい。透湿度(WVTR)が20g/m・dayを超えると、包装体の内容物の水分が透過して蒸散し易くなり、包装体の質量である賞味量が保持できなくなる傾向にある。
【0069】
さらに、このような深絞り成形用収縮性多層フィルムにおいては、ヘイズ値(曇価)が10%以下であることが好ましい。ヘイズ値が前記上限を超えると、包装体の内容物の形状、色相等を目視により判断するができない傾向にある。
【0070】
(深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法)
次いで、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法について説明する。すなわち、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、溶融された少なくとも2種の樹脂を管状に共押出しして管状体を形成し、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向(管状体の流れ方向)に引出しつつ縦方向及び横方向(管状体の円周方向)にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成し、
次いで、前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和(弛緩)処理することによって、
前述した本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを得る方法である。
【0071】
本発明においては、包装用のフィルムに要求される諸特性の改善を実現するという観点から、延伸倍率が縦方向及び横方向(MD/TDの各方向)において、それぞれ2.5〜4倍であることが好ましい。延伸倍率が2.5未満では、熱処理後に必要なフィルムの熱収縮性が得られず、またフィルムの偏肉も大きくなり、包装適性が得られ難い傾向がある。
【0072】
また、本発明においては、緩和熱処理条件である熱処理温度が60〜95℃の範囲であることが好ましい。熱処理温度が60℃未満では熱処理時の緩和がとり難くなる傾向にあり、他方、95℃を超えるとバブルが蛇行し不安定となる傾向にある。さらに、本発明においては、緩和率が10〜35%の範囲であることが好ましい。緩和率が10%未満では深絞り適正が不満足となる傾向にあり、他方、35%を超えると緩和後のバブルが不安定となり、幅斑を起こし安定製造が出来なくなる傾向にある。
【0073】
また、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、延伸前又は延伸後に電子線等で架橋することにより、延伸前であれば延伸性がより改善され、延伸後を含め強度、耐熱性が向上することは周知の如くであり、本発明もこれらの架橋を行ってもよい。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例において使用した塩化ビニリデン共重合体樹脂1(PVDC1)、塩化ビニリデン共重合体樹脂2(PVDC2)樹脂、及び変性エチレンエチルアクリレート共重合体樹脂(M−EEA)は、以下説明する調製例1〜3で得られた樹脂をそれぞれ用いた。また、実施例及び比較例において使用した樹脂を、その略号とともに下記表1にまとめて示す。さらに、実施例及び比較例における熱収縮性多層フィルムの製造条件を下記表2にまとめて示す。
【0075】
(調製例1)
共重合割合(モノマー質量比:VD/VC)が71/29の塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合樹脂((株)クレハ製、融点:145℃、還元粘度:0.058、溶融粘度:891Pa・sec(at175℃))100質量部に、エポキシ化大豆油2質量部、及びジブチルセバケート1質量部を添加した後に、周知のハネブレンダーを用いて混合して塩化ビニリデン共重合体樹脂1(PVDC1)を得た。
【0076】
(調製例2)
共重合割合(モノマー質量比:VD/VC)が80/20の塩化ビニリデン−塩化ビニル共重合樹脂((株)クレハ製、融点:164℃、還元粘度:0.058)100質量部に、エポキシ化亜麻仁油2質量部、ジブチルセバケート3質量部、シリカ0.2質量部、及び酸化ポリエチレンワックス0.1質量部を添加した後に、周知のハネブレンダーを用いて混合して塩化ビニリデン共重合体樹脂2(PVDC2)を得た。
【0077】
(調製例3)
撹拌機、温度調節器及び冷却器を備えたフラスコを用いて、エチレンエチルアクリレート共重合体樹脂(DPDJ−6128K、日本ユニカー(株)製、エチルアクリレート(EA)含量:15質量%、ビカット軟化点:61℃、MFR:1.5g/10min)に無水マレイン酸と炭酸マグネシウムとを反応せしめて、無水マレイン酸含量が0.5質量%であり且つMg含量が0.4質量%である変性エチレンエチルアクリレート共重合体樹脂(M−EEA)を得た。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
(実施例1)
先ず、積層態様が外側から内側へ順に且つかっこ内に示す厚み比で、VLDPE(34)/EEA(3)/PVDC1(10)/EEA(3)/IO(40)となるように、各樹脂を複数の押出機でそれぞれ溶融押出しし、溶融された樹脂を環状ダイに導入し、ここで上記層構成となるように溶融接合し、共押出し加工を行った。ダイ出口から流出した温度180℃の溶融環状体を水浴中で、10〜25℃に冷却し、扁平幅約200mmの環状体とした。次に、得られた扁平環状体を約90℃温水中を通過させながら加熱した後、バブル形状の管状体とし15℃〜20℃エアリングで冷却しながらインフレーション法により縦方向(MD)に2.8倍、横方向(TD)に2.8倍の延伸倍率で同時二軸延伸した。次いで、得られた二軸延伸フィルムを円筒状の熱処理筒中に導き、バブル形状フィルムとし、熱処理緩和温度90℃にて縦方向(MD)に20%、横方向(TD)に20%弛緩させながら約2秒間緩和熱処理を行い、二軸延伸フィルム(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)を得た。得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの厚みは90μmであった。
