説明

混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法

【課題】 二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離・回収し且つ回収した二酸化炭素を液化するに際し、従来に比較して少ない動力で二酸化炭素を回収・液化する。
【解決手段】 二酸化炭素を含有する混合ガスをハイドレート生成器5に導入して、混合ガス中のハイドレートを形成することの可能な気体と水とのハイドレートを形成し、形成されたハイドレートを回収して、回収したハイドレートを分離器6にて気体と水とに分解し、分解された気体を回収することで、回収される気体中の二酸化炭素の濃度を濃化させる分離・回収工程と、該分離・回収工程で回収した、二酸化炭素を含有する気体を液化する液化工程と、を有する、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法であって、前記分離・回収工程を少なくとも混合ガスに対して1回実施し、回収される気体中の二酸化炭素の濃度が95体積%以下の段階で、回収された気体を液化装置8に供給して液化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉炉頂から排出される高炉ガスや燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を回収し且つ回収した二酸化炭素を液化する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の大気中への放出は地球温暖化の原因となることから、高炉炉頂から排出される高炉ガスや燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離・回収することが検討されており、混合ガスから二酸化炭素を分離・回収する技術としては、化学吸収法、物理吸着法、膜分離法などが開発されている。
【0003】
化学吸収法は、40℃〜50℃で二酸化炭素を吸収し、100℃〜120℃で二酸化炭素を放出するというアミンなどを吸収液として用い、該吸収液に選択的に混合ガス中の二酸化炭素を吸収させ、その後、吸収液を蒸気などで加熱することにより吸収させた二酸化炭素を放出させ、混合ガスから高純度の二酸化炭素を分離・回収する方法である。物理吸着法は、圧力変化または温度変化により吸着量が変わることを利用して混合ガス中の成分を分離・回収する方法であり、二酸化炭素の分離・回収は、圧力を加えると二酸化炭素を吸着し、減圧すると二酸化炭素を脱着するというゼオライトを利用して行われている。また、膜分離法は、物質によって透過性が異なる膜を用いて混合ガス中の特定ガス成分を分離・回収する方法であり、二酸化炭素の分離・回収には、通常、多孔質中空糸膜が用いられている。
【0004】
また、混合ガス中の二酸化炭素を低動力で分離する方法として、ハイドレートによる二酸化炭素分離方法も提案されている。例えば、特許文献1には、二酸化炭素を含有する排ガスを所定の温度に冷却する工程と、所定の温度に冷却した微細氷生成器内に水を噴霧して微細氷を生成する工程と、該微細氷と前記排ガスとをハイドレート生成器に導入して二酸化炭素ハイドレートを生成する工程と、からなる排ガス中の二酸化炭素回収方法が提案されている。尚、ハイドレートとは、水分子の作る籠の中に二酸化炭素などのガス分子を取り込んだ構造の固形水和物である。
【0005】
分離・回収された二酸化炭素は液化され、地中貯留可能な、地下約1000m付近の帯水層の地点に輸送され貯留される。この液化工程では、二酸化炭素の純度が高いほど使用動力が少なくなるために、液化時での使用動力の低減化の観点から、分離・回収される二酸化炭素は純度が高いことが要求されていた。
【0006】
しかしながら、化学吸収法及び物理吸着法は、純度の高い二酸化炭素が得られるものの、吸収剤や吸着剤の再生が必要であり、また、分離の際のエネルギー消費量も大きいことから、二酸化炭素の回収・貯留のための二酸化炭素分離・回収方法としては、必ずしも適当ではない。また、膜分離法は、分子の大きさに基づいて分離する方法であり、燃焼排ガスには窒素ガスが含まれており、窒素ガス分子及び二酸化炭素分子の大きさは同程度であることから、両者の分離は困難であり、回収された二酸化炭素の純度が低いという問題点がある。
【0007】
これに対して、ハイドレートによるガス分離方法は、混合ガス中の二酸化炭素の濃度が高い場合には少ない動力で分離できるが、混合ガス中の二酸化炭素の濃度が低い場合には、つまり、二酸化炭素の分圧が低い場合には、分離に要する圧縮機の昇圧動力が大きくなる、更には、分離に要する動力が増大するという欠点がある。また更に、混合ガスからの特定ガス成分の分離選択性が100%ではないために、高純度の分離ガスを得るには1段の分離操作では無理な場合があり、例えば、混合ガス中の二酸化炭素の濃度が24体積%の場合、濃度が98体積%の二酸化炭素を得るためには、3段のハイドレート化処理が必要となり、結果として多大な動力が必要になるという問題がある。
