説明

深絞り用積層体及び深絞り容器

【課題】基材層に二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用い,バリア層にアルミ箔を用いても,深絞り加工時に品質的に問題となる割れが発生しない深絞り用積層体を提供する。
【解決手段】本発明に係わる深絞り用積層体は,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた基材層10と,Feの含有量が0.7%以上で,光、酸素、水素、水蒸気を遮断するAl−Fe系アルミ合金箔を用いたバリア層11と,熱融着可能なフィルムを用いたヒートシール層12が,外層から内層に向かって積層され,各層は接着剤を介して接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,レトルト食品を包装するレトルト容器などの製造に利用される深絞り用積層体に係わる。
【背景技術】
【0002】
複数種のフィルムが積層された積層体を深絞り成形で製造される深絞り容器が,レトルト食品を包装するレトルト容器などに幅広く利用されている。深絞り成形においては,該積層体を伸ばし,真空や空圧などを利用して該積層体を所定の金型に密着させ,所定の形状の深絞り容器が製造される。
【0003】
従来,深絞り容器の製造には,アルミ箔をプラスチックフィルムで挟んだ深絞り用積層体が利用されているが,コストダウンを図るために,深絞り用積層体に利用するアルミ箔の厚さを30μm〜50μm程度の厚さに薄くすると,深絞り成形時に,品質的に問題となる割れがアルミ箔に発生してしまう問題があった。
【0004】
深絞り用積層体に利用するアルミ箔の厚さを30μm〜50μm程度の厚さに薄くしても,深絞り成形時にアルミ箔の割れが発生しない発明として,例えば,特許文献1において,炭酸カルシウムのような無機フィラーを混入した150μm〜300μmのプラスチックシートをヒートシール層に,40μm〜50μmのアルミ箔をバリア層に,バランス型ポリプロピレンフィルムを基材層に用いた発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平6−002367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,深絞り容器の要求仕様に応じて深絞り用積層体の基材層は決定しなければならず,深絞り容器の要求仕様として,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを深絞り用積層体の基材層に,汎用的なヒートシート性のあるフィルムをヒートシール層に利用する場合,深絞り成形時に品質的に問題となる割れが,バリア層に用いるアルミ箔に発生してしまい,深絞り容器の製造が困難であった。
【0007】
そこで,本発明は,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを深絞り用積層体の基材層に,汎用的なヒートシート性のあるフィルムをヒートシール層に利用する場合でも,深絞り成形時に品質的に問題となる割れが,バリア層に用いるアルミ箔に発生しない深絞り用積層体及び深絞り容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する第1の発明は,外層から内層に向かって,基材層,バリア層及びヒートシール層が積層され,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを前記基材層に用い,Al−Fe系アルミ合金箔を前記バリア層に用いたことを特徴とする深絞り用積層体である。
【0009】
Al−Fe系のアルミ合金箔は,純アルミニウム箔よりも伸び易いため,Al−Fe系アルミ合金箔をバリア層に用いると,前記基材層に二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた場合であっても,深絞り成形時に品質的に問題となる割れが前記バリア層に発生しなくなる。なお,前記基材層に用いられるAl−Fe系アルミ合金箔には,Al,Fe以外の金属が含まれていても良い。
【0010】
更に,第2の発明は,Feの含有量が0.7%以上のAl―Fe系アルミ合金箔を前記バリア層に用いたことを特徴とする,第1の発明に記載の深絞り用積層体である。
【0011】
Feの含有量が0.7%以上になると,Al−Feアルミ合金箔は伸び易くなるため,JISの合金番号8079,8021に準拠したAl−Fe系アルミ合金箔のように,アルミ箔としての機能が失われない範囲でFeの含有量が0.7%以上のAl―Fe系アルミ合金箔を前記バリア層に用いることが好適である。
【0012】
更に,第3の発明は,120℃におけるMD方向及びTD方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを前記基材層に用いたことを特徴とする,第1の発明又は第2の発明に記載の深絞り用積層体である。
【0013】
120℃におけるMD方向及びTD方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは加熱時に伸び易いため,該二軸延伸ポリプロピレンフィルムを前記基材層に用いると,前記バリア層のAl―Fe系アルミ合金箔に発生する割れの防止効果を高めることができ好適である。
【0014】
更に,第4の発明は,Al―Fe系アルミ合金箔とナイロンフィルムを前記バリア層に用いたことを特徴とする,第1の発明から第3の発明のいずれか一つに記載の深絞り用積層体である。
【0015】
第4の発明のように,Al−Fe系のアルミ合金箔とナイロンフィルムを前記バリア層に用いることで,深絞り成形時にAl−Fe系アルミ合金箔に小さな割れが発生しても,内容物の品質を保護することができるようになる。
【0016】
更に,第5の発明は,第1の発明から第4の発明のいずれか一つに記載の深絞り用積層体を深絞り成形して製造した深絞り容器である。
【発明の効果】
【0017】