【0081】
(実施例2〜8、比較例1〜2)
フィルムの樹脂構成及び製造条件をそれぞれ表2に記載の通り変更した以外は実施例1と同様にして、二軸延伸フィルム(深絞り成形用熱収縮性多層フィルム)を得た(実施例2〜8、比較例2)。なお、比較例1については実施例1と同様な樹脂構成とし、ダイレクトインフレーション法にて未延伸多層フィルムを作成した。
【0082】
得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの厚みは、それぞれ45μm(実施例2)90μm(実施例3)、40μm(実施例4)、90μm(実施例5)、90μm(実施例6)、40μm(実施例7)、90μm(実施例8)、90μm(比較例1)、90μm(比較例2)であった。
【0083】
<深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの諸特性の評価>
(I)評価方法
以下の方法によって、熱収縮性多層フィルムの諸特性を評価又は測定した。
【0084】
(1)熱水収縮率
得られた深絞り成形用熱水収縮性多層フィルムの機械方向(縦方向、MD)及び機械方向に垂直な方向(横方向、TD)に10cmの距離で印を付けたフィルム試料を、90℃に調整した熱水に10秒間浸漬した後、取り出し、直ちに常温の水で冷却した。その後、印をつけた距離を測定し、10cmからの減少値の原長10cmに対する割合を百分率で表示した。1試料について5回試験をおこない、縦方向及び横方向のそれぞれについての平均値を熱水収縮率として表示した。
【0085】
(2)透明性(ヘイズ値)
JIS K−7105に記載された方法に準拠して、測定装置としては日本電色工業社製の曇り度計NDH−Σ80を使用して、フィルム試料の曇り度(ヘイズ;%)を測定した。なお、ヘイズ値は値が小さくなるほど、透明性が優れることを意味し、数値が大きくなるほど、透明性が悪くなることを意味する。
【0086】
(3)フィルム引張強度
測定装置としてTENSILON RTC−1210型(オリエンテック社製)を用いて、巾10mm、長さ50mmの短冊状のフィルム試料を温度23℃にて、クロスヘッド速度200mm/minで伸張させ、フィルム試料が破断した時の応力(引張強度)を測定した。
【0087】
(4)ガスバリア性
(i)酸素ガス透過度(OTR)
JIS K−7126に記載された方法に準拠して、温度23℃、100%RHの条件下において、モダンコントロール社製オキシトラン(OX−TRAN2/20)を用いて測定した。
(ii)透湿度(WVTR)
JIS Z−0208に記載された方法に準拠して、カップ法にて温度40℃、90%RHの条件下において測定した。
【0088】
(5)深絞り適性
大森機械社製の深絞り成形機(FV603型)を用い、絞り金型100φの円筒型(絞り成形温度:90℃)にて、面積絞り比を3倍でフィルム試料を絞り成形した。そして、フィルム試料の状態を目視にて観察して、以下の基準で評価した。
○:正常に絞り成形できた。
△:金型より浅い絞り形状となった。
×:絞り成形出来ない、もしくはフィルムが破断した。
【0089】
(II)評価結果
実施例1〜8、比較例1〜2で得られた各深絞り成形用熱収縮性多層フィルムについて、深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの諸特性を、上記の方法で評価又は測定した。得られた結果を表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示した結果から明らかなように、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、高湿度下における高ガスバリア性を有し、且つ、優れた深絞り適性を有すると共に収縮による内容物とのタイトフィット性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルムであることが確認された。
【0092】
(実施例9〜11及び比較例3)
実施例1及び3で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用い、実施例2及び4で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いて、深絞り成形用フィルムキット(実施例9、10)とした。また、実施例6で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルムとして用い、実施例7で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用蓋材フィルムとして用いて、深絞り成形用フィルムキット(実施例11)とした。一方、比較例1で得られた深絞り成形用熱収縮性多層フィルムを深絞り成形用底材フィルム及び深絞り成形用蓋材フィルムとして用いて、比較用の深絞り成形用フィルムキット(比較例3)とした。
【0093】
(I)深絞り成形用フィルムキットの評価方法及び評価結果
深絞り成形用フィルムキット(実施例9〜11及び比較例3)を用いて、ムルチバック社製成形機(R250)にて深絞り成形(金型:113×167×60mm)し、ブロックハム400gを充填して包装し、90℃、10秒、熱水中で収縮させて試験サンプルを得た。得られた試験サンプルの外観を観察したところ、本発明の深絞り成形用フィルムキット(実施例9〜11)を用いると、フィルムの熱収縮性から内容物にタイトフィットし、張りのある包装体が得られることが確認された。一方、比較用の深絞り成形用フィルムキット(比較例3)を用いると、包装体に皺が多く入り、フィルムに張りがなく、タイトフィット性が不満足であった。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上説明したように、本発明によれば、高湿度下における高ガスバリア性を有し、且つ、収縮による内容物とのタイトフィット性、及び優れた深絞り適性を有する深絞り成形用熱収縮性多層フィルム、並びにその深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法を提供することが可能となる。