【0008】
つまり、二酸化炭素の濃度が20〜30体積%程度の混合ガスから95%体積%を超える純度の二酸化炭素を回収する場合には、ハイドレートによるガス分離方法も使用動力が高くなり、二酸化炭素の回収・貯留のための二酸化炭素分離・回収方法としては、必ずしも適当ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−282403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、地球環境保全の目的で、高炉ガスや燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離・回収し且つ回収した二酸化炭素を液化し、液化した二酸化炭素を地中に貯留するにあたり、従来、種々の方法で混合ガス中の二酸化炭素の分離が行われているが、高炉ガスや燃焼排ガスのような二酸化炭素濃度の低い混合ガスから二酸化炭素を分離して、高純度の二酸化炭素を回収する場合には、何れの方法を用いても多大な動力が必要であり、二酸化炭素の地中貯蔵におけるコスト上昇を招くという問題点があった。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、混合ガスに含有される二酸化炭素を地中に貯留するべく、高炉ガスや燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離・回収し且つ回収した二酸化炭素を液化するにあたり、二酸化炭素の分離・回収工程及び液化工程の双方の工程での使用動力の合計値が少なくなるように双方の工程を見直し、従来に比較して少ない動力で混合ガスから二酸化炭素を分離・回収し且つ回収した二酸化炭素を液化することのできる、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するべく、鋭意検討・研究を行った。その結果、従来、液化工程の動力コストを下げるために、混合ガスから高純度の二酸化炭素を回収しており、これが混合ガス中の二酸化炭素の地中貯蔵処理コストを高める主たる要因であることが分かった。そこで、液化工程の動力コストは上昇するものの、分離・回収工程を簡略化し、回収する二酸化炭素の純度を下げて分離・回収工程での動力コストを下げ、処理全体では動力コストを下げることを検討した。
【0013】
検討の結果、ハイドレートによる二酸化炭素分離法は、本来、動力コストが低いことからハイドレートによる分離法を利用し、従来、混合ガス中の二酸化炭素の純度を高めるために、複数段にわたって実施していたハイドレートを利用した二酸化炭素の分離・回収工程を、二酸化炭素の純度が高くならない段階で終了し、この段階で回収されたガスを液化することで、二酸化炭素の地中貯蔵処理全体での動力コストは従来に比較して低下するとの知見を得た。
【0014】
本発明は上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1) 二酸化炭素を含有する混合ガスをハイドレート生成器に導入して、混合ガス中のハイドレートを形成することの可能な気体と水とのハイドレートを形成し、次いで、形成されたハイドレートを回収して回収したハイドレートを気体と水とに分解し、分解された気体を回収することで、回収される気体中の二酸化炭素の濃度を濃化させる分離・回収工程と、該分離・回収工程で回収した、二酸化炭素を含有する気体を液化する液化工程と、を有する、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法であって、前記分離・回収工程を少なくとも前記混合ガスに対して1回実施し、回収される気体中の二酸化炭素の濃度が95体積%以下の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。
(2) 前記分離・回収工程で回収される気体中の二酸化炭素の濃度が80体積%以下の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、上記(1)に記載の混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。