上述した本発明によれば,本発明は,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを深絞り用積層体の基材層に,汎用的なヒートシート性のあるフィルムをヒートシール層に利用する場合でも,深絞り成形時に品質的に問題となる割れが,バリア層に用いるアルミ箔に発生しない深絞り用積層体及び深絞り容器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係わる深絞り用積層体の基本積層構造を説明する図。
【図2】実施例の深絞り用積層体の積層構造を説明する図。
【図3】実施例の深絞り用積層体の破断伸長をグラフ化した図。
【図4】深絞り容器の一例を示した第1図。
【図5】深絞り容器の一例を示した第2図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
ここから,本願発明の実施形態について,本願発明の技術分野に係わる当業者が,本願発明の内容を理解し,本願発明を実施できる程度に説明する。
【0020】
図1は,本発明に係わる深絞り用積層体の基本積層構造を説明する図である。図1で図示した深絞り用積層体1の基本積層構造は,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた基材層10と,光、酸素、水素、水蒸気を遮断するAl−Fe系アルミ合金箔を用いたバリア層11と,熱融着可能なフィルムを用いたヒートシール層12が,外層から内層に向かって積層され,各層は接着剤を介して接着されている。
【0021】
図1に図示したように,バリア層11にAl−Fe系のアルミ合金箔を用いると,Al−Fe系アルミ合金箔は純アルミニウム箔よりも伸び易いため,基材層10に二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた場合であっても,深絞り成形時に発生し,品質的に問題となるアルミ箔の割れを防止できる。
【0022】
特に,アルミ箔としての機能が失われない範囲でFeの含有量が0.7%以上のAl―Fe系アルミ合金箔は,他のAl−Fe系のアルミ合金箔よりも伸び易いため,このようなAl−Feアルミ合金箔をバリア層11に用いることが好適である。
【0023】
アルミ箔としての機能が失われない範囲でFeの含有量が0.7%以上のAl―Fe系アルミ合金箔としては,Feの含有量が0.7〜1.3%であるJISの合金番号8079に準拠したAl−Feアルミ合金箔や,Feの含有量が1.2〜1.7%であるJISの
合金番号8021に準拠したAl−Feアルミ合金箔を利用できる。
【0024】
また,図1において,二軸延伸ポリプロピレンフィルムとしては,120℃におけるMD(MD: Machine Direction)方向及びTD(TD: Transverse Direction)方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムが好適で,このような二軸延伸ポリプロピレンフィルムとしてはサントックス社製「MF20」が市販されている。
【0025】
120℃におけるMD方向及びTD方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムは,加熱したときに他の二軸延伸ポリプロピレンフィルムよりも伸び易いため,Al−Fe系アルミ合金箔の割れの防止効果を高められる。
【0026】
なお,深絞り成形時にAl−Fe系アルミ合金箔に割れが発生しても,バリア性を維持できるように,深絞り用積層体のバリア層11に,Al−Fe系アルミ合金箔とナイロンフィルムを用いることが好ましい。
【実施例】
【0027】
次に,本発明に係わる深絞り用積層体の実施例及び比較例を示しながら,本発明に係わる深絞り用積層体の特性について説明する。
【0028】
図2は,実施例における深絞り用積層体2の積層構造を示した図である。図2に図示したように,実施例の深絞り用積層体2は,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いた基材層20と,Al−Fe系アルミ合金箔とナイロンフィルムをウレタン系接着剤で接着したバリア層21と,無軸延伸ポリプロピレンフィルムを用いたヒートシール層22それぞれを,ウレタン系接着剤を用いて接着して製造され,グラビア印刷,フレキソ印刷,オフセット印刷などで,基材層20として用いられる二軸延伸ポリプロピレンフィルムに所定の絵柄が印刷されることで,基材層20とバリア層21の間には印刷層20aが形成されている。
【0029】
(実施例1)
実施例1では,図2で図示した深絞り用積層体2において,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムに東セロ社製「ME−1」,25μmを,バリア層21のAl−Fe系アルミ合金箔に東洋アルミ社製「8079」,30μmを,バリア層21のナイロンフィルムにユニチカ社製「ONM−BRT」,15μmを,ヒートシール層22の無軸延伸ポリプロピレンフィルムに東セロ社製「RXC−21」,80μmを用い,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内層側に所定の絵柄を印刷した。
【0030】
(比較例1)
比較例1は,バリア層21のAl−Feアルミ合金箔を純アルミ箔(東洋アルミ社製「1N30」,40μm)に変更した以外,実施例1と同じである。
【0031】
実施例1と比較例1の評価として,定速伸長型破壊試験機を用い,実施例1と比較例1それぞれの破断深さを,押棒の直径が25mm,絞り速度10m/minの条件で測定した。
【0032】
実施例1と比較例1それぞれの破断深さの測定結果を表1に示す。
【表1】

【0033】
表1に示したように,実施例1は比較例1よりも破断するまでの絞り深さが深いため,実施例1は比較例1と比較して,深絞り成形時に品質的に問題となる割れがバリア部のアルミ合金箔に発生しづらいことが判明した。
【0034】
(実施例2−1)