【0095】
したがって、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムは、深絞り成形用の蓋材、底材等として有用である。そして、本発明の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法は、深絞り成形用の蓋材、底材等を製造する技術として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に、第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり、ポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えており、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項2】
前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも5℃以上低い融点を有するシーラント樹脂(d)からなる内層を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂が、前記第一の熱可塑性樹脂(b)の融点よりも10℃以上高い融点を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項4】
前記第一の熱可塑性樹脂(b)が、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂からなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項5】
前記シーラント樹脂(d)が、ポリエチレン単独重合体、ポリエチレン共重合体、ポリプロピレン単独重合体、ポリプロピレン共重合体、エチレン系共重合体、及びアイオノマーからなる群から選択される少なくとも一種の樹脂であることを特徴とする請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項6】
溶融された、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)、第一の熱可塑性樹脂(b)、およびポリオレフィン系樹脂の少なくとも3種の樹脂を管状に共押出しして塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり且つポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えている管状体を形成し、該管状体を縦方向に引出しつつ縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成し、該二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行うと同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和処理を施すことによって得られることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項7】
酸素ガス透過度が、温度23℃、100%RHの条件下において100cm/m・day・atm以下であることを特徴とする請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルム。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ3〜20%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用底材フィルム。
【請求項9】
請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムからなり、温度90℃における縦方向及び横方向の熱水収縮率がそれぞれ5〜35%の範囲であることを特徴とする深絞り成形用蓋材フィルム。
【請求項10】
請求項8に記載の深絞り成形用底材フィルムと請求項9に記載の深絞り成形用蓋材フィルムとからなることを特徴とする深絞り成形用フィルムキット。
【請求項11】
請求項8に記載の深絞り成形用底材フィルムと、請求項9に記載の深絞り成形用蓋材フィルムとを備えることを特徴とする深絞り包装体。
【請求項12】
溶融された、塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)、第一の熱可塑性樹脂(b)、およびポリオレフィン系樹脂の少なくとも3種の樹脂を管状に共押出しして塩化ビニリデン共重合体樹脂(a)からなる中間層の少なくとも片面に第一の熱可塑性樹脂(b)からなる樹脂層が積層されてなり且つポリオレフィン系樹脂からなる外層を更に備えている管状体を形成する工程と、
前記管状体を前記樹脂の融点未満に水冷却し、その後前記管状体を前記樹脂の融点以上の温度に再加熱し、前記管状体の内部に流体を入れながら管状体を縦方向に引出しつつ縦方向及び横方向にそれぞれ2.5〜4倍に延伸して二軸延伸フィルムを形成する工程と、
前記二軸延伸フィルムを折り畳み、その後前記二軸延伸フィルムの内部に流体を入れながら、前記二軸延伸フィルムの外表面側から60〜95℃のスチームもしくは温水にて熱処理を行い、前記熱処理と同時に縦方向及び横方向にそれぞれ10〜35%緩和処理する工程と、
を含むことを特徴とする請求項1〜7のうちのいずれか一項に記載の深絞り成形用熱収縮性多層フィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−101552(P2012−101552A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−289660(P2011−289660)
【出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【分割の表示】特願2007−84633(P2007−84633)の分割
【原出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】