(3) 前記分離・回収工程で回収される気体中の二酸化炭素の濃度が30〜70体積%の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、上記(2)に記載の混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、混合ガスから二酸化炭素を回収する際に、ハイドレートによるガス分離法を採用し、且つ、このガス分離法により回収される二酸化炭素の濃度が95体積%以下の段階で、分離・回収工程を打ち切り、回収した、二酸化炭素を含有する気体を液化するので、液化工程では使用動力が増加するものの、それ以上に分離・回収工程における使用動力が低減し、混合ガス中の二酸化炭素の地中貯蔵処理コストを従来に比較して大幅に低減することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施した二酸化炭素の回収・液化設備の全体構成の例を示す概略図である。
【図2】混合ガス中の二酸化炭素濃度と、この混合ガスから形成されるハイドレート相の二酸化炭素濃度との関係を示す図である。
【図3】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と分離・回収に要する動力との関係を示す図である。
【図4】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度とハイドレート生成器を通過するガス流量との関係を示す図である。
【図5】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と回収ガスの液化に要する動力との関係を示す図である。
【図6】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度とガスを液化する際の液化装置を通過するガス流量との関係を示す図である。
【図7】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と、分離・回収及び液化に要する動力との関係を示す図である。
【図8】ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と、ガスの分離・回収及び液化に要するコストとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。図1は、本発明を実施する際に使用した二酸化炭素の回収・液化設備の全体構成の例を示す概略図である。
【0018】
図1に示すように、本発明を実施した二酸化炭素の回収・液化設備1は、混合ガス中の二酸化炭素を水と混合して二酸化炭素のハイドレートを形成するためのハイドレート生成器5と、該ハイドレート生成器5で形成された、二酸化炭素のハイドレートを、二酸化炭素を含有する気体と水とに分解するためのハイドレート分離器6とを備えている。このハイドレート分離器6の後段には液化装置8が設置されており、ハイドレート分離器6で回収された、二酸化炭素を含有する気体は、液化装置8に導入され、液化装置8で液化されるように構成されている。また、ハイドレート生成器5の前段には圧縮機2が配置され、この圧縮機2とハイドレート生成器5との間には、第1の冷却器3及び第2の冷却器4が直列で配置されている。
【0019】
この二酸化炭素の回収・液化設備1において、圧縮機2からハイドレート分離器6までが二酸化炭素の分離・回収工程で用いる装置であり、液化装置8が二酸化炭素の液化工程で用いる装置となる。尚、混合ガスに含まれる一酸化炭素や窒素ガス、或いはメタンガスなどの炭化水素系ガスもハイドレートを形成することから、ハイドレート分離器6でハイドレートから分解された気体中には二酸化炭素以外のガス種が混合される。
【0020】
以下、このようにして構成される二酸化炭素の回収・液化設備1を用いて、二酸化炭素を含有する混合ガスから二酸化炭素を分離・回収し、且つ、液化する方法を説明する。
【0021】
製鉄所において、高炉炉頂から排出される高炉ガス、製鋼工場の転炉から排出される転炉ガス、コークス炉から排出されるコークス炉ガス、または加熱設備から排出される燃焼排ガスなどの二酸化炭素を含有する混合ガスaを圧縮機2に供給し、圧縮機2により混合ガスaを圧縮して、二酸化炭素のハイドレートの生成に必要な圧力(例えば1400kPa)まで高めた圧縮ガスbを形成する。この圧縮ガスbを、圧縮機2の後段に設けた第1の冷却器3及び第2の冷却器4に連続して導入させて、ハイドレートの生成に必要な温度(例えば5℃以下)まで冷却する。
【0022】
ここで、第1の冷却器3は、冷却用ガスとして、ハイドレート生成器5における未反応ガスcを使用しており、第1の冷却器3で圧縮ガスbと熱交換した後の未反応ガスcは、圧縮された状態を維持していることから、膨張タービン9に導入されて、膨張タービン9を駆動する。膨張タービン9の動力は、例えば圧縮機2の動力の補助や発電などに使用することができる。第2の冷却器4の冷却材としては冷却水を使用する。この冷却水は圧縮ガスbとの熱交換後に冷却装置(図示せず)により冷却され、第2の冷却器4の冷却材として循環使用される。尚、膨張タービン9は付属の装置であり、二酸化炭素の回収・液化設備1に必須の装置ではない。