実施例2−1では,図2で図示した深絞り用積層体2において,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムにサントックス社製「MF20」,25μmを,バリア層21のAl−Fe系アルミ合金箔に東洋アルミ社製「8079」,40μmを,バリア層21のナイロンフィルムに東洋紡社製「N1202」,15μmを,ヒートシール層22の無軸延伸ポリプロピレンフィルムに東レフィルム加工社製「ZK99S」,70μmを用い,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムの内層側に所定の絵柄を印刷した。
【0035】
(実施例2−2)
実施例2−2は,バリア層21のナイロンフィルムを東洋紡社製「NAP22」に変更した以外,実施例2−1と同様である。
【0036】
(実施例3)
実施例2−3は,バリア層21のナイロンフィルムを興人社製「ボニールW」に変更した以外,実施例2−1と同様である。
【0037】
(実施例2−4)
実施例2−4は,バリア層21のナイロンフィルムをユニチカ社製「ONM―BRT」に変更した以外,実施例2−1と同様である。
【0038】
(比較例2−1)
比較例2−1は,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを東セロ社製「ME−1」に変更した以外,実施例1と同様である。
【0039】
(比較例2−2)
比較例2−2は,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを東セロ社製「ME−1」に変更した以外,実施例2と同様である。
【0040】
(比較例2−3)
比較例3は,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを東セロ社製「ME−1」に変更した以外,実施例3と同様である。
【0041】
(比較例2−4)
比較例4は,基材層20の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを東セロ社製「ME−1」に変更した以外,実施例4と同様である。
【0042】
実施例2−1〜2−4及び比較例2−1〜2−4の破断伸長(単位はmm)の測定結果を表2に示す。なお,破断伸長の測定にはテンシロン万能試験機を用い,JIS―Z1702に準拠した試験片を用い,チャック間距離を80mm,試験速度を300m/minとして測定した。
【表2】

【0043】
図3は,表2をグラフ化した図で,図3の縦軸は破断伸長である。図3に示したように,実施例1〜4と比較例1〜4を比較すると,TD方向における破断伸長が改善され,実施例1〜4においては,深絞り用積層体2のバリア層21に利用するナイロンフィルムを変更しても,MD方向とTD方向の破断伸長のバランスが優れる(差が少ない)ため,120℃におけるMD方向及びTD方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを基材層20に用いると,それ以外の二軸延伸ポリプロピレンフィルムよりも深絞り成形適正が向上することが判明した。
【0044】
これまで説明した深絞り用積層体は,レトルト食品の深絞り容器の製造に利用される。本発明に係わる深絞り用積層体を利用して深絞り容器を製造するとき,深絞り積層体を伸ばし,空圧や真空などを利用して所定の金型に密着させ,所定の形状の深絞り容器が製造される。
【0045】
図4は,深絞り用積層体を深絞り成形して製造される深絞り容器の一例を示した第1図で,図5は第2図である。図4では,深絞り用積層体を深絞り成形して製造される深絞り容器の形状は,深絞り成形に利用される金型の形状に依存し,図4で図示した角形のレトルト容器3や,図5で図示した丸型のレトルト容器3aが広く利用されている。
【0046】
本発明に係わる深絞り用積層体として,実施例1の深絞り用積層体を用い,深さ35mmの絞り型を用いて,レトルト容器用の深絞り容器を製造した。そして,水25ccを深絞り容器に充填し,同じ深絞り用積層体などを用いて製造した蓋体を深絞り容器にシールした後に,121°で50分間加熱したが,デラミや穴あきなどの問題は発生しなかった。
【符号の説明】
【0047】
1,2 深絞り用積層体
10,20 基材層
11,21 バリア層
12,12 ヒートシール層
3a 角形のレトルト容器
3b 丸形のレトルト容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層から内層に向かって,基材層,バリア層及びヒートシール層が積層され,二軸延伸ポリプロピレンフィルムを前記基材層に用い,Al−Fe系アルミ合金箔を前記バリア層に用いたことを特徴とする深絞り用積層体。
【請求項2】
Feの含有量が0.7%以上のAl―Fe系アルミ合金箔を前記バリア層に用いたことを特徴とする,請求項1に記載の深絞り用積層体。
【請求項3】
120℃におけるMD方向及びTD方向の引張破断伸度が100%以上の二軸延伸ポリプロピレンフィルムを前記基材層に用いたことを特徴とする,請求項1又は請求項2に記載の深絞り用積層体。
【請求項4】
Al―Fe系アルミ合金箔とナイロンフィルムを前記バリア層に用いたことを特徴とする,請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の深絞り用積層体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の深絞り用積層体を深絞り成形して製造した深絞り容器。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−51120(P2011−51120A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199500(P2009−199500)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】