【0023】
第1の冷却器3及び第2の冷却器4で、ハイドレートの生成に必要な温度まで冷却した圧縮ガスbを、第2の冷却器4の後段に設置されるハイドレート生成器5に導入し、圧縮ガス中の二酸化炭素と水とを反応させて二酸化炭素のハイドレートを形成する。ハイドレート生成器5の内部には、冷却された圧縮ガスbの温度上昇を防止するために、冷却水を冷却材とする冷却器5aが設置されている。この冷却水は圧縮ガスbとの熱交換後に冷却装置(図示せず)により冷却され、冷却器5aの冷却材として循環使用される。
【0024】
このハイドレート生成器5としては、例えば、圧縮ガスbを微細な気泡として、外表面を冷却器5aで冷却された反応管路内を通過する水の中に吹き込み、圧縮ガス中の二酸化炭素と水とを反応させる型式の装置を用いることができる。尚、前述したように、混合ガスaには一酸化炭素や窒素ガスが含まれ、更にはメタンガスなどの炭化水素系ガスも含まれる場合があり、混合ガスaに含まれるこれらのガスの一部もハイドレートを形成する。但し、二酸化炭素に比べてハイドレートの生成量が少なく、多くは未反応ガスcとしてハイドレート生成器5で分離される。未反応ガスcは、前述したように、第1の冷却器3の冷却用ガス及び膨張タービン9の駆動用ガスとして利用される。
【0025】
次いで、ハイドレート生成器5で形成されたハイドレートと水との混合体d(「ハイドレートスラリー」ともいう)を、ハイドレート生成器5の後段に連結されるハイドレート分離器6に導入する。ハイドレート分離器6に導入されたハイドレートスラリーdのうちの水分は直ちにハイドレートと分離されて循環ポンプ7を経由してハイドレート生成器5に循環され、新たなハイドレートの形成のための水分eとして供される。一方、ハイドレート分離器6に導入されたハイドレートスラリーdのうちのハイドレートは水分eが除去されて分離器6にハイドレートが蓄積される。
【0026】
ハイドレート分離器6には、海水を用いた熱交換器6aが設置されており、一般的に日本近海の海水は15℃以上であり、ハイドレート分離器6に蓄積されたハイドレートは、熱交換器6aと熱交換して昇熱され、二酸化炭素を含有する気体fと水分eとに分解される。尚、ここでは加熱媒体として海水を用いたが、温度が15℃以上であれば、河川水、工業用水、上水などを用いてもよい。水分eは循環ポンプ7を経由してハイドレート生成器5に循環され、一方、回収された二酸化炭素を含有する気体fは、次工程の液化装置8に導入される。
【0027】
液化装置8は、ハイドレートによる分離・回収工程を経なかった混合ガスaが導入されるように構成されており、回収された二酸化炭素を含有する気体fは、分離・回収工程を経なかった混合ガスaと所定量混合され、その後、液化装置8にて圧縮冷却されて液化し、液化二酸化炭素gが生成される。生成された液化二酸化炭素gは、そのまま地中に輸送されてそこで貯蔵されるか、または、一旦低温貯蔵用タンク(図示せず)に貯蔵された後に、地中に輸送されて貯蔵される。
【0028】
ハイドレートを利用して混合ガス中の二酸化炭素を分離・回収する場合、混合ガス中の二酸化炭素濃度と、この混合ガスから形成されるハイドレート相(=ハイドレートが分解して形成される気体)の二酸化炭素濃度との関係は、図2に示す関係が知られている(刊行物:「Nguyen Hong Duc,等,Centre SPIN,France,Energy Conversion and Management 2006」を参照)。図2の破線で示すように、二酸化炭素の含有量が24体積%である高炉ガスなどの混合ガスから、95体積%を超える純度の二酸化炭素をハイドレートによるガス分離法を適用して回収する場合には、回収するガス中の二酸化炭素濃度は、1段目の分離・回収で24体積%→68体積%、2段目の分離・回収で68体積%→92体積%、3段目の分離・回収で92体積%→98体積%となり、合計3段の分離・回収工程が必要になる。
【0029】
図3は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と分離・回収に要する動力との関係を示す図で、図4は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度とハイドレート生成器5を通過するガス流量との関係を示す図である。図4では、分離・回収後のCO2濃度が98体積%のときを基準(=1.0)として指数化して表示している。図3及び図4に示すように、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度が高くなるほど、分離・回収工程での所要動力及び設備コストが増大する傾向にあることが分かる。
【0030】
つまり、分離・回収工程の段数(回数)の増加に伴って使用動力は低下するものの、それぞれの分離・回収工程で動力を必要とし、高純度の二酸化炭素を得ようとするほど、使用動力は加算されて増加する。
【0031】
一方、図5は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と回収ガスの液化に要する動力との関係を示す図で、図6は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度とガスを液化する際の液化装置8を通過するガス流量との関係を示す図である。図6では、分離・回収後のCO2濃度が98体積%のときを基準(=1.0)として指数化して表示している。図5及び図6に示すように、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度が高くなるほど、液化工程での所要動力及び設備コストが低減する傾向にあることが分かる。これは、二酸化炭素濃度が高くなるほど二酸化炭素以外のガス圧縮に必要とされる動力が少なくなるためである。
【0032】
即ち、分離・回収後の二酸化炭素濃度と所要動力との関係は、分離・回収工程と液化工程とで逆の傾向を示すことから、両者を加え合わせた合計動力には、図7に示すように最少となる二酸化炭素濃度範囲が存在する。また、所要動力に設備費も加味したコストにも、図8に示すように最少となる二酸化炭素濃度範囲が存在する。尚、図7は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と、分離・回収及び液化の両工程で要する動力との関係を示す図で、図8は、ハイドレートによるガス分離法によって分離・回収されたガス中の二酸化炭素濃度と、ガスの分離・回収及び液化の両工程で要するコストとの関係を示す図である。図8では、分離・回収後のCO2濃度が98体積%のときを基準(=1.0)として指数化して表示している。
【0033】
本発明では、ガスの分離・回収及び液化の両工程での合計の使用動力及びコストを低減するために、回収される気体fの二酸化炭素濃度を少なくとも95体積%以下に制御する。つまり、二酸化炭素の濃度が95体積%以下である気体fを液化装置8に導入し、気体fに含まれる二酸化炭素を液化する。気体fに含有される例えば窒素ガスなどの液化温度の低いガスは冷却されるものの液化することはない。この場合、更なる動力及びコストの削減のために、好ましくは、回収される気体fの二酸化炭素濃度を80体積%以下、更に好ましくは30〜70体積%の範囲に制御する。
【0034】
前述した図1は、1段の分離・回収工程で二酸化炭素を回収しており、高炉ガス(高炉ガスの二酸化炭素濃度は約24体積%)に1段のみの分離・回収工程を適用したときには、気体fとしては、二酸化炭素濃度が68体積%の気体が回収される。また、2段の分離・回収工程では92体積%の純度の二酸化炭素が回収されることになる。尚、2段目以降の分離・回収工程は、図1に示すハイドレート分離器6の下流側に、別途、ハイドレート生成器及びハイドレート分離器をこの順に1組として1組以上直列に配置することで実施できる。それぞれのハイドレート生成器における未反応ガスは、未反応ガスcと混合し、第1の冷却器3の冷却材及び膨張タービン9の駆動用ガスとして有効利用する。
【0035】
従って、本発明を適用して、例えば、二酸化炭素の含有量が24体積%である高炉ガスから二酸化炭素を分離・回収する場合には、図1に示す1段の分離・回収工程を用いるかまたは2段の分離・回収工程を用いることで、気体fとしては、二酸化炭素の純度が95体積%以下である気体が回収される。また、混合ガスaの二酸化炭素の含有量が50体積%以上の場合には、図2に示す関係から、1段の分離・回収工程を用いればよいことが分かる。また更に、混合ガスaの二酸化炭素の含有量が75体積%以上の場合には、図2に示す関係から、1段の分離・回収工程で二酸化炭素の純度が95体積%を越える気体が回収される結果になり、本発明の適用範囲外であることになる。即ち、混合ガスaの二酸化炭素の含有量に応じて、回収される気体fの二酸化炭素濃度が95体積%以下となるように、分離・回収工程の段数を決めればよい。分離・回収工程の段数を少なくするほど、使用動力は少なくなる。
【0036】
このように、本発明によれば、混合ガスから二酸化炭素を回収する際に、ハイドレートによるガス分離法を採用し、且つ、このハイドレートによるガス分離法により回収される二酸化炭素の濃度が95体積%以下の段階で、分離・回収工程を打ち切り、回収した、二酸化炭素を含有する気体fを液化するので、液化工程では使用動力が増加するものの、それ以上に分離・回収工程における使用動力が低減し、混合ガス中の二酸化炭素の地中貯蔵処理コストを従来に比較して大幅に低減することが可能となる。
【0037】
尚、本発明は上記説明の範囲に限るものではなく、種々の変更が可能である。例えば、圧縮ガスbの冷却装置が2段になっているが、1段であってもよく、更には3段以上であってもよい。また、ハイドレート生成器5とハイドレート分離器6との間に、ハイドレートスラリーdからハイドレートと水とを分離するための濾過器などを配置してもよい。
【実施例1】
【0038】
本発明を適用して、二酸化炭素を24体積%、一酸化炭素を23体積%、水素を4体積%含有し、残部が窒素ガスである高炉ガスから二酸化炭素を回収・液化した。
【0039】
尚、前述した図2に示すように、二酸化炭素が24体積%の高炉ガスを、ハイドレートによる分離法を適用して回収する場合には、回収するガス中の二酸化炭素濃度は、1段目の分離・回収で24体積%→68体積%、2段目の分離・回収で68体積%→92体積%、3段目の分離・回収で92体積%→98体積%となる。
【0040】
本発明例1では、分離・回収工程を1段のみとし、得られた、二酸化炭素濃度が68体積%の気体を液化し、本発明例2では、分離・回収工程を2段とし、得られた、二酸化炭素濃度が92体積%の気体を液化した。比較例では、3段のハイドレートによる分離・回収工程により得られた、二酸化炭素濃度が98体積%の高純度の気体を液化した。分離・回収工程及び液化工程における使用動力を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
二酸化炭素を98体積%まで濃化した比較例では、液化工程における使用動力は71kWh/t-CO2と低くなるものの、分離・回収工程での使用動力は529kWh/t-CO2と高く、分離・回収工程及び液化工程の合計で600kWh/t-CO2を必要とした。
【0043】
これに対して、本発明例1では、液化工程における使用動力は92kWh/t-CO2と増加するものの、分離・回収工程での使用動力は314kWh/t-CO2と少なく、分離・回収工程及び液化工程の合計で406kWh/t-CO2を要するのみであった。同様に、本発明例2では、分離・回収工程及び液化工程の合計で516kWh/t-CO2を要し、比較例に対して大幅に使用動力が削減されることが確認できた。
【符号の説明】
【0044】
1 回収・液化設備
2 圧縮機
3 第1の冷却器
4 第2の冷却器
5 ハイドレート生成器
5a 冷却器
6 ハイドレート分離器
6a 熱交換器
7 循環ポンプ
8 液化装置
9 膨張タービン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素を含有する混合ガスをハイドレート生成器に導入して、混合ガス中のハイドレートを形成することの可能な気体と水とのハイドレートを形成し、次いで、形成されたハイドレートを回収して回収したハイドレートを気体と水とに分解し、分解された気体を回収することで、回収される気体中の二酸化炭素の濃度を濃化させる分離・回収工程と、該分離・回収工程で回収した、二酸化炭素を含有する気体を液化する液化工程と、を有する、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法であって、前記分離・回収工程を少なくとも前記混合ガスに対して1回実施し、回収される気体中の二酸化炭素の濃度が95体積%以下の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。
【請求項2】
前記分離・回収工程で回収される気体中の二酸化炭素の濃度が80体積%以下の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、請求項1に記載の混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。
【請求項3】
前記分離・回収工程で回収される気体中の二酸化炭素の濃度が30〜70体積%の段階で、回収された気体を前記液化工程に供給して液化することを特徴とする、請求項2に記載の混合ガスからの二酸化炭素の回収・液化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−231002(P2011−231002A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−83525(P2011−83525)
【出願日】平成23年4月5日(2011.4.5)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】